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本間忠良 衝撃の新刊 知的財産権と独占禁止法−−反独占の思想と戦略
経済法あてはめ演習60選(日本語)Antimonopoly Act Exercise 60 Cases
情報革命についてのエッセイとゴシップ(日本語) Essays and News on Information Revolution
米欧競争法
2004-2006年度日本大学法科大学院での講義4日分レジュメ 本間忠良
目次:
第1日
1.米国
1.1.法律
1.2.概要
1.2.1.歴史
1.2.2.実体法
1.2.3.執行機関
1.2.4.ガイドライン
1.3.各論
1.3.1.合理の原則と当然違法
1.3.2.カルテル
1.3.2.1.価格(数量)協定
1.3.2.2.市場分割
1.3.2.3.専門職
1.3.2.4.当然違法原則の動揺
1.3.2.5.共同R&D促進立法
1.3.3.共同(グループ)ボイコット
1.3.3.1.二次的(間接)ボイコット
1.3.3.2.不可欠施設
1.3.3.3.一次的(直接)ボイコット
1.3.4.価格情報交換
1.3.4.1.基本判例
1.3.4.2.寡占市場
第2日
1.3.5.再販価格制限
1.3.5.1.初期の判例
1.3.5.2.規制強化
1.3.5.3.規制緩和
1.3.6.垂直的非価格制限
1.3.6.1.地域制限
1.3.6.2.専売店制
1.3.7.独占化
1.3.7.1.基本判例
1.3.7.2.行為規制
1.3.7.3.構造規制
1.3.7.4.私訴
1.3.7.5.排除行為
1.3.8.独占企図
1.3.8.1.小さな市場
1.3.8.2.略奪的価格設定(primary-line価格差別含む)
1.3.9.抱き合わせ
第3日
1.4.手続法
1.4.1.FTCとDOJ
1.4.2.合併の事前規制
1.4.3.刑事
1.4.4.民事
1.4.5.域外適用
1.5.総合問題――Microsoft事件
第4日
2.EU
2.1.条約
2.1.1.実体規定
2.1.2.手続規定
2.1.2.1.前史
2.1.2.2.現行規定
2.1.3.域外適用
2.1.4.国家裁判所
2.1.5.先行裁定
2.2.欧州司法裁(ECJ)主要判例
2.2.1.28/30条(知的財産と自由移動)――固有主題論
2.2.2.81条(地域分割協定)
2.2.3.82条(支配的地位の濫用)
2.2.3.1.略奪的価格設定
2.2.3.2.価格差別
2.2.3.3.取引拒絶――essential facilities
2.2.3.4.合併
2.2.3.5.抱き合わせ
2.3.一括適用除外規則
2.3.1.垂直取引
2.3.2.分業
2.3.3.R&D
2.3.4.技術移転
2.4.総合問題――Microsoft事件
第1日:
1.米国:
1.1.法律:
シャーマン法1条:州間および外国との取引、商業を制限するすべての契約、結合、共謀は違法である。・・・
シャーマン法2条:州間および外国との通商や商業のいかなる部分をも独占し、独占を企図し、または独占するため他人と結合、共謀する者は重罪犯である。・・・
クレイトン法2条(a) (ロビンソン・パットマン法):・・商業に従事する者が、・・同等同質の物の価格を、異なる購買者によって直接間接に差別することは、・・かかる差別が、(primary line)商業の経路における競争を実質的に減殺し、または独占を創出する傾向があり、もしくは、(secondary line)かかる利益を与える者またはこれを知りつつ受ける者と(それらの競争者と)の・・競争を阻害・・することとなる場合は違法である。ただし、本条の規定は、かかる物が購買者に販売、配達される方法や数量の差異による製造、販売、流通原価の差異を正当に調整する価格差を妨げるものではない。
クレイトン法3条:商業に従事する者が、・・競争者の物・・を賃借人や購買者が使用、取扱いしないことを条件として、物(特許製品と否とを問わない)を・・賃貸、販売、契約、・・価格固定、値引きすることは、かかる賃貸、販売、契約が、商業の経路における競争を実質的に減殺し、または 独占を創出する傾向があるときは違法である。(競争制限的な非競合契約、とくにタイイン(抱き合わせ販売)を禁止)。
クレイトン法4条:・・反トラスト諸法で禁止されている行為によって事業または財産上の損害を受けた者は、・・損害の3倍額の賠償と、合理的な弁護士料を含む訴訟費用を回収することができる。
クレイトン法7条:・・いかなる者も、商業または商業に影響する活動に従事する他人の株式・・、資産の全部または一部を直接間接に取得することが、・・商業または商業に影響する活動の経路における競争を実質的に減殺し、または独占を創出する傾向があるときは、かかる取得をしてはならない。
連邦取引委員会法5条:・・商業における、または商業に影響する不公正な競争方法および不公正ないし詐欺的行為、慣行は違法である。
1.2.概要:
1.2.1.分担:
1890年シャーマン法(刑事)は司法省、1914年クレイトン法(民事)は司法省とFTCの共管だが、1914年FTC法(行政)5条の「不公正な競争方法」にシャーマン法違反行為が含まれる(判例)ので、事実上、両者の執行権限は同等(ハードコア・カルテルは司法省、合併はFTCという分業協定があったが、2002年廃止)。
1.2.2.実体法:
シャーマン法1条は文言上あらゆる取引制限を違法とする(コモンローを継受)が、1911年スタンダード・オイル事件最高判が、「unreasonable」条件を再発見。一般的にはrule
of reason (ROR)。
例外的にper se illegal (PSI):@価格固定協定、A数量制限協定、B市場分割協定、C入札談合、D共同ボイコット、E垂直的最低価格制限協定、F抱き合わせ。
シャーマン法2条はROR。
クレイトン法2条(a)(「売手段階primary line価格差別−−売手間の競争に影響+「競争実質的減殺/独占創出傾向」」)とシャーマン法2条の略奪的価格設定は同一の違法行為。secondary line(買手間の競争を阻害)は基準が低いので中小小売業者がメーカーを訴えるのよく使われた。
抱き合わせと排他条件付取引は、対象商品が有体物ならクレイトン法3条、サービスならシャーマン法1条。
FTC法5条は、シャーマン法より広く、同法違反行為の萌芽(incipiency)も規制できる(たとえば「買手段階secondary lineの価格差別−−特定買手間の競争を阻害」――判例があるが、現在では自制している)。
1.2.3.執行機関:
司法省:刑事:大陪審とCID (1965)。有罪/無罪/不抗争答弁plea(推定効なし)。価格協定、入札談合にほぼ限定。民事:injunction(同意判決が8割−−推定効なし)、(国を代理して3倍賠償)。現反トラスト局長Thomas
O. Barnett。
FTC:行政:排除命令(cease
and desist order−−同意命令。ALJによるinitial
decision。取消訴訟は巡回裁−−実質的証拠原則)。現委員長Devorah P. Majoras。
州司法長官:injunction、父権訴訟(parens
patriae)(クレイトン法4C条)。
民事:損害賠償と差止請求。時効:原因発生後4年。
1.2.4.ガイドライン:
水平合併DOJ/FTC1992。国際事業DOJ/FTC1995。知的財産DOJ/FTC1995。ヘルスケアDOJ/FTC1996。競争者間提携DOJ/FTC2000。amicus
curiaeで発言。判例法と凹凸(政権により消長、とくに垂直取引GL1985は1993廃止)。
1.3.各論:
1.3.1.合理の原則と当然違法:
はじめ文言解釈U.S. v. Trans Missouri Freight Assn., 166
U.S. 290 (1897)→Standard Oil Co. of New Jersey v. U.S., 221
U.S. 1 (1911)/Chicago Board of Trade v. U.S., 246 U.S. 231 (1918)で一般ルールとしての合理の原則(ROR):
U.S. v. Trans Missouri Freight Assn., 166
U.S. 290 (1897):ミシシッピ以西の鉄道会社のほとんどがメンバーとなって、運賃を月例会の投票で決定。被告主張:公共の利益のため(競争によって撤退ありうる)。シャーマン法1条。法廷:この事実のもとでは取引制限の立証不要、reasonable抗弁も不可。(Frank
Norris. THE OCTOPUS, 1901, Gutenberg Project)。
Standard Oil Co. of New Jersey v. U.S., 221
U.S. 1 (1911):ロックフェラー関連会社数十社が共謀、資産をオハイオ社に集中(トラスト)、その市場力を利用して鉄道を支配、それによってライバル石油を次々吸収した。シャーマン法1条/2条。法廷:Trans-Missouriに言及、結論は肯定するが、コモンローの「取引制限」にもともとreasonable要素があった。しかし被告敗訴。
Chicago Board of Trade v. U.S., 246 U.S.
231 (1918):シカゴ穀物取引所が時間外の場外取引価格を締め切り時の価格に限定(call rule)。司法省は「商業制限」の立証をしなかった。法廷:オファーは禁止していない等の理由からcall ruleの競争制限性を非重要と見て被告勝訴。
特殊ルールとしての当然違法(PSI)の確立:
U.S v. Trenton Potteries, 273 U.S. 392
(1927):衛生陶器で全米の82%を占める23社/20個人が販売価格と販売先を協定。被告は、協定が破滅的かつ無秩序な競争を避けるためのものであり、価格も合理的なものだったと主張、1審クロ、2審シロ、最高裁クロ(PSI)。
Appalachian Coals Inc. v. U.S., 288 U.S.
344 (1933):アパラチア地方石炭業者27社(全米の12%)が共同出資で販売会社を設立。1審2審クロ。最高裁は地域不況対策という正当理由があるとしてシロ(ROR)。(映画『わが谷は緑なりき』1941年)。
U.S. v. Socony Vacuum Oil Co., 310 U.S. 150
(1940):価格協調的な大手精製業者が、共同して、貯蔵施設に入りきれない業転玉を現金で売り歩く中小業者を押さえ込むため、彼らを「ダンシング・パートナー」と指定して余剰石油を買い取った。被告はトレントン事件と同様の正当化論を展開したが、最高裁はクロ(トレントン原則PSIに復帰)。
1.3.2.カルテル:
1.3.2.1.価格(数量)協定:一貫してPSI。判例は無数にあるのでここでは省略。以下マージナルなケースを紹介。
1.3.2.2.市場分割:一貫してPSI(いずれも商標権ライセンスに偽装)。
Timken Roller Bearing Co. v. U.S., 341 U.S.
593 (1951):米国のローラー・ベアリング・メーカーが、英仏の関連会社と共謀、「Timken」商標のライセンスを装って、製造販売につき国境で市場を分割し、米国商業に(?)影響を与えた。PSIでクロ。
U.S. v. Sealy Inc., 388 U.S. 350 (1967):中小寝具メーカーが共同出資でシーリー社を設立、統一仕様、商号、商標ライセンスを供与、再販維持、排他的販売地域割り当て。再販は終始クロだが、地域は1審シロ(合理性あり)、最高裁で合理性の審理不要PSIでクロ。
U.S. v. Topco Associates, Inc., 405 U.S,
596 (1972):中小スーパーの共同仕入機関(全国4位)、統一商標ベースにメンバーに排他的地域割り当て。1審は地域制限の合理性を認め、大手との対抗上必要としてシロ。最高裁はこれを水平的協定としてPSI、中小企業保護は立法の役割。
1.3.2.3.専門職:専門職を特別扱いにしない。価格協定は一貫してPSI。
Goldfarb v. Virginia State Bar, 421 U.S.
773 (1975):不動産購入ローン取得のため弁護士作成の所有権証明書必要。郡中の弁護士に電話で引き合いするも同一額回答。弁護士会による最低報酬協定は違法(弁護士サービスはcommerceにあたる)。
National Society of Professional
Engineering v. U.S., 435 U.S. 679 (1978):技術者協会が協会指名前の価格交渉を禁止。品質維持による正当化理由は認められなかった。
1.3.2.4.当然違法原則の動揺:
Broadcast Music Inc. (BMI) & American
Society of Composers, Authors and Publishers (ASCAP) v. Columbia Broadcasting
System Inc. (CBS), 441 U.S. 1 (1979):著作権集中管理。効率達成のため不可欠なのでROR。個別許諾(同意判決)もあるから競争制限ではない(差戻審:著作権者は架空の競争者)。JASRAC−−音楽の長期低落。
Arizona v. Malicopa County Medical Society,
457 U.S. 332 (1982):私営保険関連医師間で最高診療料金協定(既存保険と対抗するため)、不可欠性がBMIほどではないのでRORでも違反。
NCAA v. University of Oklahoma, 468 U.S. 85
(1984):全国大学体育協会が、会員大学に対してTV放映回数制限、ライバル協会との契約妨害など。競争制限不可欠業界だが不可欠性ROR立証不十分で違反。形式的に価格協定であっても、他の方法でできない効率達成や競争制限が不可欠の業界−−などROR考慮の可能性。落ち目の日本プロ野球。
1.3.2.5.共同R&D促進立法:
1984法:R&D
JVにつきROR、一倍賠償の特則。
1993法:上をR&D&生産にまで拡張(一倍賠償は届出が前提)。
2004法:標準設定団体の責任を軽減。
1.3.3.共同(グループ)ボイコット:
PSIといわれるが、とくに悪質な排除行為だけで、70年代以降一般にはROR(とはいえ価格固定目的であればPSI)。
1.3.3.1.二次的(間接)ボイコット:上流下流に圧力、競争者を排除。
Fashion Originator’s Guild of America v.
FTC, 312 U.S. 457 (1941):既製婦人服のメーカー(シェア38%)、販売業者、デザイナーからなる組合が、約1,200の小売店から、組合員のデザイン(著作権や意匠権保護はないが、州法違反の不法行為と主張)を盗用した非組合員製品を扱わない約束(半数はビジネス上の脅しによって締結)を取り付け、出荷停止などによってこれを執行した。PSI。知的財産保護はシャーマン法1条/2条及びクレイトン法3条違反を正当化しない。
1.3.3.2.不可欠施設:共同事業利用拒否。
Associated Press v. U.S., 326 U.S. 1 (1945):APは1,200以上の新聞社からなる協同組合で同一地域で新会員加入を制限。非会員向けニュース供給を禁止。シャーマン法1条/2条違反で定款修正命令。
1.3.3.3.一次的(直接)ボイコット:上流下流の業者が被害者。
FTC v. Indiana Federation of Dentists, 476
U.S. 447 (1986):保険会社からのX線写真(レセプト検証のため)要請を断る共同行為はシャーマン法1条違反(価格・数量を規制するnakedな共同ボイコットだけがPSI。一般にはROR)。
FTC v. Superior Court Trial Lawyer’s
Association, 493 U.S. 411 (1990):DC国選弁護士が州に弁護料値上げを迫って受任拒否。PSIでシャーマン法1条違反。表現の自由やノア・ペニントン抗弁は却下。
1.3.4.価格情報交換:
1.3.4.1.基本判例:
American Column & Lumber Co. v. U.S.,
257 U.S. 377 (1921):シェア30%。事業者団体が、価格・数量・在庫・客先名など実名情報、内部のみ、協会から圧力、生産調整効果あり、RORながらシャーマン法1条違反。
Maple Flooring Mfrs. Assn. v. U.S., 268
U.S. 563 (1925):シェア70%。事業者団体が、過去現在情報だけを統計化、外部にも公表。シロ。境界ケース。
国際航空運賃: 戦前からあったInternational
Air Transport Associationが国連専門機関ICAO(バイ航空協定を管理)と連携して広範な路線調整Interliningと運賃情報交換の場を提供、1946年運輸省DOTによる反トラスト適用除外を受けた(当時航空会社は準国有)。1979年規制撤廃deregulationでInterlining機能だけ残った(これにも批判あり)。
1.3.4.2.寡占市場:
U.S. v. Container Corp., 393 U.S. 333
(1969):ダンボール容器6社60%でそれほど寡占でもない(参入障壁も高くなく、価格は下落傾向。情報交換も散発的)。特定顧客について見積価格を交換(した結果、価格が画一化)。PSIに近い。
U.S. v. U.S. Gypsum Co., 438 U.S. 422
(1978):上位8社94%。特定顧客への見積価格を電話で交換、価格安定効果。PSI(刑事は「意図」証拠不十分でシロ)。
第2日:
1.3.5.再販価格制限:
法令、判例とも大きく動揺中(シカゴ学派の挑戦、しかし90年代は規制再強化か)。最高価格or 非価格はROR、略奪or最低価格はPSI。
1.3.5.1.初期の判例:
Dr. Miles Medical Co. v. John D. Park, 220
U.S. 373 (1911):所有権移転論(消尽論)でPSI。「所有権移転後は買主に再販・処分の自由を保障することが公共の利益」。
U.S. v. Colgate & Co., 250 U.S. 300
(1919):公表政策であれば再販可。「事前に再販価格維持政策を公表し、それに従わないものへの販売を一方的に拒否することは違法でない」。
州公正取引法による適用除外が1937年Miller-Tydings法で連邦にも(1975年廃止)。
1.3.5.2.規制強化:
U.S. v. Parke Davis, Co., 362 U.S. 29
(1960):ビタミン剤の公表再販維持に非協力な卸、小売を切った。Colgateを超えており、シャーマン法1条違反(事実上Colgateを修正)。
Albrecht v. Herald Co., 390 U.S. 145 (1968):新聞社が販売店に地域独占付与、最高再販価格制限。販売業者の自由な価格決定(ポピュリスト・イデオロギー)を抑圧する点で最低再販価格制限と変わらない。シャーマン法1条(垂直共謀)でPSI(3倍賠償)。
1.3.5.3.規制緩和:
Monasnto Co. v. Spray-Rite Service Corp.,
465 U.S. 752 (1984) :除草剤下位メーカーのMonsantoは対面販売と再販維持でシェア拡大。Spray-Rite安売りでディーラーが苦情、Monsantoが特約店更新を拒絶。最高判:単独行為である再販はPSIではない(Colgateを再確認――立証水準:状況証拠ではなく独立行動の可能性を排除するレベル)が、本件では垂直共謀あったとしてシャーマン法1条違反(3倍賠償)。
Business Electronics Corp. v. Sharp
Electronics Corp., 485 U.S. 77 (1988):Spray-Riteと類似の事実関係だが、価格水準に関する合意ではない(職域販売におけるサービス内容の合意−−日本の資生堂最高判1998)としてPSIを否定(ブランド間競争を重視するシカゴ学派の主張を採用)。これは本来は次項に分類。
Atlantic Richfield Co. v. USA Petroleum
Co., 495 U.S. 328 (1990):略奪的価格設定の立証がない限り、ARCO・販売店間の垂直的価格協定(最高価格制限――安売り協定)によって損害を受けたと称する地裁原告(USA−−競争者)はantitrust
injury(本来はクレイトン法7条の概念)を受けていない(Albrechtと違う)として原告適格を否定。
States Oil Co. v. Barkat Khan, 522 U.S. 3 (1997):Albrecht 1968を覆し(誤りを認め)、垂直的最高価格制限協定についてRORを採用した(消費者は喜ぶ)。しかし垂直的最低価格制限協定は依然PSI。
Creative Leather Products v. PSK Inc.,---U.S. --(2007):Dr. Miles以来96年ぶりに、垂直的最低価格制限協定にRORを適用、地裁の3倍賠償判決を差し戻した(5対4)。1937年から1975年、いわゆるMiller-Tydings法によって再販制限が合法化されている間、消費者物価が10%アップしていたといわれる。
1.3.6.垂直的非価格制限:
フランチャイズ制の基盤であり、全体としてROR傾向(dealer
termination濫訴の収束)だが、カルテルや市場閉鎖の道具として用いられる場合は違法。シカゴ学派の「1985年垂直的制限ガイドライン」(判例よりゆるいことを自認)は1993年廃止。
1.3.6.1.地域制限:
U.S. v. Arnold Schwinn & Co., 388 U.S.
365 (1967):自転車販売(委託はROR)につき、卸店と小売店を選択、販売地域を限定、そこでの独占権を付与。所有権移転論(消尽論)でPSI(シャーマン法1条)。
Continental T.V. Inc. v. GTE Sylvania Inc.,
433 U.S. 36 (1977):下位メーカーSylvaniaが小売店を選択、店舗位置を定めた。本件垂直的制限はブランド内競争を制限するが、ブランド間競争を促進するとしてROR(シャーマン法1条)(Schwinnを修正−−消尽論は形式論理)。
1.3.6.2.専売店制:
Standard Oil Co. of California v. U.S., 337
U.S. 293 (1949):元売とGSの相互拘束専売(排他条件付取引)がクレイトン法3条違反(ROR)。
Tampa Electric Co. v. Nashville Coal Co.,
365 U.S. 320 (1961):地方電力会社に対する石炭の20年間全量供給契約を被告Nashvilleが反トラスト法違反を理由に破棄、原告Tampaが契約の有効性確認を求めて提訴、ROR(シェア僅少――大きな市場)で原告勝訴(クレイトン法3条)。
Beltone Electronics Corp., 100 F.T.C. 68
(1982):補聴器販売につき、専売小売店(相互専売)、地域制限、横流し禁止を、ブランド間競争制限の立証要(効率性抗弁あり)としてRORでシロ決定(FTC法5条)。dealer-termination case勝算すくなくなった。
1.3.7.独占化:
シャーマン法2条。独占力と意図の2要素。政府事件は大多数が同意判決で終わっている。違反行為と救済措置の均衡がいつも難問。
1.3.7.1.基本判例:
U.S. v. Aluminum Co. of America, 148 F.2d
416 (2nd Cir. 1945):シェア65%以上で独占力(market
powerの強度のもの)の推定。世界のアルミ需要を常時モニター、需要に先立つ巨額の投資が違反。域外適用のリーディング・ケースでもある。
U.S. v. United Shoe Machinery Corp., 110
F.Supp. 295 (D.C. Mass. 1953):独占力あり(75-85%)、製靴機械を販売せずリースのみ。積極的差止命令(行為規制)。
U.S. v. Grinnel Corp. 384 U.S. 563 (1966):火災探知サービスで97%のシェア。製品の優位、優れた経営、歴史的偶然などによるthrust-upon monopoly抗弁を退け、関連会社分離、企業買収禁止など構造・行為規制。
1.3.7.2.行為規制:
United Shoe 1953/Kodak 1954(カラーフィルム販売とEDP抱合わせ)/IBM 1956(PCMリース・カード抱合わせ――以上司法省)/Xerox 1975(FTC同意命令)いずれも特許ノウハウの強制実施を重要な一部として含む。
1.3.7.3.構造規制:
Standard Oil Co. of New Jersey v. U.S., 221
U.S. 1 (1911):持株会社を解散、34社に分割。
U.S. v. Paramount Pictures Inc., 334 U.S,
131 (1948):製作と興行(劇場)の水平分割。
IBM 1982では司法省完敗(構造規制無理との認識)。AT&T同意判決。この後、行為規制に復帰。
Intel Corp., FTC Docket No. 9288 (June 8,
1999):被審人Intelは、同社製マイクロプロセッサ(mpu)の顧客に対して、コンピューターを設計するに必要な同社技術情報、知的財産権ライセンスを供与していたが、うち3社(DEC/Intergraph/Compaq)が同社ならびに同社顧客に対して知的財産権主張をおこなうに及んで、3社に対する情報/ライセンスの供与を打ち切りまたは制限した。FTCがFTC法5条違反容疑で審判、10年間にわたる同様行為の(対世的)排除を命ずる同意命令をおこなった(3対1)。
1.3.7.4.私訴:1960-70年代の3倍賠償私訴ラッシュでは原告がほとんど勝てなくなった。
Telex Corp. v. IBM, 510 F. 2d 894 (10th
Cir. 1975), cert. dismissed, 423 U.S. 802 (1975):IBMが互換周辺機メーカーを振り切るためにとったさまざまな行動がシャーマン法2条違反になるかが争われた事件で、巡回裁は「大きな市場」画定によって地判を覆し、IBMを勝たせた。
Berky Photo Inc. v. Eastman Kodak Co., 603
F. 2d 263 (2d Cir. 1979), cert. denied, 444 U.S. 1093 (1980):新型カメラ(コダカラーU)とフィルムの同時発売(仕様を事前に発表しなかった)がシャーマン法2条違反になるかが争われた事件で、巡回裁はインセンティブ論(「独占企業でも競争者にR&D成果を事前開示する義務はない――インセンティブを損なう」)によって地判を覆し、コダックを勝たせた。
SCM Corp. v. Xerox Corp., 545 F.2d 1195
(2nd Cir. 1981), cert. denied, 445 U.S. 1016 (1982):Xeroxの基本特許ライセンス拒絶がシャーマン法2条違反になるか、Xeroxによる特許の集積がクレイトン法7条違反になるかが争われた事件で、巡回裁はいずれの主張も否定してXeroxを勝たせた。
1.3.7.5.排除行為:シャーマン法2条が健在(私訴ではGrinnel以来):
Aspen Skiing Co. v. Aspen Highlands Skiing
Corp., 472 U.S. 585 (1985):アスペン所在の4スキー場のうち3つを所有する被告を残りの1スキー場が訴えた。16年続けていた共通入場券を一方的に廃止、入場券の販売を拒否、銀行保障付クーポンも拒否。@顧客への影響、A競争者への影響、Bビジネス上の正当化理由でテスト。被告行為は排除(略奪?)にあたる。
1.3.8.独占企図:
独占力を有しない単独の事業者による反競争的行為。@行為(悪意による略奪的)、A意図(特定の)、B蓋然性(危険なまでの−−市場画定要−−事業者間の私的紛争と区別)の3要素。
1.3.8.1.小さな市場:
Walker Process Equipment, Inc. v. Food
Machinery and Chemical Corp., 382 U. S. 172 (1965):Food Machinery社は、下水処理装置について、それが出願より1年以上前に米国内で一般に使用されていたことを隠して特許権を取得、これに基づいて、ライバルのWalker Process社に対して侵害訴訟を提起した。Walker Process社は、Food Machinery社が、「詐欺的にかつ悪意で取得した特許権を利用して、不当に市場を独占しようとした」として反訴、シャーマン法2条違反に基づく3倍賠償を請求した。連邦最高裁は、「シャーマン法2条事件に必要な他の諸要件(関連製品市場の画定と排除力の存在)さえ立証できれば、特許商標庁に対する詐欺によって取得された特許権の行使は、同条違反を構成する」と判断、事件を下級審に差し戻した。
1.3.8.2.略奪的価格設定(primary-line価格差別含む):
Utah Pie Co. v. Continental Baking Co., 386
U.S. 685 (1967):原告(地場中小)に対して被告(全国大手)が総原価割れで価格競争を仕掛けた(3年で半値)。最高判は略奪的意図を認定、それによって競争阻害を推定、原告を勝たせた(クレイトン法2条a−−シャーマン法2条より使いやすい(Brooke最高判は同じだと言っている))。原告はシェア低下にもかかわらず売上げは上がっているが、この点は考慮せず(現在では先例的価値はない)。→濫訴。
アリーダ・ターナー・テスト(1975年):売手の(primary
line)価格差別をあまり厳しく違法化すると、個別の値引きを抑止することになるため、価格が総原価と変動原価の間(グレーエリア)にあれば、原告が@略奪的意図、A現実の競争阻害(市場調査要)を立証。
Matsushita Electric Industrial Co. v.
Zenith Radio Corp., 475 U.S. 574 (1986):回収の可能性なし(シャーマン法1条・2条)。http://tadhomma.ld.infoseek.co.jp/NZ.htm
Brooke Group Ltd. v. Brown & Willamson
Tobacco Corp., 509 U.S. 209 (1993):寡占だから回収(recoupment)が容易ということはない(クレイトン法2条a−−Robinson-Patman法primary
lineケース)。
1.3.9.抱き合わせ:
Northern Pacific Railway Co. v. U.S., 356
U.S. 1 (1958):鉄道所有地を販売するにあたり、そこでのすべての生産物輸送を同鉄道でおこなうことを条件にした。タイング商品(土地)に経済力economic power(独占力monopoly powerや支配力dominanceより弱い)を認定、シャーマン法1条違反。タイング3要件:@別商品、Aタイング商品の経済力、Bタイド市場で相当量(not insubstantial)影響。
Jefferson Parish Hospital District No. 2 v.
Hyde, 466 U.S. 2 (1984):5 (PSI) v. 4 (ROR)。PSIには、@二商品別個、Aタイング商品の市場力、Bタイド支配の蓋然性が必要(PSI要件を厳格化)とし、本件ではAが不成立としてRORを採用、シャーマン法1条違反を否定。しかし、「反競争的な強制の蓋然性があれば、当然違法が適当である。たとえば、政府が売手に対して製品上に特許や同様の独占を与えている場合、その製品をほかで買えないことが売手に市場力を与えていると推定するのがフェアであろう(Loew’s 1962)。特許独占が与える市場力を利用してタイド商品市場の競争を制限し、特許独占の範囲を拡張しようとする努力は、事実として当該タイド商品市場の競争を減殺する。だから、買手が別個のタイド商品をすべて特許権者から買うことを条件として特許製品を売ったりリースすることは違法である」。
Digidyne v. Data
General, 734 F. 2d 1336 (9th Cir. 1984):被告データ・ジェネラルのミニコンNOVAは、NOVA CPUと専用オペレーティング・システム(OS)RDOSから構成され、このクラスのミニコンでは大きな市場占有率を占めていた。被告は、RDOSとNOVA CPUをバンドルして販売していた。NOVAの買手は、大部分、いわゆる OEM業者である。これら
OEM業者は、RDOSを動かす付加価値アプリケーション・プログラムを開発し、これをNOVAに付加して最終ユーザーに販売するという業態であった。したがって、 OEM業者や最終ユーザーのもとには、RDOSでしか動かないアプリケーション・プログラムの大量のモジュールが資産として蓄積されており、他社のシステムに転向しようとすれば、この資産を放棄せざるをえないという状況にあった('lock-in')。かかる状況下で、原告デジダイン等は、NOVAの命令セットを実行できる独自のCPU(NOVAエミュレータ)を発売した。1978年、原告から被告に対して、反トラスト法違反のタイイン(抱き合わせ)を訴因とする訴え(シャーマン法1条/クレイトン法3条違反)が提起された。問題はタイングの要件のひとつ「経済力」の有無である。これについて、地裁判事は、つぎのいずれかの場合、「経済力」の存在が推定されると説示した:1)売手がタイング製品市場で支配的地位を有する場合;2)タイング製品が特許または著作権の保護を受けている場合。陪審は、被告が、タイング製品市場において十分な「経済力」を有していると評決、地裁判事は、この原告有利の陪審評決を否認し、公判のやりなおしを命じた(JNOV)。JNOVの理由の中には、著作権もトレード・シークレットも相対権であり、とくにプログラムのアイデアは著作権で保護されないから、法的参入障壁とはいえないという判断が入っている。高裁は地裁のJNOVをふたたびくつがえして、陪審評決を支持した。高裁は、知的財産権による法的参入障壁について、地裁の判断の誤りを大要つぎのように指摘した:1)「互換OSを開発しようとすれば、かならず被告の著作権とトレード・シークレットを侵害する」という被告自身の証言がある;2)また、「製品上に特許などの独占権があれば、他から製品を入手できないこと自体、「経済力」を推定させる」との判例を最近の最高裁判決が確認している;3)コンピュータ・ソフトウエア著作権保護の相対性についても最近の判例は懐疑的だ;4)また、「タイインは競争戦略だ」という被告自身の証言もあり、被告が「経済力」を意識的に行使していたことがあきらかだ;5)RDOSの著作権は、問題のタイインを当然違法とするに十分な「経済力」を推定させる。上告も却下(7対2)。「小さな市場」を採用して、ハードとOSの抱き合わせ(バンドリング)をシャーマン法1条とクレイトン法3条違反とした。
Eastman Kodak Co. v. Image Technical
Serivices Inc., 504 U.S. 451 (1992):「経済力」に復帰。Kodak互換補用品・サービスという「小さな市場」を画定。差戻し控訴審125 F. 3d 1218
(9th Cir. 1997), cert. denied (1998) は、「知的財産権に基づく一方的取引拒絶に合法の推定(rebuttable presumption)を与えよう」といいながら、事実によってその推定を破って、シャーマン法2条違反を認定。
Illinois Tool Works, Inc., et al v.
Independent Ink, Inc., 2006 U.S. LEXIS 2024 (S.Ct., March 2006):地裁被告Illinois Toolは、バーコード印刷用プリントヘッドとインク双方のメーカーで、プリントヘッドの特許権者である。同社は、プリンター・メーカーに特許プリントヘッドを販売し、特許権の使用ライセンス契約で、ライセンシー(プリンター・メーカー)に、非特許インクのIllinois Toolからの購買を義務づけていた。地裁原告Independentはインクのメーカーである。Independentは、本件のような継続的義務を伴うタイイン(requirement tie)を、1回限りのタイインよりさらに悪質などと主張、Illinois Toolのシャーマン法1条違反によって同社特許権が無効または執行不能になったことの確認を求めて提訴。地裁は、Independentがタイング商品(プリントヘッド)におけるIllinois Toolの市場力(market
power)をまったく立証していないとして、Illinois Tool有利のsummary
judgmentを言い渡した。Independentが、「特許・著作権ベースのタイイン事件では被告の市場力が推定される」としたInternational Salt 1947[1]
/Loew’s 1962[2]/Jefferson
Parish 1984[3]/Data General
1984[4]を援用したのに対して、地裁は、上の諸判決に対する学者からの強い批判、とくにJefferson Parishでの最高裁の上の言明がdicta(傍論)にすぎないとする評価を採用したのである。連邦巡回区控訴裁(CAFC)は、このsummary
judgmentを破棄して、上の諸判決の覊(き)束力を再確認し、地裁に差し戻した[5]。最高裁は、CAFC判決を再逆転し、特許法281条(d)(5)を準用して、シャーマン法1条違反のタイインにおいても、原告Independentに、タイング商品における被告llinois
Toolの市場力を立証する責任があるとして事件を差し戻した。「特許法1988年改正[後述]は、明文では反トラスト法に言及していないが、International Salt 1947で宣言されたper
se ruleの再評価を促していることはたしかである。特許権者の差止請求権を否認するだけのルール[ミスユース]が、その行為を最高禁固10年の連邦法違反の犯罪とするルール[反トラスト法]よりきびしいということはありえない。議会が、[反トラスト法違反の]重罪としての処罰に値する特許の使用をミスユースに値しないという意図を持っていたというのはばかげた想定だ。・・我々の結論は、特許製品に関するタイインが、Morton SaltやLoew'sで適用されたper se ruleではなくて、Fortner
II 1977[6]やJefferson Parishで適用された[rule
of reason]基準で評価されるべきだということだ。・・特許はかならずしも特許権者に市場力を与えるとは限らないから、タイインに関するすべての事件で、原告は、被告がタイング商品で市場力(つまり、買手をして、競争市場ではしないであろうことをさせる力)を持っていることを立証しなければならない」。
第3日:
1.3.10.水平合併:
Brunswick Corp. v. Bowl-O-Mat Inc., 429
U.S. 477 (1977)/Cargil Inc. v. Monfort of Colorado Inc., 479 U.S. 104 (1986):いずれも競争者による合併によって損失をうけたとする事業者によるクレイトン法7条にもとづく訴訟(前者は水平合併で三倍賠償、後者は垂直合併で差止請求)だが、いずれも請求棄却。理由は”antitrust injury”(競争に対する損害)の立証不十分。これによって合併に対する私訴はほとんど不可能になったといわれる。
1976年ハート・スコット・ロディノ法で、一定規模(63.1百万ドル)以上の資産取得は事前届出制(域外適用)。
1992年水平合併ガイドライン(DOJ/FTC):
@集中状況、A競争制限効果、B新規参入、C効率性、D経営破綻の順に審査。市場画定:「仮想的な企業が、小幅ではあるが有意でかつ一時的ではない(small but significant and nontransitory)価格引き上げ(SSNIP)(たとえば5%)を実施することが可能である製品または製品集合およびそれらが販売される地理的地域」。このような値上げをして利益をうる力が「市場力」。仮想的な値上げによって買手が代替品に逃げられない限界で「製品市場」と「地理的市場」を画定する。HHI:シェアの2乗の合計。
合併後のHHI ↓ |
合併によるHHIの増加 → |
50未満 |
50-100未満 |
100以上 |
1,000未満 非集中市場 |
競争制限なし |
|||
1,000-1,800未満 集中市場 |
競争制限なし |
競争制限が懸念 |
||
1,800以上 高度集中市場 |
競争制限なし |
競争制限が懸念 |
競争制限が推定 |
FTC v. Staples, Inc., 970 F.Supp. 1066
(D.D.C. 1997):事務用品1位と3位の合併にFTCが予備的差止め命令申立、地裁がこれを認めた。争点は市場画定で、合併会社は、「消費用事務用品市場」ならシェア5.5%にすぎないが、「専門スーパーストアにおける消費用事務用品市場」なら地区によって45-94%に達する。地裁は後者を採用(「小さな市場」)。
1.3.11.垂直・混合合併:垂直取引GL1985は1993廃止。
1.3.12.知的財産権との相克:
判例:http://tadhomma.ld.infoseek.co.jp/FetEuph8.htm
特許ノウハウライセンス契約ガイドライン:
製品・技術・革新市場。
1.3.13.secondary-line価格差別:
クレイトン法2条(a)後段(ロビンソン・パットマン修正−−市場での「競争減殺・独占創出」立証が不要−−被差別買手間の「競争阻害」でいい):
1.3.13.1.初期の判例:
FTC v. Morton Salt Co., 334 U.S. 37 (1948):FTCの価格差是正命令を最高裁が支持。これ以後、売手はコスト差などの正当化事由抗弁しか認められなくなった→Grand Union Co. v. FTC, 300 F. 2d 92 (2nd
Cir. 1962)/R.H.Macy & Co. v. FTC, 326 F. 2d 445 (2nd Cir. 1964)。これ以後、被差別買手から売手への3倍賠償請求が頻発。1980年代以後、FTCが方針変更、判例も規制緩和傾向(正当化事由を広く認め、現実の損害立証を求める方向)。
1.3.13.2.正当化事由:
Falls City Industries, Inc. v. Vanco Beverage Inc.,
460 U.S. 428 (1983):被告ビール醸造元Vancoはインディアナ州(規制強い)で高価格、隣のケンタッキー州(規制なし―競争激しい)で低価格で卸販売。インディアナ州の卸業者(原告)は、顧客がケンタッキー州に買出しに行って損害を受けたと主張。最高判は「競争的対抗価格抗弁」により被告勝訴。
Texaco Inc. v. Hasbrook, 496 U.S. 543 (1990):ガソリン卸価格差別で、最高判は「機能割引抗弁」を認めながら、本件では機能立証不十分として独立スタンドを勝たせた。
1.3.13.3.損害立証:
White Industries Inc. v. Cessna Aircraft Co., 845 F.
2d 1497 (8th Cir. 1988), cert. denied, 109 S.Ct. 146 (1988):メーカーは、@卸(マージン26%)→小売→客とA小売(マージン20%)→客の2販売系統あり。@卸が直売したため損害を受けたとしてA小売がメーカーを提訴。巡回裁は現実の損害立証なしとしてメーカーを勝たせた。
1.4.手続法:
1.4.1.FTCとDOJ:
1.4.2.合併の事前規制:HSR法。
1.4.3.刑事:最高10年。
1.4.4.民事:
クレイトン法4条(3倍損害賠償――政府原告は1倍)、4B条(時効4年――政府訴訟あれば進行停止)、4C条(父権訴訟parens
patriae)、5条(a)(政府勝訴事実のprima facie evidence推定効)、16条(差止請求)。
クラス・アクション:連邦民事訴訟規則23条。
原告適格:Hanover Shoe Inc. v. United Shoe Machinery
Corp., 392 U.S. 481 (1968)/Illinois Brick Co. v. Illinois, 431 U.S. 720 (1977):いずれも間接購買者の原告適格を否定(需要の価格弾力性による超過利潤の間接購買者転嫁を――方法論的に――否定)。
競争への損害(antitrust injury):反トラスト法は競争者ではなく競争を保護するBrunswick 1977/Cargill 1986/Atlantic
Richfield 1990各最高判が競争者の請求を棄却。
estoppel抗弁:Perma
Life Mufflers Inc. v. International Parts Co., 392 U.S, 134 (1968):反トラストでは同罪の抗弁(in pari delicto)を認めない。反トラスト法の公益性が当事者間の実質的公平をsupercede。
反トラスト法違反契約の効力:契約の一方当事者が、契約条項が反トラスト法違反だから執行不能(unenforceable)だとして、その履行を免れることができる(契約者はしばしば犠牲者)(違反と執行不能の牽連性が重要)(損害賠償と差止請求−−執行不能の抗弁より強力)。
1.4.5.域外適用:
法域管轄と対人管轄:
1.5.総合問題――Microsoft事件:
1998年5月、司法省提訴。2000年6月の地裁判決は、MicrosoftによるOS市場独占維持行為(シャーマン法2条違反)などの違法行為を認め、Microsoftに対して、会社をOSとAPの2事業に分割すること(構造規制)を命じるとともに、分割までの経過措置として、一定の行為を禁止(行為規制)した。判決が認定した事実は次のようである。
Netscape Navigator (NN) については、@Netscapeに対して、NNをプラットフォームとして設計しないように説得し、受け入れなければ技術情報(インターフェイス情報)を提供しないと脅した。AOEM(パソコン・メーカー)に対して、WindowsとInternet Explorer (IE) の結合を契約で義務づけ、IEアイコンの削除を禁止し、その他NNを排除するような流通・販売・技術的措置に引きこんだ。Bインターネット・プロバイダーに対して、IEとそのアクセス・キットを無料でライセンス、その他NNを排除するような流通・販売・技術的措置に引きこんだ。Cコンテンツ・プロバイダーや独立のソフトウエア・メーカーに対して、IEを無料ライセンスし、Microsoftのアプリケーション・インターフェイス・ファミリーに引きこんだ。
Javaについては、@Intelに圧力をかけて、Sun Microsystems等による汎用APの開発を妨害させた。AMicrosoft版JavaによってAPメーカーをWindows依存に引きこんだ。
2001年6月、巡回裁判決が言い渡された。@OS独占維持についての地裁判決を容認。
Aブラウザー市場独占企図については地裁判決を破棄(市場画定と参入障壁の立証不十分)。BOSブラウザ―の抱きあわせについては地裁に差戻し(地裁が使った当然違法per se illegalではなく、ソフトウエア事業の不確定性にかんがみ、競争制限の立証を必要とする合理の原則rule of reasonを使うべき)。C分割については破棄差し戻し(審理不尽)。
2001年9月、司法省は、地裁差戻し審では、上のBOSブラウザー抱きあわせ(訴因)と、C会社分割(救済措置−−構造規制)というふたつの主張を取り下げる方針を発表した。したがって、訴因としては独占維持、救済措置としては技術情報公開をふくむ一定の行為規制だけが残った。
2001年11月、司法省とMicrosoftは、連邦地裁の勧告を受けて、同意判決案についての合意に達した。@技術情報開示:Microsoft は、XP発売後1年以内に、同社ミドルウエア製品(Internet Explorer/Java Virtual Machine/
Media Player/ Messenger/ Outlook Expressおよびその後継システム)とWindowsとのインターフェイス情報(API)、および、サーバー・プロトコル情報を、Microsoft Developer Network(MSDN)上で開示する。ミドルウエアの将来版については、その最後のベータ・テストまでにAPIを開示する。Windows将来版については、ベータ・テスト版15万本配布後にAPIを開示する。これらを使用するにあたって必要な知的財産権は有償でライセンスする。ただし、コピー防止、デジタル権管理(DRM)、暗号、認証、第三者知的財産権保護メカニズムなどについてはAPIを開示しない。また、Microsoftが、開示先を、ソフトウエア海賊版販売や知的財産権の故意侵害歴がなく、十分な事業計画を有するなどの条件を満たす相手に限定し、かつ、APIを使ったプログラムを
Microsoftが承認する中立の第三者に提出してMicrosoft仕様への適合を認証してもらうなどの義務を課すことを妨げない。Aデスクトップ「不動産」:PCメーカーが非Microsoftミドルウエアを搭載したり、Microsoftミドルウエアのアイコンを削除しても、Microsoftから報復を受けない。Bライセンス条件: PCメーカー上位20社への基本ライセンス条件を統一・公開する(大口割引きなどは可)。C排他的取引き:Microsoftソフトウエアの開発・支援につき独占契約は不可。D監視機関:中立委員3名からなる技術委員会を設置、Microsoftのソース・コードをふくむ機密情報へのアクセスを許す。E期間:5年(違反あれば2年延長)。
上のうちとくに重要なのは「技術情報開示」だが、例外の方に興味が引かれる。Microsoftが、ミドルウエアでの市場力を利用してコンテンツ市場に参入、コンテンツ取引きの必須情報、たとえばコピー禁止や課金システムなどのライフラインを抑えようという意図が見えるのである。「監視機関」は画期的なもので、司法省がいままでやってきた対IBM(1956年と1982年)、対AT&T(1982年)、対Microsoft(1995年)など独占事件の歴史の中ではじめて、モノポリストに対する行政的な管理が登場した。
上の同意判決案に対しては、ライバル各社(Sun Microsystems、AOL、Real Networksなど)は猛反対、いままで司法省と共闘していた18州中9州(IT産業を抱えるカリフォルニア、マサチューセッツをふくむ)は司法省の合意に参加せず、追加措置を求めて裁判を継続していたが、2002年11月1日、担当判事は、同意判決案が公共の利益にかなうものと判断してこれを承認、同時に、9州の追加措置要求を拒否した。2003年6月までにマサチューセッツを除く8州が控訴を断念、大勢が決した。
第4日:
2.1.条約:
2.1.1.実体規定:
EC条約81条(抄):「(1)加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり、かつ共同市場内の競争の機能を妨害し、制限し、または歪曲する目的を有しまたはかかる結果をもたらす事業者間のすべての協定、事業者団体のすべての決定およびすべての共同行為――とくにつぎの各号の一に該当する事項を内容とするもの――は、共同市場と両立しないものとし、禁止する。(a)価格固定、(b)生産販売開発制限、(c)市場分割、(d)差別、(e)抱き合わせ。(2)本条の規定に基き禁止されるすべての協定または決定は当然無効である。(3)ただし、つぎに掲げる場合には、第1項の規定が適用ない旨を宣言することができる。[かかる協定/決定/共同行為が]商品の生産もしくは販売の改善または技術もしくは経済的進歩の促進に役立ち、かつ消費者に対しその結果として生ずる利益の公平な分配をおこなうものであって、つぎの各号の一に該当しないもの。(a)前記の目的達成のために必要不可欠でない制限を参加事業者に課すこと。(b)当該商品の実質的部分について、参加事業者に競争を排除する可能性を与えること」。
EC条約82条(抄):「共同市場またはその有意の一定部分における支配的地位を濫用する一以上の事業者の行為は、それにより加盟国間の取引が影響を受けるおそれがあるかぎりにおいて、共同市場と両立しないものとし、禁止する。この濫用はとくにつぎの場合に成立するおそれがある」。
条約28条(抄):「輸入品に対するすべての量的制限および同等の効果を有するすべての措置は、加盟国間において禁止される」。
条約30条(抄):「28条は、工業/商業財産保護を理由として正当化される輸出入/商品移動の禁止または制限を妨げるものではない」。
2.1.2.手続規定:
2.1.2.1.前史:1962年理事会規則17号:審査手続き、過料(fine)などのほか
2条:個別申請による81/82条シロのネガティヴ・クリアランス(82条は例なし)。
6条:81条3項にもとづく個別および一括適用除外規則(9条で委員会の専権)。
2.1.2.2.現行規定:Council Regulation (EC) No 1/2003 of 16
December 2002 on the implemantation of the rules on competition laid down in
Articles 81 and 82 of the Treaty, 2003 OJL1:
前文:
1962年の理事会規則17/62は、81条と82条の実施法として長らく機能してきたが、この中央集権スキームがもはや通用しなくなったという認識から、これをリプレースする新しい理事会規則1/2003が2004年5月1日から施行された。
規則1/2003は、まず81/82条と加盟国競争法の関係について概略下のように規定する。地方分権とはいうものの、依然として委員会中心の法執行体制である。
(1)規則17/62をリプレース
(3)17/62の中央集権スキームはもはや通用しない。
(4)加盟国の競争当局や法廷が81(1)(2)だけでなく(3)も適用できるように。
(8)83(2)に条約と加盟国法の関係。加盟国が単独行為(不公正な取引方法のこと)に81(1)より厳しい規制を適用することは自由。
(16)委員会、加盟国当局間で情報交換ネットワークを作る(機密情報含み、証拠として使える)。
(17)委員会が調査を開始したら、加盟国当局は措置を停止すること。委員会は共同体利益の欠如によって提訴を棄却することができる。
(-38)委員会の審査審判ルールとそれについての加盟国当局(裁判所)の協力。
第1章 原則:
3条 81/82と加盟国競争法の関係:
1.加盟国競争当局や法廷が加盟国間通商に影響ある協定・決定・共同行為(以下「協定等」)に加盟国競争法を適用する場合は、同時に81/82も適用しなければならない。
2.加盟国競争当局や法廷は、81(1)非該当や(3)該当の協定等を禁止してはならない。しかし加盟国は同国領域内でおこなわれる単独行為に対してより厳しい国家法を採択することができる。
第2章 権限:
4条 権限:委員会は本規則に定める権限を有する。[17/62のネガティブ・クリアランス、届出、個別適用除外の権限が消えている]。
5/6条 権限:国家当局/法廷はいずれも81/82を適用する権限を有する。
第3章 委員会の決定:
7/8/9条 違反の発見と終了:委員会の停止命令と行為・構造救済命令権限。仮処分。勧告審決。コミットメント。
第4章 協力:
11条 委員会と国家当局の協力(国家当局が措置を取る30日前に委員会に通知)。委員会が措置決定をしたら国家当局は81/82条権限を停止する。
13条 他国での提訴あった場合、国家当局は自国の提訴を停止・却下することができる。委員会も同様。
16条 国家法廷は委員会決定に逆らう判決をしてはならない(ステイなどで避ける)。
第5章 調査権限:
17条 セクター/タイプ・ベースの調査権限。
18条 報告命令(CID)。
19/20/21条 供述聴取、立入検査(自宅含む(国家法廷の令状要))。
第6章 罰則:
23条 過料:前年商の10%。
24条 定期罰金:前年平均日商の5%。
第7章 時効:
第8章 聴聞と職業上の機密:
第9章 適用除外規則:
29条 委員会/国家当局は、個別事件において協定等が81(3)と両立しない場合、一括除外を撤回することができる。
2.1.3.域外適用:
委員会は効果理論。ECJは実施ベース:ウッドパルプ事件Alstrom v. Commission 1988 ECR 5193。
2.1.4.国家裁判所:
90年代以降条約81条2項との関係で共働体制。しかしとくに委員会の行政レター(comfort letter)との関係?)。
2.1.5.先行裁定:
欧州司法裁(ECJ)(第一審裁判所)による先行裁定。
2.2.欧州司法裁(ECJ)主要判例:
米日とEUを対称的に論じることはできない。米日の目的は単一市場内における競争だが、EUの目的はまず単一市場の実現なのだから。だから、米日ではほとんど問題にならない地理的市場分割(とくに知的財産権ベースの)が、EUでは最重要問題になる。
2.2.1.28/30条(知的財産と自由移動)――固有主題論:
Deutsch Grammophon v. Metro-SB Grossmärkte
[1971] ECR 487:レコード・メーカーGrammophon社は、同社製品について、ドイツ国内で、著作隣接権(頒布権)にもとづき、全小売商と再販価格維持契約を結んでいた。流通業者Metro社はドイツ国内で同製品の販売を希望したが、再販価格維持契約を結ばなかったためGrammophonから製品供給を受けることができず、結局Grammophonのフランス子会社が販売する製品を市場から買い付け、ドイツに輸入販売した。GrammophonはMetroをドイツ著作隣接権侵害で提訴。ECJ先行裁定(抄):商品自由移動に対する禁止や制限は、それらが工業商業財産の固有主題を構成する権利の保護のために正当化される限度内でのみ許される。Grammophonの上の行為は著作隣接権の固有主題を超えており、条約28条違反である」。
Centrafarm v. Sterling [1974] ECR 1147:米国の医薬品メーカーSterling社は、同社製品Negramについてイギリスとオランダで製法特許を持っていた。流通業者Centrafarm社は同製品を低価格のイギリスで買い付け、高価格のオランダに輸入販売した。SterlingはCentrafarmをオランダ特許権侵害で提訴。ECJ先行裁定(抄):「条約28条の例外である条約30条による商品自由移動に対する制限は、財産権の固有主題を構成する権利の保護のために正当化される限度内でのみ許される。特許権の固有主題とは、発明者の創造的努力に褒賞を与えるため、特許権者に対して、彼自身または第三者に付与したライセンスによって製品を製造し、かかる製品を最初に流通におくことである。他の加盟国における特許製品の販売によって特許権が消尽せず、特許権者が同製品の輸入を阻止できるとする国家法の規定は、商品自由移動に対する障害である。特許権者が、イギリスで彼自身または彼の同意を得た第三者によって市場に置かれた特許製品のオランダへの輸入を阻止するためにオランダの特許権を行使することは条約28条違反である」。
2.2.2.81条(地域分割協定):
Consten/Grundig v. Commission [1966] ECR
299:ドイツの家電メーカーGrundig社は、同社製品(’Gint’商標)について、フランスの卸商Constenに対して、(1)
’Gint’商標をフランスで登録する、(2)フランス内で競争品を扱わない、(3)フランス外に輸出しないという義務を課し、他方Grundigは、(4)製品を直接間接にフランス内に供給しない義務を負う契約を結んでいた。委員会の排除命令をConsten/Grundigが提訴。ECJ判決(抄):「Constenは
フランス法上’Gint’商標の所有者だが、それは並行輸入を阻止するためGrundigと締結した合意の産物だから条約81条1項違反である」。
2.2.3.82条(支配的地位の濫用):
2.2.3.1.略奪的価格設定:Akzo v. Commission [1991] ECR I-3359:蘭アクゾ社が英ECS社に対して、過酸化ベンゾイルにつき変動原価以上総原価割れの価格で競争をしかけた(略奪意図あり)。過酸化ベンゾイルで小さい市場画定。委員会の緊急停止命令・過料賦課をECJが容認。
2.2.3.2.価格差別:primary-lineケースはアクゾ判決が適用。
2.2.3.3.取引拒絶――essential facilities:Radio Telefis Eirean v. Commission [1991] ECR
II-485/[1995] ECR I-743:公共テレビ放送局が週間テレビ・ガイドによる番組表複製を著作権に基づいて拒否した。ECJ判決:「著作権自体は支配的地位濫用ではないが、独占維持目的の著作権行使は82条違反」。
2.2.3.4.合併:合併規則139/2004(世界計50億Euro以上につき委員会の審査)。
2.2.3.5.抱き合わせ:Hilti v. Commission [1991] ECR II-1439:建築用釘打銃(カートリッジに特許――28%ロイヤルティ)に釘を抱き合わせた。Hiltiカートリッジと互換釘で「小さい市場」画定。
2.3.一括適用除外規則(サマリー):
2.3.1.垂直取引:
Commission Regulation (EC) No 2790/1999 of
22 December 1999 on the application of Article 81(3) of the Treaty to
categories of vertical agreements and concerted practices, Official Journal L 336, 29.12.1999:流通段階の異なる企業(小売商グループ含む)間の物品売買・サービス供与取引には原則として81(1)を適用しない。例外:一定規模以上の競争者間。売手または買手のシェア30%以上。再販価格維持(最高額は可)。販売地域制限(積極販売・卸の小売制限・選択流通システムは可)。5年を超える非協業義務。
2.3.2.分業:
Commission Regulation (EC) No 2658/2000 of
29 November 2000 on the application of Article 81(3) of the Treaty to
categories of specialisation agreements, Official Journal L 304, 05.12.2000:シェア合計20%以下の企業グループ間の一方的・別商品・共同生産のための製造分業契約には原則として81(1)を適用しない(排他的供給購買・共同販売含む)。例外:販売価格固定・生産販売量制限・顧客分割。
2.3.3.R&D:
Commission Regulation (EC) No 2659/2000 of
29 November 2000 on the application of Article 81(3) of the Treaty to
categories of research and development agreements, Official Journal L 304, 05.12.2000:複数企業間の共同R&D・共同利用契約には原則として81(1)を適用しない。条件:全契約者が成果にアクセス・利用できる(競争者間でなければ分野制限可)。製造分業の場合、担当企業は他契約者の全需要を満たす。非競争者間の場合、共同利用は7年以内。競争者含む場合はシェア合計25%以下に限って前項可。例外:契約技術以外で契約者独自のR&Dを制約。不争義務。販売価格・生産販売数量・顧客制限・消極販売・7年以上の積極販売・他へのライセンス制限。
2.3.4.技術移転:
Commission Regulation (EC) No 772/2004 of
27 April 2004 on the application of Article 81(3) of the Treaty to categories
of technology transfer agreements, Official Journal L 123/11 27/04/2004:
一定の種類の技術移転契約に関する理事会規則(2004年5月1日施行)(サマリー):
本規則はライセンサーからライセンシーへの技術移転(特許・ノウハウ・ソフトウエア著作権ライセンス)を対象とするもので、R&D委託契約や特許プールは対象としない。
シェア合計20%未満の競争者間契約、シェア各30%未満の非競争者間契約は、一定の重要な競争制限条項(後述)を含まないかぎり、81(3)該当と推定する(安全港)。
従来のような個別適用除外はなくなり、自己評価・自己責任制に変わった。
加盟国の競争当局は、各国内地方によって81(3)非該当とみとめる契約について一括除外を撤回することができる。また、同種の取引制限条項の累積的効果が関連市場の50%超をカバーする場合、委員会は、6か月事前の規則を制定して、本規則の不適用を宣言することができる。
黒条項(ハードコア制限条項):次の制限条項を有する契約は適用除外を受けない。
競争者間契約:
1.第三者向け販売価格制限。
2.生産量制限。
3、市場・顧客を制限(分野制限、生産・積極販売地域制限、セカンド・ソーシングの場合は可)。
4.独自技術使用・R&D制限。
非競争者間契約:
1.第三者向け販売価格制限。
2.消極販売地域・顧客制限(ライセンサー地域、他ライセンシー地域(2年限定)向け、拠点制限は可)。
灰条項:次の制限条項は適用除外を受けない(個別評価)。
1.グラントバック義務。
2.アサインバック義務。
3.不争義務(ライセンサーからの契約終了権を妨げない)。
4.(非競争者の場合)独自技術使用・R&D制限。
2004年技術移転契約一括適用除外規則(以下「規則」)ガイドライン(サマリー)(規則の解説部分は除く):
委員会としては、契約当事者の技術以外に4個以上の代用可能の技術があれば81条違反にならない可能性がある(ただしネットワーク効果などで現実に代用可能といえない場合を除く)(安全港)。
1.タイングとバンドリング:
タイングの制限効果は、@タイド商品の競争供給者の排除(foreclosure)、Aライセンサー市場力の維持(参入障壁アップ−−新規参入者が複数の市場に同時に参入しなければならない)、Bライセンサーによるロイヤルティ引きあげ(とくにタイングとタイド商品が部分的に代替的である場合)、Cライセンシーがロイヤルティ引きあげを嫌って代替インプットに逃げられないこと・・である。競争者間・非競争者間を問わない。ただ競争制限が起こるためには、ライセンサーが市場力を持たなければならない。また排除が起こるためには、ライセンサーがタイド商品市場である程度のシェアを持たなければならない。
タイングは効率ゲインをもたらし(たとえば、タイド商品が許諾技術の利用や品質維持のために必要な場合など)、競争促進的である場合がある(タイド商品がライセンシーの許諾技術利用の効率のために有用−−ライセンサーから触媒を買う−−場合など)。
2.非競業義務:
競争上のリスクは、主として第三者技術の排除−−既存技術との競争阻害−−ロイヤルティ高値固定である。クロスライセンスの場合は製品市場でのカルテルになる可能性がある。ただ、ライセンサーとライセンシー群で市場の50%未満の場合、累積効果は深刻ではない。
非競業義務には競争促進効果もある。これがないと、許諾技術(とくにノウハウ)の流用やロイヤルティのモニタリングが困難になってライセンス意欲を阻害し、技術拡散のディスインセンティブになるだろう。
3.和解と不争契約:
問題の技術が一方ブロッキングか双方ブロッキングかの検討が必要(ブロッキングがないときは競争者間の扱いになる)。市場力ある事業者同士のクロスは81(1)該当の可能性がある(ブロッキング関係でも)。
和解がなければライセンスもなかっただろう場合、和解は競争促進的である。
4.技術プール(規則の対象外、ガイドラインでのみ議論):
技術プールは競争制限的である可能性がある。技術標準設定の場合でも、排除や参入阻害になる可能性がある。競争制限性の判断に当たっては、まず、プール技術の性質(補完か代替か、不可欠か可欠か)を見定めなければならない。代替技術のプールは技術間競争を阻害する。不可欠技術だけ、したがって補完技術だけのプールは概して81条に該当しない。可欠かつ補完技術のプールは第三者技術を排除するす可能性がある。特許プールは、また、無効特許の隠れ家になる場合がある。ライセンス終了権はライセンサー特許に限定する必要がある
他方、技術プールは競争促進的である可能性もある(取引コスト軽減)ので、ケース・バイ・ケースで個別制限条項を評価しなければならない。その場合は、@プールの市場ポジション、Aポジションが強いときは、開放性と非差別性、B第三者技術や代替技術を排除しないこと、Cプールの制度的フレームワーク(たとえば、異なる利害を持つプレーヤーへの開放、A外部専門家の関与、B紛争解決メカニズム)などが評価される。
2.4.総合問題――Microsoft事件:
Microsoft世界売上の1/3を占めるEUでは、1998年、米国のサーバー大手Sun
Microsystemsが、サーバー用OSとアプリケーション・ソフトウエアのバンドリングを理由に、Microsoftを欧州委員会に提訴。2000
年8月、欧州委員会は、Microsoftが、Windows 95/98/NTにおける優越的地位を濫用してサーバー用OSの独占を企図している(EC条約82条違反容疑)とする最初の異議告知書(Statemant of Objections)を発出。2001年8月、欧州委員会は、上記にWindows
2000を加えるとともに、Media PlayerとOSのバンドリングについてのEC条約82条違反容疑で第2回異議告知書を発出。2003年8月、多数の事業者とのインタービューにより、上記2回の異議告知書における事実認定に確証が得られたとして、最終異議告知書を発した。
最終異議告知書そのものは公表されていないが、欧州委員会のプレス・レリースによると、Microsoftはつぎの2点で、EC条約82条に違反しているとされている。@競争者のサーバーOSがWindowsと交信するために必要なインターフェイス情報の開示を制限し、サーバー用OS市場で競争業者を不利な立場に置いた(PC-OS市場における支配力を梃子にして、サーバーOS市場での独占を企図した)。AAV再生用ソフトのMedia
PlayerをWindowsとバンドルして販売(かんたんに削除できない)することにより、AV再生ソフト市場での競争を阻害し、技術革新を停滞させた。プレス・レリースは、また、Microsoftがとるべき対策の概要をつぎのように提示している。@Microsoftの競争者がWindows
PCおよびサーバーとの完全な互換性を確立するために必須のインターフェイス情報を開示すること。AMedia PlayerをWindowsからアンバンドルすること。
異議告知書とは、欧州委員会による事実認定と法の適用を被疑者に示し、防御の機会を与えるもので、違反事件の正式審査では必ずとられる手続きである。被疑者がこれに異論ある場合は、文書で反論することができ(反論しないとこれによる事実認定を後日欧州司法裁判所で争うことができない)、欧州委員会が所有する文書を閲覧することができる(営業秘密を除く)。本件ではMicrosoftには反論のため2か月が与えられ、この間、Microsoft は具体的対策について欧州委員会と協議していた(委員会が同意すればアンダーティキング(Undertaking)としてMicrosoftを拘束したはず)。もとモノポリストのIBMが、同社のSNA(Systems Network Architecture)に関する技術情報を欧州の競争業者に開示することになった歴史的なアンダーティキングは1984年のことであった。このとき、IBMは、欧州委員会を説得するため「審決は日本を利するだけだ」というナショナル・カードを切った(私の個人的知見)。いまのMicrosoft事件では、日本など問題にもされていないようである。
サーバーOS事件は米国戦線とおなじleverage(梃子−−優越的地位の濫用)事件であった。Media Playerの抱きあわせ事件は、欧州委員会が職権で取りあげたもので、委員会の超長期的な先見性(ビジョン)が見てとれる。欧州委員会は (Microsoftも)、次世代の争点は、コンピューター産業がいかにしてコンテンツ市場を支配するかという戦いにあることを知っている。コンピューター産業(ハードとOS)を持たない、といってもアプリケーションとコンテンツでは米国に対抗する力を持っている欧州が、ポルトガルからギリシャにいたる世界に誇るヨーロッパ文明の多様性を防衛しようとしている巨大な文化戦争(Kulturkampf)の一環ではないのだろうか。
欧州委員会とのアンダーティキング協議は失敗した。2004年3月24日、欧州委員会は、MicrosoftがWindowsによる優越的地位を濫用したとして、@Media Playerのアンバンドル(バンドル版とアンバンドル版の両方を、後者が不利にならない条件でPCメーカーにオファーすること)およびAサーバーOSの接続情報(コード)開示ならびにB5億ユーロ弱(約650億円)の課徴金支払いを命じた。Microsoftは、この決定の無効を主張して欧州司法裁判所に提訴した。@とAの命令は欧州内に限られる。欧州委員会競争総局のMario Monti委員長は、「命令を『世界中』とすることもできたが、米国やその他の国の競争当局の顔を立てて『欧州内』とした」と言っている。Microsoftの弁護士によると、協議の中で、Microsoftは競合メディア・プレーヤーも搭載した版のWindowsを「世界中」でオファーす るという条件を出したのだが、欧州委員会が聞き入れなかったそうである。
[1] International Salt v. U.S., 332 U.S. 392 (1947).
[2] U.S. v. Loew's, et al., 371 U.S. 38 (1962).
[3] Jefferson Parish Hospital v. Hyde, 466 U.S. 2 (1984).
[4] Digidyne v. Data General, 734 F. 2d 1336 (9th Cir. 1984), cert.
denied 473 U.S. 908 (1985).
[5] Independent Ink, Inc. v. Illinois Tool Works, Inc., et al, 396 F.3d
1342 (Fed. Cir. 2005).
[6] United
States Steel Corp. v. Fortner Enterprises, Inc., 429 U.S. 610 (1977).