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本間忠良 衝撃の新刊 知的財産権と独占禁止法−−反独占の思想と戦略
経済法あてはめ演習60選(日本語)Antimonopoly Act Exercise 60 Cases
情報革命についてのエッセイとゴシップ(日本語) Essays and News on Information Revolution
経済法あてはめ演習60選(問題篇)
本間忠良
2013年4月
総合目次
問題篇
01.軟式テニス・ラケット排他条件付取引
04.保守サービスのメーカー系保守業者による部品販売との抱き合わせと取引妨害
06.遊戯銃の自主基準を利用した事業者団体の不公正な取引方法と競争制限
07.生コンの不当な取引制限による価格引き上げと設備買い取り
08.フランチャイズ本部による加盟店のデイリー商品「見切り販売」制限
13.ピザ宅配フランチャイズ本部による品目・価格・販売地域・仕入先等拘束
15.機械メーカー上位2社による部品の共同購入および共同物流会社設立
16.段ボール販売分野における独占的販売業者による複合的な不公正な取引
18.乳業者と金融業者の通謀による排除型私的独占と不公正な取引方法
19.アクセサリーのネット販売取次サイトによるデザイナーの囲い込み
20.「不当な取引制限」破りへの課徴金
32.委託販売に偽装した粉ミルク・メーカーによる再販価格拘束と一店一帳合制
43.廉売店に対する家電トップ・メーカーによる間接の取引拒絶
45.自動車向け補修用ガラス卸売業者による輸入品取扱小売業者の差別
54.都市間高速バス相互乗り入れにともなう運賃および排他取決め
59.バトミントン球優遇措置の授与とその撤回の脅しによる並行輸入妨害
問題篇
はじめに:
法律の勉強にいちばん有効な方法が問題解決の練習である。概論をいちおう終わった学生にとって、一定の時間内に、大量の事実から争点を整理し、それを現行法令にあてはめて、判決または意見を導く練習は必須である。
判決や意見にはきまった書法がある。これは書く人と読む人の約束のようなもので、これに沿って書かないと、読む方がたまらない。弁護士と裁判官のあいだもそうだ。受験生と試験官のあいだもそうだ。とくに何千本もの答案を読む試験官は、きまった書法によらない答案は読んでくれない。
ここでいう書法とは、いわゆる「法的3段論法」のことだ。
まず小前提として「@事実」がある。試験では、長文に目をくらませられないように、かならずまず[設問]に目を通してから、問題文を一度だけ読む。下線、波線、囲み線、矢印など自由な発想で要点を強調しておく。あとの「あてはめ」段階で、必要な事実にすぐ目が行くようにしておく。これさえできていれば、答案では、あらためて「事実の認定」を書く必要はない。答案で事実を繰り返して書くのは時間が無駄なばかりでなく、読むほうもうんざりである。ただ、事実を整理する場合がある(たとえば、問題文で与えられているシェアからHHIを計算するような場合)。とにかく、長文全体を読み返すことはぜったいにするな。
つぎに大前提として「A規範」がある。法律家は(受験生も)法律をぜんぶ知っているという前提だ(六法を持っているのだから当然そうだ)。受験生は、「@事実」を読みながら、自分の記憶の中から、問題に適用できそうな法令と解釈をとりだしてくる。規範は「要件」と「効果」から構成され、いずれも「解釈」をともなう。試験では、法令と判例の検索速度が試される。
さいごに、いちばん重要な「B事実のあてはめ(以下、単に「あてはめ」ということがある。)」をおこない、C結論(法的効果)をみちびく。具体的な事実を、規範の要件にあてはめる。これは機械的な操作ではない。事実の個別的・具体的なあてはめの状況によっては、規範を見直すこともある。裁判官・審判官の視点を求められた場合は「判審決」、弁護士の視点を求められた場合は「意見」を書くことになる。
上の3段論法を、原則として論点ごと(試験では小問ごと)に繰り返す。@「事実」、A「規範」、B「あてはめ」、C結論を分かち書きにする必要はない。とくに@は書かない(前述)。結局、試験の答案とは、A「規範」、B「あてはめ」、C「結論」の3部構成になる。
本書「問題篇」の各問題は視点を明示してある。まず、「裁判官(審判官)視点」である。実際の判審決で必要な事実は、1ページや2ページに収まるようなものではない。ダンボール何箱もの事実を完璧に読み通してから判審決にいたる。ただ、試験の場合、解答者は問題文に与えられた事実だけから判断することになる。「裁判官(審判官)視点」では、解答者が裁判官(審判官)になりかわって判断するのだが、解答は、実際の判決のように、@認定事実、A原告の主張、B被告の主張、C裁判所の判断、D判決という丁寧な形式順序を踏む必要はない。Cの「判断」だけを前述の3部構成で書けばよい。「弁護士視点」ではもっと自由で、依頼人に対するアドバイス(「事実」のほうを動かす可能性)まで考える。
答案のスケッチにあたるいわゆる「構成表」はたいせつだ。時間の半分を使うつもりで始めるとよい。概念を矢印やベン図でまとめ、分類し、操作する。きまった方式はないから、自己流で自由に書く。一種のブレーン・ストーミングになって、いままで気がつかなかったことが連想で出てくることがある。きれいに書く必要はない。目鼻がついたところで「構成表」を見切って「答案」を書き始めること。「答案」は黒ボールペン使用なので、書き洩らしたことは、矢印や吹出しで補う。
本書は司法試験の想定問題集ではなく、法律家として必須の問題解決の練習である。しかし、司法試験問題のほとんどが現実の判審決例をモデルにしているため、これが想定問題集でもあるという結果を避けることはできない(司法試験の過去問も入っている。)。ただし、演習問題としての必要上、現実の判審決例を大きく簡略化しているので、結論はかならずしも現実とおなじではない。事実に時期を示したものもあるが、適用する規範は現行法である。
本書「解答篇」の解答例には[規範]、[あてはめ]、[結論]をつけているが、あくまでも「例」であって、模範答案ではない。文章力ではなく論理を重視する。解答例は、実際の判決や審決を編集したもので、粗密の差はあるが、論理は十分にフォローしてある。[吟味]は異論や問題点などを書いているので、試験の答案では必須ではない。
本書では、2題の答案を90分で書くように想定されている(1題45分というわけではない。問題文の長短にアンバランスがあるので、時間配分の練習にもなる)。60題を30日で終わらせるので、私が実際に法科大学院1学期の経済法演習に使ったものである。
01.軟式テニス・ラケットの排他条件付取引:
[論点]卸・二次卸との排他条件付取引。ノウハウ。「他社もやっている」。ブランド・ロックイン。裁判官視点。
[事実]
(1)国内において使用される軟式テニス(ソフトテニス)ラケットは、国内メーカー4社およびその他の国内メーカーの製品が、国内の商品の大部分を占めており、外国製品はほとんど輸入されていない状況にある。このうち4社の軟式テニスラケットの国内におけるシェアは、それぞれA社が29%、B社が17%、C社が15%、D社が10%である。これらメーカーの商品のほとんどは、卸問屋(一次卸・二次卸)を通して全国のスポーツ用品店等の小売店に納入され、多くの小売店は複数のメーカーの軟式テニスラケットを販売している。
(2)このうち、A社は、その製造したラケットのすべてを、主に東日本を販売地域とする甲社、および主に西日本を販売地域とする乙社の2社(一次卸)に販売しており、甲社および乙社は、それぞれ卸問屋(二次卸)または小売店に販売していた。
(3)A社は、甲社および乙社との間の取引基本契約において、甲社および乙社が、A社以外の商品を取り扱わずA社の商品のみを取り扱う旨の約定および甲社および乙社が他のメーカーの商品を取り扱った場合にはA社は催告の上で契約を解約することができる旨の約定を設けていた。さらに、A社の指示を受けて、甲社および乙社は、卸問屋(二次卸)との間の取引基本契約において、A社以外のメーカーの商品を扱うことを認めない旨の約定を設けていた。なお、このような約定は小売店に対しては設けられておらず、小売店はA社の商品と一緒に他の3社等の軟式テニスラケットを販売することもでき、多くの小売店は、前記のように、複数のメーカーのラケットを販売している。
[設問]
前記の場合において、A社の行為には、独占禁止法上、どのような問題があるか、次の(1)および(2)の点に留意しつつ述べなさい。
(1)A社は、このように甲社および乙社との間の取引基本契約において、他社の商品の取扱いを認めない方針を設け、また、両社に対して、二次卸との間の取引基本契約に同様の約定を設けるように指示しているのは、A社の軟式テニスラケットに関して、ガット(ラケットの網)を張る方法、各ラケットに合ったメンテナンスなどについて特別のノウハウがあり、これが他社に流出することを防ぐという合理的な理由がある旨主張している。この主張はどのように考慮されるべきであるか。
(2)A社と同様に、B社、C社およびD社も、卸問屋(一次卸)との間の取引基本契約、および、これらの3社の商品に関する一次卸と二次卸との間の取引基本契約において、他のメーカーの商品を扱うことを認めない約定を設けている場合(場合1)と、このような約定を設けておらず、他のメーカーの商品を扱うことを許容している場合(場合2)とで、どのような違いがあるか。
02.下水道管更生工事の入札談合:
[論点]不当な取引制限の基本ルールと個別調整。裁判官視点。
[事実]
Y市では、昭和30年代に下水道を整備したが、近時、下水道管が老朽化し水漏れ事故が急増している。このような状況は各自治体で起きているが、多くの自治体では、下水道管の取替えよりも大幅な経費の節約となることから、下水道管の内部を補修する下水道管更生工事を行うようになり、その発注件数が増えている。下水道管更生工事には、甲工法および乙工法の2つの工法がある。甲工法が従来採用されていた工法であるが、この数年、甲工法より高い技術を求められるものの、甲工法より約20%費用を節約できる乙工法が普及しつつあり、大規模および中規模の建設会社は乙工法を施工できるようになっている。Y市内には、甲工法を施工できる建設業者がA、B、C、D、EおよびFの6社あり、乙工法を施工できる建設業者は、そのうちのA、B、CおよびD(以下「4社」という。)である。Y市は、下水道管更生工事の契約者を市内業者の中から指名競争入札の方法によって決定しており、工法については甲工法または乙工法のいずれを採用してもよいこととしている。
Aの営業部長rは、B、CおよびDの営業部長s、tおよびuに呼び掛けて交渉した結果、平成21年2月1日、Aの会議室で開かれた会合において、これらの間で、(1)同年4月1日以降入札が行われるY市発注に係る下水道管更生工事については、あらかじめr、s、tおよびuの間で話し合いにより4社のうち各入札で指名された者の中から受注予定者を決定すること、(2)4社の間でその受注金額ができる限り均等になるようにすること、(3)受注予定者の落札金額については、その者におおむね20%程度の粗利が確保できる水準とし、受注予定者とrの協議により受注予定者を含めた4社のうち各入札で指名された者の入札金額を決定し、rにおいて事前にその金額を当該入札参加者に連絡することを合意した。rが、EおよびFの担当者に参加を呼び掛けなかったのは、EおよびFの担当者はそれらの従来の入札態度からいずれにせよ談合に協力すると予想されたし、協力しなくても甲工法はコストが高いことから大部分の談合は成功すると考えたからである。
ところが、AがY市内において労働災害を起こしたことから、Y市は、平成21年3月1日から1年6か月の間、Aを指名停止とした。そこで、rは、同月5日、Aの会議室においてs、tおよびuと再度会合を開き、B、CおよびDの受注する下水道管更正工事の半分についてAが下請に回り、受注者からその利益の50%を受け取るよう求めたところ、s、tおよびuはこれに同意した。
Y市の下水道管更生工事の入札は、平成21年4月1日から平成22年5月9日まで25件が行われ、rが上記の方法で受注調整を行った結果、B、CおよびDがそれぞれ8件を落札し、そのうち12件についてAは下請となった。
EおよびFの担当者は、これに先立つ平成21年1月20日、Dの営業部長uと偶然会った際に、uから、談合を行うべくr、sおよびtと交渉中である旨を聞いた。EおよびFの担当者は、それぞれ、近い将来、自ら乙工法の技術を取得できる見込みであることから、談合に協力しておけば、その後は談合に参加させてもらい談合により落札できるようになると考えて、自らは落札できないと考えられる価格で入札してきた。しかし、1件については、Fが想定落札価格の計算を誤り、落札した。
公正取引委員会は、平成22年5月10日、関係各社に立入検査を行った。
[設問1]
A、B、C、D、EおよびFの行為は独占禁止法に違反するといえるか検討しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
[設問2]
上記の事案で、仮に、平成21年3月15日に公正取引委員会が立入検査を行ったことにより、同年4月1日からの入札につき1件も受注調整をすることができなかった場合、A、B、C、D、EおよびFの行為は独占禁止法に違反するといえるか検討しなさい。
03.トラック製造販売部門の譲受け:
[論点]事業譲受け。譲受け後の「縛り」。企業結合ガイドライン。HHI。競争の実質的制限。弁護士視点。
[事実]
弁護士であるあなたは、自動車メーカーであるA社の法務担当者からつぎのような相談を受けた。私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)についてA社に対してどのように助言をするか説明しなさい。
我が社は、B社から、乗用車部門に力を注ぐためトラック製造部門を我が社に売却したい旨の申出を受けています。各社の市場占拠率(シェア)は、生産ベースでも販売ベースでもほぼ同じであり、後記のとおりです。B社はできればトラックの販売をやめたいと言っており、我が社としてもそれは望むところです。
しかし、我が社の内部には、この売却方式だと独占禁止法に違反するのではないかと指摘する声があります。確かに我が社はトラックの製造には自信があり顧客の支持も得ていますが、残念なことに、我が社の乗用車部門は今一歩の状況にあり、自動車メーカーとしては4位または5位であるにすぎません。本当に独占禁止法に違反するのでしょうか。
もし独占禁止法に違反するのであれば、不本意ではあるのですが、B社がトラック製造部門を我が社に売却した後も、我が社がB社に対してOEM(相手先ブランドによる受注生産)供給をし、両社は、トラックの販売およびサービスを独立して行うことも考えています。ただし、我が社の内部では、OEM供給をする場合、我が社がB社のトラックを生産しているにもかかわらず、B社がその販売面において好き勝手に活動した場合、我が社の販売数量が減少したり販売価格に悪影響が出ることになるおそれがあるので、B社に対して一定の縛りをかけておくべきだという意見が大勢を占めています。
A 社 B 社
自動車 |
|
自動車 |
トラック |
←生産部門を譲受け BへOEM供給→ |
トラック |
自動車 トラック
|
生産シェア% |
|
|
生産シェア% |
C |
32 |
|
A |
32 |
B |
30 |
|
C |
23 |
D |
20 |
|
B |
20 |
A |
5 |
|
D |
15 |
E |
5 |
|
E |
5 |
外国事業者 |
8 |
|
外国事業者 |
5 |
[設問]
OEM供給をする場合、例えば、B社の販売先、販売先への販売価格・販売数量を毎週我が社に情報提供させることとし、B社の販売動向等を把握できるようにしておくようなことを考えています。独占禁止法上何か問題があるでしょうか。
04.メーカー系保守業者による保守サービスと部品販売の抱き合わせと取引妨害:
[論点]抱合せ販売と競争者の取引妨害。安全性。知的財産権。裁判官視点。
[事実]
(1)甲事件原告は、鉄筋造七階建建物を所有し、そこで自動車保険の鑑定を営む株式会社であり、人の出入りが頻繁である。
(2)乙事件原告は、エレベーターの保守(修理を含む。以下同じ。)、点検を主たる業務とする有限会社である。
(3)被告は、訴外株式会社A(以下「A」という。)が全額出資して設立したAの子会社であり、Aの製造するエレベーターの保守点検業等を営む株式会社である。
(4)我が国における主たるエレべーターの製造販売メーカーは6社あり、各社は、それぞれ全額を出資して、保守点検業務を目的とする別会社を設立することによって、実質上エレべーターの製造販売業とともに、エレべーターの保守点検業を営んでいる(以下、右6社関連のエレべーター保守点検業者を「メーカー系保守業者」といい、エレべーターの製造販売メーカーの出資等によって系列化されていないエレべーターの保守点検業者を「独立系保守業者」という。)。
(5)被告をはじめ、メーカー系保守業者は、親会社製エレべーターの保守点検業務のみならず、右エレベーターの保守部品(修理部品を含む。以下同じ。)の販売をも行っている。エレべーターの保守点検分野において、メーカー系保守業者による同分野の市場占有率は、90%を越えているとともに、親会社あるいは自社の製造する保守部品を事実上一手に独占販売している。被告は業界第3位の立場にある。
(6)甲事件原告は、以前から、原告所有のビルに設置されたA製エレベーター1基(以下「本件エレベーター」という。)について、独立系保守業者である乙事件原告との間で、保守点検契約を締結している。
(7)本件エレベーターは、最近、下降時にスタートショックを起こした。その後、正規のエレベーター停止位置以外の場所で突然停止し、ドアが開かずに乗客が缶詰状態になる事故も、3、4回起こした。
(8)甲事件原告は、乙事件原告とともに、右故障の原因を調査したところ、A製のGU-117Yプリント基板およびその他部品(以下「本件部品」という。)に不良箇所があり、完全に修理するためには、同部品の交換が必要であると判断した。甲事件原告は、被告営業所に対し、文書で、本件部品の買付注文を行い、納期については、本件エレベーターが危険な状態にあるので至急納品してほしい旨依頼した。
(9)甲事件原告は、被告から右注文に対する回答が何もなかったため、被告営業所に電話で督促したところ、被告支店から、左記のような回答を得た。
(a)保守部品のみの販売はしない。部品の取替え、修理、調整工事を被告に併せて発注するのでなければ、甲事件注文には応じない。
(b)注文部品の納期は、注文から3か月先である。
(10)甲事件原告は、被告に対し、再々、納期等の再考を申し入れたが、被告は、これに全く応じなかった。このため、甲事件原告は、安全を図るため、とりあえず本件エレベーターの運行を停止させ、乙事件原告に応急修理させた。この結果、本件エレベーターは、当面の運行に支障がない程度の修理がなされたが、完全に修理するには、本件部品を交換する以外にないため、甲事件原告は、引き続き、本件部品の供給を求め、[事実](9)(b)記載の納期まで待ったが、被告から本件部品の供給はなかった。
(11)乙事件原告は、甲事件原告との間で、本件エレベーターについて、月16,000円で期間の定めのない保守点検契約を締結していた。
(12)乙事件原告は、本件エレベーターの保守業者として、本件エレベーターが常に安全かつ良好な運転状態を保つように保守する義務があり、本件部品が納入されるまで3か月間も本件エレベーターを停止させておくことができないので、同日、やむなく、甲事件原告ビルの建築請負業者であった訴外D株式会社に依頼して、被告に本件部品の供給を催促してもらったところ、被告は、翌日本件部品を持参し、この取替え工事をした。
(13)甲事件原告は、乙事件原告がエレベーターを完全・迅速に修理できないものと思い、乙事件原告に対し、本件エレベーターの保守点検契約の解約を申入れたため、乙事件原告はその申入れに応じざるを得なかった。その後、甲事件原告は、被告と本件エレベーターの保守点検契約を締結した。今回甲事件原告が被告と締結した保守点検契約の保守金額は月30,000円である。
(14)被告は、甲事件以外でも、一般に、GU-117Yプリント基板等の注文については、取替え調整工事込みでなければ受け付けず、納期も1か月から3か月先を指定することが多い。被告は、A製エレベーターについて各機種毎の個別データ、在庫すべき取替え用の部品の種類・数量をコンピューター管理しており、現在は、保守契約をしているエレベーターの分の部品のみを管理しているが、被告と保守契約していないエレベーターの分についても、部品を管理することは不可能ではない。
(15)エレべーターの構造については、建築基準法でその概略を規定し、同施行令で構造基準等を規定している。同法は定期的に1級建築士、2級建築士または建設大臣が定める資格を有する者の検査を受けるよう規定しており、建設大臣の定める資格を有する者とは、一定の期間実務経験のある者で、建設大臣の指定する講習の過程を終了した者をいう(以下「エレべーター検査資格者」という。)。保守契約における保守点検項目と法の定める定期検査における定期検査項目とはほぼ同一である。通常定期検査資格を有する保守業者が保守契約の一環として定期検査、定期検査報告を行っている。建築基準法・同法施行令に合わせて日本工業規格も決められている。
(16)乙事件原告にはエレべーター検査資格者が在籍する。独立系保守業者は、関東においてはエレベーター保守事業協同組合、西日本においては日本エレベーターメンテナンス協会という組織が存在し、乙事件原告は日本エレベーターメンテナンス協会に加盟しており、これらの組織は、それぞれ技術等の交流を行い、また、全国的にも技術交流を定期的に行って故障事例の究明やその情報交換を行っている。
(17)GU-117Yプリント基板は、エレベーターの速度制御機能を有し、抵抗・コンデンサー・トランジスター等の電子部品で構成されており、その故障に対応するにはプリント基板全部を取り替える以外にないが、GU-117Yプリント基板そのものは、製造段階で一定範囲内の値に設定されており、取替えの際、あまり調整する必要がない。
(18)エレベーターは、通常、一定の昇降路内を定格の速度で運動するので、かごの落下あるいは乗り場からの人の転落を防止することはそれほど困難なことではない。したがって、建築基準法・同法施行令に基づく措置により、かごの落下事故や人の転落事故は極めて稀であり、統計的には、かごが上下階の途中で停止するいわゆる缶詰事故が多い。
(19)次に、自動車などと同様、エレベーターもそれが高性能化すればそれに伴い精密複合機械と化することにもなる。したがって、その部品等も、いわゆるブラック・ボックス化しているものが多い。
(20)更に、エレベーターは、その耐用年数が比較的長期であるため、部品の交換を含めた保守が当然に予定されている。
(21)Aは、韓国等の海外へもその製造に係わるエレベーターを輸出しているが、その保守は、現地の保守業者に任されている。また、エレベーターのプリント基板については、Aの同業各社は単体で販売し、被告のように取替え調整工事込みでないと、これを供給しないとの取扱はしていない。
[訴訟]
(1)原告主張:
(a)甲事件原告は、被告の取引妨害行為が、甲事件原告に対して、独立系保守点検業者の取引を妨害し、甲事件原告をエレべーター保守点検業界のサービスから隔離することを目的としてなされたものであり、独占禁止法2条9項6号、昭和57年公正取引委員会一般指定(以下「一般指定」という。)10項および14項に該当し、同法19条に違反する違法なものであるとして、民法709条に基づき、財産的損害および名誉・信用毀損に基づく損害の賠償を請求して地裁に出訴した。
(b)乙事件原告は、被告の取引妨害行為が、乙事件原告に代わって、甲事件原告との間で保守点検契約を締結しようという意図に基づくものであり、独占禁止法2条9項6号、一般指定第14項に該当し、同法19条に違反する違法なものであるとして、民法709条に基づき、得ベかりし利益の喪失に対する賠償を請求して地裁に出訴した。
(2)被告主張:
(a)被告の各行為は、後述各項のとおり十分な合理性を有し、「不当な」取引妨害行為や抱き合わせ販売行為とならず、独占禁止法に違反しない。
(b)高度の技術が集大成された精密複合機械であるエレベーターの保守は、被告のみがよくなし得るのであり、安全を確保するために、独立系保守業者である乙事件原告に部品のみを売らなかったことは、正当な理由があるというべきであり、違法な行為とならない。
(c)エレベーターは、都市における縦の交通機関として、不特定多数の一般公衆の乗用に供されているが、エレベーターの設置者はエレベーターの機械について知識がなく、その運行もすべて機械によって自動的に行われることから、エレベーターの安全性は、すべて機械自体によって担保されなければならない。エレベーターは、高度の安全性と高度の作動上の精確性が要求されるのである。
(d)被告は、Aから、保守・修理業務等の遂行に必要な設計図、技術資料等の情報について、ノウハウにわたるものまで提供を受け、保守・修理業務に必要不可欠な指針の作成や、作業員の技術教育等に積極的な援助を得ている。さらに、被告は、技術の研究開発をAと協力して行い、共同出願にかかる特許技術も数多く取得している。このように、Aの保守・修理部門の担当を目的として設立され、Aから継受した技術力とノウハウに関する詳細な情報を有する被告でなければA製エレベーターの保守・修理業務を完全に行うことはできず、エレベーターの安全性に直結する部品については、被告自ら取替え調整工事を行うことによって、安全性を確保する責任がある。
(e)被告にはAから提供を受けたノウハウがあり、また、本件において被告に本件各部品の単体での注文に応じさせることは、契約上供給義務のある契約先と区別されるべき独立系保守業者の育成を強制される結果となって不合理である。
(f)原告らの主張に従えば、メーカー系保守業者は結果的に部品の供給を強制されることになるところ、これら部品はメーカーおよびその系列の保守業者が経費を負担して製造・管理しているもので、メーカー系保守業者において、契約上供給義務を負担する契約先と同じ条件で右部品を他へ供給すべき義務はなく、独立系保守業者の育成を強制されるいわれもない。
(g)GU-117Yプリント基板は、エレベーターの速度制御にかかわる機能を有し、その安全性に直結するものであり、取替え後も特段の調整が必要とされるものであるから、特に取替え調整工事とあわせて受注することを求めたにすぎない。納期については、当時、プリント基板のバージョンアップが繰り返され、その材料である半導体電子部品が不足していた業界事情もあって、全社的に品薄であったため約3か月を要したのであって、不当に長期間とは言えない。
(3)原告再主張:
(a)エレベーターの基本的原理は、一定の動力により、カゴ(箱)が昇降路(シャフト)の内を上下に動き、この上下運動に対して、一定の方式により制御がかけられているということであるが、このエレベーターの基本的原理・構造は、歴史的にも大きな変化はなく、また、メーカー間のエレベーターを比較しても、質的相違はない。
(b)エレベーターの安全性を担保する技術力は、法規の要求する技術力を下限とするものであり、それ以上の事実上の技術力は、各保守業者の自由競争による技術向上、顧客の選択に待つべきである。
(c)エレべーターの構造については、[事実](15)で認定されたとおり、エレべーターの検査資格を有する者の検査を含んだ保守である限り、安全性を担保する技術力の要件は満たされている。
(d)[事実](16)で認定されたとおり、それぞれの独立系保守業者は、エレベーター保守の経験・蓄積された技術を有しており、また、全国的な技術交流を定期的に行って故障事例の究明とその情報交換を行っている。エレべーター検査資格を有する独立系保守業者であれば、メーカーやメーカー系保守業者からエレべーターに関する情報提供がなくても、エレべーターという現物が目の前に有る限り、そのもの自体から保守に必要なデータを十分に取ることができるのである。このようにして、独立系保守業者は、エレベーター主要メーカーのエレベーターのほとんどの機種を保守する技術を有しているのである。
(e)[事実](20)で認定されたとおり、エレベーター本体は長期の使用を前提としており、右期間内には部品交換等を内容とする保守が必要となる。しかも、エレベーターの購入者が、これを他の機種に交換することは極めて困難である。したがって、メーカーは、エレベーターの所有者に対して部品供給をすべき義務を負うものであり、独立系保守業者は実質上所有者の代理人として部品の供給を求めているのであるから、A製のエレベーター部品を一手に独占販売している被告も、所有者や独立系保守業者に部品供給義務を負うものである。
(f)たとえ、本件において、安全性確保の必要を考慮する余地があるとしても、そのための手段がすべて正当化されるものではなく、より競争制限的でない代替的な手段がとられるべきである。
(g)[事実](17)で認定されたとおり、GU-117Yプリント基板の取替え作業は簡単で、約50分足らずと短時間ででき、部品のバラツキを是正し、エレべーターの個性に合わせる作業だけで、調整という特別な作業は必要ない。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように独占禁止法を適用するか、とくに、前記原被告の主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。なお、解答においては,不法行為の成否や損害額について考慮する必要はありません。
05.化学製品の再販価格拘束:
[論点」トップ・メーカーの取引基本契約による再販価格拘束。公正取引委員会の視点(法執行)と被害者の視点(民事請求)。
[事実]
(1)化学製品の製造業者であるA社は、化学製品の甲製品において市場占拠率(シェア)50%を有している。甲製品の製造業者には、A社のほか、シェア15%のB社、シェア10%のC社など数社ある。甲製品の中で輸入品の占める割合は10%程度であり、輸送費が比較的高いため、当面、輸入が大幅に増える見込みはない。国内製造に係る甲製品は、製造業者各社から20社の卸売業者を通じて需要者に販売されている。A社は、これらの卸売業者のうち15社との間で、甲製品の継続的販売に関する取引基本契約を締結し、この15社にのみ甲製品を販売している。なお、甲製品の用途は限定されており、また、他の製品での代替は困難であるとされている。
ところで、A社は、適正な価格で販売されることが製品の安定的な供給につながるとの観点から、取引先の卸売業者に、A社から卸売業者への販売価格(以下「仕切価格」という。)に8%を加えた価格で需要者に販売させるとの営業方針を立てた。
(2)A社は、上記営業方針に基づき、取引基本契約を締結している卸売業者15社に対し、仕切価格に8%を加えた価格で需要者に販売してもらいたい旨の希望を表明した。これに対して、15社のうち10社は、A社の営業方針に理解を示し、仕切価格に8%を加えた価格で需要者に販売していたが、残りの5社(以下「5社」という。)は、A社の希望に応じず、仕切価格に4%を加えた価格で甲製品を需要者に販売していた。A社は、5社に対しては、当面、様子を見ることとした。
(3)その後、A社は、近い将来、甲製品の供給がやや過剰気味となるとの予測を得たこと等から、取引先の卸売業者に対し、上記営業方針を徹底する必要性が高くなったと考え、当面様子を見ることとしていた5社に対する対応を改め、5社に対し、再三、仕切価格に8%を加えた価格で需要者に販売するよう強く求めた。しかし、5社はこれに応じなかったので、A社は、5社に対し、下記の取引基本契約第6条第3号に基づき、同契約を解除して甲製品の供給をやめる旨通告し、5社に対し甲製品の供給を停止した。
<取引基本契約第6条>
甲(A社)は、乙(卸売業者)に、以下の各号に該当する事実があるときは、本契約を解除することができる。
1 .乙が、本契約上の義務に違反したとき。
2 .乙が、手形小切手の取引停止処分を受けたとき、破産、民事再生、会社更生の手続開始の申立てをしまたは申立てを受けたとき。
3 .乙が、このほか、甲との信頼関係を著しく損なう行為を行ったとき。
[設問1]
(1) 上記[事実](2)に係るA社の行為には、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)上、どのような問題があるか。
(2) 上記[事実](2)に係る行為に加えて、上記[事実](3)の行為が行われた場合にはどうか。
[設問2]
A社から甲製品の供給の停止を受けた5社のうちの1社であるX社としては、どのような民事裁判手続をとることができるか。請求の趣旨および請求の原因となる事実についても述べること。
06.遊戯銃の自主基準を利用した事業者団体の不公正な取引方法と競争制限:
[論点]「公共の利益」。組合の行為。裁判官視点。
[事実]
(1)X株式会社(以下「原告」という。)は、平成2年11月からほぼ専らエアーソフトガンの製造販売を業としているものである。
(2)日本遊戯銃協同組合(以下「被告組合」または「被告」という。)は、遊戯銃の製造を行う中小規模の事業者を組合員とし、遊戯銃の改造防止等を図ることにより遊戯銃の安全対策の確立に努めること等を目的として設立された協同組合法に基づく協同組合であり、平成2年秋ころには、エアーソフトガンを製造販売する事業者のほとんど全てが被告組合に加入していたが、原告は加入していなかった。
(3)東日本懇話会、中部懇話会および西日本懇話会(以下併せて「3懇話会」ということがある。)は、各地域の遊戯銃関係の商品を扱う問屋等を会員とする組織である。3懇話会は、遊戯銃関係のほぼ全国のほとんどの問屋が会員となっており、傘下の小売店は平成3、4年当時約5,000店あった。
(4)被告組合は、昭和61年8月8日、同組合規約第1号として「エアーソフトガン自主規約要綱」(以下「本件自主規約」という。)を制定し、特にエアーソフトガンにつき、その安全規格、改造防止構造、検査基準等を定めた。
本件自主規約においては、エアーソフトガンの銃本体はプラスチック製とすること、その威力は発射された弾丸の運動エネルギーが0.4ジュール(以下「ジュール」を「J」で表すこととする。)以下とすることなどの基準(以下「本件自主基準」という。)を定めていた。
そして、本件自主規約は、組合員らに対し、被告組合の検査によって右基準に合致しているとして認められた製品には所定の合格証紙(以下、「ASGKシール」ということもある。)が有料で交付されることを定め、これを当該製品に貼付して販売することを義務付けていた。
(5)右のように本件自主基準が制定されたにもかかわらず、ユーザーの間では威力の強い製品を求める傾向が強いため、実際には組合員の中には本件自主基準に違反して0,4Jを超える威力の製品を製造販売する者が多く、平成4年に東京都消費者センターにより行われた威力の測定によれば最も強い製品は条件によっては1.0Jを超える威力を有していた。
これら自主基準に違反する製品を製造している組合員らは、試験結果が0.4J以下となるように特別に調整した銃を提出して試験に合格し、いったんASGKシールの発給を受けてから自主基準違反の製品を製造していたため、そのような基準違反製品にもASGKシールが貼付されて販売されているというのが実情であった。
(6)被告組合は、定款上、通常総会を年1回開催し、他に必要があれば臨時総会を開催することになっているが、その他にも、定款に明文の定めがない「例会」が総会と同様の意味合いをもって開催されていた。
(7)原告が平成22年11月10日から製造販売を開始したエアーソフトガンは、アメリカ合衆国陸軍が使用している拳銃を模したベレッタM92Fと称する製品である(以下「本件92F」と総称する。)。原告は、以前から、小売店に直接販売する方法を取っており、従前から取引のあった小売店や、サンプルを送付するなどの方法で開拓した小売店に、問屋を経由せず直接卸し販売していた。
原告は前記のとおり製品を問屋を通さず直接小売店に卸販売していたところ、本件自主規約によれば、組合員は懇話会加入の問屋以外に製品を販売してはならないとされていたため、被告組合に加入しないまま本件92Fを発売することに踏み切った。
(8)被告組合は、平成22年7月27日の例会で、ASGK制度の趣旨に賛同する小売店を「遊戯銃防犯協力店」とし、その店舗に所定のステッカーを貼付してもらうことを定め、また、懇話会会員以外の問屋に対しては製品を販売しないことを決めた。
また、3懇話会は、被告組合の要請により、同年10月1日からASGKシールの貼付されていない製品については取り扱わないことを申し合わせた。
(9)被告組合理事長Yは、原告が本件92Fを発売したのを知り、被告組合の理事会に相談の上、平成22年11月16日、原告代表者Xに電話をし、被告組合へ加入するよう要請したが、Xは承諾しなかった。
(10)その直後、被告組合は、3懇話会およびその会員である問屋に対して文書を送付し、原告製品の仕入れおよび販売を中止し、またはこれを小売店に対して指導することを要請した。
さらに、被告組合は、同年12月20日付けおよび同月28日付け文書により、3懇話会およびその会員である問屋に対して、重ねて原告製品の仕入れおよび販売を中止し、そのことを小売店にも周知させることを要請した。
(11)被告組合は、平成23年8月5日、小売店に対し、ASGKシールを貼付していない商品を取り扱った場合には、ASGKシールの貼付された組合の製品の出荷を中止することがある旨の文書を送付した(以下、被告組合送付の各文書を併せて「本件取引中止要請文書」ということがある。)。
(12)前記の各要請等により、原告と取引のあった小売店のうち相当数は、原告製品についての取引を中止するに至り、前記通知等を理由にして本件92Fを返品する小売店もあった。
(13)被告組合は、原告が、平成22年12月、公正取引委員会に対し所定の措置請求を行ったことなどから、同年12月19日ころ、原告製品の仕入販売を中止しない小売店には組合のASGK製品の供給を停止するとしたのは行き過ぎであったから撤回する旨の同日付け文書を3懇話会などへ送付した。
[訴訟]
(1)原告は、被告に対して、東京地裁において、不法行為による損害賠償金を原告に支払うよう請求した。
(2)被告側主張:
(a)目的:被告組合は、その設立の目的を達成するため、組合員の取り扱う遊戯銃の改造防止、遊戯銃の構造に関する基準の作成、遊戯銃(原材料も含む)の共同検査、組合員の取り扱う遊戯銃の適正使用に関する啓蒙活動等の事業を行っている。
被告組合の設立前は、エアーソフトガンの改造または不適正な取扱いによる事故が多発していた。被告組合に加入しない業者が製造するエアーソフトガンは安全検査を経る必要がなく、そのことを目的に被告組合に加入しない業者もいるため、組合非加入業者のエアーソフトガンの規格および性能は被告組合の認めるエアーソフトガンより危険性が高いことが多い。
そして、右非加入業者のエアーソフトガンが威力を増すように改造されて使用されるという事故が発生した場合、エアーソフトガンそのものの危険性が社会問題化され、エアーソフトガンが一般に認知されないばかりか、当該エアーソフトガンのみならず安全基準に適合した他のエアーソフトガンも批判の対象とされ、結果的に全てのエアーソフトガンが法的規制の対象とされるおそれが強い。
したがって、エアーソフトガンを製造する事業者が主体となってエアーソフトガンの安全性に関する自主的規制により必要な規格性能を規制し、次いで流通過程における問屋小売店およびユーザーの理解と協力を求め、組合員以外の事業者からも協力を得る必要がある。そのため、被告組合においては、非加入業者に加入を求めることや、安全検査を経ていないエアーソフトガンについて慎重な対応を求めることも重要な使命としているものである。
(b)内容:一般の商品であれば機能を向上させることが消費者の利益に適うが、エアーソフトガンの場合、威力を増し機能を向上させることは、消費者の要求に適うとしても、国民の安全を脅かし、銃刀法における銃と認定されるおそれがあり、許されないことである。
銃の威力を増す方向での競争は、国民の安全を脅かし、エアーソフトガンに対する法的規制を招き、業界の存続自体を危うくさせるものであるため、被告組合は銃刀法違反になる線よりも厳しい本件自主基準を制定して銃刀法規制対象物との間に空白領域を設けたのである。
ASGKシールは、安全性に関する被告組合の自主規約に基づくものである。ASGKシールを貼付していない原告製品は安全性の検査を経ていない上、販売方法および販売後の取扱いについての指導を含めて安全性に問題があるが、少なくともASGKシール貼付の製品は安全性が担保されている。
(c)実施方法:しかるに、原告は被告組合に加入する資格があるにもかかわらず、敢えて加入しないで本件自主基準に違反した強力なエアーソフトガンを製造販売している。原告は被告組合に加入しないことが安全性に関する啓蒙活動等の費用労力を負担せずにエアーソフトガンの販売をしているものであり、また、3懇話会加入の問屋を通さず小売店に販売しているものであるから、原告は被告組合の組合員と競争する立場にあるというよりも、むしろ優位な立場にあるというべきである。
そして、原告は、被告組合への加入を拒否し、敢えて前記空白領域に属する強力なエアーソフトガンを製造販売して被告組合の安全対策の努力を無にし、エアーソフトガン業界にも法的規制を招来しようとしているものであって、かかる事態を防ぐためには多少の強制的手段を取らないと実効性はなく、他に取りうる方法はなかった。
被告組合らの本件各文書の配付等の行為は、消費者の安全確保および法的規制の防止を目的とする社会的規制であって、経済的規制ではなく、また、社会的に相当な行為であるから違法性はない。
(d)一定の組合の行為:被告組合の行為は、独占禁止法第21条で独占禁止法の適用が除外される一定の組合の行為であるから、不法行為の要件である違法性を構成しない。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、不法行為の要件である違法性が存在しないとする前記被告側主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。損害額と相当因果関係については、事実が与えられていないので無視しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
07.生コンの不当な取引制限による価格引き上げと設備買い取り:
[論点]上位10社による私的独占と不当な取引制限。下位40社による事業者団体の行為。
[事実]
A県における生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造業者は、大手事業者10社(以下「10社」という。)と小規模事業者40社(以下「40社」という。)からなる。A県において販売される生コンの総販売数量のうち、10社が占める割合は約60%、40社が占める割合は約40%であり、10社および40社でほぼ100%を占めている。なお、生コンは、一般に、その性質上長距離輸送が難しいので、県内で消費される生コンのほとんどは同一県内で製造されている。
A県生コンクリート事業者協議会(以下「生コン協議会」という。)は、A県に所在する生コンの製造業者が、会員相互の親睦および業界の健全な発展を目的として設立した社団法人であり、その会員は10社および40社である。生コン協議会には幹事会が置かれ、10社が幹事会の構成員である。
10社は、業界の当面する課題について意見交換を行ってきたが、生コンの販売価格の引上げ問題および廃業する会員の生産設備の買取り問題について、緊急に対処する必要がある旨の認識を共有するに至った。
販売価格の引上げ問題とは、最近、生コンの需要者である建設業者からの価格引下げ圧力が強くなり、生コンの販売価格が下がり、経営が苦しくなった会員が増えていることに対処するため、共同して価格を引き上げようとするものである。
会員の生産設備の買取り問題とは、隣接するB県で営業を行っている複数の生コン事業者が、後継者がいないことや経営破綻状態にあることなどから廃業しようとするA県の事業者の生産設備を買い取ってA県に参入しようとすることに対処しようとするものである。すなわち、これらB県の生コン事業者は、B県において低価格で販売することにより競争事業者の顧客を奪う行動に出ており、これらの事業者がA県に参入すればA県においても同様の行動に出ることが懸念されることから、生コン協議会側で先んじて生産設備を買い取ることによりこのような事態の発生を回避しようとするものである。
10社は、平成18年3月1日、会合を持ち、下記<決定1>の内容の合意をした。10社は、<決定1>の1に基づいて、同年3月6日から価格の引上げを実施し、<決定1>の2については、10社のうち1社が、3月中に1名の会員の生産設備を自社の費用で買い取った。
<決定1>
1.1立方メートル当たりの現地引渡し価格を従来の相場である6,000円前後から6,250円に引き上げ、工場渡し価格を6,050円とすること。(注)
2.廃業しようとする会員については、10社のうちで生産設備に最も近い場所に所在する
1社がその生産設備を買い取ること。
(注)現地引渡し価格とは、工事現場において生コンを引き渡す場合の価格であり、工場渡し価格とは、生コン製造工場において生コンを引き渡す場合の価格である。
10社が価格を引き上げたことを知った生コン協議会の会員は、ほとんどが10社の価格引上げに追随して価格を引き上げたが、数社は従来の価格で販売し続けた。さらに、10社は、自社の費用で生産設備を買い取っていくのは負担が大きすぎることから、同年4月30日に開催された生コン協議会の幹事会において、生コン協議会の通常総会に下記<決定2>の内容の決議を行うよう提案することを決めた。
これを受けて、同年5月8日に全会員が出席して開催された生コン協議会の通常総会において、10社が提案した<決定2>を内容とする決議案が全会一致で可決された。
その後、10社が会員の販売価格の実態を調査したところ、遅くとも5月15日以降には、すべての会員が<決定2>の1に記載された金額に価格引上げを行っていることが判明した。さらに生コン協議会は、5月中に<決定2>の2に従って2社の生産設備を買い取って当該生産設備を廃棄した。
<決定2>
1.5月15日以降、1立方メートル当たりの現地引渡し価格を6,250円とし、工場渡し価格を6,050円とすること。
2.生コン協議会は、廃業しようとする会員から生産設備の買取りを行うこと。買取り資金
は、生コン協議会の積立基金から支出し、買い取った設備は直ちに廃棄すること。
[設問1]
<決定1>に関する行為について、だれに対して、いかなる独占禁止法違反を問うことができるか。その法的根拠も示しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
[設問2]
<決定2>に関する行為について、だれに対して、いかなる独占禁止法違反を問うことができるか。その法的根拠も示しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
08.フランチャイズ本部による加盟店のデイリー商品「見切り販売」制限:
[論点]優越的地位の濫用と「正常な商慣習」。知的財産権。審判官視点。
[事実]
(1)株式会社Y(以下「Y」という。)は、我が国において、「Y」という統一的な商標等の下に、別紙2記載の事業(以下「コンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業」という。)を営む者である。
(2)Yが自ら経営するコンビニエンスストア(以下「直営店」という。)およびYのフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者(以下「加盟者」という。)が経営するコンビニエンスストア(以下「加盟店」という。)は、一部の地域を除く全国に所在している。平成20年2月29日現在における店舗数は、直営店が約800店、加盟店が約11,200店の合計約12,000店であり、平成19年3月1日から平成20年2月29日までの1年間における売上額は、直営店が約1,500億円、加盟店が約2兆4,200億円の合計約2兆5,700億円であるところ、Yは、店舗数および売上額のいずれについても、我が国においてコンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営む者の中で最大手の事業者である。これに対し、加盟者は、ほとんどすべてが中小の小売業者である。
(3)Yは、加盟者との間で、加盟者が使用することができる商標等に関する統制、加盟店の経営に関する指導および援助の内容等について規定する加盟店基本契約と称する契約(当該契約に附随する契約を含む。以下「加盟店基本契約」という。)を締結している。加盟店基本契約の形態には、加盟者が自ら用意した店舗で経営を行うAタイプと称するもの(以下「Aタイプ」という。)およびYが用意した店舗で加盟者が経営を行うCタイプと称するもの(以下「Cタイプ」という。)がある。
(4)加盟店基本契約においては、契約期間は15年間とされ、当該契約期間の満了までに、加盟者とYの間で、契約期間の延長または契約の更新について合意することができなければ、加盟店基本契約は終了することとされている。加盟店基本契約においては、加盟店基本契約の形態がAタイプの加盟者にあっては、加盟店基本契約の終了後少なくとも1年間は、コンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業を営むY以外の事業者のフランチャイズ・チェーンに加盟することができず、加盟店基本契約の形態がCタイプの加盟者にあっては、加盟店基本契約の終了後直ちに、店舗をYに返還することとされている。
(5)Yは、加盟店基本契約に基づき、加盟店で販売することを推奨する商品(以下「推奨商品」という。)およびその仕入先を加盟者に提示している。加盟者が当該仕入先から推奨商品を仕入れる場合はYのシステムを用いて発注、仕入れ、代金決済等の手続を簡便に行うことができるなどの理由により、加盟店で販売される商品のほとんどすべては推奨商品となっている。
(6)Yは、加盟店が所在する地区にオペレーション・フィールド・カウンセラーと称する経営相談員(以下「OFC」という。)を配置し、加盟店基本契約に基づき、OFCを通じて、加盟者に対し、加盟店の経営に関する指導、援助等を行っているところ、加盟者は、それらの内容に従って経営を行っている。
(7)前記(3)から(5)までの事情等により、加盟者にとっては、Yとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなり、このため、加盟者は、Yからの要請に従わざるを得ない立場にある。したがって、Yの取引上の地位は、加盟者に対し優越している。
(8)加盟店基本契約においては、加盟者は、加盟店で販売する商品の販売価格を自らの判断で決定することとされ、商品の販売価格を決定したときおよび決定した販売価格を変更しようとするときは、Yに対し、その旨を通知することとされている。
(9)Yは、加盟店基本契約に基づき、推奨商品についての標準的な販売価格(以下「推奨価格」という。)を定めてこれを加盟者に提示しているところ、ほとんどすべての加盟者は、推奨価格を加盟店で販売する商品の販売価格としている。
(10)Yは、推奨商品のうちデイリー商品(品質が劣化しやすい食品および飲料であって、原則として毎日店舗に納品されるものをいう。以下同じ。)について、メーカー等が定める消費期限または賞味期限より前に、独自の基準により販売期限を定めているところ、加盟店基本契約等により、加盟者は、当該販売期限を経過したデイリー商品についてはすべて廃棄することとされている。
(11)加盟店で廃棄された商品の原価相当額については、加盟店基本契約に基づき、その全額を加盟者が負担することとされているところ、Yは、Yがコンビニエンスストアに係るフランチャイズ事業における対価として加盟者から収受しているYチャージと称するロイヤルティ(以下「ロイヤルティ」という。)の額について、加盟店基本契約に基づき、加盟店で販売された商品の売上額から当該商品の原価相当額を差し引いた額(以下「売上総利益」という。)に一定の率を乗じて算定することとし、ロイヤルティの額が加盟店で廃棄された商品の原価相当額の多寡に左右されない方式を採用している。
(12)加盟者が得る実質的な利益は、売上総利益からロイヤルティの額および加盟店で廃棄された商品の原価相当額を含む営業費を差し引いたものとなっているところ、平成19年3月1日から平成20年2月29日までの1年間に、加盟店のうち無作為に抽出した約1,100店において廃棄された商品の原価相当額の平均は約530万円となっている。
(13)Yは、かねてから、デイリー商品は推奨価格で販売されるべきとの考え方について、OFCを始めとする従業員に対し周知徹底を図ってきているところ、前記(11)のとおり、加盟店で廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で、見切り販売を行おうとし、または行っている加盟者に対し、次の行為によって、見切り販売の取りやめを余儀なくさせている。
(a)OFCは、加盟者がデイリー商品に係る別紙1記載の行為(以下「見切り販売」という。)を行おうとしていることを知ったときは、当該加盟者に対し、見切り販売を行わないようにさせる。
(b)OFCは、加盟者が見切り販売を行ったことを知ったときは、当該加盟者に対し、見切り販売を再び行わないようにさせる。
(c)加盟者が前記(a)または(b)にもかかわらず見切り販売を取りやめないときは、OFCの上司に当たるディストリクト・マネジャーと称する従業員らは、当該加盟者に対し、加盟店基本契約の解除等の不利益な取扱いをする旨を示唆するなどして、見切り販売を行わないようまたは再び行わないようにさせる。
(14)前記(13)の行為によって、Yは、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている。
別紙1 株式会社Yが独自の基準により定める販売期限が迫っている商品について、それまでの販売価格から値引きした価格で消費者に販売する行為
別紙2 自社のフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者に対し、特定の商標等を使用する権利を与えるとともに、当該事業者によるコンビニエンスストアの経営について、統一的な方法で統制、指導および援助を行い、これらの対価として当該事業者から金銭を収受する事業(自らコンビニエンスストアを経営する事業を併せて営む場合における当該事業を含む。)
[審判]
公正取引委員会は、平成21年6月22日、「Yは、推奨商品のうちデイリー商品の見切り販売を行おうとし、または行っている加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、もって、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている行為を取りやめなければならない。」などを命ずる排除措置命令を行ったが、Yの申立で審判が行われた。審判で、Yは、ロイヤルティが売上総利益ベースなので、見切り販売を制限したのは、自己の損失を予防するという正常な商慣習に基づく行動だと主張した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、とくに前記Yの主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
09.立体駐車機の保守サービスと部品販売の抱き合わせ等:
[論点]私的独占と不公正な取引方法。公正競争阻害性と安全性。知的財産権。弁護士の視点。
[事実]
都市部のマンション等では、多数の自動車の駐車スペースを確保するため、2段・多段方式の機械式の駐車場装置(以下「駐車場装置」という。)が利用されることが多い。駐車場装置の製造を行う事業者(以下「製造業者」という。)は国内に6社存在し、甲社もその一つである。甲社の駐車場装置(以下「甲社製装置」という。)の売上げは、国内における駐車場装置の総販売台数の30%を占め、第一位の市場占有率(シェア)を有している。
駐車場装置は耐用年数が長く、安全に使用し続けるためには定期的な保守点検(駐車場装置の点検、給油、調整、破損部品の交換および修理等)を必要とする。駐車場装置は、製造業者によって仕様が異なり、その取替部品も汎用品は少なく、駐車車両を乗せるためのパレット(車両を乗せる金属製の板)の落下防止設備、電子制御基盤など、製造業者ごとに仕様の異なる部品が大部分である(以下、これらの製造業者ごとに仕様の異なる部品を「構成部品」という。)。構成部品の故障・トラブルの発生は重大な事故の原因となり得るため、マンション等の駐車場の所有者・管理者にとって上記の故障・トラブルへの対応が最も重要であり、かかる故障・トラブルが発生した場合における迅速な対応の可否が保守業者の選定に当たって重視されることが多い。
甲社は、北海道地区から九州・沖縄地区まで全国を幾つかの地区に分けて、子会社を設立し、子会社において、甲社製装置の販売・据付け、甲社製装置の部品の販売を行っている。X社はそのような子会社の一つであり、関東地区において甲社製装置を独占的に販売し、その据付けを行うとともに、甲社製装置の部品(構成部品を含むすべての部品)を販売している。X社による甲社製装置の販売台数は、関東地区では6製造業者の駐車場装置全体の総販売台数の40%を占めており、第1位のシェアを有している。
駐車場装置の保守業者には、製造業者系列の保守業者と、製造業者と資本関係のない保守業者(以下「独立系保守業者」という。)があり、関東地区においても、甲社系列の保守業者である乙社(乙社は甲社およびX社が共同で出資して設立した会社である。)と、独立系保守業者のA社、B社およびC社が存在している。A社、B社およびC社は、いずれも乙社に比べて規模の小さい事業者であるが、乙社等の製造業者系列の保守業者に比べて低廉な料金で保守業務を行うことで、近時人気を集めている。関東地区における甲社製装置に係る保守業務契約に関して、A社、B社およびC社の合計シェアは70%を占め、乙社のシェア(30%)よりも高くなっている。
X社は、従来、構成部品を含む甲社製装置の部品をすべて自ら保管し、保守業者からの発注に応じて、その都度、部品の引渡しを行っていたが、この度、構成部品に関する販売方針を変更しようと考え、以下に述べるそれぞれの販売方針について、弁護士に私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)上の問題点の検討を依頼した。
あなたが弁護士としてX社から上記の依頼を受けたとして、独占禁止法上の問題点の有無を検討し、回答しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。なお、個々の設問に記載した事実関係は、それぞれが独立しており、他の設問の前提とはならないものとして検討しなさい。
[設問1]
X社の担当者は、「駐車場装置は製造業者によって仕様が異なり、それに応じて構成部品の仕様も本来異なるものがほとんどであるが、構成部品の中には他の製造業者の駐車場装置の構成部品として転用可能なものがあり、独立系の保守業者が、それを他の製造業者の駐車場装置の構成部品として転用する事例がしばしば見られる。この点に関して、国土交通省のガイドラインは、特定の製造業者の駐車場装置に他の製造業者の構成部品を使えば安全性が確保できないおそれがあるから、特定の製造業者の駐車場装置には当該製造業者製の構成部品を使用すべきであると勧告している。当社としては、この点に着目して、甲社製装置の構成部品を、独立系保守業者に販売すると、どの製造業者の駐車場装置に使用されるのか確認できず、これが甲社製装置に使用されることを確保するためには、独立系保守業者からの甲社製装置の構成部品の発注に対しては、系列の乙社において取替工事を行うことを販売の条件とするという方針を採りたい」と説明した。
あなたがX社の担当者に尋ねたところ、独立系保守業者が甲社製装置の構成部品を他の製造業者製の駐車場装置の構成部品として転用した事例がどの程度あるか、これまでに転用による事故が起きた例があるか否か、転用による具体的な危険性の程度などについては、いずれも調査を行っていないため不明であり、また、独立系保守業者に、文書や口頭で、他の製造業者製の駐車場装置に自社の部品を転用しないように注意するなどの措置を採ったことはなく、今後もそのような計画はないとのことであった。また、あなたが乙社の担当者にも尋ねたところ、担当者は「乙社は、独立系保守業者から甲社製装置の構成部品の取替えの依頼があった場合、できる限り迅速に対応したいと考えているが、乙社の顧客からの依頼があった場合にはこれを優先する。乙社の顧客に対する甲社製装置の修理に比べて、独立系保守業者の顧客に対する甲社製装置の修理は平均して2週間程度の遅れが生じることが見込まれる」と回答した。
[設問2]
X社の担当者は、設問1に述べた計画に代えて、「独立系保守業者から甲社製装置の構成部品の発注を受けた場合、当該業者自身で構成部品の取替工事を行うことは認めるが、構成部品の引渡時期について条件を付したいと考えている。従来は甲社で余分の在庫を抱えて、独立系保守業者か乙社かを問わず、発注を受けた場合には直ちに当該構成部品を引き渡していたが、今後は、当社において一定の計画在庫数量を設定し、その数量の8割を基準数量とする。発注を受けた時点で、在庫数量が基準数量を下回っている場合、または独立系保守業者への引渡しによって基準数量を下回る場合は、独立系保守業者から当該構成部品の発注を受けても、これを直ちに引き渡さず、甲社に構成部品の生産を発注し、その納入を待って構成部品を引き渡すこととしたい。その場合、甲社への生産発注から納入までは2か月程度が見込まれる。なお、引渡しによっても基準数量を確保できる場合には直ちに引渡しを行う。一方、乙社に対しては、いかなる場合であっても直ちに引渡しを行う。」と説明した。
あなたがX社の担当者に尋ねたところ、担当者は「従来の保管費用が過大になってきたため、保管費用を削減するために計画在庫数量を設定し、不必要な在庫を減らすこととした。計画在庫数量は、乙社の契約者数に、それらの契約者に2か月間に生じる構成部品の故障・トラブルの平均発生頻度を乗じて得られる数量とする」と説明した。
10.県経済連による占有率リベート:
[論点]組合の行為。拘束条件付取引。審判官視点。
[事実]
(1)Y県経済農業協同組合連合会(以下「Y」という。)は、昭和23年8月11日に農業協同組合法(昭和22年法律第132号)に基づき設立され、Y県内の農業協同組合(以下「農協」という。)を会員とし、会員に対する農薬および肥料の供給その他の経済事業を行っている者である。Yの会員数は、平成19年4月1日現在、22名である。なお、Y県内においては、Y県農業協同組合中央会が提唱する広域農協合併基本構想に基づき、平成15年8月以降、農協の広域合併が進められている。
(2)Yは、会員農協が仕入れる農薬および肥料の大部分を供給しており、また、会員農協は、農家が購入する農薬および肥料の大部分を供給している。
(3)Yの会員農協に対する農薬および肥料の供給事業については、全国農業協同組合連合会が、農家、農協および都道府県等の区域を地区とする農業協同組合連合会という系統組織の各段階を通じてその需要を集約し、これを基に農薬および肥料の製造業者とその取引条件について交渉を行い、全国農業協同組合連合会から系統組織の各段階を経て農家に対し、農薬および肥料を供給するという系統購買事業の一環として行われている。Yは、農薬および肥料の供給事業においては、会員農協の需要をできるだけ多く自己に集約するため、会員農協に対し、農家に対する営農指導のための情報提供、奨励金の支給等各種の施策を講じている。
(4)Yは、かねてから、前記(3)の施策の1つとして、農薬および肥料の取引において、会員農協の仕入高全体に占める自己からの仕入高の比率(以下「経済連利用率」という。)等を基準に会員農協に対し奨励金を支給する奨励措置を講じてきたところ、広域合併農協の増加に対処し、農薬および肥料の取扱量の増大が見込まれる広域合併農協の経済連利用率を高めること等を目的に、平成16年3月25日、奨励措置の内容を改めた「系統肥料農薬事業機能強化対策要領」(以下「系統事業対策要領」という。)を定め、同日、会員農協に対し文書で通知した。
(5)系統事業対策要領に基づく奨励措置の内容は、農薬および肥料の取引に関し、年度当初に経済連利用率を90%以上とする利用計画を策定すること、各種予約制度に積極的に取り組むこと、計画的な発注を実施すること等の奨励金支給要件を満たす会員農協に対し、年度当初に策定した右利用計画の達成率ならびにYからの農薬および肥料の仕入高の合計額を基準として、これらに対応する所定の奨励率を適用し、農薬および肥料のそれぞれの仕入高に右奨励率を乗じて算出した額を奨励金として支給するものであり、従前の奨励措置の内容に比べて、Yからの農薬および肥料の仕入高の多い会員農協に対する奨励率が引き上げられている。
(6)その後、Yは、全国農業協同組合連合会から、経済連利用率を90%以上とする利用計画を策定することを要件とする奨励措置の実施は独占禁止法に違反するおそれがある旨の指摘を受けたことから、平成17年2月17日、系統事業対策要領の一部を改正し、奨励金の支給要件のうち、年度当初に経済連利用率を90%以上とする利用計画を策定することとしていた要件を、年度当初にYと協議の上、利用計画を策定することとすることに改めた(以下「本件奨励措置」ともいう。)。しかしながら、Yは、引き続き経済連利用率を高めまたは維持するため、改正後の系統事業対策要領に基づく奨励措置の運用においては、利用計画の策定に係る自己との協議において、改正前の経済連利用率を90%以上とする利用計画を策定することを要件としている。
(7)Yの系統事業対策要領に基づく奨励措置の運用状況は、次のとおりである。
(a)Yは、年度当初に会員農協に対し、各地区内の推定需要量を基に算定した農薬および肥料の経済連利用率90%に相当する仕入高を提示し、会員農協の大部分から当該仕入高を年間の利用計画とする系統肥料農薬事業機能強化対策取扱計画書を提出させている。また、Yは、利用計画の達成を促進するため、利用計画の達成状況を示した進度表を作成し、年度末等所要の時期に会員農協に提示している。
(b)Yは、毎年度終了後に、会員農協ごとに利用計画の達成状況等を調査し、右利用計画の達成率およびYからの仕入高の合計額を基準として、これらに対応する所定のの奨励率を適用し、奨励金を支給しているところ、右奨励率の適用に当たっては、次のとおり、経済連利用率を重視するとともに、農薬および肥料を相互に関連付けて一体的に取り扱う運用を行っている。
@利用計画を達成している場合には、達成率100%に対応する奨励率を適用しているが、達成していない場合には、実際の達成率を基準に奨励率を確定することに代えて、経済連利用率を調査し、経済連利用率が90%以上であることが確認されたときは、達成率が100%に達したものとみなして達成率100%に対応する奨励率を適用するなど、経済連利用率を基にみなしの達成率を算定し、その達成率に対応する所定の奨励率を適用している。
A前記利用計画の達成状況や経済連利用率に基づく奨励率の適用に当たっては、農薬または肥料のいずれか一方の利用計画が達成されない場合には、双方について利用計画が達成されなかったものとして扱い、また、経済連利用率についても、いずれか低い方の利用率をもって双方についての経済連利用率とすることとして運用している。
(8)会員農協の大部分は、系統事業対策要領に基づく奨励措置として支給される奨励金を重要な収益源として位置付けており、自らの事業計画に織り込んだ奨励金を計画どおり受給できるようにするため、Yに提出した農薬および肥料の利用計画を達成するよう努めており、農薬および肥料について高水準の経済連利用率を維持している。
[審判]
(1)公正取引委員会は、平成19年8月6日、Yに対し、独占禁止法第49条第1項の規定に基づき、平成16年3月に定めた「系統肥料農薬事業機能強化対策要領」に基づく、会員農協の農薬および肥料の仕入高全体に占める自己からの仕入高の比率等を基準に奨励金を支給することを内容とする農薬および肥料の取引に関する奨励措置を廃止すること等を命ずる排除措置命令を行なったところ、右の者がこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。
(2)審判におけるY主張はつぎのとおりである。
(a)Yは、独占禁止法第22条各号に掲げる要件を備え、かつ、法律の規定に基づいて設立された組合の連合会であるから、独占禁止法の適用が除外される。
(b)本件奨励措置は、会員農協による農薬および肥料の仕入れに対する事後的な値引きにすぎず、むしろ公正な競争の結果である。
(c)Yは、上部団体の指摘を受け、現在では会員との協議によって利用計画を決めているもので、会員農協を拘束していることはない。
(d)Yは、会員農協間の公正な競争を阻害していない。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、前記Yの主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
11.重電製品の入札談合:
[論点]不当な取引制限。基本ルールの存否と課徴金の計算。
[事実]
電機メーカーのX社は、平成13年に、家庭用電気製品に関する小売業者向け価格に関する不当な取引制限について独占禁止法違反により課徴金納付命令を受け、以後、会社内に独占禁止法遵守体制(コンプライアンス体制)を置いていた。平成17年12月にX社の代表取締役社長Aは、コンプライアンス部門を担当する取締役Bから次のような報告を受けた。すなわち、「平成15年初めから、X社が甲省発注の重電製品であるα電気製品の納入について同業他社である5社(Y社、P社、Q社、R社、S社)との間で入札に関して会合を開いて話し合いを行っていることが判明した。X社の営業部門のCが、他社の営業担当者との年1回の会合に参加して、甲省発注のα電気製品の入札(年間150億円程度の予算が確保されており、各四半期ごとに甲省本省・地方支分部局ごとに入札が行われる)に関し、前年度の実績に応じて各社が受注する旨の基本ルールを確認している。また、各年度の個別の入札に当たっては、その都度、基本ルールに沿って落札できるように、各入札に参加する各社は話し合いにより落札予定者と落札価格を決め、実際の入札時にも落札予定者以外の会社は落札価格より高い入札価格で応札することにより落札予定者の落札に協力してきた」(以下「Bの報告」という。)という報告であった。
これを受け、X社は、取締役会を開催し、法令遵守の観点からこの会合に参加しない旨を決議した。BとCは、平成17年12月末に開催された上記5社との会合に出席した上、X社が平成18年以降この会合に参加せず、さらに、当分の間、甲省発注のα電気製品の入札から撤退する旨を告げた。その際、X社は、甲省や公正取引委員会にこれらの事実を申し出ることはしないと述べ、実際にも、申し出ることはなかった。
Y社も、平成19年6月に法令遵守の監査を実施した結果、上記の話し合いの事実を把握し、同月20日、公正取引委員会に対し、課徴金の減免のための事実の報告を行い、更に資料も提出した。
他方、X社は、平成18年1月以降、甲省発注のα電気製品の入札に参加していなかったところ、α電気事業部門の営業利益が落ちてきたため、平成19年8月、甲省の実施する入札に再参入することを決定したが、その際、他社から上記の話し合いに参加するよう申入れが来てもこれに従わないこととした。X社は、同年9月末の甲省発注に係るα電気製品の入札に参加し、P社らからの話し合いの申入れを拒絶し5億円で受注した。
公正取引委員会は、Y社の報告の結果、6社による上記の話し合いの事実を把握することとなり、平成19年12月28日、独占禁止法第47条第1項第4号に基づいて参加事業者の事業所および担当者の自宅に一斉に立ち入り、必要な物件の検査を行った。これに伴い、各社は、それぞれ、以後、かかる入札に関する会合に参加しない旨の通知を他社に対して発出した。
なお、以下の各設問の解答に当たっては、平成15年以降の行為のすべてについて現行の独占禁止法が適用されるものと仮定し、平成22年改正独占禁止法の経過措置を含め、経過措置は考慮しないものとする。
[設問1]
公正取引委員会の審査の結果、次のような証拠が得られた。それぞれの場合において、いかなる行為が独占禁止法に違反すると認定できるか、条文を踏まえつつ具体的に述べよ。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
(1) X社と5社がBの報告のとおりの行為を行っていた事実を認める証拠が得られた場合
(2) X社と5社が、毎年度の会合において前年度実績に応じて各社の受注割合を決定する旨の基本ルールを確認していたことを否定し、甲省発注のα電気製品に係る個々の入札のいずれにおいても、入札に参加する事業者があらかじめ落札予定業者を決定し、他社はそれより高い入札価格で応札していた事実を認める証拠のみが得られた場合。なお、この場合において、公正取引委員会に対するY社の報告はなかったものと仮定する。
[設問2]
公正取引委員会は、審査の結果、X社、Y社らの6社がいずれも独占禁止法に違反する行為を行っていたと認定し、課徴金の納付を命ずることとした。
X社は、資本金が2億円で従業員が400名の電機メーカーであり、Y社は、資本金が4億円で従業員が600名の電機メーカーである。また、両社のα電気製品に係る売上額および事業全体の売上額(総売上額)はそれぞれ以下のとおりである。以上を前提として、X社およびY社が納付すべき課徴金額を算定し、その理由および算定の過程を述べよ。
X 社 |
平成15年 |
平成16年 |
平成17年 |
平成18年 |
平成19年 |
甲省発注α電気製品売上額 |
10億円 |
20億円 |
20億円 |
0円 |
5億円 |
乙県等自治体発注α電気製品売上額 |
30億円 |
30億円 |
40億円 |
20億円 |
20億円 |
X 社総売上額 |
1200億円 |
1000億円 |
900億円 |
800億円 |
600億円 |
Y 社 |
平成15年 |
平成16年 |
平成17年 |
平成18年 |
平成19年 |
甲省発注α電気製品売上額 |
8億円 |
16億円 |
16億円 |
18億円 |
10億円 |
乙県等自治体発注α電気製品売上額 |
28億円 |
35億円 |
42億円 |
21億円 |
19億円 |
Y 社総売上額 |
800億円 |
1200億円 |
1300億円 |
900億円 |
900億円 |
(注)これらの金額は、独占禁止法施行令で定められた基準に基づいて算定されたものである。
乙県等自治体発注の入札については入札に関する話し合いの事実は確認されていない。
[設問3]
X社は、公正取引委員会が発した課徴金納付命令に不服があり、同命令について審判を請求した。審判において、X社は、「甲省発注のα電気製品の売買契約においては、平成17年以降、納入業者が独占禁止法に違反する行為により入札に参加した場合には、受注した業者は売買代金額の20%を違約金として国に支払うとの約定が設けられている。そして、X社は、国からこの約定により平成17年の売上額の20%の支払請求を受け、既にこれを支払った。課徴金制度は、不当な取引制限による利得を国が徴収することにより、違反行為者がこれを保持することを防ぐ制度であるから、既に売上額の20%を国に支払った平成17年分の売上について、売上額全額を基礎として課徴金を課すことは、不当な利得の剥奪という制度趣旨を超えて、過大な経済的不利益を与えることになるから許されず、課徴金の算定に当たっては、平成17年分の売上額の20%を算定の基礎から外すべきである」と主張した。この主張の当否を論ぜよ。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
12.OSライセンス契約における特許権非係争条項:
[論点]競争の場。公正競争阻害性(研究開発意欲の阻害)。審判官視点。
[事実]
(1)Yコーポレーション(以下「Y」という)は、米国に本店を置き、パーソナルコンピュータ用基本ソフトウェア(以下、パーソナルコンピュータを「パソコン」と、パソコン用基本ソフトウェアを「パソコン用OS」という。)の開発および使用等の許諾に係る事業等を営んでいる。
(2)Yのパソコン用OSとAV機能:
(a)パソコン用OSには、YのWindowsという名称を付したパソコン用OS(以下「Windows」という――Yのパソコン用OSを総称して「Windowsシリーズ」という。)のほか、アップルの「Mac
OS(マックオーエス)」、「Linux(リナックス)」等がある。
(b)Windowsシリーズのパソコン用OSの全世界における市場に占める比率は、平成8年ころには70%、平成9年ころに80%、平成12年ころに90%を超え、平成15年には約94%に達している。
(c)Yのパソコン用OSとAV機能一覧(網羅的ではない):
Windows |
AV機能 |
||
Windows
Media Player |
おもなフィーチャー |
||
昭60 |
1.0 |
|
|
平5 |
3.1 |
|
|
6 |
NT
3.1 |
|
|
7 |
95 |
|
|
10 |
98 |
6.1 |
ストリーミング |
12 |
2000 |
6.4 |
|
12 |
ME |
7 |
メディアライブラリ、メディアガイド |
13 |
XP |
XP |
MP3、WMA
8、メディアセンター、EPG |
18 |
Vista |
11 |
クイック検索 |
(3)Yは、平成5年から16年まで、パソコン製造業者(「OEM業者」――国内15社)に対するWindows(とくにWindows
Media Playerを含むWindows
85以降)OEM販売契約中の第8条(d)において、次のように規定する(「本件非係争条項」)。
(a)OEM業者は、「対象製品」の製造、使用、販売、販売の申入れ、輸入またはその他の方法による「OEM業者の特許」の侵害について、Y、Yの関連会社およびYの「ライセンシー」に対し、(A)訴えないこと、(B)あらゆる種類の司法上、行政上、その他の手続において手続の提起、訴追、支援または参加をしないことを誓約する。
@「OEM業者の特許」とは、「対象製品」の製造、使用、販売、販売の申入れ、輸入またはその他の方法により侵害され、かつ、OEM業者が、現在保有しているか、または契約の終了前までに取得する世界中における特許権のみをいう。
A「対象製品」とは、YがOEM業者にライセンスした本製品、プレインストール作業用ソフトウェアおよびOEM業者が配布する補助品をいう。ライセンス契約によりOEM業者にライセンスされた「対象製品」に現在含まれる特徴および機能が「対象製品」の将来製品、交換製品または後継製品にも含まれている場合には、かかる特定の特徴および機能は、本契約第8条(d)のためにのみ「対象製品」の一部とみなされる。
B「ライセンシー」とは、「対象製品」に関連して、直接的あるいは間接的にYによってライセンスされる第三者をいい、これには、OEM業者、対象製品のすべての他の販売業者およびエンドユーザーを含む。
(b)本契約第8条(d)に基づく、OEM業者のY、Yの関連会社およびYのライセンシーに関する誓約は、OEM業者が「対象製品」の販売を中止後3年以上経過後に発生するすべての侵害については効力を有しない。ただし、かかる誓約が適用されるエンドユーザーライセンス契約に基づくエンドユーザーの行為については、この限りではない。
(4)本件非係争条項に対しては、とくにAV機能が充実してきたWindows
98以後、パソコン売上げが多くないのにAV特許の開発(とくにMPEG関連必須特許)に多大の投資をしている家電メーカーからの不満が高まり、数度にわたって改正を申し入れたが聞き入れられなかった。これら家電メーカーのほとんどが、特許権ライセンス料の一部を研究開発費に組み入れている。
(5)平成16年7月31日(Windows
XP-SP2)以後のOEM契約には本件非係争条項が入っていないが、それ以前の契約義務は残存している。
[審判]
(1)公正取引委員会は、Yに対して、大要つぎの内容の排除措置命令を発した。
(a)本件非係争条項を含む契約の締結を余儀なくさせ、もって、ライセンシーの事業活動を不当に拘束する条件をつけてライセンシーと取引していた行為を取りやめていることを確認しなければならない。
(b)今後出荷されるすべての製品に関して、本件非係争条項の効力(ただし、AV機能に係る特許権に関する範囲に限る。)が及ばないこととする旨を、前項記載のライセンシーに対し、書面で通知する。
(c)Yは、今後、我が国のパーソナルコンピュータの製造販売業者に対して、(a)と同様の行為をしてはならない。
(2)審判での争点は、本件非係争条項の合理性と公正競争阻害性(とくにパソコンAV技術の研究開発意欲阻害と、パソコンAV技術取引市場での競争減殺の蓋然性)に集中した。Yの主張はつぎのとおりである。
(a)本件市場はAV技術取引市場であって、パソコンAV市場やパソコン市場ではありえない。
(b)19条の「おそれ」は厳密に解すべきである。「証拠の優越では足りず、要証事実が存在することの高度の蓋然性を超えるものでなくてはならず、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものでなければならない」。
(c)本件非係争条項の適用はきわめて限定されていて(たとえば将来改良特許などは含まない)、非合理的なものではない(「プラットホームとして機能すべき一定の技術について、非係争条項を用いてライセンサーとライセンシーまたはライセンシー間の知的財産権紛争を防止する必要がある」。「クロスライセンス契約より競争阻害的であるとはいえない」)。
(d)かりに審査官が主張するパソコンAV技術取引市場が公正競争阻害性の検討対象市場として成立するとしても、本件において、OEM業者はパソコンAV技術の開発を活発に行っており、本件非係争条項を理由にそれを断念したことはないし、開発したAV技術を巨大な家電製品市場においてライセンスすることが可能であり、かつ実際にライセンスしているのであるから、本件非係争条項はOEM業者の研究開発の意欲を何ら損なうものではない(「審査官は、WindowsシリーズがOEM業者の特許権を現実に侵害しているのか否かという点については、なんら主張・立証を行っていない」。「MPEG規格などの標準化技術についてはYは既にすべてライセンシーとしてロイヤリティを支払っている」)。
(e)正当化事由:「本件非係争条項には特許権侵害訴訟の濫用、時機に後れた提訴を防止し、プラットホーム製品であるWindowsシリーズの下で多くの業者が安心してビジネスを行い、利用者が安心して利用するという手段としての必要性・合理性があり、制限の程度も目的を達成するための最小限のものである」。「本件非係争条項は時限的な仕組みであり、Windowsシリーズの新バージョンが普及する前に知的財産権に係る懸念を解決するための契約条項であった」。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに前記Yの主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
13.ピザ宅配フランチャイズ本部による品目・価格・販売地域・仕入先等拘束:
[論点]不公正な取引方法と正当事由。知的財産権。弁護士視点。
[事実]
(1)X社は、東京都内において「A」という商号、商標を用いてピザ等の宅配を行うフランチャイズシステムによる事業活動を行っている。
Aは、人気タレントを起用した広告・宣伝活動を行い、低価格でカジュアルなブランドイメージを訴求することにより、一気にそのシェアを伸ばしたが、競合業者の行う同様の宅配ピザ・フランチャイズであるB、Cが急速にAを追い上げてきている。A、B、Cは、それぞれピザ等の宅配を行うフランチャイズシステムであるが、そのピザ等の品質、販売促進活動等について現時点で有意な差はない。
各加盟店は、X社とフランチャイズ基本契約(以下「本件契約」という。)を締結して、Aフランチャイズシステムに加盟した上、拠点となる営業店舗1個所を設け、ここからピザ、サラダ類、ドリンク、デザートの宅配を行うこととなる。
(2)本件契約の内容は、@X社は加盟店に対し、そのピザ等の宅配に係る営業に関し、Aという商号、商標を使用することを許諾すること、AX社は、Aフランチャイズシステム本部として、顧客に対して統一的イメージを確保し、各加盟店の営業を維持するため、加盟店に対する営業指導、統制を行うことができること、B加盟店は、ピザ等の売上げを基礎として一定の方式で算定されるロイヤルティをX社に支払うことを根幹としている。
また、本件契約では、加盟店の義務として、本部であるX社の定める営業方針等に従って営業を行うことなどが定められており、加盟店が本件契約上の義務に違反した場合には、X社は、本件契約を解除できるとされている。
(3)本件契約に基づいて本部が定めた営業細則には、加盟店が従うべき営業方針等が規定されており、本部はそれに沿って加盟店に対する営業指導と統制を行っている。その営業方針等と営業指導・統制は、下の(a)ないし(c)のとおりである。
(a)加盟店が営業店舗で調理して顧客に提供するピザ、サラダ類については、本部において、その品目、価格等を定めることとされ、加盟店が、これと異なる品目または価格等でピザ、サラダ類の提供をすることは認められていない。このため、本部において、それらの品目、価格等を記載したチラシを印刷し、これを、加盟店に配布して使用させている。
また、加盟店が顧客に提供するドリンク、デザートは、Aという商標が使用された同フランチャイズ固有の規格の商品であり、X社が、加盟店にこれらを卸売し、加盟店は、これらを本部の定めた価格で顧客に販売提供することとされ、これらの品目、価格等も前記のチラシに記載されている。
(b)加盟店が顧客から受注してピザ等の商品の宅配を行う範囲(以下「営業範囲」という。)については、加盟店間で競合が生じないように、本部において、各加盟店の拠点となる営業店舗からの配達時間、距離、人口数等を勘案して、それぞれの営業範囲を具体的に指定している。そして、X社のホームページにおいても、地域ごとに各加盟店の営業範囲が地図上に色分けして表示されており、また、本部が加盟店に配布して使用させる前記(1)のチラシにも、各加盟店の営業範囲が明示され、チラシの配布もその営業範囲に限って認められている。その上で、加盟店の営業範囲外の顧客から電話等による注文がされたときは、注文を受けた加盟店はその地域を営業範囲とする加盟店にその注文を転送し、その転送先加盟店が受注して宅配を行うこととされている。
(c)本部は、加盟店が提供するメニューの統一性を確保し、食材の安全性を保障し、また食材を一括購入することによるスケールメリットを生かす必要があるという理由から、加盟店に対し、ピザの生地、具材等の原材料となる食材、調味料等をX社と提携関係にある輸入食材卸売業者Y社から仕入れることを義務付けている。
(4)ところで、甲社は、平成16年2月1日、X社との間で本件契約を締結し、Aフランチャイズシステムの加盟店として、東京都世田谷区内において店舗を設け、ピザ等の宅配の業務を開始したが、平成17年夏ころ、その営業範囲内に相次いでB、Cの新店舗が開店したため、次第に甲社の客足が減少し、営業成績が落ち込む事態となった。
そこで、甲社は、本部の了承を得ることなく、平成18年初めころから、@甲社にピザ等の注文をした顧客に対し、次回以降の甲社のピザ等の宅配の注文時に、ピザ、サラダ類、ドリンク、デザートの代金の20%を割引するという有効期間無期限・利用回数無制限のクーポン券を配布すること、A甲社店舗の営業範囲には、同じくAフランチャイズシステムに加盟する乙社の店舗の営業範囲が隣接しているところ、乙社店舗の営業範囲のうち、甲社店舗からバイクで15分程度(Aフランチャイズシステムが各加盟店の営業範囲を定めるに当たっては、配達時間に関しては15分程度を目安としている)の所要時間で宅配が可能である地域に、甲社が独自に作成し、甲社店舗の営業範囲を記載しない折り込みチラシを配布し、当該地域の顧客からのピザ等の宅配の注文も受注すること、B甲社がY社から仕入れている外国製のハムやチーズなどの食材については、食材輸入商社であるW社から同一製品を約2割低い価格で購入できることから、これらについてはW社から仕入れることによって仕入経費を削減するなどの対策を講じたところ、同年末ころまでに営業成績が好転した。
ちなみに、クーポン券の利用者は甲社の顧客の8割程度に上っているほか、W社からの食材の購入金額は甲社の食材の仕入金額の半分程度になっている。
(5)前記甲社の行為が開始された後、乙社店舗の売上げの30%が、売上粗利益の50%がそれぞれ減少した。X社は、平成19年夏ころ、乙社から自己の営業範囲内の顧客が甲社に奪われているとの苦情を受けて調査をしたところ、前記4の事実を確認したため、甲社に対し、平成20年4月1日、3か月以内に前記4の@ないしBの各行為をやめなければ、契約上の義務違反により甲社との契約を解除すると通知した。
[設問1]
あなたは弁護士として甲社から、前記の事例について公正取引委員会に独占禁止法違反による申告ができないかという相談を受けた。X社による前記3の(1)ないし(3)の各営業方針等とそれに基づく営業指導・統制が独占禁止法に違反するか否かを検討しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
[設問2]
さらに、あなたは弁護士として甲社から、X社による本件契約の解除を回避するための法的措置を依頼された。そのための独占禁止法に基づく訴訟の提起の可否について検討しなさい。
14.原盤権者による共同のライセンス拒絶:
[論点]共同の供給拒絶。「共同して」。裁判官視点。
[事実]
(1)Sミュージック、Aマーケティング、Vエンタテインメント、Uミュージック、Tイーエムアイの5社(以下それぞれ「S、A、V、U、T」、集合的に「5社」という。)はいずれもレコード会社で、音曲のネット配信事業もおこなっている。
(2)着うた提供事業とは、音楽CDの原盤を使用して録音の一部を携帯電話で配信、着信音としてダウンロード(録音)を許諾するものである。5社はいずれも著作隣接権者として原盤権(送信可能化権を含む)もしくはその再許諾権を有する。
(3)音曲の配信およびダウンロードには、日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)等を通して作曲家や作詞家の著作権許諾を受けるほか、原盤権者の利用許諾または業務委託を受ける必要がある。なお、前身の着メロはMIDI形式で配信し、CD原盤は使っていないので、隣接権者の許諾等は不要だった。そのため多数の配信事業者が参入し、価格競争が活発だった。
(4)携帯電話の性能向上にともない、原盤を使用する着うたの可能性が現実化してきたので、平成13年、AがS、V、T、Uに提案して、5社均等出資で、共同配信事業会社Lモバイル(以下「LM」という。)を設立、「レコード会社直営♪」サイトを開設した。
(5)この過程で、つぎのような内容を記載した書証が、5社の幹部社員によって多数作成されている。@サードパーティに参入されると、キャリア主導のビジネスモデルになって、業界が混乱し、秩序が乱れること、Aそうなると、コンテンツを生み出す利益が還流されなくなること、Bオフィシャル着メロの構築に向けた新ルールを5社間で協議・推進すること、Bパッケージ発売前でのリリース許諾は、自社サイト・事務所サイトを除き、他社サイトには許諾しないこと、C他業界では不可能な、レコード会社にしかできないサービスを追及・提供すること、D価格競争の起こらない安定したビジネスをめざすこと、E早期にマーケットシェアを高め、参入障壁を築いて、競合他社が参入する余地を排除すること。
(6)後記する公正取引委員会の審査において、審査官は、これらの書証を、@「レコード会社にしか出来ないビジネス」で、かつ、A「価格競争の起こらない安定したビジネス」にするために、B「参入障壁を築き、競合他社が参入する余地を排除」するという文言(「3つの文言」)に整理している。
(7)LMの実質的な運営方針を決定したのは「運営委員会」(5社およびLM幹部が常時出席)である。
(8)LMは、5社それぞれと業務委託契約を締結、他のレコード会社にも、LMの方針を、大要つぎのように説明している。@配信価格の決定権は各レコード会社にあること、A各レコード会社はLMと業務委託契約を締結すること、B業務委託手数料として配信価格の45%(のち35%に、さらに25%に引き下げ)を徴収すること、C『レーベル売上げ』を55%」にすること、D配信価格は100円を目安とし前後50円の幅を持たせること。
(9)平成14年、着うた配信サービス開始。提供業者は平成16年現在で130社(歌曲提供者27社――ほとんどがインディーズ)。5社のシェアは曲数で47%、ダウンロード数で44%。
(10)アフィリエートとは、自社サイトに他社サイトヘのリンクを張り、自社サイトの閲覧者がそのリンクを経由して他社サイトを閲覧し、他社サイトで会員登録や商品購入などの取引が成立すると、当該他社からリンク元の自社サイトに報酬が支払われるという広告手法のことをいう。
(11)平成15年、数社からアフィリエート事業参入の申込みあり、運営委員会では「アフィリエート戦略案」として、大要つぎのような方針を決定した。@これは競合サイトの発生防止を第一義とする戦略であること、A提携先は厳選・限定すること、B従って、交渉戦術上でのネガティブ条件を事前設定すること。
(12)その過程で、つぎのような内容の書証が作成されている。@望む、望まないに関わらず周囲からの攻勢が顕在化してきており、拒否することものらりくらりとかわすことも難しい状況に至っていること、A防衛的なアフィリエート戦略が至急必要であること、Bアフィリエート戦略の目的が競合サイトの発生防止であること、Cアフィリエートは業務委託だから価格決定権が保持できるが、アフィリエート申入れを受けないと、利用許諾ベースの競合サイトができてしまうこと。
(13)5社が原盤権を保有して着うたとして提供し、他の着うた提供業者に利用許諾している音曲はほとんどない。
[審判と訴訟]
(1)公正取引委員会は、審査の結果、5社に対して、「5社は、共同して、原盤に録音された演奏者の歌声等の一部を携帯電話の着信音として設定できるよう配信する業務(LMに委託する方法により行うものを除く。)を行い又は行おうとする事業者に対し、原盤に録音された演奏者の歌声等の一部を送信可能化する権利等(以下「原盤権」という。)の利用許諾を行わないようにしている行為を取りやめなければならない。」等の排除措置命令を行い、審決は5社の行為を2条9項1号違反として、同内容の排除措置を命じた。
(2)5社は、公正取引委員会の審決が法令解釈・適用を誤っているとして、東京高裁において審決取消請求訴訟を提起した。東京高裁における5社の主張はつぎのようである。
(a)上記の断片的な事実から、5社が「他の着うた提供業者には利用許諾を行わない」との共通の認識を形成し、維持している事実を推認することはできない。審決が採用する「共同して」の判断基準は、本件が原盤権という著作権法による権利の行使の場面であって独占禁止法の適用はできる限り差し控えなければならないという独占禁止法21条の趣旨から、また、着うたの配信という市場においては原盤権の利用許諾の申出を拒絶することがきわめて一般的であるという市場の特殊性を考慮すれば、本件において「意思の連絡」があるというためには、少なくとも、@原盤権の利用許諾の拒絶に関連する5社間の事前の連絡交渉が存在すること、A原盤権の利用許諾の申し込みに対する拒絶行為の一致が不自然なものであること、B他の事業者の行動とは無関係に独自の判断によって原盤権の利用許諾の申し入れに対する拒絶を行ったものではないこと、の3つの要件を全て満たす必要があるというべきであるが、本件審決は、このような判断基準によっていない。
(b)著作権法は、原盤製作者が、当該原盤に関し、その固定費用たる初期投資を回収できるよう、複製費用(=限界費用)を上回る価格ないし原盤権利用許諾料を設定可能とすべく、著作隣接権を創設しており、原盤権者は、著作隣接権としてレコードを複製ないし送信可能化する排他的権利を有しているのであって(著作権法96条等)、他の業者に対して着うたを提供するに当たり、かかる排他的権利を自由に行使することができる。レコード会社全般において原盤権の利用許諾を拒絶することがきわめて自然であることを示すものである。したがって、5社による原盤権の利用許諾の拒絶もきわめて自然な行為なのであって、かかる事実だけをもってしても、5社間の意思の連絡は認められない。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、前記の5社主張にも留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
15.機械メーカー上位2社による部品の共同購入および共同物流会社設立:
[論点]購買に関する不当な取引制限。情報交換。弁護士視点。
[事実]
(1)A、BおよびCの各社はいずれも、事業者向けの商品Xを製造販売する機械メーカーであり、各社のXの市場占有率(シェア)は、Aが50%、BおよびCが各25%である。AおよびB(以下「両社」という。)は、Xに関し、最近、需要が低迷し部品の値上がりが著しいことから、コスト削減の方策として、@部品の共同購入およびA共同物流会社の設立を計画している。
(2)部品の共同購入について:
両社の製造販売するXの主要部品の規格や仕様は共通している。そこで、両社は、共同購入によるスケールメリットを活用して、部品の購入費用を引き下げることを考えている。具体的には、個々の部品ごとに両社の購入予定数量を合計した上で、部品メーカーとの交渉窓口をAまたはBに一本化し、その合計数量で単価をどこまで引き下げることができるかを交渉し、両社にとって最も有利な条件の購入先1社から同一単価で当該部品を購入することにする。その際、両社は、部品メーカーとの交渉のベースとなる各部品の調達予定金額の目安を設けることにするが、さらに、この調達予定金額の目安を検討する前提資料とするために、Xの販売量が落ち込まない範囲内で想定できるXの販売価格の上限を協議し決めておくことも検討している。
なお、両社のいずれにおいても、この共同購入の対象となる部品の購入費用は、Xの製造コストの約80%であり、Xの製造コストは、製品価格の約80%である。また、この共同購入の対象となる部品は、Xのみに使用されており、我が国でこれを製造している部品メーカーは3社である。
(3)共同物流会社の設立について:
Aは千葉県千葉市内にある自社の工場で、Bは大阪府堺市内にある自社の工場でそれぞれXの製造をしているが、両社の需要家は全国に散在しているため、従来は、Aは九州の需要家へも千葉市内の工場から、Bは北海道の需要家へも堺市内の工場から、それぞれ自社トラックで配送していた。そこで、両社は、トラックの利用効率の向上や配送時間の短縮等を図るため、Aが51%、Bが49%の割合で出資してXの物流業務を行う共同出資会社甲を設立し、それぞれ保有しているX配送用のトラックを甲に譲渡して、甲において以下のような方法で配送することを考えている。なお、両社とも、物流コストは、製品価格の約10%を占めている。
(a)甲の従業員は、両社からの出向者とし、いずれからの出向であるかを問わず、両社製のXについて配送業務に従事する。
(b)千葉市および堺市の各工場に甲が運営する共同物流センターを設け、各共同物流センターは、両社製のXを一定数在庫し、1台のトラックが両社製のXを積載して配送する混載方式を採る。
(c)両社は、それぞれの受注に関し、需要家の名称および所在地ならびに受注数量、納期および販売価格(単価および値引き額等)を記載した納品書を甲に送付し、甲の従業員は、各共同物流センターの輸送能力や両社製のXの在庫状況を勘案して、最も効率的に配送できるよう、トラック配備および配送ルートを調整する。
[設問]
前記の@部品の共同購入およびA共同物流会社の設立の各計画について、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題点を分析して検討しなさい。本件の解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
16.段ボール販売分野における独占的販売業者による複合的な不公正な取引:
[論点]組合の行為。拘束条件付取引。供給拒絶。優越的地位の濫用。私的独占。審判官視点。
[事実]
(1)全国農業協同組合連合会(以下「Y」という。)は、昭和47年3月30日、農業協同組合法(昭和22年法律第132号)に基づき設立された農業協同組合連合会であり、会員に対する青果物用段ボール箱の供給その他の経済事業を行っている者である。
Yは、農業協同組合(以下「単協」という。)、単協が構成員になっておおむね都道府県を地区として設立されている都道府県経済農業協同組合連合会(以下「経済連」という。)その他の農業団体を会員としており、会員の数は、平成元年6月末日現在、いわゆる総合農協のうちのほとんどすべての単協およびすべての経済連を含む3,654名である。
Yは、全国に東京支所等5支所を置いており、そのうち東京支所の事業区域は東北6県、関東1都6県、新潟県、山梨県および長野県(以下「東日本」という。)である。
(2)我が国における青果物用段ボール箱の主要な供給経路は、段ボール箱製造業者からYおよび経済連を経て単協、出荷組合等の需要者(以下「需要者」という。)に供給される経路(以下「系統ルート」という。)と段ボール箱製造業者から直接にまたは農業用資材販売業者等を経て需要者に供給される経路(以下「系統外ルート」という。)である。
青果物用段ボール箱の供給数量全体に占める系統ルートによる供給数量の割合は、東日本で約6割、全国で約5割である。
青果物用段ボール箱の製造業者は、1回当たりの取引数量が大きく、かつ、安定的需要が見込めること、代金回収が確実であること等から、Yとの取引を強く望んでいる状況にある。
(3)Yは、段ボールシートおよび段ボール箱を製造している者のうち主要なものとの間に「売買基本契約」を締結し、これらの者(以下「指定メーカー」という。)から青果物用段ボール箱を購入している。また、Yは、青果物用段ボール箱の購入に際し、原則として、その製造に要する段ボール原紙を段ボール原紙製造業者から購入して指定メーカーに供給することとしている。
Yは、青果物用段ボール箱を系統ルートにより供給するに当たり、指定メーカー別にそれぞれが製造した青果物用段ボール箱を納入する地域を指定することとしており、この地域をおおむね経済連の事業区域ごとに定め、これを「指定県」と称している。
指定メーカーのうち東日本にその指定県を有する者は、平成元年6月末日現在24社である。
(4)Yは、かねてから、系統ルートによる青果物用段ボール箱の供給数量の維持拡大に努めているところ、その一層の推進を図るため、東日本において、指定メーカーが青果物用段ボール箱を系統外ルートにより販売しないようにさせる措置および指定メーカー以外のものが青果物用段ボール箱の製造販売を開始することを妨げる措置を講じ、また、需要者が青果物用段ボール箱の購入を系統ルートから系統外ルートに変更することを防止する対策を行うために要する金員を指定メーカーに提供させる措置を講じている。これらに関する事例は、次のとおりである。
(5)Yは、指定メーカーであって神奈川県等を指定県とする株式会社A(以下「A」という。)が、指定県でない長野県において青果物用段ボール箱を系統外ルートにより系統ルートによる需要者向け価格より低い価格(以下「低価格」という。)で約20の単協に販売していたところ、同社に対し、右低価格販売を直ちに取りやめるよう申し入れるとともに、同社の指定県から神奈川県を即日除外し、また、更に右低価格販売を続行するときは、他の指定県についても順次これを除外し、最終的には取引を停止する旨を申し渡した。
このため、Aは、Yに対し、長野県下における青果物用段ボール箱の販売先および販売先別数量を報告するとともに、以後は、同県の需要者に対し受注活動を行わない旨および需要者から引き合いがあった場合にはその数量、価格等をYに連絡する旨を申し出た。
その後、Aは、前記単協向けの青果物用段ボール箱の販売を取りやめている。
(6)Yは、指定メーカーであるB株式会社(以下「B」という。)が、指定県でない山形県において出荷組合からの引き合いに応じブドウ用段ボール箱を系統外ルートにより低価格で販売することとしていたところ、同社に対し、今後需要者に対し受注活動を行わないよう申し入れた。
次いで、Yは、右の出荷組合がブドウ用段ボール箱についてもBに発注しよとする動きを示したので、同社に対し、需要者から引き合いがあっても系統外ルートにより販売しないようにする旨を確約するよう申し入れた。
これを受けて、Bは、同月下旬、Y対し、以後は、Yの指示を遵守し、需要者に対し受注活動をしない旨を申し出た。
その後、Bは、山形県において青果物用段ボール箱を需要者に販売していない。
(7)Yは、指定メーカーでなかったC株式会社(以下「C」という。)がかねてから岩手県等において青果物用段ボール箱を系統外ルートにより低価格で需要者に販売していたところ、岩手県経済連とその対策について検討した結果、Cが低価格販売等を行わなければ指定メーカーとすることとし、同社にこの旨を伝えた。しかして、Cがこれを了承したので、Yは、1年間同社の販売状況を監視した後、同社に対し、次の申し入れを行った。
(a)岩手県内において、今後、需要者直接販売しないようにすること。
(b)岩手県外において需要者に直接販売しているものについては、協議の上、今後、系統ルートによる供給に切り替えること。
同社がその遵守を確約したので、同社を岩手県を指定県とする指定メーカーとし、取引を開始した。
その後、Cは、青果物用段ボール箱を供給するに際し、右確約事項を遵守している。
(8)Yは、段ボール原紙の購入先であるD株式会社(以下「D」という。)が埼玉県熊谷市に段ボール箱製造工場を建設し、青果物用段ボール箱の需要者に対して受注活動を行っていたところ、同社がこの分野に新たに参入すると系統外ルートによる低価格販売が拡大することが懸念されたため、同社に対し、右受注活動を取りやめるよう申し入れた。
これを受けて、Dは、Yとの段ボール原紙の取引に悪影響が出ることを懸念して、右受注活動を取りやめた。
(9)Yは、株式会社E(以下「E」という。)が埼玉県児玉町に段ボール箱製造工場を建設し、青果物用段ボール箱の製造販売を開始したところ、これを取りやめさせるため、次の措置を講じた。
(a)Yは、F株式会社(以下「F」という。)など埼玉県を指定県とする指定メーカーとの会合において、これら指定メーカーに対し、Eに青果物用段ボール箱向け段ボールシート(以下「青果物用シート」という。)を供給しないよう要請した。
このため、これら指定メーカーのうちEに青果物用シートを供給していたFは、Yから青果物用段ボール箱の取引を停止されることを懸念し、Eに対する青果物用シートの供給を停止した。
(b)また、Yは、Fが右(a)の青果物用シートの供給を停止した後、指定メーカーであるG株式会社(以下「G」という。)がEからの求めに応じ青果物用シートを供給しようとしていたところ、同社に対し、Eに青果物用シートを供給しないよう要請した。
このため、Gは、Yとの青果物用段ボール箱の取引に悪影響が出ることを懸念し、Eに対し青果物用シートを供給しないこととした。
(c)Eは、右(a)および(b)により青果物用シートの入手が困難となったため、段ボールシートの製造設備を導入して自社で青果物用シートを製造し、青果物用段ボール箱の製造販売を行うこととした。
そこで、Yは、Eに青果物用段ボール箱の製造販売を取りやめさせるための方策して、同社の実質的な親会社であるH株式会社(以下「H」という。)に対し経済上の不利益を与えることとし、Hから段ボール中芯原紙を購入しており、かつ、指定メーカーであるI株式会社(以下「I」という。)、J株式会社(以下「J」という。)、AおよびK株式会社(以下「K」という。)の4社に対し、これらとの会合等において、Hから段ボール中芯原紙を購入しないよう繰り返し要請した。
これを受けて、右4社のうちKを除く3社は、Yからの要請が再三であったことにかんがみ、Yとの青果物用段ボール箱の取引に悪影響が出ることを懸念して、順次、Hからの段ボール中芯原紙の購入数量を削減していった。
(d)しかして、Eは、段ボール箱の製造販売を中止するに至った。
(10)Yは、かねてから、東日本において、需要者が青果物用段ボール箱の購入を系統ルートから系統外ルートに変更することを防止するため、同一の規格の青果物用段ボール箱について系統外ルートによる低価格での売り込みがあったときは、その売り込みを受けた地区の単協の申出に応じ、当該単協に対し、系統ルートによる需要者向け価格と当該低価格との差に同一の収穫期用として系統ルートにより購入した当該規格の青果物用段ボール箱の全数量を乗じて得た額の金員を補てんすることとしている。
Yは、右の補てんに要する費用について、必要に応じ、その全部または一部を「市況対策費」と称して当該単協が系統ルートにより購入した青果物用段ボール箱を製造した指定メーカーに提供させることとし、当該指定メーカーにその提供を要請している。この要請は、他の段ボール箱製造業者等が行った売り込みに係るものについてまで行われている。
しかして、右要請を受けた指定メーカーは、Yとの青果物用段ボール箱の取引の継続を必要とする立場上、「市況対策費」の負担を余儀なくされており、また、指定メーカーは、この負担を回避するため、自ら青果物用段ボール箱を系統外ルートで需要者に低価格で販売しないようにしているほか、他の段ボール箱製造業者に対しても同様の行為をしないよう要請している。
(11)Yは、かねてから、段ボール箱製造業者等による青果物用段ボール箱の低価格での売り込みが頻繁に行われ、同段ボール箱の系統ルートによる供給割合が東日本の中で相対的に低かった茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県および千葉県(以下これらを「関東5県」という。)において、この供給割合を引き上げるため、その方策について関東5県の各経済連と協議、検討してきた。
その結果、Yは、関東5県における有力な段ボール箱製造業者であり、これら5県のすべてを指定県としていたIならびに一部の県を指定県としていたL株式会社、M株式会社、AおよびKの5社(以下「5社」という。)が指定メーカーであるにもかかわらず青果物用段ボール箱を系統外ルートにより低価格で販売していたので、これらの系統外ルートによる販売を系統ルートによる供給に切り替えさせること、指定メーカー以外のものが行う系統外ルートによる低価格での販売を防止させること、L、AおよびKの3社についてはIと同様に同地区のすべての県を順次指定県として追加していくこと等を内容とする「関東5県対策」と称する措置を講じることとした。次いで、Yは、「関東5県対策」を実施するため、5社の青果物用段ボール箱の営業担当責任者を東京支所に招致し、5社に対し、次のことを確認させた。
(a)直接需要者にまたは農業用資材販売業者等に青果物用段ボール箱を販売しないようにする旨および系統外ルートにより販売する他の段ボール箱製造業者に青果物用シートを販売しないようにすること。
(b)系統外ルートにより販売しいる青果物段ボール箱については、Yおよび関係経済連と協議の上、段階的に系統ルートによる供給に切り替えること。
(c)やむを得ず系統外ルートにより青果物用段ボール箱を販売せざるを得ない場合には、事前にYおよび関係経済連と協議する旨および原則として系統ルートによる需要者向け価格以上の価格で販売するようにすること。
(d)5社が右(a)、(b)または(c)に反した場合は、ペナルティとして、指定県の一部除外、取引の停止または「市況対策費」等を負担させる措置を採ること。
なお、5社のうちM、LはJに吸収合併された。
右確認に基づき、5社およびJは、多数の取引先に対し、青果物用段ボール箱または青果物用シートの販売を中止しまたはその販売数量を削減するとともに、青果物用段ボール箱を系統外ルートにより販売するときはYと協議している。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し、独占禁止法第49条第1項の規定に基づき、東日本において取引先段ボール箱製造業者に対し行っている青果物用段ボール箱を系統外ルートにより需要者に販売しないようにさせる措置を取りやめること、取引先段ボール箱製造業者以外のものが青果物用段ボール箱の製造販売を開始することを妨げる行為を行わないこと、東日本において取引先段ボール箱製造業者に対し行っている「市況対策費」と称する金員の提供を要請する措置を取りやめること等を命ずる排除措置命令を行なったところ、右の者がこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
17.家電量販店トップによる安売り:
[論点]原価割れ販売と一般の不当廉売。弁護士視点。
[事実]
A電機株式会社(以下「A」という。)は、東京都に本店を置き、家電製品の小売業を営む者である。Aは、平成12年ころから、その販売する家電製品が低価格であることにより顧客の支持を獲得し、関東地方を中心に東日本地域全域で店舗数を急速に拡大するとともに、売上高を伸ばしている。Aは、平成18年以降、東日本地域の家電小売業において売上高第1位になっている。
東日本地域では、Aのような業態をとるいわゆる家電量販店には、AのほかBおよびCなどが存在する。A、BおよびCはそれぞれ東日本地域の主要な都市に参入しており、各社の都市部におけるシェアは多少異なるが、おおむね次のとおりである。家電小売業全体で見ると、いわゆる家電量販店の合算シェアは50%程度を占め、Aは第1位でシェア25%-30%、Bが第2位でシェア10%前後、Cが第3位でシェア5%前後である。家電小売業全体における家電量販店を除く家電小売店(以下「家電専門店」という。)の合算シェアは50%程度であるが、ほとんどが小規模事業者でありシェア0.5%を超える家電専門店は存在しない。
このような状況において、Aは、5年後には全国の主要な地域において売上高第1位になることを目標に掲げ、全国に本格的に進出することとした。また、Aは、そのため東日本地域における経営基盤を強化することとした。そこで、Aは、次の(a)および(b)の方針を採ることとした。
(a)Aは、まず中部地方に進出することとし、平成21年6月1日に名古屋に3店舗を開店する。その新規開店セールとして、以後1か月間、毎週末に販売キャンペーンを行い、週末ごとに各店において先着50名に対していわゆる格安パソコンを2,000円で販売する。なお、Aはこの格安パソコンを3万円で仕入れたが、その後新型製品が販売されたために、旧型製品となっている。
(b)Aは、その地盤である東日本地域において販売活動を強化するために以下の販売キャンペーンを行う。@我が国で販売されている主要な液晶テレビのメーカー4社(以下「4社」という。)の37インチおよび40インチの液晶テレビ(以下「本件液晶テレビ」という。)を、今後3か月間、それぞれおおむね14万円および19万円で販売する。A本件液晶テレビの販売台数には制限を設けない。本件液晶テレビをキャンペーンの対象にしたのは、Aが有力市場調査会社Dに依頼して行ったアンケート調査により、消費者が購入したいとする家電製品中トップにあったことから、消費者にアピールすると考えたためである。
Aは、本件液晶テレビを4社から直接仕入れているが、このキャンペーンに際して4社と個別に仕入価格の交渉をした結果、4社からそれぞれ毎月1万台以上を仕入れることを条件に、1台当たりの仕入価格を37インチテレビについては15万円、40インチテレビについては18万円で購入することに成功している。他の家電量販店およびすべての家電専門店は、Aのような大量購入ができないために、本件液晶テレビの仕入価格は37インチテレビでは16万円、40インチテレビでは21万円をいずれも上回るものと見込まれる。
なお、Aにおいて、本件液晶テレビの販売に係る経費および総務部門や店舗全体を運営し管理するために要する経費等の諸費用は、テレビ1台当たり2万円である。したがって、Aの本件液晶テレビの総販売原価、すなわちテレビの仕入価格にこの諸費用2万円を加えた金額は、37インチテレビについては17万円、40インチテレビについては20万円である。
[設問]
弁護士甲は、Aの前記方針が独占禁止法に違反しないかどうかAから相談を受けた。甲は弁護士としていかなる回答をすべきか述べなさい。なお、解答するに当たり付加的な事情を考慮すべき場合には、そのような事情を補って述べなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
18.乳業者と金融業者の通謀による排除:
[論点]私的独占。拘束条件付取引。審判官視点。
[事実]
(1)Y乳業株式会社(以下「Y1」という。)およびHバター株式会社(以下「Y2」という。)(以下両社をあわせて「両会社」ということがある。)は、それぞれ、牛乳の処理ならびに乳製品の製造、販売等を営んでいる。現時において両会社の集乳量は北海道の全生産量の前者が50数%、後者が20数%、合せて約80%を占めており、両会社は集乳面においては、特に乳価の決定等につき常に協同の歩調をとつている。
(2)N中金(以下「Y3」という。)は、農林漁業関係の所属団体に対する金融を行うことを主たる業務とするものであるが、Y1の株式の約4%、Y2の株式の約2%を所有し、また両社に対し多額の融資を行つている。H信用農協連合会(以下「Y4」という。)は、会員に対する金融業務を行うものであるが、単位農業協同組合(以下単協という。)がY3から融資を受ける場合には常にY4の保証を必要とするのみならず、Y4はY3に対する融資申請の窓口ともなり、Y3のために単協の信用その他の下調べをするのが常であつて、したがつてY3の融資の許否はY4の意見によつて左右される。そのうえY4の会長はY1の取締役を、その副会長は最近までY2の代表取締役社長をそれぞれ兼ねており、Y4はY2の株式の約22%を所有している。
(3)Y1およびY2は、平成22年春、それぞれ自社工場周辺の有畜農家に乳牛の飼育頭数を増加させるための融資をあつせんすることにより、酪農経営の安定と工場の集乳経費を軽減することを意図し、Y3およびY4の了解を得て、Y3の資金約10億円をもつて3か年間に乳牛約1万頭を両会社地区に導入する計画を立て、同年6月中旬、それぞれ、各社内の業務要綱「平成22年度乳牛増殖、乳量増産対策要綱」(以下「要綱」という。)およびこれに基き融資を受ける各単協が差し入れるべき念書(以下「念書」という。)の形式を決定し、それらによって、下記(4)の行為(以下「スキーム」という。)を行った。
(4)多額の乳牛導入資金を供給しうる道内での唯一の機関であるY3およびY4は、平成22年8月以降各単協に乳牛導入資金を供給するに当り、Y1および Y2との完全な了解の下に、前記要綱により、以下の融資方針を各単協に示し、これに沿った念書をとっている。
(a)もつぱら両会社に生産乳を供給することを条件として、両会社の保証を受ける単協または組合員のためにのみ融資し、他の乳業者と取引する単協または組合員のための申請はこれを取り上げない。
(b)両会社以外の乳業者に原料乳を供給する単協または組合員に対する融資の保証の申出はこれを認めない。
(c)両会社とその他の乳業者との集乳圏の近接交錯している地区においては、両会社と取引する者に他の地区より特に厚く本資金を融資する。
(d)Y1は現に他の乳業者と取引している農民を、本資金あつせんを条件に自己と取引するよう誘引する。
(e)Y3の係員およびY4の役員は、組合員が両会社以外の乳業者と取引する単協を、単に乳牛導入資金のみならず、その他の営農資金の融通についても不利に取り扱う。
(5)以下はスキームの実施例である(網羅的ではない。)。
(a)T地区における差別的融資:
同地にはC乳業のT工場があり、周辺にY1の工場があるため両社間の集乳競争のとくに激じんな地区であるが、同地に所在する8単協は、平成22年9月ごろ乳牛導入資金(平成22年度分)の借入のため、Y3およびY4と数回にわたつて交渉を重ね、この間平成22年11月ごろからY3に対してそれぞれ融資申請書を提出し、同時に、C乳業北海道事務所長もY3の札幌支所長と会見し、これら単協の債務は同社が保証すべきことを申し出て融資を懇請したが、いずれも、乳牛導入資金は主としてY1、Y2両会社の経営合理化を図る趣旨のもので、他の乳業者と取引している単協には融資する筋合のものでないとして拒否された。このためこれら単協では同年10月ごろからC乳業から乳牛導入資金を借り入れるに至つた。
他方同地区の別の単協は、組合員の約4分の1がC乳業T工場地区に属し、残りがY1工場地区に属するが、同組合はY1地区の分の平成22年度乳牛導入資金の融資を平成22年9月11日にY3に申請し、はやくも同年11月2日にY3から申請金額通りの融資をうけている。
(b)S地区における原乳生産農家引止め:
網走支庁S地区の各単協は、従来Y1工場と生産乳取引を行つていたが、これら単協の地区は同工場から相当離れているためY1の指導援助もあまり積極的でなく、その生産乳はY1により最低段階の乳価で購入され、乳牛の頭数も次等に減少しつつあつた。しかるに、B乳業がこれら単協から1日最低20石程度の生産乳を受け入れ処理する予定で平成22年8月ごろ新たにS地区に工場を設置すると、Y1は急に従来の態度を改め、同工場から遠隔の地であるにもかかわらず乳牛導入資金(平成22年度)を同地各単協に割りあてる予定を立てて、自社との取引を継続するようこれらの単協に働きかけ、その結果S地区単協の大部分がB乳業への生産乳出荷をとりやめるに至り、このためB乳業S工場では当初予定集乳量の半量程度しか集乳できず事業経営が困難となるに至つた。B乳業S事業所長はY3の札幌支所次長と会見し、B乳業S工場と取引する者に対しても乳牛導入資金を融資するよう懇請したところ、同次長はY3としては現在のところY1とY2両会社取引関係地区だけに融資しているからB乳業取引関係者には融資できないという趣旨を答え、そのためB乳業は自社の取引関係者に対する平成22年度乳牛導入資金の融資あつせんを断念した。
(c)O地区における生産乳取引の拘束:
A乳業は、O市に工場を開設し、平成23年1月初より操業を開始したが、当時既に同工場周辺の各単協はおおむね両会社いずれかの保証の下に乳牛導入資金をY3から受けており、この融資は結果においてそれぞれ両会社との取引継続が条件となつていたため、その集乳活動は困難をきわめ、その1日の集乳量は約10石という状態であつた。同社の北海道事務所長はY3の支所長を訪れ、同社と取引する単協に対しても乳牛導入資金の融資をするよう要望すると共に、既に融資を受けている両会社取引関係者が新たにA乳業と取引する場合にはA乳業が両会社に代つて保証することとしたい旨を申し入れたのに対し、同支所長は、乳牛導入資金はY1、Y2両会社の援助という意味をもつており、Y3としては他の乳業者の地盤に融資することは考えていない旨を答え、肩替りを認めず右の要求を拒否した。よつてA乳業は資金を自ら工面して、あるいは奨励金として与えまたは乳牛導入資金として貸し付けることによつて原乳生産者をつなぎ止めるのほかなかつた。
次に、Y1は、平成23年4月19日社長名をもつて関係単協の組合長宛、「原料乳争奪戦たけなわの現況下において、融資を受けた組合または組合員中契約に反して原料乳を他社に供給される向が発生しつつあることがあつて、当社においても詳細なる状況を取りまとめてその筋に連絡することになつているが、他社に原料乳を供給する場合には状況により該資金の一部もしくは全部の繰上償還を求められるのみならず、今後の融資査定においても厳に之を除外する方針がとられるべきにつき、万一にも貴組合員中該資金導入者にして他社に原料乳を供給する向がある場合は、さきに組合長等の連署差し入れた念書等も再確認させる意味で該当者に説明し、原料乳はすみやかに同社集荷に復帰するよう勧告されたい。」旨の文書を送付した。その後たとえばM地区においては、A乳業と取引を開始したU町単協の該当者12名中4名がY1に復帰し、O単協の該当者3名中1名が借受金を同組合に返還することとなつた。
(6)平成23年6月、両会社はY3および Y4と協議して、(a)資金借受組合の生産乳は全て両会社に販売させること、(b)単協から両会社に差し入れさせる念書に生産乳の会社販売に違反した場合には繰上償還させることを規定すること、(c)Y4は以上の条件を保証条件とすることを決定し、この趣旨に従つて両会社は「要綱」に「会社の信用保証により資金を借入れ乳牛を購入した者は、借入資金の返済が完了するまでは、借入れにより購入した乳牛の分のみならずその人の経営内における生産牛乳全量(自家消費量を除く)を会社に販売することを確約する」との規定を加え、また「要綱」に基いて単協が両会社に差し入れる念書に「もし当組合が貴社の承諾を得ずして第三者と牛乳の取引契約をし、もしくはこの資金により乳牛を購入した組合員および保証人が貴社の承諾を得ずして第三者に牛乳を販売した時は、債権者もしくは貴社よりその全額または一部の返還要求あった場合は異議なく之に応ずる。」旨を追加規定し、Y4は、平成23年度の融資保証に当り、単協あて「会社保証による乳牛導入資金の取扱い並に代金決済要領について」と題する文書において「本資金の借入農家および保証人はその経営内における生産牛乳を組合へ、組合は会社へ販売することが保証条件」である旨を記載し、単協または組合員の生産乳取引に対する拘束を強化しかつその範囲を拡げることとなつた。
[審判]
平成23年11月22日、公正取引委員会は、上記Y1、Y2、Y3およびY4に(以下「4社」という。)対して前記行為の取りやめ等を命ずる排除措置命令を行ったが、4社の請求で審判開始を決定した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、独占禁止法をどのように適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
19.アクセサリーのネット販売取次サイトによるデザイナーの囲い込み:
[論点]排他条件付取引による競争者の取引妨害と私的独占。弁護士視点。
[事実]
A社は、若手デザイナーの手作りアクセサリーを販売する携帯電話専用のウェブサイトα(以下「サイトα」という。)を運営する事業者である。同様のウェブサイト(以下「アクセサリーサイト」という。)を運営している事業者としては、ほかにBないしDの3社があるが、これらのアクセサリーサイトで販売されるアクセサリー(以下「本件アクセサリー」という。)は、@若手デザイナーによるざん新なデザインであること、A手作りであるため同じものが2つとないオリジナル商品であること、B価格が5,000円前後と比較的低廉であることなどから、高校生を中心に人気を博している。
アクセサリーサイトに出品するデザイナーは、専ら本件アクセサリーの製作と販売のみを行っているが、これらのデザイナーには一定レベル以上のデザインセンスや製作技術が求められ、そのようなデザイナーの数は限られている現状にある。ちなみに、このようなアクセサリーは、A社等が運営するアクセサリーサイトでのみ販売されており、それ以外のデパート、宝飾店、ブティック等で入手することは困難である。
A社は、サイトαに出品するデザイナーを登録制とし、以下の態様でサイトαを運営している。
(a)A社に登録したデザイナーは、出品するアクセサリーの写真、材質等の商品情報および自らが設定した販売価格を電子データでA社に送付し、A社は、これをサイトαに掲載する。
(b)A社は、サイトαに出品されるアクセサリーの更新情報を消費者に対して電子メールで提供し、登録デザイナーに対しては本件アクセサリーの売れ筋情報(以下「売筋情報」という。)を提供する。なお、売筋情報は、登録デザイナーにとって消費者の嗜好を把握する上で貴重な情報源になっている。
(c)本件アクセサリーの購入希望者は、サイトαの画面を通じて商品を注文し、A社は、その注文を出品者である登録デザイナーに取り次ぎ、商品は、当該デザイナーが購入者に直接宅配便で納品する。また、商品代金は、携帯電話会社の料金課金システムを通じてA社に支払われ、A社は、その販売価格に一定率を乗じた手数料相当額を差し引いて出品者である登録デザイナーに送金する。なお、購入された本件アクセサリーの売買契約は、当該デザイナーと購入者間で成立し、商品のクレーム等の責任は、当該デザイナーの負担とすることがサイトα上に明記されている。
AないしD社のアクセサリーサイトにおける売上高の比率は、A社が40%、B社が25%、C社が20%、D社が15%となっており、A社の手数料率は25%、BないしD社のそれは21%である。しかし、サイトαは、アクセサリーサイトの先駆的存在で知名度が高く、そのアクセス数も最多で、携帯電話のディスプレイ上、最上段に表示されることなどから、消費者へのアピールが強く、デザイナーにとって最も重要な出品先と認識されており、有力な国内若手デザイナーのほとんどは、A社に登録している。
以上の状況下、E社は、AないしD社と同様の事業を始めた。E社は、AないしD社と異なり、消費者への更新情報や登録デザイナーへの売筋情報の提供を行わないが、その手数料を15%に抑えているため、近時、E社のアクセサリーサイトにおける売上高が急速に伸びてきている。
そこで、A社が調査した結果、A社のみならずE社にも登録したデザイナー(以下「A・E登録者」という。)が相当数存在することが判明した。A社としては、A・E登録者がA社の提供する売筋情報を利用して本件アクセサリーを製作し、その販売は、より手数料の安価なE社のサイトを利用するというのでは、自社が提供した売筋情報を無償で利用される結果となるので容認できないとの考えから、今後、A・E登録者に対し、AおよびE社の双方に登録することは認めない旨申し入れ、仮にA社に登録しているにもかかわらずE社のアクセサリーサイトに出品した場合は、以後、当該デザイナーのアクセサリーの商品情報等をサイトαに掲載しないこととし、そのことをE社に登録していないA社の登録デザイナーにも周知するとの対策を考えている。
[設問]
弁護士甲は、A社から、前記対策が私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に違反しないかどうかを相談された。甲は弁護士としていかなる回答をすべきか述べなさい。本件の解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
20.「不当な取引制限」破りへの課徴金:
[論点]不当な取引制限の基本合意と個別調整。課徴金。裁判官視点。
[事実]
(1)M市は、土木一式工事の大部分を指名競争入札または見積り合わせ(以下「指名競争入札等」という。)の方法により発注しており、M市が指名競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から指名競争入札等の参加者を指名している。
(2)基本合意:
M市内に本店または主たる事務所を置き同市において建設業を営むYら69名(氏名略)は、遅くとも平成8年11月15日以降、M市が指名競争入札等の方法により発注する土木一式工事のうちのM市内に本店または主たる事務所を有する者のみが指名業者として選定される工事(以下「M市発注の特定土木一式工事」という。)について、受注価格の低落防止を図るため、次の合意の下に、話し合いにより受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた(以下「本件基本合意」という。)。
(a)M市から指名競争入札等の参加の指名を受けた場合には、次の方法により、受注予定者を決定する。
@受注希望者が1名のときは、その者を受注予定者とする。
A受注希望者が複数のときは、工事場所、過去の受注工事との関連性または継続性等の事情を勘案して、受注希望者間の話し合いにより、受注予定者を決定する。
(b)受注すべき価格は、受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。
(3)Yら69名は、本件基本合意によりM市発注の特定土木一式工事の大部分を受注していた。そして、平成9年3月30日から平成12年3月29日までの間にYが落札、受注したM市発注の特定土木一式工事は、都市計画道路3号線(学園その2)道路築造工事(以下「都市計画道路工事」という。)であり、その契約年月日、最終契約金額は、別紙(略)記載のとおりである。
[審判]
(1)公正取引委員会は、平成12年3月29日にYら69名の本件基本合意およびこれに基づく受注調整行為について審査を開始し、同年12月21日、Yら69名に対し、独占禁止法49条1項に基づき、前記行為の取りやめ、M市への通知、将来の不作為等を命ずる排除措置命令を行った。また、公正取引委員会は、Yに対し、平成13年8月1日、公正取引委員会平成13年(納)第346号納付命令をもって、前記(3)の工事を対象役務とし、課徴金xxx万円の納付を命じた。
(2)Yは、前記課徴金納付命令をを不服として、同月29日、公正取引委員会に対し審判手続の開始を請求した。審判の結果、公正取引委員会の審判官は、平成15年6月13日、Yに対し、課徴金としてxxx万円を同年8月15日までに国庫に納付することを命ずる旨の本件審決をした。
(3)本件審決の概要は、以下のとおりである。
(a)Yら69名は、本件基本合意によりM市発注の特定土木一式工事について、競争を実質的に制限していたものであって、これは不当な取引制限に該当する。
(b)独占禁止法7条の2第1項は、事業者が商品または役務の対価に係る不当な取引制限等をしたとき、公正取引委員会は、事業者に対し、実行期間における「当該商品または役務」の売上額を基礎として算定した額の課徴金の納付を命ずる旨を規定している。そして,「当該商品または役務」とは、当該違反行為の対象とされた商品または役務全体を指すが、本件のような受注調整にあっては、基本合意に基づいて受注予定者が決定され、受注するなど受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきである。
(c)Yについて、課徴金の対象となる工事は、[事実](3)の1件である。
(d)都市計画道路工事の課徴金の対象該当性:
@当該工事は、平成10年7月16日、Y、T建設株式会社(以下「T建設」という。)ら14業者を指名業者として指名通知がされた。
AT建設は、当該工事は、本件基本合意の受注予定者決定の際の考慮要素からすれば、自社が受注予定者となる物件であると考えており、かつY以外の他の指名業者から受注希望の表明等がなかったので、これらの者はT建設が受注予定者であることを了解しているものと考えた。しかし、Yが本件物件をT建設が受注すべき物件と理解しているか否か不明であったので、T建設の営業担当のSがY代表者に受注意思を確認したところ、Y代表者は自社が受注したい旨を述べた。このため、Sの要請で平成10年7月23日から同月27日にかけて2、3回、両者間で話し合いがもたれた。Y代表者は「仕事がないので受注したい。」との一点張りで対応し、Sの説得には応じなかった。そこで、Sは、Y以外の指名業者に自己の入札価格を連絡した上で入札に臨んだ。入札はT建設とYとのたたき合いとなり、T建設が1億800万円、Yが9,600万円で入札して、Yが落札した(T建設およびY以外の指名業者は、1億4,500万円から1億4,000万円までの範囲内で入札した。)。当該工事の入札に際して、Y代表者は、T建設以外に低い価格で入札してくる指名業者があるとは考えていなかった。また、当該工事の指名業者の中には、当該工事の受注希望者がT建設およびYの2社であることを認識している者がいた。
B以上によれば、Y代表者は、本件基本合意を認識しながら、Sに受注希望を述べ、受注希望者であるT建設のSとの間で受注予定者を決めるための話し合いを行っており、これをもって、当該工事が本件基本合意による受注調整手続に上程されたものと認めることができること、受注希望を有しないYおよびT建設以外の12社の指名業者は、T建設から入札価格の連絡を受けるなどして、受注希望者であるT建設あるいはYのいずれかが受注できるような価格で入札するという競争制限的な行為を行ったことを総合すれば、当該工事について具体的に競争制限効果が発生したものと評価することができる。したがって、当該工事は課徴金の対象となる。
CYがT建設からの説得に応ぜず、このため、受注予定者が決まらなかったこと、Yは他の指名業者に入札価格の連絡をするなど入札への協力を依頼せず、相当廉価で入札したが、このことは、前記認定判断を左右するものではない。
[訴訟]
(1)Yは、本件審決を不服として、東京高裁に審決取消訴訟を提起した。Yの主張はつぎのとおりである:
都市計画道路工事が課徴金の対象となるとの本件審決の判断は、法令に違反するものであるから、独占禁止法82条2号により取り消されるべきである。
Yは、都市計画道路工事について、他の指名業者と受注予定者を決めるための話し合いをしたことはなく、Yが受注できるように他の業者に依頼等をしたこともない。なるほど、Yは、T建設のSの要請によりやむなく同人と会ったが、同人の説得に応じず、このため受注予定者が決まらなかったし、その後もYは他の指名業者に入札価格の連絡をしていない。受注調整を行ったのはT建設であり、同社が行った受注調整の責任をYが負担する理由はない。したがって、都市計画道路工事が課徴金の対象となるとする本件審決の判断は、独占禁止法に違反するものである。
(2)これに対する公正取引委員会の主張はつぎのとおりである:
都市計画道路工事についてのYの主張は争う。課徴金の対象である独占禁止法7条の2第1項の「当該商品または役務」とは、基本合意に基づいて受注調整手続に上程されることによって具体的な競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきところ、本件では、本件基本合意に基づき、受注予定者がYとT建設の2社に絞られ、Yがそれを認識しながら、T建設のSに受注希望を述べ、同人との間において受注予定者を決めるための話し合いを行っており、その段階で、受注調整手続に上程され、具体的な競争制限効果が発生したと判断するのが相当である。また、本件では、実際にも、T建設とY以外の指名業者は、本件基本合意に沿って、T建設かYのいずれかが受注できるような価格で入札するという競争制限的な行為を行っていたものである。
なお、いったん受注調整手続に上程された以上、最終的に、受注予定者が1社に絞られず、入札価格が決定されなかったとしても、当該工事が課徴金の対象となることは、公正取引委員会平成3年(判)第4号同6年3月30日審決・公正取引委員会審決集40巻49頁(株式会社協和エクシオ事件)が認めるところであり、同審決は、東京高裁平成6年(行ケ)第80号同8年3月29日判決・公正取引委員会審決集42巻424頁で維持され、確定している。
Yが、都市計画道路工事について、さらにT建設のS以外の指名業者と具体的に話をする機会をもったとか、T建設以外の指名業者に自ら受注の意向を伝えたといった事実は認定できないが、誰がYおよびT建設以外の相指名業者に働きかけを行ったかは、本件の結論を左右する事実ではない。
また、「当該商品または役務」に該当するか否かは、基本合意に基づいて受注調整手続に上程されることによって具体的な競争制限効果が発生するに至ったか否かを客観的に判断すれば足りるのであり、その事業者に他の事業者の行為を利用する意思があるか否かなど、主観的な事情を考慮する必要はない。仮に、Y代表者の主観的事情を考慮するとしても、Y代表者は、T建設以外に低い価格で入札してくる指名業者があるとは考えていなかったのであるから、本件基本合意に基づき、受注予定者がYとT建設の2社に絞られ、それ以外の指名業者が受注を前提とした行動をとらないことを認識した上で、当該工事の入札に臨んでいたものであり、当該工事の課徴金該当性は十分に認められる。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
21.化学品メーカー・トップ2社による製販子会社設立:
[論点]企業結合(垂直・水平の「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限」)。弁護士視点。
[事実]
A社とB社は、いずれも、化学メーカーである。A、B両社は、多くの競合する化学製品を製造販売しているが、このうち、甲製品の需要が、近年、減退傾向にあり、収益が悪化していることから、共同新設分割の方法により、出資比率各50%の共同出資会社C社を設立し、それぞれが営む甲製品の製造販売事業を全てC社に承継させることを計画している。A、B両社は、甲製品に不可欠の原料である乙製品の製造販売も行っている。国内で製造されている乙製品の約40%が甲製品の原料として使用され、乙製品の製造販売業者にとって甲製品の製造販売業者は重要な顧客である。そこで、C社には、A、B各社から、乙製品の開発および営業に長年従事してきた従業員についても、数名ずつを、従業員として出向させることなどが予定されている。
甲製品の製造販売分野は、次のような状況にある。甲製品は、4種類のグレードに分かれ、それぞれ用途が異なっているが、甲製品の製造販売業者は、4種類全てのグレードの甲製品を製造販売しており、設備、コスト、時間のいずれの面においても、それぞれ異なる種類のグレードに転換して製造販売することが容易である。甲製品の製造販売業者の市場占有率(シェア)は、平成22年度末現在、A社20%、B社20%、L社13%、M社10%、N社10%、O社7%、輸入20%となっている。近年、甲製品の需要が減退傾向にあり、L社、M社、N社、O社は、いずれも、甲製品の製造設備の稼働率は低く、製造設備に余裕がある。また、数年前までは、甲製品の輸入品は、低価格であるものの、品質面で劣り、供給も不安定であったことから、ほとんどなかったが、近年では、韓国、中国からの輸入品の品質が向上し、輸入品と国産品との間に品質の差がなくなり、安定的に輸入が増加している。甲製品の輸入についての法規制も存在しない。甲製品のユーザーは、全国的に所在しており、甲製品の製造販売業者は、これに対応して甲製品を供給している。
ほとんどのユーザーは、複数の取引先から購入しており、甲製品の品質に差がないことから、購入先を変更することは容易であり、実際にも、購入先を変更することが珍しくない。
一方、乙製品の製造販売分野は、次のような状況にある。乙製品の製造販売業者のシェアは、平成22年度末現在、A社35%、B社30%、S社10%、T社10%、U社7%、V社6%、輸入2%となっている。乙製品の需要も減退気味であるが、S社、T社、U社、V社は、いずれも、近年、乙製品の製造設備を縮小させてきており、製造設備に余裕がない。乙製品のユーザーは、甲製品の製造販売業者を含め、安定調達を優先する傾向が強く、輸送時間が掛かる海外メーカーよりも国内メーカーから購入しており、今後もこの傾向に大きな変化はないものと認められる。乙製品の製造販売には、数百億円規模の巨額の投資が必要とされるところ、過去40年間、新たに乙製品の製造販売事業に進出した事業者は存在しない。用途によっては、丙製品が乙製品に競合し得ることもあるが、現在のところ、その程度は、小さいものにとどまっている。乙製品の製造販売業者とそのユーザーとの取引は、甲製品の製造販売業者との取引の場合を含め、比較的固定的な関係にあり、取引先が変更されることは少ない。
[設問]
A、B両社によるC社の設立について、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題を検討し、併せて独占禁止法上の問題を解消するための対策についても検討しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
22.石灰石粉末とセメントの分野調整:
[論点]分野調整。長期的視点ないし可能性としての「一定の取引分野」。「相互拘束」。「競争の実質的制限」。裁判官視点。
[事実]
(1)Yは、石灰石粉末(石灰石を数ミリメートル以下に粉砕したもの。排煙脱硫材としての用途が多い。)の製造販売業を営むとともに、福島県田村郡(以下「田村郡」という。)の地域で石灰石を採掘し、供給する者である。
(2)Aは、セメントの製造販売業を営むとともに、田村郡の地域で石灰石を採掘し、供給する者である。
(3)田村郡は、阿武隈山地の中西部に位置しており、平地が少なく、同郡にある鉄道は、同郡の中央部を南北に縦貫するJR磐越東線のみであり、また、同郡内から同郡外へ通じる主要な道路は、同郡のほぼ中央を南北に縦貫する国道349号線、同郡の北部を東西に横断する国道288号線および前記鉄道沿いの県道22号線の3線である。
(4)田村郡の地域で採掘される石灰石のほとんどすべては、白色度の高い結晶質石灰石であつて、主として、セメントおよび石灰石粉末の原料として用いられている。また、田村郡の地域に埋蔵する前記白色度の高い石灰石の鉱量は、静岡県以東の地域に埋蔵する同種の石灰石の鉱量のうち、最大のものである。
(5)田村郡の地域において採掘可能な石灰石のほとんどすべては、YおよびAの所有する石灰石鉱区に埋蔵している。
(6)田村郡の地域で採掘される石灰石は、その輸送に伴う制約およびその輸送費用と製品価格との関係で、遠隔地へ供給することは困難であり、また、同地域においてセメントまたは石灰石粉末製造業を営むには、他の地域から石灰石の供給を受けることは困難であつて、すべて同地域およびその周辺で採掘される石灰石に依存せざるを得ない状況にある。
(7)両社は、平成22年9月16日、両社相互の利益の確保ならびに相互の事業の尊重および協力を目的として、つぎの事項を含む基本契約と称する契約を締結した。
(a)両社は、単独または共同(第三者との共同を含む。)で田村郡の地域に保有する石灰石鉱業権について、第三者に譲渡し、担保に供し、租鉱権を設定しまたは放棄若しくは消滅等の処分をしないこと。
(b)Aは、同地域で採掘しまたは取得した石灰石を、Yの同意なしに、セメントの製造および販売に供する以外に加工または販売しないこと。
(c)Yは,同地域で採掘しまたは取得した石灰石を、Aの同意なしに、セメントの製造および販売に用いず、また、セメント製造業者に供給しないこと。
(d)両社は、前記(a)、(b)または(c)のいずれかに違反したときは、違反の期間または違反して供給した石灰石の数量に応じた違約金を相手方に支払うこと。
(e)契約期間30年(右期間経過後も田村地区の原告の所有鉱区に鉱量の存する限り自動的に継続される。)
(8)前記契約により、田村郡の地域における現在および将来の石灰石の需要者は、自由にその供給が受けられない状況にある。
[審判]
公正取引委員会は、YとAに対して、平成22年9月16日に締結した基本契約と称する契約の当該部分を削除すること等を求める排除措置命令を発したが、Yの請求で審判開始を決定した。審決(以下「本件審決」という。)は、YがAと共同して、「両社が田村郡の地域において所有する石灰石鉱業権の処分の相手方および同地域で採掘しまたは取得した石灰石の供給の相手方を制限することにより、公共の利益に反して、同地域における石灰石の供給分野における共同を実質的に制限している。」として3条後段違反を認定し、排除措置命令と同内容の措置を命じた。
[訴訟]
Yは、本件審決を不満として、東京高裁に審決取消請求訴訟を提起した。Yの主張はつぎのとおりである。
(1)石灰石供給の取引分野について:
セメント製造業者に対する石灰石供給と石灰石粉末製造業者に対する石灰石供給とは別個の取引分野に属する。本件審決は、セメント製造の原料としての石灰石の供給と石灰石粉末製造の原料としての石灰石の供給が単一の取引分野に属するとしているが、両者は、単一の取引分野に取り込むには用途・取引態様その他の点においてあまりにも相違がありすぎるというべきである。市場あるいは取引分野とは、要するに自由競争の場をいうものであるから、田村郡で採掘された石灰石が石灰石粉末製造用のほかセメント製造用にも使用しうるか否かの判断は、単に白色度という物理的側面から両用途に使用できるものであるというだけでなく、自由競争の場において両用途に使用されるものとして取引の対象となりうるか否かという観点からもなされるべきである。この観点からすると、セメント製造業者は低価格かつ大量の石灰石であることを供給を受ける絶対条件としており、Yが小規模採掘設備によつて採掘する高価格かつ少量の石灰石は、石灰石粉末製造業者に販売することはできても、セメント製造業者の要求するものとは全く異なるのである。したがつて、石灰石粉末製造業者に対する販売についてはともかく、セメント製造業者に対する販売については、大規模採掘設備を有するAだけが供給しうる態勢にあり、Yはその態勢になく、YとAはセメント製造業者に対する販売につき競争関係に立たないのである。このような取引態様からみて、セメント製造の原料としての石灰石と石灰石粉末製造の原料としての石灰石の供給とは単一の取引分野に属さないものというべきであり、この点の本件審決の認定は実質的証拠を欠く。
(2)相互拘束性について:
本件基本契約中のYの石灰石供給および鉱区処分を制限する条項は文字どおりの拘束力を有するものとして定められたものではない。本件基本契約には、YがAの同意なしに他のセメント製造業者に対して石灰石を供給しないことおよび田村地区に保有する石灰石鉱業権を処分しないことを約する旨の条項が置かれているが、当時、田村郡にA以外のセメント製造業者が進出してくる可能性は将来とも皆無であるというのがYおよびA双方の一致した判断であつたのであり、かつ、客観的にもそのような情勢にあつた。また、Yの有する小規模採掘設備では数量的にも価格的・採算的にもセメント原料となる石灰石を供給することは不可能であつたから、YとAは、Yに対する右制限条項が実質的に効力のあるものであるとは全く考えていなかつた。それにも拘わらず右条項を置いたのは、専ら契約当事者としての形式的対等を装うための飾り文句であつたにすぎず、その文言どおりの拘束力を発生させる趣旨ではなかつた。本件審決は、本件基本契約を通じ、YとAがそれぞれの事業分野に専念して相手方の事業を侵害しないという事業分野調整の考え方が維持されており、前記の石灰石供給および鉱区処分の制限条項は右事業分野調整の一環としての意味を有するものであると主張するが、Aが田村郡において石灰石粉末製造事業を行うことができることはともかく、Yが田村郡においてセメント製造事業を行うことは全く不可能であつたから、Aとの間において事業分野を調整することは意味がなく、もともと本件審決のいうような事業分野の調整などの事実は存在しなかつたのである。
以上のように、本件基本契約当時他のセメント製造業者の進出する可能性が皆無であつたのであるから、それにも拘わらず、本件審決が本件基本契約中のYに対する前記制限条項に効力を認めて相互拘束を認定したのは、契約の解釈に違法があり、実質的証拠を欠くものである。
(3)競争の実質的制限について:
田村郡の地域にA以外のセメント製造業者の工場が進出する可能性は皆無であり、競争の状態は生じない。田村郡内には、以前からA以外のセメント製造業者は存在していない。したがつて、本件基本契約中のYのセメント製造業者に対する石灰石供給および鉱業権処分を制限した前記条項が相互拘束として競争を制限する意味を持つためには、同郡の地域にA以外のセメント製造業者が進出する可能性が高く、かつ切迫しているという事実関係の存在(潜在競争の存在)を前提としなければならない。右事実関係を積極的に認定することができない以上、拘束および潜在競争は存在しないと解すべきである。しかるに、本件審決は、他のセメント製造業者の工場が進出する現実的、具体的な可能性を積極的に認定することなく、単に進出の可能性を否定できないという消極的な表現をもつて終始している。これは、潜在競争は抽象的かつ非現実的な可能性でも足りるとする点で誤つた理論に立脚するものである。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
23.低運賃タクシー向け共通乗車券サービス拒絶:
[論点]単独の供給拒絶とその共同要請。裁判官視点。
[事実]
X1〜X20の20社(以下「本件20社」という。)は、甲市において、道路運送法上の一般乗用旅客自動車運送事業を営む事業者(以下「タクシー事業者」という。)である。甲市は、タクシー事業について独立した市場(交通圏)を形成しており、同市における本件20社のタクシー保有台数の合計は、全タクシー事業者の保有台数の約80%を占めている。
A社は、甲市におけるタクシーの「共通乗車券事業」を営む株式会社であり、その株主の大部分は本件20社で占められている。なお、ここで、「共通乗車券」とは、タクシー事業者の集金合理化およびタクシーの乗客の利便を図るために発行されるもので、タクシーに乗車する客が、その券面に、タクシー事業者に支払うべき料金・運賃の額を記載して、当該タクシー事業者に手交することにより、複数のタクシーの中から選択して乗車することができる乗車券である。そして、「共通乗車券事業」とは、特定のタクシー事業者のタクシーを乗車し得る対象とする共通乗車券を発行するとともに、あらかじめ共通乗車券の使用に関する契約を締結した官公庁・企業等から、当該タクシー事業者に代わって、使用された共通乗車券の券面に記載された額に係る金銭を回収する事業である。また「共通乗車券事業に係る契約」とは、A社とタクシー事業者との間で締結される、共通乗車券の発行方法や手数料等に関して定めた契約である。
共通乗車券が利用できるタクシーは、そうでないタクシーに比べて乗客の獲得上有利であることから、甲市のタクシー事業者の大部分が、A社と共通乗車券事業に係る契約を締結し、同事業を利用している。なお、甲市におけるA社の共通乗車券の利用率は、全タクシー事業者の運賃・料金収入の合計の約25%であり、他は、現金やクレジットカードによる支払である。また、甲市においてA社以外に同様の共通乗車券事業を営む者は存在しない。
タクシー事業者は、タクシーの運賃・料金につき、道路運送法に基づく国土交通大臣の認可を受けてこれを適用しているが、近年は、あらかじめ設定された上限額と下限額の範囲内であればほぼ自動的に認可がなされる「自動認可運賃」制度が採用されている。そこで、かつては、認可された運賃・料金が全てのタクシー事業者間で同一であった甲市においても、同制度を利用して、初乗り運賃が他社より低い運賃(以下「低額運賃」という。)の認可を受ける事業者が現れた。
これに対し、かねてから、A社の共通乗車券を利用する乗客が低額運賃タクシーに奪われていることに不満を持っていた本件20社は、低額運賃による客の奪い合いが、歩合制で働く乗務員に収入減による過重労働を強いて、交通事故の増加につながる危険があることが問題にされるようになったことから、A社を交えて低額運賃タクシーに対する対策を話し合う会合を開催することにした。そして、話し合いの結果、本件20社は、タクシー事業の収益を維持し安全性を確保するためには、低額運賃タクシーの抑制を図ることが必要であり、そのために、低額運賃のタクシー事業者には、A社の共通乗車券事業を利用させないようにするとの方針を採用することで一致し、会合の席上、A社に対して、今後は、低額運賃のタクシー事業者と共通乗車券事業に係る契約を締結しないよう要請した。A社は、本件20社が共通乗車券事業の主要な利用者であり、かつ同社の株主の多数を占めることから、この要請に従い、以下の具体的な措置を講じた。
(1)従来から低額運賃を適用していたP、Q、Rの3社との共通乗車券事業に係る契約を解約し、以後、新たな契約の申込みにも応じないことにした。
(2)新たに甲市のタクシー事業に参入したS社とT社が、共通乗車券事業に係る契約の申込みを行ったのに対し、低額運賃を適用しているS社については、これに対する回答を留保し、その後、当該契約を締結していない。
[設問]
上記の、X1〜X20の20社およびA社の行為について、独占禁止法上の問題点を分析して検討しなさい。
24.醤油プライス・リーダーによる再販価格維持:
[論点]支配型私的独占と意識的並行行動との境界。裁判官視点。
[事実]
(1)Y醤油株式会社(以下Yという。)は、醤油等の製造販売業を営む事業者である。昭和28年の生産実績は638,155石である。これは同年の全国醤油総生産量の14%に当り全国同業者中第1位で、第2位以下は遠くこれに及ばない。東京都内においては、同年の出荷量は同地区の同年総出荷量の36.7%に当る。同社の製造販売するY印醤油(以下「Y」という。)は多数の商標から最も優秀と目される商標1種を選びこれに生産を集中したもので、今ではYといえばあたかも醤油の別名のごとくなるまで広く消費大衆の間に普及している。
(2)醤油には慣習的に、最上、次最上、極上等の格付が生じ取引上値段もそれぞれの格に応じてほぼ一定の開きが保たれ、その格付およびこれと不離の関係にある値段の開きは容易に破り難い傾向がある。このうち、Yの「Y」、A醤油株式会社(以下Aという。)のA印(以下「A」という。)、B醤油株式会社(以下Bという。)のB印(以下「B」という。)およびC醤油株式会社(以下Cという。)のC印(以下「C」という。)醤油は伝統も古く品質も優良で、生産能力も勝っているところから最上四印として知られ別格の取扱を受けるに至つた。
以上四印の昭和28年の生産量合計は同年の全国総生産量の23.3%に当り、同年の東京都内出荷量は四印合計で総出荷量の68.5%を占める。
このようにひとしく最上四印といってもその生産能力および出荷実績に可なりの差があり、殊に「Y」は断然群をぬいているが、しかし他の三印もいずれもその商標は古くから売込んでおり、品質もそれぞれ特色を有しながら四印は同等と見られ、古くから常に同一価格で取引されている。昭和25年以後の醤油価格変遷の跡を見ても生産者価格、卸売価格、小売価格共四印の間に差異があったことは一度もなく、また常にYがその価格を決定し他の三印が直ちにこれにならう形をとっている。
三印の価格が常に「Y」に追随するのは主として次の事情によるものである。すなわち、食品のような直接大衆の消費する商品にあっては、その選択は個人的好み、習性または愛着の念等主観的要素により支配されることが大であるから、大体において同等の品質を有する商品の価値を客観的に比較し優劣を確定することは不可能にちかい。このような商品については、ある程度まで、価格が同一であるものは品質も同等であり、価格が低いときは品質も劣るものとされる傾向がある。最上四印はいずれも数代にわたる不断の努力が結晶して現在の地位をかち得たものであるから、「Y」はともかく、他の三印は自ら価格を最上並より安くすることはこの歴史的所産である格を自ら放棄することに他ならない。ゆえに、価格の点についても他の三印はあくまで声価の最も高い「Y」と同一の線に維持しようと努力する。これが四印の価格が常に一致する理由である。換言すればYは自己の採算と市況の判断とに基いて製品の売値を自由に上下できるが、他の三印はまずYの出方を見なければならないのが実情である。
上のように最上四印は、表面の価格はあくまで同一に保ち、それぞれ再販売価格を指示して、小売値がくずれることに対しては極力警戒しているが、すでに述べたとおり事業能力および製品に対する世人の評価は決して同一でなく、「Y」の優越はもとより、他の三印の間にも優劣があるのでその間の調整はある程度まで内部における代金の割戻、手形期間の加減等により行われている。
(3)最上四印は、いずれも全国的販路を有し、各地にそれぞれ特約卸店があり、最寄り駅までの運賃は生産者(蔵または蔵元と称せられる。)が負担して、工場からの遠近を問わず全国1本の価格で卸売されている。
東京都内の特約店には最上四印共通の特約店として12店があり、この12店は東京醤油問屋組合(以下問屋組合と略称する。)を結成している。四印の都内出荷の主要な部分を取り扱うのは問屋組合の12店である。「Y」について見れば昭和28年の都内全店の総販売量19万余石のうち右12店の取扱量は18万余石を占める。右12店をもって東京Y会なる団体が組織されている。
醤油の小売機関の主要なものは都会地の随所に散在する酒類小売店すなわちいわゆる酒屋である。東京都内における酒屋の数は5千数百軒に上り、ほとんど全部が東京都味噌醤油商業協同組合(以下単に協同組合と称する。)の組合員となっている。
これらの小売店が特約店から仕入れる場合、各蔵とも東京都23区内(直配区域と称している。)では運賃を生産者が負担して現品を直接小売店の店頭まで配達する。直配の場合の取引方法は概略次のごとくである。まず小売店から問屋に注文すると問屋は蔵元に配荷の指図をする。蔵元は特約運送店に配荷を指図し、運送店は荷と共に代金取立用の手形を持参して小売店の引受を求めた上持ち帰る。この手形は一旦蔵元の手を経て東京Y会に集められ、これが多数の手形を問屋別に分類整理して銀行から取り立てそれぞれの問屋に入金するまでの手続に当っている。
このように都内販売量の重要部分を占める直配区域内においては、荷は蔵元から直接小売店に配達され、その問屋振出の取立手形もすべて蔵元の手を経ることになっており、各問屋の売先、数量および仕切値段は詳細に蔵元に判明する仕組となっている。
蔵元から特約店に対する販売はすべて買切りである。すなわち蔵元の定めた生産者価格で買い受けこれを蔵元の定めたとおりの卸売価格で小売店に販売している。その値ざやは大体5%内外に一定している。蔵元特約店間の決済は5日ごとに締め切り、期日25日(「B」、「C」は35日)の手形で行われる。このように、法律的には問屋は蔵元から買い切りこれを小売店に卸売するので蔵元小売商間に直接の関係はないが、実際は問屋は単に取次をなすに過ぎない。各蔵とも数名の外務員を置いて絶えず都下の各小売店を巡回させ、市況価格等を調査し、品質包装等の批判苦情があれば聴取する等蔵元と小売店との接触に当らせている。
蔵元から問屋へ、また問屋から小売店へ商慣習として購入代金の一部割戻しが内密に行われている。その時期金額等は、概して「Y」は他印に比して最も少額であることは疑ない。
(4)醤油の値段は、昭和27年11月1日以来最上四印の価格は下のとおりであった。
生産者価格 卸売価格 小売価格
2リットルびん入10本 1,380円 1,440円 1,650円
昭和28年の秋ごろから原料資材の値上りのため値上げの気運が高まり、同年12月Yもいよいよ2リットルびんづめの生産者価格を各40円引き上げることを決定して12月25日新価格を発表した。Yは、12月25日同社の東京販売課長が都内取引先の問屋14店(直配区域内問屋の全部)を歴訪して値上げのあいさつをし、翌月の積入分から適用されるべき新生産者価格表を記載した印刷物と「Y醤油価格改訂に付御願」と題し「今回の改訂により卸、小売価格左記標準値段を御実施下さる様特別御配慮賜度、御願申上げます。」として新値段表を記載した書面とを各店の醤油担当責任者に手交した。その他の特約店にはこれらの書面を送付した。
Aもその日のうちに「Y」の値上げを知り、即日「A」の価格をこれと同額に引き上げ、都内の各問屋には直ちにその旨電話し、翌日同社員が生産者、卸売ならびに小売の改訂価格を記載した25日付値上通知書を持参し、その他の特約店には同日右と同文の書面を送付した。
Bも同日「Y」の値上を知り、同様に「B」の値上げを決定し、28日都内の特約店の担当者を同社に集めて口頭で生産者価格、卸売ならびに小売標準価格を通告した。
Cは27日東京出張所長が各特約店に出向いて口頭で「C」の生産者価格を引き上げる旨を通知すると共に卸および小売価格も三印と同様とするよう依頼し、その他の地方には文書をもって生産者価格および卸売ならびに小売標準価格を通知した。
これらの通報を受けた問屋はそれぞれ取引先の小売店に即日ないし翌日までに値上の次第を口頭または電話をもって伝達した。これらの場合小売標準価格もあわせて通知された。蔵元の定める小売価格はこれを小売商に了知させるのでなければ無意味であることはいうまでもないが、上のように情報は遅滞なく自然に流れるので蔵元としては格別の手続を必要としない。
(5)蔵元が自ら決定して販売業者に通知する再販売価格はこれを指示価格とはいわず標準または希望価格と称しているが、四印とも末端価格の維持にはとくに意を用い、万一蔵元の認める価格をくずして販売している小売店があるときは直ちに各自の外務員等をしてその中止方を申し入れさせまたは取引問屋の協力を得てこれが是正を計る等極力価格の維持につとめている。
四印の都内の販売量の大部分を取り扱う問屋組合12店の大多数はその歴史も古く四印とは徳川時代から取引があり現在も緊密な関係があるが、現在の問屋は前述のごとく単に小売業者の注文を取り次ぎ口銭を得るに過ぎず、他方各問屋の販売先、数量、価格は一々手に取るごとく蔵元に判明するような仕組になっているのであるから、希望価格であろうと標準価格であろうと、いやしくも明示された蔵元の意思に背反することは有り得ない。
これと異なって小売店はその数も多く、協同組合は従来生産者の指示価格をそのまま協定価格としていたが完全には守られず、とくに組合員外の小規模業者が1,000店位もあり、この方面から値段がくずれてくることがあって、今回の価格改訂までは組合員でも、協定価格より2リットルびん1本10円位までの値引きは大目に見られるような状態であった。しかるに昭和28年金融引締め政策のため廉売競争が激しくなったのでなんとかこれを絶滅したいという気運が高まり、組合理事会の席上でもこの問題が大いに論議されたが、結局同理事会で決定した協同組合の協定価格の励行に蔵元および問屋の協力を要望することとした。協同組合員の間に廉売する小売店に対しては荷止めの制裁を要望する声もあり、当時業界紙中にも廉売する業者に対しては蔵元が送荷を停止するらしいとの記事を掲げるものがあった。当時組合の理事者、支部長らの間には協定価格以下で販売する小売店に品物を卸す問屋とは一切取引を拒否することにすべきであるという話し合いが行われこの旨非公式には問屋方面にも伝えられた。
[審判と訴訟]
公正取引委員会は、Yに対して、再販価格の表示および卸・小売価格につき販売業者に干渉・影響を与える行為を禁止する排除措置を命令し、さらにYの行為を3条前段違反の私的独占として同内容の審決を行ったが、Yは審決の取消を求めて東京高裁に提訴した。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
25.プリント基板の価格に関する不当な取引制限:
[論点]「事業者」。「共同して」。「意思の連絡」。「相互に」。審判官視点。
[事実]
(1)X1〜X8の8社は、紙基材フェノール樹脂銅張積層板(以下「本件商品」という。)の製造販売業を営むものである。8社は、本件商品を含むA製品の製造販売業者によって組織されているA工業協会に加入しており、その品目別部会のひとつで、各社の担当役員級の者で構成されている本件商品部会に所属している。
(2)本件商品部会の下部機関として、各社の部課長級の者で構成されている業務委員会が設置されている。
(3)本件商品は、その大部分が家電製品の部品として使用されている。平成21年当時、8社の本件商品国内向け供給量の合計は、日本における本件商品の総供給量のほとんどすべてを占めており、そのうち、X1〜X3(以下「大手3社」という。)が、約70%のシェアを占め、大手3社の動向が本件商品業界に大きく影響を与える状況にあった。
(4)平成20年以降の日本における本件商品の取引価格についての市場動向ないし状況は、つぎのようであった。
(a)本件商品は、量産品で製品差別化の程度が小さいため、製造販売業者間の価格競争が激しく、また、最終需要者である家電メーカーの交渉力が強かった。
(b)本件商品の販売価格は、輸出価格については、アメリカ合衆国ドル建てであったため、円高の影響により採算が悪化し、国内需要者向け価格についても、円高により輸出不振に陥っていた家電メーカーがコストダウンを図り、本件商品につても再三値引きの要求を行ったので、平成20年初めころから下落傾向を続けていた。また、同年秋ころからは、本件商品の原材料の価格も上昇傾向を示していた。そのため、8社とも本件商品の販売価格の下落防止のみならず引上げを強く必要とする状況にあった。
(5)8社は、平成21年1月6日から同年6月10日までの間に、8回の定例および臨時の業務委員会を開催し(以下「問題会合」という。)、本件商品の販売価格の下落防止、その引上げ等について情報交換や意見交換を行ってきた。
(6)8社は、平成21年6月10日の臨時業務委員会後のほぼ同じ時期に、本件商品の価格引上げ実施のためそれぞれの社内で指示等を行い、需要者らに対しても右価格引上げを通知して、その了承方を要請した。
[審判]
公正取引委員会は、8社に対して、[事実](6)の行為の取りやめ等を命ずる排除措置命令を行ったが、X4、X5、X6は、公正取引委員会の排除措置命令を不満として、個別に審判請求を行った。審判でX4、X5、X6それぞれが主張・立証した主な根拠はつぎのとおりである。
(1)X4:当社においては、問題会合には社員数名が常時出席しているが、いずれも問題会合において、各社共同して本件商品の価格を引き上げることを提案ないし示唆したこともなく、かかる提案や示唆があったとしても、それに賛成したこともない。
(2)X5:当社は、本件商品のシェアがわずかなこともあって、問題会合には社員を出席させていない。会合の状況は私的な関係を通じて知っていたので、他社と同時期に価格を引き上げた。
(3)X6:当社は、他の7社とちがって、製造をおこなっておらず、すべて海外を含む他社からのOEM調達なので、本質的に販売会社であり、他の7社とは競争関係にない。
[設問]
前記[審判]における各社の主張の当否を判断しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
26.音楽配信トップによる下位事業者に対するターゲティング:
[論点」不公正な取引方法と私的独占。審判官視点。
[事実]
(1)株式会社Y(以下「Y」という。)は、音楽の提供を主たる目的として音声その他の音響を顧客に送信する放送(以下「音楽放送」という。)の提供に係る事業(以下「音楽放送事業」という。)を営む者である。
(2)株式会社Y1(以下「Y1」という。)は、平成20年7月1日の設立と同時にYと業務提携契約を締結し、Yの代理店として、Yが行う音楽放送の提供に係る営業、Yが顧客との間で締結する音楽放送の提供に係る契約(以下「受信契約」という。)の取次ぎ等の事業を営む者である。
(3)X株式会社(以下「X」という。)は、音楽放送事業を営む者である。
(4)音楽放送には、有線電気通信設備により音声その他の音響を顧客に送信するもの(以下「有線音楽放送」という。)および通信衛星を利用して音声その他の音響を顧客に送信するもの(以下「衛星音楽放送」という。)がある。
(5)音楽放送を提供する事業者(以下「音楽放送事業者」という。)は、店舗、宿泊施設等の事業所および個人に対して、有線音楽放送または衛星音楽放送を提供している。音楽放送事業者は、店舗、宿泊施設等の事業所に対しては、専ら、当該事業所における背景音楽を提供することを目的として音楽放送を提供し(以下、店舗、宿泊施設等の事業所に対して提供される音楽放送を「業務店向け音楽放送」という。)、個人に対しては、専ら、当該個人自らが楽しむための音楽を提供することを目的として音楽放送を提供している(以下、個人に対して提供される音楽放送を「個人向け音楽放送」という。)。
(6)音楽放送事業者は、自らまたはその代理店を通じて、顧客との間で受信契約を締結し、当該顧客に、有料で業務店向け音楽放送または個人向け音楽放送を提供している。
(7)平成21年7月末時点で、国内における業務店向け音楽放送の受信契約件数において、Yの国内における業務店向け音楽放送の受信契約数は、72%程度を占め、音楽放送事業者中第1位であり、Xの国内における業務店向け音楽放送の受信契約数は、20%程度を占め、同第2位である。
(8)YおよびXがその顧客との間で締結する業務店向け音楽放送の受信契約においては、通常、契約期間を2年間とし、顧客は、前記2社が提示する複数の商材(Yの場合「Y40」、「Y24」、「Ysp」等、Xの場合「X40」、「X24」、「Xsp」等の受信契約の対象をいう。以下同じ。)の中から受信する商材を選び、加入金および月額聴取料(Xにあっては、加入金、工事費および月額聴取料)を支払うこととされている。また、前記2社が、その顧客との間で締結する業務店向け音楽放送の受信契約には、既に自社以外の音楽放送事業者との間で同契約を締結している顧客との間で当該契約に代えて締結する受信契約(以下「切替契約」という。)と前記顧客以外の顧客との間で締結する受信契約(以下「新規契約」という。)がある。
(9)前記2社が、その顧客と締結する切替契約においては、加入金および工事費は、現行の契約を継続した場合には顧客に発生しない費用であることから、通常、切替契約を締結した顧客に対し請求されることはなく、顧客は月額聴取料のみを支払うこととなる。
(10)新規契約においては、Yは、おおむね、加入金および月額聴取料を請求しているが、Xは、おおむね、月額聴取料のみを請求している。
(11)平成20年6月末時点において、Yが業務店向け音楽放送の顧客に提示していた受信契約の条件は、「Y40」、「Y24」および「Ysp」について、おおむね、新規契約の場合、加入金(消費税相当額を含む。以下同じ。)は、それぞれ、21,000円、15,750円、31,500円、月額聴取料(消費税相当額を含む。以下同じ。)は、いずれの商材においても4,725円であり、月額聴取料の無料期間は、いずれの商材においても当該顧客が業務店向け音楽放送を受信するために必要なチューナーが当該顧客の店舗等に設置された月(以下「チューナー設置月」という。)に限られている。切替契約の場合、いずれの商材においても加入金は請求されず、月額聴取料はいずれの商材においても4,725円であり、月額聴取料の無料期間はいずれの商材においてもチューナー設置月を含め最長で3か月であった。
(12)一方、平成20年6月末時点において、Xが業務店向け音楽放送の顧客に提示していた受信契約の条件は、「X40」、「X24」および「Xsp」について、おおむね、切替契約および新規契約を問わず、月額聴取料は、「X40」、「X24」および「Xsp」にあっては4,725円とした上で、おおむね、当該金額から1,000円程度を割り引くとともに、月額聴取料の無料期間はいずれの商材においてもチューナー設置月を含め2か月程度とし、加入金は、おおむね、切替契約および新規契約のいずれにおいても請求されていなかった。
(13)Yの商材「Y40」、「Y24」および「Ysp」は、Xの商材「X40」、「X24」および「Xsp」とそれぞれ競合し、両社の売上げの大部分を占める。
(14)YおよびY1は、平成20年7月1日、業務提携契約を締結し、Y1が取次ぎを行うYが締結する業務店向け音楽放送の受信契約の条件を前記(11)と同様の条件とした。YおよびY1は、Xから短期間で大量の顧客を奪い、その音楽放送事業の運営を困難にし、Xに音楽放送事業をYに売却させて音楽放送事業を統合することを企図して、Y1が営業を開始した平成20年7月14日以降、Xの顧客を奪取する行為を開始したところ、XがYおよびY1に対抗して月額聴取料を引き下げるなどしたことから、YおよびY1は、平成20年8月以降、合同または単独で、順次、つぎの行為を実施(Y1にあっては、Yの承認を受けて実施)し、集中的にXの顧客を奪取している。
(15)平成20年8月ころに実施した「NNVキャンペーン」等:
Y1は、平成20年8月18日から、Xの顧客の大部分が受信している商材と顧客層が重複する「Y40」、「Y24」および「Ysp」について、Xの顧客に限って、月額聴取料の無料期間を6か月とし、月額聴取料を3,150円とする「NNVキャンペーン」と称するキャンペーンを実施し、Yは、Y1の営業所のない地域を中心に、前記Y1と同様の受信契約の条件で、同年8月5日ころから、Xの顧客を奪取するためのキャンペーンを実施した。
(16)平成20年10月1日付けで締結した覚書による受信契約の条件の変更:
YおよびY1は、Xの顧客を奪取する活動を強化するため、平成20年10月1日、覚書を締結し、前記(14)の業務提携契約で定めた受信契約の条件を変更し、平成20年10月1日以降、Xの顧客の大部分と顧客層が重複する「Y40」、「Y24」および「Ysp」について、Xの顧客に限って、月額聴取料の最低額を3,675円であったものを3,150円とし、月額聴取料の無料期間をチューナー設置月を含めて最長3か月であったものをチューナー設置月を含めて最長6か月とした。
(17)平成20年11月ころに実施した「TDKキャンペーン」:
Yは、平成20年11月4日から同月21日までを期間として、Xの顧客に限って、月額聴取料を3,150円とする関東地区限定の「TDKキャンペーン」と称するキャンペーンをYの全国の支社から営業担当者を集めて実施し、Y1は、前記Yが実施したキャンペーンにあわせてYと同様の受信契約の条件をXの顧客に限って提示するキャンペーンを実施した。
(18)平成16年1月ころに実施した「1月度全国一斉切替キャンペーン」:
Yは、平成16年1月7日から同月20日までを期間として、Yの支社ごとにXの顧客を対象にした切替契約の目標件数(全国で7,000件)を設定し、前記(17)のキャンペーンと同じ条件により、支社がその達成率を競う「1月度全国一斉切替キャンペーン」と称するキャンペーンを実施した。
(19)平成21年2月および3月ころに実施した「40周年記念特別キャンペーン」:
YおよびY1は、合同で、「Y40」、「Y24」および「Ysp」について、最低月額聴取料を一律3,000円に引き下げ、月額聴取料の無料期間についても、「Y40」、「Y24」および「Ysp」にあってはチューナー設置月を含めて最長12か月とするといった有利な切替契約の条件をXの顧客に限って提示する「40周年記念特別キャンペーン」と称するキャンペーンを平成21年2月に実施し、著しい成果を挙げたことから、翌月の平成23年3月末まで前記「40周年記念特別キャンペーン」と称するキャンペーンを延長して実施した。
(20)平成21年4月および5月ころに実施した「トクトクキャンペーン」:
Yは、平成21年4月1日以降は、前記(16)の覚書による切替契約の条件に戻すものの、Xの顧客奪取を継続するために、平成21年4月1日から同年5月末までの間を期間として、すべての商材を対象に、Xの顧客に限って、加入金として30,000円を支払った顧客に対しては月額聴取料の無料期間を12か月(16,000円を支払った顧客に対しては6か月)上乗せし、「Y40」、「Y24」および「Ysp」については、同社の支社長の決裁により更に6か月上乗せすることにより、例えば、月額聴取料30,000円を前払いした顧客に対して月額聴取料の無料期間を最長24か月とする「トクトクキャンペーン」と称するキャンペーンを実施した。
(21)また、Y1は、Yが実施した前記「トクトクキャンペーン」と称するキャンペーンの期間中、すべての商材を対象に、Xの顧客に限って、月額聴取料の前払いとして30,000円を支払った顧客に対して、月額聴取料の無料期間を12か月(16,000円を支払った顧客に対しては6か月)上乗せし、「Y40」、「Y24」および「Ysp」については、月額聴取料の無料期間を更に6か月上乗せすることにより、例えば、月額聴取料の前払いとして30,000円を支払った顧客に対して月額聴取料の無料期間を最長24か月とするキャンペーンを実施した。
(22)YおよびY1は、前記(13)〜(20)の行為により、著しく多数のXの顧客を奪取しており、Xの受信契約の件数は、平成20年6月末時点の262,821件から、平成21年6月末時点の216,175件へと著しく減少(17%程度の減)した。この結果、国内における業務店向け音楽放送の受信契約件数において、Yの国内における業務店向け音楽放送の受信契約数の占める割合は68%程度(平成20年6月末時点)から72%程度(平成21年7月末時点)に増加し、Xの国内における業務店向け音楽放送の受信契約数の占める割合は26%程度(平成20年6月末時点)から20%程度(平成21年7月末時点)に減少している。また、Xは、平成20年6月末時点において128箇所あった営業所を平成21年8月末時点で90箇所に減少させている。
(23)YおよびY1は、公正取引委員会が平成21年6月30日に東京高等裁判所に対して、独占禁止法第67条第1項の規定に基づき緊急停止命令の申立てを行ったところ、平成21年7月9日、すべての商材について、月額聴取料を3,675円以上とし、かつ、月額聴取料の無料期間をチューナー設置月を含めて3か月以内とする旨決定し、同日以降、3,675円を下回る月額聴取料またはチューナー設置月を含めて3か月を超える月額聴取料の無料期間をXの顧客に限って提示することによりXの顧客を奪取する行為を取りやめている。
[審判]
公正取引委員会は、平成21年9月14日、YおよびY1に対して、前記(13)〜(20)の行為の取りやめ等を命ずる排除措置命令を行なったが、これに対して、YおよびY1が、同条6項の規定に基づき審判を請求した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
27.除草剤のディーラー・ターミネーション:
[論点」メーカーの対ディーラー再販価格拘束・非価格制限と安売りディーラーへの供給拒絶。原告適格。裁判官視点。
[事実]
(1)ポテト栽培用除草剤(以下「本件商品」という。)のメーカーYは、全国で約100社の特約店(かならずしも専売店ではない)を通して、本件商品を農家に販売している。本件商品のメーカーは10社で、それぞれの成分に特徴があり、競争は活発である。Yはこの市場で業界4位、シェア15%以下だったが、平成18年、新方針を採用してシェアを拡大、平成20年には30%にまで伸ばした。
(2)Yは、農家に効用を説明する対面販売を重要なマーケティング手法とみて、新方針のもとで、特約店契約を1年契約とし、契約更新の条件を以下のように設定した:
(a)特約店は、本件商品の技術説明ができるようYの講習会で訓練を受けたセールスマンを雇用しなければならない。
(b)担当地域市場を「完全活用」しなければならない(地域は排他的ではなく、1地域10から20特約店が認定されており、越境販売も可)。
(3)Yは、新方針の周知と同時に以下の販促策を展開した:
(a)訓練クラスへセールスマンを派遣した特約店にキャッシュ・リベートを支払う。
(b)特約店担当地域内の顧客に無料で配送する。
(4)販売店Xは農家向け除草剤専門で、平成19年まで10年以上Yの特約店であった。特約店当時、Xの年間売上高における本件商品の割合は16%であった。Xは家族経営で、オーナーひとりがセールスマンである。Xのマーケティング手法は大量仕入による安売りで、Yの特約店中10位以内に入っていた。
(5)平成19年、YはXの特約店契約更新を拒絶した。訓練セールスマンを雇用しない――対面販売に協力的でない――ことが理由である。Xは、その後も、本件商品を他の特約店から購入して販売を継続したが、とくに注文が集中する季節には数量が不足し、納期上も不利益を受けた。
(6)多数の証言・証拠:
Yのもとには、Xの安売りに対する競合特約店からの多数の苦情がよせられていた。
(7)第三者証言:
Yの役員が「Xに対する更新拒絶は価格に関する苦情の結果だ」と言った。口頭弁論で、Yは「この種の苦情は自然のもので、とくにメーカーが費用のかかる非価格制限(対面販売義務等)を推進している場合は、苦情があったからといって共謀が推定されることはない。更新拒絶はY単独の判断だ。特約店は重要な情報源なので、不断のコミュニケーションが必要」と主張。
(8)Yのセールス・マネジャー証言:
Xの更新拒絶以後すくなくとも2件、安売り特約店に対して「メーカー推奨価格を守らないと、Yの新製品の供給が受けられない」と申し入れた。
(9)Yのセールス・マネジャー証言:
新方針に不服従の特約店を地域事務所に申告、事務所が同特約店の親会社に苦情を申し入れ、その後同特約店から推奨価格を守る申し入れがあった。
(10)特約店Y1の顧客向けニュースレター:
Y役員が「市場安定――最低価格維持――の努力をする」と言明したのに対して、Y1はこれを「ゲームのルール」と認識している。
[訴訟]
Xは、民法709条に基づき、Yの独占禁止法違反による損害の賠償を請求する訴訟を提起した。Xは、YとY1等競合特約店の共同による3条後段および2条1項1号違反、およびY単独による2条1項4号および一般指定2項ならびに12項違反を主張し、Yはそのすべてを否認している。
[設問]
上の事実にかんがみ、Yの独占禁止法違反についてのXの主張が法廷で認められるかどうか論じなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法および現行民法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
28.石油の価格に関する不当な取引制限:
[論点」「公共の利益」と行政指導。裁判官視点。
[事実]
(1)石油製品元売業者Y1〜Y12(以下「12社」という。)は、昭和48年当時、いずれも燃料油の全油種をほぼ全国的に元売しており、12社の燃料油元売数量の合計は、全元売会社のそれに比し、燃料油全体としては80数%であつた。
(2)石油連盟(以下「石連」という。)は、昭和30年11月1日に石油業の健全な発達を図ること等を目的として設立されたもので、昭和48年当時、前記12社を含めて、合計31社がその会員であり、石連には、役員として、理事会を組織する理事および同連盟を代表とする会長等が置かれ、会議として、総会、石連の業務執行に関し会長が必要と認めた重要事項等を審議決定する理事会、理事会から委任を受けて石連の一般業務を処理する常務会および各種委員会等が設けられていた。
営業委員会は、石連の常設委員会として設けられたもので、原則として各元売会社および石連事務局からそれぞれ推薦された正、副各1名の委員によつて構成され、原則として正委員が出席して、石油製品の販売に係わる法規制に関する事項等を審議し、常務会に上申するものとされていた。
重油専門委員会は、昭和44年終りころ、営業委員会の下部機構として設けられたもので、12社のうちY1〜Y5からそれぞれ選ばれた委員によつて構成され、昭和47年末ころから石油値上がり額等のコストアツプおよびその油種別展開等の計算作業を行なうようになり、スタデイー・グループと呼ばれた。
(3)(a)わが国が輸入する原油は、中東地域からのものが大部分である。中東地域の原油は国際石油会社と総称される諸会社(以下「国際石油会社」という。)によつて生産、販売されており、わが国石油会社は、昭和48年当時においてはその殆んど全部を国際石油会社から購入していた。
(b)昭和45年9月以降OPEC(石油輸出国機構、昭和48年当時の加盟国は11か国であつた。)が公示価格の引上げ等による原油値上げ攻勢(以下「OPEC攻勢」という。)を開始してからは、原油FOB価格および同CIF価格の情勢は一変し、昭和45年9月(いわゆるOPEC第1次値上げ)から昭和48年1月(いわゆるOPEC第5次値上げ)までの5次にわたって、国際石油会社のドル建て原油実勢価格の引上げが相次いで行なわれるに至つた。
(4)(a)営業委員会:かかる状況下で、営業委員会は、次のような会合を行い、合意に達した。
回 |
合意日 |
場所 |
内容 |
対象社数 |
実施時期 |
行政の介入(5)(a) |
|
|
|
|
|
|
@ABCD |
1 |
47年12月7日 |
Y2 |
値上げ |
6 |
48年1月 |
E |
47年12月18日 |
Y3 |
値上げ巾 |
10 |
同上 |
F |
|
2 |
48年1月10日 |
Y1 |
値上げ |
10 |
48年2月 |
G |
同年1月18日 |
石連 |
値上げ巾 |
8 |
同上 |
H |
|
3 |
48年5月14日 |
Y1 |
値上げ |
12 |
行政介入で延期 |
I |
同年7月2日 |
Y2 |
値上げ巾 |
10/6 |
同年8月1日 |
|
|
4 |
同年9月3日 |
Y2 |
値上げ巾 |
12 |
同年10月1日 |
J |
同年10月8日 |
Y2 |
同上修正 |
12 |
同年10月8日ころ |
|
|
5 |
同年11月6日 |
Y2 |
値上げ |
4 |
同年11月1日 |
K |
(b)合意の実施:12社においては、おおむね、販売部等が製品の販売価格についての方針を樹て、支店長会議を開催し、あるいは文書、電話等により支店等および直売部等に同方針を指示してこれに基づく販売に当らせていたものであり、前記の値上げ内容の合意がされると、上の指示系統により、概ね同合意の内容に対応する値上げの指示がされていたことが認められる。
(5)(a)本件当時、具体的には、石油製品価格に関し通産省によるおおむねつぎのような行政介入が行われていた:
@OPECの第1次ないし第3次原油値上げに伴い、業界による石油製品の値上げが予測された昭和46年2月ころ、通産省は、石連に対し、原油の値上がりを石油製品価格に転嫁する場合の基本方針を示すとともに、値上げする場合には、業界で勝手にこれを行わず、通産省に事前に連絡するように指示した。
A同年3月から4月にかけて、通産省は、業界に対し、原油値上がり分のうち1バーレル当り10セントを業界に負担させることを内容とする、いわゆる「10セント負担」指導を行つて平均値上げ幅を示すとともに、これを油種別に展開した油種別値上げ幅の数字を示してその遵守を要請し、業界は、最終的に通産省の意向に副う値上げ案を作成し、その実行をした。
B同年10月から11月にかけて、通産省は、石連に対し、民生の安定上重要であるとして、元売各社の白灯油価格を同年冬は引き上げずに、前需要期の各社それぞれの平均価格以下にするよう各社を指導する措置を講ずる旨通知した。
C同47年2月、業界による「10セント負担」解除の要請および市況悪化を理由とする値上げの要請は、通産省によつていずれも拒否されたが、同省幹部と業界首脳との会談ののち、業界の作成した油種別値上げ案が、結局において同省により了承された。
Dその際、通産省は、石連に対し、今後値上げの必要が生じたときは、あらかじめ話しに来るように指示した。
E業界は、同年12月、業界による第1回値上げに際し、通産省に対して「10セント負担」の解除を要請したが拒否されたため、「10セント負担」を前提とする修正案を作成し、通産省担当官の了承を得た。
Fその後の第2回ないし第5回の値上げに際しても、通産省担当官は、業界による値上げの実施前に、その作成した値上げ案に対する了承を与えた。
G昭和48年6月18日の営業委員会においては、通産省が、文書に基づき、OPECによる原油値上がり分は、円高による差益とほぼ相殺となるので、その分の製品値上げをしてはならないこと等を内容とする価格指導方針を説明し(いわゆる「チヤラ論指導」)、なお、その際、市況調整値上げ分の製品値上げは、十分説明のつくもの以外は認めない旨付言した。
Hその直後、石連スタデイー・グループが、Y1の社内資料に基づき中間留分についての値上げ案の内容を説明して意向を打診したが、通産省担当官は、業界全体の資料による説明でなければ困るとして、その回答を留保した。
I同月末、通産省は、業界の7月値上げ案をいつたん了承したが、国会が開会中であることなどを理由に、その実施を1か月延期するよう要請し、業界は右指導に従つた。
J同月9月、資源エネルギー庁は業界に対し、家庭用灯油値上げの撤回を申入れたが、石連営業委員会はこれに応ぜず、結局、石連理事のあつせんにより、家庭用灯油価格を9月末の時点で凍結することで落着した。
K同年11月の値上げの際にも、通産省は、Y1の社内資料に基づき値上げ案の説明をした同社幹部に対し、業界全体の資料を要求した。
(b)以上、通産省は、昭和47年以降の本件を含む一連の石油製品の値上げに際しては、業界の値上げ案作成の段階において基本的な方針を示して業界を指導し(前記@CEG)、これによつて、業界作成の値上げ案に通産省の意向を反映させたことが認められるが、同46年の値上げの際と異なり、業界が作成してきた値上げ案に対しその値上げ幅をさらに削減させたり、自ら油種別値上げ幅の数字を示したりするような積極的・直接的な介入は、できる限りこれを回避していこうとする態度であつたことが窺われる。
[審判と訴訟]
公正取引委員会は、12社に対して、共同行為のとりやめ等を命ずる排除措置命令を行ったが、12社の請求で審判を開始、12社の前記行為を3条後段違反の不当な取引制限として、排除措置命令と同内容の審決を行った。12社は審決の取消を求めて東京高裁に提訴、下記3点の主張を行った。
(1)行政の役割について:
石油製品は戦前から引続き国家の統制ないし管理の下に置かれており、昭和37年の業法制度後は、通産省は同法の運用ないし同法に基づく行政指導等により石油会社の事業活動を調整し、石油製品価格も基本的には通産省の指導の下に形成されて来た。通産省は、昭和46年4月、前年のOPEC攻勢の開始に対応するため、業界に対し、10セント負担により石油製品の平均値上げ巾の上限を抑制するとともに、同平均値上げ巾を油種別に展開した各油種の値上げ巾の上限をもガイドラインとして示してこれを遵守するよう要請し、いわゆるガイドライン方式による価格についての行政指導をしたのに始まり、昭和47年4月にも同様の方式による行政指導をし、かつ、その際、今後原油値上がり等のコストアツプ要因が生じてガイドラインを上廻る石油製品の値上げが必要になつたときは必ず事前に通産省に申し出るよう指示し、ここに上のガイドライン行政指導方式が定着し、以後ガイドラインの改定がされなければ石油製品の値上げをすることができないことになつた。12社は、昭和47年から昭和48年にかけて、営業委員会において、昭和48年中の5回にわたる石油製品の値上げについて話し合いをしたことがあるが、これは、上のガイドライン指導方式に従い、業界が通産省に原油値上がり等の新たなコストアツプの発生に対応する右ガイドラインの改定を求めるため、業界全体の平均コストアツプ額を計算し、これを油種別に展開して各油種の値上げ巾を算出し、これに希望の実施期日を付した業界としてのガイドラインの原案を取りまとめたものにすぎない。そして、営業委員長から通産省担当官に同原案の了承を求め、その了承が得られると、ガイドラインが設定されたことになり、12社を含む全元売会社は、同ガイドラインの範囲内で了承のあつた実施期日以降各自の販売方針に基づいて値上げ(場合によつては据置きあるいは値下げ)をして来たものである。それで、12社は、共同して値上げすることを協議し、決定したものではなく、通産省のかかる行政指導に協力したにすぎない。
(2)公共の利益について:
「公共の利益に反して」とは、とは、独禁法の目的が「一般消費者の利益を確保する」とともに「国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」であることから考えると、その意味は生産者、消費者の双方を含めた国民経済全般の利益に反することをいうものであつて、競争の実質的制限があつても、公共の利益に反しないとして不当な取引制限にあたらない場合があると解すべきであって、同法の目的を消費者の利益の確保のみとし、公共の利益は自由競争を基盤とする経済秩序そのものを指すとして、競争の実質的制限が直ちに公共の利益に反すると解した原審決は、法令の解釈を誤つたものである。
(3)相互拘束について:
2条6項にいう「相互に事業活動を拘束し」について、本件価格の会合への参加、不参加あるいは脱退は自由であり、本件各共同行為の内容を遵守させるため、12社間においてこれを遵守する旨の誓約書の交換やこれに反した行為に対する違約金等の反則罰の定めはなく、また、本件各共同行為の内容は実現されていない。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、前記12社の主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたりまたは時期が推測されることもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
29.土木工事の入札談合:
[論点」状況証拠による基本合意の推認。裁判官視点。
[事実]
(1)Yおよび28名(以下「Yおよび28名」または「甲市の土木事業者ら」という。)は、いずれも、甲市において建設業を営む者で、甲市から土木工事一式についてA等級に格付けされていた。甲市は、土木一式工事として発注する工事の大部分を指名競争入札の方法により発注していた。
(2)甲市が平成21年度に指名競争入札の方法によりA等級に格付している者のみを入札参加者として土木一式工事として発注した工事(以下「甲市発注の特定土木工事」という。)は、105件(以下「105物件」という。)で、その発注金額の合計は92億円(消費税抜き)であった。
(3)平成21年度における甲市発注の特定土木工事は、105物件のうち80物件についてはYおよび28名のうちいずれかが受注した。105物件のうち受注調整が行われなかったとみられる25物件には、基本合意の参加者ではないいわゆるアウトサイダーが指名されたことから受注調整ができなかった物件が存在している。
(4)後記(5)の基本合意の存在を裏付ける別紙(略)記載の物件80件(以下「80物件」という。)の受注調整の状況は次のとおりである。
(a)受注希望の表明:
指名競争入札に参加する者は、指名通知書と設計書が配布される会場において、指名業者全社が記載された名簿を確認することにより、入札参加者を把握し、受注希望者は、入札参加者に対して、当該工事の受注希望を電話などで伝えることにより意思を表明するとともに、他の受注希望者の存否を確認していた。
(b)受注予定者の決定:
受注希望者が他の入札参加者に受注希望の有無を確認した結果、他に受注希望者がいなかった場合には、その者が受注予定者となっていた。受注希望の確認の過程で他に受注を希望する者がおり、受注希望者が複数となった場合には、希望者同士の話し合いにより受注予定者を決定していた。希望者同士の話し合いでは、発注される工事に関し、施工場所が自社の事務所や資材置場などの近隣であるとの地域性、過去に受注した工事の継続工事、またはその近隣で工事を施工した実績があるとの関連性、最近受注がないとの手持工事の状況、その時点で甲市からの受注実績が落ち込んでいるとの受注実績の多寡などを考慮して受注予定者を決定していた。
(c)入札価格の連絡:
80物件のうち少なくとも75物件について、受注予定者となった者は、自社が受注できるよう他の入札参加者に入札価格を連絡し、協力を要請していた。
(d)入札での協力:
受注予定者となった者は、自ら決定した入札価格で入札し、他の入札参加者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していた。80物件すべてにおいて受注予定者が予定どおり受注し、受注予定者以外の者が受注したものは1件もなかった。
(5)基本合意:
上の表明・決定・連絡・協力という過程は、80物件すべての受注調整において繰り返され、入札参加者間で受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が当該工事を受注できるように協力する旨の基本合意の存在があきらかに推認される。
(6)Yの本件基本合意への参加:
Yは、80物件のうち60物件(別紙(略))の入札に参加していたところ、このうち、Yが受注した5物件(別紙(略))を含む8物件について、具体的に受注調整に関与していた。
[審判]
公正取引委員会は、Yおよび28名に対して、[事実](4)の行為の取りやめ等を命ずる排除措置を命令したところ、Yが審判を請求して審決が行われた。
審決(以下「本件審決」という。)は、Yおよび28名の行為を3条後段違反の不当な取引制限として、Yに対し、同内容の排除措置(以下「本件排除措置」という。)を命じた。
[訴訟]
Yは、本件審決において指摘された本件違反行為は存在せず、本件審決の事実認定は実質的証拠を欠くとして、東京高裁に審決取消請求訴訟を提起した。
Yは、まず、前提として、本件違反行為の認定には、(a)Yの行為が外形上他の事業者と共同していること(共同実行の事実)、(b)Yと他の事業者との間に意思の連絡があること(共同実行の意思)、(c)Yと他の事業者が相互に一定の制限を課し、その自由な事業活動を拘束していること、すなわち、共有された実効力の担保ある基本合意が存在すること(相互拘束性)の点を認定するに足りる実質的証拠が必要であると主張、しかるに、公正取引委員会の本件審決における認定は、以下の理由から実質的証拠を欠くものであると主張する。
(1)公正取引委員会は、Yと28名との間で、受注予定者の決定という違反行為を行うことやこれに拘束力があること(従わない場合の不利益等)につき認識を共有するための意思連絡をした日時、場所、担当者等を特定していない。
(2)公正取引委員会が主張する@受注希望の表明、A受注予定者の決定、B入札価格の連絡、C入札での協力の4過程は、事業者間で受注調整がなされる場合において必然的に伴う抽象的・一般的な事実行為の流れをいうにすぎない。4過程の基礎になっていると主張する基本合意について、Yおよび28名も認識していたとする供述はなく、どのような拘束力によってかかる基本合意に従うべきものと信じたかという点に関する証拠はない。
(3)実際に、対象期間中の多くの物件で競争が行われており、基本合意が機能していたとは認め難いこと、違反を自認する個別事業者ごとに、調整方法の違反行為の具体的形態がばらばらであり、統一性、一貫性を欠いていること、あるはずの受注機会の均等化、利益の公平分配に関するルールも存在しないことなどの状況が存在し、これらを排除して基本合意を認定できるとする証拠を欠いている。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、前記したYの主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
30.除草剤の再販価格拘束:
[論点」希望小売価格の要請。ブランド・ロックイン。ムチとアメ。審判官視点。
[事実]
(1)Y株式会社(以下「Y」という。)は、農薬の製造販売業を営む者である。Yは、平成22年7月ころから、アメリカ合衆国に所在するM社が製造販売するAの商標を付した除草剤(以下「A」という。)を一手に輸入し、幹事卸と称する一次卸売業者(以下「幹事卸」という。)に販売している。また、幹事卸は、Aを直接または二次卸売業者(以下、幹事卸と二次卸売業者を総称して「取引先卸売業者」という。)を通じて、日用雑貨品、園芸品等を取り扱うホームセンター等の小売業者(以下「ホームセンター」という。)、農薬等の農業資材を専門に取り扱う小売業者等に販売している。
(2)Aは、テレビ、ラジオ、新聞折り込み広告等で宣伝されており、他の除草剤に比して知名度が高いため、一般消費者の中には、Aを指名して、または継続して購入する者が少なくないことから、ホームセンターにとって、品ぞろえをしておくことが不可欠な商品となっている。
(3)Yは、取引先卸売業者を通じて、ホームセンターに対して、平成22年7月ころから500mℓ入りボトルのAの販売を始め、その後、平成23年3月ころから5ℓ入りボトルのAを、平成23年2月ころから500mℓ入りボトル3本パックのAを販売している(以下、これら3品目を「3品目」という。)。
(4)Yは、平成22年7月ころ以降、3品目について、希望小売価格を定め、自らまたは取引先卸売業者を通じて、ホームセンターにこの小売価格を周知するとともに、その小売価格が希望小売価格を下回ることがないようにすることを目的として、自らまたは取引先卸売業者を通じて、ホームセンターに対し、3品目を希望小売価格で販売するように要請している。
(5)Yは、自らまたは取引先卸売業者を通じて、ホームセンターの店舗において3品目の小売価格を把握するとともに、ホームセンターが3品目を希望小売価格を下回る小売価格で販売している場合には、3品目のボトルに付されたロット番号を利用するなどして当該ホームセンターに供給する取引先卸売業者を調査している。
(6)Yは、ホームセンターが、希望小売価格を下回る小売価格で3品目を販売していることが自らの調査や他のホームセンター等からの通報により判明した場合には、自らまたは取引先卸売業者を通じて、当該ホームセンターに対して、出荷停止を示唆して小売価格を引き上げるよう要請するなどにより、当該ホームセンターに希望小売価格で販売するようにさせている。Yは、ホームセンターが前記要請に応じない場合には、当該ホームセンターに供給する取引先卸売業者をして当該ホームセンターに対する3品目の出荷を停止若しくはその数量を制限させ、または当該取引先卸売業者に3品目を供給している他の取引先卸売業者をして当該取引先卸売業者への出荷を停止させるなどにより、当該ホームセンターに対する3品目の出荷を停止またはその数量を制限させるなどしている。
(7)Yは、平成23年3月ころから5ℓ入りボトルのAの、平成16年2月ころから500mℓ入りボトル3本パックのAのホームセンターへの供給を始めることとしたが、これらの際、既に供給している500mℓ入りボトルまたは5ℓ入りボトルのAを希望小売価格で販売しているホームセンターに対して供給することとし、新規にホームセンターに対して5ℓ入りボトルまたは500mℓ入りボトル3本パックのAを供給するに当たり、当該ホームセンターが希望小売価格で販売することを取引の条件として提示し、これを受け入れたホームセンターに供給している。
(8)Yの前記(4)から(7)の行為を例示すると次のとおりである。
(a)Yは、平成22年11月ころ、主に九州地区に複数の店舗を展開するホームセンターが希望小売価格を下回る小売価格で500mℓ入りボトルのAを販売したため、取引先卸売業者に対し当該ホームセンターの同製品の小売価格を希望小売価格に改めさせるよう要請した。これにより、取引先卸売業者は、当該ホームセンターに対し、出荷を停止することを示唆して、同製品の小売価格を希望小売価格に改めるよう要請し、その小売価格を希望小売価格に改めさせた。
(b)Yは、平成23年2月ころ、関東地区以北に複数の店舗を展開するホームセンターが希望小売価格を下回る小売価格で500mℓ入りボトルおよび5ℓ入りボトルのAを販売することを企画したため、当該ホームセンターに対し、希望小売価格を下回る小売価格で販売しないよう要請したところ、当該ホームセンターがこの要請に応ぜず、これらのAを希望小売価格を下回る小売価格で販売したことから、取引先卸売業者をして当該ホームセンターに対し、500mℓ入りボトルのAについては出荷数量を制限させ、5ℓ入りボトルのAについては出荷を停止させた。
(c)Yは、平成23年4月ころ、主に近畿地区に複数の店舗を展開するホームセンターが希望小売価格を下回る小売価格で500mℓ入りボトルのAを販売するとともに、その旨を新聞折り込み広告に掲載したため、当該ホームセンターに対し、同製品の小売価格を希望小売価格に改めるよう、当該ホームセンターに同製品を出荷していた二次卸売業者とともに要請したところ、当該ホームセンターがこの要請に応ぜず、引き続き、同製品を希望小売価格を下回る小売価格で販売したことから、当該二次卸売業者に同製品を供給している取引先卸売業者をして当該二次卸売業者への出荷を停止させ、これにより、当該二次卸売業者に同製品を当該ホームセンターへ出荷させないようにした。
(d)Yは、平成23年8月ころ、九州地区に複数の店舗を展開するホームセンターが希望小売価格を下回る小売価格で500mℓ入りボトルのAを販売するとともに、その旨を新聞折り込み広告に掲載したため、当該ホームセンターの店頭に陳列されていた同製品のボトルに付されたロット番号を調査するなどにより、当該ホームセンターに同製品を出荷していた二次卸売業者を突き止めて、他の取引先卸売業者をして、当該二次卸売業者への出荷を停止させ、これにより、当該二次卸売業者に同製品を当該ホームセンターへ出荷させないようにした。
(e)Yは、平成23年8月ころ、北海道地区に複数の店舗を展開するホームセンターが希望小売価格を下回る小売価格で500mℓ入りボトルのAを販売したため、取引先卸売業者に対し当該ホームセンターの同製品の小売価格を希望小売価格に改めさせるよう要請した。これにより、取引先卸売業者は、当該ホームセンターに対し、出荷を停止することを示唆して、同製品の小売価格を希望小売価格に改めるよう要請し、その小売価格を希望小売価格に改めさせた。
(9)Yの前記(8)の行為により、ホームセンターのほとんどは、3品目について、希望小売価格またはこれを上回る小売価格で販売している。
[審判]
公正取引委員会は、Yの前記行為の取りやめ等を命ずる排除措置命令を行ったが、Yの申立で審判手続きに入った。審判におけるYの主張はつぎのとおりである。
(1)出荷停止や数量制限の示唆や実行は、販路整備の一環としておこなったもので、希望小売価格の維持とは直接関係がない。
(2)希望小売価格で販売することを取引の条件として、これを受け入れたホームセンターに対し当該除草剤を供給したことは、ビジネス上の優遇であって「拘束」ではない。
(3)Aの小売価格を拘束しても、除草剤市場全体のブランド間競争が活発であれば、Yによる拘束はむしろAブランド内での効率化を向上する(バッティング防止による取引コストの軽減)ことによって、市場全体の競争を活発にする(「正当な理由」がある)。
(4)審査官はYの行為による他の競争者への被害を立証していない。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するかを、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
31.道路工事の入札談合:
[論点]一方的協力か相互拘束か? 市場分割。「一定の取引分野」。審判官視点。
[事実]
(1)(a)Y、Y1、Y2およびY3は、それぞれ、建設業法の規定に基づき、Yは香川県知事の許可を、Y1は広島県知事の許可を、Y2およびY3は岡山県知事の許可を受け、四国地区または中国地区において土木工事等の建設業を営む者である。
(b)日本道路公団四国支社(以下「四国支社」という。)は、平成19年度以降、順次、道路保全土木工事(交通規制、交通事故復旧・補修工事、清掃作業、雪氷対策作業、緊急作業および植栽作業の各業務を年間を通じて総合的に実施する業務をいう。以下「保全工事」という。)を公募型指名競争入札の方法により発注しており、公募型指名競争入札に当たっては、四国支社が保全工事の競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者を対象に、公募の条件を示して入札の参加希望者を募り、当該参加希望者に施工計画等の技術資料を提出させ、これら技術資料の審査を行った上で、審査基準を満たしている者の中から指名競争入札の参加者を指名している。
なお、四国支社は、保全工事を公募型指名競争入札の方法により発注した場合、原則として、その次年度および次々年度の当該保全工事を随意契約の方法により当初年度の契約業者に発注している。
(2)(a)@ Yは、四国支社が平成18年度までに随意契約の方法により発注した保全工事のすべてを受注していたことなどから、四国支社が、平成19年度以降、順次、保全工事を公募型指名競争入札の方法により発注することとなっても、自社が四国支社発注の保全工事のすべてを受注したいとの強い希望を有していたところ、遅くとも平成19年2月ころまでに、四国支社においても公募型指名競争入札が導入され、当該公募型指名競争入札の実施においては複数の参加者が必要である等の情報を得た。
A Yは、四国支社発注の保全工事が公募型指名競争入札の方法により発注されると、自社が受注することができなくなるおそれがあることから、自社が四国支社発注の保全工事のすべてを確実に受注できるようにするための方策を講ずることとし、また、公募型指名競争入札の際には自社が受注することを前提とした上で複数の入札参加者を確保するため、中国地区において保全工事の受注実績を有するY1、Y2、Y3等に対し、四国支社が発注する保全工事の公募型指名競争入札に応募し、入札の参加者としての指名を受けるよう依頼した。
B Y1、Y2およびY3(以下「中国地区3社」という。)は、当該依頼に応じれば、Yは日本道路公団中国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事の入札に参加しないと考え、Yの当該依頼に応じることとした。
(b)日本道路公団が発注する保全工事の施工業者の大部分が加入していた日本道路管理協会維持管理部会の会員であった施工業者の間においては、かねてから、会合等において、競争入札制度の導入後の保全工事の受注のための方策が検討され、保全工事については競争入札制度の導入後も、その工事の性質等から、当該保全工事を既に施工している者が継続して受注することが望ましい旨の認識が醸成されていたところ、Yおよび中国地区3社の4社(以下「4社」という。)は、前記(a)の入札参加の依頼の連絡等を通じて、遅くとも[日付略]ころまでに、日本道路公団が発注する保全工事についてはその受注実績を尊重し、受注実績を有する事業者が引き続き受注することが望ましい旨認識し、四国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事について、既に当該保全工事を施工している者が確実に受注できるようにするため、Yが中国地区3社にその入札すべき価格を連絡するとともに、その他の指名業者の協力を得るなどして、Yが受注できるようにしていた(以下「本件合意」という。)。
(3)Yは、本件合意に基づき、四国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事の大部分を受注していた。
(4)本件について、公正取引委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ、4社は、四国支社が平成24年度以降公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事について、本件合意に基づきYが受注できるようにする行為を取りやめている。
[審判]
公正取引委員会は、4社に対して、前記(4)の確認等を求める排除措置命令を行ったが、Yの請求で審判手続きが開始された。Yの主張はつぎのとおりである。
(1)本件合意によりYは中国地区への不参入を約束しているのだから、これによる競争の実質的制限は中国地区において発生しており、本件の「一定の取引分野」は、「四国および中国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する保全工事の取引分野」でなければならない。その場合、「競争の実質的制限」が成立することを公正取引委員会は立証していない。かりに百歩を譲って「一定の取引分野」を四国地区だけとしたとしても、次の(2)の問題がある。
(2)一般の入札談合では、A件における協力とB件における協力は相互的である。しかし、本件では、四国市場だけとれば、上の相互性はなく、反対給付は、四国の業者が中国に参入しない期待にすぎず、拘束ではない。本件合意によってYは利益を得ているが、Y1、Y2、Y3は利益を得る機会がないのだから、相互拘束の要件を欠き、2条6項の要件を満足しない。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に依拠して、どのような審決案を作成するか。前記Yの主張に留意して、その理由とともに概要を述べなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
32.委託販売に偽装した粉ミルク・メーカーによる再販価格拘束と一店一帳合制:
[論点」「正当な理由がないのに」。ブランド間競争。審判官視点。
[事実]
(1)Y乳業株式会社(以下「Y」という。)は、育児用粉ミルクの製造業を営む者であり、Yが国内において販売する育児用粉ミルクのほとんどすべては、Yから卸売業者に供給され、卸売業者から小売業者を経て需要者に販売されている。
(2)Yの製造する国内向け育児用粉ミルクについては、従来Y商事株式会社が一手に卸売業者に販売していたが、同社がYの協力の下に行った再販売価格維持行為が独占禁止法に違反する旨の審決を受けたことがあるところ、Yは、卸売業者に直接供給することに改めるとともに、平成22年8月育児用粉ミルクの新製品を発売するに当たり、実質的に再販売価格維持契約による場合と同様の効果を挙げるため、Yが卸売業者に対し右製品を小売業者に販売することを委託する旨を定めた取引契約書(代理店覚書および卸店覚書を含む。以下同じ。)に基づいて卸売業者との問に取引契約を締結した。同契約には次の事項を規定している。
(a)卸売業者はYの定める価格で小売業者に販売すること。
(b)卸売業者はYの指定する販売先に販売すること。
(c)卸売業者がこの契約に違反したとき、Yは契約を解除することができること。
(3)Yは、右(2)(a)および(b)に基づいて卸売業者に対しそれぞれその販売価格および販売先を定めるとともに、右(b)を拠りどころとして、Yの育児用粉ミルクの小売価格を自己の設定する標準小売価格の水準に維持するため、卸売業者間においてその販売先が競合しないように、その販売先である小売業者を特定し、小売業者に、特定の一卸売業者以外のものとは取引できなくさせている制度(以下「本件一店一帳合制」という。)を実施している。
(4)しかして、一般に、育児用粉ミルクのように小売業者によって不特定多数の一般消費者に販売される商品であって、製造業者から多数の卸売業者を経て多数の小売業者に対し取引が触続的になされる場合には、売買取引が常態であり、他の育児用粉ミルク製造業者と卸売業者との取引も売買取引である状況の下で、かつ、委託販売をしなければ育児用粉ミルクの品質が保持できないわけではないのに、Yは、育児用粉ミルクの取引のみについて、委託販売形式の契約によることとしている上、同契約によれば、卸売業者が販売済委託商品の代金回収の責任を負うことになっており、これは販売代金が回収不能の場合の危険を卸売業者に負担させるものであり、また、卸売業者が本契約の条項に違反するなど一定の事由がある場合には、期限の利益を失い、Yに対し、育児用粉ミルクの仕入代金の全額を一時に弁済することになっており、同契約は、卸売業者が小売業者に委託商品を販売した時点で、その所有権がYから卸売業者にいったん移転した上、卸売業者から小売業者に移転する内容のものと認められる。更に、卸売業者の取引の実態をみると、自己の名において小売業者と取引し、販売した商品代金の全額を自己の売掛金として取り扱う等、仕入、保管および販売の面でYの育児用粉ミルクを明治乳業株式会社等の他の育児用粉ミルクと同様に取り扱っている。
[審判]
公正取引委員会は、平成23年11月28日、Yに対し、独占禁止法第49条第1項の規定に基づき排除措置命令を行なったところ、Yがこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。審判におけるYの主張はつぎのとおりである。
(1)委託販売制について:
Yの採用している委託販売制は、委託商品の所有権留保条項を中心に、受託業務に対する報酬としての手数料の条項および販売済委託商品の代金支払時期と代金回収責任の条項等委託販売業務に伴う諸般の事項を体系的に記載した取引契約書を根幹とするものであり、典型的な委託販売制のあらゆる特質を具備した真正の委託販売であって、委託販売の名を借りながらその実質を備えていない場合とは、実態を異にする。このような真正の委託販売にあっては、委託者は、委託商品の所有権から流出する各種の権限を行使できるのであるから、法理論的には、委託者は受託者に対し、委託商品の販売価格の指示およびその販売先の指定を合法的にすることができるのである。したがって、Yが卸売業者に対し育児用粉ミルクの販売価格を指示し、その販売先を指定しているとしても、独占禁止法上達法ではない。
(2)「拘束性」について:
(a)Yは、卸売業者に対しYの定める価格で販売するよう希望していたに過ぎず、それ以上に「拘束」を加えたことはないし、また、取引契約書中のいわゆる解約条項も、債務不履行が契約解除事由を構成するという民法の一般原則を念のために規定したものに過ぎず、Yの右の希望に応じない卸売業者に対し、この条項を適用したこともないから、本件行為のうち価格の指示の部分については、2条9項4号に規定する「拘束の条件」には該当しない。
(b)Yは、取引契約書において卸売業者に対しその販売対象店を指定する旨を規定しているが、実際にはこの指定をほとんど行っていないし、また、卸売業者に対し小売業者が披審人の育児用粉ミルクを仕入れるに際し、いずれか一の卸売業者のみと取引する状態(以下「一店一帳合」という。)になることを希望してはいたが、この希望に応じない卸売業者に対し経済的な不利益を課する等の手段を用いたことがないから、本件行為のうち本件一店一帳合制の実施の部分については、一般指定の12項に該当しない。更に、一店一帳合が自然発生的に起こり、かつ、Yの希望とは無関係に一店一帳合が多く見られること、卸売業者および小売業者にとって、Yの育児用粉ミルクの取扱額がそれぞれの営業に占める比率が低いこと、一店一帳合でない取引関係もかなり存在することおよび一店一帳合の下にある小売業者が、取引先である卸売業者の変更を希望する場合には、その希望どおり自由に変更が認められていることなどを勘案すれば、Yは、契約によっても、また事実上の制度としても、本件一店一帳合制を実施していないことが一層明らかである。
(3)「正当な理由」について:
本件行為に「拘束性」が認められるとしても、次に掲げる理由から、本件行為は、いずれも2条9項4号に規定する「正当な理由」がないとは言えない。
(a)本件行為が公正な競争秩序に対し悪影響を与えることの証明がなされなければ、本件行為が2条9項4号に規定する「正当な理由がないのに」に該当すると認定することはできないはずであるのに、本件審判においては、右の証明がなされていないし、また、Yの育児用粉ミルクの市場占有率は逐年低下しているが、この事実は、本件行為が公正な競争秩序に悪影響を与えていないことを示すものである。
(b)「正当な理由」の有無を判断するに当たっては、いわゆるブランド間競争の機能を評価し、いわゆるブランド内競争を減少させる行為であっても、それがブランド間競争を有効ならしめるものである場合には、「正当な理由」があると言うべきであり、特に一店一帳合制については、それがブランド内競争を制限する弊害とブランド問競争を有効ならしめる利点とを比較考量して右の判断がなされるべきである。また、一店一帳合制は、特に専売制と結びついた場合に公正競争阻害性を生ずるものであるところ、Yの取引先である卸売業者は、併売が常態であるから、本件一店一帳合制は公正な競争を阻害するおそれがないものである。
(c)本件一店一帳合制は、Yの育児用粉ミルクの流通経路の確認を容易ならしめることにより、事故品の迅速かつ円滑な回収を可能とする点で、品質管理上必要な制度であり、人の生命身体に対する危険を予防するという公益的な目的を追求するためのものであるから、その実施には「正当な理由」がある。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに前記のY主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
33.鋼球(川上)と軸受け(川下)メーカーの垂直統合:
[論点]企業結合。いずれも高度集中市場(HHI)。弁護士視点。
[事実]
(1)鋼球とは、主として玉軸受等の部品(転動体)として用いられる、耐磨耗性等に優れた金属製の高精度(高真球度)の球であり、主に、高炭素クロム軸受鋼で作られているが、軸受の使用環境によりステンレス鋼(防錆性を求められる場合)、炭素鋼(強度要求が高くない場合)なども使用される。鋼球の製造には高額な設備を要する。
(2)回転する軸を支え、軸に加わる荷重を受け、軸心を中心に回転するようにする機械部品を「軸受」といい、自動車、産業機械、家電製品等の各種機械の回転部分に使用される。軸受には、軸と軸受の接触状況等により様々な種類の製品があり、軸と軸受の間に鋼球を入れたものを「玉軸受」という。軸受の製造には高額な設備を要する。
(3)通常の軸受が回転運動をするのに対し、荷重を支えながら直線運動の案内をするものを「直動案内軸受」といい、工作機械やX-Yテーブルなどの送り装置に使用されている。直動案内軸受のうち、玉を用いたレール付きのユニットを「リニアガイド」という。
(4)ボールねじは、ねじ軸とナットとの間(溝)に鋼球を組み込み、ねじ軸を回転させたときのナッ トとの間に生じる摩擦を減少させるようにしたものである。通常のねじは締結用部品として用いられるが、ボールねじは、ねじ軸の回転運動を効率よくナットの移動運動に変換させることができることを利用して、移動用部品(ねじ軸上で物を移動させる。)、伝動用部品(ねじ軸の回転を利用して大きなものを動かす。)として用いられる。
(5)Y株式会社(以下「Y」という。)は、玉軸受、リニアガイド、ボールねじ(以下「玉軸受等」という。)の製造販売を行っているところ、玉軸受等の製造に使用する鋼球の大部分を株式会社X製作所(以下「X」という。)から調達している。両社の国内売上高は、Yが200億円以上、Xが50億円以上である。
(6)鋼球の材料には各種鋼材が使用されており、玉軸受等の使用環境に応じて適切な鋼材が選択される。しかしながら、鋼材が異なっても基本的な製造工程は同じであり、鋼球メーカーは軸受メーカーの要求に応えるため、鋼材の異なる鋼球を取りそろえているのが通常である。
(7)玉軸受等は、それぞれ機能・効用が異なっており、玉軸受、リニアガイド、ボールねじの各製品間で代替性はない。
(8)鋼球メーカー、軸受メーカー間の取引の状況は、玉軸受、リニアガイド、ボールねじのいずれについても大きな違いはない。
(9)いずれの製品についても、事業者は全国を事業地域としており、商品の特性や輸送費用等からみて特段の事情も認められない。
(10)平成21年度における国内の鋼球の市場規模は、約300億円であり、このうち、約200億円を玉軸受等向けが占める。近年の景気拡大を受けた玉軸受等の需要増加に伴って、玉軸受等の構成部品である鋼球の市場規模も拡大傾向にある。
鋼球市場シェア
順位 |
会社名 |
シェア% |
1 |
X |
50 |
2 |
A |
40 |
|
その他 |
5 |
|
輸入 |
5 |
|
合計 |
100 |
(11)平成21年度における国内の玉軸受等の市場規模は全体で約3450億円であり、製品ごとにみると、玉軸受が約2400億円、リニアガイドが約540億円、ボールねじが約510億円となっている。近年の景気回復に伴い、企業収益が着実に改善するとともに、設備投資が拡大したことを受けて、工作機械や一般機械等の部品となる玉軸受等の需要は増加傾向にある。
玉軸受市場シェア リニアガイド市場シェア ボールねじシェア
順位 |
会社名 |
シェア% |
|
順位 |
会社名 |
シェア% |
|
順位 |
会社名 |
シェア% |
1 |
Y |
35 |
|
1 |
E |
60 |
|
1 |
Y |
35 |
2 |
B |
25 |
|
2 |
F |
20 |
|
2 |
G |
25 |
3 |
C |
20 |
|
3 |
Y |
10 |
|
3 |
H |
15 |
4 |
D |
5 |
|
|
その他 |
5 |
|
4 |
I |
5 |
|
その他 |
5 |
|
|
輸入 |
5 |
|
|
その他 |
15 |
|
輸入 |
10 |
|
|
|
|
|
|
輸入 |
5 |
|
合計 |
100 |
|
|
合計 |
100 |
|
|
合計 |
100 |
(12)鋼球には、国際規格(ISO
3290)が設定されており、これに準じた国内規格(JIS
B 1501)も設定されている。鋼球メーカーは前記規格に即して製品の製造を行っており、技術水準や品質面での差はなく、軸受メーカーが取引先鋼球メーカーを変更することは可能であり、同一の玉軸受等に使用する鋼球を複数の鋼球メーカーから調達している軸受メーカーも存在する。
(13)鋼球の生産について、月間の操業日数を調整することにより一定程度の増産が可能とされており、当事会社の競争事業者にも、一定程度の供給余力があると認められる。
(14)軸受メーカーにとって、鋼球調達の安定性の確保は重要な課題であるところ、軸受メーカーの中には、鋼球の供給が滞るリスクを回避するため、鋼球の内製を行っている事業者も存在する。これらメーカーは、何らかの事情で取引先鋼球メーカーからの鋼球の供給が滞った場合にも、内製割合を増加させることにより鋼球を調達することが可能である。
(15)国内の軸受メーカーが、海外メーカーの鋼球を輸入して玉軸受等を製造することは可能であるが、平成21年の鋼球の推定輸入額は10億円程度で、国内の鋼球需要の3%程度にとどまっている。国内の軸受関連製品が多様なため鋼球の仕様は細分化されており、国内で鋼球の販売活動を行うには数多くのバリエーションを用意する必要があること、きめ細やかな営業と需要の変動に対応するための在庫を確保する体制を整える必要があること等、日本での販売体制を整えるのには多額の資金を投下する必要があることから、鋼球の輸入はわずかとなっている。
[設問]
YはXの全株式を取得することを計画している。かりにきみが弁護士だったとして、Yの法務部長から、独占禁止法についての相談を受けたら、問題文で与えられた事実に依拠して、どのような助言をするか説明しなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
34.電気通信工事の入札談合:
[論点」基本合意の拘束性・実効性。競争者の能力。裁判官視点。
[事実]
(1)YおよびA〜Iの10社は、電気通信設備の工事等を営む者であり、いずれも株式会社NTT(以下「NTT」という。)から通信線路、通信機械または伝送無線の工事について1級工事業者としての格付けを受けている事業者で、全国または関東地区を主たる営業地域とする有力事業者である。
(2)10社は、米国空軍契約センターに業者登録している有力事業者のほとんどすべてであり、その中でも、Aは、同契約センターがわが国において発注する電気通信設備の運用保守に関する物件のほとんどすべてを受注していた。
(3)米国空軍契約センターの発注および契約は、初回入札を行い、入札者の中から受注する可能性のある入札価格の低い2、3の者を選定し、それぞれについて入札価格の積算根拠の監査を実施して、右監査結果を受けて監査対象者と個別に価格交渉(以下「ネゴシエーション」という。)を行った後、米国空軍契約センターにおいて再度入札価格を呈示させて、最も有利な条件を呈示した事業者、すなわち、最も低い価格で入札した事業者に発注する方法によっている。
(4)A以外の9社(以下「1級9社」という。)は、長年の顧客であるNTTからの工事の受注量が減少するなどしてきたことから、業務の拡大を図る必要性を感じていた。1級9社は、従来からNTTなどが発注する電気通信設備の工事等について、情報交換を行う等親密な関係にあったところ、前記状況の下で、右情報交換の場において、米国空軍契約センター発注物件は金額的にも大きく、魅力のある市場であることが話題となり、同センター発注物件の受注を希望するようになった。
(5)そこで、1級9社は、全社が同センターに業者登録を行い、発注物件を受注するための方策を検討してきたが、従来、同センター発注物件のほとんどを受注していたAと競争をして直ちに受注を図ることは、入札に関するノウハウに通じていないことおよび技術的能力の違い等から困難な面があり、また、受注価格の低落を招く等の問題があった。
(6)かかる状況下で、1級9社は、当面はAと競争するよりも、協調しながら右業務を遂行するためのノウハウを学び、また同社に協力して「貸し」を作り、将来「貸し」を返してもらう形で受注することを考え、Aに対して、入札業者も増えてきたので一度集まって情報の交換をしたい旨、また米国空軍契約センターの入札等に関する指導等を受けたいので1級9社の営業担当者を交えて忘年会を開きたい旨の呼びかけを行った。他方、Aも、受注価格の低落を防ぎ受注価格を安定させるためには、有力な競争相手と思われ、また近い将来そうなると思われる1級9社と競争するよりも協調しながら、その出方、考え方を知りそれに対応していくことの方が得策と考え、右呼びかけに応ずることとした。
(7)1級9社およびAの営業担当部課長級の者は、東京都港区六本木所在の「かぶと家」に集まり、その際、会員相互間の親睦およびその意思の疎通を図り、米国空軍契約センター発注物件について情報を交換し、継続的に協調関係、信頼関係を維持するための共通の場として、「かぶと会」を設けることに合意した。
(8)その後、10社は、会則案を作成するなど「集まりの会」の設立準備を進めてきた。そして、10社の営業担当部課長級の者は、前記かぶと家で再度会合を開催し、かぶと会会員間の親睦を深める目的に充てるため、米国空軍契約センター発注物件を受注した会員に対し、当該物件の契約金額に所定の率を乗じた額の金員を特別会費としてかぶと会に供出させる旨等を内容とする会則および役員等を定めた。
(9)席上、1級9社側の出席者からは、米国空軍契約センター関係の仕事を是非受注したい旨、かぶと会は会自体が受注予定者を決める等して会員を統制しない旨、A側の出席者からは、順番制で仕事を回すようなことはしない旨等、意見が出された。
(10)しかし、Aも参加して設立されたこのかぶと会は、単に会員の親睦を図る会に止まるものではなく、米国空軍契約センター発注物件を受注するに当たり、1級9社およびAが円滑に受注できるようにするため、継続的に話し合い、信頼関係を形成し、維持するため設立されたものであり、その設立等につき協議し、かぶと会を設立する過程で、これによって、米国空軍契約センター発注物件について、あらかじめ入札に参加するかぶと会会員の話し合いにより右発注物件を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決めること、受注予定者以外の入札参加会員は、受注予定者が受注できるように協力することとする共通の認識(以下「本件基本合意」という。)を相互に形成するに至った。
(11)かぶと会会員は、かぶと会設立時から、継続して、本件基本合意に基づき、別紙[略]の米国空軍契約センター発注の27物件について、同契約センターが入札前に開催する入札説明会または現場説明会の終了後において、飲食店等で会合し、当該入札に参加する会員間で受注予定者を決める「話し合い」を行い、受注予定者を決めている。
(12)また、当該入札に参加するかぶと会会員は、受注予定者を決めた後、受注予定者以外の入札参加会員の入札価格が受注予定者の入札価格以上の価格となるように、受注予定者が他の入札参加会員にその者が入札すべき価格を通知する等の方法により、受注予定者が受注できるようにし、また、受注予定者は、あらかじめ監査の対象になった場合の対応を特定の入札参加会員に依頼し、依頼を受けた会員は、監査やネゴシエーションの結果、入札価格の変更があっても、受注予定者が受注できるように協力している。
(13)本件27物件の中23物件については、Aの他にかぶと会会員中には積極的に受注を希望する者が存在せず、話し合いによって受注予定者を決定するまでもなく、短時間にいわば無競争でAが受注予定者に決まった。
(14)残り4物件のうち、@いわゆる横田基地物件では、現場説明会の後、かぶと会会員の入札参加者が入札予定者を決めるため話し合い、B、C、Dが受注を希望して話し合った結果、最後にBが受注予定者に決まって受注し、Aいわゆる三沢基地物件では、現場説明会の後、かぶと会会員の入札参加者が受注予定者を決めるため話し合ってA、C、Fの3社に絞られたが受注予定者が決まらず、後日、3社が話し合いを行い、Aが受注予定者に決まって受注し、Bいわゆる第2横田基地物件では、現場説明会の後、かぶと会会員の入札参加者が受注予定者を決めるため話し合い、B、C、D、Eが受注を希望し、結局、D、Eの2社に絞られたが受注予定者が決まらず、さらに右2社が話し合った結果Eが受注予定者に決まって同社が受注し、Cいわゆる横須賀・横浜基地物件では、現場説明会の後、かぶと会会員の入札参加者が受注予定者を決めるための話し合いをした結果、YとA以外は積極的に受注を希望せず右2社に絞られ、最終的には右2社の間で話し合いがつかず、受注予定者が1社には決まらなかったが、他の入札参加者は、右2社のいずれかと入札価格について連絡した上で入札に参加し、受注予定者である2社のいずれかが受注できるように協力した。
[審判と訴訟]
公正取引委員会は、10社に対して該当行為の取りやめ等を命ずる排除措置命令を行ったが、Yがこれを争って審判を請求した。審決は、10社の行為を3条後段違反の不当な取引制限として、同内容の排除命令を行ったが、Yは審決の取消を求めて東京高裁に提訴した。Yの主張はつぎのとおりである。
(1)本件では、「話し合い」の具体的な方法、手順等について取り決めていないので、3条後段の「共同して」の要件を満たさず、いわゆる基本合意は存在しない。
(2)本件の「話し合い」には、決定に従わなかった場合の罰則等の定めがなく、拘束性・実効性がなく、「相互拘束」もない。
(3)本件「話し合い」の時点で、Yには本件業務の受注を現実に行う能力がなかったので、そもそも競争が存在せず、したがって「競争の実質的制限」もない。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに前記のY主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されていたり、時期が推測されることもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
35.社会保険庁向けシール談合:
[論点]不当な取引制限。「一定の取引分野」。「事業者」。裁判官視点。
[事実]
(1)Y1、Y2およびY3の3社(以下「3社」という。)は、それぞれ、社会保険庁が発注する国民年金、厚生年金および船員保険年金の各種通知書等貼付用シール(以下「本件シール」という。)の供給業務を行う者である。Y4は、Aと業務提携関係にあり、Aが製造する本件シールを社会保険庁向けに供給する業務を行う者(以下「仕事業者」という。)である。
(2)社会保険庁は、国民年金、厚生年金および船員保険年金の受給者に対して各種通知を行うに際し、プライバシー保護の観点から、葉書に、一度剥離すると再貼付することができない機能を有する本件シールを貼付する方法を採用している。
(3)社会保険庁は、本件シールのすべてを指名競争入札の方法により発注しており、指名競争入札に当たっては、受注を希望する印刷業者のうち一定の資格要件を満たす者として、あらかじめ、厚生省の登録を受けた者の中から指名競争入札の参加者を指名しており、平成22年度以降、指名競争入札の都度、3社およびAを指名している。3社およびAは、いずれも、右指名を受けて指名競争入札に参加している。
(4)Aは、Y4が受注・販売するビジネス・フォーム紙等を製造してY4に納入することなどの目的で設立された会社で、従来はY4の専属工場のような存在として、Y4がその営業の全てを担当していたが、最近は独自の営業活動をするようになった。Y4は、平成22年当時で、Aの発行済株式の12.5%の株式を保有し、同社第3位の株主であるとともに、Aの年間売上高の約40%を占める最重要顧客でもあった。そして、Aが独自に営業活動をするようになった後も、「AはY4が指定する電子計算機等に使用するフォーム類等を継続的に製造し、Y4はこれを継続的に販売する。Aは原則としてY4の販売する製品の製造をするものとする。」旨の契約を結び、営業活動においても、AはY4との競合を避ける方針であった。また、Y4は、本件シールに係る業務について、Y4が実質的な入札参加者となるとのAとの合意の下に、上記指名を受けたAに対し、指名競争入札の都度、入札説明会への出席、入札すべき価格等当該入札に関する事項全般について指示し、Aをして当該入札に参加させている。
しかし、Y4の従業者Fは、Y4とAとの上記のような業務提携関係や、AがY1ら他の指名業者3社と繋がりが薄かったことなどから、Aでは談合を円滑に行うのは無理と考え、Aの従業者Kと話し合いをして、本件シールの入札に関する全権をY4に任せて貰うこととし、Y4社内の了承を得たうえ、本件シールに関する第1回の入札が公示された直後、3社の代表者に対し、Aの代わりにY4が談合の場に出席することを伝えた。その後、Aは、社会保険庁から本件シールに関する参考見積書の提出を求められるなどしたが、その作成等実際の作業は、全てY4と相談のうえ行った。
平成22年8月4日の入札説明会が行われた頃、第1回目の談合が行われ、Y1、Y2、Y3の代表者がそれぞれ出席したが、その際、FはKを伴って出席し、Kが「Aの代わりに全権をY4に任せた。」旨をその場の出席者に告げて、以後Y4がAの代わりに談合に加わることについて3社の同意を得た。そして、その後行われた談合の際には、Aからは誰も出席することなく、いずれもFが参加して、入札価格や落札業者の決定等について談合を行い、Aは、単に上のようにして決った談合の内容およびFの指示等に従い、指名業者として必要な入札等の事務的な手続を行っていたに過ぎなかった。
(5)3社およびY4の4社(以下「4社」という。)は、社会保険庁が指名競争入札の方法により発注する本件シールのすべてを供給している。
(6)4社は、社会保険庁が平成22年8月以降指名競争入札の方法により発注することとしていた本件シールについて、有利な価格で受注することができるようにする等のため、東京都中央区所在のY3東京支店会議室で開催した各社の営業実務責任者による会合において、@4社間の話し合いにより、入札の都度、あらかじめ、受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定すること、Aあらかじめ、入札すべき価格を定め、受注予定者以外の者は、受注予定者が受注できるよう協力すること、B受注した本件シールに係る業務については、4社間において、受注した者から適宜他の者に順次下請発注する「回し」と称する方法を用いることにより、各社の売上げおよび利益が確保できるようにすることを決定した。
(7)4社は、上記(6)の決定に基づき、以降、社会保険庁が指名競争入札の方法により発注する本件シールについて、入札の都度、あらかじめ、受注予定者等を決定し、受注予定者が受注できるようにするとともに、受注した者から適宜受注した本件シールに係る業務を他の者に順次下請発注している。
[審判と訴訟]
公正取引委員会は、4社に対して[事実](7)の行為の取りやめ等を命ずる排除措置を命じたが、4社の請求で審判を開始した。審決は、4社の行為を3条後段違反の不当な取引制限として、同内容の排除措置を命じたが、Y4は、同審決が実質的証拠を欠き法令に違反しているとして、その取り消しを請求して東京高裁に提訴した。Y4の主張はつぎのとおりである。
(1)本件において、3条後段にいう「一定の取引分野」は、社会保険庁から本件シールを落札・受注する取引分野と解すべきである。このように解すれば、Y4は、社会保険庁から本件シールを落札も受注もしていないから、Y4については「一定の取引分野」が成立しない。
(2)本件シールの入札に関し、社会保険庁から指名業者に選定されていないY4は、右取引分野の「事業者」に該当しない。東京高裁昭和28年3月9日判決(いわゆる新聞販路協定事件)によれば、3条後段にいう「事業者」とは競争関係にある事業者であることが必要であるところ、Y4は、指名業者ではないから、他の指名業者と競争関係にはなく、結局、ここにいう「事業者」に当たらない。
(3)また、Y4は、指名業者ではないから、拘束されるべき事業活動がない。したがって、「相互にその事業活動を拘束」する共同行為をしていないから、3条後段の要件を満たさない。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに、前記のY4主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
36.スポーツシューズ・メーカーによる選択的流通:
[論点]再販価格拘束。並行輸入妨害。商標権。審判官視点。
[事実]
(1)株式会社Y(以下「Y」という。)は、スポーツ用品の製造販売業を営む者である。Yは、アメリカ合衆国所在のYインコーポレイテッド(以下「アメリカY」という。)からアメリカYの有する商標について我が国における独占的な使用許諾を受けており、アメリカYがYの代理人として製造委託契約を締結している日本国外の製造業者からアメリカYの有する商標を付したスポーツシューズ(以下「Yシューズ」という。)を輸入し、自らまたは卸売業者を通じて、小売業者に販売している。
(2)Yは、我が国のスポーツシューズの販売分野において有力な地位を占めており、また、Yシューズは一般消費者の間において高い人気を有していることから、スポーツシューズを取り扱う販売業者にとっては、Yシューズを取り扱うことが営業上有利であるとされている。
(3)Yは、Yシューズについて希望小売価格を定めている。
(4)Yは、Yシューズを、それが有している機能によって上級、上中級、中級および初級に分類しており、一般的に、同記載の順に希望小売価格を高く設定している。また、平成21年の中ころからのYシューズのブームにおいては、上級および上中級に分類されている製品(以下「トップ製品」という。)がとりわけ一般消費者の間において高い人気を有していた。
(5)Yは、Yシューズを販売する小売業者を店舗別に登録している。また、Yは、登録している小売業者の店舗を、キー店と一般店に分類し、キー店に対しては、重点的に販売促進活動を行っており、一般店と異なり、トップ製品を販売し、製品の納期を早める等の施策を講じている。
(6)Yは、一年間をいくつかのシーズンに分け、シーズンごとに当該シーズンの対象製品を定めて販売するというシーズン制を採用し、それぞれのシーズンの始まる日のおよそ半年前に、卸売業者および小売業者を集めた展示受注会を開催し、原則として展示受注会においてのみ当該シーズンの注文を受け付けている。このシーズン制については、平成21年以前は春および秋の2シーズン制、平成22年は春、秋および冬の3シーズン制、平成23年以降は春、夏、秋および冬の4シーズン制となっている。また、Yは、平成22年および平成23年のシーズンの展示受注会においては、キー店についてはすべてのシーズンの展示受注会に招待し、一般店については春および秋の展示受注会にのみ招待している。
(7)国内においてYシューズの並行輸入品(以下「並行輸入品」という。)を取り扱う輸入販売業者は、アメリカ合衆国等に所在する販売業者等からYシューズを輸入し、国内の小売業者等に販売している。
(8)Yは、かねてから、Yシューズの小売価格の水準を維持する旨の方針を有しており、このため、Yシューズの販売に関し、小売業者に対し、Yが定めた希望小売価格(以下「希望小売価格」という。)で販売することおよび並行輸入品を取り扱わないことを要請するなどの施策を講じていたところ、平成21年の中ころから、Yシューズの人気が高まり、その需要が増大してきた状況の下で、引き続き、展示受注会等の際に、自らまたは卸売業者を通じて、小売業者に対し、希望小売価格で販売すること、並行輸入品を取り扱わないことおよび希望小売価格を下回る価格を表示した新聞折り込み広告等を行わないことを要請するとともに、同方針を徹底するため、平成21年12月ころまでに、キー店の選定基準として、希望小売価格で販売する店舗であることおよび並行輸入品を取り扱わない店舗であることを含む基準を設定し、同基準を満たすキー店からのみトップ製品の注文を受け付けることとした。Yは、右基準に基づき、キー店を選定し、平成22年1月ころに開催した展示受注会等の際に、自らまたは卸売業者を通じて、小売業者に対し、同基準を周知するとともに、同月ころに開催した展示受注会のときから、キー店からのみトップ製品の注文を受け付けている。Yは、平成22年7月ころおよび平成23年7月ころに開催した展示受注会に向けてキー店の見直しを行っており、その際にも、右内容を含む基準に基づいてキー店を選定していた。
(9)さらに、Yは、登録すべき小売業者の店舗の業態について見直しを図ってきたところ、一般店のうち、Yの前記(8)の要請を受け入れないディスカウント業態の店舗が存在したことから、平成22年5月ころ、前記(8)の方針を徹底するため、今後、ディスカウント業態の店舗については、登録の対象外とし、Yシューズを販売しないようにすることとした。その後、Yは、自らディスカウント業態の店舗との取引を中止するとともに、平成22年11月ころから、取引先卸売業者に対し、その取引先小売業者について見直しを指示し、ディスカウント業態の店舗にはYシューズを販売しないようにさせていた。
(10)Yは、Yシューズの小売業者における在庫が増えてきたことを受けて、平成23年4月ころ、Yシューズの販売に関し、シーズン中およびシーズン終了後1か月以内に販売するものについては希望小売価格で販売することおよびシーズン終了後1か月を経過した後に販売するものについては希望小売価格から3割引、シーズン終了後2か月を経過した後に販売するものについては希望小売価格から5割引の価格(以下「シーズン終了後の値引き限度価格」という。)まで、それぞれ値引き販売を認めるものの、希望小売価格を下回る価格を表示した新聞折り込み広告等を行わないことを小売業者に対し要請することとし、同年7月ころ、自らまたは卸売業者を通じて、小売業者に対し、同要請を行った。
(11)Yは、前記(8)から(10)の実効を確保するため、小売業者の店舗に対する同社の営業部員の巡回活動による情報および他の小売業者等からの苦情に基づき、前記(8)から(10)の要請を遵守していない小売業者に対しては、自らまたは卸売業者を通じて、希望小売価格で、また、シーズン終了後1か月を経過した後に販売するものについては、シーズン終了後の値引き限度価格以上の価格で販売すること、並行輸入品を取り扱わないことまたは希望小売価格を下回る価格を表示した新聞折り込み広告等を行わないことを要請し、希望小売価格若しくはシーズン終了後の値引き限度価格を下回る価格での販売、並行輸入品の取扱いまたは希望小売価格を下回る価格を表示した新聞折り込み広告等をやめさせたほか、同要請に従わない場合は、キー店としての登録の抹消、出荷停止等の措置を講じていた。
(12)Yの前記(8)から(11)の行為により、小売業者は、おおむね、希望小売価格で、また、シーズン終了後1か月を経過した後に販売するものについては、シーズン終了後の値引き限度価格以上の価格でYシューズを販売していた。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対して独占禁止法第49条第1項の規定に基づき排除措置命令を行なったところ、右の者がこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。審判で、Yは、排除措置命令の法的根拠をすべて否定したほか、つぎの主張もおこなった。
YはアメリカYの有する日本商標権の独占的な使用許諾権者であるから、並行輸入品に対しては、日本商標権にもとづいて、その「使用」を差し止めることができる。商標権者は、他人に商標を「使用」させない大きな権利があるから、価格や非価格条件をつけて「使用」を許す小さな権利もあり、21条で適用除外を受ける「商標権の行使」に該当する。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
37.医療用ベッドのトップ・メーカーによる発注者誤導:
[論点」「一定の取引分野」。「排除」と「支配」。審判官視点。
[事実]
(1)Yベッド株式会社(以下「Y」という。)は、病院の入院患者等が使用するべッド(以下「医療用べッド」という。)の製造販売業を営む者である。
我が国において医療用べッドの製造販売業を営む者として、Yのほか2社ある(以下「競合2社」という。Yと合わせて「メーカー3社」という。)が、Yは、国および地方公共団体が発注する病院向け医療用べッドのほとんどすべてを製造販売している。
(2)東京都は、財務局が発注事務を所管する発注予定金額が500万円以上の都立病院向け医療用ベッド(以下「財務局発注の特定医療用べッド」という。)を、指名競争入札により発注している。
東京都は、財務局発注の特定医療用べッドの指名競争入札に当たっては、あらかじめ競争入札参加有資格者として登録している者の中から入札参加者を指名している。
(3)東京都は、中小企業育成の観点から、財務局発注の特定医療用べッドの入札参加者を製造業者ではなく販売業者としている。
(4)東京都は、財務局発注の特定医療用べッドの指名競争入札に当たっては、原則として、複数の製造業者が製造する医療用べッドが納入可能な仕様書を定めて当該仕様書に適合する製品を対象とする入札(以下「仕様書入札」という。)を行い、特定の製造業者の製品を指定して当該製品を対象とする入札(以下「製品指定入札」という。)を可能な限り行わないこととしている。
(5)東京都は、平成17年度から、3か年計画により都立病院の医療用べッドを順次電動式ベッドに更新していくこととし、財務局発注の特定医療用べッドのうち右計画に基づき指名競争入札等により発注する医療用ベッドについて、入札の公平性および製造業者間の競争の確保等を図るため、発注方針を次のとおりとしている。
(a)メーカー3社が製造する医療用べッドが納入可能な仕様書入札を実施すること。
(b)指名競争入札等に当たっては、医療用べッドを扱っている販売業者を入札参加者とするが、メーカー3社の医療用べッドの発注の機会を確保するため、入札参加者の取引先製造業者にメーカー3社が含まれるようにすること。
(6)財務局発注の特定医療用べッドの指名競争入札等に参加している販売業者は、いずれも、メーカー3社のいずれかの医療用べッドを納入予定として入札に参加している。
(7)Yは、仕様書入札において、前記(5)の東京都の方針を承知の上、医療用ベッドの仕様に精通していない都立病院の入札事務担当者に対し、つぎの行為により、同社の製品のみが適合する仕様書とすることを実現した。
(a)同社の製品のみが適合する仕様を含んでいても対外的には東京都の方針に反していることが露見しないように仕様書を作成することができると申し出た。
(b)同社が実用新案権等の工業所有権を有している構造であることを伏せて、仕様書に同構造の仕様を盛り込むことを働きかけた。
(c)仕様書に競合2社の標準品の仕様にはなく、競合2社がそれに適合する製品を製造するためには相当の費用および時間を要することが予想されるYの標準品等の仕様を盛り込むことを働きかけた。
(8)Yは、さらに、入札事務担当者をして、つぎの行為をさせた。
(a)入札のための現場説明会において仕様書の内容を説明する際に、同社の製品の仕様のみに合致する内容を説明し、またはメーカー3社の標準品の機能等を比較しYの製品の機能が競合2社の製品の機能に比して著しく優れていることを示すYの作成による一覧表を掲示して説明し、入札参加者に対し、同社の医療用べッドを発注する旨表明させた。
(b)仕様書が同社の製品しか対応できない内容ではないか等の競合2社等からの質問および仕様書の修正要求に対して、Yの作成した回答に従って、当該仕様書の内容の必要性等を回答させ、かつ、修正要求に応じないと回答させた。
(9)Yは、平成17年度以降、財務局発注の特定医療用べッドの仕様書入札および同社の製品の製品指定入札において、入札参加者の中から、あらかじめ、落札すべき者(以下「落札予定者」という。)を決めるとともに、落札予定価格を決め、落札予定者および他の入札参加者に対し、それぞれ、入札すべき価格を指示し、当該価格で入札させている。
(10)Yは、前記(9)の行為の実効を確保するため、落札予定者以外の入札参加者に対し、同社が指示する価格で入札することを要請、その際、入札における協力への礼金(以下「入札協力金」という。)の提供または落札された製品について帳票類上のみの取引に参加させること(以下「伝票回し」という。)による利益の提供を申し出て、落札予定者が落札した場合、他の取引に係る販売手数料に偽装する等により入札協力金の提供を行い、または落札された製品について落札者に仕入先および仕入価格を指示するとともに、伝票回しに参加させる入札参加者に販売先、販売価格、仕入先および仕入価格を、それぞれ指示し、帳票類を作成させ、これに従って仕入れ、販売させることにより利益を提供している。
(11)Yの前記(10)の行為により、平成17年度以降、財務局発注の特定医療用べッドについて、仕様書入札のほとんどの案件において、他の製造業者が製造する医療用べッドを納入予定とする販売業者は入札に参加することができず、その結果、他の製造業者は製品を納入することができなくなっており、また、仕様書入札のほとんどの案件およびYの製品の製品指定入札の案件において、入札参加者は同社から入札価格の指示を受けて、当該価格で入札させられており、その結果、同社が定めた落札予定者が同社が定めた落札予定価格で落札している。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し排除措置命令を行なったが、Yの請求で審判開始を決定した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
38.粉ミルク・メーカーによる再販価格拘束と販売先制限:
[論点」「正当な理由がないのに」。ブランド・ロックイン。裁判官視点。
[事実]
(1)Y株式会社(以下「Y」という。)は、育児用粉ミルク、家庭薬、食品等の製造または販売を業とするものである。
(2)育児用粉ミルクについては、その商品の特性から、消費者は銘柄を指定して購入するのが常態であり、使用後においては原則として他の銘柄に切り替えるこどがないため、このような需要に応じて販売する小売業者の注文に応ずる卸売業者は、小売業者の発注に沿う銘柄を常備しておく必要がある。そして、このことは、Yが販売する育児用粉ミルクについても、同粉ミルクについての卸売業者の販売量ならびに売上額のいかんにかかわらず、同様である。Yは、同粉ミルクを、一部病院、乳児院に直接販売するほかはすべて、Yが製造または販売する他の多数の育児用商品および乳幼児用薬品等の卸販売を行なっている薬系の卸売業者に販売している。
(3)Yは、平成22年6月29日、本社会議室において「営業部所長会議」(取締役営業部長、販売計画課長、宣伝課長、販売計画 主任、調査主任、嘱託、大阪支店長、東京、名古屋および福岡の各営業所長出席)を開催し、同年10月から発売する予定の「ミルクA新製品」(以下「A」という。)の販売対策について検討し、あわせて同年4月にすでに発売を開始していた「ミルクN」(以下「N」という。)の販売についても同様の対策を講ずることとした。この販売対策の趣旨は、育児用粉ミルクについては、低利潤商品であるにもかかわらず、従来一部においてYが定める販売価格以下で安売りされていることから、卸売業者および小売業者のうちには、Yに対しても価格維持の施策を求める要望が多く、この要望に応じて販売価格の安定をはかることこそYの育児用粉ミルクの拡売を遂げることとなる、というにある。そのため、同会議において、同販売対策として小売業者の登録制度ならびに感謝金制度および商品流通経路を確認する制度を設けることを決め、同年7月23日の営業部会議においてその具体策を確定して、次のとおりの方法を決定した。
(a)AおよびNの価格建て等を次のとおりとする。
@ |
Yから卸売業者への販売価格 |
卸売業者から小売業者への販売価格 |
小売業者の販売価格 |
A 1,200g |
750円 |
750円 |
770円 |
N 450g |
290円 |
290円 |
300円 |
AYは、卸売業者に対して、配達手数料として1,200g、450gともに一梱(1,200gグラム入り12缶、450g入り24缶)あたり60円を支払うこととし、毎月末その支払いをする。
B以上によって生ずる卸売業者の配達手数料名義の差益(1,200g入りについては約0.7%、450g入りについては約0.9%)以外の利潤については、Yから、感謝金名義をもって年2回にわけて後払いすることとし、卸売業者は、右@記載の代金の支払いにあたっては、実質上配達手数料を差し引いた額について支払うこととする。
(b)前記(a)B記載の感謝金の額は、販売数量を基礎とするほか、さらに各卸売業者ごとに売上伸長率、支払方法、価格維持の要請に対する協力の度合いなどを勘案してYの裁量で加減し、総マージン率約5%の範囲で決定する。
(c)前記(3)(a)の価格建てによる小売販売価格(以下「指示小売価格」という。)を維持するため、小売業者の登録制度を設け、指示小売価格を守って販売し、これを守らなかった場合には登録を取り消されても異存がない旨を誓約した小売業者から、卸売業者を介して登録書を提出せしめて登録したうえ、卸売業者については、登録小売業者以外には販売させないこと、卸売業者がこれを守らなかった場合には価格維持に協力しないものとして前記(b)による算定にあたって不利益な処置をとる。
(d)前記(a)の価格建てによる卸売価格(以下「指示卸売価格」という。)と指示小売価格による各販売および前記(c)の販売先の制限を確保し、かつ確認するため、育児用粉ミルクの流通経路を確認することとし、流通経路確認票を作成し、これを卸売業者に交付し、卸売業者をして販売のつど販売先小売業者名、数量等の所定事項を3枚綴りの複写式票に記入させ、1通をYに、1通を販売先小売業者に交付し、1通を卸売業者が保存する。
(4)Yは、同年8月下旬から10月下旬にかけて支店および各営業所ごとに、卸売業者に対するAの発表会を開催した際、その席上、出席卸売業者に対して、前記(3)(a)の価格建て等を記載した「お得意卸店様」あて「A新製品発売ごあいさつ」と題する書面と、指示小売価格を維持することをYに対し誓約する趣旨の文言を刷りこんだ「小売販売登録書」および前記(3)(d)の作成要領等を記入した流通経路確認票の各見本を配付し、Yの意図を説明した。その説明の要旨は、改めて、Yから卸売業者への販売価格と指示卸売価格を同一額として、卸売業者をして同額をYに支払わせるものとし、主な利潤は感謝金をもってあてることとする新制度は、これにより価格維持施策を推進するものであるから、卸売業者は、指示卸売価格を守って販売すること、また指示小売価格を守る旨を誓約した登録小売業者以外には販売しないことを要請し、前記(3)(d)記載の内容を説明し、卸売業者がYの右要請に従わない場合には不利益な処置として前記(3)(c)の結果による感謝金の加減を考慮する場合があることを告知したものであり、同説明によって、出席卸売業者はYの同要請に応じない場合には、少くとも惑謝金の算定にあたって不利益を受けるであろうと考えるに至った。なお、右発表会に欠席した卸売業者に対しては、Yの社員が前記書面の資料を持参して、直接、右同旨の説明を行なった。
(5)Yは、前記趣旨にもとづいて小売業者の登録を行ない、同年9月から同年11月にかけて前記の方法による販売を実施しているものである。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対して、@Yが販売する育児用粉ミルクについて、卸売価格を維持するため、および小売価格を維持するための卸売業者に対する販売対策を破棄しなければならない、AYは、同粉ミルクを卸売業者に販売するにあたって、卸売価格および小売価格を維持するために、Yが定めた価格建てによる卸売価格を守って卸販売すること、およびYが定めた価格建てによる小売価格を守って小売販売する登録小売業者以外には販売しないこと、とのYの要請に対する協力の度合いを基準として感謝金名義の歩奨金を算定して支払ってはならない等を内容とする排除措置を命令したが、Yの請求で審判を開始した。審決は、Yの行為を2条9項4号および一般指定12項該当の19条違反と認め、同内容の排除措置を命じた。
[訴訟]
Yは審決の取消を請求して東京高裁に提訴した。Yの主張はつぎのとおりである。
(1)本件販売対策が卸売業者と小売業者との取引を拘束するものであるとした審決の認定は不合理であり、特に審決がその拘束力の有無を判断するにあたつて最も重視すべきYの育児用粉ミルクの市場占拠率いかんを考慮していない点において重大な誤りがある。
(2)審判が、Yの本件再販売価格維持行為に、2条9項4号にいう「正当な理由」がないとしたことは、法の解釈を誤り、判断を遺脱したものである。
(3)再販売価格維持行為が市場競争力の弱い商品について行われる場合には、それによりかえつて他の商品との間における競争が促進されるから、「正当な理由」を認めるべきである。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに、前記のY主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
39.工事機械メーカー単独と施工業者共同による供給拒絶:
[論点」垂直共謀による市場閉鎖。審判官視点。
[事実]
(1)株式会社Y1〜Y17(以下「17社」という。)は、建設業法の規定に基づき建設大臣または府県知事の許可を受け、R工法による下水道管の敷設工事(以下「R工事」という。)等の土木工事業を営む者である。
(2)株式会社Y(以下「Y」という。)は、建設機械販売業を営む者である。
(3)R工法は、施工現場の状況から推進工法によることが適している工事であって、礫、玉石、転石の混り土、岩盤等の硬度が高い土質における工事に特に適した工法であるといわれており、R工事を施工する際には専用の機械(以下「R機械」という。)を使用する必要がある。また、R工事の施工実績は、近年、増加している。
(4)Yは、我が国においてR工事の施工業者(以下「施工業者」という。)向けに販売されるR機械の大部分を販売している。
(5)17社は、R工法の施工に関する事項についての会員相互の意思疎通を図ること等を目的とするR工法協会施工部会と称する団体(以下「施工部会」という。)の会員である。
(6)Yは、かねてから、R機械の販売に当たり、取引の相手方に対し、排他的に施工地域を保証する旨を説明することによりR機械の販売促進を図っている。
(7)前記(6)の説明を受けてR機械を購入した施工業者の中に、施工地域について他の施工業者に対し既得権を主張する者が増えてきたところ、施工業者およびYは、既にR機械を保有している者以外の者からR機械の購入希望があった場合には、その都度対応を協議し、R機械の販売に反対する施工業者がいるときには、Yは、R機械を販売しないようにしている。
(8)17社は、平成20年11月28日、広島市で開催した施工部会の設立総会において、施工部会の会員以外の者(以下「非会員」という。)が新たにR工事を施工できるようになることにより、個々の会員との間で受注競争が生じるのを阻止すること等を目的に、Yが非会員に対し、R機械の販売および貸与を行わないことを前提として、つぎの事項を決定した。
(a)施工部会細則と称する規則を設け、同規則において、施工部会の会員が遵守すべき事項として、非会員に対するR機械の貸与および転売を禁止する。
(b)前記規則を厳守する旨の同意書を施工部会に提出する。
(c)新たに施工部会に入会するためには、施工部会に右同意書を提出し、施工部会長の承認を得ることを要件とする。
(9)Yは、17社が前記規則を設けるに当たって、YのR機械販売担当者がその原案を作成し、前記設立総会において同原案の内容を会員に対し説明するなど、中心的な役割を果たすとともに、会員との信頼関係を維持しR機械の販売の継続を図るため、同設立総会が開催された平成20年11月28日以降、17社とともに、自らも、非会員に対しては、施工部会への入会が認められない限り、R機械の販売および貸与を行わないこととした。
(10)17社は、前記(8)により、平成20年11月28日以降、例外的な場合を除き、非会員に対しR機械の貸与および転売を行っておらず、非会員がR工事を施工することができないようにしている。
(11)Yは、前記(9)により、平成20年11月28日以降、非会員に対しR機械の販売および貸与を行っておらず、非会員がR工事を施工することができないようにしている。
[審判]
公正取引委員会は、Yおよび17社に対し排除措置命令を行なったが、Yおよび17社の請求により、審判開始を決定した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
40.応用ソフトウエアの抱き合わせ販売:
[論点」公正競争阻害性。審判官視点。
[事実]
(1)Y株式会社(以下「Y」という。)は、アメリカ合衆国ワシンントン州所在のYコーポレーションが全額出資している法人であり、パーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)用ソフトウェアの開発およびライセンスの供与に係る事業を営む者である。
(2)Yは、我が国に所在するパソコン製造販売業者との間で、Yコーポレーションが契約する基本ソフトウェア等に係るライセンス契約の締結交渉を行うほか、表計算用ソフトウェア(以下「表計算ソフト」という。)である「エクセル」、ワードプロセッサ用ソフトウェア(以下「ワープロソフト」という。)である「ワード」、スケジュール管理用ソフトウェア(以下「スケジュール管理ソフト」という。)である「アウトルック」等の応用ソフトウェアを開発し、ライセンス供与している。
(3)応用ソフトウェアのうち、一般消費者の需要が最も大きいのは、表計算ソフトおよびワープロソフトであり、スケジュール管理ソフトも近年需要が増大している。
(4)表計算ソフト、ワープロソフトおよびスケジュール管理ソフトは、それぞれ、機能、種類の異なるソフトウェアである。Yは、「エクセル」、「ワード」または「アウトルック」を、パッケージ製品(ソフトウェアと取扱説明書を一体とした製品をいう。以下同じ。)としては、それぞれ単体でも供給している。
(5)表計算ソフトについては、Yが基本ソフトウェアである「ウインドウズ 3.1」の供給を開始した平成5年ころから、同社の「エクセル」が、一般消費者の人気を得て、表計算ソフトの市場において市場占拠率は第1位であった。
(6)ワープロソフトについては、Yは、平成3年12月、日本語ワープロソフトである「ワード」の供給を開始したが、「ワード」は、英文用ワープロソフトとして開発されたYコーポレーションの「WORD」を基に開発されたため、日本語特有のかな漢字変換機能が十分ではない等の理由から、「ワード」の供給開始後も、株式会社Aが日本語ワープロソフトとして先行して供給していた「一太郎」に対する一般消費者の人気が高く、平成6年当時は、「一太郎」が、ワープロソフトの市場において市場占拠率は第1位であった。
(7)スケジュール管理ソフトについては、平成8年までは、B株式会社が供給している「オーガナイザー」が、スケジュール管理ソフトの市場において市場占拠率は第1位であった。
(8)パソコン製造販売業者は、表計算ソフト、ワープロソフト等の中心的な応用ソフトウェアをパソコン本体に搭載または同梱して販売する場合があり、平成9年に出荷されたパソコンのうち、表計算ソフトおよびワープロソフトが搭載または同梱されて出荷されたものの割合は約4割となっている。この際、パソコン製造販売業者は、パソコン製造に係るコストが増加すること等の理由から、通常、同種のソフトウェアを重複してパソコン本体に搭載または同梱して出荷することは行っていない。
(9)一般消費者がパソコンを購入する場合、搭載または同梱されている表計算ソフトまたはワープロソフトが選択の基準の一つとなっている。パソコン本体に搭載または同梱されたソフトウェアについて、いわゆるバージョンアップ(同一のソフトウェアが改良されることをいう。以下同じ。)が行われた場合、一般消費者は、当該ソフトウェアのパッケージ製品を購入することが多い。
(10)Yは、前記(6)記載の状況を受け、遅くとも平成4年ころ以降、我が国のワープロソフトの市場において、「ワード」の市場占拠率を高めることに力を注いでいた。
(11)主要なパソコン製造販売業者の1つであるC式会社(以下「C」という。)は、平成6年11月、ワープロソフトとして「一太郎」を搭載したパソコンを発売したところ、同機は一般消費者の人気を博した。
(12)Yは、当初、パソコン製造販売業者が自社独自の応用ソフトウェアをパソコン本体に搭載して出荷することに否定的であったが、「ワード」に競合する「一太郎」のみがパソコン本体に搭載されて販売されることは、「ワード」の市場占拠率を高める上で重大な障害となるものと危惧し、パソコン製造販売業者の出荷するパソコンについて、表計算ソフトの市場において有力な「エクセル」とともに「ワード」を搭載させることとし、「ワード」のパソコン製造販売業者向けの供給を拡大することとした。
(13)Yは、平成7年1月ころ、Cに対し、「エクセル」と「ワード」を併せてパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾する契約の締結を申し入れた。この申入れに対し、Cは、当時表計算ソフトとして最も人気があった「エクセル」と当時ワープロソフトとして最も人気があった「一太郎」を併せて搭載したパソコンを発売することを希望し、「エクセル」のみをパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾する契約の締結を要請した。しかしながら、Yは、この要請を拒絶し、平成7年3月1日付けで、Cとの間で、「エクセル」と「ワード」を併せてパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾する契約(以下単に「プレインストール契約」という。)を締結した。この契約の締結により、Cは、平成7年3月、「エクセル」と「ワード」を併せて搭載したパソコンを発売した。
(14)Yは、平成7年8月ころ、主要なパソコン製造販売業者の1つであるD株式会社(以下「D」という。)に対し、プレインストール契約を締結することを提案した。Dは、当時搭載する表計算ソフトとワープロソフトの種類を検討していたところ、Yが「エクセル」と「ワード」とを分離してパソコン本体に搭載して出荷する権利を許諾しないであろうと考えたこと等から、この提案を受け入れ、Yとの間で、プレインストール契約を締結した。この契約の締結により、Dは、平成7年11月、「エクセル」と「ワード」を併せて搭載したパソコンを発売した。
(15)Yは、平成8年1月以降、「エクセル」および「ワード」のいわゆるバージョンアップに伴い、CおよびDとの間で、プレインストール契約を更新するとともに、その他のパソコン製造販売業者との間で、順次、プレインストール契約を締結した。Yは、この契約の締結交渉の際に、一部のパソコン製造販売業者から「エクセル」のみを対象とした契約を締結することを要請されたが、これを拒絶し、プレインストール契約を受け入れさせた。Yとプレインストール契約を締結したこれらパソコン製造販売業者は、平成8年2月以降、「エクセル」と「ワード」を併せて搭載したパソコンを販売した。
(16)Yは、平成8年7月、一部のパソコン販売業者から「エクセル」のみを対象とした契約を締結することを要請されたが、これを拒絶した。
(17)Yは、平成8年8月、パソコン製造販売業者であるE株式会社(以下「E」という。)との間で、また、平成8年10月には、パソコン製造販売業者であるF株式会社(以下「F」という。)との間で、それぞれ、「エクセル」と「ワード」を併せてパソコン本体に同梱して出荷する権利を許諾する契約を締結した。この契約の締結により、Eは平成8年9月、Fは平成8年10月、それぞれ、「エクセル」と「ワード」を併せて同梱したパソコンを発売した。
(18)Yは、平成9年3月、「アウトルック」と称するスケジュール管理ソフトの供給を開始したところ、これに先立ち、「アウトルック」の供給を拡大するために、パソコン製造販売業者に対し、「エクセル」および「ワード」に加えて「アウトルック」を併せてパソコン本体に搭載または同梱させることを企図し、平成8年12月以降、「エクセル」および「ワード」のいわゆるバージョンアップに伴う契約更新の際に、パソコン製造販売業者に対し、「エクセル」、「ワード」および「アウトルック」を併せてパソコン本体に搭載または同梱して出荷する権利を許諾する契約を締結することを提案し、平成9年3月以降、パソコン製造販売業者との間で、プレインストール契約等を更改し、あるいは、新たに締結した。
(19)Yは、この契約交渉の際に、一部のパソコン製造販売業者から、従来どおり「エクセル」および「ワード」のみを対象とした契約を締結することを要請されたが、これを拒絶し、契約交渉を行ったパソコン製造販売業者すべてに、「エクセル」、「ワード」および「アウトルック」を併せてパソコン本体に搭載または同梱して出荷する権利を許諾する契約の締結を受け入れさせた。
(20)この契約の更改または締結により、パソコン製造販売業者は、平成9年3月以降、「エクセル」、「ワード」および「アウトルック」を併せて搭載または同梱したパソコンを発売した。
(21)Yの前記行為に伴い、平成7年以降、ワープロソフトの市場における「ワード」の市場占拠率が拡大し、平成9年度には第1位を占めるに至っている。また、平成9年度には、スケジュール管理ソフトの市場において、「アウトルック」が第1位を占めるに至っている。
[審判]
公正取引委員会は、平成10年11月20日、「@Yは、取引先パーソナルコンピュータ製造販売業者に対し、同製造販売業者が「エクセル」と称する表計算用ソフトウェアをパーソナルコンピュータ本体に搭載または同梱して出荷する権利を許諾する際に、「ワード」と称するワードプロセッサ用ソフトウェアを併せて搭載または同梱させている行為、さらに、「エクセル」および「ワード」をパーソナルコンピュータ本体に搭載または同梱して出荷する権利を許諾する際に、「アウトルック」と称するスケジュール管理用ソフトウェアを併せて搭載または同梱させている行為を取りやめなければならない。AYは、取引先パーソナルコンピュータ製造販売業者と締結している「エクセル」、「ワード」および「アウトルック」を併せてパーソナルコンピュータ本体に搭載または同梱して出荷する権利を許諾する契約について、このうち1または2のソフトウェアを搭載または同梱して出荷する権利を許諾する契約に変更するよう取引先パーソナルコンピュータ製造販売業者から申出を受けた場合には、当該申出に応じなければならない。」などを内容とする命ずる排除措置命令を行ったが、Yの申立で審判が行われた。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
41.生コン協組による取引拒絶と拘束条件付取引:
[論点]一店一帳合制。一般指定11項と12項の使い分け。組合の行為。審判官視点。
[事実]
(1)O県南生コンクリート協同組合(以下「Y」という。)は、O県南地区内において生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造業を営む者を組合員として、平成22年5月14日、中小企業等協同組合法に基づき、組合員の製造する生コンの共同販売を行うこと等を目的として設立された事業協同組合であって、組合員は、平成23年12月末日現在23名である。
(2)Yは、組合員から生コンを買い受けてこれを生コン販売業者に販売しており、その販売量は、県南地区における生コンの総販売量の大部分を占めている。
(3)Yは、平成22年10月から生コンの共同販売事業を開始し、これに伴い、Yの販売する生コンを取り扱う生コン販売業者を「代行販売店」と称し、代行販売店がY以外の者から生コンを購入することを制限する条項を含む「代行販売店取引基本契約」を、代行販売店各店と締結した。
(4)Yは、右の共同販売によっては生コンの価格維持の実効が挙がらなかったとして、平成23年6月ごろ、代行販売店のうち一部の有力な生コン販売業者に対し、生コン販売業者においても協同組合を設立して生コンの共同販売事業を行うことを要請した。この要請を受けて、同年7月7日、これらの生コン販売業者が中心となってO県南生コン卸商協同組合(以下「X」という。)の設立準備委員会が発足した。同月18日、Yの会議室において、生コン販売業者を招集してXの設立趣旨説明会が開催され、この会合において、準備委員会より、Xの行う共同販売事業の内容及ぴXに加入しない者はYの代行販売店になることができなくなる旨が説明され、また、Xへの加入申込書が配布された。
(5)Xは、O県南地区において生コンの販売業を営む者を組合員として、平成23年9月22日、中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合として、組合員の取り扱う生コンの共同販売を行うこと等を目的として設立され、組合員は、平成23年12月末日現在30名である。
(6)Xは、組合員からYの販売する生コンを買い受けてこれを生コンの小売業者または需要者に販売している。
(7)YとXの間には、Yの組合員のうち15名がXの組合員であるかまたはXの組合員と代表取締役が同一人である事業者であることなど密接な関係がある。
(8)Yは、Xの共同販売事業の開始に伴って、前記代行販売店取引基本契約を改定することとし、平成23年7月21日、従来の代行販売店に対し、同年9月30日をもって従来の契約を解約する旨を通知し、同年10月22日、Xに加入した生コン販売業者に対し同月1日付けの新代行販売店取引基本契約書を送付して、同月中にこの契約を締結したが、従来の代行販売店のうちXに加入しなかった者とはこれを締結しなかった。
(9)Yは、代行販売店取引基本契約において、代行販売店はXの組合員に限る旨(第1条第2項)の条項を設け、Xの組合員である生コン販売業者のみに対して生コンを販売している。
(10)Yは、代行販売店取引基本契約において、代行販売店はYの販売する生コン以外の生コンを取り扱う場合にはあらかじめYの了解を受けなければならない旨(第5条)および代行販売店においてYの共同販売事業を阻害する行為があった場合には同契約を解約する旨(第13条)の条項を設け、取引先生コン販売業者にもっぱらYから生コンを購入するようにさせている。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対して排除措置命令を行ったが、Yの請求により、本件審判開始が決定された。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
42.アンプル生地管一手販売業者による排除型私的独占:
[論点」加工業者に対する供給拒絶による輸入妨害。審判官視点。
[事実]
(1)Y株式会社(以下「Y」という。)は、大阪市に本店を置き、注射液等の容器として使用されるアンプル用の生地管(以下「生地管」という。)の販売業者であり、我が国の富山県、岐阜県および愛知県以西の地域(以下「西日本地区」という。)において、我が国唯一の生地管の製造業者であるN電気硝子株式会社(以下「N」という。)から生地管の供給を一手に受け、西日本地区に本店を置き生地管をアンプルに加工し製薬会社に販売する業者(以下「アンプル加工業者」という。)にこれを販売している。
(2)Nは、生地管を含む各種ガラス製品等の製造業の事業を営む者であり、昭和58年ころ以降、我が国唯一の生地管の製造業者である。N製生地管の我が国におけるシェアは、平成20年度において、国産生地管では100%であり、輸入生地管を含めた生地管全体では約93%を占めている。
(3)M硝子株式会社(以下「M」という。)は、東京都に本店を置き、生地管の販売業の事業を営む者であり、我が国の静岡県、長野県および新潟県以東の地域(以下「東日本地区」という。)において、NからN製生地管の供給を一手に受け、東日本地区に本店を置くアンプル加工業者に販売している。
(4)X硝子工業株式会社(以下「X」という。)は、大阪市に本店を置き、YからN製生地管を購入するとともに、生地管を輸入して、アンプルを製造し、製薬会社に販売する等の事業を営む者である。Xの売上げの約9割は、アンプルが占める。Xが製造販売するアンプルのうち輸入生地管を使用したアンプルの販売金額のアンプルの売上げ全体に占める割合は第1表のとおりである。Xが仕入れる生地管の数量の内訳は、平成14年から平成15年においては、輸入生地管が約6割、N製生地管が約4割となっている。
第1表
平成年度 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
% |
10 |
20 |
20 |
22 |
22 |
49 |
65 |
(5)前記のとおりNは我が国の唯一の製造業者であるが、海外には、ドイツ、アメリカ、韓国、イタリア等に有力な生地管製造業者がある。外国の生地管製造業者の工場出し値の平均は、平成17年当時、Nの出し値のおよそ半額から3分の2であり、著しい内外価格差があった。上記海外各社が生産する生地管の品質については、N製生地管に比して遜色がない。
(6)昭和58年ころ以降、我が国において唯一の生地管製造業者であるNは、昭和33年4月にMと、昭和37年6月にYと、それぞれ販売代理店契約を締結している。各契約において、YおよびMの販売地域が定められており、西日本地区に本店を置くアンプル加工業者に対してはYのみが、東日本地区に本店を置くアンプル加工業者に対してはMのみがN製生地管を販売することが定められている。YおよびMは、Nとの契約により、各社の販売地域外への販売を行うことはできず、また、各社の販売地域外に本店を置くアンプル加工業者の注文に応じて販売することもできない。さらに、Nは、販売代理店契約を理由にして、アンプル加工業者に対して、生地管を直接販売していない。したがって、西日本地区に本店を置くアンプル加工業者は、YのみからN製生地管を購入せざるを得ない状況にあった。
(7)Nは、代理店からの発注を受けて、通常1か月以内に代理店に対し生地管を納入している。Yは、取引先のアンプル加工業者のために、継続的に注文がある生地管について数か月分の注文に対応できる在庫を保有し、アンプル加工業者に対する販売の状況やNの生産設備の能力を勘案しながら、基本的に1か月ごとに、生地管をNに発注していた。
(8)平成14年秋ころXが輸入生地管の取扱いを開始するまで、我が国市場への輸入生地管の顕著な流入はなかった。西日本地区において、Yの販売するN製生地管にとって、唯一競争品となるのは輸入生地管であるが、平成14年以降、生地管を大量に輸入しているのは、Xのみであり、現在、X以外に生地管を輸入しているアンプル加工業者はほとんど存在しない。
(9)西日本地区のアンプル加工業者向け生地管取引におけるYのシェア(販売数量ベース)は第2表のとおりである。その余の大部分は、Xの輸入生地管が占める。
第2表
平成年度 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
% |
92 |
94 |
92 |
91 |
90 |
80 |
85 |
(10)我が国の製薬会社は、これまでN製生地管により安定供給が確保され、同社製生地管を使用したアンプルに品質面で問題がない状況の下、これを使用したアンプルから輸入生地管を使用したアンプルに切り替える場合には、薬液耐性、溶質検査等の検査が必要であり、かつ、当該検査に3か月から6か月以上を要することもあって、輸入生地管を使用したアンプルに切り替えることには慎重であり、そのためアンプル加工業者は、N製生地管を欠かすことができない状況にあり、西日本地区に本店を置くアンプル加工業者は、YからのN製生地管の供給なくしては事業活動を行うことが極めて困難である。
(11)Yは、特定の取引先アンプル加工業者1社に対してのみ、取引するすべてのN製生地管の値上げを行ったことはない。
(12)Yは、アンプル加工業者に対するN製生地管の販売に当たって、Nの協力を得て、各種の特別値引きを行っている。
(13)Xは、平成13年夏ころから生地管の輸入を検討し始め、取引先製薬会社の一部から了解が得られたので、平成14年秋ころから、韓国製生地管の輸入を開始し、従来N製生地管を使用したアンプルを販売していた取引先製薬会社に対して輸入生地管を使用したアンプルを販売し始めた。
(14)Y、NおよびMは、Xの生地管の輸入に対する対応策等について、以下のとおり検討を行った。
(a)平成16年8月31日、NのK専務が、Yの本社を訪問し、YのS社長に対し、Xが生地管を輸入していることについての考えを尋ねたところ、S社長は、@Xが輸入している生地管と同じサイズのN製生地管の販売価格を、X以外のアンプル加工業者に対して引き下げる方法、AXの生地管輸入を一定数量に限定して認める方法、BXがアンプルを販売している製薬会社と取引するアンプル加工業者に対して、N製生地管の販売価格を引き下げる「X包囲網」と称する方法等の対応策を提案した。
(b)平成16年10月24日ころ、NのK専務は、Yの本社を訪問し、YのS社長に対して、同年8月31日にS社長から出された対応策には反対であり、特定のアンプル加工業者への販売価格を引き下げるような不平等な方法ではなく、すべてのアンプル加工業者への販売価格を引き下げることが必要であると主張した。これに対し、S社長は、当該主張は理解できないと述べ、代理店のマージンの範囲内で「X包囲網」を独自に実施するなどと反論した。平成16年11月14日、YのS社長は、NのK専務に対し、Xの輸入をストップさせる必要がある、Xに対する対応は自分に仕切らせてほしいと述べた。
(15)YのS社長は、平成16年10月31日、XのT社長に対し、「Xが村の掟を破った。信義にもとる行為をした。信義とはNの生地管を使うことだ。」、「Nは1本たりとも輸入してほしくないと言っている。生地管の輸入をやめれば、NとYがそれによる損失を補てんする。」などと言って、Xが生地管の輸入を取りやめること、または、Xが輸入量を一定数量に抑えることを要請し、どちらにも応じない場合には、対抗策を講じることを伝えた。これに対して、XのT社長は、N製生地管のみでは安定供給に不安があることなどを理由に輸入生地管を使用したい旨述べた。
(16)(第1の行為)Xとの交渉決裂の後、YのS社長は、Xに対するN製生地管の取引条件を変更することとした。そして、平成17年3月1日、Yは、Xに対し、同年4月1日以降の納入分から、N製生地管を、現行の販売価格から平均20%程度値上げすることおよびそれまでYがXに対して実施していた各種の特別値引きを全廃することならびに手形サイトを180日から120日に短縮することを申し入れた。Yが値上げを申し入れた価格は、Yの当時のアンプル加工業者に対する価格中で最も高い価格であった。
(17)XのT社長は、Yからの取引条件の変更の申入れは、Xによる輸入生地管の取扱いに対する抑制および制裁を目的とする独占禁止法に明白に抵触する行為であり、Yとの交渉によって解決すべき問題ではないと判断して、Yからの申入れを交渉の姿勢を示すことなく拒否し、平成17年4月1日以降も、Yに対し、同年3月以前の価格、すなわち、取引条件の変更の申入れ前の単価および特別値引きによる金額ならびに従前の手形サイトでN製生地管の納入代金を支払い続け、同年8月4日、同年4月からの値上げの申入れを了承していない旨の内容証明郵便をYに送付した。
(18)Xは、一定品種の生地管が製薬会社の検査に合格し、韓国からの輸入生地管に切り替えることができた結果、Yからの同生地管の購入量が激減した。しかし、平成19年4月ころ、韓国輸入先の窯の不具合等から生地管の安定調達が困難となり、Yから調達を行うこととした。
(19)(第2の行為)Xは、Yに対して、同生地管を、平成19年5月16日ころ同月の納期分として追加発注した。しかし、Yは、同年8月1日ころ、Xに対し、同生地管の注文を受注できない旨通告した。Yは、Xが、同生地管を輸入していた事実を認識し、また、輸入先の窯が不調で生産が不安定となっている情報も入手していた。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し、前記(16)および(19)の行為の排除措置を命令した。Yは当該行為を停止しながら、審判手続きを請求した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に依拠して、どのような審決案を作成するか。その理由とともに概要を述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
43.廉売店に対する家電トップ・メーカーによる間接の取引拒絶:
[論点」再販価格拘束に至らない差別。審判官視点。
[事実]
(1)Y電器産業株式会社(以下「Y」という。)は、家庭用電気製品の製造販売業を営む者である。
(2)Yは、同社の商標を付した家庭用電気製品(以下「Y製電気製品」という。)を、同社が出資する販売会社(以下「販社」という。)ならびにYまたは販社と代理店契約を締結している卸売業者(以下「代理店」という。)を通じて小売業者に供給し、これらの小売業者を通じて一般消費者に販売している。販社は、専らY製電気製品をYの営業方針に基づいて販売するなどYの実質的な販売部門として営業活動を行っている。
(3)Yは、多くの家庭用電気製品において販売額第1位の地位を占めるなど我が国の家庭用電気製品の販売分野における有力な事業者であり、また、Y製電気製品は、一般消費者の間において高い人気を有していることから、家庭用電気製品の小売業者にとっては、Y製電気製品を取り扱うことが営業上有利であるとされている。
(4)Yは、自己の経営理念および販売方針を受け入れる家庭用電気製品の小売業者に対してY製電気製品を供給することとしており、販社は、これらの小売業者と継続的な取引契約を締結している状況にある(以下、かかる契約を締結している小売業者を「取引先小売店」という。)。
(5)Yは、平成15年ころ、販社と継続的な取引契約を締結していない小売業者(以下「未取引先小売店」という。)がY製電気製品の廉売を行う事例が多くみられ、取引先小売店から当該廉売に関して苦情を受けるようになったことを踏まえ、同年ころ以降、自社および販社の販売担当者が売上げの拡大を求める結果として未取引先小売店に対してY製電気製品が供給されることのないよう、まず、このような販売姿勢を改めることとし、Y製電気製品のうち自社があらかじめ定めた主要な製品を未取引先小売店が廉売しているとの情報に接した場合には、販社と一体となって、当該製品の流通経路を調査していた。
(6)しかし、上記取組によっても未取引先小売店へのY製電気製品の供給を抑止する上で十分な効果が挙がらなかったことから、Yは、平成20年1月ころ、全国の10地区において、地区ごとに、同社家電・情報営業本部の担当部長、当該地区に所在する各販社の販売責任者等で構成する「市場情報交換会」と称する会議を設けるとともに、過去に未取引先小売店に直接または間接にY製電気製品を販売したことのある代理店および取引先小売店(以下「代理店等」という。)に対する販売管理の強化を図ることとした。
(7)Yは、前記(5)の取組を推進する中で、取引先小売店の経営の安定を図る等の観点から、平成20年1月ころ以降、全国各地において、取引先小売店から未取引先小売店によるY製電気製品の廉売に関して苦情があった際には、販社と一体となって、前記(5)の調査を行い、その結果、当該未取引先小売店に直接または間接に当該製品を販売していた代理店等が判明した場合には、つぎの行為等により、代理店等に対し、Y製電気製品の廉売を行っている未取引先小売店に直接または間接にY製電気製品を販売しないようにさせていた。
(a)当該代理店等に対し、当該未取引先小売店にY製電気製品を直接または間接に販売しないよう要請する。
(b)前記(a)の要請に従わない代理店等に対しては、Y製電気製品の販売数量を制限する、リベートを減額する若しくはY製電気製品の販売価格を引き上げるまたはこれらの行為を行う旨を示唆する。
(8)平成22年10月12日、本件について、当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ、Yは、同日以降、前記(5)の調査を行っておらず、前記(7)の行為を取りやめている。
[審判]
平成23年7月27日、公正取引委員会は、Yに対して、排除措置命令を行ったが、Yの申立てにより、審判開始が決定された。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
44.製缶トップによる支配と排除:
[論点」持株による私的独占。審判官視点。
[事実]
(1)Y株式会社(以下「Y」という。)は、食缶その他の各種容器の製造販売業を営む者である。
(2)わが国における食缶の主な製造業者は、Yのほかに、A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、Lの13社で、これら13社は、わが国における食缶のほとんどすべてを供給している。
(3)Cは、Yおよび食缶の大口需要家数社が共同出資して設立した食缶製造業者である。
Yは、現在、数次の意図的な取得により、Cの発行済株式総数200万株の約81%にあたる162万3,000株を、自社名義およびYがその発行済株式総数の過半数を所有している子会社(以下「Yの子会社」という。)の名義により所有している。
Yは、自社の役員または従業員を現職のまま、または、退職させたうえでCの役員または、これに準ずる地位に就任させ、その経営に参加させている。
Yは、「関係会社の運営ならびに事務取扱要領」を定め、これにより、Cを自己の意向に従って営業するよう管理している。
なお、Yは、従来からCに食缶の下請生産をさせているが、現在、Cに下請させている数量は、Cの食缶全販売数量の約33%に達している。
(4)Dは、Yが、四国地区の缶詰製造業者と共同出資して設立した食缶製造業者である。
Yは、現在、数次の意図的な取得により、Dの発行済株式総数2万株の71.5%にあたる1万4,300株をYの子会社の名義により所有している。
Yは、自社の役員または従業員を現職のまま、または、退職させたうえで、Dの役員または、これに準ずる地位に就任させ、その経営に参加させている。
Yは、Dを、Cと同様に管理している。
なお、Yは、従来からDに食缶の下請生産をさせているが、現在、Dに下請させている数量は、Dの食缶全般販売数量の約11.8%に達している。
(5)Bは、Yから分離独立した食缶製造業者である。
Yは、現在、Bの発行済株式総数2,400万株の約29%にあたる693万4,254株をYの子会社の名義により所有している。
Yは、同社とBとが将来合併すべきであるとの基本的諒解を前提として、両者間の協調促進および合併阻害要因の発生の阻止、すなわち、両者間における二重投資および競争関係の成立を意味する一切の営業活動を回避するとの理由の下に、Bの販売地域を北海道一円に限定し、さらに、最近著しく伸長している飲料缶の製造を阻止する等、Bの事業活動を制限しており、その事例は次のとおりである。
(a)Yは、Bから、北洋漁業用食缶の需要が減退したことから本州地区に工場を新設することについて了承を求められたが、了承しなかった。
(b)Yは、その後、Bから、前記同様の事由により、ビール用飲料缶製造のために、本州地区に工場を新設することについて了承を求められたが、了承しなかった。
(c)Yは、Bから粉乳かん製造等のために、本州地区に工場を新設することについて了承を求められたが、同工場をYの管理下におくことを提案し、事実上、了承しなかった。
(d)Yは、Bが埼玉県所在のM株式会社(以下「M」という。)に食缶の製造を開始させたところ、その後その生産数量が製造開始当時に比して倍増したため、Yの従業員をMの常務取締役として派遣し、Mの経営に参加させた。なお、同人は、現在、M代表取締役となっている。現在、Mは食缶の製造を行なっていない。
(e)Yは、Bから北海道地地区において、ガラナ用飲料缶の製造について了承を求められたが、了承しなかった。
(f)Yは、Bから粉乳缶等の製造のために、埼玉県に岩槻工場を新設することについて了承を求められた。Yは、これがBの経営上ややむをえない事情から行なわれたことに鑑み、慎重に検討した結果、事実上、同工場の規模、製造缶型、販売先等についての制限およびY代表取締役を辞任させ、Bの代表取締役に就任させることを条件として同工場を新設することを了承した。
(g)Yは、米国コンチネンタル・キャン社と製缶機械の製造および使用に係る特許と機密技術の実施に関する契約(以下「専用実施契約」という。)を締結し、同一内容の再実施許諾契約をBと締結したが、のち専用実施契約を改訂したうえ、Bと再実施許諾契約の内容改訂について協議し、再実施許諾契約を締結した。
同契約内容は従前の再実施許諾契約に比し新に制約を加えたものとなっており、その制約のうち機械の使用場所については、専用実施契約の内容が変更されていないにもかかわらず、Yの事前承認を受けた工場内とされている。
また、Yは、従来からBに食缶の下請生産を行なわせているが、現在、YがBに下請させている数量は、Bの食缶全販売数量の約20%に達している。
(6)Yは、主要販売先の倒産により、その経営に支障を生じたGから、同社の製造に係る食缶の購入を要請され、Gの食缶を年間約30万ケース購入することとした。
その後、Yは、Gから食缶購入数量の増加および食缶製造機械の販売を含む技術指導の依頼を受けたが、Gに対し、食缶製造機械の販売を含む技術指導を行なうためには、将来、Yに背反することを防止する必要があるとして、Gの発行済株式総数の50%に当る株式5万株を譲り渡すことおよびその他の株主がGの株式を処分する場合はYの承認を受けることを条件として、その依頼に応じた。
その結果、Yは、G株式5万株を取得し、現在所有している。
なお、Yは、Gの株式を取得した後、同社に対し、食缶製造機械を販売するとともに、逐次、Gからの食缶の下請購入数量を増加し、また、同社から毎月、販売先別販売実績について報告を受けている。
なお、Yは、前記のとおり、Gに食缶の下請生産を行なわせているが、現在、Gに下請させている数量は、Gの全販売数量の約36%に達している。
(7)前記のとおり、Yは、C、D、BおよびGの株式の所有等を通じ、これら4社を自己の意向に従って営業させている。
(8)前記(2)のわが国における食缶の製造業者13社の総供給量のうち、現在、Yの占める割合は、約56%であり、これに、前記C等4社の供給量を加えると、その割合は、約74%となる。
また、Yに次ぐAの供給割合は、約23%である。
(9)Yは、缶詰製造機械の販売または貸与を通じ、また、技術サービス、リベート、缶詰の販売あつせんおよび資金援助を活用することにより、自社に対する缶詰製造業者の依存度を高めており、また、Yが多種類の缶型を製造していることから、缶詰製造業者のYに対する依存度はかなり高いものと認められる。
缶詰製造業者のうちには、最近、缶詰製造原価の引下げを図るため、自家消費用の食缶の製造、いわゆる自家製缶を企図する者がある。
Yは、自家製缶に対し、同社の販売数量が減少し、ひいては、食缶業界における地位に悪影響をもたらすものとして、基本的に反対の方針をとり、自家製缶を実施する缶詰製造業者に対しては、自家製缶することのできない食缶の供給を停止する等の措置により、自家製缶の開始を阻止することに努めており、その事例は、次のとおりである。
(a)缶詰製造業者である有限会社N海産(以下「N海産」という。)およびO食品株式会社(以下「O食品」という。)は、P製鉄株式会社(以下「P製鉄」という。)の協力を受け、両社の自家製缶のため共同して、Q工業株式会社(以下「Q工業」という。)を設立した。
これに対し、Yは、P製鉄に対し、N海産の自家製缶を中止させるよう申し入れたが、これを拒否されたため、N海産に対し、Q工業にYも出資して、その経営に参加し、事実上Q工業をYの下請工場とすることを申し入れた。
しかし、N海産は、同社の自家製缶の開始について、P製鉄の協力を得られることならびにEおよびFが不足食缶の供給に全面的に協力することを確約したことからYからの同申し入れを拒否した。
このため、Yは、N海産に対する食缶の供給を停止した。
(b)S食品株式会社(以下「S食品」という。)は、同社工場の隣接地を買収する等して自家製缶の準備を進めていたが、前記(9)(a)のとおり、N海産およびO食品によるQ工業の設立をみたため、これに対するYの動向を見守ることとした。
しかして、Yは、N海産の自家製缶開始に反対して、前記(9)(a)のとおり、N海産に対する食缶の供給を停止した。
このため、S食品は、自家製缶を開始した場合、現状では、自家製缶することのできない食缶を円滑に購入することが不可能となるのではないかとの危惧を抱くに至った。
しかるところ、Yは、S食品の自家製缶開始に関する情報を得たため、S食品に対し、同情報の真偽を確かめた。その際、S食品は、自家製缶の開始をほのめかしつつ、Yに対し、食缶販売価格の引下げを要求した。
これに対し、Yは、2回にわたり、S食品に対する食缶販売価格を引き下げた。
この結果、S食品は、自家製缶開始を、事実上、断念した。
(c)T産業株式会社(以下「T産業」という。)は、かねてから、自家製缶開始について検討を進めていたが、前記(9)(a)のとおり、N海産およびO食品によるQ工業の設立をみたため、これに対するYの動向を見守ることとした。
Yは、N海産の自家製缶開始に反対して、前記(9)(a)のとおり、N海産に対する食缶の供給を停止した。
このため、T産業は、前記(9)(b)のS食品と同様の危惧を抱くに至り、自家製缶開始を事実上、断念した。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し排除措置命令を行なったが、Yの請求で審判開始を決定した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が想定されることもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
45.自動車向け補修用ガラス卸売業者による輸入品取扱小売業者の差別:
[論点」売手段階の価格・非価格差別。審判官視点。
[事実]
(1)Y株式会社(以下「Y」という。)は、国産自動車向け補修用ガラス(以下「補修用ガラス」という。)の卸売業を営む者である。Yは、我が国における補修用ガラスの最大手の製造業者の子会社で、北海道地方、東北地方、信越地方および関東地方の区域において、同製造業者の製品を取り扱う唯一の卸売業者であり、同区域の補修用ガラスの卸売分野において業界第1位を占めている。
(2)国内で使用される補修用ガラスには、自動車製造業者が国内の補修用ガラスの製造業者に製造を依頼し、自社製自動車の部品として販売するもの(以下「純正品」という。)、国内の補修用ガラスの製造業者が自社製品として製造販売するもの(以下「社外品」という。)、海外から我が国に輸入されるもの(以下「輸入品」という。)等がある。
(3)このうち、純正品は、自動車製造業者から部品販売会社を通じて補修用ガラス販売業者(以下「ガラス商」という。)に販売され、ガラス商から主として自動車販売業者に販売されているところ、ガラス商への配送業務については、補修用ガラスの大手製造業者3社の製品を、それぞれ、一手に取り扱う卸売業者(以下「特約店」という。)が行っている。
(4)また、社外品は、補修用ガラスの製造業者から特約店を通じてガラス商に販売され、ガラス商から貨物自動車運送業者等の大口需要者(以下「大口需要者」という。)、自動車販売業者、自動車修理業者等に販売されている。
(5)補修用ガラスには、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス等があり、それぞれに、自動車の車種、年式等に対応する型式があることから、国内で使用される純正品および社外品の型式数は3,000以上に上り、ガラス商は、これの販売に当たって、通常、自動車ガラスの損傷等により補修用ガラスの需要が生じる都度、純正品または社外品を特約店から取り寄せて配送しており、その際、これを自動車に取り付ける作業を併せて行っている。なお、顧客から自動車の迅速な修理を求められることが多いことから、補修用ガラスの取引においては予測困難な需要に対応して迅速に供給できることが重視されており、特約店は、1日1回から数回の定期便を運行して取引先ガラス商を巡回しており、中でも、Yは、競合する特約店に比して迅速な供給が可能な体制を採っている。
(6)これに対し、輸入品は、補修用ガラスの中でも需要の多いフロントガラスのみが貨物自動車向けの大型の型式を中心に流通しており、その型式数は数十にとどまっている。また、輸入品は、輸入販売業者等から、直接に、またはガラス商を通じて、大口需要者、自動車修理業者等に販売されているところ、ガラス商を通じないで購入した者の多くは、補修用ガラスを自動車に取り付ける技術を持たないため、取付作業を別途ガラス商等に依頼している。
(7)Yは、平成7年ころから、輸入品が大口需要者等に対して輸入販売業者等から格安の価格で販売されるようになってきたことから、自社の社外品の卸売高および卸売価格が低下することを懸念し、取引先ガラス商に対する社外品の卸売価格を引き下げる等の対抗策を講じてきたところ、輸入品を取り扱うガラス商が増加することにより輸入品の流通が活発化することを抑制するため、広告を用いるなどして積極的に輸入品を取り扱っている取引先ガラス商に対して、社外品の卸売価格を引き上げ、配送の回数を減らす行為を行っている。
(8)前記(7)の行為を具体的に示すと次のとおりである。
(a)平成9年9月ころから、輸入販売業者と連名の広告を大口需要者に送付し、社外品に比して格安の価格で輸入品の販売を行っていた千葉県所在の取引先ガラス商に対して、Yは、同年12月ころ、社外品の卸売価格を現行の卸売価格より約15%引き上げる旨通知し、これを翌月から実施し、さらに、1日2回の定期便および必要に応じた臨時便により行っていた同ガラス商に対する純正品および社外品の配送について、平成10年3月ころから定期便を1日1回に減らした上、臨時便に応じないこととしている。
(b)平成8年1月ころから、大口需要者等に広告を送付し、社外品に比して格安の価格で輸入品の販売を行っていた栃木県所在の有力な取引先ガラス商に対して、Yは、平成10年9月ころ、社外品の卸売価格を現行の卸売価格より約10%引き上げ、さらに、同ガラス商の本社および営業所に対して行っていた純正品および社外品の1日2回の定期便および1日3回程度の臨時便による配送について、本社に対しては臨時便に応じない旨、営業所に対しては定期便を1日1回に減らした上、臨時便に応じない旨を通知し、これを翌月から実施している。
(9)Yは、前記(8)の行為を行った旨を、必要に応じて他の取引先ガラス商に対して説明している。
(10)Yは、前記(7)および(8)により、輸入品を取り扱う取引先ガラス商が増加することを抑制している。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し、独占禁止法第49条第1項の規定に基づき排除措置命令を行なったところ、Yがこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
46.パチンコ機パテント・プール:
[論点」特許権ライセンス拒絶による参入妨害。審判官視点。
[事実]
(1)株式会社Y1〜Y10の10社(以下「10社」という。)は、それぞれ、風俗営業等の規制および業務の適正化等に関する法律施行令(以下「風俗営業法」という。)に規定するパチンコ機の製造販売業を営む者であり、10社は、国内において供給されるパチンコ機のほとんどを供給している。
(2)10社は、かねてから、パチンコ機の製造に関する多くの特許権を所有し、これらの全部または一部について、その通常実施権の許諾(以下「実施許諾」という。)の諾否、実施許諾契約の締結事務、実施許諾を証する証紙の発行、実施許諾料の徴収等の業務(以下これらの業務を「管理運営業務」という。)を株式会社Y(以下「Y」という。)に委託するとともに当該特許権等の実施許諾の諾否等に実質的に関与してきている。10社は、Yの発行済株式の過半数を所有するとともに、右10社の役員がYの取締役の相当数を占め、その意思決定に加わっている。
(3)Yは、パチンコ機等に関する工業所有権の取得、売買、実施権の設定および許諾等に関する事業を営むことを目的として、パチンコ機製造業者である日本遊技機工業組合(以下「遊技機工組」という。)の組合員らにより設立されたものである。
Yは、設立以来、パチンコ機の製造に関する特許権等を取得し、対価を得て、遊技機工組の組合員(以下「組合員」という。)に、実施許諾の期間を1年として実施許諾するとともに、10社が所有するパチンコ機の製造に関する特許権等について、その委託を受けて、Yの担当責任者および10社の特許担当責任者等で構成し、Yが主催する審査委員会と称する会合(以下「審査委員会」という。)において、毎年、10社が実施許諾の対象とする特許権等を選定しているほか、受託した特許権等に関する管理運営業務を行っている。
(4)Yが所有または管理運営するパチンコ機の製造に関する特許権等(以下「Y特許権」という。)は、パチンコ機の製造を行う上で重要な権利であり、これらの実施許諾を受けることなく、風俗営業法に規定する認定および検定に適合するパチンコ機を製造することは困難な状況にあって、国内のパチンコ機製造業者のほとんどすべてである組合員19社は、すべてY特許権の実施許諾を受けてパチンコ機を製造している。
(5)パチンコ機の製造販売業界においては、組合員が製造販売するパチンコ機について、昭和58年6月ころ以降、Y特許権の実施許諾契約において、原価を割る乱売を禁止する旨の条項(以下「乱売禁止条項」という。)および特許権等の実施許諾を証する証紙の貼付を義務付け、当該証紙の発給に際して事前にYの定める書類の提出を義務付ける旨の条項(以下「証紙に関する条項」という。)が設けられ、証紙に関する条項に基づき販売相手方との売買契約書を徴することにより販売価格の監視がなされるとともに、乱売禁止条項等を根拠に遊技機工組の会合等において組合員に対して安売りを行わないよう指導がなされてきた。
(6)さらに、他の組合員が開発し、既に検定承認を受けている新機種と同等または類似のパチンコ機を製造し、販売するときは、事前に当該組合員の承諾を求めることとされ、さらに、販売業者の遊技機工組への登録制が採られ、価格低落の契機となりやすいいわゆるグループ買い商社の遊技機工組への登録が認められていないなど既存のパチンコ機製造業者間でのパチンコ機製造販売分野における自由な競争は、長年にわたるパチンコ機製造販売業界における協調的な取引慣行とあいまって著しく阻害されている状況にあった。
(7)その後においても、さらに、財団法人保安電子通信技術協会の行う型式試験に対する申請台数について、組合員ごとの同台数の上限枠の設定がなされることとなったほか、平成元年4月ころ以降、右のとおりパチンコ機製造業者による販売価格の設定が制約されてきたことに加え、販売業者との取引を委託販売とし、販売業者によっても販売価格を自由に設定し得ない取引形態を採ることとされるなど既存のパチンコ機製造業者間でのパチンコ機製造販売分野における自由な競争が著しく阻害されている状況にある。
(8)Yは、既存のパチンコ機製造業者である組合員の利益の確保を図るため、かねてから、パチンコ機の製造分野への参入を抑止する方針の下に、Y特許権の実施許諾に当たり、パチンコ機を製造している組合員以外の者に実施許諾を行わず、同分野への参入を抑止してきた。
(9)10社およびYは、昭和58年6月ころ以降、Y特許権の実施許諾に当たり、Yのほか、右特許権等の所有者も実施許諾契約の当事者に加えて三者契約の形を採ることとし、当該契約において、契約の相手方の企業の構成および営業状態を変更した場合は特許権等の所有者に届け出てその承認を得なければならない旨およびその承認が得られない場合には当該契約は効力を失う旨の営業状態の変更に関する条項を定めて、買収等による参入の抑止策を強化した。
(10)同じころ、従来Y特許権の実施許諾を認められていなかった組合員がパチンコ機の製造を強く希望してその実施許諾を申し出るなどパチンコ機の製造分野への進出の動きが活発化し、その一方で、当時、Y特許権は、その数が減少するなど参入に対する障壁が弱まりつつある状況にあり、新規参入希望者に対してY特許権の実施許諾を行わないとするのみでは、新規参入希望者がY特許権を回避したパチンコ機の製造を開始してYと対抗する勢力を形成し、既存のパチンコ機製造業者の市場占有率に重大な影響を及ぼすこととなるため、新規参入希望者に対しては例外的に実施許諾することも考慮せざるを得なくなるなど、パチンコ機の製造分野への参入を抑止しつつ、既存のパチンコ機製造業者間において価格競争等を回避してきた従来の体制が崩壊し、既存のパチンコ機製造業者の利益が大きく損なわれることが危惧される状況となった。
(11)このため、10社およびYは、既存のパチンコ機製造業者の市場占有率を確保し、当該製造業者間での価格競争等を回避してきた体制を維持する目的で、10社の経営責任者級の者で構成し、新規参入問題等に関する対策を審議する権利者会議と称する会合(以下「権利者会議」という。)、Yの取締役会、Yおよび遊技機工組の合同役員会等を開催するなどして、遅くとも昭和60年秋ころまでに、Y特許権の実施許諾契約の右営業状態の変更に関する条項を実施することによって買収等による第三者の参入を抑止し、さらに、特許権等の集積により参入の障壁を高くしておくことが参入を抑止する手段として有効であるため、10社およびYにおいて新たに特許権等を取得し、Y特許権の集積に努めて参入に対する障壁を強化することとした上、参入希望者に対しては当該特許権等の実施許諾を行わないこととし、もってパチンコ機の製造分野への参入を排除する旨の方針を確認し、その後、この方針に基づき、参入を排除してきている。
(12)前記(11)の方針の具体的な行為を示すと次のとおりである(網羅的ではない)。
(a)非組合員であるパチスロ機の大手メーカーは、昭和58年ころ以降、既存のパチンコ機製造業者である組合員の発行済株式の過半数を取得することを通じてパチンコ機の製造分野に参入を図ろうとしたが、当該申出を認めると既存のパチンコ機製造業者に大きな影響を与え、その利益が損なわれるおそれがあることなどを理由に、10社およびYが右方針に基づき、同年5月末をもって終了していた右組合員との実施許諾契約の更新を拒絶し続けることとしたため、右組合員を介してパチンコ機の製造をすることができなくなった。
(b)非組合員であるパチンコ球の大手メーカーは、平成4年7月ころ以降、パチンコ機を製造しようとして、Y特許権の実施許諾を申し出ているが、当該申出を認めると既存のパチンコ機製造業者に大きな影響を与え、その利益が損なわれるおそれがあることなどを理由に、10社およびYが右方針に基づき当該実施許諾の見送りを決定するなど、現在に至るまで、これらの申出を拒絶しているため、同社はパチンコ機の製造を開始できないでいる。
(c)また、パチンコ機の製造販売を希望し、その開発に努めてきた事業者は、Y特許権の実施許諾を受けなければパチンコ機を製造することが困難であることからその実施許諾を希望しているものの、10社およびYの前記(6)の方針により、既存のパチンコ機製造業者以外の者が当該特許権等の実施許諾を受けることは困難であるとの認識から、正式に実施許諾を申し出るには至っておらず、パチンコ機の製造を断念している状況にある。
[審判]
公正取引委員会は、10社およびYの前記行為に対して排除措置命令を発したが、10社およびYの請求で審判を開始した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するかを、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
47.小型精米機メーカーによる販売業者の囲い込み:
[論点]排他的取引と拘束条件付取引の使い分け。審判官視点。
[事実]
(1)株式会社Y製作所(以下「Y」という。)は、精米機、混米機、石抜撰穀機等食糧加工機の製造業を営むものである。
(2)Yは、その製品の大部分を食糧加工機販売業者(以下「販売業者」という。)を通じて、米穀小売業者に供給している。
(3)精米機、混米機および石抜撰穀機には、@主として米穀小売業者によつて使用される小型精米用食糧加工機、A大型精米工場に設置して使用される大型精米装置および、B農家で使用される自家精米機があるが、そのうち小型精米用食糧加工機の大部分が食糧加工機製造業者から販売業者を経て米穀小売業者に供給され、大型精米装置の大部分が全農連または全糧連を経て大型精米工場に供給され、自家用精米機の大部分が農機具販売業者または各都道府県農業協同組合を経て農家に供給されている。混米機の大部分が米穀小売業者で使用されるものであつて、大型精米工場においてはほとんど使用されていない。また、毎時処理能力30俵以下の石抜撰穀機は米穀小売業者で使用されるものである。
(4)Yの平成21年における製品の販売高は、3馬力以上50馬力以下の動力用の小型精米機については国内における同精米機の総販売高の約28%、混米機については同じく約70%および1時間当たりの処理能力が30俵以下の石抜撰穀機については同じく約52%をそれぞれ占め、いずれも業界第1位である。しかして、前記の小型精米用食糧加工機は、いずれもそのの大部分が、米穀小売業者によって使用されるものである。
(5)原告と競争関係にあるA、B、C等においてはすでに相当数の販売業者をいわゆる専売店として自己の系列に組み込んでおり、小型精米用食糧加工機の取引の場においては、各販売業者の特定の事業者への系列化がかなりの程度まで進んでいる。
(6)Yは、平成21年11月2日および翌3日の両日、同社および和歌山市所在の新和歌浦観光ホテルで自社製品である防音型精米機(以下「特約製品」という。)の実演発表会を開催したが、その際、販売業者に対し、Yとの間に次の事項を内容とする「特約店契約」を締結した者(以下「特約店」という。)に対してのみ防音型精米機を販売する旨を告知した。
(a)特約店は、特約製品と競合する他社の製品を取り扱わないこと。
(b)特約店は、特約店以外の販売業者に、特約製品を販売しないこと。
(c)この契約の保証として、特約店において約束手形をYに預けること。
(7)Yは、右実演発表会以降、販売業者との間に、逐次「特約店契約」の締結を進め、平成22年3月1日現在、全国の販売業者約240名のうち、79名の者と同契約を締結し、これに基づき取引している。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し、独占禁止法第49条第1項の規定に基づき排除措置命令を行なったところ、右の者がこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
48.有線カラオケ・トップによる下位競争者の取引排除:
[論点]供給拒絶。知的財産権。審判官視点。
[事実]
(1)株式会社Y(以下「Y」という。)は、遊興飲食店やカラオケボックス等の事業所に対して、カラオケ用の楽曲等(以下「カラオケソフト」という。)を再生する機器(以下「業務用カラオケ機器」という。)を販売または賃貸するとともに、カラオケソフトを制作して配信する事業を営む者である。
(2)(a)業務用カラオケ機器には、レーザーディスク等の媒体に記録されたカラオケソフトを再生するもの(以下「パッケージ系カラオケ機器」という。)と、あらかじめ搭載されたカラオケソフトならびに公衆送信(放送および有線放送以外)を用いて新たに配信されるカラオケソフトを再生するもの(以下「通信カラオケ機器」という。)とがあり、国内における業務用カラオケ機器の出荷台数および稼働台数の大部分を通信カラオケ機器が占めている。
(b)通信カラオケ機器を販売または賃貸するとともにカラオケソフトを制作して配信する事業を営む者(以下「通信カラオケ事業者」という。)は、通信カラオケ機器を卸売業者または当該通信カラオケ事業者の子会社である販売会社(以下、併せて「販売業者」という。)に販売または賃貸し、販売業者は、当該通信カラオケ機器を来店客のカラオケの用に供する事業を営む者(以下「ユーザー」という。)に販売または賃貸している。通信カラオケ事業者が通信カラオケ機器を直接ユーザーに販売または賃貸することもある。
(c)ユーザーは、その業態に応じて、「ナイト市場」と称されるスナック、バー等の遊興飲食店、「ボックス市場」と称されるカラオケボックスおよび「その他の市場」と称される旅館、ホテル、宴会場等の3つに大別される。平成15年3月末の通信カラオケ機器の総稼働台数のうち、これら3つのユーザー区分ごとの稼動台数の割合は、ナイト市場が約56%、ボックス市場が約34%、その他の市場が約10%となっている。
(d)平成14年度の国内における通信カラオケ機器の出荷台数および稼働台数のシェアにおいて、Yは、約44%(出荷台数ベースおよび稼働台数ベース)を占め、通信カラオケ事業者中第1位(同)であり、株式会社Z(以下「Z」という。)は、約27%(出荷台数ベース)および約26%(稼動台数ベース)を占め、同第2位(出荷台数ベースおよび稼働台数ベース)であり、株式会社X(以下「X」という。)は、約13%(出荷台数ベース)および約11%(稼動台数ベース)を占め、同第3位(出荷台数ベースおよび稼働台数ベース)である。
また、平成14年度のナイト市場における稼働台数シェアにおいて、Yは、約43%を占め、通信カラオケ事業者中第1位であり、Zは、約32%を占め、同第2位であり、Xは、約4%を占め、同第6位である。
(3)(a)管理楽曲とは、作詞者または作曲者とレコード制作会社との間の「専属契約」と呼ばれる著作物の使用許諾に関する契約に基づいて、レコード制作会社が作詞者または作曲者からその作品を録音等する権利を独占的に付与された歌詞・楽曲(以下では、歌詞と楽曲とを特に区別せずに、単に「楽曲」という。)のうち、著作権法の施行(昭和46年1月1日)前に国内において販売された商業用レコードに録音されているものをいう。これらは、いわゆる歌謡曲が中心となっている。
(b)管理楽曲を録音等する権利を独占的に付与されたレコード制作会社には、A株式会社(以下「A」という。)、株式会社B(以下「B」という。)など8社(以下「レコード会社8社」という。)がある。
(c)通信カラオケ事業者が管理楽曲を使用してカラオケソフトを制作し、通信カラオケ機器に搭載して使用する場合、社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)から楽曲の利用許諾を受ける必要があるほか、当該管理楽曲について作詞者または作曲者との間で専属契約を締結しているレコード制作会社からも個別にその使用の承諾を得ることが必要であると、通信カラオケ事業者および卸売業者は認識しており、実際にも、通信カラオケ事業者は、レコード制作会社から管理楽曲の使用承諾を得ている。
(d)ナイト市場における管理楽曲以外も含む演奏回数総合順位300位以内に入る管理楽曲は25曲あり、このうち、AおよびBの管理楽曲は7曲と3割近くを占めている。また、管理楽曲中の上位30位以内に入るAおよびBの管理楽曲は10曲と3分の1を占めている。
(e)ナイト市場と呼ばれるスナック、バー等においては、中高年齢層の来店客が多く、これらの者が好んで歌唱する管理楽曲が、ナイト市場のユーザー、そのようなユーザーを顧客とする販売業者、ひいては通信カラオケ事業者にとって必要不可欠である。
(f)平成4年ころからX等が通信カラオケ機器を開発して業務用カラオケ機器の市場に参入したが、Yは、ユーザーがYのパッケージ系カラオケ機器に代えて他社の通信カラオケ機器を設置するようになったこと等から、平成4年ないし平成5年ころ、レコード会社8社に対し、通信カラオケ機器を開発して市場に参入したX等の通信カラオケ事業者に対する管理楽曲の使用承諾を遅らせるよう要請した。
Yは、平成6年4月ころ、レコード会社8社の管理楽曲を搭載した通信カラオケ機器を発売した。これに対し、Xがレコード会社8社から管理楽曲の使用承諾を得たのは、おおむね平成7年7月ころから平成9年1月ころにかけてであった。
(4)平成12年3月ころ、Yは、Xから、Xが専用実施権を有するカラオケソフトの歌詞色変え特許を含む3件の特許を侵害しているとして特許権侵害差止等請求訴訟を東京地方裁判所に提起された(以下、この訴訟を「本件特許訴訟」という。)。これにより、Yの通信カラオケ機器の出荷台数は、一時的に落ち込むところとなった。なお、当該訴訟は、平成14年9月27日、Xの請求を棄却する旨の判決がなされた。
(5)Yは、平成13年1月ころ、Aの筆頭株主となり、その後もAの株式の取得を行い、同年11月ころに同社の過半数の株式を保有して同社を子会社とするに至った。Yは、また、平成13年10月ころ、Bの全株式を取得することにより同社を子会社とした。
(6)前記本件特許訴訟の和解交渉が決裂したことを受けて、Yは、平成13年11月末ころ、Xの事業活動を徹底的に攻撃していくとの方針を決定し、そのころまでにYの子会社となっていたAおよびBをしてその管理楽曲の使用をXに対して承諾しないようにさせることとした。Yは、以上の方針を、社内・各支店・営業所およびYの子会社である販売会社の責任者に対して徹底し、今後、Xの通信カラオケ機器ではAおよびBの管理楽曲が使えなくなると卸売業者等に告知する営業を行うよう指示した。
(a)Aは、Xとの間の数次の管理楽曲使用承諾契約により、平成12年12月20日までの間、Xに対し、Aの管理楽曲の使用を継続して承諾してきたが、Yは、Aをして、従前の管理楽曲使用承諾契約を更新する意思はなく、よって管理楽曲の使用を直ちに停止することを求めるとの内容の平成13年12月18日付けの文書をXに送付させた。
(b)Bは、Xとの間の管理楽曲使用承諾契約により、平成12年11月30日までの間、Xに対し、Bの管理楽曲の使用を承諾していたが、Yは、Bをして、平成14年3月5日付け文書で、Xに対するBの管理楽曲の使用承諾契約の更新を拒絶させた。
(c)Yの主要な取引先卸売業者を会員とし、Yおよび会員の業績および親睦向上等を目的とする「全国Yディーラー会」と称する組織(以下「DK会」という。)は、全国に7支部を置き、支部ごとに年間4回程度支部会を開催していたところ、Yの法人営業部長らは、平成13年12月ころに開催されたDK会の各支部会に出席し、当該支部会に出席した会員に対し、AおよびBがXに使用承諾してきた管理楽曲であるとするリストを配布するとともに、Xはこれらの管理楽曲を無断使用していること、YはAおよびBにこれらの管理楽曲の使用をXに対して承諾させないつもりであることを伝えた。なお、DK会の会員は、平成13年7月ころには85社、平成14年5月ころには77社であったところ、これらのうち23社は、Xとも取引のある卸売業者である。
YおよびYの子会社である販売会社は、平成13年11月ころから平成14年ころにかけて、卸売業者やユーザーを個別に訪問するなどして、YがAおよびBをしてその管理楽曲の使用をXに対して承諾しないようにさせるとか、Xの通信カラオケ機器ではAおよびBの管理楽曲が使えなくなるなどと告げた(以下、Yがこれらの内容を告げた行為を「本件告知行為」ということがある。)。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し、独占禁止法第49条第1項の規定に基づき排除措置命令を行なったところ、Yがこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。審判におけるYの主張はつぎのとおりである。
(1)審査官は、「Xの事業活動を徹底して攻撃していくというYの方針は、XによるAおよびBの管理楽曲の継続使用を打ち切るべき正当な理由に基づくものではなく、専らXを攻撃することのみを目的とするものである」と主張するが、公正競争阻害性の有無は、当該行為の競争秩序への影響や手段の公正さに基づいて判断されるものであって、Yの「目的」などの主観的事実は、公正競争阻害性を基礎付ける要素たり得ない。「競争」自体、相互に他を排斥しながら顧客を奪い合うことを予定しているから、公正競争阻害性の判断において方針や目的は無関係である。
(2)Yは、Xから特許権侵害を理由とする仮処分の申立ておよび訴訟の提起ならびにこれに関連する誹謗中傷攻撃という継続的な妨害行為、侵害行為を受けており、Yの事業の存亡自体に影響を被る立場におとしいれられた。そして、本件特許訴訟の判決においてYによる特許権侵害が認められなかったことからすれば、Xによる無効特許権の行使により、Yの事業活動が制限されたものであり、本件特許訴訟自体が競争秩序を著しく侵害するものであった。このような訴訟行為に対して、Yの行った行為は、Yグループが有している管理楽曲について、契約により従来Xに使用承諾していたものを、その契約更新を留保しただけであり、しかも、それは、特許紛争の交渉過程において行われたものであって、何ら違法性のない行為である。したがって、Xの行為はYに対する違法な妨害行為であるのに対し、Yの行為は防衛行為であり正当な競争方法である。競争事業者は、相互に対抗しているのであり、一方の攻撃行為に対して他方がその防御のための攻撃を行うことは、通常のビジネス行為である。
(3)Yの行為は、対抗措置の側面を別にしてみれば、単独の取引拒絶の問題であるが、単独の取引拒絶は、基本的には取引先選択の自由の問題であり、明確な公正競争阻害性がない限り合法と解釈するのが通説である。ここでいう「Xの事業活動を攻撃していく」とは、Xの顧客を奪っていくことを意味していると解されるところ、競争というもの自体が、相互に他を排しながら顧客を奪い合うことを当然に予定しているものであることからすれば、当該方針は、「Xと徹底して競争を行っていく方針」にほかならない。
(4)知的財産権保護が国際的に強調される現在においては、独占禁止法第21条の適用範囲については知的財産権の行使を過度に萎縮させないように慎重に考慮されるべきである。知的財産権の行使の態様を権利侵害に対する権利行使だけに限定する審査官の主張は、知的財産権法の実務からかけ離れたものである。クロスライセンスを典型とするように、今や、知的財産権が競争相手の知的財産権行使の威嚇としての意味を有しており、Yによる著作隣接権の行使に対しては、独占禁止法の適用はない。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに前記のY主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
49.映画入場料金の拘束:
[論点]再販価格拘束。映画著作物。審判官視点。
[事実]
(1)Yジャパン・インコーポレーテッド(以下「Y」という。)は、米国に本店を、日本国内に主たる営業拠点をそれぞれ置き、米国所在のYインターナショナル・コーポレーション(以下「Yインターナショナル」という。)から配給を受けた映画作品(以下「Y映画作品」という。)を、国内において上映する事業者(以下「上映者」という。)に配給する事業を営む。
(2)Yは、Y映画作品を配給するに当たり、上映者と、あらかじめ、上映に関する基本的事項を定めた「上映契約(基本契約)」と題する契約(以下「基本契約」という。)を締結し、さらに、基本契約に基づき、Y映画作品ごと、上映者の映画館または映画館の上映スクリーンごとの配給に係る取引条件について、「上映契約付属書」と題する契約(以下「付属契約」という。)を締結することを基本としている。
(3)Yは、基本契約および付属契約において、上映者がYに支払うべき映画料と称するY映画作品の配給に係る対価を、上映者が映画を鑑賞させる対価として入場者から徴収する入場料の総額に一定の割合を乗じた額とする旨規定し、上映者からその支払を受けることを基本としている。
(4)Yは、平成11年1月以降、上映者に対し、「A」と題する一連の映画作品、「B」と題する映画作品、「C」と題する映画作品等の高い人気を有したY映画作品を含めて、毎年10ないし20作品程度ずつ、継続的に配給している。
(5)Yは、遅くとも平成11年1月以降、基本契約において、次のとおり上映者が入場者から徴収する入場料を制限する条項を設けている。
(a)上映者が上映期間中に入場者から徴収する入場料は、付属契約において定められ、上映者は、当該入場料を徴収することを約束する。
(b)上映者は、あらかじめYが了承した場合を除いて、付属契約において定められる入場料を割り引かないことを約束する。
(c)上映者が付属契約において定められる入場料を割り引いて徴収した場合、Yに支払うべき配給の対価は、付属契約において定められる入場料に基づき計算される。
(6)Yは、遅くとも平成11年1月以降、次のとおり、上映者が入場者から徴収する入場料について制限している。
(a)基本契約に基づく付属契約の条項において、上映者が入場者から徴収する入場料について、想定される映画作品の人気の程度、映画館が所在する地域における入場料の実態等を勘案した上で、大人、大学生・高校生、中学生・小学生、60歳以上等に区分し、それぞれ具体的な金額を定め、上映者に対し、おおむね当該金額により入場料を徴収させる。
(b)上映者が、毎週特定の曜日における女性の入場者、一定の時刻以降の上映時における入場者、映画館において配布されるパンフレット、チラシ等に印刷された割引券を持参する入場者等をそれぞれ対象として、前記(5)(a)記載の入場料から一定の金額を割り引こうとする場合、基本契約に基づき、上映者からの事前の申出を受けてその実施の可否を決定することにより、おおむね、Yの了承を受けることなく、上映者が入場者から徴収する入場料の割引を行わないようにさせる。
(7)Yが、前記(6)により、上映者が入場者から徴収する入場料の具体的な金額を定めた状況および上映者からの事前の申出を受けた入場料の割引についてその一部を実施させないこととした状況を例示すると、次のとおりである。
(a)Yは、平成11年7月ころから同年10月ころまで上映された「A-1」と題する映画作品を配給するに際し、平成11年6月ころまでに、例えば、大都市の一部の上映者が従来徴収してきた入場料が大人1人当たり1,800円である場合には、これを2,000円に、地方都市の一部の上映者が従来徴収してきた入場料が大人1人当たり1,700円である場合には、これを1,800円に、それぞれ引き上げさせており、また、映画館において配布されるパンフレット、チラシ等に印刷された割引券を持参する入場者を対象とした割引を行わせないようにすることとし、その旨上映者に文書で要請し、これを取りやめさせている。
(b)Yは、平成14年7月ころから同年10月ころまで上映された「A-2」と題する映画作品を配給するに際し、平成14年6月ころまでに、例えば、大都市の一部の上映者が従来徴収してきた入場料が、大人1人当たり1,800円である場合には、これを引き上げさせるか、または維持させるか等の検討を行い、結局、これを維持させており、また、割引を行わせないようにすることとし、その旨上映者に口頭で要請し、これを取りやめさせている。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し、独占禁止法第49条第1項の規定に基づき、基本契約および付属契約に基づき、上映する事業者が映画を鑑賞させる対価として入場者から徴収する入場料の具体的な金額を定め、入場料の割引の実施の可否を決定するなどして、入場料を制限している行為を取りやめるとともに、前記契約のうち入場料を制限している条項を削除すること等を命ずる排除措置命令を行なったところ、右の者がこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。審判におけるY主張はつぎのとおりである。
(1)Yは、Yインターナショナルから、同社製作の映画について、わが国著作権法上のすべての権利を許諾されているところ、Yは、著作権法26条に基づき、映画の著作物の頒布権を専有し、Yの意に反する映画の上映を全面的に禁止する権利をもっているから、かかる専有権の一部である価格決定権を行使することができ、これに対しては独占禁止法第21条によって独占禁止法が適用されない。
(2)同じく、Yは、独占禁止法23条4項によって、映画の上映者に対して、上映の対価を決定・維持することができ、これに対しては独占禁止法が適用されない。
(3)映画の上映許諾は商品の販売ではないから、独占禁止法2条9項4号の適用がない。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、前記Yの主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
50.元詰種子の価格に関する不当な取引制限:
[論点」基準価格と価格表価格・販売価格。行為者は各事業者か事業者団体か。裁判官視点。
[事実]
(1)Yを含む32社(以下、単に「32社」ということがある。)は、白菜、キャベツ、大根および蕪(以下「4種類」という。)の交配種の種子を生産して包装し、包装容器に自社の名称を表示して、卸売業者、小売業者等に販売しており(以下、上記の方法により交配種の種子を生産した上、これを販売する者を「元詰業者」という。)、国内において、需要者である野菜栽培農家および一般消費者に対して、直接に、または卸売業者、販売店、農業協同組合(以下「農協」という。)を通じて販売(野菜栽培農家において共同購入(以下「共購」という。)を行う場合の販売を含む。)をしている。
平成22年4月1日から翌年3月末日までの国内における元詰業者の4種類の元詰種子の総販売金額は、それぞれ、約12億2,100万円(白菜)、約23億3,100万円(キャベツ)、約41億2,900万円(大根)、約4億1,500万円(蕪)で、32社の販売金額の合計のこれに占める割合は、白菜については98.7%、キャベツについては91.5%、大根については92.7%、蕪については94.9%である。これらの割合は、平成20年度、平成21年度および平成23年度においても平成22年度と大差ない。
(2)32社は、それぞれ、自社が販売する4種類の元詰種子について、毎年5月から7月までの間の特定の日を始期とする1年間(以下、この1年間を「年度」という。)に適用される取引先販売業者および需要者(以下「取引先」という。)向けの価格を設定し、これを記載した価格表を取引先に配布していた。
32社は、それぞれの価格表において、取引形態に応じた価格を設定しており、ほぼ各社とも、概ね、平成19年度から平成23年度までの期間においては、@共購を除く野菜栽培農家および一般消費者向け価格(以下「小売価格(1袋)」という。)、A農協向け価格(以下「農協価格(10袋)」という。)、B販売店向け価格(以下、「卸価格(10袋)」という。)、C共購による需要者向け価格(以下「共購価格(10袋)」という。)を設定していた。(以下、これらを総称して「価格表価格」という。)。なお、各社の価格表にいう1袋の容量は一定である。
(3)32社は、それぞれ、自社の価格表価格に基づき販売価格を定めて販売をしているが、小売業者または農協に対し卸売業者等の中間販売業者を経由して販売する場合には、価格表価格の小売向け価格または農協向け価格を基にし、卸売業者等のマージンを差し引くこととしていた。
また、32社は、販売に際し、取引先との取引年数、従来の取引金額、取引数量の多寡等に応じて、価格表価格から値引き・割戻しを行い、年に2回ないし4回の売上代金の集金の際に、総額から一定の値引き・割戻しを行っていた。
(4)社団法人日本種苗協会(以下「日種協」という。)は、園芸農作物等の種苗について育種、生産または販売を行う者を会員とし、園芸農作物等の種苗に関する民間の品種改良の促進、種苗の生産の改善、種苗の円滑な流通および国際交流の発展を図ること等を目的として、昭和48年12月5日に設立された社団法人である。
日種協は、意思決定機関である総会および理事会のほか、会員の専門分野における調査、研究等の活動を促進することを目的として14の専門部会を設けていたが、32社は、いずれも日種協の会員であって、専門部会の一つである元詰部会に所属している。
(5)遅くとも平成17年から平成19年までの間、毎年3月に上野精養軒において、32社の代表者または営業責任者級の者(以下「代表者等」という。)が出席して、日種協の「元詰部会討議研究会」(以下「討議研究会」という。)が開催されていた。
平成20年から平成23年までの間においても、毎年3月に、32社代表者等が出席して討議研究会が開催され、その出欠状況は別紙[略]のとおりである。
平成20年3月以降平成23年3月までに開催された討議研究会については、開催に先立ち、毎年1月または2月ころ、元詰部会長名で元詰部会員宛に「元詰部会討議研究会の開催について」と題する案内状が発出され、案内状には、開催日時、場所、議題のほか、討議研究会の会場において、アンケート用紙を配布し、その場でとりまとめるので、例年の様式を前提に、予めアンケートへの回答を検討しておくべきことが記載されていた。
討議研究会においては、野菜種子の作柄状況、市況等について情報交換が行われた後、基準価格の検討に進み、4種類の元詰種子について、基準価格を引き上げるか、引き下げるか、または据え置くかに係る各元詰業者の希望についてアンケート調査が行われ、その集計結果が発表された。その後、基準価格について意見交換が行われ、これを司会が取りまとめて、4種類の元詰種子について小売価格の基準価格が決定された。
引き続き、共購価格の基準価格については小売価格の基準価格の92%の10倍の、農協価格の基準価格については小売価格の基準価格の84%の10倍の、卸価格(10袋)の基準価格については小売価格の基準価格の62%の10倍の各金額が算出され、これらの金額の100円未満の端数を処理して基準価格が決定され、席上で発表されていた。
(6)公正取引委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ、32社のうち別紙[略]記載の26社は、平成23年10月4日、静岡県熱海市所在の古屋旅館において開催した日種協の理事会において、同年3月14日に行った4種類の元詰種子の基準価格の決定を破棄するとともに、以後、元詰種子の販売価格に関する話し合いを行わない旨の申合せを行った。
[審判と訴訟]
公正取引委員会は、32社に対して排除措置命令を行ったが、Yの請求で審判を開始した。審決は(以下「本件審決」という。)、32社の行為を3条後段違反の不当な取引制限として、同内容の排除措置を命令した。Yは、本件審決の取消しを求めて東京高裁に提訴した。Yの主張はつぎのとおりである。
(1)本件合意を、32社が共同して行ったというためには、意思の連絡を要し、相互にその内容を認識し、認容することを要するところ、本件審決はこれについて全く触れていないので、意思の連絡については実質的証拠がない。討議研究会での基準価格の決定は、本件合意の存否に関わりなく行われたものである。
(2)仮に合意が存在するとしても、それは事業者団体の行為であって、本件合意の主体とされる個々の事業者相互の行為であることについては、実質的証拠がない。32社は、日種協の現在の構成事業者として、日種協が行う種子の価格情報交換、基準価格を示す行事に受動的に参加してきただけで、自発的な意思に基づいてそこでの行為を行ったものではない。
(3)不当な取引制限に当たるというために必要な「相互にその事業活動を拘束」することの本質は、競争事業者間の相互の予測すなわち意思の連絡が人為的に形成され、これにより当事者間の競争行動が回避される点にあるから、予測可能な程度に具体的な行動基準が設定されていることが不可欠であるところ、本件合意については、基準価格が決定されない限り、具体的な販売価格を設定することはできないから、相互拘束性の要件を欠くものである。仮に価格表価格の変更について相互予測が可能であったとしても、値引きや割戻しの率およびその適用については合意がなく、また、その内容は販売戦略に係る企業秘密として公にされていない。値引きや割戻しの有無が価格表価格に連動し、値引内容も前年度と連続性を有するとしても、前年度と連続性のない値引きや割戻しも多数存在するから、基準価格から実勢価格の設定を予測することはできなかった。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに前記Yの主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
51.ゲームソフトの抱き合わせ販売:
[論点]拘束条件付取引。抱合せ販売。審判官視点。
[事実]
(1)Yは、主として、家庭用テレビゲーム機(携帯用コンピュータゲーム機を含む。)、家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト(以下「ゲームソフト」という。)等の家庭用電子玩具の卸売業を営む者である。Yは、家庭用電子玩具を一次卸売業者から購入し、小売業者等へ販売している。
(2)Yは、株式会社Aが平成2年2月11日から発売開始したゲームソフトであるドラゴンクエストW(以下「ドラクエW」という。)を、平成2年3月末までの間に、一次卸売業者であるB株式会社ほか4社の卸売業者から、約77,600本購入した。
(3)ドラクエWは、ドラゴンクエスト・シリーズの前3作がいずれも人気ゲームソフトとなったところから前人気が高く、同ゲームソフトの発売時には消費者が店頭に殺到することが予想されたため、小売業者は同ゲームソフトの入荷量確保に躍起となる状況にあった。
(4)Yは、右のような状況において、ドラクエWの販売に当たり同社に在庫となっているゲームソフトを処分することを企図し、取引先小売業者約130店に対しては過去の取引実績に応じた数量配分として約73,300本を販売することとした上、過去の取引実績に応じた数量配分以上の購入を希望する小売業者に対しては、平成元年12月下旬以降、同社に在庫となっているゲームソフト3本を購入することを条件にドラクエW 1本を販売すること等を商品案内を送付する等によって通知した。
(5)Yは、前記(4)記載の販売条件に応じて購入を希望した小売業者25店に対し、合計でドラクエW約1,700本と在庫となっている他のゲームソフト約3,500本を抱き合わせて購入させた。
(6)Yは、ドラクエWの前作であるドラクエVの販売に当たり、本件と同様の抱き合わせ販売を行い公正取引委員会から警告を受けている。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対し、独占禁止法第49条第1項の規定に基づき、ドラクエWを販売する条件として、同社に在庫となっていた他の家庭用テレビゲーム機用ゲームソフトを抱き合わせて購入させる行為の取りやめ等を命じる排除措置命令を行なったところ、Yがこれに対して同条6項の規定に基づき審判請求を行った。審判におけるYの主張はつぎのとおりである。
(1)独占禁止法2条9項は、「この法律において『不公正な取引方法』とは、次の各項のいずれかに該当する行為をいう。」とし、6号は、「前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの。」とし、昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号(以下「一般指定」という。)10項は、「相手方に対し、不当に、商品または役務の供給に併せて他の商品または役務を自己または自己の指定する事業者から購入させ、その他自己または自己の指定する事業者と取引するように強制すること」と規定する。
ドラクエWと本件抱き合わせ販売に供された他のゲームソフトは、動作するハードウエアもゲームとしての機能、エンターテインメントとしての効用も同一であるから、「他の商品」には該当しない。
(2)本件抱き合わせ販売は取引先小売業者からの強い要望によってなしたものであり、本件抱き合わせ販売に応じた小売業者は自己の判断により商売上の利益を考え納得のうえ発注したものである。また、右小売業者は何らの損害を被っていない。本件抱き合わせ販売は、強制されたものではなく、「購入させること」にあたらない。
(3)ゲームソフトは、現実には、人気商品は販売されるゲームソフトのうちの一部であり、原則として返品できないこともあり、その大半は流通業者が在庫として抱えることになるのが通常であるため、流通業者は、人気商品が販売された場合、在庫品を処分するため人気商品と不人気商品とを抱き合わせて販売することが必ずしも稀ではなかった。また、本件抱き合わせ販売は事業者の独占的地位あるいは経済力を背景にするものではなくドラクエWの煽られた特殊人気による一過性のものであり、反復性はなく、またYにはドラクエWの供給について支配的地位や独占力はなく、いずれの点からみても「不当」なものではない。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに前記のY主張にも留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実や手続にはそれぞれ日付が付してあることもあるが、解答においては、すべて、平成22年改正の現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
52.冷蔵倉庫事業者団体による届出料金の拘束:
[論点」届出価格と実勢価格。審判官視点。
[事実]
(1)Yは、おおむね都道府県を単位として全国38の地区ごとに所在する地区冷蔵倉庫協会を正会員、これらを構成する冷蔵倉庫業者(以下「会員事業者」という。)を賛助会員とし、冷蔵倉庫業の健全な発達を図り、もって公共の福祉に寄与することを目的として、昭和48年10月4日に設立された社団法人であり、会員数は、平成7年1月1日現在、正会員38名および賛助会員1,212名である。
(2)関東、東海、北陸、近畿、中国および九州の地域には、それぞれの地域に所在する地区冷蔵倉庫協会または会員事業者を会員とする冷蔵倉庫協議会と称する団体が設置されており、Yは、これらの団体ならびに北海道、東北地方および四国地方を地区とする地区冷蔵倉庫協会を併せて、ブロック団体と称している。
(3)会員事業者の営業用冷蔵倉庫(以下「冷蔵倉庫」という。)の設備能力の合計は、我が国の冷蔵倉庫の設備能力のほとんどすべてを占めている。
(4)Yは、定款上の意思決定機関として総会および理事会を置いているほか、必要に応じ、会長(1名)、副会長(5名以内)および専務理事(1名)で構成される幹部会を開催し、Yの事業活動について審議・決定している。
(5)Yは、必要に応じ、15名の経営委員で構成される経営委員会を開催し、冷蔵倉庫料金のほか種々の経営に関する事項について、個々の会員事業者の要望を吸い上げ、検討を行っている。Yには3つの部からなる事務局が置かれ、専務理事が各部長を統括している。
(6)冷蔵倉庫料金については、倉庫業法第6条第1項の規定により、いわゆる事前届出制が採られており、冷蔵倉庫業者は、冷蔵倉庫保管料、冷蔵倉庫荷役料その他の営業に関する料金を定め、または変更しようとするときは、その実施前に、運輸大臣に届け出なければならないこととされている。また、運輸大臣は、同条第2項の規定により、前記料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えるものであるとき等に該当すると認める場合は、当該冷蔵倉庫業者に対し、期限を定めてその料金を変更すべきことを命ずること(以下「変更命令」という。)ができるとされている。
(7)冷蔵倉庫業者が運輸大臣に届け出る冷蔵倉庫保管料(以下「届出保管料」という。なお、「届出料金」ということもある。)は、基本料率に数量および期間を乗じ、これに、小口物品、かさ高物品等を保管する場合にあっては一定の率による割増料を加え、寄託物品の名義変更等を行う場合にあってはその手数料を加えることが定められている。
(8)しかし、現実の料金収受に当たって、この届出において定められているような計算方法が採られ、届出料金どおりに実際の取引において収受する実勢料金が決められるのは、一見(いちげん)の顧客の場合等に限定され、一般には、そのような方法は採られておらず、物品ごとに単位料金を決めるという取引をするのが通常である。また、冷蔵倉庫の立地条件は様々であり、保管する物品の種類・形態も異なること、実勢料金の変動をみても、例えば、水産物、農産物、畜産物、輸入物等によって、料金水準に相当の開きがあることが認められる。
さらに、届出保管料については、昭和55年に基本料率の変更届が行われて以来本件違反行為が行われた平成4年7月末まで12年間も全く改定が行われないままであったが、昭和56、7年ころは不況のため、昭和55年の基本料率の引上げは実勢料金の引上げに結びつくものではなかったことが認められ、全体的にみても、実勢料金は届出料金から相当下方に乖離し、届出料金の9割以下となっているものが相当多く、また、そのような状態が通常みられる状況であった。
(9)昭和63年以降冷蔵倉庫の庫腹量が増加したこと等もあって、平成2年度には総体的にみて在庫率が低下し、保管部門の収支率が低下する傾向がみられるようになった。そして、平成2年度後半ころには、Yの会員事業者から保管料の引上げを行ってほしいとの要望が出されるようになっていたことを受けて、Yは、各種会合(平成3年3月4日に開催された経営委員会および同月14日に開催された理事会)において、会員事業者の収支の改善を図るため、会員事業者の届出保管料の引上げの可能性について検討してきた。
(10)Yは、平成3年11月26日に開催した経営委員会において、届出保管料の基本料率の具体的な引上げ幅について検討した。その際、専務理事Y1が、前年度の主要な会員事業者103社の収支状況調査に基づいて推計した本年度および翌年度の保管料収支率を基に、必要引上げ率を算出すると、本年度は9.8%、翌年度は7.6%となり、これを基に運輸省運輸政策局の貨物流通施設課(以下「運輸省担当課」という。)と折衝を行う旨説明し、同委員会はこれを了承した。
(11)Yは、平成4年4月23日、静岡県熱海市所在のホテル大野屋で開催した幹部会において、基本料率について、会員事業者が運輸大臣に届け出ていた料率の24円45銭からその8%台(約8.8%を含む。)、最低でも2円以上引き上げることで運輸省担当課と折衝することを決定し、同年5月19日、専務理事Y1を通じてその旨の要望を運輸省担当課の課長に伝えた。
(12)Yは、平成4年6月8日、運輸省担当課の課長から、届出保管料について多様化を図ること(具体的には、Yの要望中にある前記約8.8%の引上げをする場合には、その上下各10%の範囲内、すなわち、引上げ率約9.6%ないし約8.0%の範囲内でばらつかせること)が望ましい旨の意向が示されたことから、同年6月9日、Yの会議室で開催した幹部会において、この運輸省の意向に沿って改定作業を進めることを了承した。なお、その際、Y1から、上下各10%の範囲の中間値である上下各5%の場合の数値を含む5種類の料率も試案として示された。
(13)平成4年6月18日、Yは、Y会議室で開催した幹部会において、会員事業者の届け出る保管料の基本料率について、前記試案に基づき、会員事業者が運輸大臣に届け出ていた料率から約8.8%引き上げることを基準とした5種類の料率とする(料率の引上げ率をそれぞれ約9.6、9.2、8.8、8.4、8.0%とする)ことを決定した。また、会員事業者に対して前記5種類の料率を示しただけでは、ほとんどの業者が最高の料率で保管料の届出を行うこととなって、運輸省の意向に沿わないものとなると考えられたことから、Yは、個々の会員事業者に対し、基本的に、設備能力に応じてどの料率で届出保管料を引き上げさせるかをあらかじめ定めることとし、具体的に届け出させる時期、方法等の検討を進めることとした。
(14)Yは、平成4年7月15日、前記Y会議室で開催した幹部会において、届出保管料について、(a)会員事業者に、設備能力による区分に応じ、原則として当該区分に対応する引上げ率を基に算出した料率表[略]により保管料を引き上げる届出を行わせること、ただし、設備能力が全国上位20社までに入る会員事業者については、設備能力のみを基準とすると、すべてが8.0%の引上げ率となってしまうので、各自の収支率等を勘案して、引上げ率をばらつかせるようYの事務局が調整すること、(b)最初に変更の届出を行わせるべき会員事業者として特定の会員事業者を指名し、その届け出るべき基本料率を当該事業者が運輸大臣に届け出ていた料率から約8.8%引き上げた料率とすること、その届け出るべき期日を同月31日とすること、(c)右(b)以外の会員事業者の届け出るべき期日を、右(b)の期日から1週間を経過した日以降とすることを決定した。
(15)Yは、平成4年7月27日、各ブロック団体の事務局長に対し、保管料の新旧対照表、前記5種類の料率が記載された表、設備能力別届出の幅を記載した表および冷蔵倉庫保管料率表を送付した。各ブロック団体は、同月末以降、Yの前記(13)および(14)の決定についての各地区冷蔵倉庫協会事務局に対する説明会を開催し、届出保管料の引上げ方法について周知するとともに、その際に右のとおりYから受け取った保管料の新旧対照表、前記5種類の料率が記載された表、設備能力別届出の幅を記載した表および冷蔵倉庫保管料率表の各文書を配布した。
これを受けて、各地区冷蔵倉庫協会は、それぞれ、傘下の会員事業者に対する説明会を開催し、あるいは右の各文書を送付するなどの方法により、保管料の基本料率の引上げについての前記Yの決定を傘下の会員事業者に対して周知した。
(16)会員事業者は、Yの前記(13)および(14)の決定に基づき、平成4年7月31日以降、おおむね、届出保管料を引き上げることとし、その旨を運輸大臣に届け出ている。
[審判]
公正取引委員会は、Yに対して前記[事実](13)および(14)の決定の廃止等を命ずる排除措置命令を発したが、Yの申立てにより本件審判開始が決定された。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に依拠して、どのような審決案を作成するか。その理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測されることもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
53.保守サービスと部品の抱き合わせ:
[論点]抱合せ販売。競争者の取引妨害。弁護士視点。
[事実]
(1)大手光学機械メーカーのフラッシュ(株)(以下「Y」という)は、数年前からハイ・エンドのデジタル・コピー装置フラッシュ・マスター・シリーズ(以下「Y製品」という)を発売している。同機能の装置は競合他社も発売しており、Yの日本での市場シェアは10%程度である。競合他社製品と主要部品の互換性はない。ほとんどの主要部品は専用部品メーカー(OEM)に外注している。基幹部品のいくつかはYの特許にカバーされている。この種の装置は保守(修理を含む)が難しいため、Yは、保証期間後のサービスを保守契約またはパー・コールでユーザーに提供している。
(2)あなたの依頼人イメッジ(株)(以下「X」という)は、Y製品の保守サービスを業とするいわゆる独立サービス業者(ISO)である。Xのサービス料金はYよりかなり安く、サービス内容もいい。Xは、必要な部品をY、同社OEMまたは中古パーツ業者から買い、コントロールおよび診断ソフトは客先保有のCDを借りて使っている。
(3)ハイ・エンドのデジタル・コピー装置は一般に高価で、それぞれのメーカーによって特徴がちがい、ユーザー社内の文書システムがこれに適合するように条件づけられてしまうため、ユーザーがいったんこれを導入すると、競合システムに乗り換えるためには、多大のスイッチング・コストを要する。このことはISOもおなじ状況で、いったんあるメーカーの保守技術を習得すると、他メーカー製品に乗り換えることは容易ではない。
(4)昨年、Yは、同社のサービスを受けるか自分で保守できる顧客に限って保守部品を供給する方針に転じ、ISOに対して保守部品の販売を拒否する一方、顧客とのソフト使用許諾契約に流用禁止(自社社員による保守作業以外の目的で使用禁止)条項を入れ、OEMとの間で、専用部品はYにだけ販売するという内容の契約を結び、顧客や流通業者に対して、ISOに部品や部品回収用の中古品を売らないよう圧力をかけた。このため、多くのISOは廃業や減益に追い込まれ、Xも危機に瀕している。
[設問]
あなたはXの弁護士として、依頼人に対して、独占禁止法との関連でどう助言したらいいか。助言の理論的根拠と、その基礎となる事実についての仮定も(これから探索・検証するものも含めて)書くこと。結論より分析・推論の過程を重視する。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測されることもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
54.都市間高速バス相互乗り入れにともなう運賃および排他取決め:
[論点]私的独占。不当な取引制限。共同の供給拒絶。競争者の取引妨害。[設問1]のみ弁護士視点。
[事実]
A社およびB社は乗合バス事業を営む会社である。A社の主要な営業地域は甲市であり、B社の主要な営業地域は乙市である。甲市は、東北地方の中央に位置する甲県の県庁所在地であり、その人口は約20万人である。乙市は、東北地方の太平洋側に位置する乙県の県庁所在地であり、人口約100万人の政令指定都市である。甲市と乙市との間の主要な移動手段には鉄道(JR)と自動車があるが、その移動に鉄道で約2時間30分、高速道路を利用した自動車で約3時間を要する。
甲市ではA社およびX社の2社の乗合バス事業者が、乙市ではB社、C社、Y社およびZ社の4社の乗合バス事業者が営業しており、所有バス台数による市場占有率(シェア)は、A社が甲市で75%、B社が乙市で50%である。なお、C社は乙市で30%のシェアを有している。
最近、高速バス(都市間を結び、停車する停留所を限定して運行する急行系統で、運行系統キロがおおむね50キロメートル以上の乗合バスをいう)の運行について、国土交通省の規制が緩和され、新規参入が原則として自由となった。この結果、鉄道よりも料金が安いことから、高速バスの人気が上昇している。市場調査によれば、甲市−乙市間についても、高速バスに対する相当の需要が見込める状況にある。A社は、当初自社単独で甲市−乙市間の高速バスを運行する計画を立てたが、同社は乙市に営業地域を有しないため、乙市内のバス乗場および車庫、乙市に在住する職員の確保等が困難であって、自社のみではその運行が困難であることが明らかとなった。
同時に、他社の参入可能性についても調査したところ、甲市、乙市を主要な営業地域とする各社は、いずれも単独で甲市−乙市間の高速バスを運行することは事業経営上困難であろうとの予測結果が出た。
そこで、A社から、B社に対して甲市−乙市間の高速バスの共同運行を打診したところ、同社は関心を示し、この2社の間で高速バスの共同運行を行う計画が検討された。
ところで、甲市で一日のバス乗降客数が圧倒的に多いのは甲駅バスターミナルであるが、同ターミナルはA社の所有に係る施設であり、X社はその運行に係るバス路線のバス乗場をA社から賃借しているところ、その賃貸借契約においては、X社が当該乗場をどの運行路線の停留所として利用するかについてA社の承認が必要であるとされている。また、乙市において、ビジネス街、学校等に近接し、一日のバス乗降客数が格段に多いのは乙駅バスターミナルであるが、同バスターミナルにバス乗場を設置し、保有しているのは、乙市を主要な営業地域とする乗合バス事業者の中でB社およびC社の2社のみであり、ほかの2社は、乙駅から約1キロメートル離れた繁華街に2社共同のバスターミナルを設置し、主として郊外の住宅地との間の路線を運行している。
A社およびB社は、協議の結果、2社で甲市−乙市間の高速バスを共同運行することで合意に達した。その共同運行計画として合意した事項は次のとおりである。
(1)2社は、2社間で決定した運行時刻表に従って、各社のバスおよび運転手を提供して高速バスを運行する。
(2)2社は、それぞれ自社の発券所において高速バスの乗車券を販売するが、乗客の混乱を避けるため、乗客は2社が販売した切符によりいずれのバスにも乗車できることとする。
一方、運賃の設定方法等については合意に達せず、なお複数の案を検討中である。それらの案とは、@案(共同運行である以上、2社の公平の観点から2社で協議して運賃を決定する)、A案(運賃は各自で決定し、運賃の配分も行わない)、B案(運賃は各自で決定することとするが、運賃売上げは共同でプールした上で、各社の運行回数比によって配分する)の3案であり、いまだ決着をみていない。
[設問1]
あなたはA社から相談を受けた弁護士である(ただし、[設問1]に限る)。
A社の担当者は、@案ないしB案について、「A社とB社がJR、自家用車に対抗して高速バスを共同運行するものであり、共同で運行時刻表を決定し、その決定に従って、それぞれのバスを運行させるのであるから@案が自然であり、また運営上も最も支障がないので望ましいということになった。他方で、バスの機材、人件費等を各社で負担するものであり、@案については法的リスクがあるかもしれないという危惧が呈され、A案が提出された。しかし、A案では、いずれのバスに乗客が乗車するか否かにかかわらず、発券した会社が売上げを保持し得ることとなり、バスの運行と無関係に収益が定まるから、不公平となるという反論が出された。そこで、折衷的にBの案が提案された」と説明した。
上記(1)、(2)の内容の共同運行計画を前提として、運賃の設定等に関する@案ないしB案を比較しつつ、それらの案についての私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題点とその考え方を論じ、最大の利益が確保でき、かつ独占禁止法に抵触しないような案を示しなさい。
[設問2]
その後、A社およびB社は、独占禁止法に抵触しないような内容で運賃の設定方法を定めた共同運行事業協定を締結し、甲市−乙市間の高速バスの運行を開始したところ、人気を博し、当初期待した以上の売上げを達成した。また、高速バスへの乗換えを希望する乗客が、一般道においてもA社またはB社の乗合バスを利用する例が多くなったため、A社の甲市、B社の乙市におけるシェアは、それぞれわずかながら増加した。
そのような状況をみたX社は、甲市−乙市間の高速バスへの参入を企画し、C社に対して、共同で新規に甲市−乙市間の高速バスを運行することを提案した。C社も、X社の提案に対して前向きに応じ、両社による協議が開始された。
他方、C社は、X社の提案を契機に既存のA社およびB社による共同運行への参加についても検討したところ、A社およびB社の共同運行への参加の方がより採算性が高いとの試算結果が出た。
そのため、C社は、A社およびB社に対して、その共同運行への参加を申し入れたところ、両社がこれに応じたため、X社との協議を打ち切り、A社およびB社の共同運行に参加することとした。
A社、B社およびC社の3社は、協議を進め、本件共同運行事業の協定に以下のような条項を盛り込んだ。すなわち、「本件共同運行に、3社以外のほかの事業者を加入させないものとする。また、甲市−乙市間の高速バスを運行し、または運行しようとする3社以外のほかの事業者から甲駅または乙駅内のバスターミナル内のバス乗場の利用の申出があった場合は、これを拒否する義務を負う。これに反した場合には、ほかの2社にそれぞれ違約金1億円を支払うものとする」という条項である。その趣旨は、各社にとって、この高速バス事業は初めての試みであって、当該事業に必要な初期投資、すなわち、トイレ設備を有し、リクライニング仕様に優れた新車両の導入や新路線の停留所の設置、広告宣伝などにかなりの費用が必要であるため、相応の利益を確保し、投資金額を最大限回収し得るようにすることにあった。
以上のA社、B社およびC社の共同運行事業の協定について、独占禁止法上の問題点を論じなさい。
55.レジ袋有料化協定:
[論点]LRA(より制限的でない選択肢)。弁護士視点。
[事実]
(1)A市の各小売事業者は、かねてから、商品の販売に際して顧客にレジ袋を無償で提供してきた。
(2)A市の各小売事業者は、数年前から、それぞれ独自に、ポイント制(レジ袋を辞退するごとにポイントが付与され、取得したポイントに応じて割引が得られる制度)を導入するなどして、レジ袋の利用を抑制するための活動を行ってきた。
ポイント制を導入することにより、レジ袋の利用の抑制に一定の効果は得られたものの、その後、その効果は頭打ちの傾向にあり、より一層のレジ袋の利用の抑制を図るために、レジ袋を有料化する方法に注目が集まるようになった。
しかし、自社が先行してレジ袋を有料化すれば、レジ袋を無償で提供している競争事業者に顧客を奪われるのではないかという懸念から、実際に、独自にレジ袋の有料化に踏み切る小売事業者はごく一部しか存在しなかった。
(3)このような状況の下、平成19年4月、改正容器包装リサイクル法が施行され、レジ袋の有料化が、レジ袋の排出抑制を促進するために、小売事業者が行うことが推奨される行為の一つとして位置付けられることとなった。しかし、A市においては、レジ袋の利用を抑制して、ごみの減量化を図ること自体については、住民の間でそうすべきであるとの合意が形成されてきたが、その手段・方法としてのレジ袋の有料化については、住民の間で合意が形成されているとまでは言い難い状況にあり、先行して、独自にレジ袋の有料化に踏み切る小売事業者は少なかった。
(4)そこで、A市は、同市内の住民団体および同市の各小売事業者に呼びかけてレジ袋の利用を抑制するための方策等を検討するための協議会を発足させることとし、各小売事業者は、それぞれ独自の判断に基づいて協議会に参加することとしたところ、A市の小売事業者のほとんどすべてが参加することとなった。
なお、A市は、同市内の住民団体に協議会への参加を呼びかけることとしたのは、仮に、レジ袋の利用を抑制するための最も有効な手段が有料化であるとされた場合、一定の負担を顧客に強いることになるため、消費者側の意見を聴取する必要があるからであるとしている。
(5)前記(4)の協議会における議論を経て、A市、同市内の住民団体および参加小売事業者各社(以下「三者」という。)による協定書の草案が作成された。
協定書は、市、参加住民団体、参加小売事業者各社の代表者が調印して、市内の小売店舗での商品の販売に際して、レジ袋の提供を有料化し、その単価については、1枚5円とするという内容で、期間は1年、期間満了1か月前から満了日までに、他のメンバー全員あての書面で脱退の意思表示をしない限り、さらに1年継続される。違反に対するペナルティの規定はない。
[設問]
あなたをA市から相談を受けた弁護士と仮定して、この協定草案が独占禁止法上問題ないかどうか、もし問題があればどう解決すればよいか答えなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測されることもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
56.ゲームソフトの再販価格拘束と取引制限:
[論点]選択的流通。値引き販売禁止。横流し禁止。中古品取扱禁止。「競争の場」。知的財産権。審判官視点。
[事実]
(1)株式会社Y(以下「Y」という。)は、PSと称する家庭用テレビゲーム機(以下「PSハード」という。)、PSハード用ソフトウェア(以下「PSソフト」という。)およびPSハード用周辺機器(以下、PSハード、PSソフトおよびPSハード用周辺機器を併せて「PS製品」という。)の製造販売ならびにPSソフトの仕入販売の事業を営む者である。Yは、我が国のゲーム機およびゲームソフトの各販売分野において、平成18年度の出荷額が第1位の地位を占める最有力の事業者である。また、Yは、PSソフトの流通を自ら行う一部のゲームソフト製造業者のPSソフトを除き、ゲームソフト製造業者の開発製造したPSソフトを一手に仕入れて販売しており、ゲームソフトの販売業者にとってPSソフトの供給面で独占的地位にある。
(2)テレビゲームを扱う小売業者としては、従来から、テレビゲームを専門に扱う小売業者(以下「ゲーム専門店」という。)、家電・カメラ量販店、玩具店、百貨店、スーパー、ディスカウンター等がある。ゲーム専門店の中には、いわゆるフランチャイズ方式で、フランチャイズ本部の経営指導の下に統一の店舗名によりチェーン展開しているものがある。(以下、フランチャイズ本部を「FC本部」、FC本部が自ら経営する店舗を「直営店」、フランチャイジーの店舗を「加盟店」という。)
(4)Yは、PS製品の販売に当たり、直接小売業者と取引し、これら小売業者が一般消費者に販売するという「直取引」を基本方針としており、直接取引ができない小売業者に対しては、卸売業者を通じて販売している。Yは、取引先小売業者との間では「特約店契約書」により、取引先卸売業者との間では「特約店契約書(卸店用)」により、それぞれ特約店契約を締結している。この両契約書の条項は、基本的には同様の内容となっている。また、Yは、PS製品を、ゲーム専門店が加盟するFC本部にも販売しており、FC本部は、PS製品を自ら直営店においてまたは加盟店を通じて一般消費者に販売しているところ、Yは、FC本部との間では、取引先小売業者との取引契約書である「特約店契約書」により特約店契約を締結して取引しており、FC本部への販売を直接取引する小売業者への販売と同視している。
(5)Yは、PS製品の発売に際して、PS製品を取り扱う小売店舗を4,000店から5,000店程度に限定する方針を有しており、Yの営業担当者は、取引先候補の販売業者に対してその旨説明していた。また、Yは、PS製品を販売する小売店舗の選定基準として、一定の売上規模・販売スペースがあること、地域での立地が良好であること、PSソフトの品揃えができること、テレビゲーム販売事業への意欲があることといった望ましい条件を設定し、こうした条件に合致するか否かをPS製品を取り扱う小売店舗の選定に当たり考慮している。
(6)Yは、PSハードについて、製品ごとにシリアル番号と称する製造ロット番号を付しており、出荷先店舗をコード番号により管理台帳に記録している。また、Yは、自社製PSソフトにシリアル番号を付している。
(7)Yは、平成19年3月末時点で、ゲームソフト製造業者約590社との間でPSソフトの開発製造に係るライセンス契約を締結しており、これらゲームソフト製造業者は、同契約に基づきYからPSソフトの開発のためのノウハウの開示等を受けてゲームソフトを開発し、Yに製造委託することにより当該ゲームソフトをCD-ROMに搭載したPSソフトを製造している。平成19年3月末までにYが販売したPSソフト約730タイトルのうち約94%は、ゲームソフト製造業者が開発したものであり、Yは、残り約6%を自社開発している(なお、販売本数比では、自社開発のPSソフトが約20%である。)。
前記ライセンス契約に基づいてゲームソフト製造業者が開発製造したPSソフトについては、当該ゲームソフト製造業者が著作権を有しており、Yが当該ゲームソフト製造業者の有する著作権の行使を委任されている事実は認められない。
(8)Yは、自ら開発製造するPSソフトの希望小売価格を設定している。また、ゲームソフト製造業者が開発し、Yが製造受託して仕入販売するPSソフトについては、ゲームソフト製造業者の求めに応じてYが意見を述べるなどした上で、ゲームソフト製造業者が希望小売価格を設定している。
(9)Yは、その販売するPSソフトすべてについて、卸売業者と小売業者とを問わず、また、小売業者の業態を問わず、その仕切価格をそれぞれのPSソフトの希望小売価格の75%の価格とする方針を発売当初から一貫して採ってきている。
(10)ゲームソフトについては、単価が比較的高いこと、新作ゲームソフトが次々と発売されること、使用によるゲームソフト自体の品質の劣化が通常生じにくいこと、ゲーム内容への飽きや達成感から使用したゲームソフトを売却するという一般消費者のニーズがあること、小売業者にとって中古ゲームソフトの取扱いの利益率ないし利益幅が大きいこと等から、一般消費者が小売業者に中古ゲームソフトを売却し(その売却代金が他のゲームソフトの購入資金に充てられることが少なくない。)、販売業者がそれを買い取り中古ゲームソフトとして販売することが広く行われてきており、中古ゲームソフト市場が存在している。
Yは、市場調査会社に委託して、中古品市場の状況、ゲームソフト販売業者の事業活動に及ぼす影響、更には一般消費者の購買行動を含めて幅広い実態把握とその分析を行い、一般消費者がPSソフトを購入するに当たっては新品と中古品が選択的な関係にあること、特約店が中古品を取り扱うことによって新品の販売数量が減少し、それによって新品PSソフトの販売価格の軟化につながる蓋然性が高いこと、さらに特約店に対する中古PSソフトの取扱禁止が、ゲームソフト市場への商品供給量制限を意味することを認識している。
(11)Yの営業部幹部は、遅くとも平成16年6月ころまでに、PS製品の流通を委ねる小売業者(FC本部およびその他の小売業者)ならびに卸売業者との関係で、次の(a)ないし(c)の販売方針を採ることとし、同販売方針を取引開始のための交渉過程で説明し、その遵守を要請し、要請を受け入れた小売業者および卸売業者とのみPS製品の取引を行うこととした。
(a)PSソフトの小売価格:小売業者に対しては、PSソフトの希望小売価格が従来のゲームソフトに比べて低廉に設定されており、希望小売価格どおりの価格で十分販売できることを強調し、利益が出るような小売価格の設定をするように促すとともに、特に広告においては希望小売価格どおりの価格表示とするように求め、また、卸売業者に対しては、取引先の小売業者に同様の価格設定をすることを指導するように求めること(以下「値引き販売禁止」ともいう。)
(b)中古のPSソフトの取扱い:小売業者に対し、中古のPSソフトの取扱いがテレビゲーム業界全体のためにマイナスであることを強調し、その取扱いをしないように求め、また、卸売業者に対し、取引先の小売業者に中古のPSソフトを取り扱わないことを指導するように求めること(以下「中古品取扱い禁止」ともいう。)
(c)PS製品の販売先:小売業者にはPS製品を一般消費者に対してのみ販売するように義務付け、卸売業者には取引先の小売業者に対してのみ販売するとともに取引先の小売業者に一般消費者にのみ販売することを指導するように義務付けること(以下「横流し禁止」ともいう。)
(12)Yの営業部幹部は、平成16年6月ころから、営業担当者を伴って取引先候補のFC本部および家電・カメラ量販店等のその他の小売業者ならびに問屋等の卸売業者を訪問し、PS製品の事業方針、特にYが採用しようとしている流通政策を説明するなどして、特約店契約の締結交渉を行った。Yの営業部幹部から前記の説明・要請を受けたFC本部は傘下の加盟店に対し、また、卸売業者は取引先小売業者に対し、Yの前記販売方針を説明し、その受入れと遵守を強く要請した。
(13)Yは、平成16年9月中旬以降、前記販売方針を受け入れたFC本部およびその他の小売業者ならびに卸売業者と特約店契約を順次締結し、同年12月3日以降、当該特約店契約を締結した特約店と取引を開始した。
(14)Yが平成16年12月3日にPS製品の販売を開始して間もなく、小売業者の中にはPS製品の値引き販売を行う者が現れ、値引き販売禁止を遵守している小売業者等からYの営業部に対し、競合店の値引き販売の状況を通報し指導を求める情報が多数寄せられるようになった。その後、中古品取扱いや横流しについても、同様に情報が寄せられるようになった。
このため、Yの営業担当者は、営業部幹部に報告や相談をしつつ、値引き販売あるいは中古品取扱いを行っていると認められる小売業者とその仕入先であるFC本部や卸売業者に対し、Yの前記販売方針を改めて説明してこれを遵守するように求め、直ちにこれに応じない販売業者に対しては「蛇口を閉めることもある」などと述べてPS製品の出荷制限などの制裁措置に言及するなどして、これを遵守するように求め、値引き販売等の行為をやめ、値引き販売等の広告を撤回するなどの是正をするように指導し、多くの販売業者は、Yによる制裁措置を恐れて同指導に従っていた。
また、Yの営業担当者は、PSソフトの横流しをしていた加盟店を統括するFC本部に対し、同加盟店の横流しをやめさせるように指導し、同FC本部からこれをやめさせた旨の報告を得た。
Yの営業担当者によるこのような是正指導は、PS製品のシェアが拡大するにつれて厳しいものになり、平成17年8月には、PSソフトの値引き販売を行っていた家電量販店に対して、指導に従わないとしてPS製品の出荷を停止し、また、同月、PSハードおよびPSソフトの値引き販売および中古品取扱いを行っていた加盟店を統括するFC本部に対し、PSハードの出荷を停止し、さらに、同年12月、PSハードおよびPSソフトの中古品取扱いを行っていた家電量販店に対し、Yの中古品取扱い禁止の販売方針に沿わないものであることを理由として特約店契約の解除を申し入れ、同契約の合意解除に至った。
(15)Yの営業部では、前記販売方針を特約店に遵守させるため、次のような実効確保措置を継続的に講じていた。
(a)営業担当者による販売状況調査:Yの営業部では、日常的に、営業担当者が担当する小売業者の店舗を訪問した際などに、PSソフトの販売価格や中古品取扱いの状況を調査し、その状況を書面によりまたは営業部の会議の場で報告させていた。また、Yの営業部では、平成17年8月ころ、「法人判定会議」と称して、主要な特約店の値引き販売、中古品取扱いおよび横流しの有無等を確認し、将来の特約店の販売政策を点検するために、複数回にわたりスタッフミーティングを開催した。
(b)シリアル番号による出荷先調査:Yは、取引先小売業者または取引先卸売業者の取引先である小売業者以外の者が販売したPSハードについて、シリアル番号によりその出荷先を頻繁に調査しており、これにより横流しの是正を図っている。また、Yが、PSソフトについても、シリアル番号によりその出荷先を調査し、横流しの是正のために用いている。
[審判]
公正取引委員会は、審査の結果、Yに対して、前記[事実](11)の販売方針の取りやめを命ずる排除措置命令を行ったが、Yの申立てにより、審判を開始した。審判におけるY主張はつぎのとおりである。
(1)値引き販売禁止の方針:
そもそもゲームソフトは独占禁止法23条4項の「著作物」に該当するのであり、独占禁止法による再販売価格の拘束の禁止は適用されない。同項の「著作物」は著作権法上の著作物と同様に解すべきところ、同法の解釈上、ゲームソフトが著作物に該当することは明らかである。のみならず、同項の趣旨は、著作物が一般に文化財としての価値を有することから、廉売を防止して多種類の著作物を多数の販売店が扱う体制を確立することにより、著作物の文化財としての価値を保護し、ひいては文化の向上に資するというところにある。しかるところ、文化の普及という観点からは、既に高度の文化的価値を有するに至っているゲームソフトに対して同項の趣旨が及ぶべきことは当然である。
(2)中古のPSソフトの取扱い:
ゲームソフトには、著作権法上の映画の著作物として頒布権が認められる。PSソフトが映画の著作物に該当する限り、Yを含む著作権者は、第三者がゲームソフトの複製物たるCD-ROMを無許諾で公衆に対して譲渡する行為を禁止することができるのであり、この理はその複製物がいったん一般消費者に販売された後に中古品販売業者によって買い取られ、それが公衆に対し再販売される場合にも異ならない。独占禁止法第21条には、著作権や工業所有権のような知的財産権の行使と認められる行為には独占禁止法を適用しないことが規定されており、実質的に適正な権利行使行為が独占禁止法上違法とされないことは明らかである。そして、Yは、自ら著作権者であるPSソフトについてはY自身が頒布権を有しているのであるから、小売業者に対し、Yの頒布権を侵害する中古品の取扱いを抑制することに問題はない。Y以外のゲームソフト製造業者の制作に係るPSソフトについては、ゲームソフト製造業者はPSソフトの流通経路において生じ得る中古品に対する対応につき、Yに委ねるという黙示の合意があった。したがって、Yが自社製PSソフトと他社製PSソフトとを厳然と区別することなく、包括的にそれらの中古品取扱いの抑制を小売業者に要請することは、独占禁止法第21条における著作権法による権利の行使として、違法性を有しないのである。
(3)PS製品の販売先:
Yの構築したPS製品の一般消費者直結の流通システム(直取引システム)は、流通の効率化その他の正当な目的のために導入されたものであり、再販売価格維持等の目的で導入されたものではない。Yと取引先との特約店契約中の一般消費者のみにPS製品を販売すること(以下「卸売販売禁止」ともいう。)を義務付けるための条項は、かかる直取引システムを構成する一要素である。したがって、この条項の公正競争阻害性を判断するには、十分な合理性を有する直取引システムの一環として評価すべきである。横流し禁止が再販売価格維持行為の実効性確保の「効果」を有することを理由として公正競争阻害性を判断することについては、再販売価格維持の実効性は出荷停止という措置により確保されているのであり、出荷停止された小売業者が横流しルートで商品の調達ができないことは、横流し禁止の反射的・付随的な事象に過ぎないから、結果として現れる反射的・付随的な効果を根拠として横流し禁止の公正競争阻害性を認定する考え方は、独自に当該行為の競争制限効果を総合的に評価して公正競争阻害性を判断するという非価格制限行為についての違法性判断の基本的立場を放棄するものであって、不当である。Yの直取引システムには、多段階流通の弊害を排除し、流通の効率化を図るという経済的合理性その他の正当な目的があるところ、卸売販売禁止は、その重要な構成要素であり、また、それによる価格等についての共謀の助長、参入への障壁等の具体的な競争制限効果は想定されないので、原則的に公正競争阻害性はない。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに前記Yの主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
[参考判例]
最高裁第3小法廷判決平成14年4月25日の骨子:@PSゲームソフトは映画著作物である、Aしたがってその著作権者は頒布権を専有するが、Bその頒布権は最初の譲渡によって消尽する。
57.ブランド品の並行輸入妨害:
[論点」ブランド内競争制限。裁判官視点。
[事実1]
Y1はハンガリー国A製の高級食器(「A商品」)を輸入し、デパートに販売。Y1は希望小売価格を提示、ほぼ守られている。AはY1に日本における一手販売権を与え(輸入総代理店)、商品底部に国番号を表示。並行輸入業者は、第三国(香港/オーストリア/フランス/イタリア)で、総代理店や小売店から購入して日本に輸入(「並行輸入品」)、価格はY1扱い品(「正規品」)よりかなり(30-50%)安い。Y1は、店頭調査によって突き止めた並行輸入品の国番号をAに通知、Aをして、日本向けと判明した受注を拒絶させ(フランス/イタリア)、または、これら第三国の販売業者に対して、日本並行輸入業者(社名特定)への販売を拒絶させた。
[事実2]
Y2は、デンマーク製血液ガス分析装置および試薬の輸入総代理店、輸入品を直接小売店に卸し、分析装置の保守管理を一手に引き受けている。業界2位。本件は試薬の並行輸入。並行輸入品の卸価格はY2より安い。Y2は、小売店に対して、@並行輸入品を取り扱うな、A従わなければ、分析装置の保守管理を中止するむね文書通知。
[事実3]
Y3は有名スコッチ・ウィスキー(「商品」)の輸入総代理店で、商品を卸店8社に販売、卸店は小売店に販売。Y3は、卸店会議において、卸店に対して、@並行輸入品の小売店に商品を卸さない(同小売店に商品を横流しする小売店にも商品を卸さない)こと、AY3所定の標準小売価格を著しく下回って販売する小売店に商品を卸さない(横流し同前)ことを指示、それぞれ対象店を指名、商品の特定位置に番号を記入、指示に違反した卸店に対し出荷停止、買戻しを指示。
[設問]
前記の各事実において、Y1、Y2、Y3の行為は独占禁止法上どのような問題があるか、それぞれの共通点と相違点に留意しつつ述べなさい。本件のモデルとなった事実にはの時期が示してあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
58.地区医師会による事業者数および機能・活動の制限:
[論点]事業者団体の行為。裁判官視点。
[事実]
(1)K市医師会(以下「Y」という)は、K県K市地区内に就業場所または住所を有する医師を会員とし、医学医術の発達普及を図り、社会福祉を増進すること等を目的として、昭和22年11月1日に設立された社団法人である。
(2)Yの会員数は、平成8年12月現在172名であり、そのうち86名の者は、病院または診療所(以下「医療機関」という。)を開設して医業を行っている医師(以下「開業医」という。)である。他は医療機関に雇用される医師(以下「勤務医」という。)である。
(3)Yは、総会および理事会を置き、理事会においては、会務の執行その他の事項に関する決定を行っている。また、Yは、K市地区を4地区に分け、地区ごとに常会(以下「地区常会」という。)を置いている。
(4)Yの定款は、Yがその会員の入会承認および除名の権限を有することを規定し、定款施行規則2条は、「Yの運営に支障を来す恐れのあるもの」および「その他会員として不適当と認められるもの」については、入会を認められないことがあると規定している。
(5)Yは、K市の依頼等により、会員である開業医を学校医に推薦するなどして会員に各種の健康診査を実施させる等開業医の事業活動に密接に関連する公的業務を行うほか、関係行政機関から発せられる通達類をはじめ、医療、社会保険等に関する知識および情報を伝達する等により、開業医である会員に対し、業務上必要な便宜を広く供与している。K市地区においては、開業医にとってYに代わるべき組織が他になく、Yに加入することなく独自に開業するときは、Yが供与する前記の便宜を受けることができず、また、診療面で他の開業医の協力を求め難い等のため、会員に比し、事業上不利となるおそれがあることから、Yに加入しないで開業医となることは、一般に困難な状況にある。
(6)Yは、昭和54年8月の理事会において、大要以下の事項を定める「Y医療機関新設等相談委員会規程」(以下「相談委員会規程」という。)を決定した。
(a)医療機関の開設(移転を含む。以下同じ。)および病床の増設をしようとする者は、K県知事に対する許可申請または届出に先立ち、あらかじめ所定の書面を添付してYに申し出なければならないこと。
(b)同申出を審議するため、Y内に医療機関新設等相談委員会(以下「相談委員会」という。)を設置すること。
(c)同審議に当たり、当該申出者がYの定款施行規則2条(入会についての規定)の「Yの運営に支障を来たす恐れのあるもの」または「その他会員として不適当と認められるもの」に該当する場合には同意しないこと。
(7)次いで、Yは、昭和60年6月の理事会において、相談委員会規程を改定し、右(6)記載の医療機関の開設および病床の増設の場合に加えて、会員が標榜する診療科目を追加しようとするときは、あらかじめYに申し出なければならないこととし、その可否を相談委員会において審議することを決定した。
(8)また、Yは、医療機関の増改築が病床数の増加につながるおそれがあるため、平成3年11月の理事会において、その増改築について、あらかじめYに申し出なければならないこととし、その可否を相談委員会において審議することを決定した。
(9)Yは、将来の患者の取合いを防止する目的で、前記(6)から(8)までに掲げる各決定を行い、これに基づき、K市地区内で医療機関の開設、診療科目の追加、病床の増設若しくは増改築を希望する者に、K県知事に対する許可申請または届出に先立ち、あらかじめYにその申出をさせ、相談委員会において、相談委員会規程の審査基準に照らし、当該申出に係る医療機関と既存の医療機関との位置関係および専門とする科目、地域の病床数等を考慮し、かつ、地区常会または当該医療機関の周辺に所在する開業医である会員の意見を参考にして審議し、相談委員会の答申が出ると、最終的に理事会で審議し、当該申出に対し、同意、不同意、条件付き同意または留保の決定を行っている(以下、これらの審議・決定手続を総括して「審議システム」という。)。
(10)Yは、Yへの加入について、入会申込者に入会申込書を提出させ、その可否を理事会で決定しているところ、前記審議システムの実効性確保のため、新規開業医の入会については、医療機関の開設に係る理事会の同意を待って、入会申込書を提出させ、または、入会承認の審議を行っている。また、Yは、会員からの病床の増設等の申出については、Yの決定に従わない者に対しては除名権限が発動される可能性があることを前提に、決定を行っている。
(11)以上のとおり、Yは、Yに加入しないで開業することが一般に困難な状況の下で、医療機関の開設等の希望を申し出させ、相談委員会において審議し、地区常会の意見を参酌し、理事会で同意、不同意等を決定する審議システムにおいて、既存の事業者である会員医師の利益を守るための利害調整や制限を行っている。
(12)医療法は「医療を提供する体制の確保を図り、もって国民の健康の保持に寄与すること」を目的とし、大要以下のように規定する。
(a)都道府県は医療を提供する体制の確保に関する計画(医療計画)を定めることとなり、医療計画においては主として病院の病床の整備を図るべき地域的単位としての医療圏、必要病床数等を定める。この医療計画制度は、無秩序な病院病床の増加の制御により医療資源の地域的偏在の是正を図り、医療関係施設間の機能連係の確保を図ることを目的とする。
(b)病院を開設しようとするとき、病院を開設した者が病床数を変更しようとするときなどには、都道府県知事の許可を受けなければならないが、都道府県知事は、申請に係る施設の構造設備およびその有する人員が法定要件に違反する場合や、営利を目的として病院を開設しようとする場合にのみ不許可とすることができ、その他の場合には許可を与えなければならない(7条)。
(c)医療法施行令5条の11に規定する診療科目の標榜については法的な制限がなく、医師が自らの責任において選択することが許される(69条および70条)。
(d)都道府県知事は、医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には、病院若しくは診療所を開設しようとする者または病院若しくは診療所の開設者若しくは管理者に対し、都道府県医療審議会の意見を聴いて、病院の開設若しくは病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更または診療所の療養型病床群の設置若しくは診療所の療養型病床群に係る病床数の増加に関して勧告することができる(30条の7)。
(13)Yによる審議システムの発動例は以下のようである(網羅的ではない)。
(a)開業医S医師はYに無断で病院の増改築を行ったことをYにとがめられて除名処分になりかけたことから、除名を避けるためにいったん自主退会し、その後Yに再入会の申請をしているが、入会を認められていない。K市地区においてYに加入していない開業医はS医師のみである。
(b)勤務医T医師は、平成3年4月、K市M町に病床数19床の診療所を開設したい旨、Yに申し出た。そこで、理事会が地区常会の意見を求めたところ、T医師の開設予定地を含む地区常会は、開設予定地周辺の外科系の医療機関が満床でないので無床でやってもらいたいとの意見であったことから、Yは、同年9月の理事会で、有床診療所の開設には同意しないことを決定し、開設には同意するが無床にしてもらいたい旨をT医師に通知した。T医師は、手術治療を加えた診療を計画しており無床では診療が困難である旨を書き添えた上、再度同内容の申出をした。Yは、地区常会に再検討を求めた上、平成4年2月の理事会で、地区常会が19床で開設することを了承する旨の意見を提出したこと等を考慮し、申出に同意することを決定し、その旨をT医師に通知した。T医師は、平成5年6月ころ、開業医会員となるための入会申込書をYに提出してYの開業医入会の承認を受けて、同年10月から開業した。
(c)K市所在のF病院長F医師は、平成5年6月、既存の診療科目の外科および内科に整形外科,胃腸科および麻酔科を追加すべく、それぞれの担当医を明示して、Yに申し出た。Yの相談委員会は、同年6月、右申出について検討し、麻酔科以外は望ましくないとの結論を出して、理事会に答申し、理事会は、地区常会の意見を求めた。Yは、同年8月の理事会において、地区常会の意見が相談委員会の答申どおりであったこと等を考慮し、麻酔科の追加だけを認め、他の診療科目の追加には同意しないことを決定し、その旨をF医師に通知した。
(d)K市所在の医療法人社団L病院の院長L医師は、平成3年10月、右病院の増改築をしたい旨、Yに申し出た。Yの相談委員会は、同月、右申出について検討した結果、増改築後に増床されることを懸念して、L医師に増床しない旨の念書を提出させることを条件に増改築に同意することとし、その旨を理事会に答申し、理事会は地区常会の意見を求めた。Yは、L医師が、地区常会の要請を受けて、増築計画に関して増床しない旨の念書を提出したことから、平成4年2月の理事会において、今後とも増床しないことを条件に右申出に同意することを決定し、その旨をL医師に通知した。
[審判と訴訟]
公正取引委員会は、Yに対して、審決(以下「本件審決」という。)で、@医療機関の開設の制限が現在または将来の事業者の数の制限(8条3号)に該当し、かつA医療機関の診療科目の追加ならびにB病床の増設および増改築の制限が構成事業者の機能または活動の不当な制限(8条4号)に該当するとして、各制限行為の排除に必要な措置を命じたが、原告はつぎのように主張して、同審決の取消を請求、東京高裁に提訴した。
(1)国民皆保険体制のもとで価格競争のない医療サービスの分野では、市場機能に任せておくことによっては国民の健康な生活を確保できない。
(2)医療機関の開設制限について、
(a)団体が一定の事業分野における事業者の数を制限したと評価されるためには、当該団体に加入しなければ当該事業分野に新規参入することが不可能または著しく困難であるという状況がなければならないが、本件ではそのような状況にない。
(b)また、抽象的に「加入の拒否または除名があり得る制度」が存在するだけでは足りず、加入の拒否又除名をしたこと、ないしは、しようとしたという具体的な事実が認められなければならない。
(c)医療法が医療機関の地域的な適正配置を目指して定めている医療計画制度の趣旨に即して、会員に対し意見を述べていたにすぎず、原告の行為は独禁法に違反するものでもない。
(3)診療科目の制限について、会員は専門的知識経験を有する科目を標榜することが望ましく、患者の信頼にこたえ、医師の倫理を守る目的で、標榜診療科目に対して意見を表明していただけで、これを違反行為とした本件審決は、事実誤認および独占禁止法の解釈を誤るものである。
(4)増改築について、Yは、医療法の趣旨、医療計画を実現する目的で、会員の増改築に対する意見を表明していただけで、違反の事実はない。
[設問]
かりにきみが裁判官だったとして、問題文で与えられた事実に対してどのように法を適用するか、とくに、前記したYの主張に留意して、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
59.バトミントン球優遇措置の授与とその撤回の脅しによる並行輸入妨害:
[論点」ブランド間競争制限。裁判官視点。
[事実]
(1)Y株式会社(以下「Y」という。)は、肩書地に本店を置き、バドミントン用品等の製造販売業を営む者である。
(2)バドミントン用品には、シャトルコック、ラケット、シューズ、ウェア等があり、さらに、シャトルコックには、水鳥の羽根を用いた水鳥シャトルおよび水鳥の羽根以外の素材を用いた合成シャトルがあるところ、水鳥シャトルがその大部分を占めている。
(3)Yは、水鳥シャトルについて、自らまたは取引先卸売業者を通じて小売業者に販売し、さらに、小売業者を通じて、中学校、高等学校、大学、実業団等のバドミントンクラブ等またはこれらの団体である各種バドミントン競技団体(以下「バドミントンクラブ等」という。)に販売している。
(4)(a)財団法人日本バドミントン協会または同協会に加盟するバドミントン競技団体若しくはその傘下の競技団体が主催または主管するほとんどのバドミントン競技大会では、同協会の検定に合格した水鳥シャトルが使用されている。
(b)バドミントン競技大会の主催者または主管者(以下「大会主催者等」という。)は、バドミントン競技大会で使用する水鳥シャトル(以下「大会使用球」という。)を指定し、製造販売業者、小売業者等から大会使用球を購入するとともに、指定した製造販売業者等から大会使用球の提供、大会賞品の提供等の協賛を受けてバドミントン競技大会を開催しているところ、水鳥シャトルの製造販売業者等は、自社が製造販売等する水鳥シャトルが大会使用球とされると、宣伝効果が大きく、競技者への販売促進効果が見込まれることなどから、大会使用球の提供等の協賛を行っている。
(5)我が国における水鳥シャトルの製造販売または輸入販売をする事業者は約20社あるところ、Yは、我が国における水鳥シャトルの販売数量が第1位であって、かつ、同社の水鳥シャトルが多くのバドミントン競技大会で使用されていることから、小売業者にとってYの水鳥シャトルを取り扱うことが営業上有利であるとされている。
(6)近年、海外から廉価な水鳥シャトルを輸入して通信販売等によりバドミントンクラブ等に販売する事業者(以下「輸入販売業者」という。)が水鳥シャトルの販売を開始し、経費節減等のために輸入販売業者が販売する水鳥シャトル(以下「輸入シャトル」という。)を購入するバドミントンクラブ等が増えてきたためその影響を受けた取引先小売業者から輸入シャトルへの対策を採るよう求められたことから、Yは、平成22年ころから、輸入シャトルの販売数量が伸長することを抑止することを目的として、輸入販売業者および輸入シャトルに対する次のような対策(以下「輸入シャトル対策」という。)を講じて、大会主催者等を含む水鳥シャトルの顧客が輸入シャトルを使用しないようにさせている。
(a)大会主催者等に対して、輸入販売業者から輸入シャトルの提供等の協賛を受ける場合には自社は協賛しない旨示唆するなどして、輸入販売業者から協賛を受けないことおよび輸入シャトルを大会使用球としないことを要請すること。
(b)輸入シャトルに対抗するための商品として、平成22年12月ころ廉価な「スタンダード」と称する商品(以下「スタンダード」という。)を発売し、輸入シャトルに顧客を奪われるなどの影響を受けている取引先小売業者に限定して取り扱わせて、輸入シャトルを使用している顧客に販売させ、その使用する水鳥シャトルを自社のものに切り替えさせるようにすること。
(7)さらに、平成23年3月ころ、千葉県所在の輸入販売業者が、新たに水鳥シャトルの販売を開始し、通信販売によるほか、小売業者を通じた販売を企図してきたため、Yは、同輸入販売業者の輸入シャトルを販売する機会を減少させることを目的として、同輸入販売業者に対し、前記(6)記載の輸入シャトル対策を講ずることとしたほか、同じころから、次のような対策を講じて、取引先小売業者が同輸入販売業者の輸入シャトルを取り扱わないようにさせている。
(a)取引先小売業者が輸入シャトルを取り扱おうとしている、または取り扱っている場合において、輸入シャトルを取り扱わない旨のYの要請に応じないときには、スタンダードを供給しない旨示唆すること。
(b)前記輸入販売業者のホームページに輸入シャトルの取扱小売業者として取引先小売業者の名称が掲載されている場合には、当該小売業者に対し、その名称の掲載をやめるよう同輸入販売業者に求めさせ、その掲載をやめさせること。
(8)Yが取引先小売業者または大会主催者等に対して行った前記(6)および(7)の行為を例示すると次のとおりである。
(a)Yは、平成23年3月ころ、千葉県内において全国規模のバドミントン競技大会が開催されるに当たり、その大会主催者等に対し、主にYの水鳥シャトルを大会使用球として使用すること、輸入シャトルの使用は一切認めないことなどを協賛の条件として交渉し、同競技大会において輸入シャトルが使用されないようにした。
(b)Yは、平成23年11月ころ、東京都所在の取引先小売業者が前記千葉県所在の輸入販売業者の輸入シャトルを取り扱おうとしたため、同小売業者に対し、当該輸入シャトルを取り扱わないよう要請するとともに、当該輸入シャトルを取り扱う場合にはスタンダードを供給しない旨示唆したところ、同小売業者は、当該輸入シャトルを取り扱わないこととした。
(c)Yは、平成23年11月ころ、石川県所在の取引先小売業者が前記千葉県所在の輸入販売業者のホームページにその輸入シャトルの取扱小売業者として掲載されていたため、同小売業者に対し、当該輸入シャトルを取り扱わないことおよび当該ホームページから同小売業者の名称を削除してもらうよう求めることを、それぞれ要請するとともに、名称が削除されない場合にはスタンダードを供給できなくなる旨示唆したところ、同小売業者は、当該輸入シャトルを取り扱わないこととし、また、同輸入販売業者に対し、当該ホームページから名称を削除するよう要請したため、当該ホームページから同小売業者の名称が削除された。
[設問]
前記の事実に対して、Yの行為は独占禁止法上どのような問題があるか述べなさい。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
60.医療食トップと公的認可機関の通謀による排除と支配:
[論点]私的独占。審判官視点。
[事実]
(1)財団法人N協会(以下「協会」という。)は、糖尿病、高血圧等疾病の治療のため必要とされる医療食についての調査研究を行うとともに、食品等に含まれる有害物質または添加物等の検査およびそれらに関する調査研究を行い、もって国民の健康の増進と医療の向上に寄与すること等を目的として昭和47年2月17日に設立された財団法人である。
協会は、「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(昭和33年厚生省告示第177号)に基づき、厚生大臣から、医療食のうち調理加工後の栄養成分が分析されていて、かつ、当該栄養成分分析値が保たれている食品(以下「医療用食品」と総称する。)の検査機関として指定を受け、医療用食品の販売業者等から検定料(製造業者の出荷価額に一定率を乗じて算出した金額)を徴収して、医療用食品の栄養成分値等の検査を行う収益事業を営んでいる。
協会は、意思決定機関として理事会を置いている。
(2)N医療食品株式会社(以下「Y」という。)は、医療用食品の販売業を営む者である。
(3)株式会社Mは、医療用食品の販売業を営む者である(以下「M」という。)。
(4)我が国における医療用食品の販売業者は、YおよびMのほかに24社(以下「24社」という。)あり、YおよびMならびに24社は、我が国における医療機関向け医療用食品のすべてを供給している。
(5)YおよびMは、製造業者から医療用食品を仕入れて24社または医療機関に販売している者(以下「一次販売業者」という。)であり、24社は、YまたはMから医療用食品を仕入れて医療機関に販売している者(以下「二次販売業者」という。)である。
24社のうち10社は、専らYから仕入れている者(以下これらの販売業者を「Y系二次販売業者」という。)であり、10社は、専らMから仕入れている者(以下これらの販売業者を「M系二次販売業者」という。)であり、4社は、YおよびMから仕入れている者である。
(6)YおよびY系二次販売業者の医療機関向け医療用食品の販売額の合計は、我が国の医療機関向け医療用食品の総販売額のほとんどを占めている。
(7)我が国における医療用食品の製造業者は65社であり、このうち41社は、専らYに販売している者(以下これらの製造業者を「Y系製造業者」という。)であり、19社は、専らMに販売している者(以下これらの製造業者を「M系製造業者」という。)であり、5社は、YおよびMにそれぞれ販売している者である。
YおよびMは、自己の系列以外の製造業者の製造する医療用食品についても、相互に仕入れを行っている。
(8)昭和53年2月、前記(1)の告示に基づき、保険医療機関が都道府県知事の承認を得て厚生大臣が定める基準による給食を行った場合において、医療用食品を給与したときに、入院時食事療養費に一定金額を加算した給付が受けられる制度(以下「医療用食品加算制度」という。)が導入された。
(9)協会は、昭和53年2月22日に厚生大臣から医療用食品の唯一の検査機関として指定を受けたことに伴い、医療用食品の登録制度を設け、協会の栄養成分値等の分析検査に合格し厚生省の了承を得たものを医療用食品として登録し、厚生省は、協会に登録された医療用食品を医療用食品加算制度の対象として都道府県に通知している。
平成8年2月末現在、272品目の医療用食品が協会に登録されている。
(10)協会は、昭和47年12月ころから医療用食品の製造工場認定制度および販売業者認定制度を実施してきており、協会は認定を行った製造業者または販売業者のみに医療用食品の製造または販売を行わせてきた。
(11)昭和52年に入り、医療用食品加算制度導入の気運が醸成されつつあったところ、協会は、Yから、医療機関向け医療用食品の販売を一手に行いたい旨の要請を受け、昭和52年5月27日に開催した理事会において、医療用食品の価格維持を図り、協会の検定料収入を安定的に確保するため、今後、原則として医療機関向け医療用食品の一次販売業者をYとすることを決定した。
(12)協会は、医療用食品の製造業者間および販売業者間の競争を生じさせないようにし、Yの独占的供給体制を確立するため、登録申請を受け付けるに当たり、医療用食品を製造しようとする事業者に対し、事前に一次販売業者であるYと協議させ、かつ、登録審査に一次販売業者であるYを参加させるとともに、既に登録している医療用食品と類似する食品を登録しないこと、さらに、医療用食品の登録品目数の目安を280品目程度に設定し、それ以上は登録しないこと等の登録方針(以下「登録方針」という。)の下に、医療用食品の登録制度を実施してきた。
(13)協会は、昭和61年に入り、医療用食品業界におけるYの独占的供給体制への社会的批判が高まってきたことから、これをかわすため、同年9月、かねてから医療用食品の一次販売業者になることを希望していたMを一次販売業者にすることについてYの意向を打診した。
(14)これに対し、Yは、Mの参入の条件として、Mの参入地域は、地理的条件等から医療用食品の普及率の低い地域に限定すること等を協会に提案した。
協会およびYは、Yの独占的供給体制を実質的に維持し協会の検定料収入を安定的に確保するため、昭和61年10月30日、前記Yの提案をほぼ取り入れた次の事項を主たる内容とする協会、YおよびM間の協定書(以下「協定」という。)を作成し、Mに締結させた。
(a)Mが新たに参入する地域は、医療用食品の普及率の低い地域を中心とする21都道県のみとする。
(b)医療用食品の販売系列は、YおよびMの2系列とし、YおよびMは共同して両社の系列に属さない販売業者の参入の防止に努める。
(c)YおよびMは、新規の二次販売業者をYまたはMのいずれかの系列に属させ、自己の系列以外の二次販売業者には販売しない。
(d)YおよびMは、他の販売業者から既に医療用食品を購入している医療機関に対しては、一切の営業活動を行わず、二次販売業者に対しても、これを遵守させる。
(e)YおよびMは、今後においても、Y系製造業者に対しては専らYに、M系製造業者に対しては専らMに販売させる。
(f)YおよびMは、医療機関に対しては、YまたはMが定めた医療機関向け販売価格(以下「定価」という。)で販売し、二次販売業者に対しても、定価で販売することを遵守させる。
(g)YおよびMの二次販売業者向け販売価格は同一とする。
(h)前記(f)に違反した場合は、YおよびMは協会に調停を求める。
(15)協会およびYは、Mが、一部地域においてYまたはY系二次販売業者の取引先医療機関に対して営業活動を行ったことから、協定の実効性を確保するため、平成元年4月19日、Mに、同協定を遵守すること等を内容とする覚書(以下「覚書」という。)を締結させた。
(16)協会およびYは、協定に従い、医療用食品の販売業者認定制度に基づき、YおよびM以外の一次販売業者およびYまたはMの推薦を得られない二次販売業者の認定を行わず、医療用食品を販売しようとする事業者の事業活動を制限していた。
また、協会およびYは、協定に従い、医療用食品の販売業者認定制度に基づき、認定を受けた販売地域以外の地域におけるMおよび二次販売業者の事業活動を制限していた。
(17)協会およびYは、協定および登録方針に従い、医療用食品の登録制度および製造工場認定制度に基づき、医療用食品を製造しようとする事業者の登録を制限する等その事業活動を制限していた。
(18)協会およびYは、協定に従い、医療用食品の製造工場認定制度および販売業者認定制度に基づき、医療用食品の製造業者の販売先ならびにMおよび医療用食品の販売業者の仕入先、販売先、販売価格、販売地域および販売活動を制限し、かつ、Mをして、医療用食品の製造業者の販売先ならびに医療用食品の販売業者の仕入先、販売先、販売価格、販売地域および販売活動を制限させていた。
[審判]
公正取引委員会は、協会およびYに対し、排除措置命令を行なったが、協会およびYの請求により審判開始を決定した。
[設問]
かりにきみが公正取引委員会の審判官だったとして、問題文で与えられた事実に対して、どのように法を適用するか、理由とともに述べなさい(主文の起案までは求めていない)。本件の事実には日付が付されたり、時期が推測できるものもあるが、解答においては、すべて現行独占禁止法の規定が適用されるものと仮定し、経過措置は無視しなさい。
[論点]市場分割「不当な取引制限」。知的財産権。弁護士視点。
[事実]
あなたの依頼人である都電子株式会社は、日本に本社を有し、世界中の支店、営業所、代理店を通して事業を展開する年商3兆円超の企業で、とくに半導体技術に関して世界トップレベルにあるが、近年は中国企業の追い上げで苦戦している。
中国の電脳集団は、半導体製品の製造販売を業とする企業で、コストの低さと品質の確かさを武器に、世界中の市場で急速にシェアを伸ばしている一方、進出先々で先行米日企業から特許権侵害訴訟を浴びており、対抗上、いまでは、かなりの技術をみずから開発し、または買い集めて保有している。
両社長とも技術者で、若いときからの友人同士である。先日、両社長がたまたまスイスのダボスで会ったとき、愚痴話から発展して、両社間で広範な技術交換関係に入るための交渉を開始することを合意、下のMOUにサインしてきた(原文日本語)。
Memorandum
of Understanding (MOU)
1.都電子株式会社(以下単に「都」)と電脳集団(以下単に「電脳」)は、本MOUにもとづき、両社が現在製造・販売・使用している半導体製品についての技術ライセンスを交換するため、可及的速やかに正式契約書を作成すべく、両社の専門家からなる交渉を開始することに合意する。本MOUは正式契約書の発効と同時に失効する。
2.正式契約は、両社代表者による正式契約書の調印か、必要あれば政府許可のいずれか遅い方の日に発効し、それから5年を経過した日に満了する。
3.都は電脳に対して、都が正式契約発効日において保有しまたは正式契約期間中保有することとなるすべての技術にもとづいて、正式契約の期間中、半導体製品を中国で製造する排他的ライセンスと、日本を除く世界各国で販売・使用する非排他的ライセンスとを許諾する。
4.電脳は都に対して、電脳が正式契約発効日において保有しまたは正式契約期間中保有することとなるすべての技術にもとづいて、正式契約の期間中、半導体製品を日本で製造する排他的ライセンスと、中国を除く世界各国で販売・使用する非排他的ライセンスとを許諾する。
5.電脳は、都から許諾された技術ライセンスにもとづいて製造する半導体製品の第三者むけ販売にあたって、同製品の日本国内での再販売・使用ライセンスを許諾しないことを合意し、そのむね製品包装上に表示しなければならない。
6.都は、電脳から許諾された技術ライセンスにもとづいて製造する半導体製品の第三者むけ販売にあたって、同製品の中国内での再販売・使用ライセンスを許諾しないことを合意し、そのむね製品包装上に表示しなければならない。
7.両社は、第3項に定めるライセンスの価値が、第4項に定めるライセンスの価値より高いことにかんがみ、かかる価値の違いを補償するため、電脳から都に対して、電脳が正式契約の期間中に世界中で販売するすべての半導体製品の正味販売価格の3%を、米合衆国ドルに換算して支払う。
8.正式契約期間中、半導体製品の技術に関して、第三者から電脳および都に対して世界中各国で提起される知的財産権訴訟に対して、都および電脳は、それぞれが保有する知的財産権にもとづく参加・抗弁・反訴などの手段を尽くして、たがいに協力する。
[設問]
あなたはMOUにいう正式契約交渉において、都電子交渉団の独占禁止法顧問を依頼された。MOUの精神をできるだけ生かしつつ、独占禁止法の立場からpassableな正式契約書を作成するための留意点を論じてください。域外適用問題や外国法は無視して、日本独占禁止法だけで考えてください。