本間忠良の「技術と競争ワークショップ」はhttp://www.tadhomma.sakura.ne.jp/へ移動しました。これからもよろしく。
本間忠良 衝撃の新刊 知的財産権と独占禁止法−−反独占の思想と戦略
経済法あてはめ演習60選(日本語)Antimonopoly Act Exercise 60 Cases
情報革命についてのエッセイとゴシップ(日本語) Essays and News on Information Revolution
目次
6.ヒューマン・タッチ−−Viva! 「出会い系」、「アダルト系」
上図はインターネット関連ビジネスの概念図(1)だが、この中で最もインターネット時代らしいビジネスはC2C(消費者間取引)であろう。ほかはいずれもインターネット以前からあったのをネット化したものにすぎない。これに対して、C2Cは、崩壊しつつある共同体が担当していた社会的機能を果たすものとして、巨大な成長を遂げつつあるいわゆるコミュニティ・サイト(1.5)から、直接にエネルギーとお金を引き出す立場にある。消費者間の情報やモノの交換をサポートして利益をあげるビジネスといってももいいだろう。いまでもいろいろなものがあるが、今後e-ビジネスマンの創造性が最も発揮できる分野でもある。
家畜、骨董、改造車などはもともと競りが主体だったので、インターネット・オークションの導入は必然の成り行きだった.(豚のFarmsなど)。業界ウオッチャーのGartner Groupによると、オンライン競り市場が2000サイトある。オンラインではじめて可能になった市場もある(生化学品のBioBidなど)。旧型品や在庫品の処分に向いている(金属のMetalSite)。Chemdexは10万ドルもするDNAシーケンサーのデモ使用劣価化品をオークションに落としている。海運市場(GoCargo)社長談:「海運というのはものすごく非能率な商売で、行きは満船でも、帰りは空船になる。帰りの荷主を見つけるのに顧客あてファックス交渉で何日もかかるところを、インターネットだと数分後には初見客もふくめて引き合いがあり、客同士が競り上げてくれるので交渉もいらない。Moai社製の標準オークション・ネゴーシエーション・ソフトを業界事情に合わせてカスタマイズした」。最近のB2Bオークション・ソフトは、価格以外の要素(送料、品質、納期、数量、支払条件、保険料率、過去の取引きなど)も考慮するmulti-dimensional bidding(多次元競り)方式を採用している(2)。いろいろの競り方式がある。
1.イギリス・オークション(English Auction):「順」オークション(売手1人、買手多数)で「上昇競り。買手が次第に高値をつけて、最高値の入札者(ビッダー)が落札する。家畜、中古備品、中古車、不動産、骨董品で使われている。「ヤンキー・オークション」は多数の商品−−たとえば200台の改造車−−が1台1台競られて、最高値のビッダーが落札する[金持ちほど安い買い物ができる]。
2.オランダ・オークション(Dutch Auction):おなじく「順」オークションだが「下降競り」。オランダのチューリップ市場で使われたのがはじまり。チューリップの値段が一定の間隔で下がっていって、売切れまで続く[バナナの叩き売り]。至急の在庫処分や生鮮品に適する。もっとも、eBayは「上昇価格多単位オークション」をDutch Auctionと呼んでおり、同一商品のコピーがx個提示され、最後には、最高値からx人のビッダーたちが、落札人のあいだの最低値で買うことができる。
3.「逆」オークション(売手多数、買手1人):「申込みの誘引」の場合と「申込み」の場合がある。[申込みの誘引(引合い)→申込み(見積もり)→承諾(注文)→契約]。特注品を競争入札で買いたい場合に適する。
4.匿名(sealed bid)オークション:上昇と下降の両方ある。競売人(auctioneer)だけが入札を見ることができる。化学プラントのようにビッダーがお互いを知っているような場合に、ビッダーの匿名性を保つために使われる。独占禁止法対策としても有効だろう。
価格比較システムは、現在、消費者にとっては多様化しすぎ、スタートアップ供給者にとってはAmazonやYahooのような大手にすぐ吸収される(Junglee→Amazon、MySimon→CNet)という問題をかかえ、いまだ発展途上にある(3)。
CONCEPTS |
EXAMPLES |
HOW IT WORKS |
Auctions |
eBay/Amazon |
消費者が値付け、最高値が落札 |
Bid-Search |
AuctionWatch/Bidder’s Edge |
多数のauctionを検索、最低値を表示 |
Shopbots |
DealTime/MySimon/RUSure |
多数のe-ショップを検索、最低値を表示 |
Group Buying |
MobShop/Mercata |
一定期間に多数の消費者が集合 |
NameYourPrice |
Priceline |
消費者が価格申込み、供給者が承諾 |
Negotiation Respond |
NexTag/HaggleZone |
消費者が値付け、供給者が申込み |
eBayのようなオークションは骨董品や限定品むきで、消費者のオークション心理で価格がむしろ高騰する可能性があり、情報革命における価格圧縮現象の例外といえよう。ショッピング・ロボット(bots)は価格レンジを表示することで、契約から一定の距離を置いている。かつてe-ショップは値崩れを起こすといってbotsを嫌っていたが、いまではトラヒックがふえる(これがe-コマースの生命)といって歓迎している。Pricelineは、さきにクレジット・カード番号を入力、消費者の価格申込みを供給者が承諾して契約成立というシステムのため、消費者が過剰に防衛的になり、当初値付けが低すぎて、合意まで時間がかかるという問題がある。NexTagの条件はそれよりゆるく、消費者の値付けは申込みの誘引にすぎず、供給者が申込み、消費者が承諾する。CDなどローエンド商品で意外と安い買物がある。Respondはさらにゆるく、消費者の名前を供給者に伝えない。消費者が供給者にアプローチする。旅行パックのような比較的高い買物が多い。グループ購買は一定期間中に何人以上集めたらいくらという条件が供給者から提示されている。ただこれは数十人集めても、供給者のほうで数万台の在庫に耐 えられる場合、あまり交渉力にならないという批判もあるが、資金繰りに悩むディーラー相手なら有効だろう。。コミッションはいずれも供給者負担だが、Pricelineは価格の%、他は固定額の加盟料である。
2000年4月のネット株暴落以来、資金繰りに詰まった物販ネット・ショップが続々つぶれ、それがe-ビジネス全体の--いやニュー・エコノミー全体の--信頼性を揺るがせている。しかし、事態を冷静にみると、決してそうではない。ネット・サービスは健在だし、さらに目立つのはC2Cが依然として早い成長を続けていることである。C2Cの代表が、このネット不況の時代に、ずっと急成長(売上げ最近1年で64%アップ)と黒字経営(同2倍)を続けているオークション・サイトのeBayであろう(3.2)。2001年第四半期で126.5百万件の出品があった。
ネット・オークションは市場経済における価格形成そのものだということで、経済学者の関心を引いている。最近ノートルダムとミネソタ両大の研究者がbots(eDrill)を使っておこなった研究報告によると、週末に競落されたコインは週日のそれより2%高く、しかもこの傾向が3年間を通じて不変だった。おそらく週末のほうが、出品者側が熟慮する時間的余裕があるからだろう。また、同じコインでも、写真つきのほうが11.3%高く売れている(2000年では5.7%)。さらにeBayには「評判スコア」というページがあるが、ここでいい評判をとった出品者は6.8%高く売っている(1999年では4.8%)。また、報告は、はじめ高く競っておいて、競りが動いてきたところで降りる「サクラ」競りというインチキがあって、これを見破るソフトを作るのはかんたんだが、競落価格の1.25-5%という料金を取っているeBayでは、これの採用は難しいだろうとも言っている(3.4)。
eBayが最近料金の実質的値上げをはじめていることが懸念されている。最近急増している自動車では、いままでの出品時と成約時各25ドルを、各40ドルに上げた由である。また、多数の同一品目を出品するDutch Auctionでは、個々の価格ではなく、トータル金額で料金を取ることにした由。マイクロソフト症候群だろうか(3.6)。
そのショップだけの盛衰が問題になるB2Cとちがって、C2Cはその周辺に大きな関連ビジネスを作り出す。その例が、C2Cに属するeBayについて観察される(ほかのオークション・サイトにもある)。たとえばつぎのような周辺ビジネスがある。いずれもはじめは独立で創業されたもので、eBayに吸収されたり、eBay専属になったものもあるが、いまでも独立でほかのオークション・サイト利用者に提供しているものもある(3.8)。
写真処理:出品物の写真掲載は素人にはかなり厄介だが、写真のオンライン編集やアップロードを引き受けるサービスがある(PongoやIpix)。
カウンター:自分が出品した品物を何人の人が見たかを示すカウンターを提供する(AndaleやAuctionWatch)。
評価:出品物(たとえば骨董品)の価格評価をしてくれるサービスがある(たとえばEppraisalsは100人の評価人を置いて、1件20ドル)。
「スナイピング」:オークションの締切りタイム直前に入札するサービスで、eBayは中立を保っているが、チャット・ルームでは批判がある(WinningBidProやisnipeit)。
電子決済:eBayははじめは決済に関与しなかったので、いろいろな決済サービスができた。いまはWells Fargo銀行と組んでBillPointを吸収し、独自の決済サービスを始めたが、eBayが許可すれば外部のサービスも可能である。とくに、シリコン・ヴァレーのPayPalは、このサービス(売手から3%もらう−−クレジット・カードの最高8%にくらべてはるかに安い)で1,300万人ちかい会員を持っているが、2002年2月15日、特許侵害被訴で予定より1週間遅れるというハンデにもかかわらず、ネット企業としては、2000年4月のネット株暴落以来はじめての本格的上場(IPO)を果たし、株価が1日で上場価格を60%上回るという有望なスタートを切った(3.9)。ネット不況は底を打ったようである。
「エスクロウ」(供託):一定の条件が満たされるまで買手の支払いを預かるサービスがある(Tradenable)。
輸送:eBay推奨のUPS、ユーザーが自分で切手をプリントするSimplyPostageなどなど。
調停:トラブルの場合、両者の条件を仲介し、これで不調の場合、1件15ドルでプロの調停サービスを提供する(SquareTrade)。
レコード産業協会に訴えられている無料音楽交換サイトのNapsterは、一銭もお金を儲けていないのに、株価が上場価格(IPO)の100倍になっていた。それはNapsterがいままでに蓄積した何千万人もの若者の名簿(音楽の好みまでわかる)が評価されているからである。顧客データベースがもともビジネスから離れて独立の経済価値を持ちはじめていることを示す徴候としてToysMart事件をあげることができる。Walt Disneyが最大株主であるToysMartが破産、同社顧客データベース(25万人――守秘義務つき)を破産財団に編入しようとしたが、7月、FTCと州検事局は、これをプライバシー保護法違反として差止請求。8月、連邦破産裁は、実際の買手が現れれば、その時点で、買手が守秘義務を継承できるかどうかを再審理するチャンスがあるとして、とりあえず財団編入を無条件で許可する決定をおこなった。
Forrester Researchによると、5,831人のオンライン・ショッパー中34%しかつぎのことを知らない(4):
・逆オークション:Priceline、BuyersEdge、LiquidPrice。これには2種類ある:1)買手がつけた価格に売手が同意したら直ちにクレジット・カードにチャージされる;2)買い手が同意するまで売手がせり下げる。
・グループ購買:BuyTogether、Mercata、Accompany。
・オンライン・クーポン:HotCoupons、ClickRewards:マイレージやストア・クーポンをくれる。
・価格比較サイト:MySimon、Hotbotはいちばん安い価格を探す。DealTime、BottomDollar、Deals、PriceGgrabber、BizRateは目的物の小売サイトを探して、商品レーティングやデリバリー情報をくれる。価格比較サイトに広告を出して最低価格に見せかけたり、ビューテイ用品などで最初は破格の価格を出して、お客を囲い込むサイトもあるのでご用心。
モノや情報を売っているのではないC2Cビジネスにとって、考えられる収入源は会費か広告料である。バブル時代には、ネット企業同士のバナー広告があった(まさにバブルであり粉飾決算でもあった)。2000年4月バブル崩壊後これが激減(むしろ仲間広告による水ぶくれ体質を引き締めるチャンス)するとともに、後述のクリック・スルー・レート(CTR)の不振によって、一部ないし全部会費制に切り替える無料サイトが目立っている(当然会員数が激減)(4.1)。以下では広告について考えている。
Harvard Business Schoolの「コマースの進化」フォーラムでも、EDventureのEster Dyson会長が、これからの宣伝は対話型――つまりインターネット――でなければだめだと言っている(5)。いままでは、移ろいやすい消費者の嗜好を固定化するための巨大な宣伝投資が必要であった。巨大e-ショップの採算が悪いのは、マスコミ宣伝費の負担が大きく響いている。これからは、携帯端末やE-mailの同報機能による口コミ情報伝播が大きな比重を占めるようになるだろう。1999年8月のブランド調査によると、BlueMountain(コーヒーではない。ウエブ上でグリーティング・カードを無料で送ってくれるサービス)やRedHat(Linux系アプリケーション)やMP3(音楽配信標準)は、マスコミ宣伝をまったくしていないのに、DisneyやPentiumやAmazonのように巨大な宣伝費をかけているブランドとおなじくらいの認知度があった。この調査会社は、インターネットが消費者直結であることの結果だと言っている。Harvard Business Schoolの「コマースの進化」フォーラムでも、EDventureのEster Dyson会長が、これからの宣伝は対話型――つまりインターネット――でなければだめだと言っている。いままでのマスコミ宣伝は非常にムダの多い宣伝方法だった。インターネットのミニコミ宣伝は、関心層だけに的を絞れる効率的な宣伝である。しかし−−
「インターネット広告は死んだ」という話は誇張である。しかし、それが苦労しているところをみると、はじめの約束の実現には思ったより時間がかかることがわかる。
多くのドットコムたちが、インターネット広告をビジネス・プランの代わりと考え、無料ウエブサイトのトラヒックからどうやってお金を作るのかねという質問に対するほがらかかな答えにしてきた。しかし、インターネット・バブル崩壊後、ページ数が増え、広告主が減って、平均広告料(CPM)も1000ビューあたり$1にまで落ちた(2年前の10分の1)。
これには根源的な問題がある。1999年ごろさかんに言われていた伝統的なマスコミ広告に対するインターネット広告の利点(パフォーマンス−−下記)がいま裏目にでている可能性があるのだ。
1.Accountability:どの広告がどの販売につながったかをソフトウエアで追跡できる。
2.Non-disruptiveness:TVやラジオとちがって視聴者の邪魔をしない。
3.Targetedness:いちばん関心のある顧客へ広告を送れる。
4.Interactiveness:顧客は自分の関心に応じて広告情報に深入りできる。
Accountabilityが裏目にでているわけは、広告料の仕組みにある。マスコミ広告なら顧客が見ても見なくてもスペースや時間で広告料が取れるところを、インターネット広告では実際に見られたヒット数でしか取れないことだ(「パフォーマンス・ベース」)。インターネット広告は、みずからの効率性によって罰をうけている。ヒット数のすくない責任がネットと広告主のどちらにあるのか、いつも議論になるのだが,そのため、この「パフォーマンス・ベース」広告では、ネットと広告主の共同責任(ないしネットが広告主の下請け)のようになってしまって、マスコミ広告のようなビジネスライクな対等関係が保てなくなっている。
Non-disruptivenessも尻尾にとげを持っている。バナーはビューイングの邪魔にならないが、無視することも容易である。いま平均クリック・スルー・レート(CTR)は200ビューに1クリックで、以前の半分に減っている(2002年3月にはいって、それまでじりじり低下していたCTRが過去2年間ではじめて上昇に転じ、関係者を驚かせている(5.5))。おかげで、最近のネットと広告主はポップアップ広告(ミニ・ウインドウが立ちあがり、ユーザーが終了するまでそこにいる)に走っている。これが楽しいポップアップならいいのだが、ただのスライドのようなのもある。正しいインターネット広告をやろうというなら、たくさんの候補作品を作って、それをインタラクティヴ反応で徹底的にテストしなければいけないのだが、それには時間と金がかかる。世界のトップ・テン広告主はいずれも年十億ドル近い宣伝費を使っているのだが、ネット広告にはわずか数十万ドルしか使っていない(それだけにネットの成長余地が巨大だとも言えるのだが)。スクリーン左端を縦に走る「スカイ・スクレーパー」などの革新的な手法を試してみようともしない。
Targetingの約束は圧倒的なものだった。顧客が広告を気に入ってくれたら、あとはクリックが面倒を見てくれる。広告主はマスコミ無差別広告の100倍もの広告料を払うだろう。ネットはマスコミよりはるかに自分の顧客を知っているのだが,この知識を購買動機(wants and needs)につなげていない。天気予報を見る顧客が、通勤者なのか、フライ・フィッシャーなのか、ただの閑人なのか分からない。かりにフライ・フィッシャーだと分かったとしても、フライ・フィッシングの広告が手元にあるかどうか分からない。
以上の問題にもかかわらず、ネット広告の未来は明るい。基本的な発想はまちがっていないのだが、その要素がまだ結合していないのだ。ドットコムたちが退場したあと、clicks & mortarたちが登場してきているが、もともと彼らの多くは世界最大のオフライン広告主なのだ。かれらを、こまごました「パフォーマンス」効率論議にひきこまないで、より綜合的なブランド広告にめざめさせることを目標にすべきだ。ネットはマスコミよりはるかに優秀な広告媒体なのだから・・。
CPMも平均は下がったが、トップ・サイトではまだ30-50ドル取っているところもある(両極分解)。ドットコムのクラッシュや米国経済の停滞にもかかわらず、今年のネット広告売上は去年比微増の80-100億ドルある。しかもネット広告はきわめて若い市場である(全広告市場の3%、ラジオの半分)。
パフォーマンス・ベース試算:
いまのネット広告料では、ネットがコンテンツを作る余裕はまったくない。たとえば、2百万人のサイトでネット広告を打つクレジット・カード会社を考えよう。200人に1人がクリックし、そのうち100人に1人が契約してくれる。これで100人のクレジット・メンバーが増える。オフラインでは顧客獲得1人に150ドルかけている(テレビ広告、DM、セールスなど)。これならネットに15,000ドル払ってくれ、CPMは7.5ドルになる。ネットは自分で広告営業をしていないところが多いから、DoubleClickのような広告代理店を使うことになり、彼らが半分を取るから、これでネットの収入は3.75ドルになる。ネット・サイトのトップ数百社なら月1,000万ビューはあるから、収入は37,500ドルになるが、ハード、ソフト、通信費を引いたら、2-3人の専任者しか置けない。きびしい数字である。パフォーマンス・ベースだけでなく、ブランド広告をもっと取らなければだめだ(6)。
上の記事の直下に、Napster事件について、Napster登録が6,500万人、接続が1日1,000万人、常時200万人という記事があった。ここまできたら広告料も高いだろうに・・。[Napsterは敗れたが、別なやり方がいくらでもある。Think!]
いままでのC2Cサイトは広告についてあまりにシャイ−−user-centric--だった。もっとsponsor-centricになってもいい。そろそろ、「あなたに価値のあるものをただであげるのだから、かわりに、すこしの時間をください」と言ってもいい。テレビで10分ものコマーシャルに慣れた世代が相手なのだ。バナー広告のマンネリズムを破って、いろいろなアイデアがすでに試されつつある。コルクを抜く音や衝突音が鳴り響くポップアップがある(もっともオフィスでプライべート・サーフィングをやっている人には迷惑だろうが・・)。5-10秒かかる大型画面のビデオ・クリップがある。株式欄の背景にBudweiserの文字が並んでいるのがある。ハードコア・ゲームのFighter Ace II (荒地で巨大車両を乗り回す)は、車両にTOYOTAと大書している。走っている車の映画を、ウエブ・ページ上にスーパー・インポーズする計画がある。文字情報のまんなかに大きな長方形の広告がはいるフォーマットが、最近、業界標準として採択された。ふつうのバナー広告のクリック率は0.5%ぐらいだが、以上のような広告では2-3%に達する(7)。
広告とマーケティングの境界をなくしてしまったのが「検索連動広告」である。たとえばヤフ―で「パソコン」を検索すると、関連サイトが列挙されるのと同時に、パソコンのバナーが表示される。2001年7月、ネット広告大手DoubleClickが、MSNの検索連動広告独占販売権を取得した。料金は検索1回ごとに15円、1度に4つの単語まで申し込め、月ミニマムが15万円の由(7.3)。広告を必要悪と考えない方がいい。広告も重要な情報である。狭いモニター・スクリーン上で一瞬きらめくもの−−短歌や俳句が作れる日本人の感性に向いている(7.4)。
いま米国中の無料サイトを震えあがらせているひとつのソフトがある。あるSiemensのスピン・オフが作ったWebWasherは、ユーザーのブラウザ―から、すべての広告、ポップアップ、クッキーズをきれいに消去してしまう。私のように、よくできた広告を情報の一部と考えている個人ユーザーにとっては、こんなものは無用である。問題は、社員によけいな情報を与えたくないオールド・エコノミーの会社などが、よろこんでこのソフトを使うことだ(8)。余談になるが、私は、米国留学時代からBusiness Weekの愛読者だったが、日本へ帰ってきたら、アジア版しか定期購読できないことが分かった。私は米国のグッズやサービスに興味があるので、米国版の広告が貴重な情報源だったのに、アジア版は日立やSamsungの広告ばかりでしようがない。Business Weekがぶあつい米国版の運賃を惜しんでいるのだと思って、割増でもいいと言ってやったがナシのつぶてなので、よほど反トラスト法違反で訴えてやろうかと思ったことがある。ビジネス誌のくせに、広告の価値がわかっていないのだ。そういえば、日本のVTRで、CMスキップ機能がついているのがある。私は、Napster、Gnutella、FreeNetのようなP2Pには同情的(9)なのだが、このWebWasherには反対である。これは、最近ファッション化している無責任な反ビジネス・反グローバライゼーション・反文明ムードの産物である。ただ、これは、ネット広告の質向上圧力としてはたらくだろう。ハッカーがセキュイティ技術を押し上げているのと同じことである。VTRのCMスキップ機能もあまり使われていないと聞く。法律を作って無理やり禁圧するより、楽しく有用なCMを作って対抗するほうが建設的であろう。
コンピューターとヒトを対立物と考えている人が多い。だが、コンピューターにどうしてもできないことがある。たとえば、重要なメールとジャンク・メールをより分けたり、ある行為を合法か違法か判断するといった場合である。これは異論があるかもしれないが、私は、将棋ではコンピューターがヒトに勝てないと思っている。将棋は戦略ゲームで「だまし」の要素があるからだ。チェスではとうとうコンピューターが勝ったが、私は、これは将棋よりやさしいからだと思っている。
よくみると、コンピューター(インターネット)とヒトの補完的な結合(いわばサイボーグ)が観察される。サンノゼのCounterpane Internet Security社は、多数のe-コマース・サイトを警備するサービスだが、これを全自動でコンピューターに委ねているのではなく、顧客のシステム中に埋め込んだSentry(歩哨)システムからの信号をモニター上に一覧して、50社分を1人のヒトがスキャンしている。この手法は病院や在宅介護サービスなどでも使われている。空港の管制システムなども全自動になるのはまだまだだろう。いずれも、逐次実行(フォン・ノイマン)型コンピューターがヒトにまだまだ及ばないパターン認識を使っているからだ。
サンフランシスコのKeen社は、いわば専門家のネット・レンタル・プラットフォームである。いろいろな分野の専門家(「KeenSpeakers」)と契約、ホームページ上にリストアップしておいて、ユーザーがそこから好きなKeenSpeakerを選び、コール・ボタンを押すと、音声電話に切り替わって、音声によるアドバイスと課金がはじまる。料金は個々のKeenSpeakerによってちがい、名前--通常は仮名--のあとに表示されている--1分数ドルが相場--Keenが30%とる。終わったらユーザーが満足度を入力、これがホームページのKeenSpeaker名のうしろに集計表示される。テキスト・ベースの一般のチャットとくらべて、肉声によるヒューマン・タッチが売りものである(10)。私は、はじめこの話を聞いたとき、なんだネット・コンサルタントかと軽くみていた。しかし、その後の推移をみると、実は途方もないビジネス・モデルらしい。
KeenSpeakersは数千人におよび、各人の評価がユーザー350万人の満足度によって刻一刻ホームページ上に表示され、順位が上がればその人に指名が殺到する。まさに、人材のネット・オークションともマーケットプレースともいえるもので、ネット不況の中で高成長を続けている数すくない企業のひとつである(2002年初には黒字転換の予想)。専門分野も、広告では税務相談や経営指導などを謳っているが、外部調査会社の調査によると、実際は個人的な相談が89%を占める(うち6%がセックスがらみの由)。Keenが、大手心霊サイトを買収したり、アダルト系ネットと接触したことなどもあって、マスコミがかなり批判的になっている(11)。Keen自身は、この調査結果を否定して、おもなユーザーは、情報サービス、経営コンサルティング、財務プランニングなどビジネスマンだと言っている。
私は、Keenがあまり弁解的にならない方がいいと思っている。自分の仕事にもっと自信を持つべきだ。世の中には、人生の難問を抱えていて、誰と相談したらいいか分からない人がいっぱいる。相談に乗ってあげられる人もいるはずだ。このヒューマンな需要と供給を、市場原理を介してリアルタイムで結ぶ仕事がなんで恥ずかしいのか? このことは、最近、日本でやや冷笑的に見られている出会い系サイトについてもいえる。みんなさびしいのだ。さらにいえば、もともとビデオやパソコンの普及の原動力になったのはアダルト系ではなかったか。いまソフト店へ行ってみるといい。半分がアダルト系だ。良い意味でも悪い意味でも現代人の疎外状況を体現している「出会い系」と「アダルト系」、がんばれ。
20世紀の特徴だった巨大文化とちがう、もっと多様で繊細な、いわばミニ文化の鍵を握るのがマイクロ・マネーであろう。ここに紹介するRedPaperというサイト
たとえば最近ニュースになったフットボール選手の女性ファン暴行事件の訴訟記録(公開情報だが、実際に入手するのはけっこう厄介で、裁判所も、リクエストがあるとこのサイトを紹介している由)が2ドル、サイトの主催者が「ものすごくおもしろい」とほめている若い女性のデート体験記が50セントである。アクセス・ログが人気のバロメータにもなっている。
会員登録は無料。会員はだれでも無料で情報をアップロードして、自分で値段をつけることができる(10セントというのもある)。会員はプレビューを見て情報を買うこともできる。代金の94.7%を著者が取り、5.25%をサイトがもらう(広告はない)。
いまや大資本・大宣伝で恐竜化してしまった出版ビジネスとちがって、ミニ出版は情報革命の原動力である。ただ問題はこんな少額の代金をどうやって支払い、回収するかである。
このサイトのおもしろいところ−−もしかすると弱いところ−−は代金の決済システムである。情報を買う人は、登録時に届けたクレジット・カードを使う。ただ代金が少額なので、その都度ではなく、まとめて決済する。はじめ最低3ドルのデポジット(種銭)をアカウントに入れる。これが、情報を売ったり買ったりするたびに増減するのだが、残高がなくなったらメールで警告がくる。
この決済方法にはいろいろ考えさせられる。特別なシステムを使わないマイクロ・マネーである。ただ、これだと、買ってばかりいる人はどんどん入金しなければならなくなるので面倒だろう。だから情報を売ったり買ったりして、アカウントのバランスを維持するのがうまい使い方であろう。ということは、RedPaperがしだいに同人雑誌みたいに小さくまとまってしまって、発展性に乏しくなるのではないかというおそれがある。
それより思い切って広告をいれて、会員にはポイントをばらまき、ポイントで情報の(だけではなくいずれはモノも)売買ができるようにする−−コミュニティ・サイトの性格をはっきりさせた−−ほうがいいのではないか。日本でやる場合、日本人のクレジット・カード恐怖症にも有効ではないか。
1.5. コミュニティ・サイトは無数にあるが、Paul Glader、「君の情熱を傾けよう」、The Wall Street Journal ("WSJ") 01-12-10が、いくつか珍しいサイトを紹介している(私も実見している)。たとえば、1輪車登山、折り紙、溶かしチョコレート・ケーキ、カクテル・レシピ、オペラ・ファン、ロック・クライミング、英国カントリー・ダンス、ケナガイタチ飼育、ローラーコースター、フライ・フィッシング、ハーモニカなど。
2. Sally McGrane、「新旧オークション−−トラック・スペース、豚、プラスチックス」、The New York Times ("NYT") 00-9-20より。
3. Don Clark、「くらべてから買おう」、WSJ 00-4-17より。
3.2. WSJ 02-1-16。
3.4. The Economist 01-11-10。eBayは、個人だけではなく、ニッチェな商品を持つ中小企業の販路としても重要な可能性を持っている。先日、レトロ趣味の手作りジュークボックスを見かけたが、これなどネットでなければ販路を見つけることも不可能だっただろう。もっともいいことばかりではない。非対面性、迅速性、遠隔地支払いなどネット取引きの特性を利用した詐欺が跡を絶たない。eBayは、取引きは会員間の相対取引きということで、詐欺や不履行の責任を一切負わないが、それでも20人ほどの詐欺調査員を雇って取引きをチェックさせている。また「評判スコア」がかなりの抑止力を持っており、被害者からの警告もBBSで一気に広がって被害の拡大を抑えるというネット特有の抑止装置もある。一方、詐欺の手口もだんだん巧妙になっており、2000年、前衛画家リチャード・ディーベンコーンの作品らしいという触れこみの絵が、多数の架空名義を使った「サクラ競り」で、25セントから始まって135,805ドルまで高騰し、結局贋物とわかって首謀者が逮捕されるという事件があった。NYT 00-6-2/01-3-9。最近、Wee Forest Folk陶製人形の詐欺でも、百数十人、数十万ドルの被害がでた。容疑者は現実店舗も持っているclicks & mortarで、評判スコアも非常に高かったのだが、だんだん取引きを大きくして最後の大規模オークションで前払い金を持ち逃げした。前払いの方法はいろいろだったが、保険つきのクレジット・カードやエスクロウ利用で難を免れた人もいる。eBayが被害者を調査したところでは、これでネット全体を信用しなくなったと答えた人はわずかであった。WSJ 02-2-22。
3.6. WSJ 02-1-18。
3.8.Stephen Mihm、「eBayのまわりに生まれた新ビジネス」、NYT 01-6-13より。
3.9. NYT 02-2-16。もっとも数日後、同社のサービスに対する不満を集めたクラス・アクション(集団訴訟)を受たりしてまだまだご難続きではあるが・・。Silicon Alley Reporter <http://www.siliconalleyreporter.com/> ("SAR") 02-2-22。2002年7月、eBayはPayPalを株式交換方式で買収する(15億ドル)合意に達したむねの発表をおこなった(実行は年末)。SAR 02-7-9。
4. 「ほんとうのバーゲンはいずれ消える」、WSJ 00-4-17より。
4.1. Saul Hansell、「情報ハイウエイはただ乗りお断り」、NYT 01-5-1。
5. WSJ 99-11-16より。
5.5. Silicon Alley Reporter ("SAR") 02-3-12。
6. 「バナー広告ブルース」The Economist 01-2-24より。
7. Saul Hansell、「ウエブサイト広告、支配と光輝」。下表は、NYT 01-3-17より。Jennifer Rewick、「選択、選択」、WSJ 01-4-23から私がまとめたもの。
ウエブ広告のタイプ |
説明 |
利点 |
欠点 |
基本バナー |
ページの上部に置く長方形の広告で、最も基本的なタイプ。販売直結という触れこみだったが、クリック・スルー率が漸減して、いまでは0.5%程度。 |
販売直結はあきらめても、ブランド・イメージ・ツールとして依然有望。 |
スペースが小さいため、グラフィック上、製作者・ユーザーとも限界を感じている。 |
スカイスクレーパー |
ページの片側または両側に直立する細い長方形の広告。面積はバナーより大きい。 |
一般のPCモニターは横長だから、ページ本体に対する侵害性がすくない。 |
英字は縦書きが不得手。無視されやすい。 |
大型ボックス |
ページの中央に置くCDケースぐらいの太い長方形広告。 |
到底無視できない。広告だけでなく、解説やエピソードにも使える。 |
本文が読みにくい。 |
ボタン |
ページの右上方に置く名刺大の広告。 |
侵害性が最小で、グラフィックもしやすい。 |
一番無視されやすい。ブランド・イメージ・ツールとしての効用は測定が難しい。 |
ポップアップ広告 |
ウエブ・ページのローディング中、広告ページが立ちあがる。高速アクセスの産物。消すためにクリック要。 |
グラフィック性最高で、動画もある(リッチ・メディア)。印象最大。自動車、家電、映画スタジオなどブランド・ツールとして有望。 |
侵害性最大。立ちあがらないうちに消される。本体のローディングを遅くする。高速アクセス普及まだまだ。 |
E-メール |
e-ダイレクトメールだが、はるかに安くかつ早い。あらかじめ購読申込みするので回答率良好(5-15%)。 |
DMでは$2万、準備3か月、回答3週間。e-では$1千、準備3週間、回答48時間。 |
ユーザーのHDがe-メールであふれる。2005年にはいまの4倍、年1,600通になる予想。 |
スポンサー |
ウエブ・ページに「提供は・・」と表示。投資顧問のCharles Schwabが女性C2CのiVillageでやって好評。 |
テレビでは定着している。 |
バナーと同じく無視される。ページの客観性が疑われる。ウエブのインタラクティヴ性を使っていない。 |
7.3. 日経01-7-24。
7.4. www.banneradmuseum.comはバナー広告のコンテストをやってるが、今回トップに選ばれたのがヒューレット・パッカード(HP)新型プリンターのバナーである。青いHPロゴが右端にあるほかまったく空白のバナーの枠外から青い蝶がはいってきて、ひらひら舞いながら移動するにつれ、小さ目のフォントでも表現密度の高いテキスト・コピー(たとえば「Razor-sharp text and graphics」、「True to the original」)が現れ、そこに蝶がとまる。目が吸いつけられるようである。まことにミニマリスト芸術である。なお、Susan Warren、「勝ち組と負け組」、WSJ 01-4-23。
8. SAR 01-3-22より。
10. 「ヒューマン・タッチ」、The Economist 01-4-14より。
11. Suein L. Hwang、「生き残りをめざすドット・コムの自慢できないホット・マーケット」、WSJ 01-6-12。