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本間忠良 衝撃の新刊 知的財産権と独占禁止法−−反独占の思想と戦略

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経済法あてはめ演習60選(日本語)Antimonopoly Act  Exercise 60 Cases

情報革命についてのエッセイとゴシップ(日本語) Essays and News on Information Revolution

論文とエッセイ(日本語)Theses and Essays

 

 

 

経済法あてはめ演習60選(解答篇)

 

 本間忠良

 2013年4月

→問題篇

 

解答篇

目次:

   

1

01.軟式テニス・ラケット排他条件付取引

02下水道管更生工事の入札談合

2

03トラック製造販売部門の譲受け

04保守サービスのメーカー系保守業者による部品販売との抱き合わせと取引妨害

3

05化学製品の再販価格拘束

06遊戯銃の自主基準を利用した事業者団体の不公正な取引方法と競争制限

4

07生コンの不当な取引制限による価格引き上げと設備買い取り

08フランチャイズ本部による加盟店のデイリー商品「見切り販売」制限

5

09立体駐車機の保守サービスと部品販売の抱き合わせ等

10県経済連による占有率リベート

6

11重電製品の入札談合

12OSライセンス契約における特許権非係争条項

7

13ピザ宅配フランチャイズ本部による品目・価格・販売地域・仕入先等拘束

14原盤権者による共同のライセンス拒絶

8

15機械メーカー上位2社による部品の共同購入および共同物流会社設立

16段ボール販売分野における独占的販売業者による複合的な不公正な取引

9

17家電量販店トップによる安売り

18乳業者と金融業者の通謀による排除型私的独占と不公正な取引方法

10

19アクセサリーのネット販売取次サイトによるデザイナーの囲い込み

20.「不当な取引制限」破りへの課徴金

11

21化学品メーカー・トップ2社による製販子会社設立

22石灰石粉末とセメントの分野調整

12

23.低運賃タクシー向け共通乗車券会社サービス拒絶

24醤油プライス・リーダーによる再販価格維持

13

25プリント基板の価格に関する不当な取引制限

26音楽配信トップによる下位事業者に対するターゲティング

14

27除草剤のディーラー・ターミネーション

28石油の価格に関する不当な取引制限

15

29土木工事の入札談合

30除草剤の再販価格拘束

16

31道路工事の入札談合

32委託販売に偽装した粉ミルク・メーカーによる再販価格拘束と一店一帳合制

17

33鋼球(川上)と軸受け(川下)メーカーの垂直統合

34電気通信工事の入札談合

18

35社会保険庁向けシール談合

36スポーツシューズ・メーカーによる選択的流通

19

37医療用ベッドのトップ・メーカーによる発注者誤導

38粉ミルク・メーカーによる再販価格拘束と販売先制限

20

39工事機械メーカー単独と施工業者共同による供給拒絶

40応用ソフトウエアの抱き合わせ販売

21

41生コン協組による取引拒絶と拘束条件付取引

42アンプル生地管一手販売業者による排除型私的独占

22

43廉売店に対する家電トップ・メーカーによる間接の取引拒絶

44製缶トップによる支配と排除

23

45自動車向け補修用ガラス卸売業者による輸入品取扱小売業者の差別

46パチンコ機パテント・プール

24

47小型精米機メーカーによる販売業者の囲い込み

48有線カラオケ・トップによる下位競争者の取引排除

25

49映画入場料金の拘束

50元詰種子の価格に関する不当な取引制限

26

51ゲームソフトの抱き合わせ販売

52冷蔵倉庫事業者団体による届出料金の拘束

27

53保守サービスと部品の抱き合わせ

54都市間高速バス相互乗り入れにともなう運賃および排他取決め

28

55レジ袋有料化協定

56ゲームソフトの再販価格拘束と取引制限

29

57ブランド品の並行輸入妨害

58地区医師会による事業者数および機能・活動の制限

30

59バトミントン球優遇措置の授与とその撤回の脅しによる並行輸入妨害

60医療食トップと公的認可機関の通謀による排除と支配

 知的財産権による世界市場分割「不当な取引制限」


 1

 

 

01.軟式テニス・ラケット排他条件付取引

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、昭和57618日公正取引委員会告示第15号(平成21年改正)「不公正な取引方法」(以下「一般指定」)11項および12項である。

 

[あてはめ]

 

1)まず、[事実](3)第1文によれば、A社は、甲社および乙社との間の取引基本契約において、甲社および乙社が、A社以外の商品を取り扱わず、A社の商品のみを取り扱う旨の約定を設けている。この行為は、甲社および乙社に対して、「相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがある」に該当し、一般指定11項の要件の1つを形式的に満たす(もう1つの要件である「不当に」については(3)で述べる)。

 

 (2)さらに、[事実](3)第2文によれば、A社は、甲社および乙社に指示して、卸問屋(二次卸)との間の取引基本契約において、A社以外のメーカーの商品を扱うことを認めない旨の約定を設けさせている。この行為は、「相手方とその取引の相手方との取引・・を拘束する条件をつけて当該相手方と取引すること」に該当し、一般指定12項の要件の1つを形式的に満たす(もう1つの要件である「不当に」については(3)で述べる)。

 

 (3)ここで、一般指定11項および12項のいずれにおいても、かかる行為が、「不当に」おこなわれることを要件とする。両項でいう「不当に」とは、判例上、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」または「独禁法」という。また、法律名を省略している場合はすべて独占禁止法である。)19条で禁止される「不公正な取引方法」を定義する296号の「公正な競争を阻害するおそれ」(以下「公正競争阻害性」)と同義とされている。A社の行為はこの要件を満たす。判断の理由を下記する。

 

  (a296号にいう「競争」がおこなわれる場は、ソフトテニス・ラケットの卸売り市場であり、いわゆるブランド・ロックインが存在し、新規参入の困難な閉鎖市場である。この市場はメーカー4社で70%を超す寡占市場であり、そこで、一次卸としては、29%のトップ・シェアを占めるA社との約定に背いて取引基本契約を催告解約されては、他のメーカーとの取引が困難ないし取引条件が不利になることが避けられない。かかる状況で、[事実](3)の約定を迫ることは、一般指定11項および12項の「不当に」の要件を満たす。

 

  (b)公正取引委員会の「流通取引慣行ガイドライン」も、シェア10%以上または3位以内で「有力」とみなす。Aは寡占市場でシェア29%だから「有力」な供給者であり、公正競争阻害性の要件を満たす。

 

  (c)公正競争阻害性については、公正取引委員会の諮問機関である独占禁止法研究会が挙げる3類型のうち、「自由競争減殺型」の要件も満たす。

 

 (4)[設問]の留意点(1)について:

 

 A社は、かかる排他的および拘束条件付取引の理由として、製品に関する特別のノウハウを主張しているが、ノウハウの秘密を守るためには、守秘契約を締結し、それを執行する態勢をつくればいい(「より制限的でない選択肢(LRA)」が存在する)のであって、独占禁止法違反の正当化理由にはならない。

 

 独占禁止法21条は特定の知的財産権の行使に対する独占禁止法の適用除外をさだめており、公正取引委員会のガイドラインはこれを拡張解釈して、一定のノウハウもそれに準ずる扱いを受けることとしているが、それはあくまでも「ノウハウ保護制度(不正競争防止法)の趣旨目的」の範囲内の行為に限る。本件「ノウハウ」は、不正競争防止法における「営業秘密」3要件のうち、すくなくとも「秘密管理性」を欠くので、21条による適用除外を受けない。

  

 (5)[設問]の留意点(2)について:

 

 BCDも閉鎖的である場合、競争者も閉鎖しているから、Aの流通経路閉鎖によって、競争制限効果が増加しないという判例(東洋精米機)の傍論があるが、寡占市場外の30%の競争者が販路からほとんど排除されるから、本事案には該当しない。

 

 BCDが開放的である場合、Aに切られた甲社および乙社がBCDに拾ってもらえる可能性はあるが、独占禁止法の目的は市場における一般的な競争の促進なのであって、被害者が救済されるからといって、違法性が阻却されるいう法制ではない。また、ABCDの販路にフリーライドできるが、その逆は不可という状況は長続きしない。いずれBCDも閉鎖してくるという動的な考慮からも、法文を無視してまで、市場の歪曲を正当化することは許されない。

 

[結論]

 

 A社の行為は、一般指定11項および12項に該当し、独占禁止法19条違反を構成する。

 

→問題 

 

モデル:平成17年プレテスト第1問。

 

 

02下水道管更生工事の入札談合

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。なお、入札談合の立件において、@基本合意とA個別調整という2つの行為の立証を要求するのが公正取引委員会の実務である。

 

[あてはめ]

 

 [設問1

 

 (1)まず、ABCDの行為が、26項の要件にあてはまるかどうかを検討する。EFについては(2)で検討する。

 

 平成2121日、ABCD間に入札談合の基本合意が成立した(41日以降の入札案件に適用)。

 

 31日から翌年831日におけるAの指名停止およびBCD受注の半分についてのAが下請する約束は、基本合意の内容変更にすぎない。

 

 この基本合意に基づいて、平成2141日から翌年59日までの入札25件中、BCD24件を受注、そのすべてにおいて個別調整がおこなわれた。  

 26項の要件のうち、

 

 ・「共同して・・相互に拘束し」=基本合意の成立により要件を満足。

 

 ・「一定の取引分野」=Y市発注の下水道更生工事(甲工法と乙工法は発注者が区別していないので、同一の取引分野を構成する――現にFが甲工法で1件受注している)。

 

 ・「公共の利益に反して」=「宣言説」、「利益衡量説」いずれをとるも、高値受注目的の談合が公共の利益に反することは疑いない。

 

 ・「競争を実質的に制限」=問題文にはシェアの記載がないが、ABCDが乙工法を実施できる大中規模の業者で、実際に問題期間中25件中24件を受注していることから、「ある企業グループが、ある程度自由に価格数量品質を支配できる」とする東宝スバル基準を満たしていることはあきらか。1件しかとっていないFが「有効な牽制力」(東宝新東宝基準)でないこともあきらかである。

 

 (2)つぎに、EFは談合の存在を知っており、将来参加の期待を抱いていたことはたしかであるが、一方的な知識であり、uの情報提供も一方的な通知にすぎず(EFが追随してくるという判断も予想にすぎない)、26項「相互拘束」の要件を満たさない。郵便区分機事件の基準をとったとしても共同行為の「意思の連絡」はない。EFの行為は、せいぜいいわゆる意識的並行行動(conscious parallelism)である。

 

[結論]

 

ABCDの行為は独占禁止法3条後段違反である。EFの行為は独占禁止法違反でない。

 

 [設問2

 

 ABCDについては、基本合意だけで(個別調整がなくても)3条後段違反が成立するかという問題である。アメリカ法ではper se illegalで、行為の外形が存在するだけで違法だが、日本法では「競争の実質的制限」が要件なので、「実施時説」/「合意時説」/「着手時説」などの議論がある。しかし、合意によって、その瞬間から市場メカニズムが機能しなくなる――競争の実質的制限が発生する――とする「合意時説」が判例(石油カルテル刑事)通説である。

 

 もともと入札談合行為を基本合意と個別調整の2行為に分けて、それぞれの立証を要求する立場は、法文上の根拠もなく、本設問のように基本合意しかない場合、基本合意が何十年前で立証できない場合、また個別調整だけのいわゆる「一発談合」の場合なども考えられるので、この公正取引委員会の実務をあまり厳密に要求することは、あきらかな不当な取引制限を立件できなくなる――法執行者の手を縛る――おそれがある。あまり拘泥すべきではない。

 

[結論]

 

かりにABCDが基本合意だけして、個別調整の機会がなかったとしても、ABCDの行為は独占禁止法違反であり、排除措置の対象になる。

 

→問題 

 

モデル:平成22年第2問。  

 

 

2

 

 

03トラック製造販売部門の譲受け

 

[事実の整理]

 

 市場の集中度と合併による集中度の増分を関連して理解するための便利な指標としてHHIHerfindahl-Hirschman Index)がある。HHIとは、各市場参加者のシェア(%)の2乗を合計した値である。ここで「合併」は本件事業譲受けをふくむ。

 

・米国水平合併ガイドラインにおける司法省/FTCの審査基準:

      合併によるHHIの増加→

合併後のHHI↓  

50未満

50以上100未満

100以上

1000未満 非集中市場

競争制限なし

1000以上1800未満 集中市場

競争制限なし

競争制限を懸念

1800以上 高度集中市場

競争制限なし

競争制限を懸念

競争制限を推定

 

 ・企業結合ガイドライン(平成24年改正)の安全港:

  合併によるHHIの増加→

合併後のHHI

250以下

250

 

1500以下

競争制限なし

15002500以下

競争制限なし

シェア35%以下は競争制限なし

 

 本件で問題になる市場(一定の取引分野)は、日本国内におけるトラックの生産・販売市場である(乗用車は関係ない)。トラックの生産、販売のいずれかが問題となる――後述――が、題意によればシェアはほぼ同じなので、ここで、本件トラック生産・販売市場におけるHHIを算出する。

 

 本件トラック生産・販売市場のHHI=4805、事業譲受けによるHHI増加=1280。これは、米国基準では高度集中市場で競争制限を推定、日本基準でも安全港に該当しない。

 

[規範とあてはめ]

 

 (1)まず、独占禁止法1611号は、A社によるB社トラック生産部門の譲受けが「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」場合、これを禁止する(「不公正な取引方法による」場合については題意にないので、ここでは考察しない)。

 

 「競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現われているか、または少なくとも現われようとする程度に至っている状態を(もたらすことを)いう(東宝スバル事件判決)。これに加えて、「他からの競争がほとんど不可能になること――有効な牽制力ある競争者の欠如」を要求する判決(東宝新東宝)・審決(新日鉄)もあるが、その後ほとんどフォローされていない。

 

 (2)東宝スバル基準に照らして本件を判断するに、製造販売では、シェア3位で20%のメーカーが消滅して、シェア1位で32%のメーカーのシェアが過半の52%に増加するので、本件合併によって競争自体が減少し、A社が市場支配力を獲得することはあきらかである(本件の適用法条ではないが、「排除型私的独占ガイドライン」でも、シェア50%超を1つの警戒水域としている)。上記米国基準に照らしても競争制限の可能性がきわめて大きい。かりに東宝新東宝基準に照らして、ほかに23%15%のメーカーがあり、買手(運送業者)の交渉力が強いといっても、問題解消にはほど遠い。輸入の可能性も、日本の道路状況などから、トラックは乗用車より公的規制の障壁が高く、有効な競争者になる可能性は低い。

 

 米国基準では「競争制限を推定」され、反証責任が合併側に100%あるので、競争制限にならないという立証は容易ではない(ちなみに、米国ハート・スコット・ロディノ法で、日本における合併も米国司法省の審査を受けるので、ビジネス上は米国基準も満たす必要がある)。

 

 (3)次善の策として、製造だけなら競争制限でなくなるか? あまり変わらない。この場合は、B社がA社からOEM供給されたトラックの販売を継続することになるが、つぎのような問題がある。

 

  (aB社の仕入原価がA社にわかってしまう。A社内に、B社向けOEM販売部門とA社生産品の販売部門のあいだの「ファイアウォール」をつくるというアイデアはあるが、おなじ社内なので信用できない。競争制限状態は解消しない。

 

  (bOEM価格でBはホールドアップ状態になる(価格合意ができなければBは売るものがなくなる)。OEM価格を契約で1年ぐらい据え置くことはできようが、販売だけではビジネスとして長続きはしない。競争制限状態は解消しない。

 

  (cA社内の多数意見のように、OEM供給でも、B社は販売市場での競争者としてとどまるから、B社の販売先、販売価格・数量を報告させるなどは、もともとB社の仕入原価情報を持っていることともあいまって、1611号違反どころか、3条後段違反の不当な取引制限にも該当する――「縛り」など論外である。

 

  (d)トップが52%2位が23%では、この2社が戦略的に(「協調的に」)行動すれば、3位以下は追随するしかない。自動車には不当な取引制限の前歴はないが、将来ともそうとは限らない。

 

 (4)最後の策として、A社とB社がトラックの製造合弁子会社を設立するのはどうか? 東芝と三菱電機の重電機器製造合弁が事前相談で公正取引委員会のクリアランスを受けた前例がある。これなら、合弁会社とA社、B社はarm’s length取引になり、A社とB社が販売市場で競争することになるので、競争制限は緩和する。仕入原価は販売価格の50%程度とおもわれるので、のこり50%の販売原価での競争になる。だが、これでは、A社もトラック生産をやめてしまうことになるので、東芝・三菱電機ケースのように構造不況機種でもないかぎり、A社内を説得できるとは考えにくい。

 

 (5)つぎに、1621号の手続規定を考察する。国内売上高200億/50億基準は問題文には示されていないが、自動車業界(年売上何兆円にもなる)であればとうぜん該当する。前記事業譲受け(2)、OEM3)、製造合弁(4)いずれの取引も、公正取引委員会に対する届出が必要である。届出後30日間(待機期間)は取引を完了してはならない(108項準用)。この間に公正取引委員会から報告要求があれば、待機期間が届出から120日または報告から90日まで延長される。

 

 (6)企業結合ガイドライン(平成24年改正):HHIによる安全港については前述した。需要代替性による外国市場も考慮するが、前述のとおり、トラックは国による規制が強く、本件には適用できない。

 

[結論]弁護士意見:

 

 (1)「製造販売」の事業譲受け案(2)で、まず、公正取引委員会と非公式の事前相談が考えられるが、この案を公正取引委員会が諒承する可能性はきわめて小さい。

 

 (2)問題解消措置として、「製造だけ」の合弁子会社設立案(4)を準備しておくことがのぞましい。これなら、原価情報の漏洩もホールドアップもなくなるし、A社とB社が「販売」市場での競争単位として残る。

 

 (3)ただ、従来、日本の企業結合案件のほとんどが、非公式の事前相談で処理されていることは、ビジネスの発展のためによくない(1条「国民経済の民主的で健全な発達」)。事前相談(時間がかかり、公正取引委員会からいろいろ注文がつく可能性がある)をスキップして、「製造だけ」の合弁子会社設立(4)で162項の公式届出する方針をトップに提案してはどうか。

 

 ただし、この場合は、ビジネス上のリスクを計算しておく必要がある。待機期間中、本件を市場が察知する可能性がある(公取委要求の報告・情報・資料には市場や他社状況も含まれる)。また、待機期間中、公正取引委員会から排除措置命令(493項/5項)を受ける可能性がある。排除措置命令が出れば、本件がすべて公表されてしまう。株価に影響あり、あとで審判や取消訴訟で勝ったとしても、機会損失が出る。

 

→問題 

 

モデル:平成17年プレテスト第2問。  

 

 

04保守サービスのメーカー系保守業者による部品販売との抱き合わせと取引妨害

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、一般指定10項(甲事件)および14項(乙事件)である。

 

[あてはめ]

 

1)競争の場:違法行為の対象となった商品および役務。

 

2)公正競争阻害性:

 

 甲事件:原告(ビル所有者)の「取替え工事」商品選択を失わせた(独占禁止法研究会の3類型のうちA競争手段の不公正)。しかし従たる商品市場(Aエレベータの保守サービス)における「@競争減殺」も可能(主たる商品の供給者が、日米のマイクロソフト事件のような新規参入目的ではなく、新規参入阻止目的だから)。

 

 乙事件:メーカー系保守業者と原告(独立保守業者)間の公正競争を阻害(@競争減殺)。

 

3)独占禁止違反の成否について:

 

 (a)前記事実によれば、乙事件原告が被告と競争関係にあることおよび被告がAのいわゆる垂直系列下にあって、本件各部品につき、安全性を確保するため必要であるとして、その単体での供給はせず、取替え調整工事込みでなければ右の供給に応じないとしたことが明らかである。

 

 (b)そこで、このような被告の取引の方法が、不当な取引制限ないし不公正な取引方法を禁止する独占禁止法に違反しているかどうかについて検討する。

 

 一般指定10項は、「相手方に対し、不当に、商品または役務の供給に併せて他の商品または役務を自己または自己の指定する事業者から購入させ、その他自己または自己の指定する事業者と取引するように強制すること」を、また、同14項は、「自己または自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害すること」を禁止している。ここにいう「不当に」とは、公正な競争を阻害するか否かの有無により判断されるべきである。

 ところで、商品の安全性の確保は、直接の競争の要因とはその性格を異にするけれども、これが一般消費者の利益に資するものであることはいうまでもなく、広い意味での公益に係わるものというべきである。したがって、当該取引方法が安全性の確保のため必要であるか否かは、右の取引方法が「不当に」なされたかどうかを判断するに当たり、考慮すべき原因の一つである。

 

 (c)本件において、被告は、A製エレベーターの保守は、被告のみが完全に行い得るもので、特に本件各部品のように安全性に影響を及ぼす部品については、被告においてその取替え調整工事をする必要があると主張する。

 

 エレベーターの保守の技術を分けると、故障の修理のほか検査、調整等もあることが窺えるが、本件では、特定のエレベーターにつき、現実的な故障が発生し、それに対応した修理部品の供給が問題となったのである。

 

 そこで、右の故障を修理するに際し、本件各部品について、被告による取替え調整工事込みでなくては、右のエレベーターの安全性の確保ができないものかどうかの点を検討する。

 

 そもそも、交通(輸送)機関において、安全性は必須のものであり、技術的に可能な限り、当該交通(輸送)機関が人の生命・身体に危険を及ぼすことがないようにすべきものである。しかし、事実(15)および(16)によると、エレベーターにおいては、建築基準法・同法施行令に基づく措置により、かごの落下事故や乗客の転落事故は極めて稀となり、統計的にはいわゆる缶詰事故が多くなっている。したがって、本件各部品はエレベーターの安全性に直結する重要なものであるとの被告主張についてみても、安全性の水準からすれば、まずもって缶詰事故の発生が特に問題となるにすぎない。もっとも、缶詰事故それ自体が直接人身事故を惹起するはずのものではないにもせよ、恐怖感や焦燥感により、閉じ込められた者が脱出を図る際に転落したり、かごの中でそれらの者がいわゆるトラブルを起こしたりする可能性もないではなく、これらも広い意味での安全性に係わるものであるから、エレベーターのいわゆるハード面からの手当てもされるようになってきている。

 

 そして、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

 

  @本件部品は、エレベーターの速度制御機能を有し、マイクロ技術を用いた部品で構成されており、速度等に関する情報を帰還させるものである。

 

  A保守契約における定期点検項目と、建築基準法に定める定期検査の定期検査項目とはほぼ同一であり、通常は定期検査資格を有する保守業者が保守契約の一環として検査・報告を行っており、乙事件原告にはエレべーター検査資格者がいた。

 

  B独立系保守業者も、エレベーター保守事業協同組合、日本エレベーターメンテナンス協会等の組織を通じて技術交流や情報交換を図っているほか、各エレベーターの実機に当たり一応のデータを取ったりしている。乙事件原告も右の組織の一員である。

 

  CAは、韓国等の海外へもその製造に係わるエレベーターを輸出しているが、その保守は、現地の保守業者に任されている。

 

  Dエレベーターのプリント基板については、Aの同業各社は単体で販売し、被告のように取替え調整工事込みでないと、これを供給しないとの取扱はしていない。

 

  E本件各エレベーターに発生した現実の故障の原因の確認について、原告らの側に安全性の確保に係わるような過ちがあったとの証拠や、本件各部品の取替え工事そのものによって、安全面に係わる別途特段の危険を生ずる可能性があることあるいは工事それ自体のうちに安全性にかかわる別途特段の危険を内包しているといったことを裏付けるべき証拠はない。しかも、一般に、独立系保守業者によって保守されているエレベーターの方が事故率が高いとの証拠もなく、本件部品を独立系保守業者である乙事件原告が修理した後のエレベーターについて、格別の事故が現在までに生じたことを認めるべき証拠もない。

 

 以上の各事実関係からみると、乙事件原告においては、エレベーターの安全性に関して一定の資格ないしは能力を有しているものということができる。そして、たとえその技術自体が被告の技術自体に対比して相対的には劣るとみられるものであったとしてみても、乙事件原告は、その技術水準において、本件各部品の単体での供給を受けて、前記の現実的故障を修理するに足りる程度には達していたものであったとみてよい。したがって、本件においては、被告が本件各部品を単体で供給することなく、取替え調整工事込みでなければこれを供給しないとし、このような両者一体のもとでの部品供給でなければエレベーターの安全性を確保できないと認めるべき証拠は存しないことに帰するから、被告が、その独自の判断で、被告以外の保守業者に対する本件各部品の単体での供給を拒否する被告の取引方法には、独占禁止法上の正当性や合理性はないものというべきである。

 

 (d)次に、被告は、被告にはAから提供を受けたノウハウがあり、また、本件において被告に本件各部品の単体での注文に応じさせることは、契約上供給義務のある契約先と区別されるべき独立系保守業者の育成を強制される結果となって不合理であると主張する。

 

 しかし、仮に右のノウハウの中に被告主張の安全性に係わるものがあるとしても、前述のとおり、使用に供されたエレベーターは、その比較的長期の使用期間中における部品の交換等が当然に予想されているとみるべきなのであるから、本来、メーカーとしては、部品を供給するに当たり危険が予想される場合には、その旨の警告や危険を避けるための指示等所要の処置を可能な限り行うべきものであって、ノウハウの保護の名の下に右の警告・指示をすることなく、自己系列下の保守業者のみに部品供給をし、結果的に市場支配力を高めようとすることは許されないものというべきである。また、本件で問題とされているのは、独立系保守業者が自らのストックとして部品の注文をした場合ではなく、A製エレベーターの所有者がその現実に発生した故障について修理に必要な部品を供給することを求めている場合であって、メーカーであるAおよびその子会社でA製エレベーターの部品を一手に販売している被告が、A製エレベーターおよびその部品の数・耐用年数・故障の頻度を容易に把握し得ることおよびエレベーターの所有者が容易にはそのエレベーターを他社製のそれに交換し難いのはいわば当然であることを考慮すれば、このような部品を一定期間常備し、必要の都度、求めに応じて迅速にこれを供給することは、右の販売者であるAないし被告が負うべき、A製エレベーターを購入してこれを所有する者に対する、右販売に附随した当然の義務であると解するのが相当である。したがって、被告の右の主張が容れられなかったからといって、被告が独立系保守業者の育成を強制されるものとはいえない。

 

 (e)本件各部品とその取替え調整工事とは、それぞれ独自性を有し、独立して取引の対象とされている。そして、安全性確保のための必要性が明確に認められない以上、このような商品と役務を抱き合わせての取引をすることは、買い手にその商品選択の自由を失わせ、事業者間の公正な能率競争を阻害するものであって、不当というべきである。

 

 (f)原告らは、被告の甲事件行為および乙事件行為は不当な取引妨害行為にも該当すると主張する。被告の甲事件行為については、まさに前記のような被告の抱き合わせ販売の方針に基づくものであって、これが不当な取引妨害行為に該当するものとみる余地が全くないではないとしても、前記一般指定によれば、右の行為は、その14項にではなく、10項に該当するというべきである。他方、被告の乙事件行為については、抱き合わせ販売の方針に従ってなされたものではあるが、もともと乙事件原告においては本件部品のみの注文をしたわけではなく、右方針に従い、取替え調整工事込みで注文をしたのであるから、これが不当な抱き合わせ販売に当たるとしてその損害賠償を求めるのは筋違いである(同時にまた、乙事件原告主張の損害との因果関係もない。)。そこで、前認定の被告の甲事件行為を見ると、被告は、甲事件の部品を取替え調整工事込みで受注した後、迅速にその供給をすることなく、本件エレベーターにつき乙事件原告が被告と保守契約を結んでいないとの理由で3か月もの先の納期を指定したので、乙事件原告は、止むなく右エレベーターが設置されている建物を建築した大手建設会社に催促方を依頼したところ、同社は被告にクレームを申入れ、これによって初めて、クレームの翌日、被告は本件部品の供給をするに至ったものである。

 

 ところで、前に述べたとおり、メーカーであるAおよびその子会社でA製エレベーターの部品を一手に販売している被告は、A製エレベーターおよびその部品の数・耐用年数・故障の頻度を容易に把握し得ることおよびエレベーターの所有者が容易にはそのエレベーターを他社製のそれに交換し難いことからして、部品の常備および供給がAおよびその子会社でA製エレベーターの部品を一手に販売している被告の同エレベーター所有者に対する義務であると解される一方で、エレベーターが交通(輸送)機関の一種であって、これに不備が生じた場合迅速な回復が望まれるのは極めて当然であることからすると、被告の保守契約先でないからといって、手持ちしていた部品の納期を3か月も先に指定することに合理性があるとは到底みられず、不当とされても止むを得ないところである。

 したがって、被告の甲事件行為は、一般指定14項の不当な取引妨害行為に当たるというべきである。

 

 (4)不法行為の成否について:省略。

 

 (5)損害について:省略。

 

[結論]判決:

 

 以上のとおり、甲事件原告および乙事件原告の請求は、それぞれ理由があるから認容し、主文(省略)のとおり判決する。

 

[吟味]

 

Q:本件部品とはシステム・チップである。システムは著作物である。著作物の販売拒絶は21条で適用除外ではないか。

 

A:著作権のライセンス拒絶ではなく、モノの販売拒絶だから、21条に該当しない。かりに百歩を譲って、著作権のライセンス拒絶だとしても、競争者に対する取引妨害の手段だから、21条の「認められる」に該当しない。

 

Q:排除型の私的独占はどうか。

 

A:排除型私的独占ガイドラインは、、主たる商品市場でのシェアおおむね1/2超を公正取引委員会の立件基準としており、東芝エレベータのシェアはこれに足りない。従たる商品市場とするのが正しいとパブリック・コメントで指摘あったが、それでは日米のマイクロソフト事件(主たる商品の市場力を利用して――能率や品質ではなくーー従たる商品に強引に参入しようとした――手段の不公正)を立件できない。メーカー間の互換性がなく、顧客がロックインされていることから、シェアの分母を東芝製エレベータとできないか「小さい市場――米国Image Technical最判」。このほうが、一定の取引分野画定=違法行為の対象商品役務と整合的。

 

→問題 

 

モデル:東芝昇降機サービス事件大阪高判平成5730日。  

 

 

3

 

 

05化学製品の再販価格拘束

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、294号、一般指定2項および3条前段である。

 

[あてはめと結論]

 

 [設問1法執行者の視点

 

 (1)[事実](2)の行為のみ:  

 

 A社の「希望表明」には、一見実効性(契約・出荷停止・削減・価格引上・リベート減額など経済上の不利益や報告徴収・監視・帳簿監査・商品コード・買い上げ・個別指示――以上「流通取引慣行ガイドライン」)がなさそうだが、シェア50%のガリバー的オリゴポリストの行為だから、じゅうぶんな威嚇効果がある。

 

 一般に、再販拘束をすると他ブランドからの安値攻勢に弱いが、A社はそれに耐えられるほどの市場支配力がある。

 

 問題文によれば、卸売業者の系列化は進んでいないようだから、これまでの競争は活発で、価格もばらばらだったと思われるが、A社の「希望表明」後、8%4%にそろってしまった。また、4%5社が急速にシェアを伸ばせなかったことは、なんらかの非価格制限(たとえば客先制限)の存在を暗示する。いずれにしても公正競争阻害性(競争減殺)で19条違反の不公正な取引方法を構成する(なお、294号には違法の推定「正当な理由がないのに」があり、A社はこれを立証していない)。

 

 公正取引委員会としては、すくなくとも294号で、排除措置命令をおこなうことができる。

 

  (2)[事実](2)と[事実](3)の両行為:

 

 再販価格拘束(294号)、取引拒絶(一般指定2項)、排除型私的独占(3条前段)に該当。[事実]によれば、再販価格拘束の「正当な理由」をA社は立証できないし、供給拒絶の「不当に」は公正取引委員会が容易に立証できる(「競争減殺」)。私的独占のシェア基準も十分(排除型私的独占ガイドラインで50%超)。排除措置命令は必至である。ほかに、3条前段違反で刑事罰の可能性もあるが前例はない。

 

 [設問2被害者の視点

 

 悪質なディーラー・ターミネーション・ケース。すぐ商売ができなくなって、従業員が路頭に迷う。ただちに公取委に報告(独占禁止法45条)、緊急停止命令(同70条の13)を申立ててもらう。同時に、地裁で民法12項(信義誠実の原則)違反+独禁法違反かつ公序良俗違反(民法90条)を根拠として、A社による契約解除の無効を申立て、有効な契約にもとづく商品引渡しを請求(民事保全法232項「仮の地位を定める仮処分命令」つき)。独占禁止法24条にもとづいて、商品引渡しを求める差止請求。

 

 独占禁止法24条の差止請求はいままでのところ申立人の勝率がわるいし、差止請求でA社の作為(商品供給)を請求できないとした「三光丸事件」地判が問題。しかし、同地判は学説からつぎのような批判を受けており、本件で判例変更を期待する。

 

 ・「侵害の停止または予防」にはそれに必要な他の行為もふくまれる。

 

 ・作為請求を積極的に否定する文言ではない。

 

 ・作為請求を間接強制で執行することも可能である。

 

 ・解約によって5社は仕入先を見出すことができなくなるから、「著しい損害」も認定できる。

 

 ・「岐阜信金/資生堂」両最判は、独占禁止法違反の契約を無効とするために「公序」違反のレベルを要求しているが、独占禁止法24条はこれを一歩進めて「私益」を救済するのが立法趣旨である。

 

 ・「著しい損害」も、競争秩序ではなく、私益レベルでいい。  

 ・絶対的地域保護に価格維持効果を要件としたのは司法立法。

 

 ・市場画定も広すぎる。

 

 ・契約関係にない者(たとえば新規取引希望者)に対する一方的供給拒絶に対抗できるのは24条しかない。

 

 応急手当てが一段落したところで、公正取引委員会の審決を経由しての無過失損害賠償請求訴訟に移行する。審決経由でなく、直接民法709条の損害賠償請求もできるが、上述の商品引渡し請求(仮処分命令つき)をおこなっているので、時間的に余裕があり、独占禁止法25条訴訟が本筋である。

 

→問題 

 

モデル:平成18年第1問。  

 

 

06遊戯銃の自主基準を利用した事業者団体の不公正な取引方法と競争制限

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は一般指定12号である。

 

[あてはめと結論]

 

1)共同ボイコット行為:  

 

 a)原告および被告組合の組合員らは、互いに競争関係に立つ業者であるところ、[事実](10)および(11)の「本件取引中止要請文書」を全国の問屋や小売店に送付して原告商品を扱わないように要請した行為(以下、被告組合の右各妨害行為を併せて「本件妨害行為」という。)は、事業者団体である被告組合が、互いに競争者の関係に立つ事業者である被告組合の組合員、および同様に競争者の関係に立つ事業者である3懇話会会員に要請し、一致して、小売店に対し、特定の事業者である原告との取引を拒絶させる行為(昭和57618日公正取引委員会告示第15号(以下「一般指定」という。)12号)をさせるようにする行為であって、独占禁止法の定める事業者団体の禁止行為である「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」という構成要件に形式的に該当すると認められる。  

 

 (b)そして、前記認定のとおり、平成2211月ころ、原告を除くほとんど全てのエアーソフトガン製造業者は被告組合の組合員であって、そのシェアの合計は100%に近い数字であり、また、エアーソフトガンを取り扱う全国の問屋についてもその大部分が3懇話会に加入していたものであったから、前記のとおり、被告組合が組合員である問屋らおよびこの問屋らを介して小売店らに対し、原告と取引をした場合には被告組合員の製品を供給しない旨を告げて原告製品の取引中止を要請したことにより、原告が自由に市場に参入することが著しく困難になったことが認められる。したがって、本件妨害行為は、独占禁止法の定める事業者団体の禁止行為である「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(以下「不当な競争制限」という。同法81号)の構成要件にも形式的に該当すると認められる。

 

 (2)正当な理由および公共の利益の有無:  

 

  (a)以上のとおり、本件妨害行為は、不公正な取引方法の勧奨および不当な競争制限という前記独占禁止法の構成要件に形式的に該当すると認められる。  

 

 しかし、共同の取引拒絶行為であっても、正当な理由が認められる場合は、不公正な取引方法に該当しないと解される(一般指定1項)。  

 

 また、形式的には「一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」に該当する場合であっても、独占禁止法の保護法益である自由競争経済秩序の維持と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発展を促進する」という同法の究極の目的(同法1条)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には、当該行為は、公共の利益に反さず、結局、実質的には「一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」に当たらないものというべきである(石油価格カルテル刑事事件最判昭和59224日)。

 したがって、本件は、被告組合がエアーソフトガンの安全に関する品質基準を設けて、これに合致しない商品の取扱いを中止するよう問屋および小売店に要請したという事案であるから、本件自主基準設定の目的が、競争政策の観点から見て是認しうるものであり、かつ、基準の内容および実施方法が右自主基準の設定目的を達成するために合理的なものである場合には、正当な理由があり、不公正な取引方法に該当せず、独占禁止法に違反しないことになる余地があるというべきである。  

 さらに、自由競争経済秩序の維持という法益と、本件妨害行為により守られる法益を比較衡量して、独占禁止法の究極の目的に反しない場合には、公共の利益に反さず、不当な競争制限に該当せず、独占禁止法に違反しないことになる余地があるというべきである。

 

  (b)本件自主基準の目的の合理性:

 

 認定事実によれば、被告組合は主として消費者およびその周辺の安全安全確保の目的のためにASGK制度を設けたものであり、本件自主規約において、ASGKシールの貼付されていないエアーソフトガンの製造販売をしないように申し合わせている行為は、安全検査を経ていないエアーソフトガンによる事故を防止して消費者およびその周辺の安全を確保することならびに事故発生により広範な規制が行われ業界全体が打撃を受けることを防止する目的であると認められる。  

 そして、前記のとおり、独占禁止法は、自由競争経済秩序の維持を保護法益としているが、その究極の目的は、一般消費者の利益確保および国民経済の民主的で健全な発達の促進にあるというべきであるから(同法1条)、安全性の確保されない製品の流通による事故の防止は消費者の利益に適うことであり、本件自主基準の目的は、独占禁止法の精神と何ら矛盾するものではないというのが相当である。  

 したがって、被告組合の本件自主規約およびこれに係る本件自主基準の設置目的は、正当なものであるということができる。

 

  (c)本件自主基準の内容の合理性:

 

 前記のとおり、本件自主基準において、エアーソフトガンの発射された弾丸の威力は0.4J以下と定められている。

 

 被告組合の本件自主基準では、エアーソフトガンの威力の基準を発射される弾丸の威力に基づいて定めているところ、エアーソフトガンから発射された弾丸の危険性は運動エネルギーにほぼ比例すると認められるから、弾丸の運動エネルギーを安全性の基準と考えることには、少なくとも不合理なものではないといえる。  

 

 前記認定のとおり、エアーソフトガンの消費者の多くは、可能な限り威力の高い製品を嗜好するのが一般的であるから、威力の上限の数値を設けない場合には、各メーカーが他社よりも威力の強い製品を製造販売しようとし、結果的に無制限な威力強化競争を招き、消費者の安全を害する蓋然性が高いことなどを考慮すれば、被告組合がエアーソフトガンの威力について0.4Jという上限を定め、エアーソフトガンと銃刀法に違反する実銃との間に相当広い空白の領域を設けようとしていることには理由があり、右のような本件自主基準の趣旨は一応合理的であるというべきである。  

 

  (d)本件自主基準の実施方法の相当性:

 

 本件92Fの流通により、消費者およびその周辺社会の安全という法益に重大な危険性が認められ、右危険を未然に防止するため他に適当な方法が存在しない場合には、問屋および小売店に対し、本件92Fの取扱いの中止を要請することはやむを得ないものであって、正当な理由があり、公共の利益に反しないものと認めるべきである。  

 しかしながら、本件自主基準中の前記0.4Jという威力の基準については、合理性がないとはいえないものの、必ずしも格別の根拠があるとはいえず、右基準に違反した製品が直ちに社会的に著しく危険であるともいえないこと、被告組合においては一度検査を通過した製品についてはその後ほぼ無条件でASGKシールが交付され、規約に定められた試買検査はほとんど行われていなかった結果、被告組合の組合員の製造販売にかかるASGKシール貼付の製品であっても、0.4Jを超える威力を有するものが現実には多数存在していたことなどに照らせば、本件92Fが被告組合員らの製造販売に係る製品と対比して格別に消費者およびその周辺社会に重大な危険を与えるものであるとは到底いえないものである。

 

 右のとおりであるから、本件92Fが流通することによって消費者およびその周辺社会に重大な危険を及ぼすことになるとはいまだ到底認められないものである。

 

 しかも、被告組合は、本件92Fの威力を正確に測定した上で威力の強い危険な銃であると認めたわけではなく、原告が被告組合に加入しておらずASGKシールを貼付していないという、まさに排他的な事由をもって本件妨害行為に及んだものである。

 

 したがって、たとえ本件自主基準の設定目的が正当なものであり、本件自主基準の内容も一応の合理性を有するものであっても、本件妨害行為は、右目的の達成のための実施方法として相当なものであるとは到底いえないというべきであり、正当な理由があるとはいえず、独占禁止法が禁止している「不公正な取引方法の勧奨」に該当するものである。

 

 また、本件妨害行為は、自由競争経済秩序の維持という独占禁止法の保護法益を犠牲にしてまで、消費者およびその周辺社会の安全という法益を守るため必要不可欠なやむを得ない措置としてされたものであるとは到底認められないから、独占禁止法の究極の目的に実質的に反しない例外的な場合であるとは認められず、ひいては公共の利益に反しないものとはいえないから、本件妨害行為は独占禁止法が禁止している前記「不当な競争制限」に該当するものというべきである。

 

 最後に、被告組合が独占禁止法第22条に規定する一定の組合に該当するか否かについては、被告組合の行為が、不公正な取引方法を用いる場合または一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合に当たり、同条ただし書きによって独占禁止法が適用されるから、ここでは審理しない。

 

 (3)私法上の不法行為該当性:

 

 独占禁止法は、原則的には、競争条件の維持をその立法目的とするものであり、違反行為による被害者の直接的な救済を目的とするものではないから、右に違反した行為が直ちに私法上の不法行為に該当するとはいえない。

 

 しかし、事業者は、自由な競争市場において製品を販売することができる利益を有しているのであるから、独占禁止法違反行為が、特定の事業者の右利益を侵害するものである場合は、特段の事情のない限り、右行為は私法上も違法であるというべきであり、右独占禁止法違反行為により損害を受けた事業者は、違反行為を行った事業者または事業者団体に対し、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。  

 本件においては、本件妨害行為により、原告の自由な競争市場で製品を販売する利益が侵害されていることは明らかであり、私法上の違法性を阻却するべき特段の事情は何ら認められないから、民法上の不法行為が成立するというべきである。

 

→問題 

 

モデル:日本遊戯銃協同組合事件東京地判平成949日。  

 

 

4

 

 

07生コン「不当な取引制限」による価格引き上げと設備買い取り

 

 [設問1

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、3条後段および3条前段である。

 

[あてはめ]

 

 ・「一定の取引分野」:

 判例では、一定の取引分野とは、「違反者のした共同行為が対象としている取引およびそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲をいう」(シール談合刑事事件判決)とされており、本件共同行為の対象製品である生コンが、その性質上長距離輸送が困難であることから、「A県における生コンの製造販売取引き」と画定する。

 

 ・「競争を実質的に制限」:

 東宝スバル事件高判「競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現われているか、または少なくとも現われようとする程度に至っている状態を(もたらすことを)いう」。  

<決定1>において、10社は、「合意」により、共同して相互にその事業活動を拘束している。  

   <決定11において、10社は、価格引き上げの合意をしている。10社のシェアは60%に達しており、かりに、のこりの40社(「小規模事業者」――1社平均1%)が個別的に価格を維持または引き下げても牽制効果はほとんどなく、A県における競争自体が減少して、10社が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することを防ぐことはできない(東芝スバル事件判決)から、26項の要件「一定の取引分野における競争の実質的制限」を満たす。

 

 ・「公共の利益」:  

 3条の要件である「公共の利益」とは、公正取引委員会の伝統的解釈では「自由競争秩序」を意味するが、判例では、さらに「当該行為によって守られる利益と比較考量し、違法にならない例外的な場合もある」(石油カルテル刑事事件判決)とされる。本件共同行為はいずれによっても正当化の余地がない。

 

 ・「意思の連絡」:  

 東芝ケミカル事件高判「・・複数事業者間で、相互に同内容または同種の対価の引き上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があること(認容)」。

 

 ・小括:  

 

 <決定11の合意は、10社による3条後段違反「不当な取引制限」を構成する。

 

 <決定12において、廃業設備の買い取りは、B県の安売り業者の参入を「排除」する合意である。シェア60%の事業者による「排除」だから、排除型私的独占ガイドラインの要件「おおむね2分の1を超え」、25項の要件を満たして、10社による3条前段違反「排除型私的独占」を構成する。

 

 ・以上、10社に対しては@3条後段およびA前段を適用する。@とAは、趣旨・文言からしても、たがいに競合・包摂する関係にはないので、重畳して適用することに問題はない。とくに3条前段は、県外からの参入排除を問擬するもので、競争制限を問擬する3条後段とは独立に適用される。しかし、対象行為は同一なので、後述する課徴金や、ここでは考察していない刑事罰については、3条後段の適用で足りるとするのが、独占禁止法の趣旨には適合しよう(このことは[設問2]後述する81号違反についても同様である)。

 

 ・なお、10社の価格引き上げを知った小規模事業者40社のほとんど(以下「追随者」と称する)が、10社に追随して価格を引きあげた事実について、一般に、単独で、他社の価格を知ってこれに追随すること(意識的並行行動conscious parallelism)は、自然な競争行動として違法性がないといわれるが、本件で、追随者は、10社の価格引き上げを認識し、これに歩調をあわせる(認容する)意思があり(東芝ケミカル事件判決)、「共同して」の要件を満たす。

 

 これら追随者グループと10社グループの相互拘束は立証されていないが、26項の「共同して・・遂行」の要件を満たし、追随者による3条後段違反「不当な取引制限」を構成する。「共同遂行」の解釈については諸説あり、判例もごく初期のものに限られるが、本件追随者の行為はこの要件を満たす。「共同して相互に拘束」は合意の時点で、「共同して遂行」は遂行の時点で既遂になる。

 

[結論]

 

 公正取引委員会は、10社および40社(価格引き上げを行わなかった数社を除く。)に対して、決定1の取りやめを命ずる排除措置命令および課徴金納付命令(36日から57日までの各社生コン売上高に対して――主導者や再犯者には加算がありうる。)をおこなう。

 

 生コンの買手は、10社および40社(価格引き上げを行わなかった数社を除く。)に対して、民法709条にもとづく損害賠償請求ができる(独占禁止法25条にもとづく無過失ルートもある)。

 

 [設問2

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、3条前段、81号および3号である。83号が1号に包摂されるとする学説もあるが、3号は競争制限に至らない数の制限を問擬するので、独立に適用される。

 

[あてはめ]

 

 @<決定21における生コン協議会通常総会の決議とその実施は、「A県における生コン製造販売取引分野における競争を実質的に制限する」から、81号違反を構成する(「一定の取引分野」および「競争を実質的に制限」については設問1とおなじ)。81号には「公共の利益」要件がないから、ここでは考察する必要がない。

 

 A<決定12における生コン協議会通常総会の決議とその実施は、A県における生コン製造販売「事業分野」(一般的な産業区分で、市場を意味する「一定の取引分野」とは概念的に異なるが、本件事実においてはたまたま同じである)における「将来の事業者の数を制限」要件を満たし、83号違反を構成する。

 

 B<決定12における生コン協議会のシェアは100%で、排除型私的独占ガイドラインの要件を満たし、3条前段違反「排除型私的独占」を構成する。

 

 以上、生コン協議会に対しては@81号および3号ならびにA3条前段を適用する。@とAは、趣旨・文言からしても、たがいに競合・包摂する関係にはないので、重畳して適用することに問題はない。とくに3条前段は、県外からの参入排除を問擬するもので、競争制限を問擬する81号とは独立に適用される。

 

[結論]

 

 公正取引委員会は、協議会に対して決定2の取りやめを命ずる排除措置命令、および構成事業者に対して課徴金納付命令(58日から組織決定による取りやめの日まで、各社生コン売上高の10%――再犯や主導があれば加算、3条前段と後段違反が重畳するが、課徴金は最高率で頭打ち――前述)をおこなう。

 生コンの買手は、協議会の構成事業者に対して、民法709条にもとづく損害賠償請求ができる(独占禁止法25条にもとづく無過失ルートもある)。

 

→問題 

 

モデル:平成18年第2問。

 

 

08フランチャイズ本部による加盟店のデイリー商品「見切り販売」制限

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は295号ハである。

 

[あてはめ]

 

 (1)競争の場:

 

 自社のフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者に対し、特定の商標等を使用する権利を与えるとともに、当該事業者によるコンビニエンスストアの経営について、統一的な方法で統制、指導および援助を行い、これらの対価として当該事業者から金銭を収受する取引。

 

 (2)優越的地位:

 

 Yは優越的地位にあり、加盟店はいわゆるホールドアップ状態にある[事実](7)。「優越的地位の濫用ガイドライン」第2-1類推:「事業者にとって相手方との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすため、・・要請が自己にとって著しく不利なものであっても、これを受け入れざるを得ない場合であり、その判断に当たっては、当該相手方に対する取引依存度、当該相手方から小売業者の市場における地位、販売先の変更可能性、商品の需給関係等を総合的に考慮する」。

 

 (3)正常な商慣習:

 

 加盟店における見切り販売による負担軽減行動こそが「正常な商慣習」。ただ、Yがこれを制限したこと自体が違法なのではなく、公正競争阻害性の認定要素である。排除措置命令は、Yによる本件優越的地位の濫用を正常な商慣習に反するとしているもので、Yの違法な損失予防(利益追求)動機が正当化理由になるものではない。

 

 (4)公正競争阻害性:  

 

 事業者が、自らの合理的な経営判断に基づいて負担を軽減する機会を失わせた(独占禁止法研究会の3類型のうちB取引先の自主性抑圧による競争基盤の破壊)[事実](14)。

 

[結論]審決:

 

 前記事実によれば、Yは、自己の取引上の地位が加盟者に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の実施について加盟者に不利益を与えている([事実](12))ものであり、これは、独占禁止法295号ハに該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

[吟味]

 

 旧法では、一般指定に列挙の全行為が「おそれ」で十分だったのに、現行法の課徴金対象行為では、2号/3号で「困難にするおそれ」とするほかは、すべて公正競争阻害の実在が要件である(実体法が変更になった)。現行法では具体的な認定が必要。ただ課徴金は違反売上高で機械的に計算されるから、「おそれ」の有無は関係ない。

 

→問題 

 

モデル:セブン―イレブン・ジャパン事件排除措置命令平成21622日。

 

 

5

 

09立体駐車機の保守サービスと部品販売の抱き合わせ等

 

[事実の整理]

 

 甲社(メーカー)→X社(販売子会社シェア40%)→乙社(保守サービス孫会社シェア30%)。ABC(独立保守サービス会社「ISO」シェア70%)。

 

[規範とあてはめ](法律意見書の形式で)

 

X社法務部長殿

                                          YY法律事務所

                                            弁護士 ZZ

                      

                 法律意見書

 

○年○月○日ご照会の件につき、下記のとおり意見申し上げます。

 

                   記

 

 [設問1

 

 「独立系保守業者(以下「ISO」)からの甲社製装置の構成部品(以下「構成部品」)の発注に際しては、系列の乙社において取替工事をおこなうことを販売の条件とする」という貴社ご方針を実施すると、独占禁止法(以下単に「法」)第19条違反(公正取引委員会昭和57年告示第15号(以下単に「一般指定」)第2項、第10項、第14項該当)および法第3条前段違反で、公正取引委員会の審査を受け、排除措置命令にいたる可能性があるほか、貴社ご方針の実施によって被害を受けたISOおよび/または駐車場装置のユーザーから、それぞれ損害賠償(民法第709条または法第25条)および/または差止請求(法第24条)を受ける可能性があります。さらに、公正取引委員会から課徴金(売上高の6%)を課され、事案によっては刑事罰を受ける可能性もあります。したがって、貴社ご方針は、現時点では実施を見合わせるようご助言申し上げます。以下に理由を申し上げます。

 

1市場画定

 

 法第19条の要件である「公正競争阻害」が生じる「競争の場」と法第3条前段の要件である「競争の実質的制限」が起こる「一定の取引分野」は概念が異なりますが、本件事実に関しては共通で差し支えなく、専用部品や専用システム基盤への依存度の高さおよび他メーカー装置へのスイッチング・コストの高さを考慮して、「関東地区における、構成部品の取替工事を含む甲社製装置の保守・修理役務」と画定します。

 

2安全性

 

 法第19条(一般指定各項)の要件である「公正競争阻害」は、公正取引委員会の伝統的解釈では、自由競争秩序に対する悪影響を意味しますが、判例においては、それだけではなく、例外的に、「安全性」など公共の利益も考慮する余地があるとされており、本件でも、貴社が引用される国土交通省ガイドラインが、あるメーカーの部品を他メーカーの装置の保守に転用することを懸念しています。しかし、同ガイドラインは法律ではなく、法違反の違法性阻却事由にはなりません。さらに、貴社ご方針は、転用事例・転用による事故や具体的な危険性などを社内で検討していなばかりか、ISOに転用禁止の注意などもしていないので、公正取引委員会または裁判所によって、公正競争阻害が真の目的であると認定される可能性があります。そのうえ、貴社ご方針によれば、ISO顧客からの修理依頼には2週間程度の遅れがでることになり、これは安全性とは関係がないばかりか、競争阻害はさらに顕著になります(ISO顧客に損害が発生します)。

 

 法第3条前段の要件である「公共の利益に反して」についても同様で、公正取引委員会または裁判所によって、貴社ご方針の実施が「公共の利益に反して」いると認定される可能性があります。

 

3知的財産権

 

 構成部品の中には貴社(または甲社もしくは乙社)の特許にカバーされるものがありうるし、ほとんどが甲社商標を掲げているものと推察されます。とくに、システム基盤は一般に著作物とされており、法第21条によって法の適用除外を受けるかのように見えますが、本件事実においては、いずれも、権利が消尽しているか、または権利の行使が各権利付与法の趣旨目的に反していますので、適用除外の可能性はありません。

 

4法の重畳

 

 本意見書には、規範としていくつもの法条を挙げていますが、これらはいずれも行為要件が異なり、相互排他的(競合)ではなく、重畳して適用されます。公正取引委員会や民事訴訟での原告は、実際には、規範を選択したり、本位的請求と補助的請求などの序列をつけてくることもありますが、本意見書では、貴社の対応の便をはかって、考えられるすべての規範を挙げています。

 

5一般指定第2

 

 貴社ご方針を実施すると、同条件に従わないISOに対しては構成部品の販売取引を拒絶することになって、一般指定第2項に該当し、独占禁止法第19条に違反する可能性があります。同取引拒絶によって、甲社製装置の保守サービス市場が乙社の1社独占になって、同市場における「独占禁止法研究会の3類型のうち@競争減殺」をもたらすことが明らかであり、一般指定第2項の要件である「不当に」が認定されます。

 

6一般指定第14

 

 貴社ご方針を実施すると、ISOとその顧客との取引を妨害することになって、一般指定第14項に該当し、法第19条に違反する可能性が大であります。同取引妨害によって、ISOの顧客(駐車場装置のユーザー)は乙社のサービスを受けるほかはなくなり、その場合でも2週間遅れということで、「競争減殺」が認定されます。

 

7一般指定第10

 

 貴社ご方針を実施すると、駐車場装置のユーザーに対して、貴社部品にあわせて、取替工事という独立の役務を購入させることになって、一般指定第10項に該当し、独占禁止法第19条に違反する可能性があります。この場合、ユーザーは、取替工事役務を、自由な競争ではなく、経済的な強制によって購入を余儀なくされているので、「独占禁止法研究会の3類型のうちA手段の不公正」とともに、抱き合わされる(従たる)役務の市場における「競争減殺」の点で、「不当に」が認定されます。

 

8法第3条前段

 

 貴社ご方針を実施すると、「関東地区における、構成部品の取替工事を含む甲社製装置の保守・修理役務」市場において、貴社と乙社が通謀して、競争者ABCを排除し、競争を実質的に制限することになって、法第3条前段に違反します。「実質的に」という点で、乙社のシェア30%というのは、公正取引委員会「排除型私的独占ガイドライン」の立件基準原則「おおむね2分の1」には足りませんが、乙社と通謀する貴社が独占的部品供給者(シェアほぼ100%)であるという事実から、立件基準を満たします。

 

 [設問2

 

 [設問1]の計画に代えて、「ISOから構成部品の発注を受けた場合、ISO自身で取替工事を行うことは認めるが、それは、基準数量の限度までで、それを超えた場合は、生産発注となって、引渡しに2か月程度かかる。ただし乙社に対しては即時納入する」という貴社ご方針を実施すると、法第19条(一般指定第4項、14項該当)に違反し、公正取引委員会の審査と排除措置命令、さらには、ISOおよび/または駐車場装置ユーザーからの損害賠償および/または差止請求を受ける可能性がありますので、現時点では実施を見合わせるよう助言申し上げます。以下に理由を申し上げます。

 

 貴社保管費用の削減は、法違反の正当化事由になりません。甲社は、メーカーとして、自己の生産した駐車場装置のトラブル率を把握しているはずで、貴社にも、それに対応する数量の部品を在庫する民事上の義務があり(東芝昇降機大阪高判)、これにしたがって適正在庫を保ち、ISOをふくむ部品の注文には迅速に応じることをお勧めいたします。

 

1一般指定第4

 

 一般指定第4項は、取引条件の不当な差別を禁じており、貴社ご方針は、貴社の出資会社である乙社とISOを、納期に関して、不当に差別するものであります。

 

 ここで「不当」とは、貴社基準数量の決め方であります。ご方針によると、乙社の2か月間のトラブル平均発生頻度から計画在庫量を算出し、しかもその8割を基準数量とするものであります。この方式では、計画在庫量の2割を乙社むけに留保することによって、ISOからの発注が、平均してつねに、基準数量を超えることになり、納期2か月が恒常化して、駐車場装置保守サービス市場における「競争減殺」をもたらします。

 

2一般指定第14

 

 貴社ご方針を実施すると、ISOとその顧客との取引を妨害することになって、一般指定第14項に該当し、法第19条に違反する可能性が大であります。同取引妨害によって、ここで「不当」とは、構成部品の納期が恒常的に2か月遅れとなって、結果的にはISO顧客(駐車場装置のユーザー)のISO離れを促進し、「競争減殺」をもたらします。以上

 

→問題 

 

モデル:平成19年第1問、東急パーキングシステム勧告審決平成16412日。  

 

 

10県経済連による占有率リベート

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は一般指定第12項である。

 

[あてはめ]

 

 (1Y主張についての判断:  

 

  (a)独占禁止法第22条は、ただし書きで、不公正な取引方法を適用除外から除いているところ、本件排除措置命令は、本件奨励措置が一般指定第12項該当の第19条違反を理由としてるものだから、第22条は適用されない。

 

  (b)ふつうのリベート(たとえば著しく累進的でない数量リベート)は値引きにすぎないが、本件奨励措置のような占有率リベートには効率化メリットがなく、競争者の取引機会が減少し(排除効果あり)、競合ルートにアクセスが困難になる場合は公正競争阻害性がある。

 

     (c)利用率90%を目標に利用計画書を出させ、達成度に応じて奨励金支払い。これによって経済連を利用するよう拘束している。

 

  (dYYの競争者との競争を阻害している。

 

 (2)競争の場:

 

 Y県内農協に対する農薬および肥料の供給事業。上記「Y主張についての判断(d)」。

 

 (3)行為要件:

 

 上記「Y主張についての判断(c)」。一般に、ノルマ設定・奨励給は従業員に対しては合法だが、独立の事業者に対してはケース・バイ・ケースである(流通取引慣行ガイドライン第2部第2-2(1)4)。本件奨励措置は、Yのシェアが非常に高く、利用率90%では競合ルートが生きられない。したがって競争品の取扱い制限(一般指定12項該当の19条違反)を構成する。

 

 (4)公正競争阻害性:

 

 上記「Y主張についての判断(b)」。一般に、数量リベートで効率化説明がつくものは合法。

 

 (5)吟味:

 

 一般指定4項「取引条件の差別」は、売手段階・買手段階とも公正競争阻害が立証されていない。11項「排他条件付取引」は、競争品の「取引」を禁止まではしていない(11項の要件は厳重)から12項を適用する。

 

[結論]審決:

 

 Yは、会員農協に農薬および肥料を供給するに当たり、会員農協とこれに農薬または肥料を供給する自己の競争者との取引を不当に拘束する条件を付けて会員農協と取引しているものであって、これは、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:山口県経済農業協同組合勧告審決平成986日。

   

 

6

 

11重電製品の入札談合

 

[事実の整理]

 

X 課徴金        談合             脱退         受注

13・・・・・14・・・・・15・・・・・16・・・・・17・・・・・18・・・・・19・・・・立ち入り

Y            談合                       報告 

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ]

 

 [設問1(1)] 基本ルール+個別調整。

 

 3条後段違反(26項)の要件について検討する:

 

 (1)事業者:成立。

 

 (2)共同して:会合しているから成立。

 

 (3)相互拘束: 入札談合の基本ルールとしては、「順番ルール」、「ご近所ルール」、「実績ルール」、「汗かきルール」、「平準化ルール」などいろいろあるが、本件は「実績ルール」である。各社が同一の基本ルールを受容しているから、「相互拘束」成立。

 

 (4)公共の利益に反して: 公正取引委員会基準(競争秩序)、石油カルテル刑事基準(総合考慮)いずれについても被審人からの主張・立証がなく成立。

 

 (5)一定の取引分野:甲省発注のα電気製品入札取引(全国)。

 

 (6)競争の実質的制限:  東宝スバル事件高判:「競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現われているか、または少なくとも現われようとする程度に至っている状態を(もたらすことを)いう」。

 

これに本件事実をあてはめると、市場全体で年150億円のところ、設問2によればXY20-40億円、他は分からない。全市場に対する6社合計のシェアは不明で、アウトサイダーや輸入の可能性に関する情報もない。

 

 価格に関する不当な取引制限(ハードコア・カルテル)だから、旧4条や米国per se illegalの基準であれば、問題なく違反が推定されるところだが、3条後段は「競争の実質的制限」の個別的な認定が必要である(米国でいうrule of reason)。

 

 一般に、「競争の実質的制限」のためには、シェア(50%)か、それに満たない場合は、なんらかの特殊な市場構造が必要とされる。この談合が5年も続いていたところから結果論的に判断して、@アウトサイダーの競争力不足(18年、19年のX社が例)、Aなんらかの参入障壁(技術障壁または官製談合)などの特殊な市場構造の存在が推認されるので、「競争の実質的制限」要件をいちおう満足する(取消訴訟に耐えられるかどうか疑問)。

 

 それとも、本件「不当な取引制限」のチャンピオンとアウトサイダーが活発な価格競争をしているのであれば、本件行為は競争者の数を減らしているだけなので、「競争の実質的制限」を満足するかどうか疑問である。

 

 [設問1(2)] 個別調整のみ、基本ルールの証拠なし。

 

 入札談合で、@基本ルールとA個別調整の2行為を要件とする公正取引委員会の立件慣行は、単発の受注調整だけでは「相互拘束」が認識できないという顧慮に由来するものだが、法文上の根拠はないので、「相互拘束」は個別的に推認できればいい(たとえば下請けや談合金を対価として協力――もっともこれが基本ルールだというなら定義の問題にすぎない)。本件でも、入札談合が5年も続いていたところから結果論的に「基本ルール」の存在が推認される。

 

 [設問2

 

 XYとも中小企業の要件を満たさないから、原則は違反売上げの10%。期間は違法行為の終期から3年遡及(7条の2)で、X社は平成15年初からカルテル脱退の17年末までの50億円(19年の受注は無関係)の15%7条の27項――10年以内再犯に該当する)=7.5億円。脱退から3年遡及というのは、早期脱退のインセンティヴを失わせるので、政策的には疑問。Y社は課徴金の徴収を受けない(7条の210項)。

    

 [設問3

 

 7条の2は「売上高」が基準だから、返品や値引き(リベート)など「売上高」の減額は認められるが、売上高の定義に入らない違約金の控除は認められない(税法でも同じ)。課徴金が「不当利得の剥奪」だという法文上の根拠はない(1977年課徴金導入の際の国会付帯決議にすぎず、法的拘束力はない)。

 

→問題 

 

モデル:平成19年第2問。

   

 

12OSライセンス契約における特許権非係争条項

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は一般指定12項である。

 

[あてはめ]

 

 (1)競争の場:[審判](2)(a)。  

 

 市場の公正な競争秩序に悪影響が及ぶおそれがあるか否かを判断するに当たり、Yの行為の態様、競争関係の実態および市場の状況等を総合考慮し、本件非係争条項により研究開発意欲が損なわれるおそれがある技術を踏まえた上で、当該研究開発意欲の阻害による公正な競争秩序への影響を検討する必要がある。

 

 また、検討対象市場については、本件非係争条項により損なわれるおそれがある研究開発意欲およびそれにより影響を受ける範囲により、本件において検討されるべき市場が判断されるのであり、より広い市場において競争が行われていると認められるとしても、同時に、その市場内において細分化された市場について公正な競争秩序に与える悪影響が認められる場合には、当該細分化された市場における悪影響が検討されるべきである。

 

 そして、本件では、ストリーミング方式またはダウンロード方式で送信される圧縮された音声データおよび画像データを、パソコンにより受信し、伸長し、再生する機能をソフトウェア等で実現するための「Windows Media Technologies」等のパソコンAV技術およびこれを取引する市場が存在し、AV技術市場から細分化された市場としてパソコンAV技術取引市場を観念することができる。

 

 さらに、パソコンAV技術の利用者としては、パソコン上で様々なファイル形式に対応し、受信した音声データおよび画像データを再生できることを期待するエンドユーザー、パソコンAV技術を搭載したパソコンやその周辺機器を販売しようとするパソコン製造販売業者およびパソコンAV技術を利用するアプリケーションソフトウェアを開発するソフトウェア開発者が存在するのであり、これらパソコンAV技術取引市場における競争は、AV技術取引市場における競争とは区別されるべきである。

 

 (2)行為要件:  

 

 不当な拘束条件付取引に該当するか否かを判断するに当たっては、Yが主張するような具体的な競争減殺効果の発生を要するものではなく、ある程度において競争減殺効果発生のおそれがあると認められる場合であれば足りるが、この「おそれ」の程度は、競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解すべきではなく、当該行為の競争に及ぼす量的または質的な影響を個別に判断して、公正な競争を阻害するおそれの有無が判断されることが必要である。

 

 独占禁止法第19条が「公正な競争を阻害するおそれがある」場合を不公正な取引方法として違法とするのは、競争制限の弊害が現実に生じる萌芽の段階において、不公正な取引方法を規制し、よって実質的な競争制限に発展する可能性を阻止する等の趣旨を有するものであるから、その認定に当たって、公正な競争を阻害することの立証まで要するものではなく、公正な競争を阻害するおそれの段階をもって、不公正な取引方法に該当するか否かが判断されるべきである。

 

 (3)公正競争阻害性:  

 

  (a)本件非係争条項の不合理性:[審判](2)(c)。  

 

 本件非係争条項は、OEM業者に対して特許権侵害の主張を可能とするための情報を開示しない状態で、きわめて広い範囲にわたるOEM業者の保有する特許権を、きわめて長期間にわたり、事実上、一方的かつ無償で、Yらに利用させることを可能とさせるものであり、OEM業者とY間の均衡を欠いた不合理なものである。契約において本件非係争義務が双務的であるか、クロスライセンス契約と比して均衡を失しているか否かは、上記の判断を左右しない。  

 

  (b)被許諾者における研究開発意欲の減退:[審判](2)(d)。  

 

 自由な競争は、様々な種類の機能をもった新規のより性能のよい製品の出現を促すものであり、また、多種多様な機能を有する製品の出現は、経済活動の活発化をもたらすとともに、消費者の選択の幅を広げる。そして、多種多様な機能を有する製品の出現を促す自由な競争が維持されるためには、これらの技術を開発する能力を有する者の技術の研究開発のインセンティブが機能し、研究開発意欲が損なわれない状態であることが肝要である。

 

 本件非係争条項は、その将来的効力により、本件非係争条項の対象となる製品がライセンス対象製品のみならず将来製品にもおよび、かつ、きわめて長期間にわたり、さらに、Windowsシリーズの機能の拡張に伴い、広範な特許権が将来的に無償ライセンスの対象となっていく可能性があるところ、@WindowsシリーズはパソコンOS市場において、平成15年当時においては94%という高い市場占有率を有していることから、いったんOEM業者の特許権に係る技術がWindowsシリーズに取り入れられてしまった場合には、パソコンを利用するほとんどすべての者が当該OEM業者の特許権を利用することができることになり、OEM業者は自社のパソコンAV技術を第三者に許諾するという方法で技術開発の対価を回収することが困難となること、Aこれらの特許権を利用できる者の中には、当該特許権を開発したOEM業者の同業者である他のOEM業者も含まれているため、OEM業者は自ら開発したパソコンAV技術を第三者に許諾せず自社製品のみに利用して自社製品を差別化するという方法を選択することも困難となること、BWindowsシリーズの技術情報の開示が不十分であって、OEM業者にとって、自社の特許権がWindowsシリーズにおいて利用されているかが不明であり、契約締結時の交渉において特許権侵害の主張をYに対して行うことができないこと、そしてCYWindowsシリーズのAV機能の拡張・強化を行っており、本件非係争条項については、複数のOEM業者が、本件非係争条項が自社のパソコンAV技術に係る特許権に影響を与える旨の懸念を表明して、Yに対してその削除を要求していたこと([事実](4))からも、OEM業者は、現実にも、パソコンAV技術についてWindowsシリーズに取り込まれる可能性を認識しつつ、パソコンAV技術を開発しなければならない状況にあったと認められる。

 

 これらにかんがみると、本件非係争条項の付されたOEM契約の締結を余儀なくされることは、OEM業者によるパソコンAV技術の研究開発の意欲を妨げることになるものと推認することができるというべきである。そして、一般的に、事業者が技術の研究開発の意欲を損なうとは、当該技術についての資本の投下を減縮することを意味するものであり、これにより、当該技術分野における研究開発が不活発となり、新規技術や改良技術の開発の停滞をもたらすおそれが生じる。本件非係争条項により、本来得られるはずのライセンス収入を得ることができず、これを将来の技術開発投資に配分できず、技術開発の循環システムに支障を生じさせることも技術研究開発意欲が損なわれることに当たる。  

 

 また、平成16731日以降であっても、本件非係争条項の将来的効力により、以前のライセンス対象製品から継承された機能および特徴部分については、以後に使用許諾されるWindowsシリーズについても、本件非係争条項の効力が及ぶことを考慮すると、本件非係争条項がOEM契約から削除された([事実](5))ことから、直ちに、OEM業者のパソコンAV技術に係る研究開発意欲が損なわれる蓋然性が消滅し、OEM業者のパソコンAV技術に係る資本投下の縮減が回復され、パソコンAV技術に係る研究開発が活発化するものということはできない。  

 

  (c)正当化事由:[審判](2)(e)。  

 本件非係争条項は、パソコン用OS市場における有力な地位を利用して、パソコンAV技術の競争者であるOEM業者に本件非係争条項の受入れを余儀なくさせて特許権侵害訴訟の提起等を否定するものであり、また、そのことを通じて、パソコン用OS市場におけるYの地位を強めるものであるから、そのような不当な手段である本件非係争条項によってYの主張するようなプラットホームとしてのとしての機能を含むWindowsシリーズの安定効果が図られるとしても、その競争に対する悪影響の認定を覆すに足りるものとは評価されない。

 

[結論]審決:

 

 Yは、平成1311日以降平成16731日まで、パソコン用OS市場における有力な地位を利用して、パソコンAV技術取引市場における有力な競争者であるOEM業者に対して、きわめて不合理な内容である本件非係争条項の受入れを余儀なくさせたものであり、当該行為は、OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性を有するものである。また、平成16731日以降においても、本件非係争条項の将来的効力により、OEM業者のパソコンAV技術に対する研究開発意欲が現在に至るまでなおも損なわれている高い蓋然性を有するものであり、これらにより、本件非係争条項は、パソコンAV技術取引市場におけるOEM業者の地位を低下させ、当該市場におけるYの地位を強化して、公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれを有するものである。

 

 そして、本件非係争条項には、パソコンAV技術取引市場における公正な競争秩序への悪影響を覆すに足りる特段の事情も認められないことから、平成1311日以降におけるYおよびOEM業者の間の本件非係争条項の付された直接契約の締結ならびに本件非係争条項によるOEM業者の事業活動の拘束行為は、公正競争阻害性を有し、一般指定12項の不当な拘束条件付取引に該当すると認められる。  

 

[吟味]

 

 本審決は、公正競争阻害性として長年維持されてきた独禁法研究会の3類型(@競争減殺、A手段の不公正、B競争基盤の喪失)に、C研究開発意欲の侵害を加えたという点で、画期的な意義を有する。OEMが相互に特許権を主張して共倒れになる(パテントプールの発想)というマイクロソフトの主張が否定された。表現保護の著作権に依存するマイクロソフトはアイデア保護の特許権に弱い(2007222日、シアトル連邦地裁の陪審は、Alcatel-Lucentが同社(旧ベル研)MP3特許をマイクロソフトWMPが侵害しているとして訴えていた事件で、史上最高の1.52B$を評決――控訴必至――MP3OEM業者がみんな使っているから、OEM業者を訴えることもできる)。Lucent(旧AT&T)はコンピューター製造から撤退していたので、マイクロソフト・ファミリーに入っていなかった。今後のIT主戦場はAV(デジタル・コンテンツ)である。プラットフォーム機能の安定確保は実体的だが、インセンティヴ論は神話にすぎない。

 

→問題 

 

モデル:マイクロソフト非係争条項事件審判審決平成20916日。

   

 

7

 

13ピザ宅配フランチャイズ本部による品目・価格・販売地域・仕入先等拘束

 

 [設問1

 

[規範とあてはめ]

 

本件事実が当てはまる規範は19条である。したがって、291号「共同の取引拒絶」以外は「公正競争阻害性」が要件なので、まず、「競争の場」を画定する。公正競争阻害性がテストされる場としては、「東京都内におけるピザ等のフランチャイズ・チェインによる宅配サービス」が最も適当である(米国では非フランチャイズのピザ宅配が多いが、日本では問題にならない)。題意によれば、ここでのX社のシェアはトップで、流通取引指針の「有力」要件を満たす。

 

[事実の整理]

[規範](19条)

[あてはめ]「公正競争阻害性」の判定

本部仕入れドリンク・デザートの再販価格拘束

294号「再販価格拘束」:「正当な理由がないのに」。

X社に立証責任がある。「統一的イメージの確保」は再販価格拘束の理由にならない。違法。

外部仕入れピザ・サラダの販売価格拘束

一般指定12項「拘束条件付取引」:「不当に」。

公正取引委員会または24条請求側に立証責任がある。外部仕入だから、4号の「自己の供給する商品」の要件を満たさない。したがって12項)。「統一的イメージの確保」は再販価格拘束の理由にならない。違法。

店舗位置拘束 

一般指定12項「拘束条件付取引」:「不当に」。

米国シルヴァニア最判では合法。流通取引慣行指針も同趣旨。合法。

営業範囲(宅配地域)拘束 

「積極的販売地域制限」(他地区へチラシを撒かない)

一般指定12項「拘束条件付取引」:「不当に」。

EU判例では「積極的販売地域制限」は合法。流通取引慣行指針も同趣旨。ブランド間競争をむしろ促進するという理由で、公正競争阻害性を欠く。合法。

「消極的販売制限」(他地区からの注文を拒絶する)

291号「共同の取引拒絶」:公正競争阻害性要件がない。

EUでは原則違法(知的財産権の行使であれば2年未満合法のガイドラインあるが、日本にはない)。日本法では「消極的販売制限」を義務づける基本契約は「共同の取引拒絶」。違法。

品目拘束

一般指定12項「拘束条件付取引」:「不当に」。

「メニューの統一性」や「スケール・メリット」は正当化理由にならない(これだけなら違法)が、食品販売のフランチャイズ・チェインだから、一店でも中毒があると、全店がダメージを受けるので、「安全性確保」はチェインの生命線。安全性確保目的の品目と仕入先の拘束は、正当性があり、公正競争阻害性を欠く。合法。サラダは本拘束を受けていない。なお「注」参照。

ピザ食材の仕入先拘束(Y社)。

一般指定12項「拘束条件付取引」:「不当に」。

統一チラシ(品目・価格・地域)。配布地域拘束

一般指定12項「拘束条件付取引」:「不当に」。

独自チラシの地域外配布を禁止しているが、これは積極的販売地域制限(上記)で、公正競争阻害性を欠く。合法。

「ピザ等の売上げを基礎とするロイヤルティ」

295号「優越的地位の濫用」:「正常な商慣習に照らして不当に」。

ロイヤルティが「仕入れ」ベースであれば、値引き販売のディスインセンティヴになる(公正取引委員会の「見切り販売」審決例がある)が、本件は売上げベースなので、公正競争阻害性を欠く。合法。

商標権のライセンスに上記拘束を抱き合わせ

一般指定10項「抱き合わせ」:「不当に」。

抱き合わせの要件「別個の商品・役務、両商品・役務における市場力、抱き合わせの強制」を満たすが、上記各項と重畳するので、ここでは独立の請求原因とする実益はない。

 

注:21条「知的財産権行使と認められる行為の適用除外」:本件は、商標権の許諾と営業指導(ノウハウ)の許与がおこなわれており、上記「安全性の確保」は商標権の趣旨(品質表示)に合致するので、安全性の確保を目的とする「品目拘束」と「仕入先拘束」は21条によっても適用除外を受ける(上記のように公正競争阻害性を欠く点からも合法判定)。

 

[結論]弁護士意見:

 

X社の行為は、上表のとおり、個々の行為では、「公正競争阻害性」を欠き、19条違反にならないものもある(「合法」と表示)が、全体としては19条違反を構成する(「違法」と表示)。

 

 [設問2

 

[あてはめと結論]弁護士意見:

 

 X社の「合法」拘束条件を遵守しなかった甲社は、本件契約違反をまぬがれないので、まずこれら個別的な契約違反行為を矯正してから、24条による差止請求をおこなうことになる。

 

 (1)@他地区へチラシを配布する行為とAW社からの食材仕入れはただちにやめさせる(いずれの制限も、公正競争阻害性を欠き、合法判定)。Bクーポンによる値引きや他地区からの受注は継続する。

 

 (224条にもとづく差止請求とフランチャイジーとしての地位を保全する仮処分申立をおこなう。請求原因としては、@本部仕入れドリンク/デザートの再販価格拘束(294号該当で違法)、A外部仕入れピザ/サラダの販売価格拘束(一般指定12項該当で違法)、B他地区からの注文を拒絶させる「消極的販売制限」(291号該当で違法)というXの独禁法違反行為による著しい損害のおそれがある。BCも参入してきて、いずれも地域拘束をしているとおもわれるので、BCブランドに鞍替えすることもできず、本件契約を解除されると甲社は事業継続不可能になる。したがって「著しい」要件も成立。

 

→問題 

 

モデル:平成20年第2問。

 

   

14原盤権者による共同のライセンス拒絶

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は291号である。

 

[あてはめ]

 

 (1)競争の場:CD音源による携帯電話向け音曲配信サービス取引き。

 

 (2)公正競争阻害性:CD音源による携帯電話向け音曲配信競争における競争者等の取引機会の排除による自由競争の減殺(独占禁止法研究会3類型の@)。

 

 (3)対市場効果:[事実](9)によれば、5社のシェアは曲数で47%、ダウンロード数で44%で、「排除型私的独占ガイドライン」のおおむね50%にわずかに届かないが、3条前段での立件も可能であったろう。

 

 (4)知的財産権:審決は、「配信拒絶」ではなく、「共同して」を問題にしているのだから、21条の適用除外はない。

 

55社主張(1)について:  

 

この場合の「意思の連絡」とは、複数事業者が同内容の取引拒絶行為を行うことを相互に認識ないし予測しこれを認容してこれと歩調をそろえる意思であることを意味し、「意思の連絡」を認めるに当たっては、事業者相互間で明示的に合意することまでは必要ではなく、他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれと歩調をそろえる意思があれば足りるものと解すべきである(東芝ケミカル)。

 これらの事情を総合考慮すれば、5社は、それぞれ、他の着うた提供業者が価格競争の原因となるような形態で参入することを排除するためには他の着うた提供業者への原盤権の利用許諾を拒絶することが有効であること(他の業者に対する楽曲の提供を拒絶しきれない場合にはアフィリエートを認めることが対応策であること)を相互に認識し、その認識に従った行動をとることを相互に黙示的に認容して、互いに歩調をそろえる意思であった、すなわち、5社には原盤権の利用許諾を拒絶することについて意思の連絡があったと認めることができるものである。

 

 (65社主張(2)について:

 

 5社主張は、要するに、原盤権者の立場から着うた提供業者に利用許諾を拒絶する行為の法的正当性、経済的合理性を強調し、それゆえに5社による利用許諾拒絶行為の共同性が否定される、とするものであるが、本件審決は、このような原盤権の利用許諾拒絶行為を5社が意思の連絡の下に「共同して」行ったことが独占禁止法に違反する違法な行為であると判断しているのであり、先に認定判断したとおり、本件に表れた一切の事情([事実](5)、(8)、(11)に記載の着メロ提供事業のビジネス構造に対する5社の不満、LM設立の経緯、着うた提供事業を開始する動機や経緯、LMの運営委員会等における5社の要職を担う者同士の検討状況、アフィリエート戦略の検討の経緯等)を考慮すれば、5社が意思の連絡の下に共同してLM以外の着うた提供業者に対して利用許諾を拒絶する行為を行っていたことは優に認められるというべきであって、そのような利用許諾の拒絶行為を5社が個別に行っていた場合にはそれが著作権法の観点から適法であって経済的合理性を有する行為であると評価できるとしても、そのことは、本件において5社が意思の連絡の下に共同して利用許諾を拒絶していたとの事実認定やそれが独占禁止法に違反する違法な行為であるとの評価を左右するものではないというべきである。

 

[結論]判決:本件審決取消請求を棄却する。

 

→問題 

 

モデル:着うた審決取消請求事件東京高裁平成22129日。

   

 

8

 

15機械メーカー上位2社による部品の共同購入および共同物流会社設立

 

T.部品の共同購入:

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ]

                                                                                                                                                                            

1)主要部品の購入市場:

 

 ・「一定の取引分野」:主要部品は商品Xのみに使用されており、規格や仕様が共通で、国内の部品メーカーは3社しかないことから、「一定の取引分野」を、国内における商品X主要部品の購入市場と画定する。

 

 ・「共同して」: 部品メーカーとの交渉窓口を一本化し、最も有利な条件で共同して購入するから、「共同して」の要件を満たす。

 

 ・「相互拘束」:ABが部品の共同購入計画を効果的に実行するには、契約の形態をとることが必至なので、「相互拘束」の要件を満たす。

 

 ・「競争の実質的制限」:ABのシェア合計75%なので、主要部品の購入市場におけるABの共同行為は、東宝スバル事件高判の「競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現われているか、または少なくとも現われようとする程度に至っている状態を(もたらすこと)」の要件を満たす。

 もっとも、ABによる共同購入による「競争の実質的制限」に乗じて、アウトサイダーCが主要部品の購入市場におけるシェアを急速に増加させる可能性はある(東宝新東宝事件高判)が、国内での商品Xのシェアは25%にすぎないし、国内の需要は低迷しているので、この可能性は輸出以外に考えられないが、輸出市場について、また、主要部品メーカー3社の生産余力や輸入の可能性については問題文には与えられていないので、ここでは考えないことにする。

 

2)商品Xの販売市場:

 

 ・「一定の取引分野」:商品X、主要部品メーカー、いずれも3社でシェア100%という事実から、ユーザーが容易に代替購入先を見出すことができない(輸入については前同)から、「一定の取引分野」を、国内における商品Xの販売市場と画定する。

 

 ・「共同して」:前同。

 

 ・「相互拘束」:商品Xの販売価格の上限を「協議して決めておく」ことから、「相互拘束」要件を満たす。

 

 ・「競争の実質的制限」:(1)製品X販売価格の80 x 80 = 64%が主要部品の購入価格であること、(2)共同購入によって相手方の主要部品購入数量・価格がわかること、(3)商品Xの販売価格の上限制限(一般に、不当な取引制限の目的は価格引き上げであるが、価格上限制限は安売りのカルテルとして、Cを市場から駆逐しようとする略奪的行為の可能性がある)の3点から、主要部品の購入市場における競争制限が、商品Xの販売市場における競争制限に容易に転化する。

 

[結論]弁護士意見:

 

ABの計画を実行に移せば、「共同」してかつ「相互拘束」で、主要部品の購入市場および商品Xの販売市場における競争を実質的に制限するから、独占禁止法3条後段違反である。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            

U.共同物流会社の設立:

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ]

 

 ・「一定の取引分野」:国内における商品Xの販売市場。

 

 ・「共同して」、「相互拘束」:前同。

 

 ・「競争の実質的制限」:ABによる運送コストの共通化(共同行為によるコスト下落)によって、Cが競争上影響を受けるが、運送コストが製品価格の10%にすぎないということから、「競争の実質的制限」には至らない。しかし、物流会社甲において、ABからの出向者が、それぞれBAの需要家の名称、所在地、受注数量、納期、販売価格(単価・値引き)を記した納品書によって、ABがそれぞれBAの販売価格・納期・客先を知ることは、計75%の寡占市場にあっては、両社の協調的行動を誘発し、独占禁止法3条後段違反になる可能性が強い。

 

[結論]弁護士意見:

 

 違反にならないためには、甲において、両社からの出向者が出向元にかかる情報を洩らさない――いわゆるファイアウォール――を設定し、これを効果的に維持(違反に対する罰則もふくむ)することが必要である。

 

→問題 

 

モデル:平成21年第1問。

   

 

16段ボール販売分野における独占的販売業者による複合的な不公正な取引

 

[規範とあてはめ]    

  規範

 公正競争阻害性

(独禁法研究会類型)

295号ロ

B競争基盤の破壊

一般指定2

@競争減殺

一般指定12

@競争減殺

 

 (1)適用除外:Yの行為は22条による適用除外を受けない。22条は小規模事業者による相互扶助が目的。適用除外はあくまでも競争秩序内の除外だから、市場支配力形成や不公正な取引を除外する趣旨ではない。

 

 (2)競争の場:東日本における青果物用段ボール箱の取引市場。

 

 (3)[事実](3)、(5)および(11)によれば、Yは、青果物用段ボール箱の購買につき、指定メーカーの事業活動を不当に拘束する条件をつけて取引きしているものであり、また、[事実](3)および(8)によれば、Yは、段ボール原紙の購買につき、段ボール原紙製造業者の事業活動を不当に拘束する条件をつけて取引しているものであり、これらは、いずれも不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項に該当する。

 

 (4)前記事実の(3)および(9)によれば、Yは、指定メーカーに対して、段ボール箱製造業者に対する青果物用シートの供給を不当に拒絶させ、または段ボール原紙製造業者からの段ボール中芯原紙の購入数量を制限させているものであり、これらは、前記不公正な取引方法の第2項に該当する。

 

 (5)[事実](3)および(10)によれば、Yは、自己の取引上の地位が優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、指定メーカーに対し、自己のために金銭を提供させている。

 

[結論]審決:

 

 Yの行為は独占禁止法295号ロに該当し、それぞれ、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

[吟味]

 

 3条前段の私的独占でも正解。「一定の取引分野」:東日本における青果物用段ボール箱の販売分野。「排除」:系統外販売を企図する販売業者を直接的または間接的(原料シート仕入れ妨害)に排除。「支配」:段ボール製造業者を支配。「実質的競争制限」:販売市場における市場支配力。シェア6割だから、排除型私的独占ガイドラインの要件を満たす。むしろこちらが本筋である(→問題 モデルとなった事案の年代は、私的独占の「冬の時代」)。

 

→問題 

 

モデル:全国農業協同組合連合会事件勧告審決平成2220日。

   

 

9

 

17家電量販店トップによる安売り

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、293号および一般指定6項である

 

 293号:@「正当な理由がないのに」(原則違法)、A「供給に要する費用」(総販売原価)、B「著しく下回る対価」(仕入原価または変動販売原価+密接管理費用未満)、C「継続して」、D「他の事業者の事業活動を困難にさせる」。  

 19条(一般指定6項):@「不当に」(合理の原則)、A「低い価格」(総販売原価未満)、B「他の事業者の事業活動を困難にさせる」。

 

[あてはめ]

 

1)名古屋3店舗での旧型パソコン販売キャンペーン:

 

 30,000円で仕入れて2,000円で売るのだから、この価格は仕入原価割れで、「供給に要する費用」を「著しく下回る対価」の要件を満足するが、開店1か月間、毎週末(45回)では「継続して」の要件を欠く。また。名古屋ほどの大市場で旧型パソコンを50台(計600-750台)程度では、「他の事業者の事業活動を困難にさせる」の要件を欠く。したがって、293号、19条(一般指定6項)いずれも違反の要件も欠く。新規参入キャンペーンだから「不当に」の要件も欠く。

 

2)東日本地区での液晶テレビ販売キャンペーン:

 

 ・37インチ売価14万円:総販売原価=17万円。仕入原価割れなので、293号の「供給に要する費用」を「著しく下回る対価」の要件を満足し、293号違反(「繰り返し」であれば課徴金2%に該当)。

 

 ・40インチ売価19万円:総販売原価=20万円。仕入原価18万円を割っていないので、「供給に要する費用」を「著しく下回る対価」の要件を欠き、293号には違反しないが、一般指定6項の「低い価格」の要件を満足する。シェア25-30%でトップ事業者が、3か月、台数無制限でこの販売キャンペーンを継続すれば、「他の事業者(仕入原価が21万円を上回る)の事業活動を困難にさせる」こととなり、「競争減殺」型の公正競争阻害として、「不当に」の要件も満たし、19条違反となる。

 

[結論]弁護士意見:

 

 名古屋地区での販売キャンペーンは可。しかし、東日本地区での液晶テレビ販売キャンペーンは、このままでは、37インチ、40インチとも独禁法違反のおそれがあるので、37インチは1万円以上値上げ、さらにいずれも期間の大幅短縮または台数限定が必要。とくに、37インチは、1台売るごとに1万円(3か月で3億円以上)純損失となるので、台数無制限では、会社がつぶれるおそれがある。それを承知で続行すれば、「略奪行為」として3条前段違反の排除型私的独占になる(シェア25-30%でも、放置すれば急速に50%超になる――緊急停止命令の要件も満たす)。法律違反はさておき、3か月後、競争者を駆逐してから値上げしても、ただちに新規参入が起こって(とくに参入障壁の低いネット販売で)、それまでの投資を「埋め合わせ(recoup)」ることもできないだろう。コストわれ販売による略奪は、よほど高い参入障壁がない限り、ビジネス的にも自殺行為である。

 

→問題 

 

モデル:平成21年第2問。

   

 

18乳業者と金融業者の通謀による排除型私的独占と不公正な取引方法

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、3条前段、291号および一般指定12項である

 

[あてはめと結論]

 

 (1Y1およびY2(以下「両会社」)は、協同して、Y3および Y4と完全な了解の下に、3か年間に約10億円の資金を両会社に生産乳を供給する農家に融通させて両会社の集乳地区に約1万頭の乳牛を導入し、本資金によつて乳牛を購入した者ならびに資金借受単協自体についてまで販路を制限し、それら生産乳はすべて両会社のみに販売せしめるという計画をたててこれを実行し、他の乳業者の集乳活動を抑圧し、特にいわゆる競争地区においては本資金を他の乳業者に対する強力な競争手段として利用し、Y3に他の地区に比し厚く本資金を融通させ、他の乳業者の集乳活動を排除し、もつてすでに北海道地域において集乳量約80%に及ぶ両会社の地位の全面的維持および強化をはかつているものと認められるから、両社の行為は3条前段に違反する。

 

 (2Y3は、Y1Y2のいずれかに原乳を供給する単協またはその組合員にのみ乳牛導入資金を融資し、他の乳業者と取引する単協等に対しては取引先が両会社でないという以外特別の理由なく乳牛導入資金の供給を拒否しているものと認められ、これは特定事業者に不当に資金を供給しないもので、一般指定2項に該当し、また、各単協に乳牛導入資金を融資するに当り、右資金を借り入れた各単協、組合員およびその保証人についても、それらの生産または販売する原乳を必ず両会社に販売することを条件としているのは、相手方とその取引の相手方の取引を不等に拘束する条件をつけて当該相手方と取引しているもので、一般指定12項に該当し、いずれも19条に違反する。

 

 (3Y4は、本件融資に当り、正当な理由がないのに、金融機関の業務として単協に保証を与えるに際し、両会社との取引を条件としているものであつて、一般指定の第12項に該当し、19条に違反する。

 

→問題 

 

モデル:雪印乳業事件審判審決昭和31728日。

   

 

10

 

19アクセサリーのネット販売取次サイトによるデザイナーの囲い込み

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、一般指定11項、14項および3条前段である。

 

[あてはめ]

 

 (1)行為要件(「不当に」(公正競争阻害性)については後記):

 

  (a)一般指定11項「排他条件付取引」:「あるデザイナーが競争者E社と取引しないことを条件として、そのデザイナーと取引し、すくなくともそのぶんE社の取引の機会を減少させる」のだから、11項の行為要件を満足する。

 

  (b)一般指定14項「競争者に対する取引妨害」:A社はBCDを無視してE社を狙い撃ちしているのだから、14項の行為要件を満足する(第一興商事件)。

 

  (c)一般指定2項後段「単独の取引拒絶」:

 

 「デザイナー(事業者)にE社との取引を拒絶させる」にも該当するが、これは11項該当行為の効果にすぎず、独立で問擬する必要はない(また、デザイナーを「事業者」とすると、サイトとデザイナーをふくむ「競争の場」を観念することになり、経済学的な説明が困難になる)。

 

 (2)「競争の場」:

 

 アクセサリーサイト運営による商品取次ぎ・集金取引。

 

 (3)公正競争阻害性:

 

 シェア40%A社が自社登録デザイナー全員との取引を、E社を「狙い撃ちで排除」する効果のある排他的契約(専属契約ではない――BCD社はフリーだから)に変更し、しかも、これをA社登録デザイナーすべてに通知することによって執行すれば、E社の参入がきわめて困難になる(独占禁止法研究会類型の@競争減殺型)。

 

 (4)知的財産権:

 

 A社が売れ筋情報(ノウハウ)を提供している(E社は提供していない)という事実は、不公正な取引方法の正当化理由とはならない。21条の適用除外は排他性のある知的財産権だけが対象で、いかに貴重とはいえ、売れ筋情報のような一般的な市場情報は対象にならない。また、A社によるE社排除行為は資生堂最判にいう「それなりの合理性」も満足しない。

 

 (53条前段「私的独占」(排除型):

 

 公正取引委員会「排除型私的独占ガイドライン」では、行為者のシェア「おおむね50%」としているが、ガイドラインは公正取引委員会の立件基準にすぎず、法文上の根拠はないし、本件はとくに「新規参入者の狙い撃ち」(ABCDの暗黙の合意の可能性もある)ということで悪質なので、ガイドラインの「おおむね」を最大限適用する。

 

[結論]弁護士意見:

 

 AE登録者に対するA社の対策は、一般指定11項と14項該当の19条違反および3条前段違反を構成する可能性があるから、これを断念するようアドバイスし、代替策として、A社の売れ筋情報を「営業秘密」とし(不正競争防止法の要件:@守秘努力、A有用性、B非公知性を満足させる)、A社のみに登録するデザイナーに守秘義務つきで開示する(パスワード等)対策を提案する。売れ筋情報を「営業秘密」として管理すれば、知的財産権に準ずる情報として、これだけなら21条の適用除外を受ける可能性がある。ただ、E社登録デザイナーにだけ開示しないというのは、狙い撃ちの排除効果が強すぎて、21条の適用を受けないこともある――USEN事件)。また、E社登録デザイナー名を、E社非登録デザイナーに通知することは、「営業秘密」3要件の守秘努力のレベルを超えるので、やはり21条の適用除外を受けない。

 

→問題 

 

モデル:平成22年第1問。

   

 

20.「不当な取引制限」破りへの課徴金

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、3条後段および7条の21項である

 

[あてはめ]

 

 (1)独占禁止法7条の21項は、事業者が商品または役務の対価に係る不当な取引制限等をしたときは、公正取引委員会は、当該事業者に対し、実行期間における「当該商品または役務」の売上額を基礎として算定した額の課徴金の納付を命ずる旨を規定している。そして、「当該商品または役務」とは、当該違反行為の対象とされた商品または役務を指し、本件のような受注調整にあっては、当該事業者が、基本合意に基づいて受注予定者として決定され、受注するなど、受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきである。

 

 (2)本件審決が認定した事実によれば、T建設は、Y以外の指名業者と受注調整手続を行い、受注調整を成立させ、自己の入札価格のみを連絡してY以外の指名業者の協力を得たのであるから、T建設が落札し契約した場合には、当該工事が課徴金の対象となることは明らかである。

 

 しかし、Yは、本件基本合意を認識し、これに基づいてY以外の他の指名業者との間で一応受注予定者と調整されていたT建設の要請によりT建設との間で最終的な受注予定者を決めるための話し合いを行ったものの、Y自身が受注することにこだわり、T建設を最終的な受注予定者と合意することを拒絶し、本件基本合意によるT建設を受注予定者とする決定自体を受け容れることを明確に拒絶したものである。

 

 また、Yは、T建設以外に低い価格で入札してくる指名業者があるとは考えていなかったのであるから、Yが関与していないところで受注調整手続が進んでいることは認識していたというべきではあるが、Y自身は、そのことを認識した後も、他の指名業者に協力を依頼するとか自己の入札価格を連絡するなどの、自己が関与していないところで行われる受注調整によって生ずる競争制限効果を自己のために利用する行為をしていないから、Yが当該受注調整手続に間接的ないし後発的に参加したともいえない。

 

 他の指名業者は、T建設から同社の入札価格の連絡を受け、同社の入札価格より高い価格で入札したが、これはT建設に対する協力であり、これによって生じた競争制限効果は、Yに対する関係では反射的なものにすぎないというべきである。

 

 したがって、都市計画道路については、Yが関与した受注調整手続(YT建設間の話し合い)によって競争制限効果が生じたとはいえない。

 

 (3)公正取引委員会が引用する東京高裁平成8329日判決(株式会社協和エクシオ事件)は、基本合意に参加している入札参加者間で話し合いが行われたが、2社が受注を希望して調整がつかず、2社を受注予定者と選定することとし、他の入札参加者は2社のいずれかと入札価格について連絡した上で入札に参加したという事案において、当該工事が課徴金の対象となると判断したものであるが、本件は、2社間の話し合いが決裂し、Yは他の指名業者に対し協力依頼や入札価格の連絡をしていないのであるから、事案が異なり、本件に適切でないというべきである。

 

 (4)以上のように、Yは、本件基本合意に参画したけれども、当該工事については、本件基本合意に基づく調整を明確に拒絶して、その話し合いを決裂させ、自らは他の指名業者に対し協力依頼や入札価格の連絡をしないで、他の指名業者およびT建設の入札価格に比べて相当低い価格で入札し、落札したのである。このような事情の下においては、たとえ、T建設がY以外の他の指名業者に自己の入札価格を連絡して協力を依頼し、他の指名業者がこれに応じてT建設の入札価格よりも高い価格で入札するという具体的な競争制限行為が行われ、Yにおいてもそのような受注調整手続が進行しつつあることを知っていたなどの事情があったとしても、Yが直接または間接に関与した受注調整手続によって具体的な競争制限効果が発生するに至ったものとはいえないから、当該工事は課徴金の対象となるとはいえない。

 

[結論]判決:

 

 Yによる都市計画道路工事は課徴金の対象となるものではなく、本件審決の判断は、これを課徴金の対象として算出した課徴金額の支払を命じた点において、独占禁止法7条の21項に違反するものであり、同法822号により取消しを免れない。

 

→問題 

 

モデル:土屋企業課徴金審決取消請求事件東京高裁平成16220日。

   

 

11

 

21化学品メーカー・トップ2社による製販子会社設立

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は101項である。

 

「競争の実質的制限とは、競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現われているか、または少なくとも現われようとする程度に至っている状態を(もたらすことを)いう」(東宝スバル事件高判)。

 

[あてはめ]

 

 本問題を、(1)甲製品の販売市場における「競争の実質的制限」、(2)乙製品の購買市場における「競争の実質的制限」、(3)両市場における競争の相互作用の3論点に分けて考察する。

 

 (1)甲製品の販売市場:

 

 ABによる統合が、甲製品の販売市場だけにとどまるなら、@Cの甲製品販売シェアがA+B=40%、A市場はオープン(グレード間流用が容易、ユーザーは複数の取引先から購買、品質の差もない)、B競争者(輸入ふくむ)の供給余力も十分という理由で、Cが甲製品の販売市場での市場支配力を獲得する可能性が低い。

 

 (2)乙製品の購買市場:

 

 ABによる統合が、甲製品の原料である乙製品の製造市場もふくむとすると、@市場は閉鎖的(取引が固定的)、ACの乙製品製造シェアがA+B=65%に達し、B乙製品の競争者(輸入ふくむ)のシェアが小さく、C供給能力が不十分である(代替品が少なく、製造販売には巨額の投資が必要なので新規参入の可能性も低い)という理由で、Cが乙製品の販売市場(甲製品メーカーからみると購買市場)での市場支配力を獲得する可能性がある。

   

 (3)もし、Cが、乙製品の販売市場における自己の市場支配力を行使して、甲製品メーカーLMNOへの原料(乙製品)の価格を引き上げ(「マージン・スクィージング」)、または供給量を抑制したら、甲製品の販売市場にも悪影響がで。[事実]によると、乙製品の40%が甲製品の原料だが、のこり60%の流用が容易であれば(需要が減退気味)、甲製品メーカーへの影響はある程度軽減される。

 

[結論]弁護士意見:

 

対策:製販統合をあきらめて、販売だけの統合にする。ただ、この場合でも、CにおけるABからの出向者が、それぞれBAからの仕入価格情報を出向元に告げると、それによってABが販売価格を戦略的に設定できる(場合によっては3条後段違反)ので、出向者のあいだにいわゆるファイア・ウォールを作るか、それが有効でないならば、出向をやめて移籍にする必要がある。

 

→問題 

 

モデル:平成23年第1問。

   

 

22石灰石粉末とセメントの分野調整

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ]

 

 (1Yの主張(1)「一定の取引分野」について:

 

  (aYは、本件審決には、「一定の取引分野」についての事実の認定がないと主張する。しかし、本件審決に認定されている各事実から総合的に判断すれば、本件審決が、田村郡の地域に石灰石供給の一定の取引分野が成立しているとの事実を認定しているものであることは明らかである。そして、本件においては石灰石そのものについての供給制限が問題とされているものである以上、「一定の取引分野」の認定においても、石灰石供給を更にセメント製造業者に対する供給と石灰石粉末製造業者に対する供給とに区別したうえ、Yの指摘するような諸点についてまでこれを逐一具体的に摘示、認定する必要はないものと解すべきである。Yの主張は採用することができない。

 

  (bYは、本件審決が田村郡の地域においてA以外のセメント製造業者に対する石灰石供給を含む取引分野の成立を認めたのは実質的証拠を欠くと主張する。26項にいう「一定の取引分野」は、特定の行為によつて競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、具体的な行為や取引の対象・地域・態様等に応じて相対的に決定されるべきものである。ところで、本件審決は、その認定事実に対する証拠として挙示する各証拠により、田村郡の地域で採掘される石灰石は、そのほとんどがセメント製造用と石灰石粉末製造用の両用途に使用できるものであり、実際にも主としてセメントおよび石灰石粉末の原料として用いられていること、田村郡の地域にある右の白色度の高い石灰石の鉱量は、静岡県以東の地域に埋蔵する同種石灰石の鉱量のうち最大のものであるが、田村郡の地域で採掘される石灰石は、その輸送に伴う制約および輸送費用と製品価格との関係等から、遠隔地に供給することは困難であり、また、同地域においてセメント製造業または石灰石粉末製造業を営むためには、他の地域から石灰石の供給を受けることは困難であつて、同地域および周辺で採掘された石灰石に依存せざるをえない状況にあること、田村郡の地域で操業しているセメント製造業者はA一社だけであり、同社はセメント製造用の石灰石を自山採掘によつて調達しているが、右のようなYおよびAの各所有鉱区内の石灰石の品質および埋蔵量からすれば、両社が採掘する石灰石は、石灰石粉末製造用のほかに、セメント製造用としても相当長期にわたり継続的に供給できる状態にあるものであり、田村郡の地域において両社に代わるべき供給業者は存在しないこと、以上の各事実を認定しているのであり、右認定は、前掲各証拠に照らし合理的なものとして首肯することができる。

 

 右事実と、後記のとおり田村郡の地域にA以外のセメント製造業者が進出する可能性を否定することができないことを総合して判断すれば、田村郡で採掘される石灰石については、現在のところ石灰石粉末製造用として供給取引が行われているにとどまるものの、セメント製造用としても需給の対象となりうるものであり、YおよびAはその所有鉱量の点からこれに応じうる立場にあるといえるのであり、もし両社の石灰石の供給先が制限されるときは、田村郡の地域で右石灰石について成立しうべき右両用途からの需給関係全般に対して競争制限的影響を及ぼすことになるものと推認される。そうであるとすると、本件審決が、右事実から、田村郡の地域にはセメント製造業者に対する潜在的供給を含む石灰石供給の取引分野が存在すると認めたことに不合理はないというべきであり,その認定が実質的証拠を欠くものとすることはできない。

 

 これに対し、Yは、右のような他のセメント製造業者に対する潜在的供給を含む取引分野の成立を肯定するためには、他のセメント製造業者の工場が田村郡に進出する具体的かつ切迫した可能性が存在すること、Yがセメント製造用として低価格かつ大量の石灰石を供給しうる大規模採掘設備を有していることの2点が必要であると主張する。 

 

 確かに、不当な取引制限によつて影響を受けるべき一定の取引分野における競争は、単なる観念上または空想上のものであつてはならないが、取引制限の対象となる事業活動は、変動する社会的経済的情勢に対応して複雑に展開していくものであるから、将来の事態に備えて右事業活動につきあらかじめ一定の拘束を課することが、競争状態を生じる可能性を制約することになるかどうかは、当該拘束の内容・程度および拘束の継続する期間等とも相関的に判断しなければならないのは当然である。本件基本契約の定めによれば、Yが田村郡の地域で採掘した石灰石は他のセメント製造業者に供給してはならず、また、Yの所有鉱区を他のセメント製造業者に譲渡しまたはこれに租鉱権を設定するなどして石灰石を採掘させてもならないというのであつて、要するにYの石灰石がA以外の企業でセメント製造用に使用されることは全面的に禁止されており、かつ、その禁止の期間は締結から30年という長期間(右期間経過後も田村地区のYの所有鉱区に鉱量の存する限り自動的に継続される。)に及ぶのであるから、かかる態様の拘束の下でなお競争状態成立の可能性が制約されることがないかどうかは、右拘束期間における将来の社会的経済的事情の変動の可能性をも考慮に入れて長期的に予測・展望するほかないのであり、この場合における「一定の取引分野」の成否も、このような長期的予測・展望の下で競争状態が成立しうる範囲を合理的に画定しなければならない。この見地からすれば、Yの前記主張は、A以外のセメント製造業者に対する石灰石の供給につき、主として現状を前提とした短期的見地に立つてその実現可能性を論じ、右供給についての取引分野が存在しないことをいうものであつて、右説示に照らし採用することができない。のみならず、他のセメント製造業者が田村郡に進出する可能性を否定しえないことおよびYがセメント製造用の石灰石を供給することが不可能でないと認められることは、後に判示するとおりである。

 

  (cYは、本件審決がセメント製造業者に対する石灰石の供給と石灰石粉末製造業者に対する石灰石の供給とを単一の取引分野に属するとしたことは実質的証拠を欠くと主張する。しかし、右主張が失当であることは、前記(b)の説示から明らかである。石灰石供給の取引分野を判断するにあたり、単に当該石灰石の物理的または化学的性質に基づく用途のみから論ずべきでないことはY主張のとおりであるが、他方、Yの現在の採掘設備および採掘方法が専ら石灰石粉末製造用の石灰石を採掘するためのものであることを考えると、右採掘設備および採掘方法のみを前提として、Y所有鉱区の石灰石がセメント製造用として取引対象となりうるものであることを一切否定することも到底正当とはいいがたい。Yの主張は採用することができない。

 

 (2Yの主張(2)「相互拘束」について:

 

 本件基本契約においては、事業分野調整の基本的な考え方は一貫して維持されており、石灰石供給および鉱区処分の制限違反に対する違約金が定められ、かつ、契約の存続期間が30年と長期化されたことにより、将来にわたつて長期的に一定の供給体制を維持しようとする趣旨が明らかになつているものということができる。この点において、前記「事実」(7)(a)および(b)のAに対する制限条項は、前記(7)(a)および(c)のYに対する制限条項と相まつて、AYが右事業分野の調整により田村郡においてそれぞれの専念する分野につき独占的地位を確保、維持するための相互拘束の一環として重要な意味と効力を有するものであると認めることは何ら不合理ではない。以上を要するに、本件審決が、証拠により、本件基本契約中のYの石灰石供給および鉱区処分を制限した条項に効力を認めて相互拘束を認定したことは、契約の解釈を誤つたものとはいえず、その認定が実質的証拠を欠くとすることもできない。

 

 (3Yの主張(3)「競争の実質的制限」について:

 

 Yは、田村郡の地域にA以外のセメント製造業者が進出する可能性は皆無であり、競争状態が生じないから、本件基本契約の相互拘束条項によつて競争が実質的に制限されるとした本件審決の認定は実質的証拠を欠くと主張する。

 

 既に判示したとおり、事業活動に対する拘束によつて競争状態が生じる可能性が制約されることになるかどうかは、当該拘束の内容・程度やその拘束期間等を考慮して判断すべきであり、Yの主張するように他の事業者が新規に参入する可能性が高く、かつ切迫しているという場合でなければ競争阻害性がないというように狭く考えるべきではない。

 

 本件基本契約が存続するものと予定されている全期間(締結から30年間と更に田村地区のY所有の石灰石鉱区に鉱量のある限り自動的に更新されて継続する期間)を通じた長期的展望に立つて、田村郡を含む一帯の地域におけるセメントの需要増大の可能性の有無、輸送事情好転の可能性の有無、工場建設技術および石灰石採掘技術等の技術革新の可能性の有無、セメント市況の好転の可能性の有無、YおよびAの経営状態の変化の可能性の有無等を予測・検討したうえで、田村郡の地域にA以外のセメント製造業者が進出することはありえないとの結論を導いているわけではない。長期的にみれば、企業の採算や販売は景気の動向や市況の推移によつて変わるものであるし、輸送事情も好転する可能性があり、その他右に指摘した諸要因が変動する可能性を否定することはできないから、本件基本契約の存続期間中にこれらの諸要因の変動に応じて新工場の進出が計画されることがないと軽々に予測することはできない。事業活動の特質に照らせば、短期的にはともかく、長期間にわたる今後の事態については、精々のところ新工場の進出が計画されるか否か現段階においては不明であるという程度にとどまらざるをえないというべきである。このように、右新工場の進出が現段階では当面具体化しないとしても、その可能性を否定しえない以上、それが具体化する場合に備えて、あらかじめこれを阻止する対策を講じておくことは、競争状態成立の可能性を制約することにほかならないのである。

 

 本件審決は、右と同旨の見地に立つて、本件相互拘束条項の競争阻害性を認めているのであつて、右認定は不合理ではなく、実質的証拠を欠くということはできない。

 

[結論]判決:

 

 本件審決取消請求を棄却する。

 

→問題 

 

モデル:旭鉱末審決取消請求事件東京高判昭和61613日。

   

 

12

 

23共通乗車券会社に対する低運賃タクシー向けサービスを共同で拒絶要請

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、291号ロ、一般指定2項および3条前段である

 

[あてはめと結論]

 

 (1)「競争の場」「一定の取引分野」:甲市におけるタクシー事業。

 

 (2)(a)本件は、本件20社が共同して、共通乗車券会社Aをして、低額タクシーへのサービス供給を拒絶させたもので、291号ロの行為要件に形式的に該当する。

 

  (b)「正当な理由がないのに」(公正競争阻害性):291号の文言上「正当な理由」は、行為者(本件20社)側に正当化理由の立証責任があり、本件20社側から、「低額運賃による客の奪い合いが、歩合制で働く乗務員に収入減による過重労働を強いて、交通事故の増加につながる危険があること」があげられているが、「収入減」「過重労働」は当然の経済的結果で、不公正な取引方法の正当化理由にならない。「交通事故につながる危険性」はいちおう社会的妥当性があるが、行為の悪質性を正当化するにはあまりに迂遠な理由である。したがって本件20社の行為は19条違反を構成する。

 

  (c)共通乗車券会社Aは、自己の判断で低額タクシーへのサービス供給を拒絶したもので、一般指定2項の行為要件に形式的に該当する。

 

 「不当に」(公正競争阻害性)は、これによって低額タクシーからの競争を抑圧したこと(独占禁止法研究会類型のうち@競争減殺)である。したがってAの行為は19条違反を構成する。

 

  (d)シェア80%を占める本件20社と市場唯一の共通乗車券会社Aが共同して低額タクシーを排除し、公共の利益に反して、甲市タクシー・サービス事業における競争を実質的な競争を制限している。したがって本件20社とAの行為は3条前段違反を構成する。

 

→問題 

 

モデル:平成23年第2問。新潟タクシー共通乗車券事件東京高判平成181215日。

 

   

24醤油プライス・リーダーによる再販価格維持

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条前段である。

 

[あてはめ]

 

 (1Yは、自己の製造販売する醤油の再販売価格を指示してこれを維持し、もって小売価格を斉一にいすることにより他の醤油生産者の価格決定を支配し、東京都内における醤油の取引分野の競争を実質的に制限している。

 

 (2Yは、その製品の東京都内の卸段階においては、同社と主要問屋との古い取引関係および同社製品の市場における絶対的優越を基盤とし、これに加えて距離の遠近にかかわらず運賃込同一卸売値をもってする小売店頭までの直配制、小売店問屋間および問屋蔵元間の画一的支払制度、東京Y会なる特異の組織など一連の完備した機構の作用により卸売機関をほとんど完全に掌中に握り、小売段階においては、以上の諸制度のほか東京出張所内に数名の外務員を常置して直接小売店と接触を保ち、値くずしする業者があるときはただちに干渉してこれをやめさせることによって東京都内における同社製品の小売の価格面の競争をほとんど完全に抑圧している。

 

 (3)かくして「Y」の小売価格が同一線に保たれる以上、[事実](2)に詳述したとおり、これと同格の他の三印はその製品の売値を「Y」と同一に保たざるを得ない事情にあり、彼らもまたそれぞれ卸および小売価格を指示し売価の維持につとめるに至っている。よってYが同社製品の再販売価格を人為的に一定させることはその競争者の価格決定を支配することであり、これら事業者の事業活動を支配するにほかならない。その結果東京都内の需要の七割近くをみたす四印の価格は全く同一となり、その間に価格面の競争は全く抑圧されている。

 

 (4)以上Yの行為を生産者の一方的強制による再販売価格維持と見るにせよ、生産者と小売業者の団体との取りきめによる再販売価格維持と見るにせよ、またいずれでもなくいわゆる再販売価格維持の範囲にははいらないものとするにせよ、主としてYの行為により東京都内における醤油の小売価格の競争が制限されていることは明らかである。

 

 (5)荷止めのような強制手段をとらなくとも、不利をもってする強迫にせよ、利害を説いての勧誘にせよ、道理をわけての説得にせよ、およそ有効な手段によって維持が確保される再販売価格の指示はこれを単なる希望の表示ということはできない。要するにYは醤油販売業者の最も広般で有力な団体である協同組合を利用し、自己の製品の再販売価格の維持を強制し、小売業者間の自由な競争を完全に抑圧しているものである。そしてその結果が他の三印その他の同業者の事業活動を支配することとなっていること前示のとおりである。

 

 (6)最上四印は広く全国的販路を有しこの分野にあって互に競争しているものであるが、同時に、東京都は全国中人口の最も密集している最も重要な市場であり、その住民の間にはほぼ共通する好みおよび習性があり、かつそこには独特の取引機構が発達している等の理由により、自ら他の地方とは区別される一の取引分野を形成している。このことはYも争っていない。

 

[結論]判決:

 

 Yの行為は、この地域内の醤油取引における競争を実質的に制限するものであり、しかもなんらこれを正当とすべき特別の事由がないものであるから、公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであって、私的独占禁止法第2条第5項に該当し同法第3条前段に違反するものである。本件審決取消請求を棄却する。

 

[吟味]

 

 (1)一般に「直接支配」は、東洋製罐のような株式保有か、日本医療食やパラマウント・ベッドのような系列による支配を想定している。本件「間接支配」が違法とされたことは、プライス・リーダーシップ(一般には意識的並行行動conscious parallerismの一種――望ましくはないが経済現象――として違法とはされていない)の違法化に接近したものであり、ビジョナリーな判決だが、その後フォローされていない。本判決につき、賛成反対とも、独占禁止法によるプライス・リーダーシップへの接近をめぐる議論である。

 

 (2)希望価格の表示まで禁止されている。71/2項「当該行為の禁止」のほかに「違反行為を排除するため必要な措置」(3/8/19条いずれも)である。

 

→問題 

 

モデル:野田醤油事件東京高判昭和321225日。

   

 

13

 

25プリント基板の価格に関する不当な取引制限

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめと結論]

 

 (1X4の主張「意思の連絡」について:

 

 26項にいう「共同して」に該当するには、複数事業者が対価を引き上げるに当たって、相互の間に「意思の連絡」があったことが必要である。ここにいう「意思の連絡」とは、複数事業者間で相互に同内容または同種の対価の引き上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をあわせる意思があることを意味する。一方の対価引き上げを他方が単に認識・認容(AB)するのみでは足りないが、事業者間相互で拘束しあうことを明示で合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価引き上げを認識して、暗黙のうちに認容(AB)することで足りる(黙示による「意思の連絡」)。特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一またはこれに準ずる行動に出たような場合には、右行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、右の「意思の連絡」があるものと推認されるのもやむを得ないというべきである(「東芝ケミカル事件高判」)。

 

 本件においては、@8社が事前に情報交換・意見交換をおこなっていた。A交換された情報・意見の内容が本件商品の引き上げに関するものだった。Bその結果としての本件商品の国内需要者に対する価格引き上げに向けて一致した行動がとられた。@+A+Bで、本件商品価格の協調的価格引上げにつき「意思の連絡」による共同行為の存在を推認する。

 

 被審人X4は、本件商品につき、同業7社の価格引上げの意向や合意を知っていたものであり、それに基づく同業7社の価格引上げ行動を予想したうえで、平成21610日の決定と同一内容の価格引上げをしたものであって、右事実からすると、被審人は、同業7社に追随する意思で右価格引上げを行い、同業7社も原告の追随を予想していたものと推認されるから、本件の本件商品の協調的価格引上げにつき「意思の連絡」による共同行為が存在したというべきである。

 

 (2X5の主張「相互的」について:

 

 「共同して」の要件である「相互的」とは、意見交換や情報交換をおこなうことばかりでなく、複数事業者間で相互に同内容または同種の対価の引き上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をあわせる意思があることをも含むが、X5に対する私的な情報提供は一方的な通知にすぎず(X5が追随してくるという判断も予想にすぎない)、26項「相互拘束」の要件を満たさない。郵便区分機事件の基準をとったとしても、共同行為の「意思の連絡」はない。いわゆる意識的並行行動(conscious parallelism)である。

 

 ただ、判例(「東芝ケミカル」)のように、29項の「共同して」の要件に「相互性」を含めると、直後の「相互拘束」と重複するから、「相互性」を要件とすべきではないという少数説もあり、これを採用すると、X5の行為は、29項の「共同遂行」で3条後段違反を構成する。別件「下水道管更生工事の入札談合(H222問)」[設問2]も同段である。

 

 (3X6の主張「事業者」について:

 

 新聞販路事件東京高判は、26項にいう事業者とは、法律の規定の文言の上ではなんらの限定はないけれども、相互に競争関係のある独立の事業者と解するのを相当とするとしているが、より最近の社保庁シール談合刑事東京高判は、販売会社がメーカーと深い関係にあり、メーカーから営業活動を委任されていた事案で、販売会社を「事業者」と認定している。後者はそうとは明言してはいないが、事実上の判例変更だったという学説が有力である。

 

 判例変更説をとれば、X626項の「事業者」に入る。OEMは広く行われており、かつさまざまの態様のものがあるので、OEM調達の一事をもって被告適格を否定するのは狭きに失する。

 

→問題 

 

モデル:東芝ケミカル事件東京高判平成7925日。

   

 

26音楽配信トップによる下位事業者に対するターゲティング

 

[事実の整理]

 

年月

 

20.6スタート

20.10

21.2

21.4

21.9排除措置

X

加入金

0

 

 

 

 

月額料金

3,725

 

 

 

 

無料期間

2

 

 

 

 

Y

加入金

0

 

 

30,000

 

月額料金

4,725

3,150

3,000

 

3,675

無料期間

3

6

12

最長24

3

 

切替契約のみ。上表は事実を簡略化しているが、スタート時点でほぼ拮抗していたとみられる条件が、ほぼ1年で、「Xの顧客に対してのみ」、月額料金を40%カット、無料期間を4倍(月額聴取料10か月分前払いで8倍)と開いた点で、あきらかに狙い撃ち(ターゲティング)である。

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、292号「売手段階における差別対価」および3条前段「排除型私的独占」である。

 

[あてはめ]

 

 (1YおよびY1は、292号「売手段階における差別対価」該当で19条違反。

 

  (a)「継続」=一度失った顧客は戻ってこないロックイン市場。

 

  (b)「困難」=Xはシェアを大きく失っている。

 

  (c)「不当に」(公正競争阻害性)は、独占禁止法研究会類型のうちA「競争手段の不公正」(不当廉売型――しかし、音楽配信の変動原価は僅少なので、293号「原価割れ販売」型ではなく、一般指定6項「一般の不当廉売」型)。

 

 (2YおよびY1は、通謀して、Xの音楽放送事業に係る事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、「我が国における業務店向け音楽放送の取引分野」における競争を実質的に制限していたものであって、これは、2条第5項に規定する私的独占に該当し、3条前段違反を構成する。

 

 「競争の実質的制限」:2社寡占、シェアとその推移(Y6872X2620)、参入障壁(著作隣接権)、競争者の不存在、Yの行為以前は競争状態。

 

[結論]審決:

 

 292号および3条前段違反。

 

[補足]

 

 Yは、Y1をして、平成57月から半年で、X社員の30%にあたる496人をいっせいに引き抜かせた(これは公取委の審決の中では触れられていない)。Xは、差別対価(独禁法違反)と引き抜き(不法行為――キャンが従業員に対して有する債権を侵害)で113億円の損害賠償を請求、平成1012月、東京地裁は、Yに対して、205千万円の損害賠償(Xの営業利益から前後理論で逸失利益を算定)を命じたが、控訴中20億円で和解。X252項の無過失損害賠償請求を行わなかったのはなぜか? 本訴訟はもともとYからXに対する不法行為(有線ラジオ法等違反)損害賠償請求訴訟(棄却)に対する反訴、25条訴訟は東京高裁が第一審(85条)なので、ねじれを避けたのであろう(無過失の利点はあまりない。Y1の社内文書で加害意図を立証)。

 

→問題 

 

モデル:有線ブロードネットワークス事件勧告審決平成161013日。

   

 

14

 

 

27除草剤のディーラー・ターミネーション

 

[規範とあてはめ]

 

 (13条後段:

 

 「一定の取引分野」は本件商品の供給市場。メーカーであるYと本件商品の買手であるY1ほかの競合特約店は、取引段階が違うので「競争者」とはいえない(「新聞販路事件高判」――同高判に言及した「社会保険庁シール談合刑事事件高判」も、取引段階を形式ではなく実質で認識する趣旨なので、本件には適用がない)。したがって、3条後段違反はない。

 

 (21911号:

 

 「競争者と共同して」が前提だから、上記3条後段の場合と同じ理由で、本件には適用がない。したがって1911号違反はない。

 

 (31914号:

 

 Yが特約店に対して再販価格拘束していた事実は、[事実](6)(c)、(d)、(e)から推認できる。とくに(e)は、特約店が再販価格維持を義務ととっていたことを示し、1914号の「拘束」を裏付けている。しかし、再販価格拘束の被害者は、本件商品の買手である農民であって、不服従特約店ではない。したがって、Y1914号違反行為によって、Xが直接の損害を受けることはない(原告適格なし)。

 

 (4)一般指定2項:YXに対して取引を拒絶したことは確かだが、問題は「不当に」(公正競争阻害性)である。独占禁止法研究会の「公正競争阻害性」3類型:

 

 @自由な競争の侵害(競争の減殺)

    ├(a)競争者等の取引機会の排除

    └(b)競争そのものの侵害

A競争手段の不公正

B取引主体の自主性抑圧による自由競争基盤の侵害

 

のうち、本件は@(a)に該当し、Yの行為は一般指定2項該当の19条違反である。

 

 (5)一般指定12項:

 

 [事実](2)(a)、(3)(b)およびYの対X更新拒絶理由から、Yが特約店に「対面販売」を強制していることは確かだが、この行為が「資生堂事件最判」にいう「それなりの合理性」を満足するかどうかが鍵である。資生堂事件の「それなりの合理性」は、化粧品という特殊な商品と、女性という特殊な顧客を前提とした判断だった。本件は、メーカーのシェア拡大という目的のための商法なので、資生堂基準を満足しない。Yの行為は一般指定12項該当の19条違反である。ただ、この場合、Yの違法行為で損害を受けるのは、拘束を受ける一般特約店なので、Xが直接の損害を受けることはない(原告適格なし)。

 

[結論]判決:

 

 Yの行為は一般指定2項該当の19条違反である。[事実](6)(a)、(b)、(c)、(d)でYの故意も立証できる。

 

→問題 

 

モデルMonasnto Co. v. Spray-Rite Service Corp., 465 U.S. 752 (1984)

 

   

28石油の価格に関する不当な取引制限

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ]

 

 (112社の主張(1)「行政の役割」について:

 

 石油製品の値上げの上限に関し通産省の了承を得させることとする行政指導が行われており、かかる行政指導が違法とまではいえない場合であつても、石油製品元売り会社の従業者等が、値上げの上限に関する通産省の了承を得るためにかかる上限についての業界の希望案を合意するに止まらず、その属する事業者の業務に関し、通産省の了承の得られることを前提として、了承された限度一杯まで各社一致して石油製品の価格を引き上げることまで合意したときは、その合意は、独禁法3条によつて禁止される不当な取引制限行為にあたる。

 

 (212社の主張(2)「公共の利益」について:

 

 26項の「公共の利益に反して」との文言は、原則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを意味するが、現に行われた行為が形式上これに該当するものであつても、同法益と当該行為によつて守られる利益とを比較衡量すれば「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的に実質的には反しないと認められる例外的な場合を、同項にいう「不当な取引制限」行為から除外する趣旨を含む。

 

 かかる観点から本件をみると、12社の本件関係各行為は、わが国における最も重要な物資の1である石油製品の値上げの共同行為による競争の制限(「競争の実質的制限」)であつて、国民経済に及ぼす影響は甚大であり、また、それ自体が行政指導に従つてなされたものでないことはもちろん、行政協力行為ともいうこともできず、また、12社は原油の値上がり等のコストアツプに対応するため製品を値上げする必要に迫られていたものではあるが、本件のような共同行為までするのでなければ12社の企業維持ができず、あるいは著しく困難になり、ひいてわが国における石油製品の安定的かつ低廉な供給確保に著しい支障を生ずるような事情があつたことは証拠上これを認めることができず、12社は、値上げを有利にするため本件関係各行為に及んだものであるから、これが公共の利益に反するものであることは明らかである。

 

 (312社の主張(3)「相互拘束」について:

 

 認定事実によれば、12社が、本件関係各共同行為をし、これに従つて事業活動をすることがそれぞれに有利であると考え、その内容の実施に向けて努力する意思をもち、かつ他のメンバーにおいてもこれに従うものと考えて本件各共同行為をしたことが明らかに認められるのであるから、本件各共同行為が12社の事業活動を相互に拘束するものであることは明らかである。そして、かかる拘束力は当該共同行為についてその有無を考えるべきことであるから、共同行為に参加するかしないかが自由であることは同判断の資料とはならず、また、不当な取引制限は独禁法上違法行為であるから、その実効性を期待することが本来無理なものであり、従つて相互拘束の要件は12社に共同行為の内容を遵守する義務を負わせることまで要するとする趣旨ではないと解するのが相当であるから、本件において、12社間において本件各共同行為の遵守確保のための12社主張のような手段が講ぜられておらず、共同行為からの脱退が自由であり、さらに、共同行為の内容がすべての場合直ちに十分に実現されたことが認められないとしても、12社の本件行為が同要件を欠くと認めることはできない。

 

[結論]判決:本件審決取消請求を棄却する。

 

→問題 

 

モデル:石油価格カルテル刑事事件最判昭和59224日。

 

   

15

 

29土木工事の入札談合

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である

 

 (1)意思の連絡:

 

 独占禁止法の規制対象たる不当な取引制限における意思の連絡とは、入札に先だって各事業者間で相互にその行動に事実上の拘束を生じさせ、一定の取引分野において実質的に競争を制限する効果をもたらすものであることを意味するのであるから、その意思の連絡があるとは、各事業者がかかる意思を有しており、相互に拘束する意思が形成されていることが認められればよく、その形成過程について日時、場所等をもって具体的に特定することまでを要するものではない。

 

 (2)相互拘束:

 

 相互拘束については、事業者間において、競争制限効果を生ずる行動に歩調を合わせ、若しくは、競争制限効果を生じる規範に従う意思を相互に有することで足り、実効性を担保するための制裁等が用意されていることは必要ではない。

 

[あてはめ]

 

 (1Y主張(1)「意思連絡の具体性」について:

 

 Yは、公正取引委員会が、Yと他の28名との間で、本件違反行為を行うこと等につき認識を共有するための意思連絡をした日時、場所、担当者等を特定していないと主張をし、確かに問題文のどこにも、その点についての直接証拠を見い出すことはできない。

 

 しかしながら、本件の場合、基本合意にかかわる事業者らの認識内容や個別物件において事業者の認識に沿った行動が採られていたことが認められ、これらの認定した諸事情から意思の連絡を認定したものであり、立証がされているというべきである。Yの上記主張は採用できない。

 

 (2Y主張(2)「基本合意の認識」について:

 

 対象期間内全105物件のうち80物件において、@受注希望の表明、A受注予定者の決定、B入札価格の連絡、C入札での協力という4過程が存在し、4過程に相当する経過で基本合意に即した受注調整が行われている事実は、甲市の土木業者が、基本合意のもとに、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていたことを示す重要な間接事実であり、この事実から本来の競争入札のルールとは相いれない別のルールがあり、これに基づいて受注調整が行われていたことを推認することができる。

 

 (3Y主張(3)「統一性・一貫性の欠如」について:

 

 Yは、本件では基本合意の存在を否定する事情があると主張する。しかしながら、105物件のうち受注調整が行われなかったとみられる25物件には、基本合意の参加者ではないいわゆるアウトサイダーが指名されたことから受注調整ができなかった物件が存在していることが認められ、その場合に受注調整ができないことは当然起こり得る事態であり基本合意を否定する事情とはならない。また、それ以外の物件についても、複数の事業者が受注希望を表明し、話し合い等が行われたが、結局受注予定者を絞りきれずに競争になった物件もあることがありうるが、その場合にも、受注希望の表明、話し合いという基本合意に即した反競争的な行為が行われているのであるから、直ちに基本合意を否定する事情になるものではない。

 

 さらに、個々の物件について具体的受注調整方法が異なるとのYの主張については、本件審決で認定したところの経過および内容からすると、80物件の入札に関しては、基本的な方法は4過程で示されたところでほぼ一致しているから、受注調整方法の形態が細部において差があるとしても、その物件の特性に応じて生じる差でしかなく基本合意の存在に影響を与えるものではない。

 

 Yの主張する受注機会の均等化ないし利益の公平分配に関するルールが存在していないとの主張については、その点に関するルールの存在は必ずしも基本合意の存在に不可欠な要素ではなく、本件のように基本合意の最終的な目的が受注価格の低落防止にあり、受注機会の均等化や利益の公平配分に主眼がおかれていない場合には、上記ルールが存在しないことも十分にあり得ることである。Yの主張はいずれも採用しがたい。

 

[結論]判決:本件審決取消請求を棄却する。

 

→問題 

 

モデル:大石組事件東京高判平成181215日。

   

 

30除草剤の再販価格拘束

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、294号イおよびロ(販売価格の自由な決定を「拘束」することが要件)および294号ロ前段類推(幹事卸と二次卸を経由した(間接の間接)再販価格拘束の規範)である。

 

[あてはめ]

 

 (1Yが、希望小売価格の維持を「要請」([事実](4))するだけでも、その態様によっては「拘束」に該当する。294号の文理上、「拘束」とは「販売価格・・を維持させること」である。

 

 (2)ロット番号を利用するなどして当該ホームセンターに供給する取引先卸売業者を調査した([事実](5)、(8)(d))ことは、Yの「要請」が出荷停止や数量制限を前提としていることの証拠である。出荷停止や数量制限の示唆や実行が希望小売価格の維持と直接関係がないというYの主張([審判](1))は事実に反する。

 

 (3)要請に応じないときは出荷を停止することを示唆した([事実](6)、(8)(a)(e))ことは、ホームセンターを心理的に「拘束」したことになり、この時点で294号違反が成立する。

 

 (4Yが、要請に応じないホームセンターに対し、自らまたは取引先卸売業者を通じて、当該除草剤の出荷を停止またはその数量を制限し([事実](6)、(8)(b)(c)(d))、かつ、安売り広告をした小売店に対しては、幹事卸をして二次卸に対する出荷を停止させた([事実](8)(d))ことは、ホームセンターをムチ(不服従に対する不利益措置)によって強制的に「拘束」したことになる。

 

 (5Yが、希望小売価格で販売することを取引の条件として、これを受け入れたホームセンターに対し当該除草剤を供給した([事実](7))ことは、Yが上記ムチと並行してアメ(服従に対する利益誘導)による「拘束」を意味する。かかる優遇が、販売価格維持の目的で差別的に行われる場合は「拘束」にあたり、優遇が「拘束」を意味しないというYの主張[審判(2)]は失当である。

 

 (6)ホームセンターのほとんどが3品目について希望小売価格以上で販売しており([事実](9))、Yの行為が各ホームセンターによる販売価格の自由な決定を失わせ、公正競争阻害性(独占禁止法研究会の類型分類のうち第3類型「自由競争基盤の侵害」)を有することはあきらかである。

 

 (7)上の判断に対して、Aの小売価格を拘束しても、除草剤市場全体のブランド間競争が活発であれば、Yによる拘束はむしろAブランド内での効率化を向上する(バッティング防止による取引コストの軽減)ことによって、市場全体の競争を活発にする(「正当な理由」がある)というYの主張([審判](3))は、ブランド・ロックインによる参入障壁の存在([事実](2))によって否定される。

 

 (8)また、審査官がYの行為による他の競争者への被害を立証していないむねのYの主張([審判](4))は、294号には「他の事業者の困難」要件がないので、失当である。

 

[結論]審決:

 

 前記事実によれば、Yは、正当な理由がないのに、ホームセンターに対しYの定めた希望小売価格を維持させる条件を付けて3品目を供給し、または取引先卸売業者に対し当該取引先卸売業者をしてホームセンターにYの定めた希望小売価格を維持させる条件を付けて3品目を供給しているものであり、これは、294号イおよびロに該当し、第19条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:日産化学工業事件排除措置命令平成18522日。

   

 

16

 

31道路工事の入札談合

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である

 

 (1)「3条後段にいう『一定の取引分野』を判断するに当たっては、『取引段階』など既成概念によって固定的にこれを理解するのは適当ではなく、取引の対象・地域・態様等に応じて、違反者のした共同行為が対象としている取引およびそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲を画定して『一定の取引分野』を決定するのが至当である。」(シール談合刑事)

 

 (2)「26項にいう『一定の取引分野』は、特定の行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、具体的な行為や取引の対象・地域・態様等に応じて相対的に決定されるべきものである。」(旭鉱末)

 

 「一定の取引分野とは、競争のおこなわれる場を意味し、一定の供給者群と需要者群から構成され、その範囲は、取引の対象・地域・態様等に応じて、違反行為が対象としている取引およびそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲をもって確定される。」(安藤造園)

 

[あてはめ]

 

 (1Y主張(1)「一定の取引分野」について:

 

 上の規範(判例)に事実をあてはめると、本件における一定の取引分野は、「特定の行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲」として、「日本道路公団四国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する道路保全土木工事」であり、Yが主張する「四国および中国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する道路保全土木工事」は失当である。とくに本件のような市場分割目的の不当な取引制限事件では、相手方の市場内で事業活動をしない拘束があるからといって競争の実質的制限を否定するのは、法の趣旨を誤るものである。 

 

 また、[事実](3)によって、Yは、上のように画定される一定の取引分野で、ほぼ大部分を受注しているので、「競争の実質的制限」が認定される。「公益性」は認められない。

 

 (2Y主張(2)「相互拘束」について:

 

 26項:他の事業者と共同して・・相互にその事業活動を拘束し、・・一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

 

 法文からあきらかに、「相互拘束」は事業活動をいうものであって、それが行われる地理的市場や受益の有無に関係ない。「拘束」は、強制ばかりでなく、利益やそれらの「期待」でも起こる(協和エクシオ課徴金事件東京高判平成8329日)。

 

[結論]審決:Yの行為は独占禁止法26項に該当し、3条後段違反である。   

 

[吟味]

 

 本件は、Y主張(1)のように、一定の取引分野を「四国および中国支社が公募型指名競争入札の方法により発注する道路保全土木工事」と画定し、そこでの4社による市場分割(販売先制限)カルテルを問擬すべきであった。[事実](2)(a)Bで、中国地区3社が、Yの不参入を「期待」していただけだったことを、相互拘束の要件不備と危惧したのだろうか。

 

→問題 

 

モデル:四国ロードサービス事件勧告審決平成14124日。

   

 

32委託販売に偽装した粉ミルク・メーカーによる再販価格拘束と一店一帳合制

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、294号イおよび一般指定12項である。

 

[あてはめ]

 

 (1Y主張(1)「委託販売制」について:

 

 Yと卸売業者との間で締結されている取引契約書は、販売済委託商品の代金を小売業者から現金で回収して、これをYに引き渡すことを原則としているものであるが、実際はこれと異なり、卸売業者の支払手形による決済が通常となっており、卸売業者はYに対し、小売業者からの代金回収とは無関係に、販売済委託商品の代金支払義務を負い、かつ、小売業者からの代金回収が不能である場合の危険を負担しているものと認められ、また、卸売業者に契約条項違反など一定の事由がある場合には、期限の利益を失い、Yに対し販売済委託商品の代金の全額を一時に弁済することになっているなど、販売済委託商品の所有権は、Yから直接小売業者へ移転するのではなく、いったん卸売業者に帰属した上、卸売業者から小売業者へ移転するものと認められるので、Yの採用している本件委託販売制が典型的な委託販売制のあらゆる特質を具備したものでないことは明白であり、Yの主張は、その前提において既に失当である。

 

 しかして、委託者が受託者に対して委託商品の販売価格の指示およびその販売先の指定を行う委託販売が、その内容および取引の実態を問わず、およそ独占禁止法に抵触しないものとは解されないところ、真正の委託販売とは認められない本件委託販売制が、前記[事実](4)において認定したとおり、実質的に再販売価格維持契約による場合と同様の効果を挙げるために実施されている以上、Yの本件行為は、独占禁止法294号に該当するものと言わざるを得ない。Yの主張は採用することができない。

 

 (2Y主張(2)「拘束性」について:

 

  (a)本件契約において、Yの定める価格で小売業者に販売することが卸売業者に対し契約上の義務となっており、かつ、債務不履行に対して解約条項等が適用し得る仕組みになっていることは、前記[事実](2)において認定したとおりであって、このことは、取引契約書の関係条項が実質的に再販売価格維持契約による場合と同様の効果を挙げるために設定されたものであることを前提として、これらの条項を合理的に理解すれば、おのずから明らかになるところであり、また、たとえYが右の債務不履行に対して解約条項を適用したことがないとしても、右のような仕組みが存在すること自体が294号に規定する「拘束の条件」に該当すると見るべきであるから、Yの主張は採用することができない。

 

  (bYが取引契約書の規定にのっとり卸売業者に対しその販売先を指定していることおよびYが右の規定を拠りどころにして本件一店一帳合制を実施していることは、指定および実施の方法に地域等により若干の差異があるものの、前掲の証拠によりいずれも明らかであり、したがって、本件一店一帳合制の遵守が卸売業者に対し契約上の義務となっており、債務不履行に対する解約条項等の対象となっているから、卸売業者を拘束しているものと認められる。また、仮に、一部の地域において、右の契約上の義務となっているとは認められない場合があるとしても、Yにおいて必要があると思料するときは、いつでも取引契約書の規定を拠りどころとして本件一店一帳合制を実施することができるのであるから、この意味において卸売業者を拘束しているものと認められる。よって、Yの主張は、いずれもこれを採用することができない。

 

 (3Y主張(3)「正当な理由」について:

 

  (a)本件行為は、[事実](3)において認定したとおり、Yの育児用粉ミルクの卸売業者の販売価格について再販売価格維持契約による場合と同様の効果を挙げるために実施されているものであることならびにその動機、類似商品の取引形態、契約の内容および卸売業者による被著大の育児用粉ミルクの取扱い状況を総合すると、このような行為が公正な競争秩序に悪影響を与えるおそれがあることは、典型的な再販売価格維持契約による価格維持行為の場合と同様に明らかである。また、Yの育児用粉ミルクの市場占有率が逐年低下しているとしても、そもそも市場占有率と公正競争阻害性との間に必ずしも因果関係があるとは限らない。よって、Yの主張は、いずれもこれを採用することができない。

 

  (b)本件行為は、Yの育児用粉ミルクについていわゆるブランド内競争を制限するものであるから、これが公正な競争を阻害するおそれがあることは明白であるところ、Yは、いわゆるブランド間競争についての評価を強調するのみで、本件行為に関連していわゆるブランド間競争が有効になされているとの主張が欠落しており、また、そもそも本件の全証拠に照らして本件一店一帳合制がいわゆるブランド間競争を有効ならしめているとは到底認められないから、Yの主張は採用することができない。

 

  (c)本件一店一帳合制が育児用粉ミルクの品質管理に役立つ一面を持っていることがYの主張するとおりであるとしても、なお違法な再販売価格維持契約による場合と同様の効果を挙げるためにこれが実施されている以上、「正当な理由」があると言えないことは明白である。よって、Yの主張は採用することができない。

 

[結論]審決:

 

 前記[事実](1)によれば、Yは、2条第1項に規定する事業者であるところ、同[事実](1)および(2)によれば、Yが育児用粉ミルクの販売に当たり、卸売業者に対し、その販売価格を定めて取引していること、およびその取引先を指定するとともに本件一店一帳合制を実施することにより、特段の事由がないのに卸売業者の販売先を制限して取引していることは、いずれも、正当な理由がないのに、卸売業者と小売業者との取引を拘束する条件をつけて取引しているものであって、294号イおよび一般指定12項に該当し、19条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:森永乳業事件審判審決昭和521128日。

   

 

17

 

33鋼球(川上)と軸受け(川下)メーカーの垂直統合

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は10条である。

 

[あてはめ]

 

 (1)一定の取引分野:

 

 当事会社は水平的関係(同一市場における競争関係)にはなく、垂直的関係(特定の商品を売買する関係)にある。

 

  (a)商品範囲:

 

 川上市場の製品として鋼球が、川下市場の製品として玉軸受等の3製品が存在する。  

    @川上市場:

 

 鋼球の材料には各種鋼材が使用されており、玉軸受等の使用環境に応じて適切な鋼材が選択される。しかしながら、鋼材が異なっても基本的な製造工程は同じであり、鋼球メーカーは軸受メーカーの要求に応えるため、鋼材の異なる鋼球を取りそろえているのが通常であることから、鋼球について一定の取引分野を画定する。

 

    A川下市場:

 

 玉軸受等は、それぞれ機能・効用が異なっており、製品間で代替性はないことから、玉軸受、リニアガイド、ボールねじの各製品について、それぞれ一定の取引分野を画定する。
 ただし、鋼球メーカーと軸受メーカー間の取引の状況は、玉軸受、リニアガイド、ボールねじのいずれについても大きな違いはなく、本件株式取得がX以外の鋼球メーカーの鋼球の販売や、Y以外の軸受メーカーの部品調達に及ぼす影響等を検討するに当たっては、これら3製品をまとめて分析することとする。

 

 (b)地理的範囲:

 

 いずれの製品についても、事業者は全国を事業地域としており、商品の特性や輸送費用等からみて特段の事情も認められないことから、地理的範囲は川上市場および川下市場共に全国で画定する。

 

 (2)本件企業結合が競争に与える影響の検討:

 

  (a)市場の状況:

 

    @鋼球:

 

 [事実](10)の市場シェア表から、HHI(注)は4200、高度集中市場である。

    A玉軸受、リニアガイドおよびボールねじ:

 

 [事実](11)の市場シェア表から、HHIはそれぞれ240046002200で、いずれも高度集中市場である。

 

注: HHIHerfindahl-Hirschman Index

各社市場シェアの2乗を合計した指標。市場の集中度と合併によるその増分をマトリックスで測定できる。  

・米国水平合併ガイドライン:

合併によるHHIの増加→

合併後のHHI↓  

50未満

50-100未満

100以上

1000未満 非集中市場

競争制限なし

1000-1800未満 集中市場

競争制限なし

競争制限が懸念

1800以上 高度集中市場

競争制限なし

競争制限が懸念

競争制限が推定

 

 ・企業結合ガイドライン(平成24年改正)の安全港:

  合併によるHHIの増加→

合併後のHHI

250以下

250

 

1500以下

競争制限なし

15002500以下

競争制限なし

シェア35%以下は競争制限なし

 ただ、本件は垂直統合のため、HHIの増加はゼロなので、市場の集中度だけからいうと、上の両ガイドラインに照らせば、「競争制限なし」のカテゴリーに入る。

 

  (b)その他の考慮事項:

 

    @軸受メーカーにとっての購入先変更の容易性:

 

 鋼球には、国際規格(ISO 3290)が設定されており、これに準じた国内規格(JIS B 1501)も設定されている。鋼球メーカーは前記規格に即して製品の製造を行っており、技術水準や品質面での差はなく、軸受メーカーが取引先鋼球メーカーを変更することは可能であり、同一の玉軸受等に使用する鋼球を複数の鋼球メーカーから調達している軸受メーカーも存在する。

 

    A供給余力:

 

 鋼球の生産について、月間の操業日数を調整することにより一定程度の増産が可能とされており、当事会社の競争事業者にも、一定程度の供給余力があると認められる。

 

    B内製:

 

 軸受メーカーにとって、鋼球調達の安定性の確保は重要な課題であるところ、軸受メーカーの中には、鋼球の供給が滞るリスクを回避するため、鋼球の内製を行っている事業者も存在する。これらメーカーは、何らかの事情で取引先鋼球メーカーからの鋼球の供給が滞った場合にも、内製割合を増加させることにより鋼球を調達することが可能である。

 

    C鋼球の供給拒絶を行うことに伴うデメリット:

 

 鋼球の製造には高額な設備を要するところ、投下資本を回収し、利益を上げるためには、売上高を増加させるとともに、稼働率を上げ、単位当たりの生産コストを引き下げることが重要である。仮に、Xが、Y以外の軸受メーカーへの鋼球の供給を拒否すれば、売上高の大幅な減少、稼働率の低下に伴う製造コストの大幅な増加を招くことになるため、Xのみならず、同社を子会社とするYにとっても、鋼球の供給拒否を行うインセンティブはないものと考えられる。

 

    D輸入について:

 

 前述のとおり、鋼球には国際規格が定められており、国内の軸受メーカーが、海外メーカーの鋼球を輸入して玉軸受等を製造することは可能であるが、平成21年の鋼球の推定輸入額は10億円程度で、国内の鋼球需要の3%程度にとどまっている。しかし鋼球の輸入にはいかなる障壁もなく、経済原則だけで動く市場であるため、鋼球の輸入は現在はわずかだが、万一本件結合によって鋼球の供給がリジッドになったり価格が上がったりすれば、ただちに輸入が増えるフレキシブルな市場である。

 

 (3)単独行動による競争の実質的制限について:

 

  (aYによるX以外の鋼球メーカーからの鋼球調達の拒絶:

 

 Yは、X以外の鋼球メーカーからも鋼球を調達しているところ、鋼球調達の安定性の確保の観点から、X以外の鋼球メーカーからの鋼球の調達を取り止めるインセンティブはなく、今後も他メーカーから継続して鋼球を調達することとしている。また、仮に、YX以外の鋼球メーカーからの鋼球調達を拒絶したとしても、Yに代わる販売先となり得る有力な軸受メーカーが複数存在する。

 これらのことから、当事会社の単独行動により、鋼球の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断する。  

  (bXによるY以外の軸受メーカーへの鋼球供給の拒絶:

 

 Xは、鋼球の生産コストの削減のためには、一定数量以上の販売量を確保することが必要であり、Y以外の軸受メーカーへの鋼球の供給を拒否すれば、大幅な販売量の減少が避けられないため、Y以外の軸受メーカーへの供給については、これからも継続していく状況にあると考えられる。

 また、仮に、軸受メーカーへの鋼球の供給を拒絶したとしても、鋼球を内製している軸受メーカーにとっては、内製比率を引き上げることで対応可能であり、また、鋼球を内製していない軸受メーカーも鋼球調達先を競合鋼球メーカーへ切り替えることによって鋼球を調達することが可能であると考えられる。

 したがって、当事会社の単独行動により、玉軸受等の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断する。

 なお、鋼球は、玉軸受等以外の用途にも使用されているが、Yは、これら用途に係る事業を行っていないことから、当事会社が玉軸受等以外の用途の鋼球需要者への鋼球の供給を拒否するインセンティブはないと判断する。

 

 (4)協調的行動による競争の実質的制限について:

 

  (a)鋼球メーカー間の協調的行動の可能性について:

 

 本件結合により、Xは、Yと取引関係にある自己以外の鋼球メーカーのY向けの販売価格を知り得ることになる。


 しかしながら、鋼球の需要者である軸受メーカーは、自動車メーカーや工作機器メーカーを顧客としており、自らが顧客から価格引下げ圧力を受ける立場にあるところ、大手軸受メーカーの中には、使用する鋼球の一部を内製している者もおり、仮に、Xが自己以外の鋼球メーカーの鋼球販売価格を知ったことを契機に、鋼球メーカー間で協調的な価格設定が行われた場合には、これら軸受メーカーが内製割合を増加させることにより鋼球メーカーの価格政策に対抗することが可能であると考えられる。他方、スケールメリットをいかすことが事業上有益である鋼球メーカーにとって、鋼球販売量の減少につながりかねない協調的な価格設定を行うインセンティブはないと考えられる。

 したがって、当事会社と競争事業者の協調的行動により、鋼球の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断する。

 

  (b)軸受メーカー間の協調的行動の可能性について:

 

 本件結合により、Yは、Xが競合軸受メーカーに鋼球を販売する価格を知り得ることになるが、軸受 メーカーの事業規模はそれぞれ異なり、各製品の販売コストも基本的に異なることから、当該価格情報を基に競合軸受メーカーの玉軸受等の販売価格を推測することが容易になるとはいえず、当事会社と競争事業者の協調的行動により、玉軸受等の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断する。

 

[結論]弁護士意見:

 

 (1)以上の状況から、本件行為により、独占禁止法10条の要件である一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断する。

 

 (2)具体的なアクション:

 

  (a)国内売上高200億/50億基準を満たすので、合併後の持株比率によっては、102項による届出の必要がある。

 

  (b108項による待機期間中、本件を市場が察知する(公取委要求の報告・情報・資料には市場や他社状況も含まれる)。また、排除措置命令が出れば、本件がすべて公表されてしまう。いずれの場合も株価に影響あり、あとで審判や取消訴訟で勝ったとしても、機会損失が出るおそれがある。 

 

  (c)したがって、まず、公正取引委員会と非公式の事前相談に入ることを助言する。ただ、川上、川下両市場における集中度の高さからして、前記(4)@およびAの価格情報の漏洩による協調的行動のおそれが公正取引委員会によって指摘される可能性があり、その場合は、結合後の鋼球部門と軸受部門のあいだのいわゆる「ファイア・ウォール」を提案する準備が望ましい。

 

 また、日本の企業結合案件のほとんどが、非公式の事前相談で処理されていることは、ビジネスの発展のためによくない(1条「国民経済の民主的で健全な発達」)。上の問題解決措置を公正取引委員会が受け入れなければ、102項の公式届出に転じる。以上の方針を助言する。                                

 

→問題 

 

モデル:日本精工による天辻鋼球全株式取得事例(年次報告書平成17年事例7)。

   

 

34電気通信工事の入札談合

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ]

 

 (1Y主張(1)「基本合意」について:

 

 本件入札手続の流れからみて、どのような時期に「話し合い」をするかについてあらかじめ具体的に詳細に決定するまでの必要はなく、そして、本件基本合意は、「話し合い」の具体的な方法、手順等について取り決めていないが、入札に参加する同業者が集まって受注予定者を決める話し合いをする本件のような場合には、本件基本合意の当事者は、おのずから通常考えられる具体的な方法については、おおよそのことについては予想し理解しているものと解され、本件基本合意当時、明示的、具体的に「話し合い」の方法等が決められていないものであっても、当然に一般的かつ通常予想される具体的な方法等は、右合意の具体的な内容に含まれるものと解すべきものである。個々の入札における受注調整の状況から基本合意の存在が推定できる。

 

 (2Y主張(2)「拘束性・実効性」について:

 

 本件は決定に従わなかった場合の罰則等の定めはないが、罰則等の定めが無ければ、当該合意に拘束性が認められないというわけではなく、本件基本合意に基づいて別紙[略]の27物件について、「話し合い」を継続してきたものであり、本件基本合意は、実効性、拘束性を有していたことは明らかである。なお、本件は、いわゆる黙示の合意であるが、本件基本合意が認められることは、前記のとおりであり、右合意が認められる以上、明示でも黙示でもその効力、効果に関係がなく、その実効性等において欠けるところはない。

 

 (3Y主張(3)「受注能力」について:

 

 本件基本合意がされた時点における受注競争の存否について検討するに、まず、右競争をするには、事業者が受注能力を有することが前提になるところ、本件基本合意の拘束の内容・程度、拘束の継続する期間を考えると、本件事案において、受注能力とは、仮に、本件業務を本件基本合意の時点で現実に行っていない場合でも、市場の状況により、何時でも計画的にその市場に参加して本件業務を遂行することができるときはもとより、近い将来本件業務を遂行する能力を備える蓋然性が高いときにも、受注能力が有ると解するのが相当である。19社の中、少なくともYおよびBE3社は、マイクロ通信の分野においても受注能力を有していたものと認めることができる。したがって、競争の実質的制限も認められる。

 

[結論]判決:本件審決取消請求を棄却する。

 

→問題 

 

モデル:協和エクシオ課徴金事件東京高判平成8329日。

 

   

18

 

35社会保険庁向けシール談合

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ] 

 

 (1Y4の主張(1)「一定の取引分野」について:

 

 まず、Y4は、本件における「一定の取引分野」は社会保険庁から本件シールを落札・受注する取引分野であるという。しかしながら、いうまでもなく、取引は、一定の商品あるいは役務の需要と供給を巡ってなされる二面的・双方的な経済活動であるから、これを単に社会保険庁からの落札・受注のみに限定して一面的に捉えるのは、それ自体誤りであるが、それはとも角としても、公正で自由な競争を促進するなどして、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進するために、一定の行為を規制し処罰の対象としている独禁法の趣旨、および社会・経済的取引が複雑化し、その流通過程も多様化している現状を考えると、「一定の取引分野」を判断するに当たっては、主張のように「取引段階」等既定の概念によって固定的にこれを理解するのは適当でなく、取引の対象・地域・態様等に応じて、違反者のした共同行為が、対象としている取引およびそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲を画定して「一定の取引分野」を決定するのが相当である。

 

 本件において、4社の従業者がした談合・合意の内容は、その取引段階に着目すれば、@社会保険庁から落札・受注する業者とその価格、A落札業者から受注する仕事業者とその価格とに分けることが可能であるとはいえ、指名業者になっていないY4が上記談合・合意にその一員として参加している以上、同社に仕事業者としての利益を得る機会を与えない限り、@の談合が成立するわけがなく、また、4社の利益を均等化するためには、落札業者の発注価格(仕事業者の受注価格)をも定めなければならない関係にあり、結局@とAは一体不可分のものとして合意されたとみることができるのである。

 

 そうしてみると、この様な合意の対象とした取引およびこれによって競争の自由が制限される範囲は、社会保険庁の発注にかかる本件シールが落札業者、仕事業者等を経て製造され、社会保険庁に納入される間の一連の取引のうち、社会保険庁から仕事業者に至るまでの間の受注・販売に関する取引であって、これを本件における「一定の取引分野」として把握すべきものであり、現に本件談合・合意によってその取引分野の競争が実質的に制限されたのである。

 

 (2Y4の主張(2)「事業者」について:

 

 また、Y4は、Y4が独占禁止法第3条所定の「事業者」に当たらないというが、本件における「一定の取引分野」を前記(1)の範囲のものと理解すれば、Y4は、仕事業者として「事業者」の立場にあることが明らかであるうえ、[事実](4)のとおりの経緯で、Aに代わって指名業者3社との談合に参加し、落札業者、落札価格の決定に関与しているのであるから、この点においても「事業者」に当たるものと解される。

 

 この点に関し、Y4は、FAに委任されその代理人として本件の談合に加わったものでY4とは無関係であるかのごとくいうが、Fが本件談合に加わった経緯を考えれば、FY4の営業担当者として同社のために行動していたことが明らかで、右主張は論外といわなければならない。

 

 さらに、Y4は、東京高裁昭和2839日判決(いわゆる新聞販路協定事件)を援用し、ここに「事業者」とは競争関係にある事業者であることが必要であるところ、Y4は、指名業者ではないから、他の指名業者と競争関係にはなく、結局、ここにいう「事業者」に当たらないという。しかしながら、右判例は、新聞販売店が戦時中の名残りで合売制が持続されていた当時、新聞販売本社と新聞販売店が暗黙の協定によって、各新聞販売店の販売区域を協定したとして、そのことが昭和28年改正前の独占禁止法第413号違反に問われた事案であるが、当時の同条13号は「事業者は、共同して、……技術、製品、販路または顧客を制限すること……をしてはならない」と規定し、同条2項において「前項の規定は、一定の取引分野における競争に対する当該共同行為の影響が問題とする程度に至らないものである場合には、これを適用しない。」と規定していたのである。すなわち、右判例は、同条1項が当該行為による競争への実質的影響を違法行為成立の積極的要件としていなかった規定のもとで、同項の解釈として、同項にも影響の可能性を取り込むため、その「事業者」を競争関係にある者に限定したものとみられるのである。しかし、昭和28年の改正により右4条が削除され、現行法第3条が「事業者は、私的独占または不当な取引制限をしてはならない。」とし、第26項が「……不当な取引制限とは、……により、公共の利益を反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」と規定するに至り、右の違法行為が成立するためには、当該共同行為によって「競争を実質的に制限する」ことが積極的要件として必要となった現行法のもとで、はたして右判例のように「事業者」を競争関係にある事業者に限定して解釈すべきか疑問があり、少なくとも、ここにいう「事業者」を原告の主張するような意味における競争関係に限定して解釈するのは適当ではない。

 

 独占禁止法第21項は、「事業者」の定義として「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。」と規定するのみであるが、事業者の行う共同行為は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」内容のものであることが必要であるから、共同行為の主体となる者がそのような行為をなし得る立場にある者に限られることは理の当然であり、その限りでここにいう「事業者」は無限定ではないことになる。しかし、Y4は、前記のとおり自社が指名業者に選定されなかったため、指名業者であるAに代わって談合に参加し、指名業者3社もそれを認め共同して談合を繰り返していたもので、Y4の同意なくしては本件入札の談合が成立しない関係にあったのであるから、Y4もその限りでは他の指名業者3社と実質的には競争関係にあったのであり、立場の相違があったとしてもここにいう「事業者」というに差し支えがない。この「事業者」を同質的競争関係にある者に限るとか、取引段階を同じくする者であることが必要不可欠であるとする考えには賛成できない。

 

 (3Y4の主張(3)「相互拘束」について:

 

 Y4が、「相互にその事業活動を拘束」する共同行為をしていないとする点は、要するに、Y4は、指名業者ではないから、拘束されるべき事業活動がないことを理由とするものと思われる。しかし、前に述べたごとく、ここにいう「事業者」は同質的競争関係にあることを必要としないのであるから、Y4が指名業者でないことを理由として拘束されるべき事業活動がないとする点は失当であるのみならず、Y4は、他の指名業者3社と合意した本件談合に拘束され、仕事業者としてその談合に従った事業活動をすべきことはもとより、落札・受注の関係においても、たとえばAに働きかけて適正価格で落札させ、その一部または全部の発注を受けるなどの行動をとることも許されなくなったもので、本来自由であるべきY4の事業活動が制約されるに至ったのであるから、「相互にその事業活動を拘束」する共同行為をしたものというのに支障はない。

 

[結論]判決:本件審決取消請求を棄却する。

 

→問題 

 

モデル:シール談合刑事事件東京高判平成51214日。

   

 

36スポーツシューズ・メーカーによる選択的流通

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、294号、一般指定2項、4項、12項および14項である。

 

[あてはめ]

 

 (1Yは、正当な理由がないのに、取引先小売業者に対し、希望小売価格およびシーズン終了後の値引き限度価格を維持させる条件をつけてYシューズを供給していたものであり、これは独占禁止法294号イに該当し、また、Yは、正当な理由がないのに、取引先卸売業者に対し、同卸売業者をしてその取引先小売業者に希望小売価格およびシーズン終了後の値引き限度価格を維持させる条件をつけてYシューズを供給していたものであり、これは、同号ロに該当し、いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

 (2Yは、前項の行為の手段として、再販価格拘束の要請に従わない小売業者に対してキー店の選定を拒み、納期を差別したものであり、これは一般指定4項に該当し、独占禁止法19条の規定に違反するものである。

 

 (3Yは、(1)項の行為の手段として、小売業者に対して並行輸入品を取り扱わないことを要請し、要請に従わない小売業者に対してキー店の選定を拒み、トップ製品の供給を拒絶したものであり、これは一般指定2項、12項ならびに14項に該当し、いずれも独占禁止法19条の規定に違反するものである。

 

 (4)商標権に関するYの主張について:  

 パーカー万年筆事件大阪地判(1970年)によれば、商標権の目的は出所表示であるが、並行輸入品は出所表示の真正性を損なっていない。また、再販価格拘束は出所表示とは無関係である。さらに、独占的であろうとも、使用許諾権者には差止請求権がない。使用差止という大きな権利が、価格や非価格制限を行う小さな権利を包摂するというYの主張は、論理学上「分割の誤謬」と呼ばれ、すくなくとも294号の適用を阻却する「正当な理由」には足りない。いずれも21条でいう商標権の「行使」とは認められない。

 

[結論]審決:

 

 294号イおよびロ、一般指定2項、4項、12項および14項該当で19条違反。

 

→問題 

 

モデル:ナイキジャパン事件勧告審決平成10728日。

 

   

19

 

37医療用ベッドのトップ・メーカーによる発注者誤導

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条前段である。

 

[あてはめ]

 

 (1)行為要件:

 

 発注者の仕様書に干渉して(これはかならずしも違法行為ではない)他の製造業者の事業活動を排除、入札価格の指示によって販売業者の事業活動を支配

 

 (2)一定の取引分野:

 

 財務局発注の特定医療用ベッド(小さい市場)。

 

 (3)競争の実質的制限:

 

 医療用ベッドのメーカーはほかに2社あるが、地方公共団体向けとしてはシェアほぼ100%。[事実](3)によれば、東京都は、平成612月以降、財務局発注の特定医療用べッドの入札参加者を製造業者から販売業者に変更しているが、これがなぜ中小企業育成になるのか? メーカーは3社しかないが、販売業者はたくさんあり、同一ブランド内のいわゆるバッティングが起こる。これによって価格が下がり、短期的・個別的には販売業者の利益率が低下するが、長期的・全体的には販売業者の体質が強化される(より具体的には、間接費における無駄が淘汰され、市場全体としての効率が向上する)。

 

 (4)公共の利益に反して:

 

 「宣言説」、「利益衡量説」いずれをとるも、本件行為が公共の利益に反することは疑いない。石油カルテル刑事事件最判の違法性阻却事由も認められない。

 

[吟味]

 

 [事実](10)は、販売業者による不当な取引制限(3条後段)ではないかという学説がある。しかし、Yが、販売業者に入札談合類似の行為をさせているから支配(3条前段)が成立する。また、販売業者間の相互拘束ではないから3条後段の要件を満たさない。3条前段が正しい。

 

[結論]審決:

 

 Yは、財務局発注の特定医療用べッドの指名競争入札等に当たり、都立病院の入札事務担当者に対し、同社の医療用べッドのみが適合する仕様書の作成を働きかけるなどによって、同社の医療用べッドのみが納入できる仕様書入札を実現して、他の医療用べッドの製造業者の事業活動を排除することにより、また、落札予定者および落札予定価格を決定するとともに、当該落札予定者が当該落札予定価格で落札できるように入札に参加する販売業者に対して入札価格を指示し、当該価格で入札させて、これらの販売業者の事業活動を支配することにより、それぞれ、公共の利益に反して、財務局発注の特定医療用べッドの取引分野における競争を実質的に制限しているものであって、これらは、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。

 

→問題 

 

モデル:パラマウントベッド事件勧告審決平成10331日。

   

 

38粉ミルク・メーカーによる再販価格拘束と販売先制限

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、294号および一般指定12項である。

 

[あてはめ]

 

 Y主張についての判断:

 

 (1)公正な競争を促進する見地からすれば、取引の対価や取引先の選択等は、当該取引当事者において経済効率を考慮し自由な判断によつて個別的に決定すべきものであるから、右当事者以外の者がこれらの事項について拘束を加えることは、独占禁止法294号および一般指定12項にいう「拘束」にあたることが明らかであり、また、右の「拘束」があるというためには、必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に経済上なんらかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りるものと解すべきである。  

ところで、本件販売対策の内容は前記[事実]のとおりであるが、更に、審決によれば、育児用粉ミルクについては、その商品の特性から、銘柄間に価格差があつても、消費者は特定の銘柄を指定して購入するのが常態であり、使用後に他の銘柄に切り替えることは原則としてないため、特定銘柄に対する需要が絶えることがなく、これに応ずる販売業者は、量の多寡にかかわらず、右銘柄を常備する必要があるという特殊事情があり、このことはYの育児用粉ミルクについても同様であるところ、Yと取引する卸売業者は、右粉ミルクのほかに、Yの製造または販売する他の多数の育児用商品および乳幼児用薬品等をも取り扱つている、というのであつて、審決の右の認定はすべて実質的証拠に基づくものとして首肯することができる。

このような事実関係のもとにおいては、たとえY主張のようにYの育児用粉ミルクの市場占拠率が低く、販売業者の取扱量が少ないとしても、小売業者からの注文を受ける卸売業者としては、同粉ミルクについてYとの取引をやめるわけにはいかないのであり、また、取引を続けるかぎり、前記感謝金による利潤を確保するために、Yの定めた販売価格および販売先の制限に従わざるをえないこととなるのはみやすいところであるから、審決が、本件販売対策は市場占拠率のいかんにかかわりなく、相手方たる卸売業者と小売業者との取引を拘束するものであると認定したことは、なんら不合理なものではない。したがつて、本件審決に所論の違法はなく、Y主張は採用することができない。

 

 (2Yは、審決がYの本件再販売価格維持行為に294号にいう「正当な理由」がないとしたことは、法の解釈を誤り、判断を遺脱したものである、と主張する。

 法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は、公正な競争秩序を維持することにあるから、294号は、再販価格維持行為が相手方の事業活動における競争を阻害することとなる点に右の不当性を認め、具体的な場合に右の不当性がないものを除外する趣旨で「正当な理由がないのに」との限定を付したものと解すべきである。したがつて、右の「正当な理由」とは、専ら公正な競争秩序維持の見地からみた観念であつて、当該拘束条件が相手方の事業活動における自由な競争を阻害するおそれがないことをいうものであり、単に通常の意味において正当のごとくみえる場合すなわち競争秩序の維持とは直接関係のない事業経営上または取引上の観点等からみて合理性ないし必要性があるにすぎない場合などは、ここにいう「正当な理由」があるとすることはできない。

 

 また、Yは、再販売価格維持行為が市場競争力の弱い商品について行われる場合には、それによりかえつて他の商品との間における競争が促進されるから、「正当な理由」を認めるべきである、と主張するが、右のような再販売価格維持行為により、行為者とその競争者との間における競争関係が強化されるとしても、それが、必ずしも相手方たる当該商品の販売業者間において自由な価格競争が行われた場合と同様な経済上の効果をもたらすものでない以上、競争阻害性のあることを否定することはできないというべきである。

 

 審決は、以上と同旨の見解に基づき、Yの本件再販売価格維持行為には「正当な理由」がないと判断しているのであつて、審決の認定した事実関係のもとにおいては、その判断は正当として是認するに足りる。審決に所論の違法はなく、Yの論旨は採用することができない。

 

[結論]判決:本件審決取消請求を棄却する。

 

[吟味]

 

 (1)「正当の理由がないのに」について、都営芝浦屠畜場最判平成元年1214日は、「専ら公正な競争秩序維持の見地に立ち、具体的な場合における行為の意図・目的、態様、競争関係、市場状況等を総合考慮して判断」とする(一見前段と後段がコンフリクトするようだが、原則と具体という解釈)。これでは「不当に」と同じだとの批判ある一方、米国のper se illegalと違って、一応の証明に対する具体的反証だという擁護論もある。本判決は、「正当な理由」を「もっぱら公正競争秩序維持の観点」に限定しているが、「事業経営上または取引上の観点からみた合理性」を排除しているだけで、芝浦屠畜場(不当廉売)の「公益目的を含む総合考慮」との距離はそれほどでもない。

 

 (2)再販価格拘束の公正競争阻害性についてはすくなくとも3説ある:@取引相手の価格決定を拘束すること自体が反競争的(価格決定自由権というイデオロギー――本判決の立場)。A相手方市場レベルでの価格維持効果(販売業者間の不当な取引制限と同じ)。B寡占市場でのブランド間競争を阻害。前2者ではシェアは関係ない。

 

→問題 

 

モデル:和光堂事件最判昭和50710日。

   

 

20

 

39工事機械メーカー単独と施工業者共同による供給拒絶

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、Yについては291号、17社については一般指定1項第2項である。

 

[あてはめ]

 

 (1)競争の場:「R工事施工サービス取引分野」。

 

 (2)公正競争阻害性:公正競争阻害は、新規参入者が機械を入手できないため、同取引分野が閉鎖され、競争が抑圧されたこと(独占禁止法研究会類型のうち@競争減殺)。17社(「正当な理由がないのに」)とY(「不当に」)では、公正競争阻害性の立証責任が逆転している。Yの公正競争阻害は、機械の独占的供給者として、市場閉鎖(競争減殺)の不可欠な一部だったこと。

 

 (3)拒絶された取引:「非会員に対する機械の販売賃貸」。

 

[結論]審決:

 

 17社およびYは、相互に協力して、@17社にあっては、正当な理由がないのに、共同して非会員に対しR機械の貸与および転売を拒絶し、AYにあっては、不当に、非会員に対し、施工部会への入会が認められない限りR機械の販売および貸与を拒絶していたものであり、かかる17社およびYの行為は、それぞれ@独占禁止法291号およびA不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第1項第2項に該当し、いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。  

 

[吟味]

 

 (1)規範:

 

  (a85号:

 

 8条は、一般に、医師会が開業制限をするような場合に使われる。本件では、施行部会は291号違反の道具として作られた(設立総会から共同の供給拒絶を決議したり、施行部会への加入を供給の条件にしている)。291号+一般指定2項が正しい。

 

  (b3条前段:

 

 対市場効果「一定の取引分野における競争の実質的制限」(=価格・数量・品質などを自己に有利に左右できる地位が形成維持強化)に満たない(満たしていれば3条前段――後段は競争レベルが違う)。「R工事サービス」という小さな市場アプローチならできた。審決は市場画定をしていない(19条だから法律上の要件ではない)が、R工法と同様の工事方法も含めた大きな市場を画定しているとみられる。

 

 (221条:

 

 R機械、R工法のいずれかに特許があって、Yから17社に使用ライセンスしていたらどうか? 21条に該当しない。特許法1条の「発明奨励、産業発達」にむしろ反する。特許があったら、小さな市場画定ができて、3条前段違反の可能性がでてくる。

 

 (3Yの販売避止動機:

 

 一見自分の利益にならないが、該当地区対象に供給拒絶の代償として高値販売しているのだろう(他地区で安売りしている――略奪行為――の可能性もある)。

 

→問題 

 

モデル:ロックマン工法事件勧告審決平成121031日。

   

 

40応用ソフトウエアの抱き合わせ販売

 

[事実の整理]

           

競争者

抱き合わせる商品

抱き合わされる商品

A

表計算ソフト

ワープロソフト

B

表計算ソフトとワープロソフト

スケジュール管理ソフト

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、一般指定10項および295号である。

 

[あてはめ]

 

 競争の場と公正競争阻害性:2つの組み合わせが考えられる。

公正競争阻害が発生した場

公正競争阻害性

(独占禁止法研究会類型)

適用規範

a)応用ソフトウエアの販売分野(売手段階−−AB

@競争減殺

一般指定10

b)パソコン販売分野(買手段階――CDEF

B取引相手の自主性抑圧による競争基盤の破壊

295

 

[結論]審決:

 

 Yは、継続して取引するパソコン製造販売業者等に対し、正常な商慣習に照らして不当に、表計算ソフトの供給に併せてワープロソフトを自己から購入させ、さらに、パソコン製造販売業者に対し、不当に、表計算ソフトおよびワープロソフトの供給に併せてスケジュール管理ソフトを自己から購入させているものであって、これは、独占禁止法295号および一般指定10項に該当し、19条に違反するものである。  

 

[吟味]

 

 藤田屋事件は抱き合わされる商品が不人気ソフトだったため、「抱き合わされる商品の市場における自由競争減殺」ではなく、「能率競争の阻害=競争手段の不公正」を採用した。それなら優越的地位の濫用の方がより的確だった(白石説)。私的独占でも立件できたはず。

 

→問題 

 

モデル:日本マイクロソフト事件勧告審決平成101214日。

 

   

21

 

41生コン協組による取引拒絶と拘束条件付取引

 

[事実の整理]

 

 製造業者(全量買い取り)→Y(大卸販売)→X(卸販売)→小売業者(または消費者)。

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、一般指定2項および12項である。 

 

[あてはめ]

 

 (1)競争の場:O県南地区における生コン卸売取引(Xから小売業者または消費者)。

 

 (2)行為要件:

 

  (a)[事実](9)によれば、YX組合員以外には売らない。この行為は一般指定2項該当である。

 

  (b)[事実](10)によれば、Yは販売業者に対するY製以外の生コン取扱いを制限している。この行為は一般指定12項に該当する。

 [事実](2)によれば市場の大多数の事業者が参加する組合の行為だから(「競争者」はほとんどいない)、Yによる競争者排除(11項)よりも一般的な拘束(12項)を適用する。

 

 (3)公正競争阻害性:生コン卸売段階でアウトサイダー(Xに加盟しない卸売業者)を排除(独占禁止法研究会類型のうち@競争減殺)。

 

 (4)一定の組合の適用除外:

 

 協同組合の正当な社会的目的は中小事業者の相互扶助=効率向上による競争単位の増加である。しかるに、Yは生コンを組合員のメーカーから買い入れて小売業者に大卸売りするのだから、事業者団体ではなく事業者である。22条但書きは、適用除外が競争秩序内の適用除外であることを示す。

 

[結論]審決:

 

 Yは、Xの組合員でない事業者に対し不当に生コンを供給しないものであって、これは、不公正な取引方法(平成57年公正取引委員会告示第15号)の第2項に該当し、また、正当な理由がないのに、生コン販売業者とこれに生コンを供給する者との取引を拘束する条件をつけて、当該販売業者と取引しているものであって、これは、不公正な取引方法の第12項に該当し、それぞれ、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

→問題 

 

モデル:岡山県南生コンクリート協同組合事件勧告審決昭和56218日。

 

   

42アンプル生地管一手販売業者による排除型私的独占

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、3条前段および一般指定12項である

 

 (13条前段(主位的主張):

 

 Yは、輸入生地管を取り扱うXに対して講じている、Xに対してのみN製生地管の販売価格を値上げする等の一連の行為によって、Xの事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、本件市場における競争を実質的に制限しているものであり、これは、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。

 

 (2)一般指定12項(予備的主張):

 

 Yの本件行為は、N製生地管の取引について、取引の相手方であるXに対し、輸入生地管の排斥・抑圧の目的で、生地管の輸入をやめるまたは輸入量を一定量に抑えることを要請し、その実効を図るため、一連の経済的不利益措置を講じているものであり、このことは、Xの生地管の仕入取引という事業活動を不当に拘束する条件を付けてXと取引しているものであって、西日本地区における生地管の取引について、公正な競争を阻害するおそれのある行為であり、一般指定12項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

[争点]

 

 (1Yが行った次の行為は、Xの輸入生地管の取扱いの継続または拡大を牽制し、これに対して制裁を加える目的の下に行われた行為でか。

 

  (aXのみに対する平成741日からの取引条件の変更(公定価格までの値上げ・手形サイトの短縮・特別値引きの全廃)の申入れ(第1の行為)。

 

  (b)平成98月以降のXに対する輸入生地管と同品種のN製生地管の受注拒否(第2の行為)。

  

 (2)前記(1)の一連の行為は、Xの事業活動を排除する効果を有するものであるか。

 

 (3Yの行為は、競争の実質的制限をもたらすものであるか。

 

[あてはめ]

 

 [事実](16)および(19)に認定のとおり、Yが第1の行為および第2の行為を行ったことが認められる。よって、以下、第1の行為および第2の行為(以下これらを総称して「Yの本件行為」ともいう。)が独占禁止法2条第5項に規定する行為に該当するかどうかを判断する。

 

 (1Yの本件行為がXの輸入生地管の取扱いの継続または拡大を牽制し、これに対して制裁を加える目的の下に行われたことについて:  

 

 [事実](14)のとおり、YXが生地管を輸入していることを知り、同年8月から平成73月までの間、Xの輸入生地管の取扱いをやめさせるため、N3回にわたり会合を開催してその対応策について検討を重ねる一方、[事実](16)のとおり、YS社長は、Xのみに対し、平成1741日からN製生地管の販売価格を値上げし、特別値引きを全廃することなど、Xにとって到底応ずることができない、他のアンプル加工業者との取引条件に比べ明らかに不利益な内容の取引条件の変更を申し入れ、以後このような価格による請求を継続するという第1の行為を行っているのである。このような事実経過からみれば、第1の行為は、Xの輸入生地管の取扱いの継続または拡大を牽制し、これに対して制裁を加える目的の下に行われた対抗措置として行ったものと認めるほかないものというべきである。  

 次に、[事実](19)のとおり、第2の行為は、Yが、Nに注文することによって十分対応できるにもかかわらず、Xの輸入先の窯が不調で生産が不安定となっていることを承知の上で、平成1981日ころ以降Xからの発注を拒否した行為であり、Xによる輸入生地管の取扱いの継続または拡大を牽制し、これに対して制裁を加える目的を実現するための行為の一環として行われたものであると認めることができる。  

 このように、第1の行為および第2の行為は、Xの輸入生地管の取扱いの継続または拡大を牽制し、これに対して制裁を加える目的の下に行われたものであり、その目的を実現するための一連の、かつ一体的な行為であると認められる。  

 この点に関し、Yは、YにはXの輸入生地管の取扱いを排斥・抑圧する目的はなかったと主張し、YS社長も、審判廷において、この主張に沿う主張をするが、上記の判断に照らし、採用することができない。

 

 (2Yの本件行為の正当性について:

 

 Yは、第1の行為および第2の行為の各行為が取引上正当な行為である旨主張しているので、以下、各行為の正当性について判断する。

 

 (a)第1の行為の正当性について:

 

   @Xに対して、Yの申し入れに応じなければ生地管の供給を停止することまで考えていなかったというYの主張について:

 

 既に認定したとおり、第1の行為において申し入れた取引条件は、Xにとって到底応ずることのできない不利益な内容のものである。確かに、Yは、その申入れ当時、Xがその申入れに応じなければ生地管の供給を停止することまでは考えておらず、申入れ後の価格での請求を継続しつつ、Xが従前の取引価格で行う弁済を受領してきている([事実](17))。しかしながら、Yは、その後も申入れ後の価格での請求を何ら変更していないし、Xに対し、申入れに係る取引条件を他社並みとするためのきっかけにすぎない旨を伝えているわけではない。  

   AXに対し輸入生地管の取扱いをやめるよう要請していないというYの主張について:

 

 平成174月以前に行われたYNおよびM3社によるXの生地管輸入に対する対抗措置についての検討におけるYS社長の発言内容、S社長のT社長との電話・面談における発言および平成174月以後の発言から、YXに対し輸入生地管の取扱いをやめるよう要請したことが、[事実](15)のとおり認められる。

 

   BXとの取引数量が他のアンプル加工業者と比べて大きく減少したので、取引条件の変更を求める自由を行使したのであり、第1の行為は正当であるというYの主張について:

 そもそも、YXに対する平成174月からの取引条件の変更の申入れは、他のアンプル加工業者においても取引量の減少はみられるにもかかわらず、Xに対してのみ生地管の販売価格を引き上げるというものであり、しかもその引上げ後の生地管の価格すべてについて、他のアンプル加工業者に比し高いものであり、また、特別値引きについてもXに対してのみその全部を廃止するというものである。  

 これは、すべてのアンプル加工業者の中でXに最も不利な取引条件を課したことになり、明らかに外国製生地管を輸入するXのみを不利に扱うものである。

 

 第1の行為は正当であるということはできない。

 

  (b)第2の行為の正当性について:

 

 Yは、Xが購入量を大幅に減少させた2品種の生地管について突然大量の供給を要求してきたが、在庫リスクを考慮すると、この要求に応じるのは困難であったので、受注を拒否したにすぎず、第2の行為は正当であると主張する。

 

 しかし、[事実](7)によれば、Xの発注に対して、Yは、Nに注文することによって十分対応できたにもかかわらず、供給を拒んでいる。

 

 したがって、第2の行為が在庫リスクの観点だけから行われた行為であるとは認められない。

 

 (3Yの本件行為がXに及ぼす影響について:

 

  (a)[事実](14)(c)のとおり、Yの本件行為は、Yが、Xによる輸入生地管の取扱いの継続または拡大を牽制し、これに対して制裁を加える目的を実現するための一連の、かつ一体的な行為として認めることができる。

 

 他のアンプル加工業者に比し最も高い価格への引上げを申し入れ、当該価格による請求を継続する行為(第1の行為)は、西日本地区におけるN製生地管の唯一の供給者であるYによって行われる場合においては、平成17年度から平成20年度にかけて多くの製薬会社との関係でN製生地管を使用したアンプルに売上げの約8割を依存するXにとっては、当該価格を受け入れない対応を採ればN製生地管の供給を打ち切られるおそれがあり、また、当該価格引上げに応じれば、仕入コストが増大し、Xのアンプル製造販売のコストを大きく引き上げることにより、同事業の継続が困難となるに至った蓋然性のある行為である。よって、Yが、Xに対して、価格引上げの申入れを継続するのみで供給の停止を行っていないとしても、第1の行為には、Xに対し、事業の継続に対する強度の不安を与える効果があるといえる。

 

 また、第2の行為により、Xは希望する品種のN製生地管を入手できなくなったので、コストが増加し、Xの事業活動に支障が生じた。

 

 このような状態は、公正取引委員会の排除措置命令により解消したが、公正取引委員会の命令がなければ、Yの本件行為は永続され、Xはコスト増による大きな負担または製薬会社との取引への大きな影響によって、事業の継続が困難となるに至った蓋然性が高いと認められる。

 

  (bYの本件行為にもかかわらず、Xの輸入生地管に係る事業がなお継続し、輸入量が増加している事実がある([事実](4)および(12))。しかし、このことは、既に認定したように、XYの本件行為に対し戦う姿勢を堅持してそれぞれの行為に対する対応策を講じたことと、公正取引委員会の排除措置命令のため、YXの抗争は暫定的ながら解消され、これによりYの本件行為が終了したことによるものというべきである。

 

 (4)排除行為該当性:

 

 [事実](1)および(2)のとおり、生地管は我が国ではNのみが生産販売しており、YNの代理店として、同生地管の西日本地区における独占的な供給者であり、また、アンプルの需要者である製薬会社はN製生地管の使用を望むものが多く、アンプル加工業者にとって、N製生地管を仕入れることが事業を継続する上で必要不可欠な状況において、Yの本件行為は、Xの輸入生地管の取扱いの継続または拡大を牽制し、これに対して制裁を加える目的で企図され、実行されたものであり、Yの本件行為がXの事業の継続を困難にする蓋然性の高い行為であったことは前記のとおりである。してみると、かかるYの本件行為は、唯一輸入生地管を原材料として相当量仕入れ、これを加工したアンプルの販路を有するXはもとより、潜在的な輸入者または輸入生地管の需要者となり得る他のアンプル加工業者に対しても、輸入生地管を取り扱うことを萎縮、抑制させる効果を有するものと認められ、かかる行為によって、Yの競争者である外国の生地管製造業者の事業活動を排除する蓋然性が極めて高く、その実効性を有するものである。

 

 Yの本件行為の後も、Xの生地管の輸入は増加しており、Xの事業活動が現実に排除されるまでの結果が発生しているとはいえず、Yが本件行為の目的として目指したところは結果的に実現されたとはいえないのであるが、これは、前記のとおりXの姿勢と公正取引委員会の排除措置命令があったからにほかならないのであるから、Yの目的が結果的に実現されなかったからといってYの本件行為が独占禁止法第2条第5項に規定する行為に該当しないものということはできない。

 

 Yの本件行為は、上記のとおり、西日本地区における生地管の供給市場において支配的地位(需要者であるアンプル加工業者にとってN製生地管の仕入れが必要不可欠である市場において当該生地管の供給を独占する地位)を占めるYが、Xの行う生地管輸入の排除の意図・目的をもって、Xの輸入生地管に係る事業活動を排除し、また、他のアンプル加工業者に輸入生地管を取り扱うことを萎縮させ、ひいてはYの競争者の事業活動を排除する蓋然性の極めて高いものであり、独占禁止法2条第5項の「他の事業者の事業活動を排除する」行為に該当するものというべきである。

 

 (5)一定の取引分野:

 

 [事実](5)のとおり、輸入生地管はN製生地管と品質的に遜色はなく、また、輸入生地管を使用したアンプルについては製薬会社が切り替える際に製薬会社の検査を受ける必要があるが、輸入生地管の価格はN製生地管より相当廉価であることから、両者の間に代替関係があるといえる。また、前記認定のとおり、我が国においてはNが唯一の生地管の製造業者であり、西日本地区においてはYのみが同地区に本店を置くアンプル加工業者にN製生地管を供給しており、同地区に本店を置くアンプル加工業者であるXが外国の生地管製造業者から生地管を大量に輸入しているものである。このような商品特性および取引実態を前提にすると、生地管の取引においては、Yおよび外国の生地管製造業者を供給者とし、西日本地区に本店を置くアンプル加工業者を需要者とする西日本地区における生地管の供給分野が成立しているということができる。

 

 Yは、世界的にNより規模の大きい生地管製造業者が数社存在するので、世界市場が成立すると主張する。しかし、外国に有力な生地管製造業者が存在するという事実のみをもって、唯一世界市場のみが成立するものとはいえない。需要者である西日本地区に本店を置くアンプル加工業者が、これら外国の生地管製造業者から生地管を輸入することにより、外国からの輸入を含め需要と供給がマッチする市場、すなわち西日本地区における生地管の供給分野が形成されるものであり、その地理的範囲は西日本地区である。また、Yの本件行為は西日本地区に本店を置くXを対象としたものであることからも、西日本地区における生地管の供給分野を一定の取引分野とすることが適切であり、Yの主張は採用できない。

 

 (6)競争の実質的制限:

 

 前記(4)のとおり、Yの本件行為は、XおよびYの競争者の事業活動を排除する行為に該当するものであり、そして、前記公正取引委員会の排除措置命令前の状況においてみると、上記事業活動の排除を実現することができる状態が既に生じているということができるのである。

 

 したがって、Yの本件行為は、西日本地区の生地管の供給市場において独占的なN製生地管の供給者であって既に市場支配力を有するYが、輸入生地管の取扱いの継続または拡大を牽制し、これに対して制裁を加えることを企図し、Xに対して行ったものであって、これにより競争力のある競争者の生地管の輸入を制限または抑制して品質・価格による競争が生じまたは生じ得る状況を現出させないようにしているものであり、西日本地区における生地管の供給分野における競争を実質的に制限するものであると認められる。

 

 (7Yの本件行為の25項該当性:

 

 以上判断したところによれば、Yは、生地管を輸入しているXおよび同生地管の供給を受けてアンプルに加工販売しているXに対して講じた、Xに対してのみN製生地管の販売価格を他のアンプル加工業者に比し最も高い価格まで引き上げることを申し入れ、当該価格による請求を継続する行為からなるYの本件行為によって、Xの輸入生地管を取り扱う事業活動を排除し、Yの競争者である外国の生地管製造業者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、西日本地区における生地管の供給分野における競争を実質的に制限するものというべきである。

 

 (8)排除措置の必要性について:

 

 前記(3)(b)のとおり、Yによる本件違反行為は、本件審判開始決定の時までに存在し、かつ、既になくなっていると認められることおよびXの生地管の輸入も拡大傾向で推移していることにかんがみると、本件は独占禁止法7条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」には該当しないので、当該行為が既になくなっている旨の周知措置等格別の措置を命ずる必要はない。

 

[結論]審決:

 

 以上に判断したとおり、Yは、Xの輸入生地管に係る事業活動を排除することによって、競争者である外国の生地管製造業者を排除することにより、公共の利益に反して、西日本地区における生地管の供給分野における競争を実質的に制限していたものであり、これは、独占禁止法2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:ニプロ事件審決平成1065日。

   

 

22

 

43廉売店に対する家電トップ・メーカーによる間接の取引拒絶

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は一般指定2項後段である

 

 (1)未取引先小売店との取引を直接拒絶したのは販社。だからメーカーは間接の取引拒絶(一般指定2項後段)。

 

 (2)吟味:

 

  (a)廉売防止の目的は認定(公正競争阻害性)。しかし、脅しは、代理店・小売店に対する「示唆」にとどまり、294号イ後段(再販の誘導)の要件を満足できない。

 

  (b)代理店・小売店を「拘束する条件をつけて取引した」(一般指定12項違反)事実はとくにない。

 

[あてはめ]

 

 (1)競争の場:Y製電気製品の卸売取引。

 

 (2)公正競争阻害性:単独の取引拒絶の多様性:@競争者排除、A共同行為の実行手段、B流通支配など(流通取引慣行ガイドライン第3-2)。本件は廉売防止目的の行為だけで公正競争阻害性を認定(競争減殺)。

 

[結論]審決:

 

 Yは、不当に、代理店等に、Y製電気製品の廉売を行う未取引先小売店に対するY製電気製品の販売を拒絶させていたものであり、これは、一般指定2項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:松下電器産業事件勧告審決平成13727日。

 

   

44製缶トップによる支配と排除

 

[事実の整理]

 

Yによる支配

 

C

D

B

G

実質持株比率%

81

71.5

29

50

下請依存度%

33

11.8

20

36

役員派遣

役員派遣

間接役員派遣

地域分野制限

技術契約による使用場所制限

販売実績報告

Yによる排除

 

N海産

S食品

T産業

排除行為

供給拒絶

価格引下げ

牽制

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条前段(排除および支配)である。

 

[あてはめ]

 

 (1)違法行為:

 

  @同業製缶業者の事業活動を支配(CDBGがたまたま子会社だというだけでは支配の具体的事実が認定されない。本件では、支配のために子会社化したというプロセスが認定されている。)。

 

  A客先缶詰製造業者の自家製缶事業を排除。

 

 (2)一定の取引分野:わが国における食缶の取引分野。

 

 (3)競争の実質的制限:  

 [事実](8)から、国内シェアはY単独で56%CDBGと合わせると74%で、2位のA23%にすぎない。Yは缶詰製造業者の自家製缶による新規参入を阻止、Yの市場支配力を維持した。競争の実質的制限に至らなくても、公正競争阻害性があれば一般指定2項前段(単独の取引拒絶)にも該当(取引流通慣行ガイドライン1部第3-2(2))。

 

 (4)排除措置:

 

 子会社名義で分散しているので101項は使えない(「会社は・・」)。ただ17条に脱法行為禁止がある。企業結合ガイドライン第1-1(1)() 25%以上第1位で立件(本ケースは29%)。本審決はBにおけるYの持株率を295%まで減らした。対B支配排除行為がとくに悪質。necessary minimumな措置で競争状態回復をはかった(101項でもおなじ)。

 

[結論]審決:

 

 Yは、CDBおよびGの事業活動を支配し、また、缶詰製造業者の自家製缶についての事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、わが国における食缶の取引分野における競争を実質的に制限しているものであり、これは、私的独占禁止法第2条第5項の規定に該当し、同法第3条前段の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:東洋製罐事件勧告審決昭和47918日。

 

   

23

 

45自動車向け補修用ガラス卸売業者による輸入品取扱小売業者の差別

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、卸価格引き上げについて292号、配送回数カットについて一般指定4項である。

 

 吟味:適用可能な規範としては、ほかに3条前段、19条(一般指定2項、11項、12項、14項)も考えられるが、292号と一般指定4項が最も直接的である。3条前段の「排除」も有力だが、「一定の取引分野」をどうとらえるか、「競争」をどこの取引段階でとらえるかが問題。一般指定2項の「単独の取引拒絶」も有力だが、「拒絶」とまでいえるかどうかが問題。

 

[あてはめ]

 

 公正競争阻害性: 補修用ガラス取引市場における輸入競争を減殺([事実](9)および(10))。

 

 (1)一般指定4項:

 

 小売市場ではすべて個別発注で、迅速な修理が要求される([事実](5))から、配送回数カットの競争減殺効果が大きく、「不当に」が認定される。

 

 (2292号:

 

 売手段階(卸売業者と輸入業者)における差別対価。継続的取引の中で行われている行為なので「継続」が認定される。また、Yは、同社方針に従順なガラス商に対して価格を引き下げ、輸入品を取り扱うガラス商に対して価格を引き上げており、さらに輸入品は形式数が少ないので、輸入品だけで事業を継続することができず、「困難にさせるおそれ」が認定される。

 

[結論]

 

 Yは、積極的に輸入品を取り扱う取引先ガラス商に対して、配送の回数を減らし、社外品の卸売価格を引き上げる行為を行っているものであり、これは、一般指定4項および292号に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:オートグラス東日本事件勧告審決平成1222日。

 

   

46パチンコ機パテント・プール

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条前段である。

 

 吟味:3条後段「不当な取引制限」も考えられるが、@連盟の設立は合同行為であって、株主間契約の存在も立証されていない、A10社それぞれと連盟の相互拘束も立証されていない、B10社間の相互拘束も立証されていない――ので、「相互拘束」が立証できない。

 

 291号「共同の供給拒絶」や一般指定2項「単独の取引拒絶」も考えられるが、これでは参入阻止だけで、ほかの取引制限を取り込まない。本行為の本質は排除だから私的独占が最も適切。

 

[あてはめ]

 

 (1)行為要件:下記行為が3条前段の要件である「排除」を満足する。

 

  (a)組合員に対するライセンスの条件として下記の取引制限。

 

   @価格制限(「乱売禁止条項」および委託販売強制)、

 

   A販売方法制限(証紙貼付義務)、

 

   B販売ルート制限(販売店の登録制――商社の登録拒絶――および販売店の委託販売限定)、

 

   C組合員間での新機種開発制限(同等・類似の既存メーカーの承諾)、  

 

   D数量制限(保安電子通信協会による形式試験申請台数)、

 

   E組合員以外へのライセンス拒絶(被買収の場合の契約解除、とくに大手製造業者へのライセンス拒絶、特許回避のおそれがある場合の牽制ライセンス)。

 

  (b)「権利者会議」で、特許権等の集積、新規参入阻止を決定、「審査委員会」を通して決定を実施。

 

  (c)組合員以外の事業者、とくに、パチンコ機を製造しようとする回胴式、球メーカー(組合員買収によるライセンス取得も妨害)による参入を排除。

 

 (2)主文の名宛人:10社および特許連盟。

 

 (3)一定の取引分野:わが国におけるパチンコ機の製造分野。

 

 (4)競争の実質的制限:下記行為から、反射的に、制限がなければ競争が行われただろうことがあきらか。私的独占に価格上昇は要件ではない。

 

  (a)独占的供給者の結合・通謀による参入排除および実施拒絶。

 

  (b)「共同の取引拒絶」による「閉鎖型市場支配力」の形成。

 

  (c)インカンベント間の価格競争制限。 (5)公共の利益に反して:宣言説、利益衡量説いずれをとるも、本件行為が公共の利益に合致していないことはあきらか。

 

 (5)知的財産権の行使:

 

 知的財産権の神聖不可侵論は克服されて久しい。それをいうなら、私的独占や不当な取引制限や不公正な取引方法もすべて有体物の所有権の行使だということになってしまう。有体物の所有権よりはるかに弱い知的財産権が、独占禁止法に対して不可侵なわけはない。特許権の専有権(特許法23項)には私的独占行為が含まれていないので、21条の適用除外には該当しない。管理委託や特許権の集積自体は排除措置の対象とされていない。違法目的でないライセンス拒絶の撤回は命じられていない。主文でもYの解散を命じていない。

 

[結論]審決:

 

 10社およびYは、結合および通謀をして、参入を排除する旨の方針の下に、Y特許権の実施許諾を拒絶することによって、パチンコ機を製造しようとする者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、我が国におけるパチンコ機の製造分野における競争を実質的に制限しているものであって、これは、特許法による権利の行使とは認められないものであり、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:ぱちんこ機パテントプール事件勧告審決平成986日。

 

   

24

 

47小型精米機メーカーによる販売業者の囲い込み

 

[規範]

   

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、他社製品の取扱禁止([事実](6)(a))については一般指定11項、横流し禁止([事実](6)(b))については一般指定12項である。

 

[あてはめ]  

 

 (1)競争の場(部分市場):

 

 主として米穀小売業者によつて使用される小精米用食糧加工機。[事実](3)に掲げる取引の場のうち、ある取引の場の中において、更に、流通する商品、流通経路、流通主体等の特性に基づいて、それぞれ、対象市場を区分し類型化することができる取引の場があるときは、ここに更に局限された独立の取引の場が存在すると認めるのが相当である。

 

 (2)公正競争阻害性(「不当に」):

 

  Yの排他条件付取引によって、Yと競争関係にある事業者の利用しうる流通経路がどの程度閉鎖的な状態に置かれているか、[事実]からは不明だが、しかし、取引の場を前記のようにとれば、「有力」メーカーが全国販売業者240店中79店と本件特約店契約を結んでいる点で、競争減殺を推認。

 

 Yと競争するABCがすでに系列化を進めていること([事実](5))は、Yの系列化(11項および12項該当行為)を正当化しない(系列化が進んでいる市場で、アウトサイダーが系列化すると、競争阻害効果がより大きい)。

 

[結論]審決:

 

 前記事実によれば、Yは特約製品の販売に当たり、不当に、特約店が自己の競争者から防音型精米機、混米機および石抜選穀機を購入しないことを条件として、当該特約店と取引しているものであり、これは、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の11項に該当し、また、特約店とこれから東洋特約製品の供給を受ける者との取引を拘束する条件をつけて、当該特約店と取引しているものであり、これは、前記不公正な取引方法の12項に該当し、いずれも、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。  

 

[吟味]

 

 事業慣行としては多い(流通や下請系列化)が事件数はあんがい少ない。日本産業の特徴である低生産性の元凶だが、本質的に非効率的なので、自動車や電子では淘汰されつつあり、近代的形態としてのフランチャイズ(商標権/KHベース――21条)を除くと、前近代的産業構造の遺物である(本件が例)。  

@排他的供給(専売制)、A排他的購買(一手販売制)、B相互排他(一店一帳合制)の3種がある。

公正競争阻害性:流通取引慣行ガイドライン第4-27は「有力な事業者テスト=10% or 3位以内+ROR」。たとえば30% x 3社の寡占市場で、のこり10%が専売店化した場合。判決の「系列取引が一般的な市場では原則合法(「みんながやっているからいい」)」では公正競争阻害性がないとされるが、第4-29Cでは「系列取引が一般的な市場は、全体でみれば新規参入阻止効果が大きい」とされる。

 

→問題 

 

モデル:東洋精米事件同意審決昭和63517日。

   

 

48有線カラオケ・トップによる下位競争者の取引排除

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は一般指定14項である。

 

[あてはめ]

 

 (1)行為要件:

 

 Yは、Yが支配するAおよびBをして、競争者であるXに対して、ナイト市場で必須の管理楽曲のライセンスを拒絶させ、そのことを卸業者に告知することによって、通信カラオケ機器の卸販売・賃貸市場におけるXと卸売業者の取引を妨害した。

 

 (2)競争の場:

 

 通信カラオケ・ソフトの配信サービスおよび同機器の卸販売・賃貸(以下「通信カラオケ・サービス」と総称する)市場。

 

 (3)公正競争阻害性:

 

  (a)[事実](3)(e)から、通信カラオケ・サービス市場における管理楽曲の重要性、特に、ナイト市場においては管理楽曲が必要不可欠であることが認められ、その上で、[事実](3)(d)から、AおよびBの管理楽曲が、同市場において人気があって、演奏回数や演奏順位も楽曲全体の中でかなり上位を占めており、AおよびBの管理楽曲が通信カラオケ・サービスにとって重要であることが認められる。

 

 

  (b)[事実](2)(d)から、通信カラオケ機器の取引分野におけるYの有力性が顕著であると認められる。

 

  (c)[事実](6)から、本件違反行為は、通信カラオケ・サービス事業分野における有力な事業者であるYが、会社としての方針に基づき組織的に行ったものであることが認められる。これに加えて、[事実](3)(f)から、過去に、Yがレコード会社8社に対し、通信カラオケ機器を開発して市場に参入したX等の通信カラオケ・サービス事業者に対する管理楽曲の使用承諾を遅らせるよう要請し、かつ、レコード会社8社は、X等からの管理楽曲の使用承諾の求めに対し、Yが管理楽曲を搭載した通信カラオケ機器を発売してから1年以上経過するまで管理楽曲の使用承諾に応じなかったという事実があったことを併せ考えれば、Yが本件違反行為を行うことにより、卸売業者およびユーザーが、AおよびBの管理楽曲が使用できなくなることへの懸念から、Xの通信カラオケ機器の取扱いまたは使用を中止し、管理楽曲に関する問題のない他の通信カラオケ事業者の通信カラオケ機器に変更するものが少なからずあるであろうことは容易に推認することができるから、本件違反行為は、Xの通信カラオケ機器の取引に重大な影響を及ぼす蓋然性が高いというべきである。

 

  (d)レコード制作会社は、専属契約に基づき、管理楽曲を録音等する権利を作詞者または作曲者から独占的に付与されている。当該権利が通信カラオケ機器における管理楽曲の使用承諾にも及ぶか否かについては当事者間に争いがあるが、[事実](3)(c)のとおり、通信カラオケ・サービス事業者および卸売業者の大部分は、通信カラオケ機器で管理楽曲を使用する場合、通信カラオケ事業者が、当該管理楽曲について作詞者または作曲者と専属契約を締結しているレコード制作会社から使用承諾を受けなければならないと認識しており、当該使用承諾を受けることが慣行となっているものと認められる。したがって、通信カラオケ・サービス事業者および卸売業者のかかる認識と慣行を前提として本件違反行為の公正競争阻害性を判断することが適当であり、以下、このような考え方を基に検討を行う。

 

   @本件違反行為は、特許権侵害に関する争訟を起こされたYの対抗措置ないし意趣返しとして行われたものであり、価格や品質による競争を行うためではなく、専らXの事業活動を攻撃することを目的として行われたものであると認められる。  

 

 これに対して、Yは、本件違反行為は、Xが、後に無効とされるような特許に基づく訴訟や誹謗中傷という違法な妨害行為を行ったのに対し、Yが行ったのは、取引先選択の自由に基づくわずか67曲の管理楽曲の使用承諾契約の更新留保にすぎず、Xの不当な干渉行為よりもはるかに妨害効果等の小さい対抗行為であったことから、独占禁止法上是認されるべきであると主張する。

 

 しかし、Xが主張する特許は、特許庁に対する特許無効審判請求の段階においては無効ではないと判断されたのであり、当該特許が最終的に無効とされたのは飽くまでも結果論にすぎないというべきであり、また、Yが主張するXの行為に対しては、法的手段等の措置により対応すべきであって、自力救済に及ぶことは許されない。

 

   Aまた、Yは、Xの事業活動を徹底的に攻撃していくとの方針がYにあったとしても、それは、Xの顧客を奪うという意味であり、競争自体が顧客奪取を予定しているものであることからすれば、結局、当該方針は、Xと徹底して競争を行っていくという方針のことであると主張する。しかし、Yの方針である「Xの事業活動を徹底的に攻撃していく」とは、AおよびBをしてXとの管理楽曲使用承諾契約の更新を拒絶させることや、卸売業者等に対してXの通信カラオケ機器ではAおよびBの管理楽曲が使えなくなる等と告知し、これによりXの事業活動にダメージを与えることであって、価格・品質等の正当な競争手段により顧客を奪取することではない。

 

   Bさらに、Yは、公正競争阻害性の有無は当該行為の競争秩序への影響や手段の公正さに基づいて判断されるものであって、当該行為がどのような目的によってなされたかによって左右されるものではないと主張するが、取引妨害行為の公正競争阻害性を判断する上で、当該行為の目的も考慮要素であることは、「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」(昭和5778日独占禁止法研究会報告)にもみられるところであり、Yの主張は採用できない。  

 

   CYは、専らXの事業活動を徹底的に攻撃することを目的として、AおよびBの管理楽曲の重要性を利用し、AおよびBをして、それまで平穏かつ継続的に行われてきたXとの間の管理楽曲の使用承諾契約の更新を突如拒絶させ、さらに、当該拒絶を原因として、Xの通信カラオケ機器ではAおよびBの管理楽曲が使用できなくなる旨を卸売業者等に告知したのであり、当該更新拒絶および当該告知は、前記目的の下に一連のものとして行ったものである。これら一連の行為は、Yが、その競争事業者であるXとの間で、価格・品質等による競争を行うのではなく、XAおよびBの管理楽曲を使わせず、卸売業者等にXの通信カラオケ機器の取扱いや使用を敬遠させるという、公正かつ自由な競争の確保の観点から不公正な手段であると認められる。

 

 (4)適用除外:

 

 著作権法等による知的財産権の行使に対する独占禁止法の適用について、21条は、著作権法等による権利の行使と認められる行為には独占禁止法を適用しない旨規定しているところ、この規定は、文字どおり、著作権法等による権利の行使と認められる行為には独占禁止法の規定が適用されないことを示すとともに、他方、著作権法等による権利の行使とみられるような行為であっても、行為の目的、態様、競争に与える影響等を勘案した上で、知的財産権制度の趣旨を逸脱し、または同制度の目的に反すると認められる場合には、当該行為が同条にいう「権利の行使と認められる行為」とは評価されず、独占禁止法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると解される。

 

 Yは、Xの事業活動を徹底的に攻撃していくとの方針の下、AおよびBをして、Xとの間でそれまで平穏かつ継続的に行われてきていた管理楽曲使用承諾契約の更新を突如拒絶させ、卸売業者およびユーザーに対し、Xの通信カラオケ機器ではAおよびBの管理楽曲が使用できなくなる旨告知したものである。このように、当該更新拒絶は、Xの事業活動を徹底的に攻撃していくとのYの方針の下で行われたものであり、また、[事実](6)(c)のとおり、Yによる卸売業者等に対する前記告知と一連のものとして行われ、前記(2)のとおり、Xの通信カラオケ機器の取引に影響を与えるおそれがあったのであるから、知的財産権制度の趣旨・目的に反しており、著作権法による権利の行使と認められる行為とはいえないものである。したがって、独占禁止法第21条に規定する、独占禁止法の規定を適用しない場合には当たらないものというべきである。

 

[結論]審決:

 

 以上によれば、Yは、本件違反行為により、自己と国内において競争関係にあるXとその取引の相手方との取引を不当に妨害していたものであって、これは、一般指定第14項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:第一興商事件審判審決平成21216日。

 

   

25

 

49映画入場料金の拘束

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は一般指定12項である。

 

[あてはめ]

 

 (1Y主張(1)「著作権の行使」について:

 

 Yの行為は「著作権の行使」に形式的に該当しない。著作権法に限定列挙されている専有権には価格設定権が含まれない。21条はあくまでも競争秩序内の適用除外であって、行為の目的・態様・競争に与える影響の大きさを勘案したうえで、それが知的財産権制度の趣旨を逸脱し、目的に反すると認められる場合は、21条に該当せず、独占禁止法が適用される。「権利者は、ライセンスを拒絶できるのだから、条件をつけてライセンスすることもできる」という論理はかならずしも正しくない(分割の誤謬)。

 

 (2Y主張(2)「著作物再販価格」について:

 

 独占禁止法234項による著作物の再販適用除外制度は、昭和28年当時の書籍、雑誌、新聞およびレコード盤(著作物4品目)の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものとされている。そして、公正取引委員会では、その後、音楽用テープおよび音楽用CDについては、レコード盤とその機能・効用が同一であることからレコード盤に準じるものとして取り扱い、著作物4品目を含む、これら6品目に限定して著作物再販制度の対象とすることとし、その旨公表されている(平成4415日公正取引委員会公表)。さらに、同項の「発行」、「物」、「販売」、「再販価格」の文言からしても、同項の適用範囲が前記の著作物4品目に限られ、貸与によって頒布される劇場用映画を含まないことは明らかである。

 

 (3Y主張(3)「『商品』販売」について:

 

 本件Yの行為に対しては、294号の一般法である一般指定12項が適用される。

 

 (4)「競争の場」:Y映画作品の上映サービス。

 

 (5)公正競争阻害性:

 

 本来映画館が自由に決定すべき入場料を拘束して、買手段階の公正競争が阻害された(独禁法研究会類型のB「取引主体の自主性抑圧による競争基盤の侵害」)。

 

[結論]審決:

 

 Yは、Y映画作品を配給するに当たり、上映者が入場者から徴収する入場料を制限しているものであり、これは、上映者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて、Y映画作品を配給しているものであって、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル20世紀フォックス事件勧告審決平成151125日。

 

   

50元詰種子の価格に関する不当な取引制限

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ]

 

 (1Y主張(1)「意思の連絡」について:

 

 不当な取引制限において必要とされる意思の連絡とは、「複数事業者間で相互に同内容または同種の対価の引上げを実施することを認識し、ないしは予測し、これと歩調をそろえる意思があることをもって足りる」というべきである(東芝ケミカル事件東京高判平成7925日)。

 

 Yは、本件合意が32社により行われたというためには、意思の連絡を要し、相互にその内容を認識し、認容することを要するが、本件審決はこれについてふれておらず、実質的証拠を欠いていると主張している。しかし、本件審決は、遅くとも平成23104日までは、32社の間に、不当な取引制限として本件合意が存在していることを認定しているのであるから、32社が相互に本件合意の内容を認識し、認容していたことも当然その内容となっているものというべきであり、また、これを事実から推認し得ることも上記のとおりであって、Yの主張は失当である。

 

 (2Y主張(2)「事業者」について:

 

 石油価格協定事件最判の趣旨は、「ある行為が事業者の行為とも事業者団体の行為とも評価できるとみられる場合に、どちらか一方の評価が優先され、他方が排除されるという関係ではなく、公正取引委員会の合理的な判断に委ねられている」というものである。

 

 本件審決は、32社が、基準価格の決定の外、これに基づいた価格表価格および販売価格を設定していることから、基準価格に基づいて価格表価格および販売価格を設定することを相互に認識し、認容するものであると評価しているのであるところ、価格表価格および販売価格の設定は、一般にはそれぞれの事業者が個別に行うべきことであって、事業者団体の行為ではなく、討議研究会における決定行為も、討議研究会の行為であると共に、これを構成する事業者らの行為であるともいえるのであるから、これらの行為から本件合意の内容を認識し、認容していることが推認される場合の主体は、各事業者であって事業者団体ではあり得ない。

 

 仮に、32社以外の事業者を含む事業者団体である日種協元詰部会が、討議研究会で決定した基準価格に基づいて構成事業者の価格表価格および販売価格の設定がなされるよう構成事業者を拘束して、一定の取引分野の競争を実質的に制限していた(独占禁止法81号)、あるいは、価格表価格および販売価格等を設定することに関する活動等を不当に制限していた(同条4号)とまで認めることができるとしても、少なくとも、32社が本件合意をしていたことを推認することが妨げられないことは上記のとおりであるから、独占禁止法3条所定の行為が存在する以上、事業者らに対し行政処分を課すことができることは当然であって、事業者団体に独占禁止法8条所定の行為があり、事業者らにも同法3条所定の行為があるものと認定し得る場合に事業者団体にしか行政処分を課することができないと解すべき同法上の根拠は見当たらず、これを相当とすべき事情が存在することも認められない。

 

 (3Y主張(3)「相互拘束」について:

 

 一般に価格カルテルにより値上げ金額や値上げ幅が協定される場合であっても、各事業者は、各商品の競争力や需要側の動向等の影響を受けるので協定どおりの販売価格が実現できる保証はないが、これにより価格カルテルの存在や相互拘束性が否定されることはない。したがって、価格表価格から値引きや割戻しがされるとしても、これにより本件合意の存在や相互拘束性が否定されることはない。協和エクシオ事件判決東京高判平成8329日)では、談合に関する基本合意(受注予定者を協議して定める旨の合意)により違反行為が成立することが認められている。

 

 32社は、討議研究会の欠席者も含め、少なくとも平成20年から平成23年までの間、討議研究会で決定した基準価格により、その前年度からの変動に従って、自社の元詰種子の価格表価格を定め、その後の販売に当たっても概ね基準価格に連動した価格で販売を行い、基準価格に定められる容量と同じ容量の品種については、基準価格と一致する価格を定めることも多かったものであるから、このような状態が少なくとも4年間継続していたことを考慮すると、自社の価格表価格に討議研究会で決定した基準価格の変動を反映させていた32社は、討議研究会で決定する基準価格に基づいて自社の価格表価格を設定し、販売を行うものであること、すなわち、基準価格の決定が自社の価格表価格および販売価格の設定を拘束するものであることを認識していたものと推認される。

 

 また、上記各事実によると、毎年遅くとも他社の価格表価格が発表された時点においては、他の事業者が同様に基準価格の決定に基づいた価格表価格を設定していることを認識し得たものといえ、このような状態が継続していたことに照らせば、元詰部会の構成員である少なくとも32社は各社が基準価格の決定に基づいてそれぞれ販売価格を設定するものと相互に認識していたものと推認される。以上のとおり、32社は、遅くとも平成20319日以降、本件合意をしていたことを推認することが相当であるから、本件審決が本件合意の存在を認定した手法には、不合理な点はなく、その認定の過程において経験則違背等のあったことも認められない。したがって、本件合意の存在および本件合意の各部分について実質的証拠を欠くとするYの主張は理由がない。

 

 Yは、本件合意が、値引きや割戻しの率およびその適用についての合意を含んでおらず、基準価格から実勢価格の設定を予測することはできなかったのであるから、相互拘束性の認定は実質的証拠を欠くものであると主張する。しかし、32社は、価格表価格を討議研究会の基準価格に基づいて定めることを相互に認識しており、その後の値引きや割戻しが価格表価格を前提として行われていることは上記前提事実に記載のとおりであるから、個々の取引先に対する現実の販売価格が値引きや割戻しの結果、値引率や割戻しの方法を知らない他社が予測し得ない価格となっているとしても、その前提となる価格表価格の設定について競争行動が回避されていることには変わりはなく、本件合意の存在により、32社は、相互に基準価格に基づいて価格表価格および販売価格を定めるものとの認識を有しており、その限度で事業者相互の競争制限行動を予測し得ることをもって不当な取引制限にいう相互拘束性の前提となる相互予測としては足りるものと解される。

 

「結論」判決:本件審決取消請求を棄却する。

 

→問題 

 

モデル:元詰種子価格カルテル東京高判平成2044日。

   

 

26

 

51ゲームソフトの抱き合わせ販売

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、一般指定10項および12項である。

 

[あてはめ]

 

 (1Yの主張(1)「他の商品」について:

 

 ドラクエWと本件抱き合わせ販売に供された他のゲームソフトとは、それぞれその内容において独自性を有し、独立して取引の対象とされているものであるから一般指定10項に規定する「他の商品」にあたることは明らかである。

 

 (2Yの主張(2)「強制」について:

 

 一般指定第10項に規定する「購入させること」にあたるか否かにつき判断するに、右要件にあたるというためには、ある商品の供給を受けるのに際し、客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるような抱き合わせ販売であることが必要であると解するのが相当である。

 

 当該抱き合わせ販売が、一般指定第10項に規定する「購入させること」にあたるかどうかは、個別主観的に当該個々の顧客が取引を強制されたかどうかによって決定されるものではなく、前記のとおり客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるかどうかによって決定されるべきものであるばかりでなく、本件抱き合わせ販売に応じた顧客である小売業者も、本来、ドラクエWのみを買い受けることを望んだものであり、ドラクエWを取得するためやむを得ず自己の欲しない他のゲームソフトも買い受けたものであることが認められる。そして、顧客が本件抱き合わせ販売により損害を被らなかったとしても、顧客が損害を被ったことが、一般指定第10項に規定する抱き合わせ販売が成立するための要件ではないことは言うまでもない。

 

 (3Yの主張(3)「市場支配力」について:

 

一般指定第10項に規定する不当とは、公正な競争を阻害するおそれがあることを意味すると解されるが、右公正な競争を阻害するおそれとは、当該抱き合わせ販売がなされることにより、買手は被抱き合わせ商品の購入を強制され商品選択の自由が妨げられ、その結果、良質・廉価な商品を提供して顧客を獲得するという能率競争が侵害され、もって競争秩序に悪影響を及ぼすおそれのあることを指すものと解するのが相当である。  

 前記のように本件抱き合わせ販売は、ドラクエWが人気の高い商品であることから、その市場力を利用して価格・品質等によらず他のゲームソフトを抱き合わせて販売したものであり、買手の商品選択の自由を妨げ、卸売業者間の能率競争を侵害し競争手段として公正を欠くものといわざるを得ない。Yは、ドラクエWの前作であるドラクエVの販売に当たり、本件と同様の抱き合わせ販売を行い公正取引委員会から警告を受けている。

 本件抱き合わせ販売は事業者の独占的地位あるいは経済力を背景にするものではなく、ドラクエWの人気そのものに依存するものであるため、人気商品を入手し得る立場にある者は、容易に実行することのできる行為であることを考えると、本件抱き合わせ販売は、組織的、計画的になされたものであり、また前記のように本件抱き合わせ販売は、その性質上および市場の実態からみて反復性、伝播性があり、更に広い範囲で本件の如き抱き合わせ販売が行われる契機となる危険性を有し、被抱き合わせ商品市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるものと認められる。

 

 (4)競争の場:ゲームソフトの二次卸売り分野。

 

 (5)公正競争阻害性:

 

 本件抱き合わせ販売は、独占禁止法研究会の3類型のうちA競争手段の不公正に該当し、ゲームソフトの卸売分野における公正な競争を阻害するおそれがあるものというべきである。

 

[結論]審決:

 

 前記事実によれば、Yは、その取引先小売業者に対し、不当に、ドラクエWの供給に併せて他のゲームソフトを自己から購入させていたものであって、これは、一般指定第10項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。  

 

→問題 

 

モデル:藤田屋事件審判審決平成4228日。

   

 

52冷蔵倉庫事業者団体による届出料金の拘束

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、81号および4号である。

 

[行為要件]

 

 (18条第1号違反が認められるか。

 

  a)冷蔵倉庫保管料についてのYの決定が存在するか。存在するとすれば、会員事業者が実際の取引において収受する料金(以下「実勢料金」という。)についての決定を含むか。それとも、届出料金についての決定にとどまるか。

 

  (bYによる冷蔵倉庫保管料の引上げ決定および会員事業者に対する周知により、一定の取引分野における競争の実質的制限の存在が認められるか。

 (28条第1号違反が成立しない場合に、4号違反を認定することができるか。

 

[あてはめ]

 

 (1)平成4423日の幹部会について:

 

 [事実](11)に記載のとおり、同日の段階では、保管料引上げの基本決定とされるだけの明確な合意が成立したものと認めるに足りない。すなわち、平成4423日の幹部会において、運輸省との折衝が進展して、最低でも2円以上引き上げたいという目標の数値が出たことはYも認めるところであるが、右幹部会において、それ以上に、8.8%引き上げて2660銭とするという固定した数値について明確な合意があったと断定するには疑問がある。

 

 (2)平成469日の幹部会について:

 

 [事実](12)に記載のとおり、同日の段階では、それまでのYと運輸省担当課との折衝の中で、Yが要望として

8.8%引き上げて2660銭とする案を運輸省に出していたこと、また、運輸省はそれまでの検討作業の結果、料金の多様化を前提に8.8%引き上げる案を了承する方針を固めていたことが認められる。そして、同年68日に引上げ率8.8%を基準とし上下各10%の範囲でばらつかせることを条件に届出料金の改定を認めるとの運輸省の方針がYに対して示され、同月9日の幹部会がこれを受け入れることとしたこと、また、その幹部会の席上で上下各5%刻みの中間値を参考として加えた5種類の料金表が配布されたことは認められる。

 

 しかし、この段階では、倉庫業法制定以来、Yと運輸省との折衝を通じて行われてきた届出料金の一本化とは異なり、上下各10%の範囲で届出料金をばらつかせるという新たな要請に対処することが当面の課題であったということができ、69日の幹部会において、会員事業者に8.8%を中心として5種類の料率で届け出させるとの明確な決定が行われたとまで認めるには足りない。

 

 (381号違反の成否:

 

  (a)本件において、81号違反の成立のためには、Yの決定およびその会員事業者への周知による一定の取引分野における競争の実質的制限が必要である。そして、本件においては、右競争の実質的制限は実勢料金に関して生じることが必要であるから、倉庫業法による規制を踏まえて、届出料金の引上げが実勢料金にどのような影響を及ぼす市場となっているかを検討する必要がある。

 

  (b)届出料金と実勢料金の乖離の実態:

 

 [事実](8)に記載のとおり、全体的にみても、実勢料金は届出料金から相当下方に乖離し、届出料金の9割以下となっているものが相当多く、また、そのような状態が通常みられる状況であった。

 

 [事実]の全体をみても、前記基本決定および修正決定は、外形的・表面的には届出料金の引上げ決定であって、決定の内容自体は、直接的かつ具体的な形で会員事業者の実勢料金の引上げを内容とするものではない。

 

 たしかに、届出料金の引上げ決定が実勢料金の引上げ決定の意味を有することは、冷蔵倉庫業界における冷蔵倉庫料金の引上げに関する慣行および実情の存在とそれについてのYの認識からも示唆されるが、しかし、右証拠から直ちに、会員事業者は冷蔵倉庫料金を引き上げる旨を運輸大臣に届け出た場合にはおおむね荷主から収受する冷蔵倉庫料金を引き上げている、あるいは運輸大臣に届け出た引上げ率またはこれに相当する引上げ額を目途に実勢料金を引き上げているとの実情の存在を認めるには足りない。

 

 前記のとおり、届出料金と実勢料金の乖離が通常の状態となっているような状況の下では、届出料金の引上げ決定が実勢料金引上げの契機となるとの認識はあっても、実勢料金の引上げを目的として届出料金の引上げを図ったということのみから、当然に、届出料金の引上げ決定は即実勢料金の引上げ決定の意味を有するとのYの認識があったというにはやや飛躍がある。

 

 また、本件における決定の周知は、外形的には届出料金に関するものであるところ、会員事業者の認識についても、全国の会員事業者全体をみた場合、設備能力を基準に定められた料率で届出保管料を引き上げる旨の周知を受けた会員事業者が、この周知の内容を実勢料金を引き上げる決定であると認識したと証拠があるわけではない。

 

 以上の事実を総合的に判断すると、Yの行為としては、全国の会員事業者の実勢料金との関係で、届出料金の引上げを契機に少しでも実勢料金を引き上げるよう努力するという程度の認識による届出料金に関する決定であったとの認定にとどまらざるを得ず、また、本件の場合においては、届出料金の引上げ決定の内容およびその周知ならびにその後の実施状況をもって、実勢料金についての競争の実質的制限が生じたものと認めるに足りないものである。

 

 したがって、本件行為が独占禁止法81号の要件に該当すると認めることはできない。

 

 (4)しかし、前記認定のとおり、Yによる会員事業者の届出料金の引上げに関する決定は認められるのであって、本件のような事業者団体の価格に関する制限行為は、同一の行為態様であっても、市場における競争を実質的に制限するものであれば、81号の規定に違反し、市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても、構成事業者の機能または活動を不当に制限するものであれば、同4号の規定に違反するものである。

 

 (5)本件の場合、前記認定のとおり、[事実](13)および(14)のYによる決定および周知は、本来会員事業者が自由になし得る届出を拘束・制限するものであって、会員事業者の機能または活動を不当に制限するものであるから、独占禁止法84号違反が成立する。

 

[結論]審決:

 

 前記事実によれば、Yは、独占禁止法22項に規定する事業者団体に該当するところ、会員事業者が運輸大臣に届け出る保管料を決定し、これに基づいて会員事業者に届出を行わせることにより構成事業者の機能または活動を不当に制限していたものであって、これは、同法84号の規定に違反するものである。

 

→問題 

 

モデル:日本冷蔵倉庫協会事件審判審決平成12419日。

 

   

27

 

53保守サービスと部品の抱き合わせ

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、3条前段、一般指定2項、10項、12項および14項である

 

[あてはめ]

 

1Yは、Y製品の保守サービス市場で、公共の利益に反して、Xを排除、競争を実質的に制限した。この行為は、25項該当の3条前段違反を構成する。

 

 a)一定の取引分野:Yは、Y製品と競合する製品市場では10%の市場シェアしかないが、Y製品の保守サービス市場ではほぼ100%の市場シェアをもつ。ほとんどの主要部品が専用品なので、自分で保守できないユーザーは、Y以外からの保守サービスを受けることができず、Yの保守サービスにロックインされている([事実](3))ので、「Y製品の保守サービス」という「一定の取引分野」が成立する。

 (b)公共の利益に反して:Yは、Y製品をY自身が保守することが製品安全のために最適と主張するかもしれないが、[事実](2)によると、Xのサービス内容はいいので、この主張は失当である。それに、25項にいう「公共の利益」とは、文字通り国家・社会の利益のことであって、本来危険な製品ではないコピー装置で評価できるものではない。

 

 c)競争の実質的制限:一定の取引分野を(a)のように画定すると、そこに閉じこめられているISOの経営が廃業や減益に追い込まれている([事実](4))ので、競争の実質的制限も成立する。

 

2Yは、Y用サービス部品の販売をXに対して拒絶した。この行為は、一般指定2項「単独の取引拒絶」に形式的に該当する(「公正競争阻害性」については後述)。

 

 (3Yは、製品販売と保守サービスを抱き合わせて販売しており、この行為は、一般指定10項「抱き合わせ販売」に形式的に該当する(「公正競争阻害性」については後述)。

 

 (4Yは、ユーザーに対してソフト使用許諾契約の流用禁止を義務づけ、OEMや中古パーツ業者に部品横流し禁止の圧力をかけており、この行為は、一般指定12項「拘束条件付取引き」に形式的に該当する(「公正競争阻害性」については後述)。

 

 (5Yは、前記(3)および(4)の行為により、競争者Xとユーザー間の取引を妨害しており、この行為は、一般指定14項「競争者に対する取引妨害」に形式的に該当する(「公正競争阻害性」については後述)。

 

6)競争の場を(1)(a)と同じにとれば、そこでのYの地位は圧倒的に有力で、Yの(2)、(3)、(4)、(5)の各行為は、該当する一般指定各項の「不当に」の要件を満足する。独占禁止法研究会の類型では、(2)、(4)、(5)が@競争減殺、(3)がA競争手段の不公正だが、あえてこの分類にとらわれる必要はない。

 

 (711項「排他条件付取引き」は、ユーザーに対して排他条件を課しているわけではないので成立しない。OEMに対しては、特許品の全量買取り条件つき製造ライセンスかもしれないので、問題文だけからは不明。295号「優越的地位の濫用」にも該当しない。

 

[結論]

 

 フラッシュは、取引き拒絶(一般指定2項)と拘束条件付取引き(12項)を手段として、抱合せ販売(10項)と競争妨害(14項)をおこない、それによって私的独占(3条前段)を企図している(3層構造)。とすると、この行為を一連の行為として問擬しなければならない。

 

 とくに、一般指定10項と12項の被害者は、直接的には、それぞれ、ユーザーおよびOEMまたは中古パーツ業者である(「買手段階」)。だから、競争事業者としては、「売手段階」の被害立証に苦労するだろう。だから、最終的には私的独占を決め手になる。

 

 小さなシェアで私的独占を立件するためには、カスタマーがlock-in状態にあることを理由に、「小さな市場」アプローチをとる(注)。

 

 注:米国1992年水平合併ガイドライン(司法省/FTC)は、市場を、「ある仮想的な企業が、『小幅ではあるが有意でかつ一時的ではない価格引上げ(small but significant and nontransitory increase in price =SSNIP)』を実施することが可能である製品またはその集合およびそれらが販売される地理的地域」と定義する。このような(たとえば半年間5%)値上げを継続して利益をあげることのできる力が「市場力」である。仮想的な値上げによって買手が代替品に逃げるかどうかで「製品市場」と「地理的市場」を画定するのである。製品市場を「特許製品市場」ととれば、この市場における供給者のシェアは100%である(「小さな市場」アプローチ)。

 

 請求原因は、まず私的独占、それが認められない場合は不公正な取引方法という2段構え。請求は、損害賠償と差止め。同時に公正取引委員会へ申告(70条の13「緊急停止命令」も請求)。課徴金は重複しない。最高率(この場合は排除型私的独占の6%)が適用。  

もし、裁判所が「小さな市場」アプローチを採用せず、したがって私的独占の「競争の実質的阻害」が認められなくても、不公正な取引方法の「公正競争阻害性」は成立するいう構想。

 

[吟味]

 

 特許や著作権があっても、特許法や著作権法の目的に反する権利行使は21条の適用除外を受けない、とくに著作権には使用権がないから、ソフト使用許諾契約の流用禁止条項は一般指定12項の拘束条件付取引きに該当する。  

 ここで、著作権には使用権がないなら、なんのためにソフト使用許諾契約があるのだ?――という疑問がでてくるだろう。しかし、対象になる準物権があろうとなかろうと、なにかサービスを受けてその対価を払うという契約は有効なので、ソフト使用許諾契約をそのようなものとしてとらえればいい。この立場をとると、ソフト使用許諾契約の使用方法制限条項に違反したからといって、著作権侵害で訴えることはできない(契約違反だけ。複製は、契約で許していない限り著作権侵害になる)。

 

→問題 

 

モデルEastman Kodak v. Image Technical Services, 504 U.S. 451 (1992)

   

 

54都市間高速バス相互乗り入れにともなう運賃および排他取決め

 

[事実の整理]

 

 甲:A75%)、X

 乙:B50%)、C30%)、Y

 

 [設問1

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。

 

[あてはめ]

 

 (1)一定の取引分野:

 

 本件高速バスは、鉄道・自家用車と代替性があり、競争関係にあるが、それぞれ独特の消費者選好があり(たとえば自家用車はランニング・コストは安いが固定費が高く、また、鉄道は速いが運賃が高い。高速バスはその中間)、それぞれのあいだに代替性障壁が認められるので、本件市場を、「甲市・乙市間高速バス運送サービス」と画定する。副次的に、それぞれの市内バス運送サービス市場も検討する(甲乙の市場支配の可能性を見るため)。

 

 (2)公共の利益に反して:

 

 公正取引委員会基準、石油カルテル基準いずれにしても、本件題意には入っていない。

 

 (3)相互拘束:

 

 契約だから、要件を満足する。

 

 (4)競争を実質的に制限:

 

  (a)運行時刻表の決定:形式的には数量制限協定だが、新規参入が自由なので(現に[設問2]で参入の試みがあった)、これだけであれば(運賃制限協定や参入妨害がなければ)、「競争を実質的に制限」するおそれはない。

 

  (b)「乗客は2社が販売した切符によりいずれもバスにも乗車できる」(乗車券共通化)合意は、両社のサービス内容を平準化してしまうので、形式的には品質制限協定である。

 

 @案:シェア75%(甲市)と50%(乙市)の事業者が運賃(価格)を協定で制限することは、数量制限協定および品質制限協定とあいまって、両社が、「その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、・・を左右することによって、市場を支配することができる」(東宝スバル高判)こととなり、「競争を実質的に制限」する。

 

 A案:運賃が自由であれば、数量制限協定があっても、これだけでは「競争を実質的に制限」するおそれはない。しかし、品質制限協定があるため、サービス内容(品質)が固定化され、運賃とサービス内容を関連させた競争が起こらない(数量と品質が固定されているため、運賃だけの競争になり、運賃は限界費用まで下落する。いずれABのどちらかが脱落する(ビジネスとして永続しない)ので、結果的には複占市場での意識的並行行動が起こる(一般には違法ではないが、複占では「共同遂行」として3条後段違反になる)。

 

 B案:せっかく運賃を自由にしても、数量協定によってすでに制限されている運行回数比で売上げを配分すると、運賃競争のインセンティヴがまったくなくなって、競争を実質的に制限」するおそれがある。鉄道・自家用車との競争はあるが、ABの統一的な競争意思を形成することができないので、対外的にも競争が起こらない。

 

[結論]

 

 @案、A案、B案いずれも3条後段違反。そもそも乗車券共通化(品質制限協定)が違反の根源。

 

 代替案:競争は、価格・数量・品質の3面で起こらなければならない。両社の能力上数量制限がどうしても不可避であれば、A案(運賃自由化)をベースにして、乗車券の共通化(品質制限)をやめる。これにより、運賃とサービス内容が連動して、AB間で「公正かつ自由な競争」がはじまる。たとえば、運賃を安くするとサービス内容が悪くなるので、高いサービスを望む乗客は高い運賃を選好し、各社それぞれの価格・品質の均衡を得る。この「均衡点」で、消費者・供給者ともそれぞれの剰余(surplus)が最大になる。

 

 [設問2

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、3条前段、3条後段、291号および一般指定14項である。

 

[あてはめ]

 

 (1)一定の取引分野:

 

 甲市・乙市間高速バス運送サービス。副次的に、それぞれの市内バス運送サービス(シェアがすこし上がっている)。

 

 (2)排除:

 

 シェア75%A(甲市)、50%B30%C(ともに乙市)の事業者が結合して、「3社以外のほかの(重複語)事業者を加入させない」ことにするのは、25項の「排除」要件を満たし、3条前段違反を構成する。

 

 (3)相互拘束:

 

 3社は上の結合を協定で実現しているので、26項の「相互拘束」要件を満たし、3条後段違反も構成する。いずれの場合も「バス乗り場を利用させない」や「違約金」の約束がなくても、違反が成立する。

 

 (4)競争を実質的に制限:

 

 [設問1]より違反者のシェア合計が増えているので、この要件を満足する。

 

 (5)公共の利益に反して:

 

 「設問1」と同様だが、「トイレ設備やリクライニング」への投資は正当化事由にならない。重大な安全性投資であれば、石油カルテル最判の「総合考慮論」の余地があるが、本件題意にはない。

 

 (6)不公正な取引方法:

 

 「バス乗り場を利用させない」とする3社の協定は、291号と19条(一般指定14項該当)違反を構成する。「公正取引阻害性」は「競争を実質的に制限」要件に含まれる。

 

[結論]  

 ABCの協定は、3条前段、3条後段、291号、19条(一般指定14項)すべての要件を満たす。課徴金は3条後段の率(最高10%)が適用される。

 

→問題 

 

モデル:平成20年第1問。

 

   

28

 

55レジ袋有料化協定

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条後段である。本件は、参加小売業者らが共同してレジ袋の有料化および単価を取り決めているものとして検討する必要がある。

 

[あてはめ]

 

1)一定の取引分野:

 

レジ袋ではなく、取扱商品全体の販売取引分野。ほとんど全店参加のため、消費者は、レジ袋の無料提供店を選択する余地がなくなる。本協定の対象となっている事業活動は、参加小売業者が、レジ袋を15円で提供するというものであるが、レジ袋は、一般的に、その購入を目的として顧客が来店するものではないといえ、小売事業者の事業活動という観点からすれば、レジ袋の提供は商品提供というよりも副次的なサービスの一つと捉えられる。

よって、参加小売業者間の競争が行われている場は、レジ袋の取引ではなく、当該小売業者が販売する商品全体の取引と捉えられる。

 

 (2)公共の利益:

 

 宣言説(競争秩序)と解したとしても、消費者の負担が、供給者の超過利潤ではなく。社会公共の利益に転化する(経済学的意味のちがい)。環境保護と消費者負担の比較衡量、というより、石油カルテル刑事最判の比較衡量論にしたがって、「反公益性」を考え直す。ただ、そうすると、エレベーターやプリンターの販売に、メンテナンスを抱き合わせる行為の正当化につながる。共同でやる必要が本当にあったか?

 

 (3)競争の実質的制限:

 

  (a)本件共同行為は、@通常の事業活動ではない、A顧客の選択に影響ない、B公共目的という3点から、競争の実質的制限とは断定できない。これはレジ袋を付加的サービスとして共同行為を正当化する立場であるが、ポイント制の限界は、LRAless-restrictive alternative)の不存在を示唆する。かりに共同でなければ目的達成は不可能だったとしても、競争制限は、目的達成に必要最小限にとどめるべきである。反競争効果がいちじるしく大きい場合は、競争制限になる。

 

  (b)「一般の商品の販売とは異なる」の法文上の根拠:24項「競争とは、二以上の事業者が、その通常の事業活動の範囲内において・・」。本件小売業者はレジ袋販売業ではない。

 

  (c)@商品販売の競争は制限されていない、A必要不可欠でもなく、来店目的でもない、B目的は正当、C手段もポイント制が限界だったので不当とはいえない、しかし、D単価取決めは目的達成に不可欠といえるか?  

 

 (dA市においては、ほとんどすべての小売業者が協定に参加することになるため、レジ袋が必要な顧客にとっては、レジ袋を無償提供または安値で提供する小売業者を選択する余地がほとんどなくなることになる。

 

[結論]

 

 (1)上記の下線部3点の問題点があるので、これを解決するため、本協定は、締結の前につぎの修正が必要。

 

  (a)協定の期間を定めず、参加者がいつでも脱退自由とする。

 

  (b)協定の運用に関する協議においては、かならず議事録を作成し、弁護士を同席させる。

 

 2)上記の修正を行えば、つぎの理由から、本協定は、目的に照らして合理的に必要とされる範囲内であることから、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

 

  (a)本協定によって、小売業者間での商品の販売についての競争は制限されないこと。

 

  (b)レジ袋は、顧客にとって小売店舗での商品購入に当たり必要不可欠なものとはいえず、また、顧客はその購入を目的として来店するものではないこと。

 

  (c)レジ袋の利用抑制の必要性について社会的理解が進展しており、正当な目的に基づく取組であるといえること。

 

  (d)本協定内容は、

 

   @レジ袋の利用の抑制という目的達成のための手段として、以前から行われてきたポイント制等の手段ではその効果に限界がみられる一方、レジ袋の有料化は、ポイント制等に比べて効果が高いと認められること。

 

   A単価を取り決めなければ、レジ袋の利用の抑制という目的を達成できないような安価な提供に陥る可能性があること。

 

   B取り決められる単価の水準として、単価5円は、目的達成のために顧客が受忍すべき範囲を超えるものとは考えられないこと。

 

→問題 

 

モデル:レジ袋の利用抑制のための有料化の決定事例平成19年度相談事例集事例3

 

   

56ゲームソフトの再販価格拘束と取引制限

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、294号イ、ロおよび一般指定12項である。

 

[あてはめ]

 

 (1)競争の場:

 

 PSソフトは、新品と中古品とがほぼ完全な代替関係にあり、一般消費者がPSソフトを購入するに当たっては選択的な関係にあるから、ここで問題にする「競争の場」は、新品でも中古でもなく、「すべてのPSソフト市場」である(PSハードにロックインされているから、「すべてのゲームソフト市場」ではない)。

 

 (2)公正競争阻害性:

 

  (a)値引き販売禁止の方針:

 

 [事実](11)(a)、(12)、(14)から、Yの販売方針は、販売業者に対する拘束力を伴わない単なる要請や方針の表明にとどまらず、販売業者のPSソフトの販売に係る事業活動を拘束するものであったと認められる。同販売方針の説明・要請は、営業部幹部およびその指示を受けた営業担当者によって広範囲に行われたものと認められる。さらに、販売方針の遵守を確保するためにYが講じていた措置をみても、単に営業担当者が独自に行っていたものではなく、営業担当者から営業部幹部に報告され、相談された上で、必要な措置が採られているのであり、また、組織的に販売方針の遵守状況を調査するなど、販売方針の遵守確保に営業部全体として取り組んできたことは明らかである。再販売価格の拘束行為は、原則として公正競争阻害性を有する違法なものである(最判昭和50710日民集296888頁および最判昭和50711日民集296951頁)。そして、本件においても、Yの値引き販売禁止行為は再販売価格の拘束に当たり、特段の正当な理由の存在も認められない以上、Yの同行為は、公正競争阻害性を有するものと認められる

 

 著作物再販制度との関係:

 

 Yは、ゲームソフトは独占禁止法第23条第4項の「著作物」に該当するので、再販売価格拘束の禁止は適用されないと主張する。しかしながら、昭和28年の独占禁止法改正により導入された同法第23条第4項による著作物の再販適用除外制度は、当時の書籍、雑誌、新聞およびレコード盤(著作物4品目)の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものとされている。そして、公正取引委員会では、その後、音楽用テープおよび音楽用CDについては、レコード盤とその機能・効用が同一であることからレコード盤に準じるものとして取り扱い、著作物4品目を含む、これら6品目に限定して著作物再販制度の対象とすることとし、その旨公表されている(平成4415日公正取引委員会公表)。ゲームソフトについては、昭和28年の独占禁止法改正当時には存在しておらず、また、上記著作物4品目のいずれかとその機能・効用を同一にするものではないし、著作物再販制度が独占禁止法上原則として違法として禁止される再販売価格維持行為に対する例外的措置であることからすると、これを再販適用除外の対象とすべき著作物に該当するものということはできない。

 

  (b)中古のPSソフトの取扱い:

 

 前記最高裁第3小法廷判決平成14425日から、Yが直接または卸店経由で販売業者に譲渡したPSソフトの著作権の頒布権は、Yによる最初の譲渡段階ですでに消尽しているから、その後の販売業者によるPSソフトの取扱制限については、独占禁止法21条の適用はない(独占禁止法が適用される)。「趣旨逸脱・反目的」論は不要。

 

 中古品取扱禁止行為がPSソフトの販売に係る競争に及ぼす影響・効果を検討するに、まず、Yが、前記[事実](10)の市場調査によって、特約店が中古品を取り扱うことによって新品の販売数量が減少し、新品と中古品とはほぼ完全な代替関係にあり、一般消費者がPSソフトを購入するに当たっては選択的な関係にあることを認識していることは明らかである。そうすると、新品PSソフトの価格や販売数量と中古PSソフトの価格や販売数量とは、相互に影響し合う関係にあるものということができ、Yが中古PSソフトの取扱いを特約店に対して禁止することは、PSソフト市場への商品供給量を減らし、新品PSソフトの販売価格を引き上げて、特約店に新品PSソフトの販売価格を維持させる方向に作用することになる。中古PSソフトの売買が行われることによって新品PSソフトの売上げが減少するから、中古PSソフトの売買は、新品PSソフトに対する需要の減少を通して、新品PSソフトの販売価格の軟化につながる。かかる市場において、新品PSソフトの独占的な供給者であるYが、特約店に対し、一般消費者のニーズが高い中古品の取扱いを禁止することは、PSソフトの供給自体を制限して、それによって同市場における競争を減殺することは明らかである。  

 

  (cPS製品の販売先:

 

 PS製品の発売に先立ち、マーケティング部内で、安売り業者への横流しによる値崩れの可能性が問題点として意識されており、また、Yの営業部内で、未取引店にPS製品が流出することにより値崩れを起こすおそれがあるものと一般的に認識されていた。Yの横流し禁止の販売方針は、本来、直取引を基本とする流通政策を実現させるために採用されたものであって、PSソフトの値引き販売禁止の実効確保の目的で採用されたとまではいうことができないが、少なくとも、Yの営業部幹部および営業担当者の間では、未取引店へのPS製品の流出を防止することにより値崩れを防止する効果があることが一般的に認識されていたまた。こうした販売段階での競争制限への脅威は、Yのコントロール下にある小売業者(Yの取引先卸売業者の取引先小売業者を含む。)による値引き販売だけではなく、むしろ、本来PSソフトを扱っていないはずの販売業者による安売りにあるのであって、それを防止する方法として、閉鎖的流通経路外の販売業者へのPSソフトの流出を根絶することが必要になる。そして、PS製品の横流し禁止によって、閉鎖的流通経路外の(Yのコントロールが及ばない)小売店舗でPS製品が販売されること自体が生じないようにすることができ、それによりPSソフトの安売りを防止し、そうした安売りがコントロール下の小売業者による値引き販売に波及してこないようにすることができるのである。

 

[結論]

 

 (13つの販売方針の関係:

 

  @Yの値引き販売禁止、A中古品取扱い禁止およびB横流し禁止の3つの販売方針(以下「3つの販売方針」ともいう。)は、一体的に実施されることによってYの流通政策を実現することができるものである。すなわち、Yは、小売業者との直取引を基本とした単線的で閉鎖的な流通経路を形成した上で、販売業者を自ら直接コントロールすることを基本方針としている。その具体的な現れが、流通経路政策(小売業者との直取引を基本とし、例外的に卸売業者を通す場合にも、小売業者のコントロールができるようにすること)、店舗政策(一定の条件・基準に合う販売業者とのみ契約し、取扱い店舗を限定すること、店舗での陳列や販売方法に一定の注文を付けること、小売データを管理すること)、価格政策(卸売業者を通す場合にも一本価格(希望小売価格の75%)とし、数量リベートを出さないこと、値引き販売をさせないこと)、販売先政策(一般消費者のみに販売させ、あるいは横流しをさせないこと)、中古品政策(小売業者に中古品を扱わせないこと)、商品政策(PSソフトの小売店舗への配送を直接管理すること、返品は認めないこと)などであり、3つの販売方針を含むこれらが一体的な流通政策として採用されているものとみるのが相当である。

 

 また、3つの販売方針は、基本的にこれらがセットで販売業者に説明・要請されている。したがって、3つの販売方針は、YPSソフトの直取引を基本とする流通政策の一環として、これを実現させるために関連した一体的なものとして決定され、実施されたものであると認めるのが相当である。

 

 (2)法令の適用:

 

  (aYは、正当な理由がないのに、取引先小売業者に対し、希望小売価格を維持させる条件を付けてPSソフトを供給しているものであり、これは、294号イに該当し、

 

  (b)正当な理由がないのに、取引先卸売業者に対し、同卸売業者をしてその取引先である小売業者に希望小売価格を維持させる条件を付けてPSソフトを供給しているものであり、これは、同号ロに該当し、

 

  (c)不当に、取引先小売業者および卸売業者に対し、中古ゲームソフトの取引を禁止しているものであり、これは、PSソフト市場への総供給量を減らし、同市場における競争を減殺するものであって、一般指定12項に該当し、

 

  (d)不当に、販売先を制限する条件を付けてPSソフトを供給するとともに、取引先卸売業者に対し、同卸売業者をしてその取引先である小売業者に販売先を制限させる条件を付けてPSソフトを供給しているものであり、これは、特約店間および特約店と特約店以外の小売業者間の取引を停止してPSソフト市場における競争を減殺するするものであり、一般指定第12項に該当し、いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

→問題 

 

モデル:ソニー・コンピューターエンタテインメント事件審判審決平成1381日。

 

   

29

 

57ブランド品の並行輸入妨害

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、2条後段、一般指定12項および14項である。

 

[あてはめ]

 

 3事実の共通点:

 

 行為者は輸入総代理店。ブランド内競争の減殺。各行為は価格維持を目的としていると推認される(これは流通取引慣行ガイドラインでは要件だが、法律上の要件ではない)。

 

 3事実の相違点:

 

 行為の相手方が、[事実1]ではメーカー、[事実2]では小売店、[事実3]では卸店である。したがって適用規範がちがい、[事実1]と[事実2]は一般指定14項、[事実3]は12項。

 

 (1)[事実1]:

 

 自己の購買力を梃子にして、メーカー(外国)に販売拒絶または再販妨害させた。14項該当(日本におけるAブランド品の輸入取引競争を減殺。並行輸入業者とメーカーの取引を妨害して、輸入取引市場における輸入総代理店と並行輸入業者の競争を減殺)。

 

 「厳格な地域制限」だから、2項後段と12項も適用できる。違反の主体はY1で、Aは違反の主体ではないが、かりにAを主体と認定したならば、Aを名宛人として2項後段違反と12項該当の19条違反でも立件できる。行為のグローバルなひろがりを考えると、やはり14項がもっとも直接的である。しかし適用規範を1本に絞る必要はないので、2項後段/12項/14項該当の19条違反で立件する。また、どちらが主体であっても、顧客がロックイン状態にあって、「Aブランド品」という小さな市場が画定できれば、AY1の通謀による私的独占(3条前段)や相互拘束による不当な取引制限(3条後段)も考えられる。いずれの場合も、Aに対しては553項で審判開始決定書を送達(70条の18で公示送達)できる。

 

 (2)[事実2]:

 

 自己の機器補修能力を梃子にして、小売店に並行輸入品の購入を拒絶させた。14項該当(ブランド内競争減殺。並行輸入業者と小売店の取引を妨害して、輸入取引市場における輸入総代理店と並行輸入業者の競争を減殺)。

 

 (3)[事実3]:

 

 小売店は間接取引者なので14項の「その取引を妨害すること」には該当しない。12項該当(ブランド内競争減殺。並行輸入業者は通常弱小で、安定供給が不安なので、「正規品」の入手も必要。これを梃子にして卸店を拘束、輸入取引市場における輸入総代理店と並行輸入業者の競争を減殺)。

 

[吟味]

 

 Q:かりに外国メーカーが、彼らが日本で所有する知的財産権([事実1]は著作権、[事実2]は特許権、いずれも商標権)をにもとづいて、並行輸入業者に対して輸入または販売の差止めを請求したら(直接妨害)、並行輸入業者としてはどう対抗したらいいか。

 

 A:知的財産権によって要件がちがうが、商標権は「パーカー万年筆」、特許権は「BBS」、著作権は「中古ゲーム事件」判決で、請求を棄却できる。いずれの場合も不法行為で損害賠償請求できるが、差止請求ができないので、独占禁止法24条で差止請求。特許品・著作物なら並行輸入制限ができるという誤解がある。著作物:「101匹わんちゃん」は「BBS」/「中古ゲーム」で修正された。特許品:「BBS」は合意表示あれば権利行使してもいいとは言っていない。商標品:「パーカー万年筆」は健在。

 

→問題 

 

モデル:星商事事件勧告審決平成8322日/ラジオメータートレーディング事件勧告審決平成5928日/オールドパー事件勧告審決昭和53418日。

   

 

58地区医師会による事業者数および機能・活動の制限

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、83号および4号である。

 

[あてはめ]

 

 (1Y主張(1)「競争原理」について:

 

 確かに、医療の分野がYの主張するような特殊性を有することは否定できない。しかし、医療の提供が、非営利事業で、価格競争の働く余地が少ないとはいえ、医師によって治療方法や投薬が異なり、それによって治療費が異なるほか、医療機関の医療従業者の専門的能力、設備の水準等には差異があり、医療の分野においても、提供する医療の内容、質において競争原理の働く局面は多く、公正かつ自由な競争によって、需要者の利益を確保し、医療サービスの健全な発展を促進する必要があるのであり、医療の提供が独占禁止法の適用対象となることは明らかである。また、[事実](12)に記載したように、昭和60年の医療法の改正により、都道府県は当該都道府県における医療を提供する体制の確保に関する計画(医療計画)を定めることとなり、医療計画においては主として病院の病床の整備を図るべき地域的単位としての医療圏、必要病床数等を定めるものとされた。この医療計画制度は、無秩序な病院病床の増加の制御により医療資源の地域的偏在の是正を図り、医療関係施設間の機能連係の確保を図ることを目的とするもので、その限りで自由競争を制限しており、この医療計画の達成のために地元医師会等の理解と協力が重要であることも、Y主張のとおりである。しかし、独占禁止法の求める自由な競争の例外である以上、医療の提供に対する制限は、あくまでも医療法の目的である「医療を提供する体制の確保を図り、もって国民の健康の保持に寄与すること」との目的に沿うものであり、その手段も医療法の認める範囲内のものに限られる。そして、医療法は、「都道府県知事は、医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には、病院若しくは診療所を開設しようとする者または病院若しくは診療所の開設者若しくは管理者に対し、都道府県医療審議会の意見を聴いて、病院の開設若しくは病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更または診療所の療養型病床群の設置若しくは診療所の療養型病床群に係る病床数の増加に関して勧告することができる。」(30条の7)と規定するにとどまるから、都道府県知事に協力する立場の地元医師会がこの範囲を超えることは、もとより許されない。私的な団体で、法的規制権限を与えられていない医師会としては、地域の医療状況等に関する情報を提供したり、合理的な範囲内で圧力・強制にわたらない助言・指導・意見表明を行うことが許されるにとどまると解される。医療機関も、医療法の公的規制の枠内で、自由競争の原則を通じて医療役務の提供の質的向上等を図ることが求められているのである。

 

 (2Y主張(2)(a)「加入の必須性」について:

 

 本件において独占禁止法違反が問われているのは、医師会への加入制限そのものではなく、医療機関の開設等の制限である。本件審決は、Yが入会の拒否、除名があり得る制度を背景として医療機関の開設等を制限しているというのであるから、Yに加入できないまたは除名されるということが医療機関の開設等を事実上抑制する効果を有するか否かが問題である。そして、医師会の会員でなければ開業することが不可能または著しく困難であるという状況にまで至らなくても、医師会の会員でなければ開業することが一般に困難な状況があれば、Yに加入できないまたは除名されるということが医療機関の開設等を事実上抑制することは明かである。[事実](5)に記載したように、Yに加入しないと、Yの提供する各種便宜を受けられず、診療面で他の会員医師の協力を求めることが困難であり、K市地区においてYに加入していない開業医はYから事実上除名された1人のみであり、また、[事実](13)(b)に記載したように、Yから不同意の決定を受けた者は医療機関の開設等を断念し、条件付きの同意または留保の決定を受けた者は当該決定に従っていることに照らせば、K市地区においてYに加入しないで開業することは一般に困難な状況にあり、Yに加入できないまたは除名されるということが医療機関の開設等を事実上抑制する効果を有するというべきである。

 

 (3Y主張(2)(b)「具体的事実」について:

 

 確かに、団体は加入の拒否または除名の制度を有しているのが通常であろうから、右制度があるのみでは足りず、医療機関の開設等を制限するための手段として右制度を利用することが必要と考えられる。これを本件についてみるに、[事実](13)(a)に記載のとおり、Yの会員であったS医師は、Yに無断で病院の増改築を行ったことをYにとがめられて除名処分になりかけたために、いったん自主退会し、その後Yに再入会の申請をしているが、入会を認められていない。また、前記[事実](10)記載のとおり、Yは、新規開業医の入会については、医療機関の開設に係る理事会の同意を待って入会承認の審議を行っている。さらに、Yは、会員からの病床の増設等の申出については、Yの決定に従わない者に対しては除名権限が発動される可能性があることを前提に、審議システムによる決定を行っており、Yから不同意の決定を受けた者は医療機関の開設等を断念し、条件付きの同意または留保の決定を受けた者は当該決定に従っている。そして、Yによる入会拒否または除名を恐れているということ以外に、右のようにYの決定に従う理由が見当たらない。したがって、Yは、医療機関の開設等を制限するための手段として入会拒否および除名の制度を利用していたものというべきである。

 

 (4Y主張(1)(c)「医療計画制度の趣旨」について:

 

 Yの審議システムにも、医療計画制度と同様に、医療機関の地域的偏在を防ぐという側面があることは否定できない。また、K県は、平成94月ころまで、医師会の会員や会員になろうとする者の医療機関の開設の許可申請等については、地元医師会を経由して提出させる取扱いをしていた。この取扱いは、地域の医療の現状を最もよく把握している地元医師会による事実上の審査・指導・調整を期待し、開設・増床後の病院・診療所間の連係・協力関係が円滑に行われることを期待したものであることがうかがえる。

 

 しかしながら、[事実](10)に記載のとおり、Yは、医療計画制度導入のかなり前に、会員の利益の保護調整という観点から審議システムを制度化し、これを運用してきたことが明らかであり、医療計画制度が導入された後も、審議システムに変更を加えておらず、もっぱら医療法所定の「医療を提供する体制の確保を図り、もって国民の健康の保持に寄与すること」を目的としてではなく、会員の既得利益の保護ということを主な目的として審議システムを運用してきているのである。

 

 また、医療法によると、病院を開設しようとするとき、病院を開設した者が病床数を変更しようとするとき、診療所に療養型病床群を設けようとするときなどには、都道府県知事の許可を受けなければならないが、都道府県知事は、申請に係る施設の構造設備およびその有する人員が法定要件に違反する場合や営利を目的として病院を開設しようとする場合にのみ不許可とすることができ、その他の場合には許可を与えなければならないものとされている(医療法7条)。これらの場合において、都道府県知事は、医療計画の達成の推進のため特に必要があるときには、申請者に勧告をすることができるが、勧告以上のことができないことは、前記のとおりである。ところが、K市地区においては、病床数が医療計画に掲げる必要病床数を満たしていないという状況にある上、Yの審議システムは、単なる情報提供・助言・指導の域を超えて事実上の強制になっている。

 

 したがって、Yの審議システムは、目的態様において医療法に定める医療計画制度の趣旨を逸脱しており、Yが独占禁止法83号違反の行為を行っているとの本件審決の認定は相当というべきである。

 

 (5Y主張(3)「科目制限」について:

 

 [事実](12)によると、診療科目の標榜については法的な制限がなく、医師が自らの責任において選択することが許される。ただ、法的規制の有無は別として、医師が自己の専門的知識経験を有する診療科目を標榜することが望ましいことはいうまでもなく、医師会がその観点から助言・指導することは許されよう。しかしながら、Yが専門的知識経験の有無を実質的に調査検討して診療科目の標榜に反対したという具体的事例の証拠はなく、かえって前記[事実](13)(c)に記載のとおり、近隣の同一または類似の診療科目を標榜する開業医との利害調整のために反対した事例が認められる。Yの右主張は採用できない。Yが独占禁止法84号違反の行為を行っているとの本件審決の認定は相当というべきである。

 

 (6Y主張(4)「増床・増改築」について:

 

 K市地区においては、病床数が医療計画に掲げる必要病床数を満たしていないという状況にあるから、K県知事でも右必要数以下の増床について医療法30条の7の規定に基づく勧告を行うことはできず、ましてYが制限することはできない。ただ、右必要数以内の増床であっても、K市地区内における病床の偏在を是正するという観点から情報提供、助言を行い、意見を表明することは許されよう。しかし、前記[事実](13)(e)の記載のように、Yは、会員からの増床の申出に対し、他の会員の医療機関経営に対する影響を懸念して、増床の申出に同意を与えていないのであって、K市地区内の各地において病床が需要に適合しているかという観点から審議した形跡がない。また、Yの行為は、単なる意見の表明ではなく、前記[事実](4)記載のとおり、除名があり得るという制度を背景に事実上増床を制限するものである。

 

 Yは、前記[事実](13)(d)の記載のとおり、会員の増改築の申出に対し、増床しないことを条件に同意している。増改築そのものについては、都道府県知事の勧告も認められていないから、Yがこれに介入することは許されない。右の例からみても、Yは増改築が増床につながることを懸念してこれに介入していたと考えられるが、増床について調整する趣旨で増改築に介入したとしても、右で述べたことと同じ理由で、Yの行為は不当なものといわざるを得ず、Yの右主張は採用できない。Yが独占禁止法84号違反の行為を行っているとの本件審決の認定は相当というべきである。

 

[結論]

 

 以上のとおり、「Yは、Yに加入しないで開業することが一般に困難な状況の下で、入会の拒否、除名があり得る制度を背景として、医療機関の開設等の希望を申し出させ、相談委員会において審議し、常会の意見を参酌し、理事会で同意、不同意等を決定する審議システムにおいて、既存の事業者である会員医師の利益を守るための利害調整や合理性のない制限を行っており、これは競争制限行為に当たる。」との本件審決の認定は、実質的証拠を具備し、合理的であるというべきである。

 

→問題 

 

モデル:観音寺三豊郡医師会事件東京高判平成13216日。

 

   

30

 

59バトミントン球優遇措置の授与とその撤回の脅しによる並行輸入妨害

 

[規範]

 

 経済的利益を与えておいて、それをとりあげる脅しによって、輸入業者(Yの競争者)と大会主催者、輸入業者と小売店、それぞれの取引に介入・妨害。直接の不利益ではなく、14項「契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引」という例示からは遠いが、直後の「その他いかなる方法を持ってするかを問わず」という強い文言からも、小売店および大会主催者にアメを与えておいて、それを取り上げると脅す行為が14項に該当することはあきらかである。

 一般指定2項(単独の取引拒絶)、4項(取引条件の差別)および12項の拘束条件付取引にも形式的には該当するが、前記優遇措置の授与と撤回というややあいまいな行為をあてはめる規範としては、14項が最適である。

 

[あてはめ]

 

 (1)競争の場と公正競争阻害性:

 

  (a)我が国における水鳥シャトルの小売販売取引市場におけるメーカーと輸入業者との競争減殺。

  (b)我が国における大会協賛(販促)取引市場におけるメーカーと輸入業者との競争減殺。

 

 (2)価格維持目的:

 

 いずれの競争の場でも、価格維持目的は具体的に立証されていないが、内外価格差およびその是正圧力・意図があきらか(事実(6))なので、公正競争阻害性が推認される。流通取引慣行ガイドラインでは、価格維持目的が要件になっているが、これは公正取引委員会の立件基準であって法律上の要件ではない。

 

[結論]

 

 Yは、水鳥シャトルの取引に当たり、自己と競争関係にある輸入販売業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害しているものであって、これは、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

 

→問題 

 

モデル:ヨネックス事件勧告審決平成151127日。

   

 

60医療食トップと公的認可機関の通謀による排除と支配

 

[規範]

 

 本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は3条前段(排除および支配)である。

 

吟味:

 

YMによる不当な取引制限の可能性:YMは「相互拘束」による3条後段違反にも該当するが、Mはある意味では「当て馬」であり、3条前段の方がより適切(後段では協会を違反者とすることもできない)。  

不公正な取引方法の可能性:限定列挙の一般指定から洩れる行為(たとえば参入阻止)もあり、3条前段がより包括的。

 

[あてはめ]

 

 (1)一定の取引分野:

 

 わが国における医療用食品の取引分野。協会は医療食の販売をしていないが、行為者は競争制限の生じる市場で活動している必要はない(埼銀丸佐)。

 

 (2)問題行為:

 

 製造販売業者の事業活動を排除し、製造業者の販売先を制限、販売業者の仕入先・販売価格・販売地域・販売活動を制限して、これら事業者の事業活動を支配した。

 

 (3)競争の実質的制限:

 

 協会が唯一の認定機関。Yが一次販売市場のほぼ100%。医療用食品を製造または販売しようとする事業者の事業活動を排除するとともに医療用食品の製造業者の販売先ならびに医療用食品の販売業者の仕入先、販売先、販売価格、販売地域および販売活動を制限してこれらの事業者の事業活動を支配。

 

 (4)市場支配力:

 

 協会は市場支配力を有しない。しかし、25項「事業者(Y)が、他の事業者(協会)と結合もしくは通謀して、・・競争を実質的に制限」は、違反行為者(協会)がみずから市場支配力を獲得することを要件にしていない。

 

 (5)公共の利益に反して:

 

 「宣言説」、「利益衡量説」いずれをとるも、本件行為が公共の利益に反することは疑いない。石油カルテル刑事事件最判の違法性阻却事由も認められない。

 

[結論]

 

 協会およびYは、協定および登録方針に従い、医療用食品の登録制度、製造工場認定制度および販売業者認定制度を実施することによって、医療用食品を製造または販売しようとする事業者の事業活動を排除するとともに医療用食品の製造業者の販売先ならびに医療用食品の販売業者の仕入先、販売先、販売価格、販売地域および販売活動を制限してこれらの事業者の事業活動を支配することにより、公共の利益に反して、我が国における医療用食品の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、同法第3条の規定に違反するものである。

 

[吟味]

 

 本審決が平成22年改正後だったとしたら、課徴金は如何:

 

 Yの被支配事業者である二次販売業者への売上高(7条の221/2号)。協会のM(被支配者)からの検査料収入の10%(役務の対価)も該当(2項かっこ書き)。

 

→問題 

 

モデル:日本医療食協会事件勧告審決平成858日。

 

   

補遺 知的財産権による世界市場分割「不当な取引制限」

 

[規範]

 

本問題に述べられた事実をあてはめるべき規範は、3条後段および6条である

 

[あてはめ]

 

この問題は事実にもとづく創作だが、ふつうの技術交換契約にしてはいろいろ不自然なところがある。5か年期間満了まぎわにavailableになった特許ライセンスやノウハウなどもらっても何の役にも立たない。満了後ただちに実施や使用をやめるなどとてもできない。MOUの真意が、技術協力の美名に隠れた販売地域分割/技術攻守同盟(独占禁止法3条後段違反――したがって6条違反)ではないか――独禁当局はこのように考える。できればやめさせたいが、社長同士が約束してきたので、そうもいくまい。これをせめて無害な――できれば有益な――技術交換契約に変えていくことが私の任務である。

 

そのためには、まず、契約を、@管理契約、A特許権ライセンス契約、Bノウハウ供与契約という3部構成にする(マイクロプロセッサでは著作権や半導体集積回路配置利用権もありうるが、特許権ライセンス契約に付記するぐらいでいいだろう)。管理契約は共通事項(契約者の同定、期間、ロイヤルティ、準拠法など)を規定する。

 

特許権ライセンス契約なら、実施国を限定したライセンスは合法だ(21条)。製造・販売・使用を分けてもかまわない。電脳が日本で、都が中国でそれぞれ販売使用禁止というのは、いずれも販売使用ライセンスが許諾されていないことの効果にすぎない。

 

第三者むけ販売後の再販売使用制限(権利者でもないのに「ライセンスを許諾しない」という無意味な文言は、絶対的地域保護のための虚偽表示――強行法規の「消尽」を合意で無効化しようという試み)は拘束条件付取引に該当する。BBS判決は、「合意表示した場合を除いて権利行使できない」と言っているだけで、「合意表示すれば権利行使できる(21条該当)」とは言っていない(逆は必ずしも真ならず)ので、独占禁止法違反の免罪符にはならない。

 

21条をどう拡大解釈してもノウハウは入らないから、ノウハウで地域制限をしてはいけない。ノウハウが開示可能になったむねの通知や守秘義務など、特許権ライセンスとはまるで異質な世界である。ノウハウ公知後は守秘義務も含めてなんの制限もできない。逆に、ノウハウ契約では技術指導などもできて、両社の友好のために有益である。

 

これだけ広範でかつ近未来技術までカバーする取引きとなると、パッケージ・クロスとオーバーオール・ロイヤルティは不可避である。指針は否定的だが、ビジネス上どうしても必要なら、訴訟覚悟で突っ張るべきだ。指針は法律ではない。指針第4-5(2)/(4)はいずれも「義務」を要件としているが、MOUは第三者の技術を使うことを制限していないから、訴訟になっても勝算はある。契約中でこの意図を言明しておいたら、多少の役に立つだろう。

 

期間満了が近づくにつれて交換技術の現在価値が漸減するから、ロイヤルティも漸減させよう(または途中で見直す)という提案が、電脳交渉団の方から出てくるかもしれない。たしかに、期間の不自然さを軽減するため、満了後に対するなんらかの経過規定が望ましい。たとえば、一時金で、特許満了またはノウハウ公知までの払いずみ非排他的通常ライセンス(tailoffというおもしろい言葉がある)を付与するなど。この場合は、5年というのは対象技術発生期間であって、ライセンス期間は特許なら最長20年、ノウハウなら公知になるまで不定期ということになる(社長さんたちの真意はこちらだったのではないか――性善説)。

 

知的財産権攻守同盟は履行不可能だ。自分が訴えられてもいないのに、抗弁・反訴などできない。無視しよう。

 

答案としては、違法や不可能を指摘するだけでは満点はとれない(弁護士としても不満)。問題文は「passableな正式契約書を作成する」ことを要求している。弁護士は法律評論家ではない。当事者なのだ。私は、社長の顔も立てながら、会社の未来のために、なんとかスレスレで違法にならない契約をまとめようとしている。

 

→問題 

 

モデルUnited States v. Westinghouse Electric Corp., 648 F.2d 642 (9th Cir. 1981).