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本間忠良 衝撃の新刊 知的財産権と独占禁止法−−反独占の思想と戦略

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経済法あてはめ演習60選(日本語)Antimonopoly Act  Exercise 60 Cases

情報革命についてのエッセイとゴシップ(日本語) Essays and News on Information Revolution

論文とエッセイ(日本語)Theses and Essays

 

デジタル・エコノミーの研究

本間忠良

目次

1.「IT」革命

2.デジタル・エコノミー2000

第1章 情報技術(IT)とあたらしい経済(NE)

第2章 e-コマース(EC)−−デジタル・エコノミー(DE)のリーディング・エッジ

第3章 IT産業

第4章 生産性(労働者1人あたりGPO)向上に対するITの貢献

第5章 IT労働者

第6章 IT商品・サービス貿易

第7章 New Economy−−なにがNewか

補論−−政府の役割り

3.デジタル・エコノミー2003←←New

 

1.「IT」革命

 最近、日本のマスコミでは「IT」という略語が濫用気味で、2000年、沖縄サミットの「グローバルな情報社会に関する沖縄宣言」や「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」が、マスコミでは、それぞれ、「IT沖縄宣言」や「IT基本法」になってしまった。もっとも、マスコミばかりでなく、政府も「IT」を使っている。2000年11月27日、IT戦略会議が提案し、IT戦略本部(森総理(当時)が本部長)が了承した「IT基本戦略」は、e-コマースから電子政府まで視野に収めている。ここまでふくめる概念としては、米国で使われている「情報革命(information revolution)」のほうがいずれ定着するだろう。しかし、さしあたりは、海外向けには「情報」革命、国内向けには「IT」革命という使い分けになろう。

 いずれにしても、IT(情報技術)、EC(e-コマース)、B2C、B2B、EB(e-ビジネス)、NE(あたらしい経済)、DE(デジタル経済)、情報(化)社会、ネット・ビジネスなど、マスコミではいろいろな言葉が乱れ飛んでいる。他方、米国商務省は国勢調査でネット小売りの統計を取るため、かなり限定的な定義を採用した。商務省は、C2C、B2C、B2Bの総称としてEC、ECとe-バンキングやe-トレーディングなどのサービスをふくむ概念としてEB、それらのインフラストラクチャーとしてIT、これらの現象を説明する経済学上の仮説としてDE、さらに投資行動までカバーする仮説としてNEを定義している。これによって、とくにB2Cが従来よりかなり縮小規定され、また、ITが電子情報産業とほとんど同義語にまで縮小規定された。この厳密化が今後一般(とくにマスコミ)に支持されるかどうか不明。私自身ここまで厳密な使い分けはしていない。

2.デジタル・エコノミー2000

 米国商務省は、1998年Emerging Digital Economy、1999年Emerging Digital Economy II、2000年Digital Economy 2000("Emerging"が消えた)と毎年報告書を発表しているが、以下は、最新のU. S. Department of Commerce, DIGITAL ECONOMY 2000のサマリーと私のコメント( で本文と区別)である。和訳がすくなくとも2種出ているが、本エッセイはいずれよりも早く、2000年7月初版をアップロードしている。

第1章 情報技術(IT)とあたらしい経済(NE)

 非農業生産性向上の長期傾向:それまで20年間の年1.4%が、96年からあきらかに倍増(年2.8%)。1)コンピューターの性能向上、2)接続数(connectivity)の増大、3)新アプリケーション、以上3要素のシナジー的コンバージェンスが動因。
 1.コンピューターの性能向上:ムーアの法則=MPUトランジスタ数18月で倍増(5年で10倍、10年で100倍)。HDD容量9か月で倍増、MBあたり価格11.54ドル(88年)から0.02ドル(99年)へ下落。コンピューター価格低落率95年から倍加速。通信機器価格(同上)も年2%下落。CCハード生産成長率:99年代前半年12%→後半年40%。ソフト投資成長率も95年を境に倍増。
 2.接続数の増大:従来のコンピューター化(閉鎖系、大企業に限定)とは断絶(開放系、中小企業にも可能)。インターネットはNEの原因でもあり結果でもある。「ネットワーク効果」(「ネットワーク外部性」)に関するメトカーフの法則=1)費用構造:大きな初期固定費用と小さな限界費用。2)ネットワークの価値:加入者数の2乗弱になる(端末がn個になると、接続数はn(n-1)個になる)。
 3.「技術」:インターネットのハード・ソフト技術は70年代前半に完成している(例:Xerox PARC)。あとはスピード化・高密度化(ハード)と新しいアプリケーションの開発(ソフト)だけ。

第2章 e-コマース(EC)−−デジタル・エコノミー(DE)のリーディング・エッジ

 インターネット・アクセス人口1年で78%増、3億人(世界)。北米は50%を切った。独立のHPは10億ページ(2000年1月)(最大のサーチ・エンジンでも部分的にしかカバーしていない)。
 1.原動力としてのB2C:
 ECの産出・生産性:公式データはなく、アネクドータルな証拠しかないが、ECは消費生活に革命をもたらしつつある。センサス局定義:「ECとはe-ビジネスの1形態で、取引き(所有権の移転)を伴うもの」[できるだけ厳密化した]。この定義によるe-小売金額は全小売金額の0.64%(2000年3月)(モノの売買だけ。旅行、証券、娯楽などのサービスはふくまない−−公式調査中だが、私的調査ではモノと同規模)。
 [99年クリスマスがECバブルの絶頂。2000年4月14日のネット株暴落がITまで巻きこんだ。いまは選別の時代。失敗ECは巨額の宣伝投資をした採算無視組が多い。e-Toys(1)はデリバリー問題で悪夢体験、今年4月決算で売上高の30%におよぶ大赤字を出して倒産。
 ネット時代の宣伝は選択重点型。小売りの原点は顧客満足[たとえばAmazon(2)。今年はClicks & Mortarの健闘が目立つ。知名度、経営能力も大きいが、とくに返品問題が重要−−NordstromやMacyは店頭返品可、事業部制のVictoria'sSecretは不可。GAPは店頭でネットの宣伝をしている。
 Channel Conflict:Toys-R-Usは99年クリスマスにe-Toysに敗れ、700販売店への補償を払ってネット参入(Amazonと提携)。Merryl Lynchもネット参入Schwabに4年遅れた。Levi'sは1月ネット直販から撤退(小売りサイトからは買える)。
 価格比較:botsの存在。完全市場仮説(価格競争の結果、全インターネット小売者が限界費用に近いところまで値下げする。店頭価格もオンライン価格に引きずられる)の実証はまちまち(書籍とCDの調査)。一般に、安売りの比率が10%を超えると、全体的な価格崩壊が起きるといわれる。PCはこれを超えた。自動車でもすでに起きているのではないか。
 非価格競争−−オンラインの便利さを価格に反映できているのかもしれない(Webvanの高級品指向は破綻した。Pricelineの超フレキシブル顧客向け割引き。(しかしAmazonの書籍黒字転換はいいニュース、BarnesandNobleは1,000支店の固定費負担)。反インフレは直接的には生産性向上の産物。
 価格行動の多様化:オークション(eBay)、逆オークション(Priceline)、団体購買サイト(Mercata)。
 価格差別の効率性:航空券(長期予約客とlast-minutes客は安い−−理由は違う:前者は計画効率、後者は規模の利益)。この方式がe-コマースに入ってきており、価格は店頭価格より弾力的(実証研究による)。
 情報化:
 自動車では、オンラインで価格調査して、実際の試乗・購買は店頭というケースが多い(2000年末で65%見こみ)。とくにほとんどの州では製造と販売の分業を定めているため(フランチャイズ法)、自動車はe-小売統計に入りにくい(2.7%)が、実際はe-コマース化している]。
 ヘルスケアが[意外に]大きい(Healtheon、WebMD、AOLヘルスライン)。EBサイト・ビジターの45%がヘルスケア目的。オンライン診断をダウンして来院する患者が増え、医師もこれを歓迎。医師間でもインターネットによるオープンな情報交換が進んでいる。[BW00-9-17は、ネットによるセラピーの成功例を報告している]。
 雇用(求人求職)は、いまやインターネットなしには考えられない(グローバル500の79%(北米は90%)がインターネット求人、その半数がオンライン応募を要求(2000年))。企業別ではなく、オンライン求人求職サイトが急成長、新聞のClassified Adがこの打撃を受けている。ただ、履歴書様式など統一の要あり。
 R&Dはもともとインターネットの母体なので最近の傾向のみ:従来は出版されなかった−−ないし出版前の−−Working Paperが大学(たとえば授業ノート(動画入りもある))や個人HPに出るようになった[私の「本間忠良の技術と競争ワークショップ」がそのモデル]。
 電子政府:サービス部門が著しい(特許商標庁)、ネット入札。
 オンライン(ヴァーチャル)・コミュニテイ(C2C):
 個人間の売買、サービス、情報交換、オンライン会合、チャットが先行し(例:障害者や移民グループのHP)、ツールの開発も活発(Gnutella)、そのうちNPOやコマーシャルに移行するものがでてくる(例:オークション)。
 2.B2Bの対応:
 金額的にはB2Cよりはるかに大きいといわれるが、もうすこし深く考える必要がある。センサス局はB2C/B2Bの上位概念としてe-ビジネスを設けたが、公式数値はまだない。定義の不統一から、私的機関の統計も5倍以上のばらつきがある。一番大きい偏差は非インターネット・ネット、つまりEDIを除いているかどうかにかかっている(除くのが正しい)。控えめに見て6,000億ドルで、モノB2Cの50億ドルの100倍以上もあるが、86%はEDIである(Boston Consulting)。[どちらにしてもこの比較は非科学的。B2Bは重層構造(原料→組立→卸→小売)を重複加算、B2Cは単層(小売→消費)]
 インターネット系(オープン)マーケットプレース750サイト。従来C2CだったeBayが、最近B2C/B2Bをとりこんだ。とくに目立つのがPC(Dell)のSCMで、次が自動車[99年10月デトロイトがDellのマイク・デル社長を招請して講演を聴き、その直後具体化]で、GM/Ford(99年11月)、ダイムラー・クライスラー加入(2000年2月)(Covisint)、調達コスト10%削減を指向(2万ドルの車の価格を1,000ドル下げる効果)。小売りでも、シアーズとカルフールによるGlobalNetXchangeにより、シアーズEDIのコスト150ドル/hを1ドルにまで下げるもくろみ[運転コスト削減よりも、オークション効果による仕入れ価格圧縮と在庫軽減が大きい]。
 インターネット-ECによる仲介者の中抜きを予測する声が圧倒的だが、現実にはこれら仲介者の機能と資源−−物流、資金、情報−−を評価する必要がある(例:ChemConnect化成品の売手と買手を仲介、物流や資金の面倒を見る−−[日本の総合商社])。
 3.情報商品:
 音楽(爆発的)、ソフト[コンピューター・アーキテクチャーの基盤的変化−−ポスト・マイクロソフト]、チケット、ニュース、本、写真、映画、法律アドバイス、デザインなど・・2004年にはB2Cの22%を占めるだろう。
 携帯、情報家電・・接続数の増加。


第3章 IT産業

 IT産業(ハード→ソフト→サービス)が、波及効果を考えなくても、それ自体だけで、国民経済における高成長・高生産性の原動力。
 95-2000年、GPO(Gross Product Originating)年成長率:コンピューター・通信機ハード9%、ソフト+サービス17%、通信サービス7%。全産業の8.3%(2000年)(産業の全体的成長、IT価格低落を考えるととくにimpressive)。
 価格下落はコンピューターと半導体で顕著:年下落率24%(95年)、29%(98年)が、直接的にインフレーションを押さえている(全体の物価上昇を1%台にとどめている(63年以来最低))。間接的効果の測定は難しいがaffirmativeは確実。
 IT産業は全産業の8.3%にすぎないが、95-2000年実質成長の30%を占める。
 全産業設備投資に対するIT設備(ソフトふくむ)投資率:44%(92年)→46%(99年)(単価は下落しているので、これを修正すると実質増加率は2倍以上−−とくにソフトが貢献)。
 米国におけるR&D投資成長率:0.3%(89-94年)→6%(94-99年)。IT産業は後者の37%(自動車・製薬合計の2倍)。

第4章 生産性(労働者1人あたりGPO)向上に対するITの貢献

 1.マクロ・レベル:
 過去の成長期(61-69年、82-90年)では生産性は年を追うごとに逓減(mature)したが、今回(91-99年)だけは3年目後反騰中。その原因は、労働時間あたりIT投資(real net IT capital)の増加(資本深化capital deepening)。
 コンピューター・ハード価格年下落率:14%(91-95年)、29%(96-99年)。
 IT投資の特徴:旧型化早い(資本損失大)、償却率大、ROI要求大。
 IT産業の成長がほかの原因による全体的成長の一時的受益者にすぎないという説は修正されたといってよい。Oliner & Sichelによると、90年代前半から後半にかけての生産性向上1.06%の2/3はIT産業(ユーザー・レベルでのIT資本深化)の貢献である。ほかの調査もこれとよく整合している。
 2.業種レベル:
 コンピューター生産性[Solow]パラドックス:上のマクロ仮説が正しければ、IT装備率の高い産業ほど、生産性が高いはず。しかし、ミクロ評価(産業セクター別)はmixed:狭義のIT産業およびIT集約製造業における生産性向上は顕著だが、IT集約サービス業では、IT資本深化にもかかわらず、非集約より生産性が低い(90-97年)。計測困難な10業種(運輸、倉庫、保険、法律、映画など−−全体の44%)を除いた計算では、IT集約サービスの生産性が非集約よりかすかに高いが、除いた理由がはっきり説明できない。[最新の計算では非IT部門の生産性の成長(90年代前半→後半)が実証されている(WSJ 00-08-01/The Economist 00-9-23)]。
 3.企業レベル:
 ある調査によると、IT投資とともに権力分散(decentralization)への組織改革をおこなった場合にのみ生産性向上が最大、IT投資と中央集権(centralization)の組合せが最低。[そういえば、30年前、OA化といえば、いまになってみると悪名高いEDIと、もうひとつMIS(Management Information System−−社長が末端の在庫まで知りたがる中央集権)だった]。
 別の調査によると、IT投資増1ドルに対して株価総額は10ドル増−−ということは、株式市場が、9ドル分の非IT改革を評価。

第5章 IT労働者

第6章 IT商品・サービス貿易

 IT商品貿易:660億ドルの赤字(99年)。米国IT企業のローカル取引きがあるので楽観的。
 ITサービス貿易(ロイヤルティふくむ):18億ドルの黒字(98年)。電話接続料金はコンスタントに赤字。

第7章 New Economy−−なにがNewか

 株高はむしろマイナス要因:William Nordhaus, "What Is the Shape of the New Economy?" White House Conference on New Economy、2000年4月5日:IT革命は生産性タームズでのNEを創出したことを結論する一方、非現実的に高い株価がいくつかの側面−−国民貯蓄、マネジメント決定、報酬構造、職業選択、[資源配分]−−で有害であることを指摘。
 NEのホールマークは、労働生産性上昇の加速による経済成長の持続的加速であろう(いずれも2次微分)。生産性年向上率:2.5%(73-95年平均)、3.2%(2000年)、3.1%(01-10年)。IT革新と価格下落の持続が条件。リセッションは不可避だが、IT投資は生産増大ではなくコスト(在庫ふくむ)削減に向かうので(良い投資)、回復は早いだろう。リーンな在庫も回復を早めるだろう。
 耐久財メーカーの在庫高対出荷高率:16.3%(88年)→12%(99年)、巨大なコスト削減。
 なぜ今? ここで?
 90年代初頭のマクロ経済環境が投資ブームを導きだした。財政赤字を減らしながら歳入を増やし、雇用を増やしながらインフレを押さえた財政金融政策も貢献した[結果では?]。
 より技術ベースな説明が必要:電気からITへの技術変化が労働生産性に与える影響は極めて遅いが、いったんそれが起こると爆発的・・という説もある(電気モーターの実証的研究)。「再結合成長(recombinant growth)」説というのもある。エジソンの白熱電灯の発明は、最初でも最良でもないが、関連システムをなんとか組み合わせてガス灯に対抗できるものができた−−ITもシリコン・バレーのあらゆる小技術の組合せ(大部分は淘汰されたが)で離陸したというもの(クラスター効果)。

補論−−政府の役割り FTCは、96年スタッフ・リポートで情報社会の先鞭をつけたが、このところビジネス視点では商務省に水をあけられ、消費者保護の視点から、独占(通信・標準・知的財産権)、カルテル(B2Bオークションにおける共同購買)、意識的並行行動、不当廉売(オークション、Land'sEndのOver the Counter)、価格差別(航空運賃)、不当景品・表示、接続妨害(eBay対AuctionWatch、AOL Instant-Messaging対Odigo)、タイイン、再販制、書面主義、対面販売などの規制に傾いている。
 ほかにも、プライバシー(DoubleClickがオフライン直販Abacusを吸収、前者のcookies情報と後者の顧客データベースの照合marryがプライバシー侵害との容疑で99年2月FTC調査開始、同社が照合を断念したこともあって、01年1月調査中断<SAR 01-1-23>、ToysMartの顧客ごと身売り(3))、道徳(通信品位法の違憲判決)、セキュリテイ(e-マネー)、認証、管轄、租税・関税、消費者保護(詐欺)などなど、規制の種はいくらでも考えつくが、政府は、いろいろな規制を考えだすより、デジタル・エコノミー自体がもっている競争促進性を尊重して、情報革命の障害になる政府規制または民民規制の排除に注力したほうがいい]。

3.デジタル・エコノミー2003

 米国商務省は、デジタル・エコノミー2000公表とほとんど同時に起こったネット・バブル崩壊で自信を喪失したのか、デジタル・エコノミー2001は出していない(統計数字だけは公開している)。デジタル・エコノミー2002は、全体的ではないが選択的な不況脱出を記録している。デジタル・エコノミーは幻想だったのだろうか。2002年中はたしかにそう思われていた。だが、いまになってみると、崩壊したのは株価バブルとそれに乗じた詐欺的なネット企業だけであって、デジタル・エコノミーの核心は変わっていないのである。2003年末に発表されたデジタル・エコノミー2003は自信を取り戻しており、2001年のIT不況を「浅い8か月のリセッションの試練だった」と評価する。そして、1999年のブームが、インターネットへ初期投資と通信規制撤廃という一時的要因を引き金とした株価バブルであり、これに振り回されたネット企業の過大投資が、2000年中の設備投資と雇用の落ち込みを招いたと見る。ただ、この間、IT化による高い労働生産性が持続したことから、2000年のリセッションを「浅い」と形容したものである。

 デジタル・エコノミー仮説が正しければ、IT装備率の高い産業ほど生産性が高いはずだが、実際には、IT集約サービス業は、非集約業種より生産性が低い(90-97年)といういわゆるソロー(Solow)のパラドックスによる批判があった。しかし、非農業部門の生産性の成長(90年代前半→後半)が実証されて(WSJ 00-08-01/The Economist 00-9-23)、ソローのパラドックスがいったん破られ、さらにネット・バブル崩壊後の01−02でもこの傾向が持続していることから、どうやらデジタル・エコノミーが実在する確率はますます大きくなっている。米国では、この間(2000年4月ネット・バブルの崩壊と2001年9月テロにもかかわらず)、労働生産性の成長(=生活水準の向上)が持続しているのである。

 「リアルタイム情報へのアクセスとIT革命による[産業間の]相互依存が、[産業の]経済条件への適応を即時化し、経済を活性化した。・・かつては在庫[情報の]の非対称が経済の深く長いスローダウンを不可避にしていたのだ。・・景気循環がなくなったとは言っていない。人間の動物的感覚と家畜メンタリティが依然として判断の誤りを生み出している[日本の経営者のことを言っているのかな?]。1970-1995年非農業生産性は年1.4%、これに対して1995-2000年のそれは2.5%である。これはネット・バブル崩壊後も持続している(2000年3.3%、2001年2%)。ムーアの法則(コンピューターの情報処理能力が18か月で倍加する)も持続している。IT革命はまだまだ成長する。米国企業のまだ60%しかインターネットによる解法を使っていない。IT革命は90年代にビジネス組織の革命をもたらした。価格が下がって、会社の収益は下がっている[いわゆる「デフレ」ではなくて競争が貫徹している]。ということは、IT革命が投資家よりも労働者を益しているということだ」(4)

 「ろうそくから蛍光灯へ、照明の価格は過去200年で1000分の1になった。50年代末とくらべてコンピューターの情報処理能力は40億倍になった。年平均成長は5.6%であり、これがまだまだ持続すると信じる根拠が多い。・・コンピューターは物事の組織化もした。生産や流通の過程が変わっている」(5)

 「米国経済はIT革命を経て今も生産性がいちじるく向上。直近の2002年第3四半期の労働生産性は前期に比べ年換算率で5%以上も高まっている」(6)

 米国経済政策の中枢的オピニオン・リーダーの3人が同じことを言っている。とくにIT(情報技術)革命がビジネス組織(人間)の革命をもたらしたこと−−人間革命なしにはIT革命が成就しないこと−−を的確に指摘している。これに対しては、これがリストラ効果のことを言っているのであって、首切りで会社の損益を良く見せているだけだという批判もあろう。ただ、私は、長年のサラリーマン生活の経験から言うのだが、中高年になってリストラするくらいなら、もっと早く転職機会を与えるべきだ。もしかしたら、ぜんぜんべつな(もっといい)人生が開けていたかもしれない−−これが労働商品における市場原理である。

 2002年第3四半期の労働生産性(労働1時間あたりの産出額)は、第2四半期と比べて5.1%、前年同期と比べて5.6%と、1966年以来の高成長を記録した(7)。労働生産性の成長によって、企業は価格を上げなくてもより高い給料を払うことができ、インフレによらない経済成長が実現する。1970-1995年非農業生産性が年1.4%、これに対して1995-2000年のそれが2.5%という高成長も、2001年のリセッションで落ち込んだ(これで自信をなくした人も多い。小泉内閣の「IT革命」もトーンダウンして、官庁OA化のe-Japanに変わってしまった)。そういう2001年もマイナスにはなっていない。ここから2002年の急回復が「1966年以来」なのである。生産性成長率は波動するのでこの5.6%がそのまま持続するとは思わないが、1995-2000年の2.5%は長期的に持続するだろう。

2002年第4四半期-2003年第1四半期は米国でもデフレが懸念されるなど労働生産性成長率も大きく落ち込んだ(といっても2%弱)が、直近の2003年第2四半期は、前年同期比5.7%(前期比3倍)というリバウンドを達成して投資家たちを喜ばせた。もっとも、エコノミストたちによると、この高成長は、90年代末のようなIT投資よりも、ITを利用した省力化によるもので、失業率は6.2%と依然高い。ただ、一般にペシミストの多いエコノミストたちにしても、労働成長性の成長はいかなる理由によるものであれ、いずれは雇用の急増につながることは認めている。いま期待されているのが、ブッシュ政権が最近議会を通過させた減税で、とくに家計への税金還付が今後6-9か月にわたる消費需要を押し上げるだろうと見られている(7.5)

 

下図は上図を時間で積分したものである(デジタル・エコノミー2003第4章から)。

 株価の変動とは関係なく、オンライン小売りは毎年順調に伸びている。2002年クリスマス期は小売り全体としては前年同期比1%くらいしか伸びなかったが、オンライン小売りは前年同期比20-40%という大きな伸びである。不調だったアパレルでも、ネット傾斜を強めていたGAPは勝組だった(8)

 2000年4月15日のネット株価バブル崩壊で、インターネット・ビジネス全体に対する信頼も大きく揺らいでいるが、まことに大衆資本主義社会の愚かな側面というほかはない。IT産業の業績はV字型の回復を達成しているし、オンライン小売りはそもそも株価バブル崩壊の影響を受けていないのである。

 小売業の統計で最も権威のあるShop.org(全国小売業連盟のオンライン事業部)がインターネット市場調査機関のForrester Researchに委託した「オンライン小売りの現況6.0」は、オンライン小売りが、2002年、ふたつの重要なハードルを越えつつあることを報告している。

 まず、オンライン小売りが、史上はじめて、全体として損益トントン(break even)を達成した。Shop.orgは1999年以来オンライン小売り130社を定点観測しており、損益情報についても厳秘扱いで報告してもらっているのだが、調査開始時の損益かまわずの大赤字から年々改善してきて、2001年はマイナス6%、2002年にはついにゼロに達した。2001年には黒字企業数が56%だったのに、2002年にはこれが70%に達し、全体の数字をを押し上げた[ということは数の上で30%の企業が全体の赤字の50%を出している・・ということで、この中に赤字の帝王アマゾンがいるのだろう]。2003年は全体で黒字になる予想である[アマゾンも?]。

 全体の損益トントンといっても、業態によって明暗が分かれる。カタログとオンライン兼業[たとえばLandsEnd]がいちばんよくて、店頭とオンライン兼業[たとえばGAP]がこれに次ぎ、純オンライン[たとえばアマゾン]がまだまだ(といっても年々改善している)という順序である。改善のポイントは、在庫管理システムのアップグレード(63%)による品揃えの向上、高価なポータル広告をやめて業績連動のアフィーリエットやサーチ・エンジンによるマーケティングに切り替えたことによる販売費半減(オーダーあたり8-12ドル・・といっても店頭の5ド ル、カタログの7ドルにはまだ及ばない)などである。

 つぎの記録は、オンライン小売りが、2003年中に、総売上げでカタログ小売りに追いつくことである。オンライン小売り売上げも株価バブルの崩壊とかかわりなく順調に伸びてきたのだが、2002年には前年比48%アップの760億ドルを達成した。これは全小売り売上げの4.5%にあたる。この数字を小さいと見るだろうか。カタログ小売りが全小売り売上げの4.7%に達するのに100年かかったのだが、オンライン小売りはこれを6年で達成するのである。2003年には1,130億ドル、2004年には前年比27%増の1,440億ドル(全小売り売上げの7%)に達する予想である。

 小売り全体に対するオンライン小売り比率が2桁になったのは、コンピューター(ハード、ソフト計)の32%、イベント・チケットの17%、書籍の12%で、5%を超えたのが9カテゴリー(2001年は7カテゴリー)だった。

 オンライン小売りの今後の課題のひとつは、いわゆる「ラスト・ミニッツ・ステッカー・ショック」という現象で、オンライン客の半数(2002年)が、せっかくショッピング・カートに入れた買物を、最後の「注文」のところで中止してしまうことである。おそらく送料と消費税で気が変わってしまうのであろう。この点で、2002年、アマゾンが一定金額以上の送料無料に踏み切って売上げを急上昇させたことが思い出される。もうひとつの課題は、いわゆる「コンバージョン・レート」で、ウエブに来てくれたビジターのわずか3.2%しか買ってくれないことである。これら2点をなんとか改善すれば売上げ成長率をさらに上げることができるのだが・・(9)


1.  本間忠良、「e-ビジネス・モデルの研究」(Working Paper)

2.  本間忠良、「e-ビジネス・モデルの研究」(Working Paper)

3.  本間忠良、「IT革命における個の開花とあたらしいビジネス・チャンス」(講演録)注33。

4. Laura D'Andrea Tyson, Info Tech: The Payoff Is Bigger Tha You Think, BUSINESS WEEK, 02-3-25。

5. ローレンス・サマーズ、「ニューエコノミー:ITが支える発展は続く」、朝日02-6-17。

6. ゲーリー・ベッカー、「2003年への道標--日本は政策の失敗正せ」、日経02-12-27。

7. The Wall Street Journal ("WSJ") 02-12-5。

7.5. The New york Times ("NYT") 03-8-8。

8.  NYT 02-12-25。

9. http://www.shop.org/。WSJ 03-5-15。