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本間忠良 衝撃の新刊 知的財産権と独占禁止法−−反独占の思想と戦略
経済法あてはめ演習60選(日本語)Antimonopoly Act Exercise 60 Cases
情報革命についてのエッセイとゴシップ(日本語) Essays and News on Information Revolution
講演歴(内容は随時アップデート) | ||||||||
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目次
サマリー
1.はじめに−−IT革命は不発に終わったの?
2.e-ビジネスはほんとうに「低迷」してるの?
1.分析して考えたら?
2.e-ビジネスの意外な堅調
3.それならIT大不況は何なの?
3.革命の条件
1.変化の不連続性
2.変化のひろがり
3.世界像の転換
4.プレーヤーの交代
5.破壊
4.価格下落はほんとうに悪いの?
1.均衡価格
2.パイの最大化
5.ビジネスはどうしたらいいの?
1.ダイエット型
2.フットワーク型
6.情報革命はなにを運んでくるの?
1.幻視と幻視者
2.「個」の開花
7.おわりに−−非協調のすすめ
注
日本の未来のためにどうしても遂行しなければならないIT革命が、2000年春のネット株暴落とその後のIT不況によって、いま挫折しているかにみえる。しかしこの見方は正しくない。いままで「IT革命」と漠然といわれていたものとは概念的に区別できる「情報革命」が、着実に進行中である。
「情報革命」によって、量産品については最終的な価格圧縮がはじまっている。逆に、インターネットによるオークション効果で個産品の最適評価が可能になり、個人や中小企業のe-コマース参入機会がうまれている。市場は完全に世界化し、地方のハンディキャップがなくなっている。
消費サイドの「情報化」は、供給サイド(ビジネス)をコスト圧縮に追いこんでいる。在庫コストが劇的にさがっている。ビジネス間の材料・部品調達もe-コマースの手法を採用しつつある。ふたたび多種少量生産が採算に乗った。生産サイクルのスピード化が要求される一方、これに耐えることのできた企業者の利潤が相対的に大きくなっている。
「情報革命」は「個」の爆発的な開花をもたらす。個人にとってもビジネスにとっても、成功の条件は「個」の貫徹−−逆から言えば「非協調」である。孤立する勇気を持った企業者だけが「情報革命」の勝者である。
いま、日本の経済は、のるかそるかの瀬戸際にたっています。いま私たちが推進している構造改革を成功させないと、私たちの子供たちに未来はありません。どうしても避けることのできない一時的な「痛み」をともなう構造改革を影の側面というなら、その光の側面がIT革命です。構造改革とIT革命は一体です。
構造改革については新聞がたくさん書いていますが、IT革命については新聞がまだよくわかっていないと思うので、今日の私の話しは、IT革命のほうに集中します。
2000年4月15日、米国NASDAQでe-ビジネス株が大暴落して、ほとんどのe-ビジネスの株価がそれ以前の1/10以下にまでさがりました。もともと、彼らのほとんどは、1995年ごろの創業以来ずっと赤字で、将来の黒字転換を楽しみに、増資々々で食いつないできたのに、株価の暴落で、増資によるあたらしい資金調達の道を絶たれました。このため、資金力の劣るネット企業から順につぶれているのが現状です(1)。
ただ、当時は、コンピューターや半導体のメーカーが順調で、パソコンや携帯電話の普及も進み、需要サイドからのプル(引っぱり)が期待されていたのに、最近になってメーカーの業績も軒並み悪化し、八方ふさがりのような状況になってきました。
この調子では、IT革命は不発に終わってしまうのでしょうか。
この結論はまちがっていると思います。もっと分析的に考える必要があります。まず、なんでもかんでも漠然とIT々々と言っていたところにまちがいの原因があると思います。
図をみてください。トラックが積んでいる貨物は2層になっています。いちばんベースになっているのがe-コミュニティで、みなさんのe-メールや個人ホームページやBBS(掲示板)などからなりたっている巨大なインターネット仮想世界です。これはビジネスではありません。
その上に乗っているのがe-ビジネスです。e-ビジネスはe-コマースとe-サービスに分かれます。e-コマースは、さらに、ビジネス間のbusiness-to-business(B2B)、ビジネスから消費者へのbusiness-to-consumer(B2C)、消費者間のconsumer-to-consumer(C2C)に分かれます。貨物をのせているトラック、つまりインフラストラクチャーが情報技術(IT)産業です。この分類は、米国商務省のDigital Economy 2000という報告書によっています(2)。
このように分析してみると、いま総崩れになっているように思われているe-ビジネスが、これから申しあげるように、意外と堅調であることがわかります。
表1を見てください。国土交通省の統計によると、日本のネット企業数は、株価と関係なく、1年半で4倍以上伸びています(3)。
表2を見てください。人材調査会社の統計によると、ネット企業の人員削減数が、2001年4月をピークに、急減しています(4)。
表3を見てください。ダウ・ジョーンズ・インターネット指数によると、いままでずっと増加の一途をたどっていたe-コマースの赤字が、2000年第4四半期をピークに急速に縮小し、2002年通年でほぼトントンを達成しました(5)。e−コマースがいよいよ大人の世界に入ってきました。
赤字の帝王といわれていたAmazonも、2001年第4四半期(クリスマス・シーズン)にはじめての単期黒字500万ドル計上、それが2002年赤字に復帰、とくに8月から25ドル以上の買物に送料無料を常設したため赤字幅が急増して株主をはらはらさせたものの、2002年第4四半期ふたたび単期黒字260万ドル、しかも一時的費用や長期債務償還費用を除くプロフォーマ・ベースでははじめての通年黒字6,600万ドルを達成、2003年ついに待望の経常ベースで通年純利益3,500万ドルを達成しました。これはリストラなどで無理に出した黒字と違って、売上高前年比34%増、しかも取り扱い品目を本来の書籍、CD、DVDというメディア商品から、家電、スポーツ用品、衣料、食品にまで手を広げた強気展開の中での黒字だから、e-コマースというビジネス・モデルの勝利と言ってもいいでしょう(6)。これ以後も、売上高は右上がり一直線、経常利益は、乱高下しながらも、ずっと黒字が続いています。たとえば、2005年利益3億5,900万ドル(売上げ84億9000万ドル)、2006年利益1億9,000万ドル(売上げ107億1,000万ドル)。
インターネットの会員数は景気と関係なく一直線に伸びており、米国では、2004年には、全世帯数の2/3にあたる7,000万世帯に達する予想です(7)。ブロードバンド化がこれに拍車をかけています。
セクター別に見てみましょう。まずB2Cですが、おもちゃのe-Toysや食品雑貨のWebvanなど大型サイトの倒産が、2000年まで大宣伝をしていただけにかえって目立ち、実質的にもB2Cトータルの数字に影響を与えています。
しかし、表4を見てください。商務省統計によると、ネット小売り金額は、クリスマス特異点を除くと、1999-2001年を通して順調に成長をつづけています(8)。とくに、店頭売りと兼業のネット・ショップ(老舗をいうbricks & mortarをもじって、clicks & mortarといいます)が健闘しています。おもちゃのToys-R-usやスーパーのTescoなどが成功例です。2001年のクリスマスは、9月の同時多発テロの影響などで懸念されていましたが、予想を大きく上回って、前年比14%増し、年間でも2001年が2000年の12%増しと報じられています(8.5)。景気減速が懸念されている2002年第3四半期(7-9月)もネット小売りは快調で、前期比7.8%、前年同期比34.3%増、まだクリスマスでもないのに2001年クリスマスに次ぐ史上第2位の記録を達成しました。2002年クリスマスは小売全体では前年同期比わずか1%アップでしたが、この中でのオンライン売上は24%アップという記録で、関係者をほっとさせています(8.57)。結局、全米小売業協会統計によると、2002年通年では、予想をはるかに上回る前年比48%アップの760億ドル、これは全小売売り上げの4.5%にあたります。カタログ小売が全小売売り上げの4.7%に達するのに100年かかったのに、ネットは6年しかかかっていません。2003年1,130億ドル、2004年は前年比20%アップの1,366億ドル(全小売売り上げの7%)に達しました(8.53)。このグローバルな不景気の中で、e−コマースだけが輝く希望の星です。商業情報革命がいよいよ待ちに待った臨界点に到達したのかもしれませんよ(8.55)。
日本ではどうでしょうか。常時接続やクレジット・カード普及の遅れ、企業家精神の貧困、規制の先走りなどが原因で、絶対額ではとうてい米国にはかないません。米国の統計では入れていないサービスやC2Cを含めて120億ドル−−米国の10分の1以下ですが、それでも、2000年には前年比80%アップ、2006年には10倍になると、経済産業省の外郭団体が予測しています(8.6)。この巨大なビジネス・チャンスをのがす手はありません。
B2Bは合理化投資ですから、もともと不景気のときのほうが伸び率が高いのです(8.65)。たとえば、このリストラ時代だというのに、IBMや富士通が何千人単位でSE(システム・エンジニア)を募集しています。
C2C(消費者間取引き支援ビジネス)ではオークションのeBayが快調です。ユニークな商品を持っている地方の中小企業の販路としても無限の可能性を持っています。オークションの代金決済サービスで高いシェアを持つシリコン・ヴァレーのPayPalは、2002年2月15日、特許侵害被訴で予定より1週間遅れるというハンデにもかかわらず、ネット企業としては、2000年4月のネット株暴落以来はじめての本格的上場(IPO)を果たし、株価が1日で上場価格を60%上回るという有望なスタートを見せました(8.7)。いわゆる出会い系サイトもC2Cに入ります。この分野は、e-コミュニティという巨大な仮想世界から不断にエネルギーとお金を引きだしているので、株価や景気とはあまり関係がないのです。
e-サービスは急成長しています。まず、銀行・証券は、わき目もふらず、まっしぐらにインターネット化に走っています。もともと銀行・証券は、お金や株式を売っていたのではなくて、情報を売っていたのですから、当然といえば当然です。また、同じく情報を売っていたネット旅行サービスが、おどろくべき急成長をとげつつあり、United Airlinesのインターネット事業部長などは、「インターネットは旅行サービスのために発明された」などと、不遜なことを言っているくらいです(9)。2001年9月11日の同時多発テロで、旅行業界は大打撃を受けましたが、ネット化はかえって進むでしょう。
いままではなんでもかんでもITと言っていたのですが、分析的に考えると、ITとは、じつは、パソコンや半導体の製造など、e-ビジネスを支援するビジネスのことで、e-ビジネスそのものではありません。貨物とトラックは、それぞれ独自の需給関係で動く別の経済なのです。私は、最近のIT不況を、ハードウエアの在庫調整にすぎないと思っています。たしかにかなり深刻ですが、私には、過去のシリコン・サイクルの修羅場を知らない若い社長さんたちが、夢中でパニック・ブレーキを踏んでいるようにみえてなりません。いつも、不況のどん底で(ということは安い調達コストで)、次の供給不足期を見込んで大投資をするIntelのしぶとさとくらべると、長い土地バブルのなかで、そして、1986年から10年にわたった日米半導体協定という官製カルテルのなかで、ぬくぬくと育ってきた日本の経営者たちのひ弱さがあまりにも印象的です(9.5)。ま、いずれにしても、エレクトロニクス・メーカーは身軽だから、あっという間に減産して、リストラを進めています。いずれ景気循環の波が逆転するでしょう。
私がいいたいのは、いま総崩れになっているのは株価という虚像であって、実像としての情報革命ではないということです。だから、私は、これ以後は、IT革命ではなくて、情報革命と呼ぶことにします。
3.1.変化の不連続性
ある変化を「革命」というためには、いくつかの条件が満たされなければなりません(10)。
革命の第1条件は変化の不連続性です。いま情報の世界で起こっている変化のスピードが未曾有のものであることは、類書のすべてが指摘しており、いまさら言を要しません。ただ、半世紀の歴史をもつOA(Office Automation)、80年代、企業のトップ集権化を企図したMIS(Management Information System)、さらには系列内に閉じたEDI (Electronic Data Interchange)、EOS (Electronic Ordering System)などなど、人手による情報処理をコンピューターで置換しただけの変化と、いま私たちが目撃しているインターネットによる社会基盤レベルの変化とのあいだにはあきらかな断絶が横たわっています。
80年代、スーパーのEDI室を見学したことがあります。主要メーカー別にコンピューターがひとつずつ、ぜんぶで何十台もあって壮観でした。ただ、おなじ品物で、どこのメーカーがいちばん安いかを知るためには、各コンピューターから価格を紙に書きとって比較していたのです。つぎにメーカーのほうへ行ったら、主要客先別にコンピューター端末がひとつずつ、ぜんぶで何十台もあってやはり壮観でした。いまインターネットではスーパーもメーカーも1台のコンピューターですみ、価格比較もロボット・ソフトがやってくれます。
3.2.変化の広がり
革命の第2条件は変化の広がりです。いま情報の世界で起こっている変化は単なる技術革新ではありません。むしろ、いま使われている技術のほとんどは在来の情報通信技術の延長で、ただ集積度や演算速度が(数桁単位で)増大しているにすぎません(11)。いま起こっていることは、技術的変化と社会的変化の新結合(イノベーション)なのです。さらに、この変化は国家を超えて世界レベルに広がっています。いまネットを流れる情報を止めることのできる税関はありません。
3.3.世界像の転換
革命の第3条件は世界像の転換です。情報革命経済の最大の特徴は消費者物価の下落です。米国における物価下落が、需要の減退によるもの(悪い物価下落)ではなく、競争によるもの(「良い価格圧縮」)であることは、専門家の間でのコンセンサスといってよいでしょう。いままで言葉だけあって実体がともなわなかった「消費者主権」がはじめて前面にでてきたのです。これはパラダイム・シフトといえます。価格圧縮の原動力がインターネットです。いままで、商品の価格情報は供給者側に一方的に偏在しており(「価格情報の非対称」)、消費者にできることは、手間のかかる「買いまわり」による価格比較しかありませんでした。これを一気に容易にしたのがインターネットです(12)。
情報の非対称は価格ばかりではありません。在庫情報の非対称も理想市場の実現を妨げます。供給者のほうで流行遅れだと思っても、実はほしいい人がいくらでもいる可能性があります。これが最近はやっているアウトレット・モールですが、いまこれのe-コマース化がはじまり、大きな成功をおさめています(13)。
もっとも、小売売上げの2%程度(14)にすぎないネット小売りにそれほどの力があるか・・という疑問があるでしょう。しかし、米国では、たとえば、インターネットで新車の価格情報を調べて、安い順から数軒のディーラーをまわり、試乗して店頭で契約する(だからネット小売統計にでてこない)という購買行動が一般的になっており、一部の安売りが全体の価格を引き下げるといういわゆるユニクロ現象が顕著です。
3.4.プレーヤーの交代
革命の第4条件はプレーヤーの交代です。いまの変化の主役はあきらかに若者です。Forrester ResearchのGeorge Colony会長は、すでにどっぷりネット漬けになってる子供たちが成人したとき、e-コマースがいままでのコマースにとってかわると予想しています(16)。また、いま、500年の歴史をもつ著作権レジームを根底からゆるがしているネット上での音楽交換問題も、主役は数千万人の若者です。
もっとも、この点について、私にはすこし異論があります。日本における出生率の低下によって、労働可能人口の半分を60才以上の年齢層が占めるようになる時代です。たとえば音楽にしても、彼らが青春時代に聴いた音楽−−BeetlesやPresley(エルビスのことですよ)やKarl Richter−−がいま再ブームになっているのが偶然だとは思えません。情報産業は、高齢層のとりこみを、もっと真剣に考えるべきだと思います。
3.5.破壊
革命の第5条件は破壊です。情報革命は、情報の独占から生じる超過利潤の分配をさだめていた法的枠組み−−著作権レジーム−−を破壊しつつあります。著作権のはじまりは、1450年ごろといわれるグーテンベルクの活版印刷術の発明にまでさかのぼります。この発明が政治的爆弾であることを機敏に察知した絶対王政は、活版印刷術の実施を、中世以来の出版業ギルドの独占と検閲に委ねました。この独占権が著作権のはじまりです。このレジームのもとでは、作家や作曲家や画家などの芸術家たちは、出版業者の雇い人ないし下請けに過ぎなかったのです(いまでもそうですね。ちがいますか?)。
1789年のフランス革命は絶対主義的特権の全廃をめざしましたが、それは、当時の市民階級が希望するモノの商業の自由化にとどまって、情報の自由については不徹底でした。もっとも、個人の尊重に立脚するフランス革命は、出版業者によっても侵すことのできない著作者人格権を作りだしました。このように、著作権には、業界保護と芸術振興という、お互い緊張関係にあるふたつの側面があるのです。
いま進行中の情報革命は、著作権のこのふたつの側面のうち、業界保護のギルド・システムを破壊することによって、長らく商業に支配されていた芸術を解放しようとしています。米国では、音楽は、インターネットからダウンロードして聴くのが、とくに若者のライフスタイルになっていますが、これに対しては、レコード産業と映画産業が、必死に抵抗しています(17)。500年以上続いてきた著作(財産)権が、情報革命による破壊にさらされています。
私たちは、いま、たしかに「革命」の臨界点に接近しています(18)。
まず、情報革命を消費者の目で見て、上述した価格圧縮の問題をもうすこし深く考えてみましょう。
インターネットによって、価格情報が大量かつ迅速に取得できるようになり、比較がかんたんになりました。ネット書店のAmazonは500万タイトルの在庫を持っていますが、こんな大きな本屋はありません。しかも必要な本が1分でサーチできます。また、ショッピング・ロボットがいつも最安値の店を表示していて、高い店はお客がはじめから来なくなるので泣く泣く値下げをするという逆オークション効果がでており、価格が限界まで圧縮されます。物流革命と結びついて迅速なデリバリーが実現します。市場はグローバルです。
価格情報が完全に透明化し、競争が即時化するので、価格は限界コストに限りなく接近するでしょう。インターネット・オークションはAdam Smithがおそらく夢にみた完全競争を実現しつつあります。完全競争が現実には存在しないというのは、ひとえに「情報の非対称」のせいでした。情報革命時代の最大の特徴は、情報の遅れやかたよりによる市場の歪みがなくなるという点にあります。情報革命の経済、つまりニュー・エコノミーについてはいろいろな議論がありますが、それが価格圧縮につながっているという点については一致しています(18.5)。
量産品に関するかぎり、競争はいままでよりもはげしく、価格は圧縮されます。日本でも、インターネット・ショップがたくさん出現していますが、いずれも価格圧縮につながっていないところが、まだまだ本物ではありません。
じつは、米国では、その先を行っており、個産品がe-コマースで利益をあげています。たとえば、いままで高級ブティックへ行かなかった主婦がオンラインで行きはじめていることなどがあげられます(19)。あとで実例をご紹介します。量産品と個産品でe-コマースの価格効果が逆になっているようです。これも市場原理の自然な結果です。
価格はいくらさがってもコストという限界があります。だから、私は、価格下落ではなく、価格圧縮といっているのです。いま日本では、デフレ悪者論が高まっていますが、これはデフレ・スパイラルのことを言っているので、競争による価格圧縮と混同されては困ります。価格がさがると商店は困りますが、仕入れも安くなるのだし、生活費も安くなるのです。この過程のタイム・ラグを最小化するのも競争の役割です。いちばんいいことは、価格がさがると、売上数量が増えて、市場のパイそのものが大きくなることです。逆に、談合や独占で価格を吊りあげると、売上数量が減って、市場が縮小するだけでなく、図の赤い影をつけた面積だけ、だれも得をしない社会的な損失(死重損失deadweight loss)が発生します。談合や独占は、取引き相手から盗んでいるだけではなく、社会全体の敵でもあるのです(19.5)。
ここからは、情報革命を供給者の目で見てみましょう。消費者サイドからの値下げ圧力に対して、供給者つまりビジネス・サイドはどうしたらいいのでしょうか。値下げ圧力に対して供給者がとる戦略が2つあります。1つは値下げ圧力にコスト圧縮でじっと耐える弁慶型、もう1つは値下げ圧力を敏捷にかわす牛若丸型です。勝ち組の供給者はこの2つを同時に使っています。
コスト圧縮に耐えるため、大手の電子や自動車メーカーが部品をインターネットで調達しはじめています(B2B)。以前は、メーカーが、外部と互換性のないイントラネット(EDI)で、系列企業からだけ閉鎖的に調達していたものですが、いまは世界に開いたインターネットのオークション機能を利用して、部品や原料をすこしでも安く調達しなければ、大手でも生き残れない時代にはいっています。大手のB2Bでは、FordとGMとDaimler-ChryslerのCovisint、SearsとCarrefourのGlobalNetXchange(GNX)などが成功しています。
消費革命による価格圧縮に対して、コスト圧縮でみごとに答えた優等生がパソコンのDellです。Dellは、すべてインターネットによる直接注文で、準個産品です。値段はかならずしも安くなく、正札販売です。Dellのビジネス・モデルはSCM−−Supply Chain Managementといわれます。ここでは、注文データ・ベースが、リアルタイムで、部品のサプライヤーや物流に対する指示になっています。ネット注文1台あたりの販売管理費は600円です。ちなみに電話では1,800円、店頭では1-2万円かかります。在庫日数は6日で、Dell社長によると、「量産によるコスト節減より、在庫圧縮のほうが効果が大きい」そうです(20)。売上げに対する期末在庫率は年々低下して、今年第1四半期末で6%だそうです。在庫負担を中小の部品メーカーに転嫁しているだけだと批判する人がいますが、これは考えが足りないと思います。というのは、Dellの調達部品はほとんどすべて業界標準品(汎用品)で、需要の凹凸が全産業レベルにならされるので、特定部門へのしわよせがすくないのです。
逆に店頭販売に固執してシェアを落としてきたCompaqが、2001年第4四半期、インターネットと電話による直接販売に大転換(1年前の43%から59%へ)して、依然苦しいながら、株屋さんたちの予想を大きく上まわる業績を見せました。在庫減によるコスト減1台あたり28ドル、それよりも直販による顧客関係の向上が評価されています(20.5)。ビジネス・モデルとしてのe-コマースの健全性が立証されつつあります。
逆に、おなじIT産業でも、ルーターのCiscoでは、在庫率が年々あがって40%近くに達し、利益を圧迫しています。Ciscoの主要調達部品はカスタムLSIなので、メーカーとしてはどうしても見込み生産に走り、見こみが外れたリスクのすくなくとも一部はCiscoがかぶらざるをえないからです。
米国自動車業界がDellのビジネス・モデルに非常な興味を示しています。この業界は年800億ドルの在庫を持っているのですが、うち500億ドルが見込み在庫だそうです。Dell方式なら自動車のコストが半減するわけです。しかし、1世紀の歴史をもつ自動車業界には、部品メーカーや販売・流通ディーラーの膨大な系列が形成されており、ほとんどの州のフランチャイズ法でメーカー直売が禁止されているので、話はかんたんではありません。このしがらみを断ちきれた自動車メーカーが次代の勝利者だと思います。
いままでの製造業は、いわば供給主導−−サプライ・プッシュ型の産業でした。そこではFordのT型セダンに代表されるような大量画一生産が主流でした。供給主導型産業の特徴は、「大きいことはいいことだ」という規模の巨大化、長い製造期間、長いライフサイクル、材料や仕掛品の巨大な在庫、さらに、消費情報の不完全を補うための巨大な見込み在庫、在庫処分のための巨大な宣伝、押込み販売、バーゲン・セール、ダンピングなどが特徴でした。
これからの製造業では、短い製造サイクルの小ロット生産が主流になります。多種少量生産がふたたび可能になっています。これが規模の利益と矛盾しないのは、コンピューターによる工程管理のおかげです。だから、フレキシブル・ロボットの採用が急増しています。セブン・エレブンのPOSのように、消費情報がリアルタイムで取得できるようになっています。
日本の半導体メーカーも、半導体メモリーの自殺的大量生産からからマイコンの受注生産へ移行しようとしています。新薬開発も、いままでのようなランダムな大量試験から、病理学や遺伝学アプローチによる標的開発へと変わりつつあります。産業界でも、「小さいことはいいことだ」が標語になりつつあります。
開発期間と製品ライフ・サイクルが半減しています。Texas Instrumentsは、半導体メモリーから撤退して、システムLSIに移行しつつあるのですが、プロトから納品までの期間(いままで2-3年)を半減したといわれています。3Mでは、会社売上の10%以上を1年以内の新製品で占めることを目標にしています。米国で発売された包装消費品の種類は、10年で3倍になっています。つまり売上に占める新製品の比重が大きくなっているのです。
牛若丸型の経営戦略については、米国連邦取引委員会のアンケートに答えた経営者たちの大多数によると、それは市場一番乗り−−being the first−−にほかならないそうです(21)。完全競争下では、利潤といえば創業者利潤しかありません。市場に一番乗りし、真剣なマーケティングでブランドを確立して、追随者が現われて値崩れがはじまったら、さっさと退出して、つぎの新市場で一番乗りをねらうというのが、米国ビジネスマンのサバイバル戦略になっています。
小売りやサービス業でも革命が起こっています。連邦取引委員会のリポートは、米国のアパレル(衣料品)産業に起こった革命を報告しています。以前のアパレルは、大量生産によって巨大な流通在庫を作り、これを巨大な宣伝で売りさばき、動きが止まったとみるやバーゲン・セールで一掃するという重い商法でした。80年代、これが量産・低賃金の中国品に押されて壊滅寸前になったのですが、現在では、コンピューター・ネットワークによるフレキシブル・デザイン−−多種少量・高付加価値生産−−で生き返っています。これもあとで実例をご紹介します。食品でも、客層にあわせて1日3回おにぎりの品揃えを変えるというセブン・エレブンの芸当を可能にしたのはPOSでしたね。
価格圧縮のどん底で、合理的な(ということは「略奪的」でない)価格差別が生きています。ニューヨークのニュース・スタンドに傘が置いてありますが、ふつうは3ドルなのに、雨がふりだすと5ドルになります。Coca Colaが、自動販売機をネットでつないで、自動的に、需要の多い場所・時間は高く、需要のすくない場所・時間は安くすることを本気で考えています(22)。これこそ市場マシーンです。
未来予測をするとき、またはあたらしいビジネスをはじめるとき、いつも私たちが落ちこむ落とし穴があります。Business Weekの「インターネット時代」特集は、情報革命時代には、経験は最悪の教師だとまで言っています(23)。想像できる極限のさらに先に見えるものをビジョン、つまり「幻視」といい、これが見える人をビジョナリー、つまり「幻視者」といいます。MicrosoftのBill Gates、Dell ComputerのMichael Dell、AmazonのJeffrey Bezos、AOLのSteve Case、eBayのMeg Whitmanのような情報革命のリーダーたちはみんなこのビジョナリーです。この情報革命を私たちのビジネス・チャンスにするためには、私たちの心をもっと開いて、自分をビジョナリーに変えていく必要があります。「そんなこと言ってもどうせだめなんだ」と思っている人は、はじめからだめなのです。
情報革命のすべての徴候が、個人・中小企業・地方のチャンス到来を示しています。
まず個人を考えましょう。社会の情報化は人の流動化を促進します。いま求人求職活動はインターネットが中心で、新聞の広告収入が激減しています。
芸術と学問のことを考えましょう。いままで芸術や学問は、家元・画壇・楽壇・文壇・学閥などによってがんじがらめに束縛されてきました。技能の習得や情報の入手、発表機会へのアクセスなどのチャンネルが一握りのボスによって独占されていたのです。映画も、巨大資本と巨大宣伝によって作られるスター・システムから成りたっていました。これが商業アートです。
これからはインターネットによってこのような情報の独占が打ち破られます。公開のデータ・ベースがどんどん累積していきます。いままで過去のノートの切り売りをしていた大学教授は、インターネットを使って最新の情報を集める学生にかなわなくなります。芸術も、シンセサイザーやコンピューター・グラフィックスによって、自習がメインになってきます。発表機会は10億のインターネット・ホームページが引き受けます。映画も3DCGによるホーム・ムービーがハリウッドをしのぐようになるでしょう。21世紀初頭、あたらしいポピュリスト・アートの花が開くかもしれません。米国では、音楽はネットからダウンロードするライフ・スタイルのおかげで、大手レコード会社の傘下に入らない−−昼は皿洗いをして、夜ガレージに集まって練習してる−−独立のミュージシャン・グループの評判が急速に伸びています。
たとえばCoffeehouseForWritersは、プロが小説やエッセイの書き方を教えてくれます。単なる添削や批評ではなく、あたたかい励ましももらえて、これがなかったら途中で挫折していただろうと、ここ出身でプロになった作家が言っています。JPFolks (Just Plain Folks)はフォーク・ミュージックの作詞作曲を教えてくれます(23.2)。いまの(とくに日本の)文壇や楽壇の現実から考えて、技法を習ったからといってプロとしてデビューできるというわけではないでしょうが、商業目的ではなく、自己充足としての創作は、とくに余暇・高齢化社会にとって重要で、これがネットという発表手段を得て、大手出版社やレコード会社に飼われた文壇や楽壇のギルド的独占をいずれ破る・・と考えるのは楽観的すぎるでしょうか。
映画製作のコストがデジタル化で安くなった結果、映画製作が教育の中で大きな可能性を持ちつつあります。書くことの代わりにデジタル・ビデオで撮るのです。数千年来の「書く」という制約から解放されたあたらしい思考方法の出現が期待されています(23.3)。
Amazonは、通常の書店ルートが相手にしてくれない中小出版や自費出版本にも、大手が大宣伝をかけたミリオン・セラーとほとんど同じスペースを提供しています。「ネット書店の利用者は、いわば、平台より奥の棚を求める傾向がある」とも、「売り場の制約のないネット書店は、すぐ売れない本でも息長く扱ってくれる」ともいわれ(23.5)、たとえば、私が1993年に出した「ウルグアイ・ラウンドが世界貿易を変えた」という本は、いまでも読む価値があるのですが、いまはどこの本屋にも置いていないのに、Amazonにはちゃんと出ています。先日、Amazonから、「あなたは、以前、うちから、Keith Maskusの『グローバル経済における知的財産権』と、Lawrence Lessigの『CODE―サイバースペースの法』を買った記録があるので、Lawrence Lessigの最新刊『アイデアの将来』にも関心があるでしょう」と言ってきたので、すぐ注文しました。ネット時代以前は、こんな情報は、学者のあいだでだんだん噂になり、専門誌に書評が出てから−−ということは、4、5年遅れて−−買っていたものです。また、私は、昔から、情報やコンピューターに関する米欧判例のコレクターで、いろいろな人脈で手にいれた判例の大量のコピーを持っていたのですが、最近ぜんぶ捨ててしまいました。インターネットで閲覧すればいいのですから・・。学会とか人脈といった旧い情報交換のメカニズムが、インターネットにとって代わられつつあります。
私の娘の友人がラス・ヴェガスへ留学して、「ネイル・アート」という爪の美容を習ってきました。帰国して開業しようと思ったところ、すでに日本にも学校ができていて、それが家元のようになって、そこのなんとか先生の推薦がないと仕事がもらえない、材料や道具が手に入らないという状態でした。そこで、彼女は、インターネットで材料や道具を輸入、ホームページで顧客を開拓し、いまや独立のネイル・アーティストとして成功しつつありますが、あたらしい家元になるつもりはないとさわやかに言いきっています。
Mike Dellは、会社にとって最も重要な資産として「ヒト」をあげています。1924年IBMを創立したトム・ワトソンが作りあげたIBMセールス・チームは、全員ホワイト・シャツにダーク・スーツ、同じアタッシュ・ケース、セールス・トークもマニュアルどおりという一糸乱れぬピラミッド型組織人の集団でした。いま、シリコン・ヴァレーのSEたちの制服は色とりどりのカジュアルです。インテルのAndrew Grove会長は「パラノイドだけが生き残る」とまで言っています。ややオーバーですが、私が前に幻視者−−ビジョナリーについて言ったことを思いだしてください。
個人について考えたことが、そのまま中小企業についてもあてはまります。中小企業はもともと身軽さが身上でした。現在、ソフトウエア、機械部品の大部分は、中小企業が作っています。製薬でも、中小企業のシエアが伸びています。アパレル、食品、サービスもそうです。
私は個人でやれるe-コマースのコレクターなのですが、おもしろいところでは、スピーチ・ライター(大物では大統領専属。かわいいところでは、既製品$25、特注品$150−−キャンプファイヤーで読む詩の注文がオーストラリアから−−、月商$6,500)、論文アドバイザー、英語添削者、イラストレーター、アイコン・デザイナー、名前コンサルタント、個人出版などなど。Amazonなど超大手とはまた違った広大な世界がここに開かれていることをご理解ください。ここでは、ひとつだけ、私が気にいっているGirlshopというサイトをご紹介するにとどめます(24)。
1998年、もとMary ClaireやFamily Magazineなど雑誌のグラフィック・デザイナーをやっていた33才のLaura Eismanが、ニューヨークの自室(IDK)で開業したもので、初期投資は$15,000でした(装置とプログラマー謝礼)。若い女性むきのデザイナー・オリジナル・アパレルをネットで売っています。現在は従業員が10人で、郊外の倉庫の階上に移りました。1999年売上は約$1,000,000で黒字でした。最近で1日平均60件注文あり、注文金額は1件平均$100、マークアップ率約100%、ということは粗利率50%です。月商$180,000、粗利$90,000、人件費1/3として$30,000、一人平均$3,000といい線いっています。ふつうの小売店ではマークアップ率25%、粗利20%程度が相場です。
サイトのホームページは、絵がシンプルなためアクセスが軽く(数秒)、あかるいカラーと曲線で統一しています。ページは契約ブティック別。成長はめざましいとはいえませんが着実で、社長によると、「私たちはニッチェ市場での多種少量注文に専念しているので、商品・価格とも万人むきとは思っていない」そうです。契約ブティックも8軒から40軒に増えました。ほとんどが無名ながら「ホットな」都会感覚派です。社長いわく、「Sohoあたりで少量の買物をするファッション・コンシャスな25-35才のニューヨーカーが常連客」で、「デザイナーも、低リスクで名前が売れるので、喜んでサンプルを送ってくる」と言っています。注文があると、メッセンジャーでデザイナーからとりよせ、Girlshopで包装して発送します。流通在庫ゼロというビジネス・モデルです。私は、これがほんらいのB2Cモデルだと思っています。
e-コマースは立地を選びません。インターネットは都市問題に大きなインパクトを与えます。「在宅勤務」というといじましい感じですが、米国ではテレコミューターといっています。米国ではこの人口が10年で6倍、現在2,400万人います。ほとんどがソフトウエアやコンテンツの製作者、作家、ジャーナリスト、グラフィック・アーティストなどの知的職業人です。「地方のチャンス」というのは、この大規模な分散化社会現象の一部にすぎません。
いま私たちが目撃している価格下落を、機械的に「デフレ」と定義し、これを克服するために調整インフレが必要だという議論がでてきています。私はそんなに単純な問題ではないと思っています。いまの価格下落は、構造的−−というより歴史的−−な原因、つまり、グローバルな競争によって起こっています。日銀がいくら通貨量をふやしても、その半分は米国へ流れ、のこりの半分は中国へ流れていって、日本産業の刺激にはまわらないでしょう。私は、そんなことより、構造改革と情報革命による日本産業のlean & agile化を一刻も早く進めることのほうが大切だと思っています。
私は、まえに、米国では、情報革命が競争を促進して、価格を下落させている−−つまり競争が情報革命の結果だった−−と言いましたが、これだけでは現象の1面しか捉えていません。もう1面は、競争が情報革命の原因でもあったという事実です(25)。
たとえば、米国では、競争による書籍の価格下落に耐えるため、超効率の書店Amazonが出現し、これに対抗するため在来型のBarnes and Nobleがネット化したという例があります。これからわかるように、競争が情報革命をもたらし、情報革命が競争を促進するというプラスのフィードバックが起こったのです。米国で書籍の流通革命を実現し、e-コマースのさきがけになった風雲児Amazonが、2000年末、日本でも開業しましたが、日本語書籍のディスカウントはしていません。日本という風土の中に埋没してしまったのです。
音楽でも、米国では、Napsterというファイル交換サイトが2年で6000万人の会員を獲得し、おかげでブロードバンド化が一気に進みました。Napsterそのものは著作権寄与侵害で差止めがかかりましたが、そのまえに大きな歴史的役割りを果たしていったわけです。日本は、インターネットの影も形も見えない1986年、有線カラオケを規制するために有線送信権という権利を創設、それをもとにして、1997年、公衆送信(可能化)権という米国にもないオールマイティな権利を創設して業界に与えました。日本の音楽ギルドは、さっそくこれを使って、2001年11月、京都で、音楽をアップロードした学生を逮捕させ、2002年1月、Napster型のサービスをはじめたばかりの日本MMOという会社を訴えました(25.5)(仮処分申立て。損害賠償も準備中と言っていますが、損害など立証できるのでしょうか)。訴訟資金力が段ちがいの上、情報革命が分かっていない日本の裁判官では、結果は見え見えです。こういうのをinfanticide(嬰児殺し)といいます。Napsterのようなイノベーションは、日本でははじめから生まれないようになっています。米国では、まず馬に乗った無法者が西部を 開拓し、そのあとを「法と秩序」が馬車でついてきたものですが、日本では、まず牛車に乗った「法と秩序」が静々と進み、フロンティアへの道をふさいでいます(26)。
一時のバブルは去ったとはいえ、米国で着実に育ちつつあるe-コマースが、日本では生まれる前に流産しています。日本でほんとうに情報革命が可能なのでしょうか。私には自信がありません。世界レベルの情報革命に乗り遅れないためには、日本でも、まず最初に、公権と私権による情報規制の撤廃と、情報市場の競争促進を実現しなければならないと思います。
最後に、情報革命に対処していくためのいちばん基本的な心構えはなんでしょうか。いままで申しあげてきたことの結論ですが、私はそれを「個」(individuality)の開花と非協調だと申しあげます。この2つはおなじことを肯定形と否定形でいっています。みんなとおなじことをやっていたのでは共倒れになります。情報革命時代のあたらしいビジネスが、既存の大企業と対抗していくためには、ゲリラに徹しなければなりません。これがビジネスにおける「個」の開花です。皆さんのまわりに価格吊りあげカルテルができたら、それに入らないで安値受注をねらうことが最大のビジネス・チャンスです。孤立する勇気を持った企業者だけが「情報革命」の勝者です。「個」の開花こそが情報革命時代の最大のビジネス・チャンスなのだと申しあげて、今日の話を締めくくらせていただきます。
1. 本間忠良、「ビジネス・モデルの研究」。
2. 本間忠良、「デジタル・エコノミーの研究」。
3. 日経 01-8-20。
4. 日経 01-8-29。
5. The Wall Street Journal (“WSJ”) 01-8-14/日経(夕) 03-5-16。
6. 日経 04-1-28。
7. The New York Times ("NYT") 01-5-21。
8. 日経(夕)01-8-31。
8.5. 日経(夕)02-1-28。
8.53. 日経05-3-8。
8.55. 日経 02-11-25。
8.57. Venture Reporter 03-1-6。とくにオモチャとビデオ・ゲームが72.5%アップ、書籍、DVD、CDが40%アップ。ゴールドマン・ザックス調査によると、クリスマス支出の16%がオンラインで、利用者の51%が女性。WSJ 03-1-10は28%アップ、Best BuyやSears,Roebuckでは2倍以上と伝えている。ただ、店頭小売微増のなかでのオンライン急成長という現象は、消費者がオンラインをギフト用と思っている可能性を示唆しており、シーズンによる凹凸の原因になっている。平常期を予想したシステムではクリスマスでパンクして大事件になる(e-Toys倒産の一因)。オンライン売上げが50%を超えた1800Flowersは母の日の突出をどうやって年間にならすかを最大の経営課題としている。
8.58. 日経(夕) 03-5-16。
8.6. 日経 02-2-19。
8.65. 日経 02-2-19は、企業間取引のB2Bが、金額でB2Cの22倍あると報じているが、その大部分は、30年前からあった特定(多くは系列)企業間に閉じたEDI (Electronic Data Interchange)やEOS (Electronic Ordering System)で、IT(情報)革命の産物とは言えない。後述のSCMも、ビジネス・モデルとしては大成功だが、本質的には在来のOA化の(極限までの)延長である。インターネットを使って世界に開いた調達システムも少数ながら出現している(CovisintやGNX−−後述)が、まだまだ幼年期にある。
8.7. NYT 02-2-16。もっとも数日後、同社のサービスに対する不満を集めたクラス・アクション(集団訴訟)を受たりしてまだまだご難続きではあるが・・。SAR 02-2-22。
9. Saul Hansell、「航空券のウエブ販売が快調」、NYT 01-7-4より。
9.5. カルテルができて一番よろこぶのはアウトサイダー(この場合は米韓メーカー)とユーザー(この場合は米国のコンピューター・メーカーと国防当局)だという経済学の常識.を、バブルの余韻が冷めてもいない1994年に指摘したのが、本間忠良、「ウルグアイ・ラウンドが世界貿易を変えた」(中央経済社、1994年)。
2002年初−−この変転極まりない市場で、半導体メモリーの市況が回復して、マイクロンとサムスンが利益を出しはじめているという時−−、かつて世界トップを占めたことのある半導体メモリーからの全面撤退をわざわざ宣言して、かえって自社の株価を急落させた日本T社など、いまの経営者が英雄ではなくて普通の人だったという事実を示す好例であろう。前の社長さんのもとでも、米中でのパソコンBIOSのクレームで、訴えられてもいないのに1000億円払った。また、90年代、TIとのキルビー特許紛争で、やはり訴えられてもいないのに1000億円払って日本中の弱気相場を作った。日本近代史とともに発展してきた立派な会社だが、最近は徹底的な逃げの経営で、社長さんたちの個性が感じられるくらいである。この会社だけがそうなのか。それとも日本企業全体が戦闘力を失っているのだろうか。この会社がいつもお手本にしていたGEが、(いくつかの大物製品だけ残して)製造業からほとんど撤退し、事実上サラ金に成りさがって、利益を出している。また、かつて汎用コンピューターで独占的地位を築い
たIBMも、いまやほとんど製造から撤退して、SI/SEサービスでやっと利益を出している。これを真似たのか、かつてIBMと世界市場で張り合った日本F社も、いまは、SE出身の社長のもとで、ソフト化路線を突っ走っている。米国はこれでいいのかもしれないが、日本はほんとうにいいのか。
10.科学革命や産業革命一般について深入りする余裕も度胸もないが、ここではとくにTHOMAS S. KUHN, THE STRUCTURE OF SCIENTIFIC REVOLUTION (The University of Chicago Press, 1962) とT. S. ASHTON, THE INDUSTRIAL REVOLUTION, 1760-1830 (London: Oxford University Press, 1948, 1971 reprint)を参照している。「革命」という言葉は使っていないが、シュムペーター、塩野等訳『経済発展の理論』(岩波文庫、1977年)第2章もつねに意識している。
12.価格圧縮についていま大きな役割を果たしているのが、1)オークション、2)ショッピング・ロボット、3)グループ購買である。本間忠良、「ネット・コミュニティ−−情報(IT)革命の原点」。
13.NYT 00-9-11:ネット・アウトレットの例としてrei-outlet。
14.本間忠良、「デジタル・エコノミーの研究」。商務省センサス局の定義によるe-小売金額は、2000年3月で全小売金額の0.64%(モノの売買だけで、旅行、証券、娯楽などのサービスはふくまない)。日経(夕)01-8-31によると2001年8月で1%。WSJ 02-7-15によると2001年末で1.7%、2002年末で2.3%の予想。いずれにせよ、この消費不振の時代に、年平均25-50%の成長率はめざましい。
16.WSJ 99-11-16。
18.「革命」の発火点は、おそらく主要都市における家庭の(いわゆるファイナル・マイルの)光ファイバー化が実現した時点であろう。
18.5. 米国では、情報技術(IT)の発展によって、1972-95年平均1.4%に過ぎなかった生産性の年間上昇率が、95-2000年平均2.5%にまで加速している。リセッション期の2001年、生産性上昇率は、2000年の3.3%には及ばないながらコンスタントに2%をキープした。ただし、この間、企業の収益は20%以上も落ち込んでいるので、ITによる生産性向上とITによる競争の激化は、実質賃金の上昇と価格圧縮を通して、企業(投資家)よりも、労働者と消費者をまず受益させている。Laula d'Andrea Tyson、「予想以上に大きい情報技術の役割」、The Economist 02-3-25。
19.WSJ 99-10-18。
19.5. 日本には独占やカルテルを許容する心理がまだまだ強いようである。独占(カルテルもおなじ)正当化論については、三島百合子、「ビル・ゲイツ経済学」、『インターネット評論』参照。
20. 『東洋経済』 00-4-1。
20.5.WSJ 02-1-28。
21.供給者の危機感と対応策については、FTC事務局が、多数のビジネス・リーダーたちとのインタービューを通じてまとめたFEDERAL TRADE COMMISSION STAFF, ANTICIPATING THE 21ST CENTURY−−COMPETITION POLICY IN THE NEW HIGH-TECH, GLOBAL MARKETPLACE, Volume I (U. S. Federal Trade Commission, May 1996) <http://www.ftc.gov/opp/global/gc_v1.pdf>が圧巻である。
22.NYT 99-10-28。
23.Business Week (“BW”) 99-10-4。
23.2. Alexandra Kaptik、「インスピレーションの選択」、WSJ 02-2-11。
23.3. LAWRENCE LESSIG, THE FUTURE OF IDEAS--THE FATE OF THE COMMONS IN A CONNECTED WORLD (Random House, N. Y., 2001) at 235.
23.5. 日経 01-11-3。
24. http://www.girlshop.com/。Kate T. Corcoran、「スタイル以上−−巨大ショップとSOHOの比較」、WSJ 00-4-17。ローラがサイトを売ってしまったみたい。何億円だっただろうね。
25. WSJ 99-11-5.
25.5 日経 02-1-30。
26. 本間忠良、「ネット音楽とアナルコ・キャピタリズム」。